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STORY:株式会社米自動車 取締役兼 社長室 室長 武田浩則氏 -事業成長を自己成長に変換させる『越境チャレンジ』の本質-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

今回は、協働日本が(株)スパイスアップ・ジャパンと共同でご提供している、協働型人材育成プログラム『越境チャレンジ』の参加者、武田浩則さんにインタビューをさせていただきました。

複雑で急速に変化するビジネス環境において、リーダー人材には、異なる環境でビジネスを運営し、問題を解決する「越境経験」がますます重要になっています。

一方で、既存の越境学習のプログラムには、長期にわたり、対象社員を現場から出向させる必要がある等、人事部にとって運用や導入がしづらいなどの課題が上がっています。

そこで協働日本は、”グローバル人材育成・海外研修”に実績のある(株)スパイスアップ・ジャパンと共に、参加者が本業に取り組みながらオンラインで参加できる『越境チャレンジ-協働型人材育成プログラム-』を開発し、地域企業経営者との協働の機会をご提供しています。

そんな『越境チャレンジ』で生まれた協働の現場から、株式会社米自動車 取締役 兼 社長室 室長 武田浩則さんをお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回の『越境チャレンジ』では、明治8年創業、老舗の発酵食品の製造販売を手がける会社である四十萬谷本舗との協働プロジェクトをスタート。インタビューでは、越境チャレンジへ挑戦することになったきっかけや、そこで生まれたプロジェクトの成果、ご自身が感じている変化や成長についてお話しいただきました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

現場密着の愛ある仕事をしたい。自己成長のための新しい挑戦。

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、武田さんの普段のお仕事やこれまでのキャリアについて教えてください。

武田 浩則氏(以下、武田):はい、よろしくお願いいたします!

現在は、バリュエンスホールディングス傘下の米自動車で車の輸入販売事業を行っています。取締役 兼 社長室 室長としての役割は、事業全体の業績管理や事業促進、新規事業活動全般を担っています。
これまでのキャリアとしては、18歳でホテルマンになってから、美容業界、医療業界、コンサルティングなど様々な仕事を経験してきました。

ーー様々なご経験がおありなんですね!ブランド買取事業をなさっているバリュエンスさんはその中でも全く違う業種・職種だったのではないかと思うのですが、転職のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

武田:そうですね。直前にやっていたコンサル業は歯科医療や美容室などの分野のコンサルティングだったので、経験のある業界ではあったんです。ただ自分が叩き上げで働いてきたということもあってか、もっと現場密着で仕事をした方が、愛を持って仕事ができるなと思うようになったんです。

そこで、そういった仕事ができる先を探して転職したのが、株式会社SOU(現 バリュエンスホールディングス株式会社)で、現在も基幹事業であるブランド買取・仕入れの部署に配属され、そこから9年間ずっと買取の営業や企画に携わり続けていました。自己成長のためには仕事の中でもっと劇的な変化がないといけないのではないか?と感じるようになり、本部長にも相談をするようになったタイミングで、米自動車がグループ化、2023年3月に出向が決まって今に至っています。

ーーなるほど。米自動車での高級車の輸入販売などはまた新しいチャレンジかと思いますが、実際買取の分野から離れてみていかがでしたか?

武田:これまでも買取の事業の中で日々新しいことに挑戦していく立場ではあったので、「新しいこと」への抵抗感はなかったのですが、やはり業界の知見をまた0から貯めていくというところには苦戦しましたね。
とはいえ、自分でも「これでいいのかな?」と思っていたタイミングで新しいことに挑戦できる異動だったので、とてもポジティブに受け止めています。

環境に合わせて変化し続ける老舗企業の「新・サステナブルプロジェクト」への挑戦

ーー続いて、武田さんが『越境チャレンジ』を通じて地域企業との協働に取り組もうと考えたきっかけを教えてください。

武田:今回は、次期リーダー候補という形で自身のアップデートの機会として越境チャレンジの機会をいただけたと思っています。弊社では過去にも、役員クラスの人材育成研修が必要だということで、バリュエンスジャパン株式会社 執行役員の井元が『越境チャレンジ』に参加しています。プロジェクトの話を聞いて、当時から結構興味深く思っていたんです。会社にいながらも知らない経験ができるっていいなと思って。なので、今回自分に回ってきて率直にラッキーだな、と思いました(笑)

とはいえ、3月に米自動車に異動したばかりで4月から『越境チャレンジ』のプロジェクトがスタートしたので、初めてのことが重なって少しドキドキもしましたね(笑)

ーー武田さんの協働先は、これまた初の食品業界であり、金沢の老舗発酵食品会社の「四十萬谷本舗」さんでした。

武田:そうなんです。全然触ったことのない業界でしたし、「老舗」というキーワードで「堅そう」という先入観もありました。なので、まずは四十萬谷本舗で僕に何ができるんだろう?と考えたのが最初でした。

でも、実際に四十萬谷本舗の専務、四十万谷正和さんとお話をしてみると、思っている以上に世の中の変化に合わせて、積極的に変革されたいという意思をお持ちの方だったので、非常に魅力的だと感じました。

ーー四十萬谷本舗さんはこれまでも協働日本を通じて、課題に合わせた戦略的な人材活用をなさっていますよね。今回武田さんが伴走したプロジェクトについても詳しく教えていただけますか?

武田:はい。今回は新サーキュラー型ビジネスの企画についてご一緒させていただいています。最初は困り事や、どんなことをしたいと思っているか?などざっくりとしたヒアリングからスタートしました。すると、食の文化や伝統の持続可能性など、四十萬谷本舗がこれまで力を入れたくてもできなかったサステナブル領域についての話が出てきたんです。バリュエンスはサステナビリティの推進を重要な経営課題として力を入れているので、このテーマなら四十萬谷本舗×バリュエンスの両社の強みを活かせるものにできるのではないかということでプロジェクトをスタートしました。

このテーマに決めた背景として一番大きかったのは、近年の気候変動に伴い、四十萬谷本舗の看板商品の1つである「かぶら寿司」の原材料であるかぶの調達が困難になってきていることを実感されているという点でした。環境悪化によるビジネスの持続性が直接的に侵されているということで、サーキュラーエコノミープロダクトの導入によりビジネスの持続可能性だけでなく、四十萬谷本舗のイメージ・企業価値が向上するような取り組みを実施していこうという運びになりました。 四十萬谷本舗では、規格外の野菜をフードバンクに寄付したり、製造過程で出る素材を肥料加工して農事環境に還元することであったり…季節に合わせてカブの栽培規模を調整し、フードロスを最小限にする取り組みなど、既に環境に配慮した取り組みをいくつか実施しています。

武田:そこで、新たに「かぶら寿司」製造の過程で使用した糀を新しい素材・新しい活用方法により還元していくアップサイクルの手法を模索していくことにしました。

企画の方針が決まってからは、糀の再利用や、素材変換をしてもらえるような提携企業を探し、方向性のすり合わせやテスト素材の作成・検討を重ねて行きました。

もちろん一筋縄ではいかず、肥料や飼料への転用を検討していくと、「糀」という食品の特性上出てくる、塩分や糖、鰤と一緒に漬け込む過程があることによる動物性食材の使用などハードルが多々あり……結果として、アップサイクルではなく糀を活用したブランド食材の企画に舵を切り、現在も進行中という状況です。

オフィスに集いコミュニケーションを深めることも
ーーありがとうございます。方針決めからはじまり、半年間で色んな提携企業候補にも当たられて調査をされてきたんですね。特に印象的だったことはありますか??

武田:やはり、シンプルに事業内容の違いには苦戦しました。アップサイクルの企画を作る過程で、素材の問題で様々なハードルがあったとお話ししましたが、これも食品業界の知見がなく予想できなかった面でもありました。

あとは、企業規模の違いも企画段階で考慮すべき点として感じていました。四十萬谷本舗では、適材適所での人員確保をしており、今ある業務に対して人員が最適化されています。そのため、新しいことをしようとした時にリソースを割けないという課題があるんです。企画を進めていく中でも、極力リソースがかからないように注意していましたね。

特に印象的だったこととして、四十万谷さんにご紹介いただき他の経営者の方とも一緒に食事をした時に「『サステナブル』というテーマは最近になって話題になっているけれど、老舗の企業は『サステナブル』をずっとやっているんだよね」とお話しされていたことでした。季節に合わせて無駄がないようにお客様に製品を提供するのは昔からあったことで、ずっとやってきたからこそ老舗として続いているんだと。だからこそ、今また環境に合わせて変化していく四十萬谷本舗のような企業の活躍はとても貴重で、大切にすべき存在だなと実感しました。

全体を通じて、物の進め方や視点は、日頃の業務での経験を活かせたと思っています。経営的な視点を持った四十万谷さんと継続的にコミュニケーションを取る中で、経営視点での物の考え方を知ることができるいい機会になったなと思っています。

メンターがいたからこそ感じられた「自己成長」。ただ新規事業をやるだけではない『越境チャレンジ』の本質

ーー『越境チャレンジ』では、協働先企業とのプロジェクトだけではなく、武田さんに対してメンターがついて伴走されたと思います。メンターとのやりとりについてはいかがでしたか?

武田:メンターとして今回お世話になったのは、芹沢亜衣子さん(協働日本IPPO事業コーチ)と藤村昌平さん(協働日本CSO)です。藤村さんには事業開発の壁打ち相手として、芹沢さんには僕自身のコーチングをしていただくという関わり方で、月に1度それぞれとお時間をいただいていました。

藤村さんとは、初めの頃は現在のプロジェクトの状況報告をして評価、というようなスタイルでお話しをしていましたが、プロジェクトが進むにつれて企画の内容を掘り下げて話すようになり、徐々に具体的な内容について藤村さんの意見をいただくことも増えていきました。

僕の考えを尊重しつつもアドバイスしていただけたので、事業に対するスタンダードや知見、進め方など、様々な面で良い刺激になりましたね。普段の仕事で社内のメンバーと話すのとは、また違った視点や考え方に触れられるのが新鮮でした。もちろん社内の仲間と話していても、刺激やアップデートはあるんです。それでも、全く違う環境で事業をされている方との会話では、自分のビジネスライフのバリエーションが増える感覚があってよかったと思います。

ーーありがとうございます。芹沢さんのコーチングはいかがでしたか?

武田:正直最初は戸惑いました(笑)。コーチングということで、今の自分の状況や状態について聞かれるんです。自分で自分を見て、 今どんな状態なのかを主軸に置いて、成長を見ていくということだと思うんですが、これが難しくて。

藤村さんのパートでは、事業の進捗や企画の内容など、実際に取り組んでいることを話していたのですが、芹沢さんには自身の内面の話をしなくてはいけない──でも自分の感情が上下するポイントを自分自身があまりわかっていなくて、言葉にするのが大変でした。
例えば、「どんなことが大変ですか?どんなことにストレスを感じますか?」のような質問をしていただくのですが、大変なことをネガティブに捉えることがあまりないので、ストレスというよりは充実感があると思っていて。「ストレス」と言われるとピンとこなかった。

でも実際には、ストレスに感じていることも僕の内面にあったんです。はじめはうまく説明できなかっただけで、芹沢さんとの会話を重ねていくうちにだんだん自分の中でも整理できて、どんな時に感情が上下するのかなど、気づく点が増えていきました。

毎月、成長ポイントや心情、置かれている状況を一緒に整理してもらえたことで得た気づきは大きかったと思っています。芹沢さんとのセッションは、自己成長を実感する基盤づくりというか。僕自身のベースをブラッシュアップできたいい機会でした。

ーー自己成長を実感する基盤、というのは具体的にどんなものなのでしょうか?

武田:元々このプログラムが開始した時には、僕は結構典型的な日本人といいますか、「自分なんてそんなに大したことないです」というような感じだったんです。だから、「こんなに頑張った!」とか「自分がやったんだ!」とかあまり外に出さない。自己完結してしまうタイプだったんです。
でも今回、四十萬谷本舗とのプロジェクトにおける自分の状況や出来事を言語化していく中で、こんなことにチャレンジした、こんなことを頑張ったぞ、ということをアウトプットして、自分でもその頑張り・成長を認められるようになりました。

役職、職務的にも、人から相談されて話を聞くことは多かったですが、自分が誰かに聞いてもらう機会が圧倒的に少ないので、このような機会を貰えたことがありがたかったです。芹沢さんとのセッションがなければ、僕はこの『越境チャレンジ』を、ただ新規事業開発をするだけの機会にしてしまっていたかもしれません。

やっぱり、事業の成長や数字へのコミットばかり意識してしまうんです。職業病のようなものですね。藤村さんとのセッションで事業へのコミット部分をしっかりと伴走してもらいつつ、芹沢さんとのセッションで自分を見つめ直し、きちんとベースを整えていただいたからこそ、『越境チャレンジ』が僕にとって自己成長の機会になったと思います。

事業開発のメンターと、自分自身と向き合うためのコーチングの両軸が揃っているというのが、この『越境チャレンジ』の本質なのかなと感じました。

成功・失敗・数字ではなく、自分を再評価する機会


ーー『越境チャレンジ』がご自身の成長の機会になったとのこと、本当に嬉しいお言葉です。ぜひ、全体を通じて感じられた変化や気付きなどあれば教えてください。

武田:はい。今までは、新規事業といえば、業績や数字の拡大、と考えていたのが、それだけでなく、「これをやったら自分が成長できるかも」という視点を自分で持てるようになったのが大きな変化だと思っています。

事業の成長を自分の成長にも変換して考えることができるようになれば、仕事のモチベーションになることはもちろん、長い目で見た時にある自分の姿が全然違うんじゃないかなと。
おこがましいかもしれませんが、『越境チャレンジ』を経験した今では「成長できた!」と自分で言えるようになったと思います。

ーーありがとうございます。最後に、『越境チャレンジ』はどんな方におすすめか、メッセージもかねてお聞かせください!

武田:僕と同じように、ある程度長く同じ企業に勤めている方に関しては、ぜひ体験していただくといい気がしますね。自己評価を見直す機会にもなりますし、純粋な事業開発のスキルアップにもなると思うので。そうやって新しい視点を持ち帰ることで、もちろん企業自体の成長にも繋がっていきます。

あと、個人的に思うのは、大企業の役員の方にも参加してみて欲しいです。
普段とは違う事業にアウェイ環境でチャレンジするという経験は、役員になる前の自分に立ち帰れるんじゃないかなと思うんです。アップデートされる部分もあるし、自分が若かった頃と変わらない部分もあるんだ、という気づきもあると思います。プレイングから離れて長い方にとっては、初心に立ち返れるような面もあるのかもしれません。

メンターの方との話で自分を正面から見て、第三者から見た自分の評価も受けられる。これは僕もそうだったように、なかなかない機会です。

成功・失敗・数字などで自分を評価するのではなく、その過程の自分を評価していく。全てのことが無駄ではないとポジティブに受け止められるようになりますし、自己評価の機会としてもとてもいいんじゃないかなと思います。

僕はこのような機会を貰えたことがありがたかったので、似たような環境にいる方には、とてもおすすめです。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

武田:ありがとうございました!

ありがとうございました。

武田 浩則 / Hironori Takeda

岩手県出身 美容業界、医療業界を経験後 2014年(株)SOU(現 バリュエンスホールディングス(株))入社。
店頭営業、買取事業本部、営業企画部を経験し、2021年より買取事業本部副本部長として仕入事業全般の統括、事業、収益拡大に従事。
また、2023年よりグループ化を行った(株)米自動車へ出向し、取締役兼社長室室長として事業活動全般の促進、拡大に従事。
2023年4月より『越境チャレンジ-協働型人材育成プログラム-』に参画し、明治8年創業の石川県金沢の伝統発酵食品老舗の四十萬谷本舗との協働プロジェクトを経験。

株式会社米自動車
https://www.yonemotors.jp/

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STORY:1129代表 大隣佳太氏 -最高に美味い鹿児島の和牛を世界中に届けたい。協働日本は想いに伴走してくれるペースメーカー-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社1129代表の大隣 佳太氏にお話を伺いました。

株式会社1129は、鹿児島県産黒毛和牛に特化した精肉通販販売業者で、選びぬかれた牛肉を使用したハンバーガーの販売を行う「にくと、パン。」や、うどんと肉料理の美味しさを追求した「にくと、うどん。」などの飲食店も鹿児島で展開しています。

また同社は、鹿児島県産の黒毛和牛のステーキや、手作りハンバーガーキット、部位ごとのカット方法や調味料との相性など、黒毛和牛のさまざまな風味を体験できるビーフジャーキーなどの通信販売事業を行っており、同社のECサイト『1129nikulabo』や、「楽天市場」、「Yahoo!ショッピング」などでお買い求めいただくことが出来ます。

そんな株式会社1129の想いや、鹿児島県和牛の魅力を発信していくアイディアの実現に協働日本が伴走しています。インタビューでは、協働プロジェクトに取り組みはじめたことで生まれた変化や成果、これからの期待や想いについて語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

ずっと持ち続けてきた「和牛を売りたい!」という気持ち

ーー本日はよろしくお願いいたします。 企業の沿革や事業内容を教えてください。

大隣 佳太氏(以下、大隣):よろしくお願いします。

元々実家の家業が畜産業で、「和牛を売りたい!」という想いを強く持っていました。

農業高校を卒業後、農業大学へ進学し、その後に種畜場で修行後に家業を継ぎました。当時は24歳。鹿児島県産黒毛和牛のおいしさを日本中に広めたいと思っていましたし、良い肉を作って和牛オリンピックにも出場したいと思って頑張っていました。

しかし、口蹄疫や狂牛病で苦しみ、経営が苦しくなり27歳の時に畜産業を廃業せざるを得ない状況になってしまいました。

ーーなんと、そういった背景があったのですね。作りたいものが作れない、売りたいものが売れないという経験は大隣さんにとって、とても辛い経験だったと思います。

大隣:まさしく。和牛を売りたくても売れないという経験は大きな挫折で、その後には一度歩みを止めて海外に出ました。しばらく海外で過ごし、自分を見つめ直す時間を持ちました。

そうしているうちに、自分の武器となるようなスキルを身に着けておかないといけないと思うようになり、もう一度勉強し直そうと思いました。お世話になっていた先輩にも相談して、英語かITスキルのどちらかを徹底的に磨こうと決め、最終的にはITスキルの専門性を磨くことにしました。

ーーなぜ、ITスキルを選択したのでしょうか?

大隣:それは「やっぱり和牛を売りたい!」という気持ちが湧き上がってきたからですね。売りたいものをしっかり「売れる」ための知識があれば、もう一度和牛の良さを広めるビジネスが出来るのではと思ったからです。

とはいえ、畜産一筋だった自分にとっては一からの勉強でした。帰国後に、求職者支援学校にも通って基礎知識を身に着け、その後はECやWebマーケティングをどんどん独学で学び、いちごや野菜をインターネットで販売してみて、実践の中で専門性を磨いていきましたね。

ーー畜産一筋だった大隣社長にとって、まさに新しい挑戦だったのですね。協働日本が伴走させていただいている、株式会社1129の立ち上げ経緯もぜひ伺いたいです。

大隣:IT周りについてのキャリアを積み、その後、福岡のWeb制作会社へ就職しました。

その頃には、ITの力のすごさを日々実感していました。インターネットでものを売る仕組みが作れれば、日本中、世界中のお客さんを相手に商売ができるというのは本当にすごいことですよね。

良いものを提供出来て、しっかりと売る仕組みが作れれば、ちゃんと売上を作れるというのは大きな自信になりました。

当時大変お世話になっていたお客さんからも、自分の「鹿児島の和牛を多くの人に届けたい」という夢を応援してもらえるなど、本当に良い出会いがありました。

そうしてインターネットを使ってものを売るスキルを身に着けたのち、「まだ注目されていない商材に新たな価値を掘り起こし、世界中にサービスを提供する」、株式会社バリューを設立しました。

そして2020年この理念を継承させ和牛のEC販売に特化した会社・株式会社1129を立ち上げたという経緯になります。

かつての畜産仲間だった、有限会社末吉畜産さんから「良い肉ができたので世に広めてほしい」と相談もいただき、今では本格的に鹿児島産黒毛和牛を売る会社として戦略を描いています。

手前(右) 株式会社1129代表 大隣 佳太氏
ーー大隣さんご自身の事業にかける想いを伺えたことで、1129で販売されている和牛へのこだわりや熱い想いを感じました。そんな大隣さん、そして株式会社1129は、なぜ協働日本と共に取り組むことを決めたのでしょうか?きっかけを教えて下さい。

大隣:きっかけはちょうどコロナ禍の中で、鹿児島県の方から協働日本さんを紹介してもらったことがきっかけです。ちょうど協働日本さんが鹿児島県と事業を進めており、県内の企業に様々な形で伴走していると伺っていました。

一度お話をしてみたところ、1129の想いに共感してくださり、とてもお話が弾んだこともあって、ものは試しと思って伴走をお願いしました。今では、取り組みができて本当に良かったと思っています。

協働日本さんには主に、様々なプロジェクトのマネジメントをお願いしています。

日々、様々な商品や販売のアイディアが浮かんでくるものを、具体的な形に落としてこんでいくために、伴走してもらっています。それによって、アイディアも言いっぱなしにならず、具体化していけるようになりました。

週次で宿題とフィードバックのサイクルを回し続けることで、戦略と実行が加速する

ーー関わっている協働プロの印象をお聞かせください。

大隣:協働日本の協働プロから、相川知輝さん、池本太輔さん、芹沢亜衣子さんの3名がチームで伴走してくださっています。協働プロの方はみな、丁寧にコミュニケーションをとってくださり、こちらの「これを実現したい」という想いを汲み取ってくださるのでとても信頼しています。

しかもどの方も、本業でちゃんと実績のある方が複業としてプロジェクトに入ってくださっているので、安心してプロジェクトマネジメントをお任せできます。

さらに一般的な「コンサルティング」ではなく、「伴走支援」という形での関わり方も私はとても気に入っています。

私たちは別に、一方的に答えを教えてほしいとは全然思っていないので。実現したい私たちの想いが先にあって、それを形にするために、一緒に伴走してくれるという関係性がとても心地よく感じています。

週次の打ち合わせには、弊社の専務でもある弟(大隣 将太朗氏)に参加してもらっています。

打ち合わせを通じて、専務の考え方や、販売戦略などがブラッシュアップされているのを感じます。

私がすべて指示出しして進めることも出来るのですが、今後の会社の成長のためには専務である弟にもどんどんと仕事を任せていきたい。その意思決定の場に、経験豊かな協働プロの皆さんにサポートで入ってもらえることは安心感がありますね。もちろんアイディアを形にしていく過程も見せてくれているので、納得感もあります。

重要だと認識しているけど、忙しい日々の中で向き合えていないことが山ほどあります。特に経営者だとなおのこと、自律的にちゃんと課題に向き合って、形にしていく過程の難しさを知っています。

日々、色々なことが起こる忙しい日々の中で、しっかりと期日を切って、それに対して的確なアドバイスとともにプロジェクトを進めてくれる伴走者の存在はとてもありがたいです。

新商品を試作する 大隣社長(左)と、協働プロの相川氏(右)
ーー取り組みの目指すゴールや、テーマをお聞かせください。

大隣:協働日本さんとの取り組み前までは、次々新しいアイディアが浮かぶものの、忙しい日々の中でそれを形にすることが出来ていませんでした。季節に合わせた販促の提案なども、最後まで実行できないことがあり、いつも歯がゆく感じていました。

EC販売における大方針として今後は、黒毛和牛の部位ごとに合わせたカット方法や、食べ方の提案を通じた「高付加価値」な商品の開発・販売に注力していきたいと思っています。

現在は、生産者との密な仕入れルートを持っているため、ECサイト上でも高品質な和牛を他よりもリーズナブルな価格でお届けすることが出来ています。しかし一方で、それだけではなく「和牛のプロ」としての知見やノウハウを盛り込んだ商品開発を通じた、提案の幅を増やしていく必要性を感じていました。

「実行力の強化」と「新商品開発」。この2つが、取り組みにおける大きなテーマでした。

ーー具体的な成果や、共に向き合っている課題など、協働の様子をお聞かせください。

大隣:EC販売の次の柱になるような商品を探すべく、肉のプロである弊社の知見と、協働プロの皆さんの視点を掛け合わせて、様々な商品開発に取り組みました。

一つ目は、厚さ3.2cmにカットした厚切りステーキ。肉のプロとして導き出した、最もおいしく食べられる厚さにカットしたステーキをECで販売しました。
アイディア自体は私の中にあったのですが実現できておらず、あらためて協働日本さんの力を借りて、訴求方法の検討や、実現の為のタスク整理を行っていきました。

協働プロの皆さんにプロジェクトをマネジメントしていただいたことで、この商品も無事販売することができました。さらに、日本中の名産品に精通している、協働プロの相川さんの知見をお借りできたことで、HPなどで「魅せ方」にこだわった訴求もできました。

二つ目は、ハロウィン限定の手づくりハンバーガーキット。直営店のハンバーガーショップ「にくと、パン。」のノウハウを活かした新商品として売り出しました。バンズに色が付けられることがきっかけで生まれた、ハロウィンカラーのバンズでつくる黒毛和牛100%のハンバーガーです。

協働プロのみなさんと、顧客体験を想像し、かざりつけやチーズの切り方など、食べ方だけでなくSNSを意識した「映え」の訴求も行いました。実際に多くの購入実績が生まれ、SNS上でのシェアも確認できました。

厚切りサーロインステーキセット
ハロウィン限定 ミニハンバーガーセット
ーーお話から、協働の中から実際に新商品が誕生し、成果が生まれている様子が想像できました!

大隣:今は年末商戦に向けて、新たな商品セットを開発中です。

ギフト需要を見据えた新たな商品で、肉の専門家の知見を活かした牛肉の部位の食べ方提案と、協働プロの顧客視点を盛り込んだ商品で、中身だけでなくパッケージにもこだわっています。

協働プロのみなさんと一緒に、毎回のミーティングで要点を潰しこんでいったことで、忙しい中でしたが形になりました。取り組みを始めてから次々と、新商品アイディアが実現できているのは、協働日本とのミーティングがペースメーカーになっていることが本当に大きいです。

ーーコロナ禍で始まったお取り組みも、現在まで続いていますよね。長くお取り組みが続いている理由を教えてください。

大隣:もちろん、シンプルに効果を実感しているからですね。はじめは半年間と思っていた伴走支援も、延長させていただきもう一年近くになります。

2020年に創業した1129は、3~5年かけて基礎を固めて、その後にしっかりと成果を最大化する計画で事業を進めてきました。来年2024年はその意味でも勝負の年となります。

この大事なタイミングだからこそ、伴走支援を通じてしっかりと外部のサポートを得る価値を感じています。

専務 大隣 将太朗氏

今がまさに、27歳の時の自分の夢の延長線。

ーーお話をお聞きし、とても良い関係性の中で「協働」が出来ているのだと感じます。ぜひ、これからの展望もお聞かせください。

大隣:弊社のECサイト『1129nikulabo』や、「楽天市場」、「Yahoo!ショッピング」などを通じて、全国のお客様に届けられるよなECサイト基盤が整いました。

ラボを開設し、黒毛和牛の部位ごとに、カット方法や調味料との相性などを研究開発しています。黒毛和牛のポテンシャルを存分に引き出すための、商品開発基盤が整いました。

そして2021年には「にくと、パン。」2022年には「にくと、うどん。」といった、飲食店舗も設立できました。

いままさに、EC、商品、店舗が回りはじめて、思い描いていた「和牛を売る」ということがしっかりと形になってきました。

和牛を世界に届けたいと思っていながらも、悔しい思いで畜産業を廃業した27歳の時の自分。夢の続きがまさに今なんです。

今後は海外への展開も計画しており、来年2024年はますます忙しくなりそうです。

やりたいこともたくさんありますし、仕事や権限もどんどんメンバーに譲渡していかないといけない。

引き続き協働日本さんに伴走していただき、ペースメーカーとして1129をサポートしていただければと思います。

鹿児島黒毛和牛とこだわりのパンを使ったハンバーガーを販売する「にくと、パン」
ーー27歳当時の夢の続きが今。そんな大隣社長の想いに、協働日本が伴走できていることを嬉しく思います。
これから協働日本はどうなっていくと思いますか?エールも兼ねてメッセージをいただけると嬉しいです。

大隣:弊社のように自社の商品に自信を持ちながらも、その販売戦略や次の一手を考える余裕がない企業は多いはずです。

協働日本さんのような、専門性や情熱を持った複業人材にサポートしてもらって、ペースメーカーとして伴走してもらうだけでも、どんどんアイディアは形になっていくと思います。

ぜひ協働日本さんにはもっと、全国の中小企業を支援してもらいたいと思いますし、こういった取り組みがもっと知られていけばいいと思います。

ーー本日はインタビューありがとうございました!ぜひこのあと、「にくと、パン。」で、ハンバーガーを買って帰りたいと思います。

大隣:ありがとうございました。黒毛和牛を使った自慢の商品です。ぜひ召し上がってみてください。

インタビュー当日は「にくと、パン。」店舗へ実際に訪問

 大隣佳太 / Keita Ootonari

株式会社1129代表。株式会社バリュー代表。肉師。

農業高校を卒業後、農業大学へ進学。種畜場で修行後に家業の南九州市で畜産経営に従事。牛の人工授精や受精卵移植などの知見を得る。その後、鹿児島県南九州市で家業の畜産経営に従事した後、2012年に畜産業を廃業。

ECやWebマーケティングを独学で学び、その後、福岡のIT企業に就職。会社員時代を経て、2018年に福岡で株式会社バリューを設立。ECコンサルやWebマーケティング、アプリ開発などに従事。

その後、和牛への熱い想いを胸に2020年、通販専門精肉店・株式会社1129を設立。和牛のおいしさ・提供方法を追求するための研究開発ラボ「1129LTD. nikulabo」を開設。
鹿児島県産黒毛和牛の魅力を発信する飲食店「にくと、パン。」「にくと、うどん。」を展開するほか、鹿児島県産の黒毛和牛のステーキや、手作りハンバーガーキット、ビーフジャーキーを、同社のECサイト『1129nikulabo』や、各種ECサイトで販売している。

株式会社1129
https://1129iiniku.co.jp/home_mori/

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STORY:株式会社オーリック -グループの急成長を実現する「組織のOS」アップデートの取り組み-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社オーリック(鹿児島県鹿児島市)を訪問し、会長の濵田龍彦氏、グループ管理本部経営管理部の方志貴子氏、グループ管理本部情報システム部次長の梶原宏二氏のお三方からお話をお伺いしました。

株式会社オーリックは、鹿児島県鹿児島市に本店を構え、九州一円酒類・食品販売事業を展開する企業です。平成元年12月に鹿児島で初めての酒のディスカウント店をオープンした後、九州各地に事業所、配送拠点、繁華街店舗を設立。現在は九州最大級の品揃えを誇ります。

ワインや焼酎を主力商品として、さまざまな業態の顧客の要望に応じたドリンクメニューを提案力と、注文からすぐにお届けするクイックデリバリーで知られ、九州各地で事業が急拡大しています。

売上高 はグループ合計で554.2億円(2023年3月期)、従業員数はグループ合計2,700名(2023年3月期)と、鹿児島はもとより、九州の飲食業界で大きな存在感を持つ企業グループとして知られるオーリック社。不動産・建設事業などの事業にも取り組むなど、経営の多角化にも取り組んでおられます。

昨年の経営セミナーでのご縁を通じ、オーリック社の新たなチャレンジに、協働日本が伴走させていただけることになりました。急成長の裏で見えてきた課題に共に向き合いワンチームで協働を進めています。

インタビューを通じて、どんな協働プロジェクトに取り組み、そこからどういった変化が生まれたのか。会長の濵田龍彦氏、方志貴子氏それぞれの事業に対する思いとともに協働を振り返り、これからの期待について語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明)

「協働」という新たな取り組みスタイルへの期待 

ーー本日はお時間をいただきありがとうございます。さっそくですが、協働日本との取り組みを決めたきっかけを、濵田会長にお伺いしてもよろしいでしょうか? 

濵田 龍彦氏(以下、濵田):よろしくお願いします。 

はじめて協働日本さんのことを知ったのは昨年(2022年)、講師として協働日本代表の村松さんが登壇されていた、鹿児島県主催の経営セミナーでした。 

そのセミナーの中で村松さんと知り合って、実際に協働日本の事業についてもその際にご紹介いただきました。 

ーー協働という取り組みの形について知ったとき、どんな印象を持ちましたか? 

濵田:そうですね。はじめは、地域企業向けのコンサルティングというイメージでお話を伺ったんですが、それとはだいぶ違うユニークな形で事業を展開されているなと思いました。 

企業の課題に対して、ワンチームで一緒に伴走しながら取り組んでいくスタイルは、これまでお付き合いのあったコンサルティング会社のご提案にはないものでした。 

我々としても答えのない課題に向き合っていこうとしていたタイミングでしたので、名刺交換をさせていただいたその場で、ぜひお願いしますとお話したことを覚えています。 

ーーほとんど即決に近い形だったのでしょうか? 

濵田:はい、そうですね。すぐにお見積りを出していただいたのですが、協働日本に所属している、第一線で活躍しているプロたちに週に1回打合せして、1年間伴走してもらえることを考えれば、とても価値ある投資だと感じました。 

意義ある取り組みだと考えたので、同時に3つの重要なテーマ(HR、DX、EC)をプロジェクト化し、協働日本との取り組みをスタートすることを決めました。 

オーリック社 会長 濵田龍彦氏

人事制度すなわち「組織のOS」をアップデートしなくてはいけない 

ーー経営管理部方志さんにも伺います。協働日本との取り組みについて、方志さんはどのように感じられていますか? 

方志 貴子氏(以下、方志):弊社は、会長や相談役を始めとする創業者の強いリーダーシップで今まで成長してきました。創業メンバーも60代となり、次世代経営層の育成も重要な課題となっています。 

弊社は、フィロソフィー経営、そしてアメーバ経営といった理念を大事にしております。もちろんそれらを引き継ぐことも大切ですが、令和の時代にふさわしい経営理念、フィロソフィー、行動評価項目、組織構造にアップデートする必要性も同様に、強く感じていました。 

そんな時に参加した鹿児島県主催の「成長する組織づくり」をテーマとした講演で、協働日本の村松社長と大西CHROのお話を伺いました。 
講演の中で「企業成長に必要なこと」をお話頂きましたが、具体的でわかりやすく、弊社が取り組めていない課題を明確化することができました。 

ぜひ弊社の課題に、ともに向き合っていただきたいと思いお話を伺いました。濵田会長の話にもありましたが、会長も同じ思いだった為、すぐにお取り組みがスタートしました。 

方志 貴子氏
ーープロジェクトの立ち上げにあたって、方志さんから協働日本には、どのような課題、相談を投げかけてくださったのでしょうか? 

方志:オーリックグループがここまで成長してきた中で、M&Aにより多くのグループ会社を迎え、グループの規模も従業員数も急拡大しました。オーリックではいま様々な事業領域を内包し、様々なバックグラウンドを持つ社員が働いています。 

経営判断がより複雑で難しいものになる中で、これまでのやり方を踏襲していただけではその先の成長はありません。 

今後オーリックグループが更に大きな事業規模を目指す中で、言うなれば「組織のOS」 のバージョンアップが急務だと思っている旨を伝え、組織開発や人事制度設計の経験が豊富なプロのお力を借りたいとお伝えしました。 

ーーなるほど。ちなみに、いま方志さんのおっしゃっられた「組織のOS」という例えには、どんな思いが込められているのでしょうか? 

方志:人事制度や企業カルチャーはまさに、パソコンを動かす基礎的なソフトウェアであるOS のように、会社を動かしていくための重要な、基本の仕組みとも言えます。 

我々のように地域を拠点とする企業こそ、変化の激しいVUCA時代に沿った「組織のOS」に変化しないといけないという認識がありました。 

弊社の経営の強みは、フィロソフィー経営・アメーバ経営といった経営理念を大事にしているところですが、良いところも残しつつ、令和の時代にふさわしい経営理念、フィロソフィー、行動評価項目、組織構造にアップデートする必要性を感じていました。 

弊社は特に、M&A後のPMI(Post Merger Integration)の課題として人事制度の統一が必要でした。オーリックはこれまで、後継者不足の他社酒販店の受け皿となるべく積極的にM&Aを活用してきた結果、エリアによって人事制度が異なるという課題がありました。 統合効果を最大化させるための人事制度改革が急務となっており、これは組織のOSのまさにコアとなる部分。 

この点を解決できる人的リソースが社内におらず困っていたところ、協働日本様とのご縁を頂けることになったのは幸いでした。 

濵田:いま方志から話のあったように、弊社はM&Aを通じて現在、45社ほどのグループ会社で構成されています。 

オーリックグループの主幹でもある酒類を扱う事業もあれば、業務スーパー事業や不動産建設事業、リサイクルショップ、ウォーターサーバーの製造販売など、その事業は多岐に渡ります。 

今後のグループの成長のためにも、ここでグループの全社で横断的に活用できる、新たな人事制度、特に社員への評価制度の策定を進めたいと考えました。協働日本さんには、大手上場企業で人事制度策定に関わった現職または元職のプロの経験から伴走してもらえたのは心強かったです。 

今期はグループ全体で650億円近くの売り上げを見込んでおり、2030年には1000億円の売上高を計画しています。我々が経験したことのない未知の領域へ挑戦していく中で、この部分の見直しは必須だと思っていました。 

グループ各社も個々に見ていくと、元々それぞれはいわゆる中小企業。共通のフィロソフィーのもとに集っているが、それぞれに社風も制度も違う会社の寄せ集めとも言えます。創業から30年や40年、50年と経っている企業がグループに加わっていただくことも多いです。 

評価制度や給与体系といった各種人事制度の耐久年数も限界にきていることも多く、弊社の重要な経営課題のひとつでした。 

社員が自ら考え、自ら伝える機会を創り出せた

ーー協働日本との取り組みで重視していたポイントを教えてください。 

方志:重要な課題に対してじっくりと向き合いたいという気持ちがあった一方で、事業が多角化していく中で常に人手不足。人事制度改定には、最短で取り組みたいとお伝えしました。 

時間が豊富にあれば我々も一から試行錯誤していくのでもいいのですが、そうも言っていられません。 

協働日本さんには、人事制度について豊富な知識があって、実際に企業の中で人事制度設計に取り組んだ経験の協働プロの方をアサインしていただきました。 

そもそも何から取り組めばいいかを悩んでいたので、しっかりとした型に沿って検討工程を組んでくださり、とても助かりました。さっそく経験豊富なプロの力を借りた甲斐がありました。 

課題へのアプローチにも、私たちが気づかなかった様々な視点を盛り込んでくださいました。 

そのひとつが「社員インタビュー」。今の人事制度についてどう思うか、社員に対して協働プロの皆さんがインタビューをしてくださいました。 

ある意味で外部の方だからこそ、現場の社員から率直な声を拾っていただき、現場に実はこんな負担がかかっていたとか、こんな苦労があった、といった発見も多く得られました。おかげさまで、本社の人事部門で考えていた想定と、実際の現場とのギャップをだいぶ埋めることができました。 

ーーなるほど。お二人は、伴走の成果をどう感じられていますか? 

濵田:とても満足しています。協働日本さんとチームでプロジェクトに取り組んでいる社員からは、グループ各社の状況が個々に異なる中でも活用できる、素晴らしい人事評価制度の案が協働から生み出せたと聞いています。 

方志:給与の仕組みや評価の仕組みがほぼ出来上がりました。年内には社内向けに説明会を実施する予定です。 

これによって働き方はどう変わるのか、何が目的の制度改定なのか、改定後の人事制度を社員に対して説明をしなくてはならない管理部門の人間にとっても、大仕事となります。結果としてそれ自体も社員の成長に繋がっています。 

協働日本代表の村松さんと話した際にも、伴走の最後には伴走相手が自律的に考え行動することが大事だと語っておられましたが、まさにその視点が他社と違うところですね。 

伴走という形をとったことで社員が自ら考え、自ら伝える機会を作れたのは、継続性の観点からもとても良かったと思いますし、仮にコンサルに任せきりだったら得られなかった成果だと思います。 

ここから来年の春にかけて各事業部のリーダーともディスカッションしながら、完成させていく流れなのですが、2024年4月には運用をスタートできそうです。 

自分たちで考え抜いた結果の選択肢だから、自分の言葉で語ることができる 

ーー続いて、情報システム部次長の梶原さんにも伺います。社内人事制度の改定以外にも、協働日本と取り組んでいるプロジェクトがあると伺っております。またその背景も教えていただけますか? 

梶原宏二氏(以下、梶原):人事制度改定と並行して、ITとEC分野についても協働日本さんに依頼し、さらに2つのプロジェクトが発足しました。 

1つ目は、社内コミュニケーションツールの選定と導入に関するプロジェクトです。 

人事制度改定とは別の協働プロをアサインしていただき、弊社の該当部門社員でチームを組み、最適なツールの選定と、ひいてはワークスタイルの検討を議論してきました。 

出張先やリモート先での仕事環境の整備も今後ますます重要になる中で、社内コミュニケーションの見直しはまさに今後の生産性を左右する重要な課題のひとつでした。 

ーー先ほど濵田会長がおっしゃられたように、M&Aを通じて多くの企業がグループ入りする中で、システムの統一、特にコミュニケーションツールの選択は重要な課題になってきそうですね。 

濵田:そうですね。ちょうど九州の地元企業の創業社長が30代の頃に作られた会社が、60から70歳ぐらいになられた今、後継者不在ということでオーリックにグループ入りするケースも増えてきました。 

グループ内の連携を強化し、コミュニケーションを円滑にして、仕事を見える化していかないと、グループに加わったあとの相乗効果も出にくくなってしまう。 

連携を進めやすくするためにも、コミュニケーションツールはもとより、ウェブデザインをはじめ、会社の情報管理システム全般についても、同時並行で進めて行く必要があるなと再認識したところです。 

まずはその一歩として、全社のコミュニケーションシステムのアップデートと統一を指示していました。 

梶原:グループ各社で横断的に活用できるコミュニケーションツールを模索したいと思い、色々な情報を集めていましたが、何を基準に選択し業務をデザインすべきか途方にくれる部分もあり、IT企業に勤める協働プロの視点やアドバイスは非常にありがたいものでした。 

協働プロのお一人、NECソリューションイノベータにお勤めの横町さんに週1回伴走して頂く形をとって、チームで議論しています。 

これまで使っていた社内のポータルサイトの不満点や改善ポイントを整理し、新たに、Microsoftの365マイクロソフト365を中心としたコミュニケーションシステムに移行することにしました。 

全社導入にあたってのいくつか課題も整理し、いま運用をテストしているところです。これも2024年4月1日付で本格導入をスタートしていく予定です。

梶原 宏二氏 
ーーこの課題に、協働日本とチームを組んで取り組んだことのメリットはありましたか? 

梶原:進め方に関して、いわゆるコンサルに任せきりで決めてもらうという形ではなく、ワンチームで検討できたことも良かったですね。当社の現状をちゃんと理解してくださり、大手上場企業で勤めている経験や知見も生かしてくださっているおかげで、プロジェクトも着実に前進していきました。 

お互い毎週キャッチボールをさせていただき、実際に様々な導入事例を紹介してもらいました。 

協働プロの横町さんからしたら、オーリックさんぐらいの企業であればこれでいきましょう、と一気に決めてしまうことは正直、簡単だったと思うんです。 

でも横町さんの進め方は違っていて、いくつもの選択肢をひとつひとつメリットとデメリットを比較してくださり、毎週検討すべきテーマを宿題として提示してくれるなど、私たちがひとつひとつ考えて腹落ちできる形で議論を進めてくださいました。 

最終的に会長に報告をさせていただいて決裁をいただいたのですが、自分たちで考え抜いた結果の選択肢なので、メンバーはみな自信を持って報告することが出来ますよね。 

強みを活かした「差別化戦略」に伴走 

ーーあらためて方志さんにもお伺いいたします。EC分野に関するもう1つのプロジェクトについてもお話を伺えますか? 

方志: 我々は九州の小さな酒蔵や食品生産者とも多数お付き合いさせていただいています。全国的に知名度はなくとも、素晴らしい銘品が多いのです。十数年前から通販事業部にて楽天等のECモールに出店し、全国のお客様にお届けしてきました。 

豊富な取扱いアイテムを活かして、もっと情報発信や面白い施策をしたかったものの、何から取り組めばよいか迷ってしまっていました。 

やったほうがいいよね、ということがたくさんある中で何に注力して何を成果とするのか。具体的なKPIを設定して毎週・毎月追いかけていく仕組みを作っていく必要がありました。 

そこで、協働日本からマーケティング・宣伝のプロである相川さんに加わっていただき、目標達成のために根拠のあるKPI設定をサポートしてもらうことで、再現性のある勝ち筋を見つけていくための戦略づくりに集中した議論が行えています。 

ーーアイテム数以外の勝負、たとえばどんなアイディアがチームから生まれたのでしょうか? 

方志:弊社でECサイトの各商品カテゴリーを担当するECのカテゴリーマネージャーは4名いるのですが、それぞれがウィスキーや焼酎、ワイン、そして食品のプロです。 

彼らの知見や生産者とのつながりを活かした情報発信をしていこうという話になっており、たとえば、好みの焼酎とめぐりあえるような焼酎相性診断チャートを作成したり、noteで焼酎うんちくを焼酎アドバイザーの目線で語る企画を実施したり。 

目利きには自信のある、お酒のプロであるオーリックの強みを活かした差別化戦略を議論中です。 

時代のニーズに合わせて、変化していく 

ーーここまでのお話を伺う中でも、協働日本を通じて複業人材と共に、様々な課題の解決に取り組んでいる姿が見えてきました。 

濵田:私は実家が焼酎メーカーでその営業を行っている中で、当時はまだ珍しかった、酒のディスカウントストア業態を知りました。 

ディスカウント業態への参入に大きな可能性を感じた私は独立して、九州各地に拠点を設けることができるところまで事業を大きくすることが出来ました。 

2003年に酒販免許が完全自由化され、酒販業界が大きく変化していく中で、いち早くその変化に対応し逆境を乗り越えることができたのは幸運でした。 

その後も飲食店に酒類を配達するクイックデリバリーの事業など、時代のニーズにあわせて、当時の「酒のキンコー」から現オーリックへ業態を変化させてきました。 

社名の変更も大きな転機でした。年配の方からは、「酒のキンコー」の方がなじみがあるという声は今もいただきます。それでも、業態を大きく変えていく中で、それにふさわしいものへと社名を変えていくべきだと決断しました。 

ーー次々と時代のニーズに合わせて、変化していく。オーリック社の強さだと感じました。 

濵田:そういう意味では、私も今年4月1日に会長に就任し、濵田龍太郎が新しい社長に就任しました。これも一つの転機にしていきたいと思っています。 

「全社員の物心両面の幸福を実現し、お客様に最高の品質・サービスを提供し、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献する」という経営理念に合致するのであれば、これからも様々な業種や業態に挑戦する可能性は大いにあります。 

これまでも、様々な企業がM&Aを通じて弊社のグループに加わっていただきました。創業者が高齢化している企業の事業承継を引き受けて、九州経済を支えていくこともオーリックの一つの使命です。 

だからこそ、M&Aした企業の業績向上は重要な使命。業績を伸ばし、そこで働く従業員の給与賞与を上げていくことで、グループ入りしてよかったと思ってもらいたい。 

そのために、やらなければならないことが、まだまだたくさんある。我々だけでは解決に時間のかかる問題も多い。 

その一端を、協働日本さんにサポートしてもらえているのは大変心強く思っています。 

オーリック社 会長 濵田龍彦氏(右)と、弊社代表 村松知幸 (左)

さいごに 

ーー大変ありがたいお話を伺えました。最後に、協働日本との取り組みを感じていることや、複業人材との取り組みを経てお感じになったことなどをお伺いできますでしょうか。 

方志:協働日本さんと取り組みを始めてから、原則リモートの打合せでありながら、わざわざ鹿児島まで時折訪問してくださったり、社風や実態を理解しようと努めてくださる姿勢が私はとても嬉しかったです。  

過去、コンサルティング会社の方に依頼しても、考え方がうまくフィットしなかった事例もありましたが、協働日本の皆さまは弊社の身の丈にあった実践的な提言をしてくださるところが大変有難いです。 

協働日本さんは「伴走」という形を大事にされていると伺っていますが、まさに伴走者として寄り添ってくださっていると実感しています。  

また協働日本さんとお付き合いする以前にも、実はフリーランスのリモートワーカーさんを活用する案もありましたが、その時はマネジメントの点で不安がありました。 

その点、協働日本から参加する協働プロのみなさんは、厳選されたプロの方であり、プロマネも立ててくださるので安心してお付き合いができました。弊社から依頼していた3つのプロジェクト間でも情報共有してくださっていたようで、コミュニケーションがとてもスムーズでした。 

こうした複業人材との取り組みは今後地域の企業に広がっていくといいですね。 

社内に新しい風を吹かせてくれる、新しい視点を持った、地方に数少ない高度プロフェッショナル人材の力を借りることはとても魅力的ですが、雇用しようとすると、様々なリスクがあります。 

その点で、協働日本さんのようなスタイルは、ちょうどよい形だったと思います。 

濵田:協働日本さんの取り組みは、日本中だけでなく、いずれ海外にもきっと広がっていくのではないかと期待しています。 

同じような課題に直面している全国の地域企業は数多くいらっしゃると思います。鹿児島県をはじめ、どんどん成功事例を生み出して、発信していただければと思います。 

協働日本さんにはぜひ頑張っていただきたいと思います。 

ーー本日のインタビューは以上とさせていただきます。貴重なお話に加えて、弊社へのエールをいただきましてありがとうございました。


株式会社オーリック 代表取締役会長  
濵田 龍彦  
Ryuhiko Hamada

1956年生まれ、鹿児島県いちき串木野市出身。1978年、家業である明治元年創業の焼酎メーカー・濵田酒造に入社。1989年に鹿児島県内初の酒類ディスカウント店「酒のキンコー(のちのオーリック)」をスタート。2023年4月、㈱オーリック代表取締役会長に就任。  

株式会社オーリック グループ管理本部 経営管理部  
方志 貴子
Takako Hoshi  

中央大学法学部卒業後、大手食品酒類メーカーに入社し、約10年間勤務。主に情報システム開発・保守、営業企画、損益管理・財務会計業務等に従事。2022年4月、㈱オーリック入社。「持続的に成長する組織づくり」のため、経営理念、人事制度の改定、決算品質強化、オフィスリノベーションなどを推進。  

株式会社オーリック グループ管理本部 情報システム部次長  
梶原 宏二
Koji Kajihara 

2001年、オーリックの前身の「酒のキンコー」にて店舗担当として入社。2004年、営業として飲食店へお酒の提案を行う。熊本エリア支店長を経て、2015年より経営管理部次長として酒類事業、不動産建設事業の経営企画を担当。2023年4月より情報システム部次長としてDX化およびWEBマーケティングを推進。  

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協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。
今回は、協働日本で「人と組織のマネジメント」のプロとして活躍し、コーチングサービスIPPO事業でもコーチとして多くの方のキャリアの伴走支援に携わる芹沢 亜衣子(せりざわ あいこ)氏にインタビューいたしました。

芹沢氏は監査法人系プロフェッショナルサービスファームにて、ヒューマンキャピタル(人事)部門のビジネスパートナー(HRBP)として、各部門のリーダーやメンバーと対話しながら人と組織の「ありたい姿」を形にしていく仕事をされています。

協働を通じて生まれた「組織」と「人」のそれぞれの変化と相乗効果、ご自身の気づきや学びを語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

人と組織の可能性を高める人事という仕事の面白さ

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは芹沢さんの普段のお仕事について教えてください。

芹沢 亜衣子氏(以下、芹沢):よろしくお願いします!現在はプロフェッショナルサービスファームの人事部にて、ビジネスパートナー(HRBP)として仕事をしています。

HRBPという肩書に馴染みがある方もまだ少ないかもしれません。私たちは企業の中で、各部門のリーダーと対話を重ねながら、人と組織の「ありたい姿」を形にしていく役割を担います。

どんな働き方がメンバーのパフォーマンスにつながり、組織全体の価値を最大化させるのかという人材戦略を考えることや、リーダーのメッセージをメンバーに届けるサポート、スキルアップに向けた育成施策、評価・報酬などの人事制度設計・運用まで、人と組織の成長に多方面から携わる仕事です。

ーーこれまでのキャリアでも、ずっと人事の仕事に携わっていらっしゃったのでしょうか。

芹沢:実は、新卒で入社した会社では元々営業志望でした。ですが、最初の配属はIT部門。そこで4年半勤めた後、ジョブローテーションで人事に配属されたのが人事としてのキャリアの始まりでした。

ちょうどその頃、世間的にも働き方改革、ダイバーシティなどが注目されるようになり、人事として人と組織を進化させるためにやるべきことが増えてきたタイミングでした。

人事としての専門性も高めつつ、プロジェクトをリードする役割を担ってきたのですが、「より現場に近いところで人事の仕事をしたい」と考えるようになりました。そこで先ほどご紹介した、「HRBP」という役割を知り、その仕事へチャレンジすべく転職し、今に至ります。

ーー芹沢さんが、元々人事志望ではなかったというのは意外でした。社会の変化も相まって、人事としての仕事に面白さを見出されたんですね。

芹沢:そうですね。人事だからこそ、会社の成長に貢献できることはあると感じていますし、そこに面白さも感じています。

ただ、人事の仕事へのこだわりというよりも、「人と組織の可能性を高めたい」ということに対する想いが強いので、今後もし人事でない肩書を担うことになっても、やはり「人と組織の可能性を高める」ということを自分の軸にして働いていきたいと思っています。

人事のプロとして貢献し、受発注の関係を超えて、共に学び合い成長したい

ーー続いて、協働日本での活動についてお聞きしたいと思います。まずは芹沢さんが協働プロとして協働日本に参画されたきっかけについて教えていただけますか?

芹沢:はい。前職時代からの知人である大西剣之介さん(バリュエンスホールディングス株式会社 執行役員 コーポレート本部長 人事部)からのお誘いがきっかけでした。

同じ人事のフィールドで活動しており、お互いに面白いことを思いついたらすぐに実行に移すタイプだったので、会社を越えて勉強会をしたり、研修を開催したりしていました。    

ちょうど私が現職に転職した頃、すでに協働日本で活動していた大西さんからの紹介で、協働プロにお誘いいただきました。

ーー人事として活躍されていた芹沢さんだからこそ、大西さんも協働日本の一員にと、お誘いされてんですね。誘われた時はいかがでしたか?

芹沢:協働日本の取り組みを知って、すごくありがたいお声掛けだと感じまして、ぜひ一緒に取り組みたいですとお答えしました。

正直にいうと、前職までは人事としての「プロ」である自覚や自信を強く持てていませんでした。ジョブローテーションの一環で人事という部署にいて、与えられたミッションに対して自分がどういう風に貢献するかという考え方で仕事に携わっていました。

転職してからは考え方が逆になって、自分から課題を見つけに行き、どういう風に組織を動かしたらよいか、関係者の意見を引き出して、行動していく、能動的な役割に変わったなという実感がありました。          

人事の「プロ」としての自分を自覚して、主体的に仕事に向き合うようになってからは、社内だけじゃなくて、社外の方、ひいては社会に何か貢献できないかと考えるようになっていました。ちょうど協働日本のような機会を探していたこともあり、とてもいいタイミングでした。

一方で、自分に務まるかな?というプレッシャーもあったのですが、大西さんから「芹沢さんは決まった答えや型がなくとも、動くことができる人だと思う。自分にできることをとにかくやってみる、というスタンスでやってみてほしい」と言っていただいたんです。

「それなら、自分でも学びながら、役に立てることをやっていこう」と思って、参画させていただきました。

特に「伴走支援」という言葉にはとても共感していて、受発注の関係性ではなく、みなさんとの対話を通して一緒に作り上げていく、ともに学びあう、というスタンスが他にはないあり方だと感じています。

週に1度のZoomミーティング。協働先のパートナー企業の皆さんと。

外部の目線が入ることで、脈々と受け継がれてきた強みを明らかにしていく

ーー芹沢さんは今、協働日本のどのようなプロジェクトに参画されているのでしょうか?

芹沢:今は、協働プロや協働サポーターとして地域のパートナー企業とのプロジェクトに参画しているほか、IPPOコーチとしても活動しています。

コーチングを学び、実践してきた経験を活かして、IPPOコーチとして個人の受講者や、協働日本のプログラムである越境チャレンジ、経営人材育成プログラム参加者へのコーチングを行っています。

ーー多面的に活動されているんですね!まずは協働プロとしてのお取り組みについて教えていただけますか?

芹沢:協働プロとしては株式会社オーリックさんのプロジェクトで、人事制度等の変革について取り組んでいます。オーリックさんは、創業者である会長が一代で事業を大きくされた会社ということもあり、M&Aなどを通じて急速に事業が拡大していく中で、人事制度は運用されているものの、グループ各社で統一されていない部分もあり、経営からのメッセージが通りづらくなっているように感じました。

ちょうど社長が代替わりされたタイミングでもあったので、会社として新しいフェーズに入るために一度しっかりと人事制度を整えよう、ということになり、そこへ協働プロとして、伴走支援をすべく参画しています。

このプロジェクトには、協働日本へお誘いくださった大西さんと一緒に入らせていただいていて、1週間に1度、人事を管轄する管理部門のメンバーを中心に、会長、社長、そして現場の統括をしている営業本部長にも時折入っていただきながら、ミーティングを重ねています。

ーーまさに人事のプロのチームですね!具体的にどのような議論を交わされているのか、協働先の変化なども含めてお聞きできますか?

芹沢:最初の頃は、どういう従業員になって欲しいか、まずは「ありたい姿」の議論を重ねていきました。重要なこととはいえ、知り合ったばかりの人から「御社のありたい姿を教えてください」なんて言われても、答えるのは容易ではないですよね。

本音で議論するためには、お互いに理解し合い、信頼関係を築いていくことも重要だとあらためて感じ、経営者との議論も進める傍らで、オーリックさんで働く従業員の声もヒアリングさせていただきました 。

組織の中においては、人事は少し遠い存在になりがちですよね。変なことを言ったら評価に差し障るかも、と思うと本音や不満が正直に言えないこともあります。

だからこそ私たちのような第三者がフラットな目線で「課題に感じていることを教えてください」と入って社員の声を引き出していき、人事のメンバーに届けることが重要だと考えていました。

従業員の声がヒントになって課題が浮き彫りになったり、実は会社のここを良いと思ってくれてたんだ、みたいな気づきがあったりと、議論がどんどん活発になっていきました。

地道な行動の1つ1つで信頼を得て、「ありたい姿」といった少し抽象的なテーマも遠慮なく議論できる関係性が出来たのではないかと思っています。

ーー一緒に手を動かしていく中で徐々に関係性が出来ていったんですね。

芹沢:そうですね。協働を通じて気付いたのですが、オーリックさんは、会長、社長が社員のことをすごく考えていらっしゃいます。社員が安心して働けるようにしたい、生活を守りたいという意識がすごく強い。

経営者から社員への愛情はオーリックさんの強みだなとあらためて感じました。こういった、脈々と受け継がれてきた強みと、一方で従業員が感じる不安・不満を、新たな人事制度やメッセージでどうカバーできるかを考えながらプロジェクトを進めています。

また、同じ組織内では遠慮して言えなかったことも、私たちとの対話を通じて「実はこれが気になっていた」「社員からも声をもらったことがある」など様々な気づきが出てきています。

自分たちの良さや、自分たちらしさというのは、実は外から見ないとわからなかったりします。私たちのような外部の人間が入ることによって、客観的に見た「自分たちの強み」に気づき始めると、「新しい制度を作りました」で終わらず、こういう思いで作ったんだ、ここが私たちらしさなんだ、という想いが制度や仕組みに反映されるようになります。その想いは、自然と社員への説明の仕方やコミュニケーションにもメッセージとして表れ、結果的に組織全体が徐々に変化していくように思います。

会社が大きくなると、どうしても経営陣から社員へのメッセージは薄れていきがちです。だからこそ、オーリックさんの強みである社員に対しての愛情や想いを制度にこめて、人事が自分たちの言葉で社員に伝えることができるようになればと思っています。

誤魔化さずに自分と向き合っていく時間──本音を引き出すコーチングの魅力

ーー続いてIPPOコーチとしての活動についても伺えますか?

芹沢:まず、コーチングの良いところとして、近しい人には恥ずかしくて言えない壁、不安、恐れ、嫉妬心、一歩踏み出せない何かなど、自分のアイデンティティと紐づくことをお話していただきやすい点があると思っています。

なぜ私はこう感じるのか?自分が大事にしている価値観は何か?などを引き出していくのが、私たちコーチの役割です。

IPPOのコーチングは基本的に、1ヶ月に1度実施していますが、1ヶ月と言うスパンの中でも、受講者の変化を感じています。

例えば、とある受講者の方とは、はじめに「3年後こういう自分でありたい、そのために1年後こうなっていたい」という目標を決めたのですが、次の月、改めて見返すと「この目標、なんだか違うね」となったことがありました。

最初に目標設定した時から、アクションを変えたり、日記をつけて内省するなど、自分と向き合う時間を増やすことで、ご自身に変化が生じて、見返した目標が本人にとって小さいかも、と感じるようになっていたんです。コーチングの中で目標の解像度も上がり、本人の意志で目標を修正しました。

毎月、小さなことから大きなことまで課題や気づきはたくさん出てきます。自分の中の嫌なところ気づき、その嫌な自分が仕事や人生にどんな影響を及ぼすのか?自分は手放したいのか、それとも受け入れたいのか。強制的に深く考えていくことにコーチングとしての価値や意味があるかもしれません。

忙しい人ほど、自分のために内省する時間を作れないことが多いですが、私はそれがとてももったいないと感じています。振り返って自分自身と向き合い、解像度を高めていくという作業をやるのとやらないのでは、向かう先が全く違ってくると、IPPOコーチを務める中で、あらためて感じています。

ーーなるほど。忙しい人ほど内省の時間が取れないという話がありましたが、越境チャレンジや経営人材育成プログラムのコーチングではいかがですか?

芹沢:こちらは、人材育成のプログラムと連動していて、振り返りのセッションとして私がコーチングに携わらせていただいています。やっていることは個人のコーチングと大きくは変わらないのですが、受講者の傾向としては、会社への貢献意識が高い一方で、ご自身の想いやキャリアに向き合う時間をしっかり取れなかった方が多くいらっしゃいます。

プログラムの中では学ぶことや刺激がとても多い一方で、自分のアクションは上手くいかないことに直面することがあります。どうして上手くいかないと感じているのか、そこに対して持っている不安や恐れ、どこに壁があるのかを一緒に話しながら方向性を探っています。

そして、見つけた壁に向き合うためにどんなアクションを取るか、1つだけでも絶対にこれはやろう、と決めて次の機会までに実施してもらう、ということを繰り返していきます。

最初に、「プログラムを受けてみてどうですか?」と聞くと、皆さん「すごく勉強になっています」と、「この場を上手く切り抜けよう」とされます(笑)

そこですかさず、「どんなところが学びになっていますか?」とか、プロジェクトの内容についても「これを元に何をどう変えていくのでしたっけ?」など深く聞いていくと、意外と言語化ができなかったりします。

学びがあったとその時は思っても、自分の中でちゃんと落とし込めていないと次のアクションに繋がらないので、すごく丁寧に掘り下げて、自分の言葉で表現できるようにしてもらっています。

皆さん優秀な方ばかりなので、やろうと思えば「上手くいっている風」にテクニカルに処理することができてしまう方がほとんどです。だからこそ「上手くいっている風」で終わらないように、自分のことを振り返り、嫌なこと、こんなところがだめだなと思っているところについて、向き合って解決していくことが私たち協働日本のコーチングの役割だと思っています。

何回かコーチングの時間を重ねていくと多くの方が、黙っていてもいい時間、考えるための時間を、コーチングの場でも取れるようになってきます。私から問いを投げかけた時に、「ああ、それは全く考えていなかったです」と返ってきて、黙って考える時間を作ることが意識的にできる。仕事の取引先などの間柄だと、会話を途切れさせずに頑張っていいこと言わなきゃと思うこともあると思うのですが、コーチングでは「上手く言う、上手くやる」必要はありません。本音の部分を引き出していくのが役割なので、対話の中で間ができるようになると、良い変化が生まれているなと思います。

気づきあい、高めあい、新たなものを生み出していくコミュニティの可能性

ーー協働日本でのさまざまな活動を通じて、今、芹沢さんが感じることや、今後実現したいことはありますか?

芹沢:そうですね。まずいろんなバックグラウンドを持った方との対話を通じて、自分の視野が大きく広がりました。伴走支援させていただいている私の方が勉強させてもらっていると感じることが多いです。

企業の個性や状況によって、人事や組織のマネジメントで定石とされていることが簡単には当てはまらなかったりする、いい意味での現場感や、良いものをすぐ反映・実行に移すスピード感は、ひとつの会社で人事として働いていては体験できないものだと思います。

協働日本には自分の経験では補えないものを持つ人たちがたくさんいらっしゃるので、そのネットワークの中にいられることも、私はすごくありがたいなと思っています。皆さんから刺激を受けることで、自分自身も自然と成長する選択肢をとっていると感じます。     ここにいること自体が成長につながっていますね。

また、地域のパートナー企業の方との協働を通じて、今までお互いに気づいていなかった「本来その企業が持っている素晴らしいもの」「それを活かしたこれからの可能性」を見つけられることにも、とてもやりがいを感じています。協働を通じて新たに見えた景色から、パートナーの皆さんが自分の存在意義を感じ、自信につなげていってもらえたらいいなと思います。

私は自分自身の人生のミッションとして、「日々ワクワクする人を一人でも増やしたい」を掲げています。仕事を通じて「人と組織の可能性を高めたい」という想いを持っているのもそのためです。協働プロとして、IPPOコーチとして活動することで、ワクワクして人生が豊かになっていく人を一人でも増やす、そんな未来を実現していきたいと思っています。

ーー本日はありがとうございました!最後に、協働日本が今後どうなっていくと思われるか、協働日本へのエールも込めてメッセージをお願いします。

芹沢:協働日本には、「可能性」が無限にあるなと感じています。私のように長年組織の中で経験を積んできた人が、協働プロとしての活動を通じて「自分は何に貢献できる人なのか?何をやっていきたいのか?」を問い、アウトプットを通じて様々な気づきを得る場になりますし、地域企業の方にとっても自社の強みを改めて実感し、いろんな可能性に気づく場でもあると思います。

協働日本自体が、「挑戦したい」「現状をもっと良くしたい」「拡大したい」というような、熱量の高い人同士をつなげているコミュニティにもなっていると感じています。これから更にお互いに刺激を受け、気づきあい、高めあい、新たなものを生み出していく組織になっていくのではないかと思います。

ーーインタビューへのご協力、ありがとうございました。

芹沢:ありがとうございました!今後ともよろしくお願いいたします。

芹沢 亜衣子 / Aiko Serizawa

大学卒業後、サントリーフーズ(株)※に入社。IT部門でシステム開発・導入に従事した後、人事部門にて、評価・ジョブローテーションの制度運用・労務対応に加え、ダイバーシティ推進・タレントマネジメントなど新たな施策の企画・運用をリード。2020年よりPwC Japan合同会社に転職し、HRBPとして要員管理・タレントマネジメント・人材開発・組織開発等、部門の戦略・特性にそった人事戦略全般の企画・実行を担う。

※現サントリー食品インターナショナル(株)

芹沢 亜衣子氏も参画する協働日本事業については こちら

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