VOICE:協働日本 枦木優希氏 -本質的な「価値」を言語化し、歴史ある老舗企業の未来に貢献していく-
協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。
今回は、協働日本にてマーケティングを通じた企業支援に取り組む枦木 優希(はぜき ゆうき)氏です。
米国の大学を卒業後、大手飲料メーカーのサントリーへ入社し、オールフリーをはじめとする人気ブランドの戦略策定や新製品開発などを経験。その後、外資大手食品メーカーのダノンや、マースジャパンでマーケティング、ブランディングの経験を積み、その後はアマゾンジャパンでAmazon Prime Videoのマーケティング戦略のシニアマネージャーとして活躍。
現在は独立し、フリーランスのマーケターとして企業、NPOなど複数社のクライアントに対しマーケティングプロジェクトのマネジメントや戦略策定、アドバイザリー業務などを行っています。
協働日本でも、全国の様々な業種業態の地域企業と協働に取り組んでいる枦木氏。協働日本に参画したきっかけや、実際の取り組みの様子、これまでのキャリアの軌跡など、今後、協働日本を通じて実現したい想いと共に、インタビューで語りました。
(取材・文=郡司弘明)
全国各地の地域企業とご一緒できることは、やりがいも学びも多い
ーーよろしくお願いします。枦木さんはこれまで、数々の有名企業でブランド戦略の策定などを推進し、マーケッターとして活躍されてきたと伺っております。現在のお仕事について教えてください。
枦木 優希(はぜき ゆうき)氏(以下、枦木):よろしくお願いします。いまは地域事業者を支援する協働日本での活動のほかに、数社とマーケティング関連のプロジェクトマネジメントや戦略策定、アドバイザリー業務などを行っています。
一社は、デンマークのブランドエージェンシーでブランド戦略の策定を通じて、大企業からスタートアップ、政府機関など幅広く支援をしています。他には、社会的価値とビジネス価値の両立を目指すソーシャルスタートアップでマーケティング戦略のアドバイザーとして働いたり、子どもの放課後をより豊かにすることに取り組むNPOでも活動しており、ここでもマーケティング領域での支援を行っています。
そのほか、都度、様々なマーケティングに関するご相談を企業や個人の方からいただいて、マーケティングに関するアドバイザリーなどをさせていただいています。
ーーまさにプロのマーケッターと呼ぶべきご活躍ですね。現在、協働日本でマーケティング領域のプロフェッショナル(協働プロ)として携わっているプロジェクトはいくつありますか?
枦木:現在、協働日本では5つのプロジェクトを通じて、各地域の企業をご支援しています。それぞれの企業の課題に応じた協働プロによるチームを編成し、その一員として協働型の伴走支援を行っています。
ーー支援先企業は近い業種や業態なのですか?実際に取り組まれていてどのように感じていますか?
枦木:支援先の企業はそれぞれ業種も業態もバラバラです。地域もそれぞれ異なります。しかしどの企業も素晴らしい商品やサービスを持っていて、協働日本との取り組みにも前向きに取り組んでくださっているので、ご一緒している私自身もやりがいがありますし、学ばせていただくことも多いです。
より「人と人との繋がり」が感じられる活動に参加したいという思いが強くなっていた
――枦木さんが協働日本に参画するきっかけはどんなものだったのでしょうか?
枦木:協働日本に参加する前に通っていた「大学院大学至善館」での学びが間違いなくひとつのきっかけです。協働日本代表の村松さんと出会ったのも、その大学院でのご縁でした。
至善館では、哲学、宗教社会学、システム思考、公共政策など幅広い分野をリベラルアーツの一環として学べるカリキュラムだったのですが、そこでの学びを通じて、今まで当然だと思っていて深く考えず前提にしてしまっていた事柄が相対化され、色々な気づきがありました。
その中で資本主義的な物の行き過ぎや、大きなシステムの中に個人の生活が取り込まれてしまうことへの課題意識が自分の中に生まれました。
より人と人との繋がりが見えたり、感じられるコミュニティ起点の活動に参加したいと思っていた中で、卒業生である村松さんが協働日本を立ち上げて独自のスキームで地域企業の伴走支援事業を行っていることを知り、意義に共感して参画を決めました。
――協働日本へ参画したことで枦木さんご自身の変化や、新たに獲得した視点などはありますか?
枦木:今まで複数の企業で働いてきましたが、その中で体験した変化や組織毎の違いと比較しても、協働日本でご一緒する企業が持っている志や背景、課題はより多様で、それぞれがよりユニークだと感じています。
日々のプロジェクトの中で新たな発見があり、自分自身の視野が広がるのがとてもありがたいと思っています。
また、日本のそれぞれの地域が本当に様々な価値を持っていることに気づきます。その多様性が画一的な何かに飲み込まれるのではなく、生き生きと持続していく未来に少しでも貢献できればと思っています。
これまで大切にしてきた強みと、マーケティング思考が組み合わさることで変化が生まれた
ーー枦木さんと地域企業の取り組みについて、全国で素敵な変化が生まれているようですね。いくつか実際の取り組み事例をご紹介ください。
枦木:取り組み先のパートナー企業の一社に「まつさき」という金沢で創業約180年の老舗旅館がいらっしゃいます。こちらとは半年近くプロジェクトで関わらせていただいております。
取り組みのきっかけは、新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあり、社会情勢やライフスタイルが大きく変わる中で、旅館業としてのパフォーマンスを改善していきたいという先方の課題感でした。
協働日本と取り組みをスタートさせた直後から、課題となるテーマの洗い出しをしていくと、平日の稼働率の向上が柱になりそうだということが分かってきました。
今はさらに客単価の高いお客様に来ていただくための価値づくりや、情報発信などの戦略も組み合わせ、複合的な課題にチームで向き合っています。
ーー枦木さんの気付きや、「まつさき」さまに生まれた変化はありましたか?
枦木:歴史も伝統もあり、それに裏打ちされた確かなおもてなしがある。これはまつさきさんの一番の強みだと再認識しました。
世の中の動きの中で、価値がうまく伝わらなくなっていたり、昔ながらのやり方を少し工夫するだけで、その本質的な価値が、再びお客様に伝わるようになってくると思っています。
まつさきのみなさんは、マーケティング上、欠かせない「お客様視点」を元々しっかりと持たれていました。
そのため我々が、フレームワークや仮説立て、検証方法など、新たな視点を提供し、一緒に議論を進めるなかでみなさんの中で生まれた気づきが、これまで大切にしてきた強みとうまく組み合わさり、良い方向に変化が生まれ出してきています。
この変化は、週に1回の打合せの中でも日々変化を感じているところです。外部の目を取り入れたことで大小様々な好循環、化学反応が起きはじめています。
ーー老舗企業の経営者にとって、会社の存在意義や理念をあらためて徹底的に議論できる相手がいることはとても心強いですよね。
枦木:我々協働日本が、孤独な戦いも多い、挑戦する経営者にとって心強い伴走相手になれていれば、こんなに嬉しいことはありません。1936年創業の金沢の老舗家具販売会社「山岸製作所」もパートナー企業の1社なのですが、代表取締役の山岸晋作さんの新しい挑戦に我々も伴走させていただいております。
代表の山岸さんはいま、会社を大きく変えようとされています。それは、輸入家具やインテリアの販売、内装工事設計・施工というこれまでの主力事業を強化するだけでなく、「豊かな生活」そのものを提案できる会社への進化です。
そこで重要なのが、ブランディングを強化していくこと。ブランディングを考えるにあたってまず、山岸製作所自体の提供価値を考えることからご一緒しています。日頃の多忙な業務に追われていると、「山岸の提供する価値」はという本質的な問いを深掘りする時間がなかなか持てませんが、週に一回の伴走型支援の場で我々を壁打ち相手として活用いただき、山岸製作所のブランド価値の言語化を進めていただいています。
週に一回の時間を使って、事業開発と並行して、企業価値そのものの言語化を進めてきたことは様々な好循環を生み出しており、お客様に対するエクスターナルなブランディング施策だけてなく、インターナルブランディングも着実に進みだしています。
400年の歴史と持つ伝統事業者とともに次の時代の新しい価値を作る
ーー枦木さんは、400年を超える歴史を持った薩摩焼の伝統事業者である「荒木陶窯」さまとも協働に取り組んでいます。ぜひこちらも取り組みの様子を教えてください。
枦木:先日、鹿児島へ赴き、現代の名工でもあるご主人の荒木秀樹さんと直接お会いしてきました。
取り組み自体はちょうど2ヶ月目を迎えたところなのですが、実際に窯元を見学させていただき、お話をじっくりと伺っていく中で様々な事が見えてきました。
荒木さんご自身も、薩摩焼の伝統窯として伝統的な価値を守りつつも、時代に合った新しい価値を作っていきたいという想いを強く持たれており、このお取り組みからぜひ新しい「荒木陶窯」の価値を作っていけたらと思っています。
ーーそれはどういった背景からでしょうか?
枦木:インターネットの普及などにより、従来の販売チャネルが急速に変化し、自社EC など新たな購買チャネルへの対応も迫られるなか。お客様に対して荒木陶窯の提供する新たな価値や想いをどのように表現していくべきか。歴史ある伝統的な窯元であるがゆえの悩みに直面されていました。
伝統と技術に裏付けされた評価も既にあり、鹿児島の特産品としての人気も高く、「薩摩焼といえば荒木陶窯」という文脈の中でたくさんのお客様がお店を訪れてくれていました。
しかし、先述の変化の中で、長い歴史に裏打ちされた価値、15代目である秀樹さんが新たに創りあげようとされている価値を、新たな受け手を想定しながら言語化し、適切な形で伝えていくことが一層重要になってくると感じました。
いかに荒木陶窯の新しい挑戦の本質的な価値を言語化し、製品を含めた包括的な体験としてお客様に届けるか、マーケッターとしての自身のこれまでの経験を活かしたいと思います。
新しい視点や切り口が化学反応を生む瞬間にワクワクも生まれる
ーーお取り組みを進めていく中で、パートナー企業の変化を感じる瞬間はありますか?
枦木:プロジェクトの初期段階はお互いを理解するフェーズで少し緊張感があったりもしますが、一度一つのチームになると色々なことが有機的に進み始める感覚があります。それが「協働」というアプローチの良いところだと感じています。
プロジェクトでご一緒される経営者の皆さんは、誰よりも事業のことを考え、日々、試行錯誤をされています。事業に対しての志を共有しながらも、協働メンバーが提供する新しい視点や切り口が化学反応を生み、経営者の方がワクワクし始め、チームとして取り組みが進み始める瞬間に立ち会えると嬉しくなります。
国内外の企業で積み重ねてきたマーケッターとしての経験を活かしていきたい
ーーそんな枦木さんはこれまでマーケッターとしてのキャリアをどのように歩んできたのか、これまでのキャリアについてもお聞かせいただけますか。
枦木:大学時代はアメリカで過ごしており、テキサスの大学を出ています。卒業後は日本でサントリーに入社しました。 そこで飲料やビールのブランディング業務に携わることになりました。
ものづくりがしたい、その商品の価値を広めていきたい、という思いで入社した会社でしたので、希望する部署で仕事ができたことは、本当に幸運でした。
ーーその後、ご転職をされたわけですが、どんなことがきっかけだったのですか?
枦木:沢山のことを学んだ会社で、入社から多様な製品やプロジェクトに関われたことは大きな財産となっています。
6年ほど勤めているなかで、マーケティング、ブランディングの領域を自身のキャリアとして考えるようになりはじめました、「他の会社ではどんなアプローチをとっているのだろう?」などと色々興味が出てきて、まだ、血気盛んな若者だったこともあり(笑)、最初の転職を決意しました。
ーーその後のキャリアについてもぜひお聞かせください。
枦木:転職先のダノンジャパンではブランドマネージャーとして子ども向けのヨーグルトのブランドを担当することになり、より広くマーケティング、ブランディングの経験を積むことができました。自分のアクションやその結果がよりダイレクトな形で自分に戻ってくる、外資系企業ならではの面白さを知ったのもダノンでの経験でした。
そこから、マースジャパンで複数のブランドをマネージメントする役割につき、メンバーの育成や、複数のマーケットで展開するグローバルプロジェクトをリードする経験を得ることもできました。
その後、楽天に転職してマーケティングのキャリアを積む一方で、大学院に通いはじめ様々な学びを得たことも、冒頭でお伝えしたように、その後のキャリアを見つめ直すきっかけになりました。
仕事の方では、アマゾンジャパンの動画サブスクリプションサービス、Amazon Prime Videoのマーケティング戦略のシニアマネージャーとしての仕事を経験し独立、現在という流れです。
いま協働日本での協働を通じて、日本の地域企業や老舗企業の可能性を広げ、価値を最大化していく取り組みをしていますが、これ自体もWHYの部分に共感してスタートした取り組みなので大きなやりがいを感じており、自分自身が求めていた働き方が実現できています。
人や知恵が連携するきっかけになるような組織へ
――それでは、最後の質問です。これから協働日本はどうなっていくと思いますか?
枦木:協働というコンセプトを中心に、日本に存在する色々なモノゴトの間にある様々な垣根をしなやかに越えて、人や知恵が連携するきっかけになるような組織になったら面白いと思います。ちょっと意外な化学反応が日本各地で起こるといいなと思っています。
――インタビューへのご協力ありがとうございました!
枦木:ありがとうございます!私はもちろん、所属するすべての協働プロが、地域企業との取り組みに熱い想いを持っています。協働日本が提供する伴走型支援にご関心ある地域企業様はぜひお声がけください。
枦木 優希
Yuki Hazeki
フリーランスマーケター
大学卒業後、サントリー(株)に入社。飲料事業、酒類事業において複数のブランドのブランド戦略策定や新製品開発などを経験。その後、ダノンジャパン、マースジャパンにおいてグローバルブランドのマネジメントやマーケティングチームの育成などに従事。アマゾンジャパンでは、プライムビデオ・シニアマーケティングストラテジーマネージャーとして課金サービスのマーケティング戦略策定を行う。現在は、フリーランスとして企業、NPOなど複数のクライアントに対してマーケティング関連のプロジェクトマネジメント、戦略策定、アドバイザリー業務などを実施。
専門領域
事業戦略、ブランド戦略、マーケティング戦略、商品開発戦略
人生のWHY
「人間」らしくやりたいナ
枦木優希氏も参画する、協働日本事業については こちら