STORY:株式会社山岸製作所 山岸晋作氏 – 協働日本は中小企業にとっての「最強の人事部」。変化に勝ち抜く地域企業の組織戦略とは –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社山岸製作所 代表取締役社長の山岸 晋作氏にお越しいただきました。

株式会社山岸製作所は1936年創業の金沢の家具販売会社で、輸入家具やインテリアの販売、内装工事設計・施工のほか、オフィスのトータルプロデュースも手がけ、家具・インテリアの販売だけではなく新しい「暮らし方」「働き方」を売る会社としても注目を集めています。

また、社員の自主性を育む企業でありたいと柔軟な働き方や、協働日本との協働を通じて次世代経営者の育成にも力を入れている山岸製作所。

今年10月には、テレワークを活用した柔軟な働き方を体現し、優秀な取り組みを実施している企業に送られる賞「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」を受賞されるなど、注目を集めています。

インタビューを通じて、協働プロジェクトを続けてきたことによる成果、変化や得られた学び、これからの期待と想いについて語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

▼過去のインタビュー記事も合わせてご覧ください

STORY:山岸製作所 山岸晋作社長 -挑戦する経営者にとって、協働日本は心強い伴走相手になる-
https://kyodonippon.work/post-2325/

STORY:山岸製作所 山岸氏・奥永氏 -幹部の意識変革が地域企業の組織を圧倒的に強くする-
https://kyodonippon.work/post-3610/

企業の課題や、事業のフェーズに合わせて「人材育成」に伴走。

ーー本日はよろしくお願いいたします。協働日本とのお取り組みも3年目になりました。協働をスタートしたきっかけから、ここまでの歩みについて、改めてお聞きできますでしょうか?

山岸 晋作氏(以下、山岸):はい、よろしくお願いいたします。

協働日本との出会いは、金沢で事業を展開している発酵食品の老舗、四十萬谷本舗の四十万谷専務からのご紹介でした。

当時、事業について悩んでいた際に四十万谷さんとの会話の中で「相談相手として、良い人がいるよ」と紹介していただいたのが協働日本代表の村松さんでした。

かねてより四十万谷さんが都市圏の複業人材と協働型のプロジェクトに取り組んでおり、成果を挙げられいると聞いていたので興味を持ち、何度かお話を重ねるうちに弊社でも協働をスタートさせるに至りました。

ーー最初に取り組まれたのは、売上向上のための社員教育だったのですね。

山岸:はい。暮らし方を提案する、弊社のインテリアショールーム「リンテルノ」 での売上を向上させるため、社員教育の支援をお願いしたのがはじめのプロジェクトでした。

背景には当時、取り扱う様々なブランドを代理販売するこれまでのビジネスモデルの見直し、いつしか単に物売りになってしまっていることへの危機感を感じていたことがありました。

今、山岸製作所は、これから売っていくべきものを「暮らし方」そのものと定義しています。
そのためには山岸製作所の存在意義や、なぜこのブランドを取り扱うのか、自社の中で明確な言語化を進めておかなければ、いずれ行き詰ってしまうだろうと考えました。

さっそく社員教育として、協働日本に所属する協働プロの方々と、弊社のショップリーダー3名とでチームを組んで取り組みがスタートしました。

私たち一人ひとりが売っているものはすなわち何なのか、提案する「より良い暮らし」とは何か。
これからの山岸製作所にとって重要な価値観を、メンバーそれぞれで悩み時に意見をぶつけながら考えていきました。そうしていくうちに、それぞれが納得感を持って日々の販売や新たな戦略に携わっていけるようになりました。

とはいえ、この頃はまだ事業の回復に向けて必死だった時期。
社員教育そのものの捉え方も、未来への投資という考え方よりも、目先の売上向上のための販売力強化という意識が強かったかもしれません。

山岸製作所のショールームで協働プロと議論を重ねた

ーーなるほど。更なる取り組みとして、翌年の2023年には協働日本の提供する『経営リーダー育成プログラム』へ企業幹部が参加し、経営人材としての視座向上に取り組まれていましたね。

山岸:これをきっかけに、組織を蘇らせようという危機対応フェーズから、中長期的な成長を意識した組織の成長フェーズに舵を切りました。私の意識も、未来のためここで変わっていこう、変えていこうという方向に向いていました。

そこで必要になるのが組織の中核になる存在です。組織の成長に向き合った時、社長である私自身と幹部たちの間に見えない距離があることを課題に感じはじめていました。

その正体は何かというと、経営をしていく上での根っこの部分、価値観のすり合わせができていないことです。
どうやって、両者の価値観のすり合わせればいいのか。どのように幹部候補の成長をサポートすればいいのか。社長ひとりの頭の中では解決策が浮かばず、悩んでいました。そんな時、協働日本代表の村松さんから「協働日本では企業の幹部育成にも取り組んでいる」という話を伺いました。

リンテルノの販売力を、人を育てることで向上させてきた協働日本さんに、今度はより長い目で見た時に必要となる人材育成をお願いしたいと思うようになりました。
それが『経営リーダー育成プログラム』をお願いしようと決めた経緯です。

この時は、幹部候補の2名──初年度から伴走支援を受けているリンテルノのリーダー西島と、営業・オフィス戦略マネージャーの奥永の両名に挑戦してもらうことにしました。

『経営リーダー育成プログラム』は、協働プロによる幹部への伴走とメンタリングによって、企業幹部を経営者リーダーとして育成するものです。
ワークショップのセッション、事業開発のメンタリングと、コーチングからなるプログラムで、改めて自分と会社の存在意義を考え、組織を動かす幹部としての視線の醸成・意識の変革を目指すという内容でした。

結論から申し上げて、このプログラムは非常に効果が大きかったと感じています。
その理由は、当初の狙い通り、私の価値観───例えば未来に向かってのビジョンや、会社をどうしていきたいかということに対して幹部候補たちと相互理解できただけでなく、彼ら自身の中に燻っていた熱い想いを、彼らの言葉で言語化できたことにあります。


山岸:プログラムに参加した幹部のひとり、奥永の振り返りでは、「協働日本の提供するプログラムを受け、自分自身や会社のことにあらためて向き合い、それらの存在意義について徹底的に、そして絶え間なく考え続ける時間を持てたことによって、頭の中のピースがつながるようになった。確固たる判断軸ができた」と話してくれました。

仕事のこと、経営のこと、会社の理念なども、実際に経営者のお客様と話しているときなどに話がすっと入ってくる・何を言っているかわかるようになったと。

私から見ても、私と彼との間でも交わす言葉がのチョイスも重なってきたと感じました。

そんな時、彼自身の変化に気づいた時、「どうしてそうなった?」と質問すると「自分の中の存在意義と会社の存在意義が重なった部分に気づいてから、前に進み出した気がする」という答えが帰ってきたんです。とても印象的でしたね。

また、主語が「会社」から「自分」になる場面が増えたとも言っていて。それまで「会社のためにこうすべき」で思考が止まっていたことが、徐々に「会社がこうなったらいいなと思っているから、自分がこうやって進めたい」という主体的な言葉に変わっていったんです。この頃には実務の中でも「自分がやります」という言動が増えてきていました。

外からの刺激や圧力よりも、内なる声を聞くことのほうが、より人を強く動かす。行動する背中を押す力になるんだと、私にとっても学びになりました。

社長という立場ゆえに感じることですが、内部の人間だけで価値観をすり合わせ、会社の未来を自分事化させて内なる声を引き出すことはとても難しいことです。

いつも一緒に仕事をしている社員同士や、取引先とのやり取りというのは、いわば安全地帯、「コンフォートゾーン」です。同一的な環境にずっと身を置いていると、自分にとってそれがコンフォートゾーンであるということにすら気づくことができません。

外からの刺激があって初めてそれに気づき、コンフォートゾーンを意識することができます。そうしてはじめて、そこに身を置くべきか、そこから飛び出してチャレンジした方が良いのかという選択ができるようになります。

プログラムに参加すれば誰でも同じように結果が出るかといえばそうでもありません。変革のための「意識の種」が必要で、今自分がやっていることに何かしら違和感や「このままでいいのか?」という想いを抱いていたメンバーだったからこそ、コンフォートゾーンを飛び出すことができたのだと思います。

協働日本には、事業開発のメンターと、自分自身と向き合うためのコーチングの両軸が揃っています。内なる自分の声を引き出す、『経営リーダー育成プログラム』はそういった変化を生み出してくれました。


ーーありがとうございます。2024年の現在は、どのようなテーマに取り組まれているのでしょうか?

山岸:お話しした、昨年の成功体験があったので、引き続き『経営リーダー育成プログラム』に取り組むことを決めました。今年は、幹部候補の次の役職レイヤーから3名が参加しています。

ーー継続的なプログラムになったんですね!山岸さんの想いを受けて、3名の方も西島さんと奥永さんに続いて大きく変化してくれそうですね。

山岸:実は、今年の取り組みをスタートさせる時に背中を押してくれたのは昨年の参加者の西島と奥永だったんですよ。

協働日本の伴走支援を受けた2人がその価値を理解して、後輩達にも受けてみてほしいと。越境学習の効果を語り、社内への説得を後押ししてくれました。今では、プログラムを受けながら日々成長している3人の姿を、皆で見守っています。

ーー1年間のプログラムを受け終えた時の姿が今からとても楽しみですね。

山岸:そうですね。前半のワークショップと毎週のセッションを終え、今は2週に1回の実装フェーズに入っています。

でも、実を言うと今年のプログラムで一番学ばせてもらっているのは私かもしれないと思っているくらい、彼らのセッションの中には気づきが多いです。

セッションの録画を毎回見ているのですが、協働プロと3人のやり取りの中で見えてくる課題こそが、驚くことに山岸製作所の課題そのものなんですね。

それは、彼らがより現場レイヤーに近いからこその視点ということもありますが、今、山岸製作所にとって必要なことは何か?がリアルに見えてくるので、実際に経営会議で議題としてあげたものもあります。

毎週の朝礼で私の考えを話しているんですが、伝えたいことが伝わっていない、こんな伝わり方をしているんだという発見もありました。
例えば、山岸製作所では個々の自主性を引き出していくことを大切にしていますが、それを「個人商店」のように捉えら大きなプレッシャーを感じている社員もいるということも、彼らの視点から見えてきたことの1つです。

それぞれに違う切り口ではありましたが、3人とも共通して「どうやってメンバー同士助け合えるか、孤立しない組織にできるか?」を本質的にやりたいことと考えて、取り組んでいたんです。

山岸製作所では、自主性を引き出すために働く時間も場所も自由で、裁量権多く仕事をしていける環境を整えています。
しかし、現場レイヤーの視点で考えると、自由な環境ゆえに、メンバー同士が団結して助け合っていく意識がないとかえって個々の仕事や責任を全うすることが難しいと感じていた。3人のセッションから出てくるそういった投げかけは経営課題の本質に迫るものでした。

自由な環境だからこそ、社員を孤立させてはいけない、メンバー同士が繋がってプレッシャーを補いあって、個の集団でありつつも、より強固なワンチームになっていく。これをどう具現化していくか、経営レイヤーでも取り組んでいきたいと思っています。

「彼らの見ている山岸製作所」から一番学びを得ているのは紛れもない私自身で、経営者として方向を修正することが出来ているのは、繰り返しになりますが、やはり貴重な機会ですよね。

社員の学びを支援する、柔軟な働き方が評価され、総務大臣賞を受賞。

ーー今年のお取り組みといえば、10月には、テレワークを活用した柔軟な働き方を体現し、優秀な取り組みを実施している企業に送られる賞「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」も受賞されています。受賞に至る背景についてもお話お伺いできますか?

山岸:はい。きっかけは2023年の秋に北陸総合通信局(総務省の地方支分部局)主催のイベントに登壇したことです。

そこで山岸製作所の働く環境、テレワークの取り組みについて紹介したことが北陸総合通信局の中で話題になったようで、今年のテレワークトップランナーへの応募を勧められ、山岸製作所では長くテレワークの取り組みを進めていあこともあり、折角の機会だからと応募したところ、全国で3社しか選ばれない総務大臣賞をいただくことに。

山岸製作所にとってのテレワークは、売上向上や業務の効率化を目的としているというよりは、社員の自主性を育む組織であるための手段だと考えています。

管理や制約などの枠組みを取り払って、自分がやりたいことに向かっていく方が、絶対成果が出てくると思っていますし、それを実践している会社であり続けようと取り組んできました。

テレワークというと自社の社員がどこで仕事をするか?ということや再現性、効果についてフォーカスされがちです。

私はそれだけでなく、山岸製作所が社外の方と一緒に仕事をする、コミュニケーションをとることのハードルを下げることができることにこそ、「テレワーク」を推進していくメリットがあると考えています。

テレワーク環境・理解が整えていくことで、時間的・距離的なボーダーをなくすことができるので、山岸製作所に関わってくれる全ての人にとってもコミュニケーションがとりやすくなる。私たちをサポートしてくれる人たちの力を最大限活用できる仕組みづくりに繋がると思うんです。

実際、早くからそういった取り組みを進めていたからこそ、物理的な距離があっても、協働日本の協働プロの皆さんとの取り組みもすぐに始められましたし、リモートで行なっている協働プロジェクトから多くの成果が生まれました。

総務大臣賞を受賞。受賞3社の中で唯一の地方企業となった。
引用元 「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」等の公表


ーー山岸社長が大切にされてきた、自主性や個の成長を育むための環境整備が受賞に繋がったのですね。この賞は山岸さんが大切にしている、「山岸製作所らしさ」が体現されていますね。

山岸:「社員、スタッフ皆を信頼して自主性を引き出した方が成果は出る」ということを信じられないとテレワークを推進することは難しいと思うんです。

遠距離恋愛と同じで、一度疑い始めたらきりがないし、うまくいかなくなってしまう。やっぱり山岸製作所では社員全員を尊重し、時に協働日本のような社外の力も借り、信頼しあってそれぞれが成長をしていける、そんな組織でありたいと思います。その形が生んだ成果と取り組みを評価いただけたことは、とても嬉しいことです。

こうやって改めて協働日本との取り組みを振り返ってみると、初年度はまだまだ利益偏重主義、目先のことで必死でしたね。一緒に取り組みを進めていく中で徐々に売上も体制もようやく整い出し、ようやく未来を考えられるようになってきている今、あらためて変化を実感します。

私自身も月に1度、代表の村松さんにメンタリングをお願いしています。
村松さんからいただいた課題や問いに対して、自分はどうありたいか、どうあるべきか、どう取り組むか徹底的に考え、言語化していく。その時間を通して、自分で自分の視座を上げていく貴重な時間です。

私のそういった取り組みを見て、社員のみんなも頑張らなくちゃと思ってくれる。
「これをやりなさい」と上から与えるのではなく「一緒に頑張ろう」という姿を見せることで、共に成長していける手応えを感じます。

社員を信じて働き方を柔軟にし、学びや成長の機会をどんどん作ることで、それを企業の成長につなげていく。この文化を守っていきたいと思います。

協働日本は中小企業にとっての「最強の人事部」ではないか

ーー最後に、これから取り組まれたいことや、協働日本に期待されていることがあれば教えてください。

山岸:協働日本は、私たち中小企業にとっての、「最強の人事部」だと思っています。

これからの時代に対応するためには、柔軟に生きていく必要がありますが、一方で私たち中小企業には、その都度、人を採用して内製化するだけの時間も余力もなかなか持ち合わせていません。

そこで、協働日本にいる多くの協働プロたちに、その時のテーマに合わせて協力いただけることこそ意義があると思っているんです。

売上向上のため、人材育成のため、採用のため……その時々の自社の課題や事業テーマに対応してもらえるプロがすぐそばにいてくれる。そんな私たちの「最強の人事部」を活用しない手はありませんよね。

例えば具体的にこれからの取り組みについてもお話しすると、実は来年、福井県への事業進出を決めています。

事業拡大のためのマーケティング支援はもちろん、新しい店舗で働くメンバーたちの教育や心のケアなど、協働日本に引き続きお手伝いいただきたいことがたくさんあります。

福井県の第一号店には、まさに今プログラムを受けているメンバーの1人がリーダーとして赴任することが決まっています。協働日本の伴走支援や育成プログラムは、本人にとっても組織にとっても、既に「実践」の場になってきています。

私はこうして折角、山岸製作所に関わっていただけるのであれば、協働日本や協働プロの皆さんに金銭的なメリット以外の価値も感じていただきたいと思っています。
大手企業に勤めている協働プロの皆さんも多い。地方の中小企業経営のダイナミズムやスピード感は、大企業にはないものがたくさんあります。そこにはきっと、逆に彼らの学びに繋がるものもたくさんあると思っています。

山岸製作所と、伴走してくださる協働日本の皆さんで、win-winの関係で成長しあえる……そんなお付き合いを続けていければと思っています。

これからもよろしくお願いします。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

山岸:ありがとうございました!

山岸 晋作 / Shinsaku Yamagishi

株式会社山岸製作所 代表取締役社長

1972年、石川県金沢市生まれ。東京理科大学経営工学科で経営効率分析法を学び、卒業後アメリカ・オハイオ州立大学に入学。その後、『プライスウォーターハウスクーパース』に入社。ワシントンD.C.オフィスに勤務。2002年、東京オフィスに転勤。2004年、金沢に戻り、『株式会社山岸製作所』(創業は1963年。オフィスや家庭の家具販売、店舗・オフィスなどの空間設計を手がける)に入社。2010年、代表取締役に就任。

協働日本事業については こちら

関連記事

1〜2年目の山岸製作所のお取組についてはこちらもぜひご覧ください。
STORY:山岸製作所 山岸晋作社長 -挑戦する経営者にとって、協働日本は心強い伴走相手になる-
STORY:山岸製作所 山岸氏・奥永氏 -幹部の意識変革が地域企業の組織を圧倒的に強くする-