協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。 今回は、協働日本で「人と組織のマネジメント」のプロとして活躍し、コーチングサービスIPPO事業でもコーチとして多くの方のキャリアの伴走支援に携わる芹沢 亜衣子(せりざわ あいこ)氏にインタビューいたしました。
芹沢氏は監査法人系プロフェッショナルサービスファームにて、ヒューマンキャピタル(人事)部門のビジネスパートナー(HRBP)として、各部門のリーダーやメンバーと対話しながら人と組織の「ありたい姿」を形にしていく仕事をされています。
協働を通じて生まれた「組織」と「人」のそれぞれの変化と相乗効果、ご自身の気づきや学びを語っていただきました。
(取材・文=郡司弘明、山根好子)
人と組織の可能性を高める人事という仕事の面白さ
ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは芹沢さんの普段のお仕事について教えてください。
芹沢 亜衣子氏(以下、芹沢): よろしくお願いします!現在はプロフェッショナルサービスファームの人事部にて、ビジネスパートナー(HRBP)として仕事をしています。
HRBPという肩書に馴染みがある方もまだ少ないかもしれません。私たちは企業の中で、各部門のリーダーと対話を重ねながら、人と組織の「ありたい姿」を形にしていく役割を担います。
どんな働き方がメンバーのパフォーマンスにつながり、組織全体の価値を最大化させるのかという人材戦略を考えることや、リーダーのメッセージをメンバーに届けるサポート、スキルアップに向けた育成施策、評価・報酬などの人事制度設計・運用まで、人と組織の成長に多方面から携わる仕事です。
ーーこれまでのキャリアでも、ずっと人事の仕事に携わっていらっしゃったのでしょうか。
芹沢: 実は、新卒で入社した会社では元々営業志望でした。ですが、最初の配属はIT部門。そこで4年半勤めた後、ジョブローテーションで人事に配属されたのが人事としてのキャリアの始まりでした。
ちょうどその頃、世間的にも働き方改革、ダイバーシティなどが注目されるようになり、人事として人と組織を進化させるためにやるべきことが増えてきたタイミングでした。
人事としての専門性も高めつつ、プロジェクトをリードする役割を担ってきたのですが、「より現場に近いところで人事の仕事をしたい」と考えるようになりました。そこで先ほどご紹介した、「HRBP」という役割を知り、その仕事へチャレンジすべく転職し、今に至ります。
ーー芹沢さんが、元々人事志望ではなかったというのは意外でした。社会の変化も相まって、人事としての仕事に面白さを見出されたんですね。
芹沢: そうですね。人事だからこそ、会社の成長に貢献できることはあると感じていますし、そこに面白さも感じています。
ただ、人事の仕事へのこだわりというよりも、「人と組織の可能性を高めたい」ということに対する想いが強いので、今後もし人事でない肩書を担うことになっても、やはり「人と組織の可能性を高める」ということを自分の軸にして働いていきたいと思っています。
人事のプロとして貢献し、受発注の関係を超えて、共に学び合い成長したい
ーー続いて、協働日本での活動についてお聞きしたいと思います。まずは芹沢さんが協働プロとして協働日本に参画されたきっかけについて教えていただけますか?
芹沢: はい。前職時代からの知人である大西剣之介さん(バリュエンスホールディングス株式会社 執行役員 コーポレート本部長 人事部)からのお誘いがきっかけでした。
同じ人事のフィールドで活動しており、お互いに面白いことを思いついたらすぐに実行に移すタイプだったので、会社を越えて勉強会をしたり、研修を開催したりしていました。
ちょうど私が現職に転職した頃、すでに協働日本で活動していた大西さんからの紹介で、協働プロにお誘いいただきました。
ーー人事として活躍されていた芹沢さんだからこそ、大西さんも協働日本の一員にと、お誘いされてんですね。誘われた時はいかがでしたか?
芹沢: 協働日本の取り組みを知って、すごくありがたいお声掛けだと感じまして、ぜひ一緒に取り組みたいですとお答えしました。
正直にいうと、前職までは人事としての「プロ」である自覚や自信を強く持てていませんでした。ジョブローテーションの一環で人事という部署にいて、与えられたミッションに対して自分がどういう風に貢献するかという考え方で仕事に携わっていました。
転職してからは考え方が逆になって、自分から課題を見つけに行き、どういう風に組織を動かしたらよいか、関係者の意見を引き出して、行動していく、能動的な役割に変わったなという実感がありました。
人事の「プロ」としての自分を自覚して、主体的に仕事に向き合うようになってからは、社内だけじゃなくて、社外の方、ひいては社会に何か貢献できないかと考えるようになっていました。ちょうど協働日本のような機会を探していたこともあり、とてもいいタイミングでした。
一方で、自分に務まるかな?というプレッシャーもあったのですが、大西さんから「芹沢さんは決まった答えや型がなくとも、動くことができる人だと思う。自分にできることをとにかくやってみる、というスタンスでやってみてほしい」と言っていただいたんです。
「それなら、自分でも学びながら、役に立てることをやっていこう」と思って、参画させていただきました。
特に「伴走支援」という言葉にはとても共感していて、受発注の関係性ではなく、みなさんとの対話を通して一緒に作り上げていく、ともに学びあう、というスタンスが他にはないあり方だと感じています。
週に1度のZoomミーティング。協働先のパートナー企業の皆さんと。
外部の目線が入ることで、脈々と受け継がれてきた強みを明らかにしていく
ーー芹沢さんは今、協働日本のどのようなプロジェクトに参画されているのでしょうか?
芹沢: 今は、協働プロや協働サポーターとして地域のパートナー企業とのプロジェクトに参画しているほか、IPPOコーチとしても活動しています。
コーチングを学び、実践してきた経験を活かして、IPPOコーチとして個人の受講者や、協働日本のプログラムである越境チャレンジ、経営人材育成プログラム参加者へのコーチングを行っています。
ーー多面的に活動されているんですね!まずは協働プロとしてのお取り組みについて教えていただけますか?
芹沢: 協働プロとしては株式会社オーリック さんのプロジェクトで、人事制度等の変革について取り組んでいます。オーリックさんは、創業者である会長が一代で事業を大きくされた会社ということもあり、M&Aなどを通じて急速に事業が拡大していく中で、人事制度は運用されているものの、グループ各社で統一されていない部分もあり、経営からのメッセージが通りづらくなっているように感じました。
ちょうど社長が代替わりされたタイミングでもあったので、会社として新しいフェーズに入るために一度しっかりと人事制度を整えよう、ということになり、そこへ協働プロとして、伴走支援をすべく参画しています。
このプロジェクトには、協働日本へお誘いくださった大西さんと一緒に入らせていただいていて、1週間に1度、人事を管轄する管理部門のメンバーを中心に、会長、社長、そして現場の統括をしている営業本部長にも時折入っていただきながら、ミーティングを重ねています。
ーーまさに人事のプロのチームですね!具体的にどのような議論を交わされているのか、協働先の変化なども含めてお聞きできますか?
芹沢: 最初の頃は、どういう従業員になって欲しいか、まずは「ありたい姿」の議論を重ねていきました。重要なこととはいえ、知り合ったばかりの人から「御社のありたい姿を教えてください」なんて言われても、答えるのは容易ではないですよね。
本音で議論するためには、お互いに理解し合い、信頼関係を築いていくことも重要だとあらためて感じ、経営者との議論も進める傍らで、オーリックさんで働く従業員の声もヒアリングさせていただきました 。
組織の中においては、人事は少し遠い存在になりがちですよね。変なことを言ったら評価に差し障るかも、と思うと本音や不満が正直に言えないこともあります。
だからこそ私たちのような第三者がフラットな目線で「課題に感じていることを教えてください」と入って社員の声を引き出していき、人事のメンバーに届けることが重要だと考えていました。
従業員の声がヒントになって課題が浮き彫りになったり、実は会社のここを良いと思ってくれてたんだ、みたいな気づきがあったりと、議論がどんどん活発になっていきました。
地道な行動の1つ1つで信頼を得て、「ありたい姿」といった少し抽象的なテーマも遠慮なく議論できる関係性が出来たのではないかと思っています。
ーー一緒に手を動かしていく中で徐々に関係性が出来ていったんですね。
芹沢: そうですね。協働を通じて気付いたのですが、オーリックさんは、会長、社長が社員のことをすごく考えていらっしゃいます。社員が安心して働けるようにしたい、生活を守りたいという意識がすごく強い。
経営者から社員への愛情はオーリックさんの強みだなとあらためて感じました。こういった、脈々と受け継がれてきた強みと、一方で従業員が感じる不安・不満を、新たな人事制度やメッセージでどうカバーできるかを考えながらプロジェクトを進めています。
また、同じ組織内では遠慮して言えなかったことも、私たちとの対話を通じて「実はこれが気になっていた」「社員からも声をもらったことがある」など様々な気づきが出てきています。
自分たちの良さや、自分たちらしさというのは、実は外から見ないとわからなかったりします。私たちのような外部の人間が入ることによって、客観的に見た「自分たちの強み」に気づき始めると、「新しい制度を作りました」で終わらず、こういう思いで作ったんだ、ここが私たちらしさなんだ、という想いが制度や仕組みに反映されるようになります。その想いは、自然と社員への説明の仕方やコミュニケーションにもメッセージとして表れ、結果的に組織全体が徐々に変化していくように思います。
会社が大きくなると、どうしても経営陣から社員へのメッセージは薄れていきがちです。だからこそ、オーリックさんの強みである社員に対しての愛情や想いを制度にこめて、人事が自分たちの言葉で社員に伝えることができるようになればと思っています。
誤魔化さずに自分と向き合っていく時間──本音を引き出すコーチングの魅力
ーー続いてIPPOコーチとしての活動についても伺えますか?
芹沢: まず、コーチングの良いところとして、近しい人には恥ずかしくて言えない壁、不安、恐れ、嫉妬心、一歩踏み出せない何かなど、自分のアイデンティティと紐づくことをお話していただきやすい点があると思っています。
なぜ私はこう感じるのか?自分が大事にしている価値観は何か?などを引き出していくのが、私たちコーチの役割です。
IPPOのコーチングは基本的に、1ヶ月に1度実施していますが、1ヶ月と言うスパンの中でも、受講者の変化を感じています。
例えば、とある受講者の方とは、はじめに「3年後こういう自分でありたい、そのために1年後こうなっていたい」という目標を決めたのですが、次の月、改めて見返すと「この目標、なんだか違うね」となったことがありました。
最初に目標設定した時から、アクションを変えたり、日記をつけて内省するなど、自分と向き合う時間を増やすことで、ご自身に変化が生じて、見返した目標が本人にとって小さいかも、と感じるようになっていたんです。コーチングの中で目標の解像度も上がり、本人の意志で目標を修正しました。
毎月、小さなことから大きなことまで課題や気づきはたくさん出てきます。自分の中の嫌なところ気づき、その嫌な自分が仕事や人生にどんな影響を及ぼすのか?自分は手放したいのか、それとも受け入れたいのか。強制的に深く考えていくことにコーチングとしての価値や意味があるかもしれません。
忙しい人ほど、自分のために内省する時間を作れないことが多いですが、私はそれがとてももったいないと感じています。振り返って自分自身と向き合い、解像度を高めていくという作業をやるのとやらないのでは、向かう先が全く違ってくると、IPPOコーチを務める中で、あらためて感じています。
ーーなるほど。忙しい人ほど内省の時間が取れないという話がありましたが、越境チャレンジや経営人材育成プログラムのコーチングではいかがですか?
芹沢: こちらは、人材育成のプログラムと連動していて、振り返りのセッションとして私がコーチングに携わらせていただいています。やっていることは個人のコーチングと大きくは変わらないのですが、受講者の傾向としては、会社への貢献意識が高い一方で、ご自身の想いやキャリアに向き合う時間をしっかり取れなかった方が多くいらっしゃいます。
プログラムの中では学ぶことや刺激がとても多い一方で、自分のアクションは上手くいかないことに直面することがあります。どうして上手くいかないと感じているのか、そこに対して持っている不安や恐れ、どこに壁があるのかを一緒に話しながら方向性を探っています。
そして、見つけた壁に向き合うためにどんなアクションを取るか、1つだけでも絶対にこれはやろう、と決めて次の機会までに実施してもらう、ということを繰り返していきます。
最初に、「プログラムを受けてみてどうですか?」と聞くと、皆さん「すごく勉強になっています」と、「この場を上手く切り抜けよう」とされます(笑)
そこですかさず、「どんなところが学びになっていますか?」とか、プロジェクトの内容についても「これを元に何をどう変えていくのでしたっけ?」など深く聞いていくと、意外と言語化ができなかったりします。
学びがあったとその時は思っても、自分の中でちゃんと落とし込めていないと次のアクションに繋がらないので、すごく丁寧に掘り下げて、自分の言葉で表現できるようにしてもらっています。
皆さん優秀な方ばかりなので、やろうと思えば「上手くいっている風」にテクニカルに処理することができてしまう方がほとんどです。だからこそ「上手くいっている風」で終わらないように、自分のことを振り返り、嫌なこと、こんなところがだめだなと思っているところについて、向き合って解決していくことが私たち協働日本のコーチングの役割だと思っています。
何回かコーチングの時間を重ねていくと多くの方が、黙っていてもいい時間、考えるための時間を、コーチングの場でも取れるようになってきます。私から問いを投げかけた時に、「ああ、それは全く考えていなかったです」と返ってきて、黙って考える時間を作ることが意識的にできる。仕事の取引先などの間柄だと、会話を途切れさせずに頑張っていいこと言わなきゃと思うこともあると思うのですが、コーチングでは「上手く言う、上手くやる」必要はありません。本音の部分を引き出していくのが役割なので、対話の中で間ができるようになると、良い変化が生まれているなと思います。
気づきあい、高めあい、新たなものを生み出していくコミュニティの可能性
ーー協働日本でのさまざまな活動を通じて、今、芹沢さんが感じることや、今後実現したいことはありますか?
芹沢: そうですね。まずいろんなバックグラウンドを持った方との対話を通じて、自分の視野が大きく広がりました。伴走支援させていただいている私の方が勉強させてもらっていると感じることが多いです。
企業の個性や状況によって、人事や組織のマネジメントで定石とされていることが簡単には当てはまらなかったりする、いい意味での現場感や、良いものをすぐ反映・実行に移すスピード感は、ひとつの会社で人事として働いていては体験できないものだと思います。
協働日本には自分の経験では補えないものを持つ人たちがたくさんいらっしゃるので、そのネットワークの中にいられることも、私はすごくありがたいなと思っています。皆さんから刺激を受けることで、自分自身も自然と成長する選択肢をとっていると感じます。 ここにいること自体が成長につながっていますね。
また、地域のパートナー企業の方との協働を通じて、今までお互いに気づいていなかった「本来その企業が持っている素晴らしいもの」「それを活かしたこれからの可能性」を見つけられることにも、とてもやりがいを感じています。協働を通じて新たに見えた景色から、パートナーの皆さんが自分の存在意義を感じ、自信につなげていってもらえたらいいなと思います。
私は自分自身の人生のミッションとして、「日々ワクワクする人を一人でも増やしたい」を掲げています。仕事を通じて「人と組織の可能性を高めたい」という想いを持っているのもそのためです。協働プロとして、IPPOコーチとして活動することで、ワクワクして人生が豊かになっていく人を一人でも増やす、そんな未来を実現していきたいと思っています。
ーー本日はありがとうございました!最後に、協働日本が今後どうなっていくと思われるか、協働日本へのエールも込めてメッセージをお願いします。
芹沢: 協働日本には、「可能性」が無限にあるなと感じています。私のように長年組織の中で経験を積んできた人が、協働プロとしての活動を通じて「自分は何に貢献できる人なのか?何をやっていきたいのか?」を問い、アウトプットを通じて様々な気づきを得る場になりますし、地域企業の方にとっても自社の強みを改めて実感し、いろんな可能性に気づく場でもあると思います。
協働日本自体が、「挑戦したい」「現状をもっと良くしたい」「拡大したい」というような、熱量の高い人同士をつなげているコミュニティにもなっていると感じています。これから更にお互いに刺激を受け、気づきあい、高めあい、新たなものを生み出していく組織になっていくのではないかと思います。
ーーインタビューへのご協力、ありがとうございました。
芹沢: ありがとうございました!今後ともよろしくお願いいたします。
芹沢 亜衣子 / Aiko Serizawa
大学卒業後、サントリーフーズ(株)※に入社。IT部門でシステム開発・導入に従事した後、人事部門にて、評価・ジョブローテーションの制度運用・労務対応に加え、ダイバーシティ推進・タレントマネジメントなど新たな施策の企画・運用をリード。2020年よりPwC Japan合同会社に転職し、HRBPとして要員管理・タレントマネジメント・人材開発・組織開発等、部門の戦略・特性にそった人事戦略全般の企画・実行を担う。
※現サントリー食品インターナショナル(株)
芹沢 亜衣子氏も参画する協働日本事業 については こちら
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