投稿

AI・デジタル活用STORY:株式会社伊田重機 柳澤有希子氏 紙に眠る57年の知恵を、次世代へ。社員主導で始まったデジタル変革

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

【記事サマリー】
奈良県奈良市で、建設機械や建設用車両の修理・販売・整備・保守点検などを手がける株式会社伊田重機。創業以来の豊富な知識と経験を強みにする一方、顧客情報や修理履歴の多くは紙で保管され、業務の進め方もベテラン社員の記憶に依存していました。協働プロとともにkintoneを活用した情報の一元化に着手し、現在は紙資料をPDF化し、生成AIも用いてデータへ移す方法を検証しています。本格運用はこれからですが、すでに大きな変化も生まれています。若い事務員2名が、自らAIやkintoneを学び、システムの構築を主導するようになったのです。社長が一人で抱えていた課題が社員の共通課題となり、現場から会社を変える動きへ。創業57年の知恵を次世代へつなぐ「デジタル事業承継」が始まっています。

この取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」による支援事例です。
デジコーチとは

今回は、奈良県奈良市を拠点に、建設機械や建設用車両に関する幅広いサービスを展開する株式会社伊田重機 代表取締役の柳澤有希子さんにお話を伺いました。

同社は1969年(昭和44年)に創業。建設機械の修理を起点に、リース・レンタル、中古建設機械の販売、オペレーター付きでの現場対応、ユニック車などの架装部分の修理・点検へと事業を広げ、地域の建設現場を支えてきました。一方、顧客情報や修理履歴は大量の紙で保管され、業務もベテラン社員の記憶に依存。情報共有の不足が、ミスや顧客トラブルにつながることもありました。

2代目として会社を継いだ柳澤さんは、この状況に強い危機感を抱きながらも、当初は一人で悩み続けていたといいます。奈良県の「デジタル×経営実践」プログラムを通じて協働日本と出会い、協働プロの横町暢洋さんらと取り組みを進める中で、会社にどのような変化が生まれたのでしょうか。

ベテランの頭の中と紙に眠る情報を、どのように会社全体の資産へ変えていくのか。そして、デジタルとは縁遠かった社員たちが、なぜ自ら変革を担うようになったのか。率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明)

建設機械のことなら、何でも応える。修理から広がった57年

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、伊田重機さんの沿革と現在の事業について教えてください。

柳澤有希子氏(以下、柳澤):
よろしくお願いします。当社は昭和44年に、父が創業しました。当時は高度経済成長期の真っただ中で、建設機械が普及し始めた頃だったのだと思います。父はとにかく機械が好きで、建設機械の修理を始めたことが会社の出発点です。

現在は修理を基盤に、リース・レンタル、中古建設機械の販売、オペレーター付きで建設機械を現場へ出す仕事なども行っています。ユニック車やごみ収集車といった働く車の「架装部分」の修理や点検も得意です。「建設機械のことならお任せください」という言葉を看板にも掲げるほど、さまざまなご相談に対応しています。

建設機械は10年、20年前のものでも、動けば仕事になります。かなり前に販売した機械が、修理のために再び入ってくることも珍しくありません。昔からいる担当者の記憶は大きな強みですが、その人にしか分からないままでは、会社としてお客様に向き合い続けることが難しい。古い履歴も簡単には捨てられない業種だからこそ、会社の情報として残す必要がありました。

ーーありがとうございます。続いて、協働日本を最初に知ったきっかけを教えてください。

柳澤:

以前、奈良中央信用金庫の経営研究会で、協働日本代表の村松さんの講演を聞いたことがありました。お話を聞いて、「こういう方々に相談できたらいいだろうな」と感じたことを覚えています。

その後、奈良県の「デジタル×経営実践」プログラムを知りました。参加企業には当社と同じような中小企業も多いと聞き、「悩んでいるのは、うちだけではない」「うちでもデジタル化、DXに取り組んでいいんだ」と思えました。

ちょうど、ベテラン社員の知識をどう引き継ぐか、一人で悩み続けていた時期でもありました。私にとって、本当に必要なタイミングでいただいた機会でした。

ーー奈良県の事業を通じて、協働日本の協働プロたちとの具体的な協働が始まったのですね。

柳澤:

はい。最初は私一人が焦り、「何とかしなければ」と思っていました。ご紹介いただいた協働プロの横町さんたちとの取り組みを通じ、課題を整理し、当社に合う方法を一緒に考えてもらうところから始まりました。

単にシステムを紹介してもらうのではなく、今の当社がどのような状態で、何に困っているのかを聞いてもらえたことが大きかったと思います。

「この人に聞かないと分からない」。ベテランの記憶に頼る会社

ーー協働日本との取り組みを決めた当時、社内にはどのような課題があったのでしょうか。

柳澤:
父の代から働く社員が今も会社を支えてくれています。経験が豊富な一方、業務の進め方やお客様の情報の多くは、その方たちの頭の中にしかありませんでした。「何十年か前に対応したお客様だから、資料を調べてほしい」と言われると、事務スタッフは仕事を止め、大量の紙資料から探します。複数人で探し、数時間かかることもありました。

営業と整備の間でも、十分に情報を共有できていませんでした。問い合わせをいただいても、担当者がいなければすぐに答えられない。行き違いからミスやロスが生まれ、お客様にご迷惑をかけてしまうこともありました。実際にお客様を怒らせてしまい、営業担当が頭を下げるような出来事もありました。そうなると、社内の空気も悪くなってしまいます。

ーー2代目として、その状況に強い危機感を持たれていたのですね。

柳澤:
この先も伊田重機を続けるなら、ベテラン社員の頭の中にあるものを見えるようにしなければいけない。長く働いてきた方々の自負も、若い社員が新しいことを取り入れたいという思いも大切にしながら、どう知識を受け継ぐのか。答えが見えず、当時は一人で悶々としていました。

協働日本のプログラムを知ったのは、まさにそのタイミングでした。私にとっては、本当に必要なときに出会えた取り組みでした。

デジタル化は、創業57年の知恵をつなぐ「事業承継」

ーー今回の取り組みでは、どのような未来を目標に掲げたのでしょうか。

柳澤:
目指したのは、社員が同じクオリティーで仕事ができる職場です。誰が問い合わせを受けても同じ情報を確認し、速やかに対応できるようにする。「この人に頼んでよかった」だけではなく、「伊田重機に頼んでよかった」と言っていただける会社へ変えていきたいと思っています。

ですから、当社にとってのデジタル化は、単なる効率化ではありません。ベテラン社員が長年培ってきた知識やノウハウをデータとして残し、若い世代へ引き継いでいくための取り組みです。創業57年の重みを未来へつなぐ、事業承継の一つだと捉えています。

ーーその実現に向け、まずは顧客情報や修理履歴をkintoneへ集約することにしたのですね。

柳澤:
はい。いくつかのシステムを検討し、横町さんにも相談しました。業界向けの専門的なシステムには、何百万円という導入費用に加え、月々の費用がかかるものもあります。機能が多くても、当社がすべてを使いこなせるとは限りません。

その点、kintoneは当社が今やりたいことに合っていて、費用面でも取り組みを始めやすく、自社に合わせてカスタマイズできます。営業やベテラン社員が持つ情報を棚卸しし、顧客情報を一元化する。そのうえで、業務を効率化できるように情報を整理し、社員にもデジタル活用の考え方を広げていく。この順番で進めています。

請求書、機械の仕入れ・販売など、担当者ごとのExcelや頭の中にあった情報も、一つの流れとして確認できる仕組みをつくっている段階です。

高さ50センチの紙資料。生成AIを使っても「読み取れば終わり」ではない

ーー膨大な過去の情報は、具体的にどのようにデータへ移しているのでしょうか。

柳澤:
実際の構築は、伴走してくれている協働プロの横町さんたちと事務スタッフが中心です。私は今では横で話を聞くくらいで、スタッフが自ら質問し、使いやすい形へカスタマイズしてくれています。当社には、お客様や機械ごとに膨大な紙資料があり、日々の仕事と並行して整理する必要があります。

ーー横町さんによると、Excelのデータは形式を整えてkintoneへ取り込み、紙の情報はPDF化して生成AIで読み取る。さらに会社名を手がかりに公開情報を補い、精度を高める方法を検証しているそうですね。

柳澤:
そうですね。中でも難しいのは手書きの資料です。PDFにしてAIに読み取らせても精度が下がるため、内容を確かめ、足りない情報を補う必要があります。

資料をファイルごと積み上げると、高さが50センチほどになると聞いています。それだけの紙をPDFにするだけでも、事務スタッフにとって決して軽い負担ではありません。現時点では、どこまでデータ化できるのか、どの方法なら現実的に進められるのかを検証しているところです。

時間も工夫も必要です。ただ、横町さんが「できないことはない。面倒な部分こそ引き受けて、一緒に形にしていくことに意義がある」と向き合ってくれていることは、とても心強いですね。

社長一人の「どうしよう」が、社員の「やってみたい」へ

ーー本格運用はこれからですが、すでに組織には大きな変化が生まれているそうですね。

柳澤:
はい。中心になっているのは、若い事務員2名です。最初は私自身、「会社を巻き込むなんて、うちでは無理だろう」「誰も味方になってくれないのでは」と思っていました。

それが、横町さんが一度会社へ来てくれたことで変わりました。「会社は本当に変わろうとしている」「自分たちの事務作業も大きく変わるかもしれない」と、スタッフが実感できたのだと思います。それから、2人の姿勢が一気に前向きになりました。

今では打ち合わせで意見を積極的に伝え、チャットでも横町さんへ質問しています。自分たちでkintoneを触り、一部の仕組みをつくり始め、私がほとんど入らなくてもプロジェクトが進むようになりました。

ーー用意されたシステムを使うのではなく、自分たちで使いやすい形をつくっているのですね。

柳澤:
そうなんです。今回は、出来上がったひな型に仕事を当てはめるのではなく、スタッフが「ここはこうしたい」「色を変えてほしい」と細かなことまで伝え、今の仕事に合う形を一緒につくってもらっています。

最初から「それは無理です」「できません」と言われていたら、スタッフもそれ以上は要望を出さなかったと思います。少しずつでも、自分たちが望む形へ近づいていると分かるから、「どうせなら、ちゃんと使いやすいものをつくろう」という意識が高くなっているのではないでしょうか。

別の営業所で長く働く事務スタッフも、若い2人から教わりながら取り組みに加わり始めました。社員同士で教え合いながら進められていることも、うれしい変化です。

ーー奈良県の事業終了後も、協働日本との契約を継続されています。継続を決めた理由を教えてください。

柳澤:

奈良県の事業が終わった時点では、kintoneはまだ構築の途中で、紙の情報をデータへ移す作業もこれからでした。仕組みをつくるだけではなく、実際に使える状態にして、社内へ定着させるところまで進めなければ意味がありません。

もう一つ大きかったのが、事務スタッフの変化です。最初は私一人が悩んでいましたが、今ではスタッフから「あれもしたい」「これもしたい」と意見が出るようになりました。自分たちでkintoneを触り、仕事を変えようとしてくれています。

せっかく生まれた変化を、県事業の期間が終わったからといって止めたくありませんでした。ここから実際の成果につなげ、整備や営業の現場にも広げていくために、自費でも伴走を続けることを決めました。

答えを押しつけず、小さな要望から一緒に形にする

ーー伴走を担当する、協働日本の横町暢洋さんには、どのような印象を持っていますか。

柳澤:
横町さんは豊富な経験や知識を持ちながら、決して上から目線で話しません。「なるほど」と、まずはこちらの話や無理な要望も受け止めてくれます。機能の説明からではなく、私たちが何に困っているのかを聞くところから始めてくれるんです。

「ここの色を変えてほしい」という小さな要望にも対応し、専門的な説明についていけなくなりそうなときは、「それは今すぐ理解しなくても大丈夫」と整理してくれる。私たちのペースに合わせてもらえることが、とてもありがたいです。

ーー発表会で横町さんは、今回の伴走を「どうしよう」を「できるかも」へ変える取り組みだったと振り返っていました。

柳澤:
まさにそうだと思います。最初は私一人が焦り、どうしたらよいか分からずにいました。それが今は、スタッフから「あれもしたい」「これもしたい」と意見が出るようになっています。

課題がなくなったわけではありませんし、システムもまだ完成していません。それでも、社内に一緒に進める仲間がいると分かった。「何とかしなければいけないけれど、どうしよう」という状態から、「自分たちにもできるかもしれない」へ進めたことは、大きな変化だと思います。

2〜3時間の検索を20〜30分へ。生まれた時間を、人のために使う

ーーkintoneが本格的に運用されると、業務はどのように変わる見通しでしょうか。

柳澤:
これまでは、過去のお客様や機械について確認するために、事務スタッフが紙のファイルを一つずつ探していました。毎日の業務の中で、感覚的には合計2〜3時間ほどかかっていた作業が、kintoneで検索できるようになれば、20〜30分ほどまで短縮できるのではないかと見込んでいます。内容によって数時間かかっていた一件の検索も、数分で終えられる可能性があります。

担当者が不在でも修理履歴を確認できれば、若い営業や整備スタッフも過去の状態を見ながら対応できます。ただ、現時点ではまだ構築と検証の段階です。実際に使える状態にし、どれだけ時間を短縮できるのかを確かめていく必要があります。

ーー効率化によって生まれた時間を、どのように使っていきたいですか。

柳澤:
デジタルですべてを効率化し、人と関わらなくてよい会社にしたいわけではありません。むしろ、紙を探す時間が減った分、よりお客様との関わりを丁寧にしたり、顧客価値を高める取り組みに活かしていきたいと思います。

便利になるほど、人と話し合う機会が減ることもあります。情報を探す作業はデジタルで短くし、その分、お客様や社員と向き合う。そこまでできて、初めてこの取り組みに意味が生まれるのだと思います。

「うちのような中小企業が」から、「うちでもできる」へ

ーー外部のプロ人材と取り組むのは、今回が初めてだったそうですね。

柳澤:
はい、初めてです。以前は、「うちのような中小企業が、プロにデジタルの相談をするなんておこがましい」という気持ちがありました。セミナーで知識を得ても、私一人が会社へ帰って何ができるのだろう、とも思っていました。

今回、同じような中小企業が多く参加していたことで、「悩んでいるのは、うちだけではない」「うちでも取り組んでよいのだ」と思えました。そして、事務スタッフが課題を自分ごととして動いてくれたからこそ、変化につながったのだと思います。

事務所から整備・営業の現場へ。変化の兆しを会社全体に広げる

ーー最後に、今後の展望を聞かせてください。

柳澤:
まずは、今つくっている仕組みを実際に使える状態にし、社内へ定着させることです。そして、事務スタッフから始まった変化を、次は整備や営業の現場へ広げていきたいと考えています。

若い整備スタッフにも過去の修理履歴や顧客情報を活用してもらい、ベテラン社員の知識を受け継いでほしい。一方的に教わるだけではなく、一人ひとりが自分たちの仕事をより良くする方法を考え、提案できる会社にしていきたいです。

いま進めているデジタル化をきっかけに、「受け身」から「主体的に動く」組織へ変わっていく。その変化を会社全体へ広げ、お客様から「伊田重機に頼んでよかった」と言っていただける会社を目指したいと思います。

ーーこれからの協働日本へ、メッセージをお願いします。

柳澤:
協働日本には、これからも中小企業を盛り上げてほしいと思っています。地域の中小企業が元気になれば、日本全体も強くなっていくはずです。

私たちのような会社でも、社員と一緒にデジタル活用へ踏み出し、会社を変えていける。そのことが、同じように悩んでいる企業へ少しでも伝わればうれしいです。今回の経験が、誰かの「うちでもできるかもしれない」につながればと思っています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

柳澤:
ありがとうございました。


この記事の取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」です。

AI・デジタルに強い協働プロがコーチとして入り、社員の方が自分で使えるようになるまで伴走します。デジコーチは、日本全国の地域の中小企業様100社以上にご導入いただいています。製造業、食品、飲食、小売、工務店など、業種はさまざまです。
【デジコーチの】サービス内容を見る


柳澤 有希子/Yukiko Yanagisawa

株式会社伊田重機 代表取締役

大学では美術を専攻。服や着物が好きで、卒業後はアパレルメーカーに就職し、全国各地を飛び回る。
その後、株式会社伊田重機に入社。入社から27年を迎え、2019年に代表取締役に就任。
男性中心の建設機械業界で、自らの思いを伝え、社員一人ひとりの声にも耳を傾ける組織づくりを進めている。

協働日本事業については こちら

VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –

AI・デジタル活用STORY:株式会社サンロード 鈴木友広氏 システム導入を、組織変革の起点に。「全員参加」のデジタル経営へ

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

【記事サマリー】
奈良県橿原市で、食品工場向けの衛生キャップやフィルターを企画・開発・製造する株式会社サンロードが抱えていたのは、営業日報と顧客情報が分散し、展示会で得た700枚を超える名刺も手作業で入力しているという課題でした。協働プロとともに営業支援システムや名刺管理・メール配信の仕組みを整えたことで、顧客情報を横断的に確認し、潜在顧客への営業活動につなげられる環境を構築。新規売上も前年から10%を超えて伸びています。さらに、取り組みを担った鈴木友広さんは、2026年4月に新設されたDX推進室の室長に就任。変わったのは業務の進め方だけではありません。社員の中にも、デジタルを使って自ら仕事を変えていこうとする意識が芽生え、全社変革への土台が生まれ始めています。

この取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」による支援事例です。
デジコーチとは

今回は、食品工場向けの衛生キャップやフィルターを中心に、衛生対策製品の企画・開発・製造・販売を手がける株式会社サンロード DX推進室 室長の鈴木友広さんにお話を伺いました。

同社は奈良県橿原市に本社を構え、福島県いわき市、中国・青島市にも製造拠点を展開。食品への毛髪混入を防ぐ衛生キャップや、工場内へのほこり、虫、細菌、カビなどの侵入を抑えるフィルターを通じて、食品製造の現場を支えてきました。

2027年には50期を迎える同社が、次の成長に向けて掲げているのが、デジタルやAIを活用した業務と事業の変革です。その第一歩として取り組んだのが、営業情報の一元化と、展示会で生まれた顧客接点の活用でした。

しかし、システムを導入しただけで会社が変わるわけではありません。必要なのは、デジタルを使う人と、社内を動かしていく推進者の存在です。奈良県の「デジタル×経営実践」プログラムを通じて協働日本と出会い、総務部に所属しながらプロジェクトを担った鈴木さん。その後、社内に新設されたDX推進室の室長へ。協働を通じて、何が変わったのでしょうか。

営業支援システムや名刺管理の導入、その裏側で進んだ社員の意識変化、そして全社を巻き込むDXへの展望について、率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明)

食品工場の衛生環境を支える、ものづくり企業

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは、サンロードさんの沿革と現在の事業について教えてください。

鈴木友広氏(以下、鈴木):
はい、よろしくお願いします。

当社は1978年に創業し、食品工場などで使用される衛生用品の企画・開発・製造・販売を行っています。

主力製品は、食品工場で働く方が毛髪混入対策のために着用する衛生キャップと、工場内へのほこりや虫、細菌、カビなどの侵入を防ぐ衛生用フィルターです。この2つのカテゴリーが、売上の大半を占めています。奈良県橿原市に本社と工場があり、福島県いわき市にも国内工場を構えています。国内2拠点で働く従業員は約100名。海外では、中国の青島市にも製造拠点があります。

そのほか、一般のお客様向けのマスクや家庭用フィルターも展開しています。お客様が抱える衛生面の困りごとを的確に捉え、製品として形にしていくことが私たちの仕事です。

ーー食品工場の衛生環境を支える製品が、事業の中心なのですね。

鈴木:
そうですね。特に衛生キャップとフィルターが中心です。衛生キャップの中には、電荷を保持する特徴的な生地を使い、毛髪を吸着して落下を防ぐ製品もあります。フィルターについても、外気からのほこりや虫の侵入を防ぐものや、空調を通じて広がる細菌、カビなどを捕集するものを扱っています。

目立つ製品ではないかもしれませんが、食品工場のクリーンな環境を守るためには欠かせない製品です。

「中小企業だからこそ、取り組まなければ生き残れない」

ーー今回、協働日本と取り組むことになったきっかけを教えてください。

鈴木:
奈良県が実施していた「デジタル×経営実践」という支援事業がきっかけです。社長が事業のチラシを入手して持ち帰り、私に申し込むようにと声をかけていただいたところから始まりました。

社長は以前から、デジタルや生成AI、DXに力を入れていかなければならないという危機感を強く持っていました。大企業であれば、デジタルを専門に扱う部署があり、知見を持った人材もいると思います。一方で、中小企業では専門部署も人材も限られている。当社も生産現場を中心とした会社で、デジタルとはどちらかといえば縁遠い環境でした。

中小企業だからといって何もしなくてもよいとは、私も思えません。デジタルやAIを活用していかなければ、今後は生き残っていけない。その危機感が、経営側にも現場にもありました。

ーーそれまでも、デジタル化に向けた動きはあったのでしょうか。

鈴木:
セミナーに参加して情報を集めることはありました。ただ、具体的な実行まで進められていたわけではありませんでした。

生成AIを新商品開発に活用したい。社内に蓄積された情報やノウハウを整理したい。議事録作成のような日常業務も効率化したい。大きなものから小さなものまで、解決したい課題はいくつもありました。とはいえ、何から着手すればよいのか、どのような手段を選ぶべきなのかが分からない・・。そんな状況でした。

ーー課題は見えているものの、実行までの道筋を描けていなかったのですね。例えばシステム会社ではなく、協働日本のような伴走者を求めたのはなぜでしょうか。

鈴木:
システム会社に相談すると、どうしてもその会社が提供する商品を前提に話が進んでいきます。自分たちが必要なものを、十分に理解したうえで選ぶのであれば問題ありません。ただ、情報収集の段階では、提案された商品に引っ張られてしまうことがありますよね。

私たちが求めていたのは、特定の商品を売る立場ではなく、フラットな視点で課題を整理し、どのような手段が適切なのかを一緒に考えてくれる存在でした。

中小企業では、何を選べばよいのか、どの順番で取り組むべきなのかを判断する知識そのものが不足しています。ツール選定の前段階から相談できることに、協働日本との取り組みの価値を感じました。

ーー今回の協働プロジェクトには、どなたが参加されたのでしょうか。

鈴木:
昨年度のプロジェクトでは、協働プロの横町暢洋さんを中心に伴走していただき、一緒に先山毅さんにもサポートに入っていただきました。横町さんは、大企業でエンジニアやマネジメントを経験されている方です。私自身も前職がエンジニアだったため、考え方や話の進め方に共通する部分がありました。こちらの状況を理解していただきやすく、私にとっても話がかみ合いやすい方だったと思います。

奈良県の支援事業が終了した後も協働日本との取り組みを継続しており、今年度は横町暢洋さんと、新たに黄瀬真理さんに伴走していただいています。

ーー昨年度の横町さんたちとのプロジェクトでは、具体的にどのような課題から着手したのでしょうか。

鈴木:
一つ目は、営業日報と顧客情報の連携です。

営業日報と顧客情報をつなぎ、「探せるデータ」へ

ーー以前の営業日報は、どのように管理されていたのでしょうか。

鈴木:
以前から営業担当者は、Excelを使って日報を記入していました。ただ、日報は週ごとのファイルに分かれており、過去の情報を探すには、一つずつ開いて確認しなければなりません。

直近の出来事は把握できても、「1カ月前に、このお客様とどのような話をしていたか」を振り返るには時間がかかります。管理者にとっても、営業活動や商談の状況を横断的につかみにくい状態でした。

ーー日報は書かれているものの、蓄積された情報を十分に活用できていなかった、と。

鈴木:
その通りです。顧客情報や商談情報を別のデータベースへ入力してもらう方法もあります。しかし、それでは日報との二重入力になり、営業担当者の負担が増えてしまいます。管理者としては情報を整理してほしい。一方、現場に新しい入力作業を増やせば、拒絶反応が起きるかもしれない。そこが難しいところでした。

そこで、営業支援システムとしてkintoneを導入しました。一度情報を入力すれば、日報だけでなく、顧客情報や商談情報としても整理される仕組みです。

現在は、これまでバラバラだった顧客情報や接点情報を横断的に確認できるようになりました。必要な情報をすぐに検索でき、営業担当者同士の情報共有も以前よりスムーズになっています。

単に日報をデジタル化したのではありません。書き残していた情報を、次の営業活動に使えるデータへ変えていった形です。

ーー導入するシステム自体は、協働が始まる前から候補が決まっていたのでしょうか。

鈴木:
ある程度は決まっていました。導入をほぼ決めた段階と、横町さんとの伴走が始まった時期が重なったような形です。

そのため、横町さんには「何を導入するか」だけでなく、ベンダーとの話をどのように進めるのか、導入後にどう活用していくのか、社員にどう働きかければよいのかという部分を相談しました。システムを入れること自体は簡単にできます。ただ、使われなければ意味がありません。むしろ、導入後の方が大切ですよね。

700枚を超える名刺を「次の営業」につなげる

ーーもう一つの大きな課題が、展示会で得た顧客情報の活用だったと伺いました。

鈴木:
当社は年に2回ほど展示会へ出展しています。3日から4日間の展示会で、700枚を超える名刺をいただくこともあります。以前は、その名刺情報を営業担当者が一枚ずつExcelへ入力していました。その後、お礼のメールを個別に送っていたため、かなりの手間がかかります。連絡するまでに時間が空いてしまうこともありました。

そこで、名刺情報を取り込んで管理し、メール配信まで行える仕組みを導入しました。展示会後には、ご来場へのお礼や新製品の案内をまとめて配信しています。

ーー単なる名刺のデータ化ではなく、その後の営業活動までを仕組みにしたのですね。

鈴木:
そうですね。重要なのは、メールを一斉に送れるようになったことだけではありません。開封の有無や製品ページのクリックなど、お客様の反応も確認できるようになりました。

これまでは、お問い合わせがあった段階で初めて、お客様の関心が分かっていました。現在は、問い合わせに至る前の反応を捉え、関心を持っている可能性が高いお客様へ営業からアプローチできます。いわば、潜在顧客の可視化です。

名刺情報を登録するスピードは明らかに上がりました。営業担当者が個別に行っていたお礼や製品案内も仕組み化され、展示会で生まれた接点を継続的に育てる土台が整いつつあります。

ーー協働プロからは、具体的にどのようなアドバイスがあったのでしょうか。

鈴木:
ベンダーとの交渉や方向づけに加えて、社内の皆さんに使ってもらうための動機づけ、働きかけについてアドバイスをいただきました。メール配信についても、どのような内容を、どのくらいのタイミングや頻度で届ければよいのか。そうした運用面まで相談しています。

ツールの機能を知るだけでは、現場での使い方までは決まりません。自社の営業活動にどう組み込むかを一緒に考えていただけたことは大きかったですね。

新規売上は前年から10%超。事業の仕掛けとDXが重なった

ーー仕組みを整えたことで、事業面ではどのような手応えが生まれていますか。

鈴木:
もちろん、今回の施策だけによる成果とは言い切れませんが、ホームページや展示会を通じて接点を持ったお客様からの新規売上は、前年から10%を超えて伸びています。

メール配信を本格的に始めたのは今期に入ってからですので、それによってどれだけ顧客が増えたかという成果は、まだこれから確認していく段階です。ただ、展示会をきっかけに新しいお客様が増えている実感はあります。今後、半年、1年と続けていく中で、メールの開封率やクリック数、新規顧客の獲得件数なども見ていきたいと考えています。

ーー2026年6月には、「FOOMA JAPAN 2026」にも出展されています。展示会では、新しい商品にも力を入れたそうですね。

鈴木:
従来の衛生キャップやフィルターに加えて、食品工場の暑熱環境に対応するアイスベストを紹介しました。食品工場には、油を使う工程など、非常に温度が高くなる現場があります。そこで、体に接する側を冷却し、外側には熱が逃げにくい工夫を施した保冷剤入りのベストを出展しました。

熱中症対策への関心が高まっている時期でもあり、多くの方に注目していただけました。展示会後にも反響があり、注文につながっています。

ーー新商品を打ち出す動きと、展示会後の顧客フォローを改善する動きが、ちょうど重なったわけですね。

鈴木:
そうだと思います。毎回同じ製品を並べるだけでは、新しい注目は生まれません。事業側では新しい商品をつくり、営業側では展示会で得た接点を次につなげる。二つを組み合わせることで、より効果的な活動ができるようになります。

会社としての仕掛けとDXの取り組みが重なったことは、大きかったですね。

総務部からDX推進室へ。取り組みが生んだ新たな役割

ーー今回のプロジェクトを経て、2026年4月にはDX推進室が新設されました。鈴木さんが室長に就任された経緯を教えてください。

鈴木:
2026年3月までは総務部に所属し、人事、労務、経理などの業務を担当しながら、デジタル関連の取り組みも進めていました。

総務の仕事と並行していたため、デジタル化に十分な時間を使えていたわけではありません。片手間という言い方がよいかは分かりませんが、実際にはそのような状態でした。

一方で、社長の中では「もっと力を入れて進めなければならない」という思いが徐々に強くなっていきました。そして3月末、「DX推進室を立ち上げるので、デジタル、生成AI、DXに専念してほしい」と言われたのです。

ーーもともとDX推進室長になることを想定して、プロジェクトに参加していたわけではなかったのですよね。

鈴木:
はい、お恥ずかしながらまったく想定していませんでした。奈良県のプログラムへ参加したときは、総務部の立場で、まずは社内の課題をどうにかしたいという気持ちでした。

ただ、協働日本とのプロジェクトを通じて、実際にシステム導入や社内への働きかけを経験したことは、DX推進室の立ち上げにつながったのだと思います。社長も、その取り組みを見ていたのでしょう。会社として本格的に進めるなら、担当を明確にし、専任に近い形で動かす必要がある。そのような判断だったのだと思います。

ーーシステムが導入されたことに加え、社内にDXを進める役割そのものが生まれた。今回の協働を象徴する変化ですね。

鈴木:
そうですね。ただ、まだ立ち上がったばかりです。本当の意味では、これからだと思っています。

1.5人で始めたDX推進室。小さな成功を積み重ねる

ーー現在は、どのような体制でDXを推進していますか。

鈴木:
DX推進室には、営業や商品開発を担当してきた弊社の佐藤という社員が兼務で加わってくれています。私が1人、佐藤が0.5人。いわば1.5人の体制です。佐藤は、kintoneやメール配信の導入にも当初から関わっており、現在は運用や社内フォローを中心に進めてくれています。

もともとは商品開発を担当していましたが、今ではデジタル関連の仕事の割合がかなり増えています。私の右腕という立場ですね。

ーーDX推進室だけで課題を決めるのではなく、各部門からも意見を集めたそうですね。

鈴木:
はい。各部門のメンバーに、「デジタルを使って解決したいこと」を聞きました。

議事録作成の効率化といった身近な課題から、生成AIを活用した新商品開発まで、幅広い意見が出ています。課題の一覧化はすでに終えており、横町さんにも共有しました。これから優先順位を整理し、取り組むテーマを決めていきます。

ーーすべてを一度に進めるのではなく、優先順位をつけていくと。

鈴木:
そうです。大きな成果だけを目指しても、社員はなかなか変化を実感できません。まずは3カ月に一つ、小さくても目に見える成功事例をつくる。その成果を社内で共有し、次の取り組みにつなげていきたいと思っています。

できることを一つずつ増やし、社内に「デジタルを使えば仕事を変えられる」という実感を広げていく。そこが大切ではないでしょうか。

ツールを入れるのではなく、「使う理由」を共有する

ーー取り組みを始めた当初は、社員の皆さんがシステムを使ってくれるか、不安もあったそうですね。

鈴木:
はい、正直不安だらけでした。システムは、導入しただけではただの箱です。使う人が活用しなければ、何の意味もありません。

当社でも以前、販売システムや生産管理システムを入れ替えたことがありました。受注や売上処理など、業務上必要な機能は使います。ただ、蓄積されたデータを商品開発や顧客開拓に活用する意識までは、十分に広がりませんでした。

今回も、営業支援システムを入れること自体より、現場の皆さんに継続して使ってもらえるかどうかが大きな課題でした。

ーー実際に営業担当の方へ説明したときは、どのような反応でしたか。

鈴木:
それが、思っていたほどの拒絶反応はありませんでした。説明会を実施した際にも、「まずはチャレンジしてみよう」という雰囲気が感じられました。それは、少し安心したところです。

もちろん、全員が同じように活用できているわけではありません。担当者によって使い方にばらつきが出ないよう、今後もフォローが必要だとは感じています。

ただ、何人かの社員から「活用していこう」「自分たちの仕事を変えていこう」という前向きな反応が見られたことは、大きかったと思います。

ーー社員の意識が変わり始めた背景には、経営側からのメッセージもあったのでしょうか。

鈴木:
大前提、社長が繰り返し伝えてきたことが大きいと思います。

会社としては、社員の賃上げを進めていきたい。しかし、賃上げの原資を生み出すには、これまでと同じ仕事の進め方では難しい。業務を効率化して時間を生み出し、より付加価値の高い仕事へ振り向けなければならない、という話です。

朝礼や会議で繰り返し伝える中で、社員にも「会社が賃上げをするためには、自分たちも仕事の進め方を変えなければならない」という意識が少しずつ生まれてきました。

ーーDXを、単なる会社都合の効率化ではなく、自分たちの働き方や処遇にもつながる話として共有したのですね。

鈴木:
そうですね。付加価値の高い仕事をしていかなければ、会社の成長にも賃上げにもつながりません。そのためには、今までと違うやり方を取り入れる必要がある。

デジタル化が、経営側だけの掛け声ではなく、自分たちの働き方や会社の成長につながるテーマとして受け止められ始めた。それが、今回生まれた重要な変化だと思っています。

否定せず、一緒に進む。協働プロが支えた最初の一歩

ーー先ほど横町暢洋さんをご紹介いただきましたが、実際に伴走を受けて、どのような印象を持ちましたか。

鈴木:
横町さんは、大企業でエンジニアやマネジメントを経験されている方です。私も前職がエンジニアだったため、考え方や話の進め方に共通する部分があり、アドバイスを理解しやすかったですね。

システム会社との交渉の進め方、導入時に社員へどのように働きかけるか、メールをどの程度の頻度で配信すればよいか。技術面だけにとどまらず、運用やマネジメントの視点からも助言をいただきました。

ーー技術だけではなく、人や組織をどう動かすかという部分まで支援してもらえたのですね。

鈴木:
そこは大きかったと思います。印象に残っているのは、私たちの取り組みを肯定的に見てくださったことです。自分たちの取り組みが、他社と比べてどの程度進んでいるのか。私たち自身には分かりませんでした。

そうした中で横町さんは、良いところを見つけ、評価しながら次の一歩を示してくださいました。否定的なことを言う方ではありませんし、こちらの状況を受け止めたうえで話してくれます。豊富な知見を持ちながら、同じ目線で伴走してくれる、ありがたい存在でした。

県の支援終了後も、自費で協働を継続

ーー奈良県のプログラム終了後も、自費で協働日本との取り組みを継続されています。継続を決めた理由を教えてください。

鈴木:
昨年度の伴走期間は、実質的には3カ月程度の期間でした。限られた期間でも多くのアドバイスをいただきましたが、本当に成果につなげるには、もう少し長い時間が必要だと感じました。

システムは導入して終わりではありません。実際に使い、成果を確認し、改善を重ね、社内に定着させる。そこまで進めて、ようやく意味が生まれます。

そのため今年度は、自費で協働日本との取り組みを継続し、7月2日に新たなキックオフを行いました。今年度は、横町暢洋さんと黄瀬真理さんに伴走していただいています。

ーー短期のシステム導入支援から、継続的な経営変革の取り組みへ進んだわけですね。

鈴木:
そうですね。長期的には、生成AIを活用した商品開発や、社内ノウハウの継承にも取り組みたいと考えています。

ただし、大きな構想だけを掲げても、社内に定着するとは限りません。まずは3カ月ごとに一つ、小さくても具体的な成功事例をつくる。その成果を社内で共有し、次の取り組みへつなげていく方針です。

短期的な変化と、長期的な成果。その両方を積み重ねながら、デジタル経営を前へ進めていきたいと思っています。

中小企業にこそ、外部プロ人材の力が必要

ーー今回のように、外部のプロ人材とデジタル領域で取り組むのは初めてだったのでしょうか。

鈴木:
デジタルに関しては初めてでした。これまでは、システムを入れるとなれば、複数の会社から説明を受けて選定し、その会社と進める形が中心でした。勉強会や専門家から助言を受けた経験はありますが、フラットな立場から伴走してもらい、デジタル施策を一緒に考える経験はありませんでした。

今回、特定の商品を売る立場ではないプロ人材からアドバイスを受けられたことは、とても有意義だったと思います。

ーー今後、このようなプロ人材との協働は、中小企業の間でも広がっていくと思いますか。

鈴木:
これは、広がっていくと思います。

大企業であれば、専門部署や人材、知識、予算を社内に持っています。しかし、中小企業では、そのすべてが不足していることも珍しくありません。取り組むテーマや導入するシステムが明確に決まっていれば、専門の会社へ依頼できます。難しいのは、その手前です。

何をすべきなのか。どの方法が自社に合っているのか。どの順番で進めればよいのか。そうした判断を、中小企業だけで行うのは簡単ではありません。

中小企業が自社だけでは持てない知見を取り入れ、より適切な判断をしていく。そのために、プロ人材との協働は大きな力になるはずだと感じています。

デジタルを、開発・製造・販売の成長につなげていく

ーーここまでのお話を伺うと、サンロードさんのDXは、まさに始まったばかりなのですね。今後はどのような会社を目指していきたいですか。

鈴木:
当社はこれから、開発、製造、販売など、さまざまな領域でデジタルやAIを活用していきたいと考えています。目指しているのは、単なる業務効率化ではありません。効率化によって生まれた時間を、付加価値の高い仕事や、新しい商品・顧客の創出へ振り向けることです。

2027年度からは50期を迎えます。中期計画では、50期の販売目標として、48期比20%増を掲げています。この目標を実現するためにも、拡販活動に使える時間を増やし、顧客情報を活用しながら、新しい受注につなげていかなければなりません。

ーーそのためにも、一部の担当者だけでなく、全社で取り組むことが重要になりそうですね。

鈴木:
そう思います。一部の担当者だけで進めるのではなく、「やってみる」というチャレンジ精神を持ち、社員みんなで継続して取り組んでいきたいです。

情報を入力することが目的ではありません。システムを導入することも、デジタルという言葉を掲げることも、あくまで手段です。目的は、受注を増やし、会社を成長させ、働く皆さんへ還元していくこと。

その目的を見失わず、デジタルを有意義な手段として活用していきたいと思っています。

ーー最後に、協働日本へのメッセージをお願いします。

鈴木:
はい。中小企業には、社内だけでは解決できない課題が数多くあります。だからこそ、さまざまな専門性を持つ方々の力を借りながら、一つずつ前へ進んでいきたいと思っています。

協働日本には、伴走支援を受けた企業同士が継続してつながれる場もつくっていただけると伺っています。今回の出会いを一度きりにせず、これからも長く支援していただけることを期待しています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

鈴木:
ありがとうございました。

 

この記事の取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」です。

AI・デジタルに強い協働プロがコーチとして入り、社員の方が自分で使えるようになるまで伴走します。デジコーチは、日本全国の地域の中小企業様100社以上にご導入いただいています。製造業、食品、飲食、小売、工務店など、業種はさまざまです。
【デジコーチの】サービス内容を見る


鈴木 友広/Tomohiro Suzuki

株式会社サンロード DX推進室 室長

1966年生まれ。
電機メーカーのエンジニアを経て、2015年に株式会社サンロードに入社。
製造部、総務部を経験し、2026年4月より新設のDX推進室室長。

協働日本事業については こちら

VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –

AI・デジタル活用STORY:株式会社C’s 尾野貴昭氏 現場直結の受注アプリ開発で売上150%。名入れギフト工房が実践した、“小さくても強い会社”を支えるデジタル化

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

【記事サマリー】
奈良県香芝市で名入れ・オリジナルガラス製品を手がける株式会社C’sが抱えていたのは、EC受注の増加に伴い、注文書処理が属人的かつ煩雑になっているという課題でした。名入れギフトならではの細かな注文情報を、事務担当が蛍光ペンや手書きメモで補いながら制作・出荷へつなぐ日々。協働プロとともに現場の業務フローを見直し、事務・制作・出荷それぞれが必要な情報を一目で確認できる帳票と発注管理アプリを整備したことで、事務処理時間は2時間から45分へ短縮されました。変わったのは作業時間だけではありません。空いた時間を顧客管理やEC改善、新たな商品開発に振り向けることで、“小さくても強い会社”を目指すための成長余地が広がり始めています。

この取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」による支援事例です。

デジコーチとは

今回は、名入れ・オリジナルガラス製品の制作・販売を手がける株式会社C’s 代表の尾野貴昭氏にお話を伺いました。

同社は、奈良県香芝市で「ガラス彫刻工房ONO」を運営し、記念日ギフトやウェディングギフト、送別・還暦祝いなど、人生の節目に寄り添う商品を届けてきました。近年では、プロ野球球団や人気アニメ・ゲーム作品との公式コラボグッズ、WBC公式グッズなども手がけ、少人数ながら全国に届くものづくりを続けています。

一方で、事業が広がるほどに、現場では名入れ商品ならではの複雑な受注業務が大きな負荷になっていました。商品名、色、彫刻する名前、メッセージ、記念日、包装、掛け紙、シール、配送情報。お客様ごとに異なる情報を正しく読み取り、制作・出荷へつなぐために、蛍光ペンや手書きメモに頼った運用が続いていたのです。

協働日本との取り組みで目指したのは、単にデジタルツールを入れることではありません。現場を見て、働く人の声を聞き、事務・制作・出荷それぞれに必要な情報を整理し、誰が見てもわかり、迷わず確認できる帳票と業務フローをつくることでした。

「AIだけでは、ここまで自社に合う仕組みにはならなかった」と尾野氏は語ります。その言葉には、現場に入り込み、対話を重ねながら、会社ごとの事情に合わせて一緒につくっていく“伴走”への実感が込められていました。

なぜ協働日本と取り組むことを決めたのか。現場にはどのような変化が生まれたのか。そして、これからどのような会社を目指していくのか。尾野氏に率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明)

名入れガラスギフトから公式コラボグッズまで。社員の「好き」を力に変える工房

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、株式会社C’sさんの沿革と現在の事業について教えてください。

尾野貴昭氏(以下、尾野):
よろしくお願いします。私たちは奈良県香芝市で、名入れやオリジナルのガラス製品を制作・販売している会社です。2012年7月に「ガラス彫刻工房ONO」として創業し、2017年3月に株式会社C’sを設立しました。

もともとは個人事業主として始めたのですが、転機になったのは阪神タイガースさんとのお仕事でした。阪神タイガースの承認グッズを扱うにあたって、個人事業主では取引が難しかったため、会社化することになりました。2017年5月から阪神タイガース承認グッズの販売を開始しています。

現在は、店舗、自社EC、楽天、Yahoo!、au PAYなどで販売しており、記念日やウェディング、送別、還暦祝いなどのギフト商品を中心に展開しています。加えて、プロ野球球団やアニメ、ゲーム作品とのコラボグッズ、WBC公式グッズ、豊臣兄弟の公式グッズなども制作してきました。

ーー公式グッズやコラボ商品も幅広く手がけていらっしゃいますね。

尾野:

そうですね。これまでに、ゲームやアニメなどの人気コンテンツとのコラボ商品の制作や、公式ライセンスグッズの企画・製造を数多く手がけてきました。信楽焼フリーカップや珪藻土コースターをはじめ、記念グッズなど幅広い商品を展開してきました。

こうした仕事は、私がすべて企画しているというより、社員からの発案で始まることも多いんです。私は、社員が「やりたい」と言ったことは、できるだけやらせてあげたいと思っています。

たとえば、ある作品が好きな社員が「こういうグッズをつくりたい」と提案してくる。その人は作品への知識も深いし、何よりモチベーションが高い。私は技術的に作れるかどうかを判断しますが、作品の中身やファンが喜ぶポイントは、好きな社員の方が詳しいんです。

ーー社員の「好き」や「詳しさ」が、商品企画の力になっているのですね。

尾野:
そう思います。発案した本人がやる気を持って進めるので、いい商品になりやすいんです。自分が好きなコンテンツを選んで、仕事を取ってきて、売上をつくる。成果が出れば評価にもつながる。そういう職場にしたいと思っています。

うちはパートさんも多く、スタッフは11名ほどです。子育て中の方も多く、午前中だけ働く方、午後から入る方、学校行事や家庭の事情で働き方が変わる方もいます。だからこそ、誰か一人にしかわからない仕事を減らし、引き継ぎしやすい仕組みにすることが大事だと感じていました。

“わかる人が見ればわかる注文書”に、成長の限界を感じていた

ーー今回、協働日本と一緒に取り組むことを決めたきっかけを教えてください。

尾野:
一番大きかったのは、事務の業務効率化に課題を感じていたことです。

私はもともと技術屋なので、制作現場には口を出せます。作り方や品質については、自分でも改善案を出せるんです。でも、事務作業になると、「効率が悪い」「見にくい」とは言えても、ではどうすればいいのかという具体的な答えが自分の中にありませんでした。

制作現場には自分の経験や勘で踏み込める。一方で、受注処理や帳票の整理、事務から制作・出荷への情報の渡し方となると、自分だけでは最適な形が見えていなかったんです。そこは、ずっと気になっていました。

ーー奈良県の事業がきっかけだったとも伺っています。

尾野:
はい。協働日本さんが受託した奈良県の事業について、様々な方からお声をかけていただいたことがきっかけです。実は、金融機関や商工団体などから複数お声がけをいただいていました。ただ、当時は忙しさもあり、最初の2件ほどはお断りしていたんです。

でも、締め切りの1週間ほど前に、もう一度声をかけてもらいました。そのときに、「これはやれということなのかな」と思いました。ちょうど、事務の業務効率化をどうにかしないといけないという思いがありましたし、タイミング的にも参加できそうな見通しが立った。そこで、応募することにしました。

ーー最初の相談では、どのような課題を伝えられたのでしょうか。

尾野:
かなり赤裸々に、「うちは今こういう現状で困っています」と話しました。実際に工房にも来てもらって、当時使っていた受注書を見てもらいました。

当時の注文書は、わかっている人が見ればわかる資料でした。でも、新人が入ると一から教えなければいけない。制作担当、出荷担当、事務担当が、それぞれ必要な情報を探しながら仕事をしている状態でした。

たとえば、制作担当が必要なのは「何色の商品に、何を彫るのか」という情報です。出荷担当が必要なのは「誰に、いつ、どの包装で送るのか」という情報です。でも、その情報が住所や配送情報、注文者情報、名入れ内容などと一緒に、細かい文字で一枚の注文書に詰め込まれていました。

だから、事務担当が蛍光ペンで線を引き、手書きメモを加えて、制作や出荷へ回していたんです。これでは、慣れている人はできても、新人や別の担当者にはわかりにくい。誰が見てもわかる資料にしたい、ということを伝えました。

ーーその時点で、協働日本との取り組みに手応えはありましたか。

尾野:
ありました。最初に話したときから、こちらの課題を理解する力が高いと感じました。

こちらが「こういうことで困っています」と話すと、その場で「それなら、こう整理できそうですね」「こういう形なら対応できるかもしれません」と、具体的な方向性を返してくれるんです。単に話を聞いて終わりではなく、目の前で一緒に解きほぐしてくれる感覚がありました。

だから、これは期待できるなと思いました。こちらが抱えている違和感を、すぐに構造化してくれる。しかも、評論ではなく、実際にどう直すかという視点で考えてくれる。そのスピードと解像度は、とても印象に残っています。

蛍光ペンと手書きメモに頼っていた受注処理を、誰でも使える帳票へ

ーー協働日本とのプロジェクトでは、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

尾野:
一番大きいのは、受注票の改善です。

これまでの仕組みでは、ECから出てくる注文書に文字がずらっと並んでいました。住所、配送情報、商品情報、名入れ内容、メッセージ、包装、シール、掛け紙など、すべての情報が一枚の中に入っている。

でも、制作担当が必要なのは「何色のコップに、何を彫るのか」という情報です。出荷担当が必要なのは「誰に、いつ、どの包装で送るのか」という情報です。事務担当が必要な情報もまた違います。

それを当時は、事務担当が蛍光ペンで重要なところにマーカーを引いたり、手書きメモを加えたりしていました。たとえば、同じコップでも色が違うので、「黒色のコップに、このデザインを彫る」といった情報を探さなければいけない。マーカーが引かれていなかったり、見落としたりすると、ミスにつながるわけです。

ーーまさに、現場の経験に支えられた運用だったのですね。

尾野:
そうですね。職人芸のようになっていました。でも、それでは新人が入ったときに大変ですし、パートさん同士の引き継ぎも難しくなります。

そこで、事務が見やすい注文書、制作が見やすい作業指示書、出荷が見やすい作業指示書をつくることにしました。ただし、紙の枚数は増やしたくなかった。現場で回していくものなので、A4一枚の中で、それぞれが「ここを見れば必要な情報がわかる」という状態にしたかったんです。

ーー既存のEC向けサービスでは対応できなかったのでしょうか。

尾野:
EC用のサービスは世の中にたくさんあります。でも、うちに合うものがなかなかありませんでした。

理由は、うちの商品がほぼすべてオーダーだからです。名入れ商品なので、商品を選ぶだけでは終わりません。名前、メッセージ、誕生日、記念日、場合によっては赤ちゃんの身長や体重、包装、掛け紙、シール、紙袋など、注文時に確認すべき項目がものすごく多いんです。

普通のECであれば、「買いますか、買いませんか」「色は何色ですか」くらいかもしれません。でも、うちは一つの商品に対して、何を彫るのか、どんな用途なのか、どのように包装するのかまで確認する必要があります。既存のシステムでは、その複雑さをうまく吸収できませんでした。

ーーそこで、独自アプリの開発に取り組んだのですね。

尾野:
はい。協働日本の協働プロである横町さん、渡辺さんと一緒に、PCで動かすアプリを作成してもらいました。CSVで出した注文情報をもとに、現場が見やすい形の帳票を生成する仕組みです。

もちろん、最初から完成形だったわけではありません。3、4回は修正してもらいました。注文内容によって改行がうまくいかなかったり、文字の大きさが同じで見にくかったり、タイトルをもっと明確にした方がよかったり。実際に使いながら細かく調整していきました。

制作現場では「色」が重要です。何色の商品に、何を彫るのか。それがパッと見てわからないといけません。だから、「色」「名入れ内容」「配送情報」など、項目の見出しや表示の仕方にもこだわりました。

現場を見たからこそ、発注管理アプリの解像度が上がった

ーー協働プロの皆さんが現場を視察したことも、プロジェクトに影響しましたか。

尾野:
大きかったと思います。横町さんには実際に現場へ来てもらい、日常のオペレーションを見てもらいました。

事務担当が注文書に線を引いて、それが制作に回り、最後に出荷へ回っていく。出荷担当はその紙を見ながら、どのシールを選ぶのか、どの掛け紙を使うのかを判断している。そうした実際の流れを見てもらいました。

うちには60代の出荷担当もいます。細かい字を読みながら、マーカーで引かれた情報を探すのは、それだけで大変です。現場でどのように紙を見ているのか、制作担当が水や砂を使いながら作業している中でどう指示書を見るのか。そこは、言葉だけでは伝わらなかったと思います。

ーー現場を見たことで、帳票の設計も変わったのでしょうか。

尾野:
変わったと思います。たとえば、制作担当は机に座ってじっくり読むわけではありません。動きながら、水を使いながら、砂で彫りながら紙を見るんです。そうなると、小さい文字で細かく書かれていても見落としてしまいます。

でも、お客様にとっては「見落としました」は言い訳になりません。だから、一目で何をすればいいかわかることが重要です。

横町さんが現場を見てくれたことで、「これはもっと文字を大きくした方がいい」「この順番で情報を出した方がいい」といった解像度が上がったと思います。単なる発注管理アプリではなく、うちの現場に合ったものになっていきました。

ーー現場の皆さんも、改善に向けて前向きに関わっていたのでしょうか。

尾野:
そうですね。もともと現場では、「これは見にくい」「この作業は大変だ」という実感がありました。だからこそ、改善に向けた熱量はありました。

ただ、日々の業務に追われていると、困っていることがあっても、それを仕組みに落とし込むところまではなかなか進みません。今回、横町さんや渡辺さんが入ってくれたことで、現場の困りごとを一つひとつ拾い上げて、「では、帳票上ではどう見せるか」「どの情報を強調するか」「誰がどのタイミングで確認するか」という話に変えていけたんです。

現場の声と、協働プロの整理する力がかみ合ったことが大きかったと思います。こちらとしても、ただ作ってもらうというより、一緒に直していく感覚がありました。

事務処理は2時間から45分へ。空いた時間が、売上をつくる仕事に変わっていく

ーー協働日本との取り組みを通じて、事業にはどのような変化が生まれましたか。

尾野:
一番はスピードです。事務処理のスピードが上がりましたし、色の間違いや出荷時のシール間違いも減りました。

以前は、事務担当が色を書き忘れたり、マーカーが引かれていなかったりすると、制作側や出荷側で見落としが起きる可能性がありました。今は、必要な情報が明確に表示されるので、確認しやすくなっています。

成果としてわかりやすいのは、事務処理時間です。以前は30件ほどの注文処理に約2時間かかっていましたが、導入後は45分ほどに短縮されました。毎日20〜30件の注文が入るので、この差は大きいです。週にすると5時間以上の削減になります。

ーー事務方以外にも効果はありましたか。

尾野:
あります。制作チームへの効果も大きいです。制作は私以外に3名いますが、たぶん一番メリットを感じているのは制作担当かもしれません。

以前は、マーカーが引かれた注文書の中から、何色の商品に何を彫るのかを探していました。今は、必要な情報が明確に書かれているので、確認が早くなっています。制作の効率も上がっていますし、ダブルチェックにかかる時間も減っていると思います。

出荷も同じです。シールや帯、掛け紙などの情報が明確に書かれているので、出荷作業も早くなっています。事務だけで1時間以上短縮できていますが、制作や出荷まで含めれば、1日あたり2〜3時間くらいの削減効果が出ている可能性もあると思います。

ーー空いた時間は、どのように活用されているのでしょうか。

尾野:
もともと、今回の相談では「業務改善をするか」「ECの売上を伸ばす相談をするか」で迷っていました。ただ、ECの売上を伸ばしても、バックヤードがうまく回らなければ意味がありません。だから、まずは業務改善を優先しました。

結果的に、業務が効率化されたことで、ECページの改善や顧客管理に時間を使えるようになってきました。以前は、注文を処理して発送したら、それで終わりになっていた部分もありました。でも本当は、これまで購入してくださったお客様のデータを活用して、リピーター施策やメルマガなどにも取り組めるはずです。

今は、空いた時間で顧客管理を徹底できるようになってきています。過去の注文書や完成品写真を探しやすくすることも、クレーム対応やリピート対応に役立ちます。

ーー売上面でも変化が出始めているのでしょうか。

尾野:
今年1月から5月まで、楽天の売上は前年をすべて上回っています。多い月では前年比150%くらいまで伸びました。5月は前年が約108万円だったのに対して、今年は約168万円まで伸びています。

これは、単に帳票を変えたから売上が上がったというより、業務時間が空いたことで、売上をつくる仕事に時間を使えるようになったことが大きいと思います。

うちでは、事務の中でも店長や主任には「売上をつくる仕事をしてください」と伝えています。その他の方には「売れたものの対応をしてください」と役割を分けています。業務改善によって時間が生まれると、売上づくりや新しい商品開発、新規開拓にも取り組めるようになるんです。

パートさんにも長く、喜んで働いてほしい。業務改善は“働きがい”にもつながる

ーー社員やパートの皆さんは、今回の変化をどのように受け止めていますか。

尾野:
見やすくなったことについては、みんな高評価だと思います。ミスが減れば、余計な残業も減ります。確認作業が減ることで、精神的な負担も軽くなります。

私は、パートさんにも喜んで働いてほしいし、長く働いてほしいと思っています。そのためには、頑張ったことがきちんと評価される仕組みも大事です。実際に一部のスタッフには歩合給もつけています。自分が頑張って売上が上がれば、自分の給料も増える。そうなれば、もっと前向きに働けると思うんです。

ーー「自分の好きなことを仕事にする」という考え方ともつながりますね。

尾野:
そうですね。自分が好きなコンテンツを選んで、仕事を取ってきて、売上をつくる。売れたら評価される。これは働く側にとっても、会社にとってもいい形だと思います。

今回の業務改善は、単に時間を短縮するだけではありません。空いた時間で、新しいことに挑戦できる。社員やパートさんが、自分のやりたい仕事を実現できる可能性が広がる。そこにも意味があると思っています。

「AIだけでは、ここまで自社に合うものにはならなかった」

ーー協働プロ、協働サポーターの印象について教えてください。

尾野:
横町さん、渡辺さんには本当にお世話になりました。お二人とも協働日本の協働プロとして関わってくださったのですが、印象としては、こちらの課題を理解し、解決に向けて具体化していく力が非常に高い方々だと感じました。

毎回、「そこまで考えてくれるのか」と思う場面がありました。こちらがうまく言葉にできていない困りごとに対しても、現場の状況を踏まえながら、「それなら、ここを変えるとよさそうですね」と形にしてくれる。まさに、痒いところに手が届くような関わり方でした。

ーーなるほど。尾野さんをはじめ現場の皆さんの課題に寄り添った提案を行うことができたのですね。

尾野:
はい。これまでには、銀行さんや商工会さんからの紹介で、専門家派遣を利用したことがありました。ECのアドバイザーや、会社全体のコンサルタントのような方に来てもらったこともあります。

もちろん、それぞれ学びはありました。ただ、今回の協働日本との取り組みは、より実務に直結していました。こちらの悩みを聞いて、現場を見て、実際に手を動かしながら解決策に落とし込んでくれる。そこが大きく違いました。

今までの専門家派遣で得られる答えは、今の時代ならAIでもある程度出せるかもしれません。でも、今回協働日本さんと取り組んだことは、自分たちがAIを使っても無理だったと思います。

AIだけで作れば、一般的に見やすい資料にはなるかもしれません。でも、うちの店のこと、現場の動き、制作担当が水や砂を使いながら紙を見ること、出荷担当がどの情報を探しているのか。そこまで深く理解した上で、今のようなフォーマットを出すことはできなかったはずです。

現場を見て、対話して、何度も修正してくれたから、うちに合うものになりました。そこが一番大きいと思います。

経営者はもっと頼っていい。問題が改善することを知らない人が多すぎる

ーーこうしたプロ人材との取り組みは、今後広がっていくと思われますか。

尾野:
広がっていくかどうかは、正直わかりません。ただ、それは協働日本さん側の問題ではなく、経営者側の問題だと思っています。

周りを見ていると、外部をうまく活かすことで問題が改善することを知らない経営者が多すぎると感じます。銀行さんと話していても、周りでいい話をあまり聞かないという声は多い。でも、そういう状況でも、こうした支援を活用しない人がたくさんいる。

今回協働してみて、費用対効果の高さに驚きました。実際、これだけ自社に合わせた仕組みをつくろうと思えば、普通に依頼したら数百万円、場合によってはもっとかかると思います。それくらいの価値がありました。

ーー身近な経営者にもおすすめしたいと思いますか。

尾野:
おすすめしたい人はたくさんいます。地元の経営者や後輩にも、「よかったで」と伝えたいです。

特に、自社に合った仕組みをつくりたい人には合うと思います。参加すれば、いろいろなものが解決する可能性がある。もちろん、経営者自身が課題を出して、向き合う必要はあります。でも、本気で変えたいと思っている会社には、すごくいいと思います。

ーー今回、他の経営者とリアルに集まる機会もあったそうですね。

尾野:
はい。それもよかったです。同じ経営者同士で集まると、お互いの悩みを共有できます。きれいな話だけではなく、悪いところも言えるし、「実はこんな実態だった」と話せる。そういう場があること自体も、価値がありました。

自分たちだけが苦労しているわけではないとわかることもありますし、他社の悩みを聞くことで、自社の課題も見えやすくなる。伴走支援そのものに加えて、経営者同士で率直に話せる場があったことも、今回参加してよかった点の一つです。

「奈良県で、ギフトと言えばガラス彫刻工房ONO」と言われる会社へ

ーー今後、今回の取り組みをどのように広げていきたいですか。

尾野:
まずは、楽天以外の他モールにも対応していく必要があります。今回の仕組みは楽天をベースに進めてきた部分があるので、Yahoo!やau PAYなど、他モールの管理も強化していきたいです。

また、新商品が出たときにはリストの更新も必要になります。現状では、新人が簡単に更新できる状態ではない部分もあるので、そこも改善していきたいです。

今回の取り組みで得られた成果をさらに広げるために、SKU別の管理強化や、制作部・出荷部との連携強化も進めていきます。現場の声を大切にしながら、誰でも使える仕組みづくりを追求していきたいです。

ーー会社としての目標についても教えてください。

尾野:
私たちは「小さくても強い会社」を目指しています。大きな会社になることだけが目標ではありません。少人数でも、強みを持って、いい商品をつくり、お客様に選ばれる会社でありたい。

まずは奈良県で、「ギフトと言えばガラス彫刻工房ONO」と言われる会社をつくりたいです。そのためにも、現場が無理なく回る仕組みを整え、売上を伸ばす仕事に時間を使える状態をつくっていきたいと思っています。

取り組み成果発表の様子

経営者が明るくなれば、日本も明るくなる

ーー最後に、協働日本へのメッセージをお願いします。

尾野:

経営者が頑張って、会社が元気になれば、経済が回ります。経営者が明るくなれば、日本も明るくなると思うんです。

もちろん、広がっていくためには、経営者にちゃんと刺さる伝え方も大事だと思います。今回のように、C’sくらいの規模の会社に対しても、ここまで徹底的に伴走してくれる。その価値がもっと伝われば、協働日本の取り組みはもっと広がっていくと思います。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

尾野:
ありがとうございました。

この記事の取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」です。

AI・デジタルに強い協働プロがコーチとして入り、社員の方が自分で使えるようになるまで伴走します。デジコーチは、日本全国の地域の中小企業様100社以上にご導入いただいています。製造業、食品、飲食、小売、工務店など、業種はさまざまです。

【デジコーチの】サービス内容を見る


尾野 貴昭/Takaaki Ono

株式会社C’s(ガラス彫刻工房ONO) 代表取締役

奈良県香芝市を拠点に、オーダーメイドのガラス彫刻や記念品制作を手掛ける「ガラス彫刻工房ONO」を運営。2012年に創業し、2017年に株式会社C’sを設立。サンドブラスト技法やUV印刷技術を活用したオリジナルギフトの企画・製造・販売を行っている。

大学卒業後は自動車業界に従事。その後、営業職を経験するなかで「ものづくり」への想いを再確認し、ガラス彫刻の世界へ転身。お客様の想いを形にする一点物の作品づくりを信条としている。

阪神タイガース承認グッズをはじめ、プロ野球チームやプロスポーツクラブの記念グッズ制作、企業向けオーダーメイド製品など幅広い実績を持つ。また、独自のガラス印刷技術で実用新案を取得し、東京ギフトショーへの出展などを通じて地域発ブランドの発信にも力を注いでいる。

経営理念は「お客様の想いを形に変え、感動を届けること」。地域イベントへの参加や社会貢献活動にも積極的に取り組み、奈良県香芝市の活性化にも尽力している。

協働日本事業については こちら

VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –

AI・デジタル活用STORY:株式会社サカナカケル(取材当時:株式会社イズミダ) 出水田一生氏 -若手社員が経営視点を獲得。未経験から会社の中核人材へ-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社イズミダ 常務取締役の出水田 一生氏にお越しいただきました。
株式会社イズミダは創業50年の鮮魚の卸売・小売・水産加工の会社です。元々は創業者である出水田氏のお祖父様が自転車の荷台に魚を積み、売って回ったことが始まりでBtoB向けの卸売がメインの事業だったそうです。

10年前に出水田氏が3代目として戻られてからは、加工品のEC販売や飲食店、体験・教育、対面販売のBtoC向けの魚屋など『新しい魚屋の形を作る』ためさまざまな事業を展開しています。

創業者の「魚の本当の美味しさを知ってもらい、皆様に喜んでいただきたい」という想いを受け継ぎ、大きく変化を遂げようとする株式会社イズミダ。その中でも今回は鮮魚店が併設する食堂である「出水田食堂」のプロジェクトに協働プロが伴走しました。

インタビューを通じて、協働プロジェクトに取り組みはじめたことで生まれた変化や得られた学び、これからの期待や想いについて語って頂きました。

【本事例のまとめ】

本社と店舗の物理的な距離があることで生まれた現場スタッフとの認識のすれ違い、そして売上の停滞。鹿児島県鹿屋市の鮮魚会社・株式会社イズミダが抱えていた課題は一筋縄では解決できないものでした。

協働プロチームの伴走を通じて、業界未経験の女性スタッフ2名がAIを活用し時間を創出。時間が創出できたことで、自ら施策を考え動くようになりました。その結果として年末受注では前年比1,000%超、恵方巻きでは140本超の売上を達成。数字だけでなく、現場を動かすスタッフの姿勢にも大きな変化が表れました。

この取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」による支援事例です。

デジコーチとは

(取材・文=郡司弘明)

協働日本 令和5年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子も合わせてぜひご覧ください。

新しい魚屋の形を作る──新しい挑戦の中で表面化した課題に伴走支援を。

ーー本日はよろしくお願いいたします。はじめに、協働を決めたきっかけを教えていただけますか?

出水田 一生氏(以下、出水田):はい、よろしくお願いいたします。

鹿屋市の前副市長の鈴木健太さんからの紹介がきっかけで、協働日本代表の村松さんにお会いしたのが始まりでした。伴走支援という形での複業人材の活用の話や、鹿児島県の「新産業創出ネットワーク事業」についてお聞きして、ぜひ一緒に取り組みをさせていただきたいと思いました。


「新産業創出ネットワーク事業」は昨年度も実施されていたということで、株式会社ネバーランドさんの加世堂さんなど、以前から知っていた方が参画されていたということもあり、協働の事例を聞いて一気に親近感が沸きましたね。

昨年の取り組みなど村松さんにお話を聞いた後すぐに、今年度(令和5年度)の県の事業への参加事業者の募集があったため、チャンスだと思いすぐに申請書を書いて提出しました。

ーーすぐに協働を決めてくださったんですね。今回の協働では、数あるイズミダの事業の中でも「出水田食堂」のプロジェクトについて伴走させていただきましたが、テーマについても申し込みの時点ですでに決めていらっしゃったのでしょうか?

出水田:最初は、当時頭の中にあった別の課題を解決したいと考えて申請書を出していました。最初のセッションでその課題について深掘りして考えていく中で、それよりももっと、解決していくべき点があると気づいたんです。それが、鮮魚店併設型の食堂である「出水田食堂」の運営についてでした。

弊社、株式会社イズミダは鹿屋市で創業50年、現在は2代目として父が経営しています。元々BtoBの卸売業だったのですが、3代目として店を継ぐため私が戻ってきた10年ほど前から、加工品のEC販売など新しい事業も始めるようになりました。

出水田食堂は、よりダイレクトに魚の魅力や価値を伝える手段として、2022年の4月にスタートした鮮魚店併設型の飲食店です。営業はお昼だけ、市場の休みに合わせて週休2日という営業形態も、長時間労働が常態化しやすい魚屋の働き方改革への挑戦という意味もありました。

出水田食堂は、鹿屋市ではなく、鹿児島市の騎射場という学生街・飲食店街にあります。単価はエリア平均より高めであるにも関わらず、開店当初よりさまざまなメディアに取り上げていただいたり、行列ができたりと、ありがたいことに大変好評いただいていました。

一方で、内部的には従業員が定着しないという問題がありました。責任者である私は普段鹿屋市にいて、鹿児島市の店舗までは移動に2時間近くかかってしまいます。物理的距離がスタッフとのコミュニケーションにも影響し、少しずつ考えにズレが生じてしまうことなども理由の1つで、スタッフが辞めてしまい、併設の鮮魚店を休業さぜるを得なくなったり、飲食店でのクレームが増えたりと目に見える形で問題が出るようになっていました。

ーーなるほど。それで出水田食堂への伴走がスタートすることになったのですね。

出水田:はい。協働がスタートした頃、新たにスタッフを2名採用したところだったんです。2名とも20代の女性社員なのですが、前職は保健師とパティシエという、魚に関する知識が経験もないにもかかわらず、我々の想いに賛同して入社してくれたメンバーでした。

先ほど話した通り、私には物理的な距離の問題もありますし、出水田食堂での新しい事業や課題解決については私ではなく現場のスタッフが責任を持ってやらないと長続きしないのではないかと思い、彼女たちにも協働プロとの毎週のミーティングに参加してもらうことにしました。

店舗の運営に留まらず、体験・教育などこれまでにない新しい魚屋の形に挑戦している。

昨年比1,000%超、過去最高売上を更新。二人でも無理なくできる、現場発信の施策の数々。

ーー実際協働がスタートしてからはどのようなプロジェクトが進んでいるのでしょうか?

出水田:はじめは、根本的な価値や課題を深掘りするということで、会社の価値や課題を考えるというワークからスタートしました。協働チームとしては、藤村昌平さん横町暢洋さん、宮嵜慎太郎さんの3名を中心に入っていただいています。

まずはワークショップの中で、自分の存在意義と会社の存在意義を考えるところから始まったのですが、日頃から『存在意義』について考える機会はなかなかないので、私にとってもスタッフにとっても、何のためにここで働き、何をしていきたいのか、考えを整理するためにとても貴重な機会だったと思っています。

それぞれの想いが整理されたことで、その後の価値や課題についての議論も活発になっていきました。

印象的だったのは、私の考える会社の価値や課題と、スタッフたちの考える価値や課題について、違いと共通点が浮き彫りになったことです。1つ1つの意見についてディスカッションをしていくことで、これまで課題だったコミュニケーションや意識のずれが少しずつ修正されていくのを感じたんです。

ワークショップの様子。それぞれの色がメンバーと紐付き、各人がさまざまな意見を出しているのが見える。

ーー同じテーマについて話をしていく中で自然とコミュニケーションが取れるようになっていったんでしょうか。

出水田:藤村さんのファシリテーションも大きかったと思います。これまで社内ミーティングで1つのテーマについて話し合う機会ももちろんあったんですが、その時は私が一方的に話すような形だったんです。

というのも、スタッフの2人は業界未経験ということもあって、どうしても「魚」についてはわからないことも多く、何か具体的なアイディアを求めても、自分は詳しくないからと遠慮がちになってしまっていたと思うんです。

そこで、うまく藤村さんが話を振ってくださったことで、2人とも発言する機会が増えましたし、どんな意見が出ても協働プロの皆さんが否定せずに受け止めてくださるんです。間違っていることなんてない、質問から少しズレていても言語化を手伝って軌道修正をしてくれるので、思ったことを好きなように言える雰囲気が醸成されていきました。

それに、それぞれの存在意義──ここで何をしたいのか、という部分は個人の内側にしかないものを発言する形になります。知識や経験とは関係なく、それぞれの想いで意見が言えるということも、活発な議論に繋がった理由じゃないかなと。

実際にその後、二人からの提案でさまざまな施策を行っていくことになりました。

ーーお二人からのご提案内容も含め、その後に実施された具体的な施策についても教えていただけますか?

出水田:はい。行列ができた際の待ち時間の有効活用、SNSの活用と発信、そして人員不足で休業していた鮮魚店を再オープンすることができるようになり、年末の受注、イベントへの参加、恵方巻きの企画など多岐にわたります。

まず、先のセッションによって、「お客様を待たせているが、ケアできていない」「時間がなくてお客様との接点を作れていない」という2つの大きな課題が顕在化しました。

待ち時間の課題を解消する施策としては、待っているお客さんが、お魚の知識に触れる経験ができるように魚の本を置いたり、隣接する鮮魚店に誘導するなど待ち時間でも楽しんでもらえるように工夫しました。「食べてファンになる」だけではなく、並ぶ時間から退店までも価値を伝え、ファンになってもらおうという施策でもあります。

そして、顧客接点の課題についてはSNSの活用でカバーしていくことにしました。Instagramでは、日々のおすすめや入荷情報を発信して来店意欲を高め、LINEではお得意様に対して特別な情報発信をしてリピート意欲を高めるよう役割を分けて運用することになったんです。ただし、スタッフは日常業務で忙しく、SNSの管理までなかなか時間を割くことができません。そこで、協働プロの横町さんの力も借りながら、生成AIを活用してコンテンツの生成から投稿後の検証まで2人でうまく回せる仕組みを作りました。

ーーすごいですね!実際に現場で無理なく回せる仕組みになっているんですね。

出水田:元々、出水田食堂は働き方改革への挑戦という側面もあったので、どうしてもスタッフに無理はさせたくありませんでした。現場にいない私が考えるのではなく、現場にいる2人も一緒に自分ごととして考えてくれたことで、より現場に即した形で施策を進めることができたのではないかと思います。

実際、年末の受注に関してもスタッフが率先して行ってくれた施策です。2022年の年末は人員不足で鮮魚店は閉めていたし、年末にスタッフを働かせるのもよくないと思い、年末の受注についてはほとんどお断りしていたんです。大晦日やお正月にお刺身を食べたいという需要があることはその時からわかってはいたので、2023年には「12/31は絶対に売れるから、公式LINEなどに流せば売り上げ上がりそうだ」という話をスタッフにしていたんです。すると、ぜひやりましょうと率先して声を挙げてくれました。実際にSNSでの発信によって受注につなげ、売り上げは前年比1,000%以上、過去最高額の売り上げになって驚きました。

ーー1,000%!需要がわかっていても積極的にできなかった施策が、すごい成果に繋がったのですね。

出水田:数字として期待以上の成果が出たのは年末の受注だけに留まりません。同じくスタッフが企画してくれた、恵方巻きの企画では140本以上の受注があり、年末に出した鮮魚店の過去最高売上をすぐに更新することになりました。

鹿屋市の店舗の方で2022年に結構恵方巻きが売れたので、騎射場の店舗でも売れるのではないか?というヒントを出しただけで、スタッフ2人で恵方巻きの内容や発信などほとんどオリジナルで考えて取り組んでくれました。

2022年にも出展していたイベント「ぶり祭」(鹿児島大学主催)でも、メニューの刷新やSNSでの積極的な配信によって、弊社経由で売れたチケットの枚数が前年比のほぼ倍になっています。

スタッフ考案の恵方巻き。大好評で140本以上を売り上げた。

「自分と会社の存在意義」がターニングポイントに。スタッフが経営者視点を獲得するという大きな変化。

ーー協働日本との取り組みの中で、店舗にはどのような変化が生まれましたか?

出水田:一番大きいのは、やはりスタッフの二人の自発性の向上だと思います。普段経営者である私が不在という中で店舗を運営し、成長させていくためには、二人の当事者意識を高めるマインドセットが必要でした。

どうしても初めの頃は、協働プロとのミーティングにおいても「私たちがいて何か意味があるかな…?」という雰囲気があったのも否めません。それでも言語化を重ねていくことで変わっていき、自ら積極的に声を上げてくれるようになっていきました。振り返って考えてみると、やっぱり、自らと会社の存在意義について言語化できたあたりがターニングポイントだったように思います。

伴走支援を通じて、それぞれが出水田食堂をよりよくするためにどうしたらいいか?を自分自身で考え、取り組み、コミットして数字を出すという一連の流れを経験することができたことで、スタッフとしての成長だけではなく、経営者視点の獲得にも繋がったのではないでしょうか。

それ以外にも、今ではトラックを運転して市場に買い付けに行き、魚を捌くところまでそれぞれが一人でできるようにもなっています。市場の先輩方にも可愛がってもらっているようで、そういった面でもとても逞しく頼もしいですね。(笑)

ーーそれは、大きな変化ですね。(笑)先ほどもお話しされていた通り、どんなことでも意見を言える雰囲気になったというのも重要かもしれませんね。

出水田:協働プロの皆さんと話す中で、本当にプロだなと感じることが多かったんです。言語化、課題の整理・抽出…頭の中にあってもできないことが多い中で、引っ張り出してくださるんですよね。

毎週のMTGの中でそんなシーンがたくさんあって、色んな意見が出てきたのを目の当たりにして、こうやって会議して新しい商品やサービスができていくんだなと身を持って体験できて、私自身としてもとても面白かったです。

また、オンラインだけでなく、実際に出水田食堂にも来てスタッフともオフラインで会ってくれたのも大きかったと思います。オンラインでは毎週顔を合わせていますが、リアルで会うとさらに距離も近づくので、コミュニケーションも取りやすくなりますよね。

週に一度で長期間実施する伴走支援、濃密な取り組みが成果に繋がる。


ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には以前から興味はありましたか?

出水田:実は3年ほど前から興味もあって、他社の副業人材活用のサービスを活用したこともあったんです。その時は、プロジェクトのスパンも短くて、5回程度だったので、いいアイディアや気づきもあったんですが具体的なところまで落とし込むことができずもったいなかったなと感じていたんです。

協働日本は毎週ミーティングがあって半年以上という比較的長い期間で伴走支援を受けられるので、取り組みが非常に濃密だと感じました。日々の業務に追われる中では、人間やっぱり期限を切ってお尻を叩いてもらった方が動きやすいですし、そういう意味でもいいなと思います。

ーーそうだったんですね。実際に、サービスを活用してみて、複業人材の取り組みは今後広がっていくと思われますか?

出水田:経営者同士の情報交換でも、よく話が出るようになってきたんですよ。興味がある人も多いのではないかと思います。なので、今後も広がっていくと思いますし、私自身も今後も活用していきたいと思っています。

特に、今回のように県の事業として支援を受けることができることで、伴走支援を受けられたという事業者さんもいるかもしれないですし、今後もそういった機会があれば周りにもおすすめしたいです。

ーーありがとうございます。最後に、協働日本へのエールも兼ねて、一言メッセージをお聞かせください!

出水田:本当に大変お世話になりました。おかげさまでこの短い、1年弱の期間でうちのスタッフも変わったし、店舗に大きな変化が生まれました。

こういった複業人材の活用というのは、いろんな事業者さんに知ってほしい取り組みでもあるし、多分、興味はあってもなかなか、どこにお願いすればいいんだろう?というところがまだ知られていないと思います。

それに、ただ都市部の凄い人を1人副業で入れても、自社組織のメンバーと一緒にチームで力を発揮しないと、なかなか本当の成果に繋がらないケースもあると思います。

だけど、協働日本さんは、「ただ凄い人を副業で入れたらうまくいく」というスタイルではなくて、ワンチームとしてのチームビルディングを意識し、これだけ深く入ってくれて私は本当にありがたかったし、他の複業人材との取り組みとの大きく違うのではないかなと思います。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

出水田:ありがとうございました!

※この記事の取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」です。

AI・デジタルに強い協働プロがコーチとして入り、社員の方が自分で使えるようになるまで伴走します。デジコーチは、日本全国の地域の中小企業様100社以上にご導入いただいています。製造業、食品、飲食、小売、工務店など、業種はさまざまです。

【デジコーチの】サービス内容を見る

出水田一生 / Issei Izumida

株式会社イズミダ 常務取締役

鹿児島県鹿屋市出身

大学・大学院で生物学を専攻。

大学院在籍中に父親の病気を機に家業である「出水田鮮魚」に戻り、卸一本であった昔ながらの魚屋のイメージを変えるため、魚×〇〇といった視点でEC販売、小売、飲食など新たなチャレンジを続けている。2022年全国中小企業クラウド実践大賞総務大臣賞受賞。

出水田食堂Instagram

協働日本事業については こちら

関連記事

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 ―「事業づくり」と「人づくり」の両輪―
VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –