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AI・デジタル活用STORY:株式会社サンロード 鈴木友広氏 システム導入を、組織変革の起点に。「全員参加」のデジタル経営へ

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

【記事サマリー】
奈良県橿原市で、食品工場向けの衛生キャップやフィルターを企画・開発・製造する株式会社サンロードが抱えていたのは、営業日報と顧客情報が分散し、展示会で得た700枚を超える名刺も手作業で入力しているという課題でした。協働プロとともに営業支援システムや名刺管理・メール配信の仕組みを整えたことで、顧客情報を横断的に確認し、潜在顧客への営業活動につなげられる環境を構築。新規売上も前年から10%を超えて伸びています。さらに、取り組みを担った鈴木友広さんは、2026年4月に新設されたDX推進室の室長に就任。変わったのは業務の進め方だけではありません。社員の中にも、デジタルを使って自ら仕事を変えていこうとする意識が芽生え、全社変革への土台が生まれ始めています。

この取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」による支援事例です。
デジコーチとは

今回は、食品工場向けの衛生キャップやフィルターを中心に、衛生対策製品の企画・開発・製造・販売を手がける株式会社サンロード DX推進室 室長の鈴木友広さんにお話を伺いました。

同社は奈良県橿原市に本社を構え、福島県いわき市、中国・青島市にも製造拠点を展開。食品への毛髪混入を防ぐ衛生キャップや、工場内へのほこり、虫、細菌、カビなどの侵入を抑えるフィルターを通じて、食品製造の現場を支えてきました。

2027年には50期を迎える同社が、次の成長に向けて掲げているのが、デジタルやAIを活用した業務と事業の変革です。その第一歩として取り組んだのが、営業情報の一元化と、展示会で生まれた顧客接点の活用でした。

しかし、システムを導入しただけで会社が変わるわけではありません。必要なのは、デジタルを使う人と、社内を動かしていく推進者の存在です。奈良県の「デジタル×経営実践」プログラムを通じて協働日本と出会い、総務部に所属しながらプロジェクトを担った鈴木さん。その後、社内に新設されたDX推進室の室長へ。協働を通じて、何が変わったのでしょうか。

営業支援システムや名刺管理の導入、その裏側で進んだ社員の意識変化、そして全社を巻き込むDXへの展望について、率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明)

食品工場の衛生環境を支える、ものづくり企業

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは、サンロードさんの沿革と現在の事業について教えてください。

鈴木友広氏(以下、鈴木):
はい、よろしくお願いします。

当社は1978年に創業し、食品工場などで使用される衛生用品の企画・開発・製造・販売を行っています。

主力製品は、食品工場で働く方が毛髪混入対策のために着用する衛生キャップと、工場内へのほこりや虫、細菌、カビなどの侵入を防ぐ衛生用フィルターです。この2つのカテゴリーが、売上の大半を占めています。奈良県橿原市に本社と工場があり、福島県いわき市にも国内工場を構えています。国内2拠点で働く従業員は約100名。海外では、中国の青島市にも製造拠点があります。

そのほか、一般のお客様向けのマスクや家庭用フィルターも展開しています。お客様が抱える衛生面の困りごとを的確に捉え、製品として形にしていくことが私たちの仕事です。

ーー食品工場の衛生環境を支える製品が、事業の中心なのですね。

鈴木:
そうですね。特に衛生キャップとフィルターが中心です。衛生キャップの中には、電荷を保持する特徴的な生地を使い、毛髪を吸着して落下を防ぐ製品もあります。フィルターについても、外気からのほこりや虫の侵入を防ぐものや、空調を通じて広がる細菌、カビなどを捕集するものを扱っています。

目立つ製品ではないかもしれませんが、食品工場のクリーンな環境を守るためには欠かせない製品です。

「中小企業だからこそ、取り組まなければ生き残れない」

ーー今回、協働日本と取り組むことになったきっかけを教えてください。

鈴木:
奈良県が実施していた「デジタル×経営実践」という支援事業がきっかけです。社長が事業のチラシを入手して持ち帰り、私に申し込むようにと声をかけていただいたところから始まりました。

社長は以前から、デジタルや生成AI、DXに力を入れていかなければならないという危機感を強く持っていました。大企業であれば、デジタルを専門に扱う部署があり、知見を持った人材もいると思います。一方で、中小企業では専門部署も人材も限られている。当社も生産現場を中心とした会社で、デジタルとはどちらかといえば縁遠い環境でした。

中小企業だからといって何もしなくてもよいとは、私も思えません。デジタルやAIを活用していかなければ、今後は生き残っていけない。その危機感が、経営側にも現場にもありました。

ーーそれまでも、デジタル化に向けた動きはあったのでしょうか。

鈴木:
セミナーに参加して情報を集めることはありました。ただ、具体的な実行まで進められていたわけではありませんでした。

生成AIを新商品開発に活用したい。社内に蓄積された情報やノウハウを整理したい。議事録作成のような日常業務も効率化したい。大きなものから小さなものまで、解決したい課題はいくつもありました。とはいえ、何から着手すればよいのか、どのような手段を選ぶべきなのかが分からない・・。そんな状況でした。

ーー課題は見えているものの、実行までの道筋を描けていなかったのですね。例えばシステム会社ではなく、協働日本のような伴走者を求めたのはなぜでしょうか。

鈴木:
システム会社に相談すると、どうしてもその会社が提供する商品を前提に話が進んでいきます。自分たちが必要なものを、十分に理解したうえで選ぶのであれば問題ありません。ただ、情報収集の段階では、提案された商品に引っ張られてしまうことがありますよね。

私たちが求めていたのは、特定の商品を売る立場ではなく、フラットな視点で課題を整理し、どのような手段が適切なのかを一緒に考えてくれる存在でした。

中小企業では、何を選べばよいのか、どの順番で取り組むべきなのかを判断する知識そのものが不足しています。ツール選定の前段階から相談できることに、協働日本との取り組みの価値を感じました。

ーー今回の協働プロジェクトには、どなたが参加されたのでしょうか。

鈴木:
昨年度のプロジェクトでは、協働プロの横町暢洋さんを中心に伴走していただき、一緒に先山毅さんにもサポートに入っていただきました。横町さんは、大企業でエンジニアやマネジメントを経験されている方です。私自身も前職がエンジニアだったため、考え方や話の進め方に共通する部分がありました。こちらの状況を理解していただきやすく、私にとっても話がかみ合いやすい方だったと思います。

奈良県の支援事業が終了した後も協働日本との取り組みを継続しており、今年度は横町暢洋さんと、新たに黄瀬真理さんに伴走していただいています。

ーー昨年度の横町さんたちとのプロジェクトでは、具体的にどのような課題から着手したのでしょうか。

鈴木:
一つ目は、営業日報と顧客情報の連携です。

営業日報と顧客情報をつなぎ、「探せるデータ」へ

ーー以前の営業日報は、どのように管理されていたのでしょうか。

鈴木:
以前から営業担当者は、Excelを使って日報を記入していました。ただ、日報は週ごとのファイルに分かれており、過去の情報を探すには、一つずつ開いて確認しなければなりません。

直近の出来事は把握できても、「1カ月前に、このお客様とどのような話をしていたか」を振り返るには時間がかかります。管理者にとっても、営業活動や商談の状況を横断的につかみにくい状態でした。

ーー日報は書かれているものの、蓄積された情報を十分に活用できていなかった、と。

鈴木:
その通りです。顧客情報や商談情報を別のデータベースへ入力してもらう方法もあります。しかし、それでは日報との二重入力になり、営業担当者の負担が増えてしまいます。管理者としては情報を整理してほしい。一方、現場に新しい入力作業を増やせば、拒絶反応が起きるかもしれない。そこが難しいところでした。

そこで、営業支援システムとしてkintoneを導入しました。一度情報を入力すれば、日報だけでなく、顧客情報や商談情報としても整理される仕組みです。

現在は、これまでバラバラだった顧客情報や接点情報を横断的に確認できるようになりました。必要な情報をすぐに検索でき、営業担当者同士の情報共有も以前よりスムーズになっています。

単に日報をデジタル化したのではありません。書き残していた情報を、次の営業活動に使えるデータへ変えていった形です。

ーー導入するシステム自体は、協働が始まる前から候補が決まっていたのでしょうか。

鈴木:
ある程度は決まっていました。導入をほぼ決めた段階と、横町さんとの伴走が始まった時期が重なったような形です。

そのため、横町さんには「何を導入するか」だけでなく、ベンダーとの話をどのように進めるのか、導入後にどう活用していくのか、社員にどう働きかければよいのかという部分を相談しました。システムを入れること自体は簡単にできます。ただ、使われなければ意味がありません。むしろ、導入後の方が大切ですよね。

700枚を超える名刺を「次の営業」につなげる

ーーもう一つの大きな課題が、展示会で得た顧客情報の活用だったと伺いました。

鈴木:
当社は年に2回ほど展示会へ出展しています。3日から4日間の展示会で、700枚を超える名刺をいただくこともあります。以前は、その名刺情報を営業担当者が一枚ずつExcelへ入力していました。その後、お礼のメールを個別に送っていたため、かなりの手間がかかります。連絡するまでに時間が空いてしまうこともありました。

そこで、名刺情報を取り込んで管理し、メール配信まで行える仕組みを導入しました。展示会後には、ご来場へのお礼や新製品の案内をまとめて配信しています。

ーー単なる名刺のデータ化ではなく、その後の営業活動までを仕組みにしたのですね。

鈴木:
そうですね。重要なのは、メールを一斉に送れるようになったことだけではありません。開封の有無や製品ページのクリックなど、お客様の反応も確認できるようになりました。

これまでは、お問い合わせがあった段階で初めて、お客様の関心が分かっていました。現在は、問い合わせに至る前の反応を捉え、関心を持っている可能性が高いお客様へ営業からアプローチできます。いわば、潜在顧客の可視化です。

名刺情報を登録するスピードは明らかに上がりました。営業担当者が個別に行っていたお礼や製品案内も仕組み化され、展示会で生まれた接点を継続的に育てる土台が整いつつあります。

ーー協働プロからは、具体的にどのようなアドバイスがあったのでしょうか。

鈴木:
ベンダーとの交渉や方向づけに加えて、社内の皆さんに使ってもらうための動機づけ、働きかけについてアドバイスをいただきました。メール配信についても、どのような内容を、どのくらいのタイミングや頻度で届ければよいのか。そうした運用面まで相談しています。

ツールの機能を知るだけでは、現場での使い方までは決まりません。自社の営業活動にどう組み込むかを一緒に考えていただけたことは大きかったですね。

新規売上は前年から10%超。事業の仕掛けとDXが重なった

ーー仕組みを整えたことで、事業面ではどのような手応えが生まれていますか。

鈴木:
もちろん、今回の施策だけによる成果とは言い切れませんが、ホームページや展示会を通じて接点を持ったお客様からの新規売上は、前年から10%を超えて伸びています。

メール配信を本格的に始めたのは今期に入ってからですので、それによってどれだけ顧客が増えたかという成果は、まだこれから確認していく段階です。ただ、展示会をきっかけに新しいお客様が増えている実感はあります。今後、半年、1年と続けていく中で、メールの開封率やクリック数、新規顧客の獲得件数なども見ていきたいと考えています。

ーー2026年6月には、「FOOMA JAPAN 2026」にも出展されています。展示会では、新しい商品にも力を入れたそうですね。

鈴木:
従来の衛生キャップやフィルターに加えて、食品工場の暑熱環境に対応するアイスベストを紹介しました。食品工場には、油を使う工程など、非常に温度が高くなる現場があります。そこで、体に接する側を冷却し、外側には熱が逃げにくい工夫を施した保冷剤入りのベストを出展しました。

熱中症対策への関心が高まっている時期でもあり、多くの方に注目していただけました。展示会後にも反響があり、注文につながっています。

ーー新商品を打ち出す動きと、展示会後の顧客フォローを改善する動きが、ちょうど重なったわけですね。

鈴木:
そうだと思います。毎回同じ製品を並べるだけでは、新しい注目は生まれません。事業側では新しい商品をつくり、営業側では展示会で得た接点を次につなげる。二つを組み合わせることで、より効果的な活動ができるようになります。

会社としての仕掛けとDXの取り組みが重なったことは、大きかったですね。

総務部からDX推進室へ。取り組みが生んだ新たな役割

ーー今回のプロジェクトを経て、2026年4月にはDX推進室が新設されました。鈴木さんが室長に就任された経緯を教えてください。

鈴木:
2026年3月までは総務部に所属し、人事、労務、経理などの業務を担当しながら、デジタル関連の取り組みも進めていました。

総務の仕事と並行していたため、デジタル化に十分な時間を使えていたわけではありません。片手間という言い方がよいかは分かりませんが、実際にはそのような状態でした。

一方で、社長の中では「もっと力を入れて進めなければならない」という思いが徐々に強くなっていきました。そして3月末、「DX推進室を立ち上げるので、デジタル、生成AI、DXに専念してほしい」と言われたのです。

ーーもともとDX推進室長になることを想定して、プロジェクトに参加していたわけではなかったのですよね。

鈴木:
はい、お恥ずかしながらまったく想定していませんでした。奈良県のプログラムへ参加したときは、総務部の立場で、まずは社内の課題をどうにかしたいという気持ちでした。

ただ、協働日本とのプロジェクトを通じて、実際にシステム導入や社内への働きかけを経験したことは、DX推進室の立ち上げにつながったのだと思います。社長も、その取り組みを見ていたのでしょう。会社として本格的に進めるなら、担当を明確にし、専任に近い形で動かす必要がある。そのような判断だったのだと思います。

ーーシステムが導入されたことに加え、社内にDXを進める役割そのものが生まれた。今回の協働を象徴する変化ですね。

鈴木:
そうですね。ただ、まだ立ち上がったばかりです。本当の意味では、これからだと思っています。

1.5人で始めたDX推進室。小さな成功を積み重ねる

ーー現在は、どのような体制でDXを推進していますか。

鈴木:
DX推進室には、営業や商品開発を担当してきた弊社の佐藤という社員が兼務で加わってくれています。私が1人、佐藤が0.5人。いわば1.5人の体制です。佐藤は、kintoneやメール配信の導入にも当初から関わっており、現在は運用や社内フォローを中心に進めてくれています。

もともとは商品開発を担当していましたが、今ではデジタル関連の仕事の割合がかなり増えています。私の右腕という立場ですね。

ーーDX推進室だけで課題を決めるのではなく、各部門からも意見を集めたそうですね。

鈴木:
はい。各部門のメンバーに、「デジタルを使って解決したいこと」を聞きました。

議事録作成の効率化といった身近な課題から、生成AIを活用した新商品開発まで、幅広い意見が出ています。課題の一覧化はすでに終えており、横町さんにも共有しました。これから優先順位を整理し、取り組むテーマを決めていきます。

ーーすべてを一度に進めるのではなく、優先順位をつけていくと。

鈴木:
そうです。大きな成果だけを目指しても、社員はなかなか変化を実感できません。まずは3カ月に一つ、小さくても目に見える成功事例をつくる。その成果を社内で共有し、次の取り組みにつなげていきたいと思っています。

できることを一つずつ増やし、社内に「デジタルを使えば仕事を変えられる」という実感を広げていく。そこが大切ではないでしょうか。

ツールを入れるのではなく、「使う理由」を共有する

ーー取り組みを始めた当初は、社員の皆さんがシステムを使ってくれるか、不安もあったそうですね。

鈴木:
はい、正直不安だらけでした。システムは、導入しただけではただの箱です。使う人が活用しなければ、何の意味もありません。

当社でも以前、販売システムや生産管理システムを入れ替えたことがありました。受注や売上処理など、業務上必要な機能は使います。ただ、蓄積されたデータを商品開発や顧客開拓に活用する意識までは、十分に広がりませんでした。

今回も、営業支援システムを入れること自体より、現場の皆さんに継続して使ってもらえるかどうかが大きな課題でした。

ーー実際に営業担当の方へ説明したときは、どのような反応でしたか。

鈴木:
それが、思っていたほどの拒絶反応はありませんでした。説明会を実施した際にも、「まずはチャレンジしてみよう」という雰囲気が感じられました。それは、少し安心したところです。

もちろん、全員が同じように活用できているわけではありません。担当者によって使い方にばらつきが出ないよう、今後もフォローが必要だとは感じています。

ただ、何人かの社員から「活用していこう」「自分たちの仕事を変えていこう」という前向きな反応が見られたことは、大きかったと思います。

ーー社員の意識が変わり始めた背景には、経営側からのメッセージもあったのでしょうか。

鈴木:
大前提、社長が繰り返し伝えてきたことが大きいと思います。

会社としては、社員の賃上げを進めていきたい。しかし、賃上げの原資を生み出すには、これまでと同じ仕事の進め方では難しい。業務を効率化して時間を生み出し、より付加価値の高い仕事へ振り向けなければならない、という話です。

朝礼や会議で繰り返し伝える中で、社員にも「会社が賃上げをするためには、自分たちも仕事の進め方を変えなければならない」という意識が少しずつ生まれてきました。

ーーDXを、単なる会社都合の効率化ではなく、自分たちの働き方や処遇にもつながる話として共有したのですね。

鈴木:
そうですね。付加価値の高い仕事をしていかなければ、会社の成長にも賃上げにもつながりません。そのためには、今までと違うやり方を取り入れる必要がある。

デジタル化が、経営側だけの掛け声ではなく、自分たちの働き方や会社の成長につながるテーマとして受け止められ始めた。それが、今回生まれた重要な変化だと思っています。

否定せず、一緒に進む。協働プロが支えた最初の一歩

ーー先ほど横町暢洋さんをご紹介いただきましたが、実際に伴走を受けて、どのような印象を持ちましたか。

鈴木:
横町さんは、大企業でエンジニアやマネジメントを経験されている方です。私も前職がエンジニアだったため、考え方や話の進め方に共通する部分があり、アドバイスを理解しやすかったですね。

システム会社との交渉の進め方、導入時に社員へどのように働きかけるか、メールをどの程度の頻度で配信すればよいか。技術面だけにとどまらず、運用やマネジメントの視点からも助言をいただきました。

ーー技術だけではなく、人や組織をどう動かすかという部分まで支援してもらえたのですね。

鈴木:
そこは大きかったと思います。印象に残っているのは、私たちの取り組みを肯定的に見てくださったことです。自分たちの取り組みが、他社と比べてどの程度進んでいるのか。私たち自身には分かりませんでした。

そうした中で横町さんは、良いところを見つけ、評価しながら次の一歩を示してくださいました。否定的なことを言う方ではありませんし、こちらの状況を受け止めたうえで話してくれます。豊富な知見を持ちながら、同じ目線で伴走してくれる、ありがたい存在でした。

県の支援終了後も、自費で協働を継続

ーー奈良県のプログラム終了後も、自費で協働日本との取り組みを継続されています。継続を決めた理由を教えてください。

鈴木:
昨年度の伴走期間は、実質的には3カ月程度の期間でした。限られた期間でも多くのアドバイスをいただきましたが、本当に成果につなげるには、もう少し長い時間が必要だと感じました。

システムは導入して終わりではありません。実際に使い、成果を確認し、改善を重ね、社内に定着させる。そこまで進めて、ようやく意味が生まれます。

そのため今年度は、自費で協働日本との取り組みを継続し、7月2日に新たなキックオフを行いました。今年度は、横町暢洋さんと黄瀬真理さんに伴走していただいています。

ーー短期のシステム導入支援から、継続的な経営変革の取り組みへ進んだわけですね。

鈴木:
そうですね。長期的には、生成AIを活用した商品開発や、社内ノウハウの継承にも取り組みたいと考えています。

ただし、大きな構想だけを掲げても、社内に定着するとは限りません。まずは3カ月ごとに一つ、小さくても具体的な成功事例をつくる。その成果を社内で共有し、次の取り組みへつなげていく方針です。

短期的な変化と、長期的な成果。その両方を積み重ねながら、デジタル経営を前へ進めていきたいと思っています。

中小企業にこそ、外部プロ人材の力が必要

ーー今回のように、外部のプロ人材とデジタル領域で取り組むのは初めてだったのでしょうか。

鈴木:
デジタルに関しては初めてでした。これまでは、システムを入れるとなれば、複数の会社から説明を受けて選定し、その会社と進める形が中心でした。勉強会や専門家から助言を受けた経験はありますが、フラットな立場から伴走してもらい、デジタル施策を一緒に考える経験はありませんでした。

今回、特定の商品を売る立場ではないプロ人材からアドバイスを受けられたことは、とても有意義だったと思います。

ーー今後、このようなプロ人材との協働は、中小企業の間でも広がっていくと思いますか。

鈴木:
これは、広がっていくと思います。

大企業であれば、専門部署や人材、知識、予算を社内に持っています。しかし、中小企業では、そのすべてが不足していることも珍しくありません。取り組むテーマや導入するシステムが明確に決まっていれば、専門の会社へ依頼できます。難しいのは、その手前です。

何をすべきなのか。どの方法が自社に合っているのか。どの順番で進めればよいのか。そうした判断を、中小企業だけで行うのは簡単ではありません。

中小企業が自社だけでは持てない知見を取り入れ、より適切な判断をしていく。そのために、プロ人材との協働は大きな力になるはずだと感じています。

デジタルを、開発・製造・販売の成長につなげていく

ーーここまでのお話を伺うと、サンロードさんのDXは、まさに始まったばかりなのですね。今後はどのような会社を目指していきたいですか。

鈴木:
当社はこれから、開発、製造、販売など、さまざまな領域でデジタルやAIを活用していきたいと考えています。目指しているのは、単なる業務効率化ではありません。効率化によって生まれた時間を、付加価値の高い仕事や、新しい商品・顧客の創出へ振り向けることです。

2027年度からは50期を迎えます。中期計画では、50期の販売目標として、48期比20%増を掲げています。この目標を実現するためにも、拡販活動に使える時間を増やし、顧客情報を活用しながら、新しい受注につなげていかなければなりません。

ーーそのためにも、一部の担当者だけでなく、全社で取り組むことが重要になりそうですね。

鈴木:
そう思います。一部の担当者だけで進めるのではなく、「やってみる」というチャレンジ精神を持ち、社員みんなで継続して取り組んでいきたいです。

情報を入力することが目的ではありません。システムを導入することも、デジタルという言葉を掲げることも、あくまで手段です。目的は、受注を増やし、会社を成長させ、働く皆さんへ還元していくこと。

その目的を見失わず、デジタルを有意義な手段として活用していきたいと思っています。

ーー最後に、協働日本へのメッセージをお願いします。

鈴木:
はい。中小企業には、社内だけでは解決できない課題が数多くあります。だからこそ、さまざまな専門性を持つ方々の力を借りながら、一つずつ前へ進んでいきたいと思っています。

協働日本には、伴走支援を受けた企業同士が継続してつながれる場もつくっていただけると伺っています。今回の出会いを一度きりにせず、これからも長く支援していただけることを期待しています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

鈴木:
ありがとうございました。

 

この記事の取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」です。

AI・デジタルに強い協働プロがコーチとして入り、社員の方が自分で使えるようになるまで伴走します。デジコーチは、日本全国の地域の中小企業様100社以上にご導入いただいています。製造業、食品、飲食、小売、工務店など、業種はさまざまです。
【デジコーチの】サービス内容を見る


鈴木 友広/Tomohiro Suzuki

株式会社サンロード DX推進室 室長

1966年生まれ。
電機メーカーのエンジニアを経て、2015年に株式会社サンロードに入社。
製造部、総務部を経験し、2026年4月より新設のDX推進室室長。

協働日本事業については こちら

VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –

AI・デジタル活用STORY:株式会社C’s 尾野貴昭氏 現場直結の受注アプリ開発で売上150%。名入れギフト工房が実践した、“小さくても強い会社”を支えるデジタル化

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

【記事サマリー】
奈良県香芝市で名入れ・オリジナルガラス製品を手がける株式会社C’sが抱えていたのは、EC受注の増加に伴い、注文書処理が属人的かつ煩雑になっているという課題でした。名入れギフトならではの細かな注文情報を、事務担当が蛍光ペンや手書きメモで補いながら制作・出荷へつなぐ日々。協働プロとともに現場の業務フローを見直し、事務・制作・出荷それぞれが必要な情報を一目で確認できる帳票と発注管理アプリを整備したことで、事務処理時間は2時間から45分へ短縮されました。変わったのは作業時間だけではありません。空いた時間を顧客管理やEC改善、新たな商品開発に振り向けることで、“小さくても強い会社”を目指すための成長余地が広がり始めています。

この取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」による支援事例です。

デジコーチとは

今回は、名入れ・オリジナルガラス製品の制作・販売を手がける株式会社C’s 代表の尾野貴昭氏にお話を伺いました。

同社は、奈良県香芝市で「ガラス彫刻工房ONO」を運営し、記念日ギフトやウェディングギフト、送別・還暦祝いなど、人生の節目に寄り添う商品を届けてきました。近年では、プロ野球球団や人気アニメ・ゲーム作品との公式コラボグッズ、WBC公式グッズなども手がけ、少人数ながら全国に届くものづくりを続けています。

一方で、事業が広がるほどに、現場では名入れ商品ならではの複雑な受注業務が大きな負荷になっていました。商品名、色、彫刻する名前、メッセージ、記念日、包装、掛け紙、シール、配送情報。お客様ごとに異なる情報を正しく読み取り、制作・出荷へつなぐために、蛍光ペンや手書きメモに頼った運用が続いていたのです。

協働日本との取り組みで目指したのは、単にデジタルツールを入れることではありません。現場を見て、働く人の声を聞き、事務・制作・出荷それぞれに必要な情報を整理し、誰が見てもわかり、迷わず確認できる帳票と業務フローをつくることでした。

「AIだけでは、ここまで自社に合う仕組みにはならなかった」と尾野氏は語ります。その言葉には、現場に入り込み、対話を重ねながら、会社ごとの事情に合わせて一緒につくっていく“伴走”への実感が込められていました。

なぜ協働日本と取り組むことを決めたのか。現場にはどのような変化が生まれたのか。そして、これからどのような会社を目指していくのか。尾野氏に率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明)

名入れガラスギフトから公式コラボグッズまで。社員の「好き」を力に変える工房

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、株式会社C’sさんの沿革と現在の事業について教えてください。

尾野貴昭氏(以下、尾野):
よろしくお願いします。私たちは奈良県香芝市で、名入れやオリジナルのガラス製品を制作・販売している会社です。2012年7月に「ガラス彫刻工房ONO」として創業し、2017年3月に株式会社C’sを設立しました。

もともとは個人事業主として始めたのですが、転機になったのは阪神タイガースさんとのお仕事でした。阪神タイガースの承認グッズを扱うにあたって、個人事業主では取引が難しかったため、会社化することになりました。2017年5月から阪神タイガース承認グッズの販売を開始しています。

現在は、店舗、自社EC、楽天、Yahoo!、au PAYなどで販売しており、記念日やウェディング、送別、還暦祝いなどのギフト商品を中心に展開しています。加えて、プロ野球球団やアニメ、ゲーム作品とのコラボグッズ、WBC公式グッズ、豊臣兄弟の公式グッズなども制作してきました。

ーー公式グッズやコラボ商品も幅広く手がけていらっしゃいますね。

尾野:

そうですね。これまでに、ゲームやアニメなどの人気コンテンツとのコラボ商品の制作や、公式ライセンスグッズの企画・製造を数多く手がけてきました。信楽焼フリーカップや珪藻土コースターをはじめ、記念グッズなど幅広い商品を展開してきました。

こうした仕事は、私がすべて企画しているというより、社員からの発案で始まることも多いんです。私は、社員が「やりたい」と言ったことは、できるだけやらせてあげたいと思っています。

たとえば、ある作品が好きな社員が「こういうグッズをつくりたい」と提案してくる。その人は作品への知識も深いし、何よりモチベーションが高い。私は技術的に作れるかどうかを判断しますが、作品の中身やファンが喜ぶポイントは、好きな社員の方が詳しいんです。

ーー社員の「好き」や「詳しさ」が、商品企画の力になっているのですね。

尾野:
そう思います。発案した本人がやる気を持って進めるので、いい商品になりやすいんです。自分が好きなコンテンツを選んで、仕事を取ってきて、売上をつくる。成果が出れば評価にもつながる。そういう職場にしたいと思っています。

うちはパートさんも多く、スタッフは11名ほどです。子育て中の方も多く、午前中だけ働く方、午後から入る方、学校行事や家庭の事情で働き方が変わる方もいます。だからこそ、誰か一人にしかわからない仕事を減らし、引き継ぎしやすい仕組みにすることが大事だと感じていました。

“わかる人が見ればわかる注文書”に、成長の限界を感じていた

ーー今回、協働日本と一緒に取り組むことを決めたきっかけを教えてください。

尾野:
一番大きかったのは、事務の業務効率化に課題を感じていたことです。

私はもともと技術屋なので、制作現場には口を出せます。作り方や品質については、自分でも改善案を出せるんです。でも、事務作業になると、「効率が悪い」「見にくい」とは言えても、ではどうすればいいのかという具体的な答えが自分の中にありませんでした。

制作現場には自分の経験や勘で踏み込める。一方で、受注処理や帳票の整理、事務から制作・出荷への情報の渡し方となると、自分だけでは最適な形が見えていなかったんです。そこは、ずっと気になっていました。

ーー奈良県の事業がきっかけだったとも伺っています。

尾野:
はい。協働日本さんが受託した奈良県の事業について、様々な方からお声をかけていただいたことがきっかけです。実は、金融機関や商工団体などから複数お声がけをいただいていました。ただ、当時は忙しさもあり、最初の2件ほどはお断りしていたんです。

でも、締め切りの1週間ほど前に、もう一度声をかけてもらいました。そのときに、「これはやれということなのかな」と思いました。ちょうど、事務の業務効率化をどうにかしないといけないという思いがありましたし、タイミング的にも参加できそうな見通しが立った。そこで、応募することにしました。

ーー最初の相談では、どのような課題を伝えられたのでしょうか。

尾野:
かなり赤裸々に、「うちは今こういう現状で困っています」と話しました。実際に工房にも来てもらって、当時使っていた受注書を見てもらいました。

当時の注文書は、わかっている人が見ればわかる資料でした。でも、新人が入ると一から教えなければいけない。制作担当、出荷担当、事務担当が、それぞれ必要な情報を探しながら仕事をしている状態でした。

たとえば、制作担当が必要なのは「何色の商品に、何を彫るのか」という情報です。出荷担当が必要なのは「誰に、いつ、どの包装で送るのか」という情報です。でも、その情報が住所や配送情報、注文者情報、名入れ内容などと一緒に、細かい文字で一枚の注文書に詰め込まれていました。

だから、事務担当が蛍光ペンで線を引き、手書きメモを加えて、制作や出荷へ回していたんです。これでは、慣れている人はできても、新人や別の担当者にはわかりにくい。誰が見てもわかる資料にしたい、ということを伝えました。

ーーその時点で、協働日本との取り組みに手応えはありましたか。

尾野:
ありました。最初に話したときから、こちらの課題を理解する力が高いと感じました。

こちらが「こういうことで困っています」と話すと、その場で「それなら、こう整理できそうですね」「こういう形なら対応できるかもしれません」と、具体的な方向性を返してくれるんです。単に話を聞いて終わりではなく、目の前で一緒に解きほぐしてくれる感覚がありました。

だから、これは期待できるなと思いました。こちらが抱えている違和感を、すぐに構造化してくれる。しかも、評論ではなく、実際にどう直すかという視点で考えてくれる。そのスピードと解像度は、とても印象に残っています。

蛍光ペンと手書きメモに頼っていた受注処理を、誰でも使える帳票へ

ーー協働日本とのプロジェクトでは、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

尾野:
一番大きいのは、受注票の改善です。

これまでの仕組みでは、ECから出てくる注文書に文字がずらっと並んでいました。住所、配送情報、商品情報、名入れ内容、メッセージ、包装、シール、掛け紙など、すべての情報が一枚の中に入っている。

でも、制作担当が必要なのは「何色のコップに、何を彫るのか」という情報です。出荷担当が必要なのは「誰に、いつ、どの包装で送るのか」という情報です。事務担当が必要な情報もまた違います。

それを当時は、事務担当が蛍光ペンで重要なところにマーカーを引いたり、手書きメモを加えたりしていました。たとえば、同じコップでも色が違うので、「黒色のコップに、このデザインを彫る」といった情報を探さなければいけない。マーカーが引かれていなかったり、見落としたりすると、ミスにつながるわけです。

ーーまさに、現場の経験に支えられた運用だったのですね。

尾野:
そうですね。職人芸のようになっていました。でも、それでは新人が入ったときに大変ですし、パートさん同士の引き継ぎも難しくなります。

そこで、事務が見やすい注文書、制作が見やすい作業指示書、出荷が見やすい作業指示書をつくることにしました。ただし、紙の枚数は増やしたくなかった。現場で回していくものなので、A4一枚の中で、それぞれが「ここを見れば必要な情報がわかる」という状態にしたかったんです。

ーー既存のEC向けサービスでは対応できなかったのでしょうか。

尾野:
EC用のサービスは世の中にたくさんあります。でも、うちに合うものがなかなかありませんでした。

理由は、うちの商品がほぼすべてオーダーだからです。名入れ商品なので、商品を選ぶだけでは終わりません。名前、メッセージ、誕生日、記念日、場合によっては赤ちゃんの身長や体重、包装、掛け紙、シール、紙袋など、注文時に確認すべき項目がものすごく多いんです。

普通のECであれば、「買いますか、買いませんか」「色は何色ですか」くらいかもしれません。でも、うちは一つの商品に対して、何を彫るのか、どんな用途なのか、どのように包装するのかまで確認する必要があります。既存のシステムでは、その複雑さをうまく吸収できませんでした。

ーーそこで、独自アプリの開発に取り組んだのですね。

尾野:
はい。協働日本の協働プロである横町さん、渡辺さんと一緒に、PCで動かすアプリを作成してもらいました。CSVで出した注文情報をもとに、現場が見やすい形の帳票を生成する仕組みです。

もちろん、最初から完成形だったわけではありません。3、4回は修正してもらいました。注文内容によって改行がうまくいかなかったり、文字の大きさが同じで見にくかったり、タイトルをもっと明確にした方がよかったり。実際に使いながら細かく調整していきました。

制作現場では「色」が重要です。何色の商品に、何を彫るのか。それがパッと見てわからないといけません。だから、「色」「名入れ内容」「配送情報」など、項目の見出しや表示の仕方にもこだわりました。

現場を見たからこそ、発注管理アプリの解像度が上がった

ーー協働プロの皆さんが現場を視察したことも、プロジェクトに影響しましたか。

尾野:
大きかったと思います。横町さんには実際に現場へ来てもらい、日常のオペレーションを見てもらいました。

事務担当が注文書に線を引いて、それが制作に回り、最後に出荷へ回っていく。出荷担当はその紙を見ながら、どのシールを選ぶのか、どの掛け紙を使うのかを判断している。そうした実際の流れを見てもらいました。

うちには60代の出荷担当もいます。細かい字を読みながら、マーカーで引かれた情報を探すのは、それだけで大変です。現場でどのように紙を見ているのか、制作担当が水や砂を使いながら作業している中でどう指示書を見るのか。そこは、言葉だけでは伝わらなかったと思います。

ーー現場を見たことで、帳票の設計も変わったのでしょうか。

尾野:
変わったと思います。たとえば、制作担当は机に座ってじっくり読むわけではありません。動きながら、水を使いながら、砂で彫りながら紙を見るんです。そうなると、小さい文字で細かく書かれていても見落としてしまいます。

でも、お客様にとっては「見落としました」は言い訳になりません。だから、一目で何をすればいいかわかることが重要です。

横町さんが現場を見てくれたことで、「これはもっと文字を大きくした方がいい」「この順番で情報を出した方がいい」といった解像度が上がったと思います。単なる発注管理アプリではなく、うちの現場に合ったものになっていきました。

ーー現場の皆さんも、改善に向けて前向きに関わっていたのでしょうか。

尾野:
そうですね。もともと現場では、「これは見にくい」「この作業は大変だ」という実感がありました。だからこそ、改善に向けた熱量はありました。

ただ、日々の業務に追われていると、困っていることがあっても、それを仕組みに落とし込むところまではなかなか進みません。今回、横町さんや渡辺さんが入ってくれたことで、現場の困りごとを一つひとつ拾い上げて、「では、帳票上ではどう見せるか」「どの情報を強調するか」「誰がどのタイミングで確認するか」という話に変えていけたんです。

現場の声と、協働プロの整理する力がかみ合ったことが大きかったと思います。こちらとしても、ただ作ってもらうというより、一緒に直していく感覚がありました。

事務処理は2時間から45分へ。空いた時間が、売上をつくる仕事に変わっていく

ーー協働日本との取り組みを通じて、事業にはどのような変化が生まれましたか。

尾野:
一番はスピードです。事務処理のスピードが上がりましたし、色の間違いや出荷時のシール間違いも減りました。

以前は、事務担当が色を書き忘れたり、マーカーが引かれていなかったりすると、制作側や出荷側で見落としが起きる可能性がありました。今は、必要な情報が明確に表示されるので、確認しやすくなっています。

成果としてわかりやすいのは、事務処理時間です。以前は30件ほどの注文処理に約2時間かかっていましたが、導入後は45分ほどに短縮されました。毎日20〜30件の注文が入るので、この差は大きいです。週にすると5時間以上の削減になります。

ーー事務方以外にも効果はありましたか。

尾野:
あります。制作チームへの効果も大きいです。制作は私以外に3名いますが、たぶん一番メリットを感じているのは制作担当かもしれません。

以前は、マーカーが引かれた注文書の中から、何色の商品に何を彫るのかを探していました。今は、必要な情報が明確に書かれているので、確認が早くなっています。制作の効率も上がっていますし、ダブルチェックにかかる時間も減っていると思います。

出荷も同じです。シールや帯、掛け紙などの情報が明確に書かれているので、出荷作業も早くなっています。事務だけで1時間以上短縮できていますが、制作や出荷まで含めれば、1日あたり2〜3時間くらいの削減効果が出ている可能性もあると思います。

ーー空いた時間は、どのように活用されているのでしょうか。

尾野:
もともと、今回の相談では「業務改善をするか」「ECの売上を伸ばす相談をするか」で迷っていました。ただ、ECの売上を伸ばしても、バックヤードがうまく回らなければ意味がありません。だから、まずは業務改善を優先しました。

結果的に、業務が効率化されたことで、ECページの改善や顧客管理に時間を使えるようになってきました。以前は、注文を処理して発送したら、それで終わりになっていた部分もありました。でも本当は、これまで購入してくださったお客様のデータを活用して、リピーター施策やメルマガなどにも取り組めるはずです。

今は、空いた時間で顧客管理を徹底できるようになってきています。過去の注文書や完成品写真を探しやすくすることも、クレーム対応やリピート対応に役立ちます。

ーー売上面でも変化が出始めているのでしょうか。

尾野:
今年1月から5月まで、楽天の売上は前年をすべて上回っています。多い月では前年比150%くらいまで伸びました。5月は前年が約108万円だったのに対して、今年は約168万円まで伸びています。

これは、単に帳票を変えたから売上が上がったというより、業務時間が空いたことで、売上をつくる仕事に時間を使えるようになったことが大きいと思います。

うちでは、事務の中でも店長や主任には「売上をつくる仕事をしてください」と伝えています。その他の方には「売れたものの対応をしてください」と役割を分けています。業務改善によって時間が生まれると、売上づくりや新しい商品開発、新規開拓にも取り組めるようになるんです。

パートさんにも長く、喜んで働いてほしい。業務改善は“働きがい”にもつながる

ーー社員やパートの皆さんは、今回の変化をどのように受け止めていますか。

尾野:
見やすくなったことについては、みんな高評価だと思います。ミスが減れば、余計な残業も減ります。確認作業が減ることで、精神的な負担も軽くなります。

私は、パートさんにも喜んで働いてほしいし、長く働いてほしいと思っています。そのためには、頑張ったことがきちんと評価される仕組みも大事です。実際に一部のスタッフには歩合給もつけています。自分が頑張って売上が上がれば、自分の給料も増える。そうなれば、もっと前向きに働けると思うんです。

ーー「自分の好きなことを仕事にする」という考え方ともつながりますね。

尾野:
そうですね。自分が好きなコンテンツを選んで、仕事を取ってきて、売上をつくる。売れたら評価される。これは働く側にとっても、会社にとってもいい形だと思います。

今回の業務改善は、単に時間を短縮するだけではありません。空いた時間で、新しいことに挑戦できる。社員やパートさんが、自分のやりたい仕事を実現できる可能性が広がる。そこにも意味があると思っています。

「AIだけでは、ここまで自社に合うものにはならなかった」

ーー協働プロ、協働サポーターの印象について教えてください。

尾野:
横町さん、渡辺さんには本当にお世話になりました。お二人とも協働日本の協働プロとして関わってくださったのですが、印象としては、こちらの課題を理解し、解決に向けて具体化していく力が非常に高い方々だと感じました。

毎回、「そこまで考えてくれるのか」と思う場面がありました。こちらがうまく言葉にできていない困りごとに対しても、現場の状況を踏まえながら、「それなら、ここを変えるとよさそうですね」と形にしてくれる。まさに、痒いところに手が届くような関わり方でした。

ーーなるほど。尾野さんをはじめ現場の皆さんの課題に寄り添った提案を行うことができたのですね。

尾野:
はい。これまでには、銀行さんや商工会さんからの紹介で、専門家派遣を利用したことがありました。ECのアドバイザーや、会社全体のコンサルタントのような方に来てもらったこともあります。

もちろん、それぞれ学びはありました。ただ、今回の協働日本との取り組みは、より実務に直結していました。こちらの悩みを聞いて、現場を見て、実際に手を動かしながら解決策に落とし込んでくれる。そこが大きく違いました。

今までの専門家派遣で得られる答えは、今の時代ならAIでもある程度出せるかもしれません。でも、今回協働日本さんと取り組んだことは、自分たちがAIを使っても無理だったと思います。

AIだけで作れば、一般的に見やすい資料にはなるかもしれません。でも、うちの店のこと、現場の動き、制作担当が水や砂を使いながら紙を見ること、出荷担当がどの情報を探しているのか。そこまで深く理解した上で、今のようなフォーマットを出すことはできなかったはずです。

現場を見て、対話して、何度も修正してくれたから、うちに合うものになりました。そこが一番大きいと思います。

経営者はもっと頼っていい。問題が改善することを知らない人が多すぎる

ーーこうしたプロ人材との取り組みは、今後広がっていくと思われますか。

尾野:
広がっていくかどうかは、正直わかりません。ただ、それは協働日本さん側の問題ではなく、経営者側の問題だと思っています。

周りを見ていると、外部をうまく活かすことで問題が改善することを知らない経営者が多すぎると感じます。銀行さんと話していても、周りでいい話をあまり聞かないという声は多い。でも、そういう状況でも、こうした支援を活用しない人がたくさんいる。

今回協働してみて、費用対効果の高さに驚きました。実際、これだけ自社に合わせた仕組みをつくろうと思えば、普通に依頼したら数百万円、場合によってはもっとかかると思います。それくらいの価値がありました。

ーー身近な経営者にもおすすめしたいと思いますか。

尾野:
おすすめしたい人はたくさんいます。地元の経営者や後輩にも、「よかったで」と伝えたいです。

特に、自社に合った仕組みをつくりたい人には合うと思います。参加すれば、いろいろなものが解決する可能性がある。もちろん、経営者自身が課題を出して、向き合う必要はあります。でも、本気で変えたいと思っている会社には、すごくいいと思います。

ーー今回、他の経営者とリアルに集まる機会もあったそうですね。

尾野:
はい。それもよかったです。同じ経営者同士で集まると、お互いの悩みを共有できます。きれいな話だけではなく、悪いところも言えるし、「実はこんな実態だった」と話せる。そういう場があること自体も、価値がありました。

自分たちだけが苦労しているわけではないとわかることもありますし、他社の悩みを聞くことで、自社の課題も見えやすくなる。伴走支援そのものに加えて、経営者同士で率直に話せる場があったことも、今回参加してよかった点の一つです。

「奈良県で、ギフトと言えばガラス彫刻工房ONO」と言われる会社へ

ーー今後、今回の取り組みをどのように広げていきたいですか。

尾野:
まずは、楽天以外の他モールにも対応していく必要があります。今回の仕組みは楽天をベースに進めてきた部分があるので、Yahoo!やau PAYなど、他モールの管理も強化していきたいです。

また、新商品が出たときにはリストの更新も必要になります。現状では、新人が簡単に更新できる状態ではない部分もあるので、そこも改善していきたいです。

今回の取り組みで得られた成果をさらに広げるために、SKU別の管理強化や、制作部・出荷部との連携強化も進めていきます。現場の声を大切にしながら、誰でも使える仕組みづくりを追求していきたいです。

ーー会社としての目標についても教えてください。

尾野:
私たちは「小さくても強い会社」を目指しています。大きな会社になることだけが目標ではありません。少人数でも、強みを持って、いい商品をつくり、お客様に選ばれる会社でありたい。

まずは奈良県で、「ギフトと言えばガラス彫刻工房ONO」と言われる会社をつくりたいです。そのためにも、現場が無理なく回る仕組みを整え、売上を伸ばす仕事に時間を使える状態をつくっていきたいと思っています。

取り組み成果発表の様子

経営者が明るくなれば、日本も明るくなる

ーー最後に、協働日本へのメッセージをお願いします。

尾野:

経営者が頑張って、会社が元気になれば、経済が回ります。経営者が明るくなれば、日本も明るくなると思うんです。

もちろん、広がっていくためには、経営者にちゃんと刺さる伝え方も大事だと思います。今回のように、C’sくらいの規模の会社に対しても、ここまで徹底的に伴走してくれる。その価値がもっと伝われば、協働日本の取り組みはもっと広がっていくと思います。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

尾野:
ありがとうございました。

この記事の取り組みは、株式会社協働日本のAI・デジタル活用伴走支援「デジコーチ」です。

AI・デジタルに強い協働プロがコーチとして入り、社員の方が自分で使えるようになるまで伴走します。デジコーチは、日本全国の地域の中小企業様100社以上にご導入いただいています。製造業、食品、飲食、小売、工務店など、業種はさまざまです。

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尾野 貴昭/Takaaki Ono

株式会社C’s(ガラス彫刻工房ONO) 代表取締役

奈良県香芝市を拠点に、オーダーメイドのガラス彫刻や記念品制作を手掛ける「ガラス彫刻工房ONO」を運営。2012年に創業し、2017年に株式会社C’sを設立。サンドブラスト技法やUV印刷技術を活用したオリジナルギフトの企画・製造・販売を行っている。

大学卒業後は自動車業界に従事。その後、営業職を経験するなかで「ものづくり」への想いを再確認し、ガラス彫刻の世界へ転身。お客様の想いを形にする一点物の作品づくりを信条としている。

阪神タイガース承認グッズをはじめ、プロ野球チームやプロスポーツクラブの記念グッズ制作、企業向けオーダーメイド製品など幅広い実績を持つ。また、独自のガラス印刷技術で実用新案を取得し、東京ギフトショーへの出展などを通じて地域発ブランドの発信にも力を注いでいる。

経営理念は「お客様の想いを形に変え、感動を届けること」。地域イベントへの参加や社会貢献活動にも積極的に取り組み、奈良県香芝市の活性化にも尽力している。

協働日本事業については こちら

VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –