STORY:コマニー株式会社 塚本 直之氏 -広報チームから社員全員に波及した「間づくり」への挑戦と熱量-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、コマニー株式会社 取締役 常務執行役員の塚本 直之氏にお越しいただきました。

コマニー株式会社は1961年に設立、国内パーティションのトップメーカーとして開発・設計・製造・施工をワンストップで行っています。現在は、「間」を扱う企業としてドメインを広げ、「間づくりカンパニー」として幸せをカタチにするメーカーへと変化しようとしています。

「パーティション」というとオフィス製品のように感じるかもしれませんが、大型商業施設の内装や、羽田空港のお手洗いの内装にもコマニー社の製品が使われているそうです。

日本人として暮らしていれば、同社の製品に触れずに過ごすことはできないほど、コマニー社はあらゆる「間づくり」に関わっているのだといいます。協働日本との伴走で現在、「間づくりカンパニー」としての更なる一歩を踏み出されています。

協働プロジェクトに取り組んだことによる変化や感想、今後の想いを語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

「稼げる広報」を目指して──新しい広報チームのチャレンジを協働日本と共に。

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは協働日本との取り組みがスタートしたきっかけを教えていただけますか?

塚本 直之氏(以下、塚本よろしくお願いいたします。

協働日本との出会いは、金沢大学の産学連携協力会に参加した際に、「副業人材に関するセミナー」でお話を伺ったことです。

当社はBtoBのパーティションメーカーとしてここまで事業展開してきましたが、今後は今以上に価値を提供できる企業に昇華する必要があると感じていた中でセミナーを聞き、パラレルに仕事に取り組んでいる「複業」人材との協働という形が、率直に面白いと感じて、ぜひご一緒したいと思いました。

ーー会社に持ち帰られて、検討される際にハードルになった点はありましたか?

塚本:実は、会社としてのハードルは全くありませんでした。直感的に「やりたい!」と考え、まずは私が管轄する部門から取り組みをスタートすることにしたからです。

セミナーでお伺いした事例では、会社の方向性やブランディング、広報など「その企業は、そもそもどんな企業なのか」という部分を今一度振り返って考えるといったものが多く、私の管轄部門である経営企画や広報との親和性をとても強く感じていました。

ちょうどその頃、弊社でもより一層広報活動に力を入れていきたいと考えていたタイミングでもありました。広報といえば、地域の新聞や電柱の看板などに広告を出稿するくらいで、長らくあまり力を入れてこられていませんでした。

近年になってようやく「コマニーという会社をより深く知ってもらおう」と、企業姿勢を伝える広報を始めました。また、ECサイトなどを通じての販売戦略を取る企業も増えていますし、弊社でも広報チームが中心となってECサイトを立ち上げ、ただ伝えるだけじゃない「稼げる広報」を目指そうという指針を作っていました。

そこで協働を通じて「稼げる広報」をキーワードとした広報チームの活動を進めたいと考え、協働日本に依頼しました。

ーーなるほど、ご相談を頂いたタイミングで協働の方向性は、ある程度決まっていたんですね。伴走支援がスタートしてからは、具体的にどんなお取り組みをなさっているかお聞きできますか?

塚本:はい。週に1度のオンラインミーティングを通じて、広報チームの取り組みに伴走していただいています。協働日本からは、CSOの藤村昌平さんと、協働プロの遅野井宏さんのお二人にプロジェクトに加わっていただきました。

藤村さんは(株)ライオンで新規事業を推進されていますし、遅野井さんはオフィス環境改善やオフィス家具などの業界での経験も豊富な方でしたので、安心してプロジェクトのリードをお任せできました。

当社からは、経営企画部の広報チーム4名が参加する形で、合計6名が中心となって議論を重ねていきました。

協働が始まる半年前にチーム方針として決めた「稼げる広報」というテーマですが、チームメンバーたちはやはりどうやって従来の広報から「稼げる広報」に変わっていけばいいのか悩んでいました。協働日本による伴走がスタートしたことで、コマニーの掲げる「間づくり」とは何か?という根本的な部分に立ち返ることができ、より深く考えるきっかけになったと思っています。

コマニーの広報チームと協働日本メンバーの定例オンラインミーティングの様子

今一番必要なのは、コマニーの考える「間づくり」をユーザーに届けること。「間づくり研究所」の誕生へ

ーー実際に協働がスタートしてから感じられたチームの変化などはありますか?

塚本:はい。当初私たちは「稼ぐ広報」としてすべきこととして、ECサイトの立ち上げなどを通じて、具体的にB2Cへの展開や、ユーザーとの接点を増やす施策を打たなければならないと考えていたんです。

なので、伴走していただくテーマも、はじめはそういったEC展開や戦略をイメージしていたんです。しかし、協働プロの皆さまとの対話を重ねるたび、私たちが進めている「間づくりカンパニー」としての取り組みを加速させていくことが大事だと気づいて、ECサイトの展開強化ではなく、「間づくりカンパニー」としての取り組みと言語化に集中するようにしました。

そこで生まれた、目に見える変化のひとつとして、「間づくり研究所」の立ち上げが挙げられます。

コマニーが運営する、「間づくり」を探求し、実践するための研究所

ーー「間づくり」というのは、パーティションをはじめとする空間づくりの製品を作られている御社らしいテーマですね。

塚本:そうですね。製品を活用した「空間づくり」、よりもさらに一歩踏み込んだ「間づくり」を考えているんです。「間」という言葉には、時間、間隔、句切り、空間、部屋、余暇、チャンスや運など、実に様々な意味が含まれていますよね。当社では、「間」とは二つ以上の要素が生成する関係性であると捉えているんです。

「間づくり」とは「人間」を中心に、「時間」や「空間」そして「手間」を考え、組み合わせていくことで「すぐれた間を生成すること」と定義しています。

そして、研究所での活動を通じて「すぐれた間とは何か」を追求し、実践を積み上げることで、「間づくり」を社会に実装していきたいと考えています。

ーーなるほど。協働日本への依頼当初に描いていたECの展開イメージから、大きな転換があったんですね。「間づくりカンパニー」としての活動やブランディングが重要だと気づいたきっかけは、どんなところにあったんでしょうか?

塚本:初期の段階で、藤村さんと遅野井さんから「結局何がしたいのか?」「ECサイトで売れることがコマニーにとってのゴールなのか?」という問いをいただいたことがきっかけです。

その言葉にはっとして、あらためて皆で考えていった結果、「営業が24時間売り歩いていなくても、弊社の製品を必要としている人が声をかけてくれるようになりたい」という、やりたいこと、目指したいものが見えてきたんです。

それであれば、今すべきことはECサイトで製品を売ることではなくて、もっとコマニーの「間づくり」について知っていただくことではないかという結論に至りました。

また、これまでは弊社の製品を代理店に販売してもらうことが圧倒的に多かったので、ユーザーの声を聞く機会が十分にとれていなかったんです。もっとユーザーとの接点を増やしエンゲージメントを高めていきたいという思いにも気付くことができました。

つまり、「稼げる広報」とは何かと考えていくと、「ユーザーとのタッチポイントを作ること」ではないか?コマニーにとって本当に必要なことは「間づくり」の姿勢をユーザーに届けていき、知ってもらうことではないか?と思い至ったんです。

ーーそして生まれたのが「間づくり研究所」だったと。

塚本:はい。企業姿勢をもっと見せていこう、という方針が見えてきても、それは風が吹けば桶屋が儲かるの「風を吹かせる」の部分のようなもので…ただひたすらに発信をしていってもどこでどのように売れるかわからないわけです。

そこで、この「間づくり」の発信はどういう活動に落とし込めばいいか?ということを考えることに、かなり時間をかけました。その中で外部に発信するためのHPを作成して、活動を展開していこうということになって「間づくり研究所」のHPが完成しました。


活動の4つの柱「IDEA」を掲げるというアイディアも、協働の中から生まれたものです。

「間づくり研究所」の活動 4つの柱(間づくり研究所 パンフレットより)

塚本:具体的な活動の例としては、2023年4月下旬に開催された「オルガテック東京2023」という家具の見本市のイベントで、従来のように「コマニー(株)」としてではなく、「間づくり研究所」として「間」を体感いただくブース出展したことが挙げられます。

研究所の設立からは約半月程度でしたが、見本市でブースにお越しになったお客様は3,500名に上り、そのうちアンケートにご回答いただいた方の10%以上が、コマニーが「間づくり」を打ち出していることをご存じという嬉しい結果も見られました。また、ブースの中で一番良かったこと・共感したことについても「間づくり」という考え方だと回答いただいた方が最も多かったんです。

これは、伴走いただいたことによって、どのようにすれば企業姿勢を打ち出していけるかの解像度が上がった結果生まれた手応えだったり、スピード感だったと思っています。

特にこのスピード感は社内への展開へも影響していると思っていて、現在では全社としてこの「間づくり」をしていくという一体感が出てきました。

今では「間づくり」が社内の共通語になっています。「研究テーマとしてこんなことを取り扱いたいというアイディアがあれば、連絡を」と全社に発信したところ、発信後2〜3週間ですでに7、8件の研究テーマの候補が寄せられていて、順番に発案者に話を聞いている状態です。

ーー自発的にそういったテーマ候補が寄せられているというのはすごいですね。

塚本:そうですね。社員全員が「間づくり」の当事者として事業を作れる可能性がある、という状況になっていると感じます。

例えば、「営業所移転に関連して自分たちの「間づくり」を提案しやすい営業所づくりをしたい」という提案をはじめとして、「会社のトイレの中にトイレットペーパーがあるのは当たり前だが生理用品があるのも当たり前では?男性用トイレにもサニタリーボックスを置いてみては?」など社会的に課題になっていることへのチャレンジも寄せられました。

そして「社内の情報インフラを変化させることで、年代を超えて社内を活性化させていくことはできないか?」など、人の関係性という「間」の概念へのチャレンジなど、寄せられたテーマの内容は、本当に多岐にわたっています。

もしも「パーティションメーカーとしての新事業アイディア」を募っていたら、どれも出てこない切り口やテーマだったと思います。

この「間づくり」という広く、それでいて腹落ち感のあるテーマだからこそ、全社的な議論としてさまざまな部門からの知見やアイディアが出てきている──部門の垣根を超えるきっかけになったと思います。

このように、具体的な成果はまだまだこれからだと思ってはいますが、協働日本との伴走を通じて、成果につながっていく変化や実感を感じています。

ありがたいくらい、答えは教えてもらえない。問いの連続と、複業人材の知見から、社員の目の色が変わる。

ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には以前からご興味はおありでしたか?

塚本:正直なところ、副業という言葉のイメージからは当初、若手がいろんな経験を積むために行うキャリアアップのイメージしかありませんでした。

エキスパート人材がこれまでの経験を生かして副業(複業)をすることで、世の中全体へのインパクトを大きくしていくという発想がなかったので、セミナーでこの「協働」の形の話を聞いた時には、目からうろこが落ちた感覚でした。

こういった取り組みは広がっていくべきだと思いますし、自社内の他部門はもちろん、困っている同業の方などにもおすすめをしたいとも思っています。

自社だけでは思考の限界がある場合、コンサルのような形ではなく一緒に悩んで伴走してくれるエキスパート人材がいるというのは本当に心強いです。様々な経験を持っている人たちが、違う視点を持っているからこそ、我々のやっていることに率直な問いを立てていただいたり、ご自身の経験からの事例を教えていただける。そこから、それをどうやって自社の課題に活かして行けばいいだろう、と次を考えるきっかけをもらえています。

また、議論を進める際にも、相手にお任せするのではなく主体は常に自社にあるところがとても良かったと思っています。本当にありがたいくらい、簡単に「答え」は出てこなくて、どんどん新たな「問い」が出てくる、苦労の連続でした(笑)。

メンバー一同、なかなか答えにたどり着かず苦しみましたが、だからこそある程度答えが見えてきた時に、手応えを感じました。一方的に教わるだけではなく、こうやって自分たちで考える経験ができることが、自社人材の成長機会にも繋がるので本当に良かったと思っています。

ーーありがとうございます。協働の中で何か印象的な出来事はありましたか?

塚本:はい。ずっとやりたいなど考えていてイメージはあったけれど、形にならずにモヤモヤしていたことがあったんです。

そんな時、協働日本の皆さんに弊社へご来社いただき、協働プロの遅野井さんのご経験をお聞きした際に、一気に霧が晴れたように、自分のやりたいことはこういう形にすればできるかもしれない!と感じたんです。

そう感じたのは自分だけではなく、広報チームのリーダーも、その話を聞いた時に一気に目の色を変えて「自分のやりたいことはこれだったかもしれない」と言ってくれたんです。そうだ!自分たちのやりたいことはこれだ!と一同盛り上がりました。

その後遅野井さんも含め、皆でお寿司を食べに行ったんですが、その時の味はいまも忘れられないですね(笑)。

結果的にこの「間づくり」という活動は、広報チームだけではない、全社1,400人全員で動いているという今の一体感、会社のエネルギーに繋がっていますが、協働日本とのディスカッションがなければ実現できなかったことだと思います。

※コマニーさんの変化の話については、プロジェクトに参画した協働プロの遅野井氏のインタビューも是非ご覧ください。

ーー最後に、協働日本へのエールも込めてメッセージをお願いします。

塚本:協働日本のような存在は、中小・中堅企業がブレイクスルーするきっかけになってくれると思います。

日本のほとんどは中小・中堅企業です。協働日本も今後、ますます多くの可能性をひらく存在になると思います。今後ともよろしくお願いいたします。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

塚本:ありがとうございました。

塚本 直之 Naoyuki Tsukamoto

コマニー株式会社 取締役 常務執行役員

1981年石川県生まれ。成蹊大学経済学部経営学科卒。

スタンレー電気㈱、トヨタ自動車㈱出向を経て、2010年コマニー㈱へ戻る。
コマニーが目指す「関わるすべての人の幸福に貢献する経営」を実現するため、同社の経営にSDGsを実装したサステナビリティ経営を推進し、2018年にはSDGsビジネスアワード グローバルイノベーター賞を受賞。
現在は、自社の間づくり研究所の所長として間づくりの浸透を推進している。

コマニー株式会社

間づくり研究所

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本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら

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