STORY:有限会社いやタクシー 森山 雄宇氏 – 社員の声から作り上げたパーパスで、組織が自ずと動き出した。次世代の育成・組織の成長のための第一歩 –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、有限会社いやタクシー  代表取締役の森山 雄宇氏にお越しいただきました。

有限会社いやタクシーは、1961年創業のタクシー事業を中心とした交通インフラ企業。車が今ほどあまり普及していない頃から、地域の”足”として地域に貢献してきた、いやタクシー。

自家用車が普及して需要が右肩下がりになる中で、2000年頃からは貸切バスや路線など複合的に交通インフラに対応。どうしてもドライバーに負荷のかかってしまう従来のビジネスモデルから脱却し、生産的に無理なく、待遇や働く環境を良くするために自社独自のビジネスモデルを作っていきたいと考えるようになった森山氏。そんな中で協働日本と出会い、協働プロジェクトを通じて、社内改革を進めています。

インタビューを通じて、協働プロジェクトを続けてきたことによる成果、変化や得られた学び、これからの期待と想いについて語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

「幹部育成」の悩みのテーマの背景を整理して行き着いた、組織改革の最初の一歩。

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは協働をスタートしたきっかけについて教えてください。

森山 雄宇氏(以下、森山):はい、よろしくお願いいたします。

協働日本を知ったきっかけは、商工会の指導員をしていた知人からの紹介です。以前から、実態として幹部・管理職がいないことが自社の課題としてあったため、育成していきたいということを相談していたんです。その方がスタートアップ系のコミュニティ事務局をしていることもあり、協働日本の取り組みについてご存知で紹介を受けました。

協働日本の伴走支援は、伴走する中で企業に本質的に必要な考え方をインストールするようなイメージだとお聞きし、今この瞬間も、先を見据えた時にもリソースが足りない課題を抱えている弊社にはぴったりの取り組みではないかと思い、詳しくお話を伺いたいとお返事しました。

その後すぐに協働日本代表の村松さんをご紹介いただいて、メッセンジャーやお電話で丁寧にお話しをしてくださり、疑問点が解消されたことで協働を決めました。

ーー実際に伴走支援がスタートしてからはどのようなプロジェクトを進めているのでしょうか?

森山:プロジェクトとしては、組織改革全般に取り組んでいます。協働プロとして協働日本CSOの藤村昌平さん芹沢亜衣子さん、そして協働サポーターとして山本さんに入っていただいています。最初の段階ではまず、自社の課題を整理していったのですが、管理人材・幹部・管理職と言うポストの人材がいないこと以外にも、そもそも社内でのキャリアアップの流れも作れていないことなどが可視化されていきました。

例えば、私が受け持っているミドルマネジメント的な業務も属人化してきており、人に渡せるように仕組み化するべきと言う課題が見えてきたんです。いわゆる文鎮型で成り立ってしまっている組織なので、このままでは将来的な発展が難しく、改めて適切なポストや人材育成を行う重要性を言語化することができました。

また、社員側の業務についても、生産的にリソースを使えているかを改めて整理したところ、現状の給与体系は歩合の割合も大きく、新しいことに自発的に挑戦しにくい環境であることがわかってきました。

元々将来的には固定給を取り入れていきたいと思っていたので、モチベーション高く仕事をしてもらうために給与体系の変化や、評価制度の策定も必要だという話が持ち上がったんです。

段階を追って1つ1つ着手することになり、まずは人材育成からという方針で進めていく中で、自社の考え方を整理し、評価の軸となるものが必要ということで、パーパスや、ミッション・バリューを言語化していって社内に共有することになりました。

こういった組織改革については、これまでも試行錯誤していた部分ではあったんですが、打ち合わせを重ねる中で「やはり必要なんだ、ここに行き着くんだ」と思いましたね。
自分でも10年くらい前に経営理念を考えて提示したこともありましたが、社員の腹落ちしない言葉を掲げてもあまり浸透せず……自分の中で熱が落ち着いてしまっていた部分だったので、根本的なことから改めて取り組むことができてよかったと思っています。

パーパスやミッション・バリューなど、会社の軸となる部分が出来上がってきてからは、評価制度の中身を詰めていくことや、業務の切り分け──属人化してしまっている私の仕事の中で、誰かに渡せるものはないかという整理を進めていっています。

社員と作り上げたパーパス。全体の理解度・腹落ち感が向上することで組織が進み始めた。

ーー実際にプロジェクトの中でできたパーパスやミッションなど、成果としてはどのようなものが出来上がったのでしょうか?

森山:まず着手したのはミッションからでした。タクシー事業や観光事業など今までやってきたことを軸に、自社の使命とは何かを言語化したものが「移動や交流を通じて人々の日常を豊かにする」です。

このミッションが出来上がった時、社員に向けてプレゼンをしてフィードバックをもらうようにしました。社員にとって腹落ちしない言葉では浸透しないので、協働プロとの壁打ちの中でどうやったら社員の皆に想いが伝わるか、言葉選びや説明の仕方もサポートして頂きました。

次にできたバリューは「地域社会にとって不可欠な企業として、人々の日常生活をさらに豊かにするために持続可能なサービスを提供し続ける」です。

こちらも同じように社員に向けたプレゼンとフィードバックをもらいました。

結果的に、これまでで一番丁寧に社員に向けた説明ができたという手応えがありましたし、実際社員の反応もよかったんです。フィードバックの中でそれぞれの想いを言葉にしてくれていたので、それをヒントにパーパスを策定していきました。

ーー社員の皆さんの声も取り入れながら作り上げていったのですね。

森山:そうですね。これまでは、私が作ってから社員に伝えようと考えていたのですが、社員に伝えながら段階的に作っていけたことがよかったです。

フィードバックをもらうことで、私の説明からきちんと伝わったこと・伝わりにくかったことだけでなく、社員のこだわりやそれぞれが大事にしているものなど、インサイトが次々と見えてきたんです。

例えば、10年後どうなりたいか?と言う質問を投げかけたところ、若手の意見として「この業界で働いている先輩の描く未来図が気になる。先輩たちがやりたいことを、自分達の代で成し遂げたい」という言葉が出てきたんです。ベテラン達に10年後を問うても、引退しているかもしれないし……と消極的になりがちなのですが、この若手の言葉を聞いたベテランの皆さんも「自分達の思いを継いでくれる存在がいるなら」と自分ごととして10年後の未来を捉えて意見を出してくれたんですね。

創業から60年以上、事業をつないできた先輩達がいるから今があり、未来がある。その感覚を社員たちで共有することができて、ベテランも含めて改めて未来の話をすることができたのは大きな成果だったと思います。

そんな社員の想いを落とし込んでできたパーパスは「営みを繋ぎ豊かさを支える」です。

ーー素敵なパーパスですね。

森山:ありがとうございます。いやタクシーは元々まちのタクシー屋さんなので、この地域に自社しかいない存在──住民にとってのインフラを担っているのだという揺るぎない自負が私達にはあります。

もし我々がタクシーをやめてしまったら、ここはタクシーのない地域になってしまう。今後新たなタクシーの参入もおそらくないと思われ、民間の事業者の努力だけで保たれていた地域の利便性が下がってしまう。そうすると、地域の衰退につながるのは自然な流れです。

今では収益性の高い、バス事業や観光事業など様々な事業を持っていますが、やっぱり私達の事業は、地域の活性化や、このまちが元気な状態でずっと続いていく前提として必要なインフラだと思っています。こういった、社員が共通して持っている自負、地域への想いが「豊かさを支える」という言葉に繋がったのではないかなと思います。

このように社員の理解度・腹落ち度などは確実に上がってきていることが前頁用になりましたし、指針ができたことで次にすべきことも明確になって、組織として進み始めた実感を持つことができています。

ーーこういった経営理念の策定や幹部育成は、元々試行錯誤されていたテーマでもあったと思います。伴走支援が入ったことによる変化や学びはどのようなところにありましたか?

森山:そうですね。一番大きな学びとしては、アプローチの仕方が変わってきたことかなと思います。先ほどの、ミッションやパーパスを段階的に説明してフィードバックをもらっていくという手法もそうです。

幹部育成のテーマにおいても、これまでも幹部候補を育成しなくてはと思って、「右腕」として人材を配置したことはあったんです。ところが、これがなかなか上手くいきませんでした。
協働プロと話をしている中でわかってきたのは「右腕」のポストであると社内に周知されていると、ポストに就いた方にはプレッシャーなど見えない負荷がかかってきやすいんですよね。そうすると、どれだけ能力の高い人であっても伸び悩んでしまったり、折れてしまうことがあってもおかしくありません。
その人が元々持つ能力に注目するだけでなく、「育っていく仕組み」「環境」も伴わないとうまく育たないんだ、というご指摘をいただきハッとしました。

逆に言うと、現時点での能力の高さよりも、仕組みや環境の方が大事なのではないかという気づきがありました。「右腕」を育成したいとしても、一人だけに負荷のかかるようなことがないように進めないと、人材も育たないという発想に変わったんです。

こういった、仕組み次第で育成できるのではないか?ということに気づくことができたのは自分の中での大きな変化だったと思います。

そんな気づきもあって、現在はポストや役職にこだわるのではなく、業務ごとに私の仕事を整理して社員に任せていくように変わってきました。
現在は、将来的なリクルート面も見据えて、人事制度の策定について伴走支援をしていただいています。


現在は、私と妻とでプロジェクトに参加させていただいているのですが、先々には幹部候補のメンバーも同じようにプロジェクトに入ってもらい、協働プロの皆さんにメンタリングしてもらうことができれば、グッと経営意識が伸びてくる人もいるんじゃないかと感じ始めています。やっぱり外部の人の声の響き方は違うと思うので、活用させていただきたいですし、早くそこに到達できるように進めていきたいと思っています。

協働の中で長期的視点での人材育成のためにも、複業人材の活用で経験を自社にインストールしたい。

ーー複業人材の取り組みについて、これまでもご興味はおありだったのでしょうか?

森山:はい。前に他社の複業人材のマッチングサービスも使ったことがありました。自社で新たに人材を獲得したり育成したりすることは難しいので、外注でサポートを得るしか選択肢がありませんでした。

1年間の契約の中で新しい考え方を取り入れることもできましたし、複業人材の活用により、もっと本質的な変革のための知識・経験のインストールやリソース作りができたらいいなと思うようになりました。

ーーなるほど。それで協働日本の伴走支援にもご期待いただいたのですね。今後このような取り組みは広がっていくと思われますか?

森山:そうですね。特にこれから生産性を高めたい、事業をスケールさせたいと考えた時、弊社と同じように、中小企業でいきなりスキルを持った人材を獲得することは難しいと思うので、協働日本のような複業人材のサポートで得た経験や知識を将来的な人材育成や獲得に活かすしか思いつかないくらいです。

同じような悩みを持つ経営者の方が身近にいれば、ぜひ協働日本さんとの取り組みの輪に入っていただくことをおすすめしたいと思います。

ーーそれでは最後に、協働日本へのエールも込めて一言メッセージをお願いします。

森山:非常に信頼できるサポートをしていただいていると思っています。約1年間のスケジュールを流れの中で組んでいただき取り組んできましたが、いよいよ来月には来社いただけるということで、実際にお会いできることをとても楽しみにしています。

オンラインで毎週1回という部分もとても良いですが、それ以外にもこうやってお互い負担のない範囲で対面できる機会を作っていただくこともできるのは嬉しいですね。これからもよろしくお願いいたします。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

森山:ありがとうございました!


森山 雄宇 / Yu Moriyama

有限会社いやタクシー 代表取締役社長

島根県松江市出身、在住。大阪で輸入小売販売業に従事し、マーケティングや顧客対応、マネジメントのスキルを磨く。2009年に家業であるいやタクシーに入社し、地域交通を支える多角的な事業展開を推進。創業事業であるタクシー事業を軸に、地域のコミュニティバス、貸切バス、旅行業といった多様な業種・業態で、地域における持続可能なビジネスモデルを模索。業界に先んじて最新型リフト付き車両を導入し、「地域交通のユニバーサルデザイン化」を目指したインフラ整備に注力する。

時代の変化に伴い、従来の待ちの営業から脱却し、自社独自の企画やコンテンツの開発を通じて、新たな挑戦を続ける。地域と共に歩み、交通を通じた日常の豊かさを追求する。


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