STORY:株式会社味一番フード 村上良一氏 -協働で見出した宝の山。既存商品ブラッシュアップで販売数5倍増。-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社味一番フードの代表取締役専務 村上 良一氏にお越しいただきました。
株式会社味一番フードは石川県の創業約50年のうどん・蕎麦を中心とした飲食業を営む老舗企業です。

最初は約8坪の小さなうどん屋さんとしてスタート。その後、ショッピングセンターへの出店が1つのきっかけになり、郊外型独立店の展開やチェーン展開と裾野を広げ、現在は石川・富山で9店舗を運営されています。

コロナ禍を通じて感じた飲食店業態の脆さから、飲食店の運営以外の新たな事業の開拓や柱作りの必要性を感じたという村上氏。その新規事業への挑戦に協働プロが伴走しました。

インタビューを通じて、協働プロジェクトに取り組みはじめたことで生まれた変化や得られた学び、これからの期待や想いについて語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

株式会社味一番フードの運営する飲食店「めん房本陣」

飲食店だけでない新たな柱作りを。商品開発にもがく中で得た、運命の出会い。

ーー本日はよろしくお願いいたします。はじめに、協働を決めたきっかけを教えていただけますか?

村上 良一氏(以下、村上):はい!よろしくお願いいたします。

ちょうどコロナ禍に入った頃、皆さんご存知の通り飲食業界は大打撃を受けました。安心して外に出られる世の中でなければ、わざわざ外食する機会もないのだと改めて気づき、飲食店の経営という業態の脆さを感じることになりました。


とはいえ、自分たちにとって「飲食店」は主たる事業ですし、今後も弊社の柱であることには変わりません。一方で会社としての安定的な経営、成長を考えると、飲食とはまた違った新たな事業の開拓と新たな柱づくりに取り組まなくてはならないと危機感を覚えました。

そこで、自分たちの長所を掛け合わせた新たな取り組みとして、まずはお店をご利用いただくお客様に商品を販売してみてはどうかと物販を始めたものの、売れ行きはあまり芳しくありませんでした。

商品開発や物販は自分たちにとって未知の領域でしたので、やはり専門人材の知見やアイディアなど力を借りる必要があると思っていたところ、石川県が主催する「複業人材の活用セミナー」のお知らせが目に入りました。

元々、複業人材の取り組み自体は新聞などで読んで興味を持っていたんです。

都市部で頑張っている方々の知見を頂きながらの取り組みは、ローカルにありがちな広い視野や専門性に特化した人材・コンサルタントが少ないという現状をカバーすることができ、会社の課題を解消していくために面白い取り組みだと思っていたので、セミナーに参加することにしました。

ーーなるほど。実際に協働日本の取り組みについての話を聞いていかがでしたか?

村上:実際にお話を聞いてみると、協働日本代表の村松さん、そして協働日本自体が、非常に熱い想いを持っていたことに魅力を感じました。どんな仕事でもパッションを持っていないとうまく行かない側面があると思っていたので、弊社の想いに共感していただけそうだと感じました。

協働日本は協働プロがチームを組んでプロジェクトに参画するという点も魅力的でした。他にも複業人材のコンサルティングサービスを提供する企業と比較検討したのですが、いずれも、個人がプロジェクトを担当するという取り組み形態でした。

協働日本は様々な得意分野を持つ協働プロが、プロジェクトの目的や状況によって入れ替わることもあるともお聞きし、コロナ禍以降の柱づくり、物販のノウハウ・開発と幅広く、中長期的に取り組みたいと思っていた弊社にとってはメリットや効果が大きいと思い、協働を決めました。

今となっては、たまたまセミナーを主催する石川県の担当の方との繋がりがあったことすら、一つの運命だったように思います(笑)。


自社の強み・お客様と向き合う──家族団欒のイメージでブラッシュアップした商品の販売数は約5倍に。

ーー協働がスタートしてからはどのようなプロジェクトが進んでいるのでしょうか?

村上:先ほどお話しした通り、新しい事業の柱を作るための商品開発や店頭での物販についてのプロジェクトを進めています。

協働プロとしては、枦木優希さん、松尾琴美さん、加藤奏さんの3名に伴走していただいています。弊社からは、私の他に物販全般・販促などの担当者と、実際に商品を開発製造する製造部門の担当者が毎週のセッションに参加しています。

一番最初に概念的な戦略・コンセプトを考えるセッションからスタートし、その後考えたコンセプトに対してどんな商品にできるかという商品開発に取り組み、コスト計算など数値的な設計や販売計画を作成、販売開始という流れでプロジェクトが進んでいきました。

ーーなるほど。ぜひ順を追って、具体的な内容を教えていただけますか?

村上:はい。コンセプト設計では、「自社の強み」「どんなお客様がいらっしゃるのか」「ニーズ」などを初め、概念的なことを整理していきました。

概念というのは当然目に見えるものではないこともあり、どのように言語化すればよいのか、当初とても苦戦しました。

開発した商品は、実際に店頭で販売するということもあり、お店にお越しいただいているお客様のシチュエーションやニーズなどを想像するようガイドいただいたことで、店やお客様の特徴や強みを全員で考えることができ、チーム一同で共通の世界観を言語化できました。

実を言うと、当初はコンセプトづくりにそこまで時間をかけるべきなのか?と思っていたのですが、今になって振り返ると、販売計画など後々のステップでも常にコンセプトが軸になっており、とても重要なフェーズだったと気づきました。

軸になる考え方や世界観をチームで考え抜き、共通言語にするステップを経たからこそ、共感や共鳴が生まれやすくなり、取り組み方がスムーズになると実感しました。


ーー出来上がったコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?

村上:私たちのお店には、お子様連れの家族でお越しになるお客様が多いこともあり、小さなお子様を中心に、ご家庭でも家族皆でほのぼのと食べられる、そんな商品を目指していきたいと決めました。

その後、商品開発に移るのですが、いくつか協働プロの皆さんにご提案いただいた商品候補案の中から、これまでもお土産として販売し、ご注文から提供までの間にも試食としてお出ししていた、うどんの生麺を揚げたスナック菓子「うどんスティック」を改めてブラッシュアップして、新たな物販商品にすることに決めました。

商品開発のフェーズではコンセプトに沿ってより具体性を持たせ、現実化させるための落とし所を見つける作業を行いました。
商品の品質をどう捉えるか、販売価格に対して包材などのコストのバランスを考えるなど、協働プロの皆さんにはうまく誘導していただいたと思います。

コンセプトへの想いが強ければ強いほど費用が嵩んでしまいがちで、商品のコスト設計には苦労しましたが、経営的な視点を持って利益設計をするアドバイスを得て、商品価値とバランスのとれた設計を目指しました。

ブラッシュアップして実際に出来上がった商品は「ポリポリさん」と名付けられました。先ほどもお話しした通り、元々店舗でお土産用の商品として販売し、ご注文から提供までの間に試食としてお出ししていた「うどんスティック」が元になっています。

協働プロの皆さんが店舗に視察にいらっしゃった際に食べていただいていたのですが、「うどんスティック」とは呼ばれず、「あのポリポリしたの美味しいよね」というコメントが結構出まして(笑)。

商品の提案をいくつかいただいた時にも「あのポリポリ」が候補に上がり、いっそのこと名前も「ポリポリ」にした方がイメージもしやすく親しみやすさも出ていいんじゃないか?とネーミング変更に踏み切りました。またイラストレーターの方に「ポリポリさん」をキャラクター化して絵を描いていただき、家族のキャラクターも誕生しました。主役のポリポリ君と、妹、両親、祖父母の6人家族──当初のコンセプトである、子供を中心にご家族で楽しんでいただくというコンセプトにもぴったりの商品になりました。

「うどんスティック」としてお土産用に販売していた時代と比べると、リニューアル後は月販ベースの売上個数が5倍近くに伸長するなど、成果が目に見えて表れています。現在は販売データの分析を行って今後の売り方や方向性を協働プロに丁寧に見ていただき、検討を進めているところです。
実際に分析をしてみると、当初ターゲットとして想定していたファミリー層以外にも、高齢のご夫婦などにも買っていただいているようです。
「ポリポリさん」を通じてお客様のコミュニケーションが促進されている様子が伺え、世代を超えて愛される店舗としても、さらなる魅力強化にもつながっているのではないかと思います。

実際に商品化された「ポリポリさん」。名前からその食感が伝わってくる。

協働を通じて獲得した「粘り強さ」──魚を採ってきてくれるのではなく、釣り方を学ぶ必要性。

ーープロジェクトに参画されている社員の皆さんの反応はいかがですか?

村上:協働プロジェクトは始まる前から物販の開発をやっていたメンバーなので、先述の通り失敗も経験していました。

どんなものが売れるのか、何が大切かを知ることに飢えていたところがあり、自分たちの知り得ないこと──新しい知見や学びに対して最初から前向きに取り組めたと思います。

メンバーは大変な思いをしてくれていました。まさに産みの苦しみ。誰かが答えを出してくれるわけではなく、自分で見つけなくてはいけませんから。

協働プロは上手く問いをくださるのですが、決して答えはもらえないので、「今週答えが出なかったので、また来週までに考えましょう」となるわけです。聞いても答えは教えてくれない。あくまで自分たちの中から生み出さなければ意味がないと。例えるなら、魚を採ってきてくれるのではなく、釣り方を教えるから、自分で釣ってみてくださいと。自分の中でわからないことをわからないで済ませずに、それをどうわかろうとするかという粘り強さを、協働を通じて持ち得ることができたように感じます。

ーーありがとうございます。先ほど「学び」の観点のお話をいただきましたが、ここまでの協働を通じて、実際社内に「残ったもの」や「自分たちのものにできたノウハウ」などはありますか?

村上:そうですね。マーケターである枦木さんには、フレームワーク的な形で取り組みをまとめてくださり、プロジェクトを進めていただいているので、これはわかりやすく他の取り組みにも再現性があると思っています。

マーケティングの知識も販売計画の中に盛り込まれているので、ただの知識として頭でっかちにインプットするのではなく、実感を伴ってマーケティングの要素を学ぶことができ、活用イメージも持ちやすく、座学の何倍も得られたものは大きかったと思います。

また、これは協働プロの皆さんに共通することですが、必要なこと、大切なことについて決して妥協せず、表面的なところで終わらせずに深掘りして、納得できるところまで粘り強く答えが出るまで待ってくれる、そういった回答を促してもらえていることがとてもありがたいと思っています。

先ほども社員メンバーの「粘り強さ」の話をしましたが、協働日本はまさに「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」人たち。自分たちで釣り方を見つけ、答えを生み出すまで「待ってくれる」姿勢だからこそ得られた学びは大きいですし、だからこそ、協働プロの皆さんへの信頼も厚くなっていきました。

皆さん大きな会社の商品開発や販売をなさっていますが、蓋を開けてみると、地味なことを大切にしているんだなと少し驚いたこともありましたね。

例えば、毎週の売上状況の分析など、コツコツと見ていただいていると、地味なことの繰り返し・継続が大切なんだと改めて感じます。ローカルの人材はどうしても、目先の忙しさ故にそういった基本的なことに集中しきれない、妥協しがちなところもあると思います。

協働プロの皆さんは意識されていないかもしれませんが、妥協してもいいところと、妥協してはいけないところを理解されていて、必要なところに集中することの大切さもあらためて実感しました。

現実だけではなく、ワクワクする夢を見る。協働で得られる新たな視点が、日本企業の可能性を広げる。

ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には以前から興味がおありだったとのこと。実際に、サービスを活用してみて、複業人材の取り組みは今後広がっていくと思われますか?

村上:周りに困っている方がいたら、ぜひおすすめしたいと思いますね。

協働日本とのプロジェクトにおいては、良いところも悪いところも曝け出さなくてはいけないと思っているので、プライドや恥ずかしいという気持ちを通り越し、将来への危機感やこうありたいという情熱を持ち合わせている企業の方の方が相性がいいと思います。

言い換えれば、現状の企業風土を維持したままを希望されていたり、すぐに答えだけほしい、というケースでは合わないかもしれません。

最近では複業人材活用で、うまくいっていないケースの話もたびたび耳にすることがあります。やはりニーズや状況により活用の仕方を検討する必要はあるかもしれませんね。

「複業人材」自体を、短期的な「成果を得るためのもの」というふうに取り入れるよりも、社員と交わらせ学びを深め、地力をつけるための「先行投資」と考えるなど、捉え方自体も変えていくのはどうでしょうか。

私としては、「こうしたい」という将来へのワクワク感を企業の経営者は持つべきではないかと考えていて、自分たちに何ができるのか、行動することが大切だと思っています。

どうしても目先の忙しさ、現実だけに目が行きがちなのですが、妥協せずに楽しむような仕事のスタンスで複業人材と一緒に取り組みを進めていくと、新たな視点を得ることができます。視点や世界観を変えれば、自分たちの会社や事業がもっと輝いたり、違う発展を遂げていくこともあり得るのではないでしょうか。

ーーありがとうございます。最後に、協働日本へのエールも兼ねて、一言メッセージをお聞かせください!

村上:味一番フードでは、物販事業など目に見える事業などの助言をチームでいただいていますが、目先のことだけではない、会社を俯瞰して見た時の企業文化の醸成や再生についても、相談できるのが協働日本の強みですね。

もっと取り組みが広がって、協働日本が踏み込んでいくことで変われる企業がもっと出てくると、さらに唯一無二の存在になるのではないかと思っています。

競争社会において、コモディティ化するような成長では結局価格競争に陥ってしまいがちです。私たちが取り組んでいるような事業の活性化、企業文化の再生・ブルーオーシャン戦略など、自信を失いかけている日本の地方企業の第三の選択肢を一緒に探してくれる味方になっていってほしいと思っています。

自社の社員を見ていても感じることですが、自分以外の視点──お客様など他者の視点で見ると宝の山が見えたりすることがたくさんあります。協働日本が入ることで、皆が新しい視点を持ち、ワクワクに気づいて夢を持てるようになってほしい。そんな企業として協働日本が成長してくださったらいいなと思います。

難しいことを言っているかもしれませんが、前向きで情熱のある方々だからこそ、そういうところに期待してしまいます。1年間のお付き合いの中で感じる正直なところです。これからもよろしくお願いします。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

村上:ありがとうございました!

村上良一 / Ryoichi Murakami

大学卒業後、東京の不動産会社(リゾート物件)にて営業職を5年経験。その後、(株)味一番フードに入社。以後「めん房本陣」「そば処花凛」など計10店舗以上の新規出店に関与。それ以外にも店舗改善・商品開発・人材採用育成・DX化など幅広い業務に携わる。現在、会社の第3の柱として物販商品の開発・ブランド化に向けて邁進中。

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