投稿

STORY:鹿児島オリーブ代表取締役 水流 一水氏-顧客の声に向き合い売上増。販売スキル向上で新たな勝ち筋を発見-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

協働日本では昨年に引き続き、鹿児島県および鹿児島産業支援センターの「新産業創出ネットワーク事業」を受託しており、約8ヶ月にわたって、鹿児島県内の地域企業様の伴走支援を行ってまいりました。その伴走支援先の1社、鹿児島オリーブ代表取締役の水流 一水さんに今回インタビューさせていただきました。

鹿児島オリーブ株式会社は、純鹿児島産オリーブオイルを取り扱うほか、インポーターとして本場のイタリア・スペインからオリーブオイルの輸入販売も行っています。オリーブを使ったコスメ商品などの販売も行っており、今回の伴走支援ではオリーブオイルを使用したスキンケア商品の売上増加が当初のテーマでした。

スキンケア商品を新たな事業の柱とするべく、取り組んできた約8ヶ月の協働プロジェクト。実際に売り上げも伸び、成果が現れ始める中で、スタッフ一人一人の仮説の立て方や実行力などが上がったことを実感したそうです。また、BtoBに新たな活路を見出すなど、当初の想定以上の手ごたえをつかむことができたと語ってくださいました。

今回はインタビューを通じて、協働プロジェクトに取り組みはじめたことで見つけた新たな勝ち筋や、生まれた成果や変化について語って頂きました。さらには今後の複業人材との取り組みの広がりの可能性についてメッセージもお寄せいただきました。

(取材・文=郡司弘明)

新産業創出のための「日置市オリーブ構想」

ーー本日はよろしくお願いいたします!先日は鹿児島県庁での成果発表会お疲れさまでした。

水流 一水氏(以下、水流):

よろしくお願いいたします。先日はありがとうございました。

noteや動画という形で、当日の様子もまとめていただき、ありがとうございました。

参考:今年も熱い「協働」事例が鹿児島で誕生!取り組み報告会レポート

参考:今年も鹿児島で多くの「協働」事例が誕生しました(協働日本 令和5年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会より)

ーーあらためて本日のインタビューでは、報告会でのお話に加えて8ヶ月間の協働取り組みの詳細や、取り組みを通じて生まれた変化などを伺っていければと思っております。

水流:

あらためてよろしくお願いします。弊社、鹿児島オリーブ株式会社は、日置市と鹿児島銀行が連携して始まった「日置市オリーブ構想」のもと誕生した2014年創業の企業です。過去の代表取締役は過去3代が鹿児島銀行OBで、2022年10月に現役行員である私が着任して現在に至ります。

ーーそういった背景のもとで設立された会社だったのですね。水流さんは、鹿児島銀行でキャリアを積んでこられたんですね。

水流:

そうなんです。法人設立の2年前に日置市から大手半導体工場が撤退しまして、それをきっかけに新産業を興したいということで「日置市オリーブ構想」が始まりました。

鹿児島オリーブという名の通り、弊社では純鹿児島産オリーブオイルを取り扱っています。ただ、それだけではなくてインポーターとして本場のイタリア・スペインからオリーブオイルの輸入販売も行ったり、オリーブを使ったコスメ商品などの販売も行うなど、関連した事業も複数行っております。

協働日本さんとの今回の伴走支援では、オリーブオイルを使用したスキンケア商品の売り上げを増加させたいというところから取り組みがスタートしました。

スキンケア商品を新事業の柱に

ーーなるほど。具体的にはどんなお取り組みを進めていったのでしょうか?

水流:

協働日本さんとの取り組みでは、スキンケア商品を新事業の柱として確立することを目指し、売上に繋がる勝ち筋を共に探していくことになりました。その背景には、主力商品だったオリーブオイルの売上の減少がありました。

弊社を取り巻く大きな環境の変化として、やはりコロナ禍があります。コロナ禍で手渡しギフトの需要というところが消失してしまった中で、大きく売上を落としてしまいました。自社のオリーブオイルは私たちが思っていた以上に「ギフト需要」に依存していたことが浮き彫りになったのです。

その中で、私達がお客様に提供できる価値って何だろうということで、人々のクオリティオブライフ向上に役立ちたいと考えるようになりました。このスキンケア商品を頑張って売っていこうと方針を決めました。

ーー主力商品のオリーブオイルだけでなく、スキンケア商品に注力した背景がよく分かりました。

水流:

スキンケア商品の販売に注力し始めたものの、どうすれば弊社のスキンケア商品をもっとお客様に手に取っていただけるのか、お客さんのニーズを満たしてくれる売り方は何なのかが分からない。それを考えようというところがスタート地点でした。いろいろやってみても売り上げが伸びない、そもそもECとかもなかなか人が来てないみたいな状況で勝ち筋、すなわち数字をちゃんとつくっていける売り方が分からない状態がずっと続いていました。

顧客接点を最大限に生かしスキンケア商品の売上増

水流:

また組織力にも課題を感じていました。畑違いの分野に飛び込みゼロからのスタートとなったリーダーの自分と、商品の良さはわかるが売り方がわからない弊社のメンバーの間で、正直、手探りの日々が続いていました。

商品の魅力をたくさん語り、出張販売などの機会を活かしたいと思っても、私が会社に入った時点で、入社1ヶ月とか入社数ヶ月みたいなメンバーが実は大半を占めている状態だったこともあって、取り扱っているひとつひとつの商品価値を言語化するところから始めなくてはならず、本当に苦戦続きでした。

ーーそういったタイミングで、協働プロジェクトがスタートしたのですね。

水流氏:

はい、そういったタイミングでした。

協働日本さんとのプロジェクトが始まってすぐに、「顧客の声を拾えていない」という課題にたどり着きました。協働プロの藤村さんからの「私たちの商品を喉から手が出るくらいほしがってくださってる方はどんな人か?」という問いにすぐ答えることができず、まずは具体的なお客様像をイメージしていきましょうとアドバイスをいただきました。

そのためにお客様の声をたくさん拾う必要があると再認識し、そこから出張販売のような顧客接点を最大限に生かす戦略をとることになりました。協働日本さんにも戦略面で伴走いただきながら、どんどん社員に現場に出てもらって、お客さんと話してもらうという機会を作っていくことにしました。

時に、買ってくださってたお客様にその場でちょっと時間をいただいてインタビューをさせていただいたこともありました。そういった現場での声をたくさん集めていったことで、自分たちの商品の強みを少しずつ言語化できるようになっていきました。

ーーお客様の声から、どんな勝ち筋が見えてきましたか?

水流:

それまでに私たちが推していた商品の課題が見つかりました。スキンケア商品の主力商品として位置づけていた、フェイルオイルや、化粧水といった商品は5000~6000円という価格帯で、ちょっと高いと感じていたお客様が想定よりも多く、興味はあるが使い始めるハードルが高いという声も寄せられたのです。

そこで商品の特徴である天然由来成分の良さを伝えるだけではなく、試しやすい価格や形態の商品こそが、弊社のスキンケア商品の入口になるのではという仮説を立てました。そこからは少し価格の低いハンドクリーム商品を推し出していきました。すると、ハンドクリームは手に取りやすいと好評で、鹿児島オリーブのスキンケア商品を知っていただくきっかけとして機能し始めました。実際に出張販売先でも手ごたえを感じることができました。

これをまず、ボタニカルコスメの導入として活用してもらうことで、次はフェイスオイルやローションを買ってみてもらうというお客様とのコミュニケーション方針も整理できました。「誰がなぜ買ってくださっているのか」「評価されている価値は何なのか」「どうやってその価値を伝えるか」を徹底的に議論していったことで、着実に成果に繋がり始めています。

それに加えて、「鹿児島のオリーブ」という文脈から、お土産としての需要も拡大しています。それらも追い風となって、協働前は月平均54本販売していたスキンケア商品が、今では月平均96本の販売となりました。これは、比較して+77%の成果となります。おかげさまでスキンケア製品の売り上げを大きく伸ばすことができました!

スタッフの販売スキルが向上 売上記録を更新

ーー着実に成果が数字に表れていますね!

水流:

そうした取り組みを重ねて、出張販売のようなお客様接点を増やしていったことで、社員のスキルが向上しているのを実感しています。仮説の立て方、実行力、スタッフの販売スキルが確実に上がってきています。たとえば先日の出張販売では、一日平均売上10万円を超えており、連日売上記録を更新しました。以前は数万円に届けば御の字、といったところだったのですが、確実に空気感が変わってきています。

協働日本のみなさんとの普段のミーティングや、現場に来ていただいた際も、こうしろああしろと、「やること」をアドバイスするのではなく、伴走支援というスタイルならではの社員自らが「やってみよう」と思えるようなアドバイスをいただけたのが良かったのだと思います。社員それぞれが自分事化して考えることができましたし、自信を身に着けることができました。

スキンケア商品の販売を通じて身に着けた提案力をオリーブオイルにも展開し、そもそも自社が持っていた様々な強みを言語化したことで、主力商品のオリーブオイルの優位性も自信を持って語ることができるようにもなってきました。

ーー主力商品のオリーブオイルにも好影響が生まれているのは、とても良い変化ですね!

水流:

そうですね。オリーブオイルに関しては、自分たちでは当たり前だと思っていた自社の強みに気づけたことも大きな収穫でした。

BtoBに新たな活路 ローカル発 小さなオリーブオイル専門商社

ーー興味深いです。当たり前だと思っていた自社の強みとはどんなことですか?

水流:

先ほどお伝えしたように、私たちは海外からオリーブオイルを仕入れるインポーターとしての事業も大きく、イタリアとスペインからオリーブオイルを、鹿児島の自社倉庫まで運んできています。

通常、大手のメーカーが販売しているようなオリーブオイルは、海外の現地でとれたものをそのまま、定温管理されていないコンテナに乗せ換えて運ぶんですね。定温管理ができるコンテナはどうしてもコストがかさんでしまうので。しかしそれだと船で輸送する中で、かなり熱い地域も通りながら何ヶ月も掛けて運ばれるので、どうしても劣化は避けられません。

ですが、私たち鹿児島オリーブでは、スペインからイタリアを経由して、農園と農園に入っているコーディネーターを通じて直輸入し、輸送も定温管理(24時間定温管理)ができるコンテナ(リーファーコンテナ使用)を使用して港まで持ってきてもらっています。さらに港から陸送(福岡港から工場まで)も定温管理で運び、自社倉庫でももちろん定温管理しています。

ーー鹿児島オリーブさんならではのこだわりですね。

水流:

はい。お客様の口に入る瞬間までこだわりたいという思いで、ずっと続けています。オリーブオイルを詰める作業に関しても、自社で1本1本、人の手を使って手詰めしています。

協働日本の方々に工場を見学いただいた際に、協働プロの皆さんに「これは鹿児島オリーブさんの宝であり強みですね」と言っていただいたのを覚えています。今回伴走いただいた協働プロの皆さんは、メーカー出身の方も多くて、定温倉庫で24時間定温管理をしていることや、品質を落とさないように輸入し自社で小ロットから充填できる設備を持っているというところに大変驚かれていました。10年かけて確立した、今のサプライチェーンとクオリティコントロールを、他のオリーブオイルを扱ってる会社にはなかなかできない差別化ポイントだと言っていただけたのは新しい視点でしたし、自信にもなりました。

私たちは自社でオリーブオイルを手詰めする設備を持っているので、瓶の形にこだわる必要はありません。それによって、小ロットからOEMなどの相談を受けることもできます。また、定温管理で海外から輸入しているサプライチェーンは、トレーサビリティに応えることができます。

それらをふまえ、オリーブオイルやスキンケア商品といった商品訴求だけでなく、BtoBのお取引を見据えた会社機能を売り込むこともできるのではというアドバイスもいただきました。単なる商品の販売戦略を超えた、社全体の改革にも伴走いただく結果になりました。

これまで商談会では、取り扱う商品の「品質のよさ」をPRしていたのですが、アドバイスをいただいてからは、「ローカル発 小さなオリーブオイル専門商社」という書き方に変更しました。実際に、サプライチェーンとクオリティコントロール、小回りのよさや様々なオーダーを受けることできることをPRしたところ「鹿児島の会社でここまでやってるんですか」という驚きの反応ばかりで。商談件数も一気に増えて、見積もり希望のご連絡もいただきました。

実はこれまで、商談会に出ても、恥ずかしながら商談0件みたいな日もあったんです。同じ会社でも伝え方を変えるだけで、こんなに反応が変わるのかと驚きました。協働日本さんからいただいた、「鹿児島オリーブさんの設備や仕組みこそが強みです。きっとこれから価値を感じるのは、法人だと思いますよ」というアドバイスからこんな展開になるとは思ってもいませんでした。

ーー協働を通じて、商品だけでなく、自社そのものの強みを言語化できたことで、これから様々な展開が生まれそうですね!

水流:

はい。「鹿児島と言えばオリーブ」と多くの方に言っていただける世界を目指して、弊社鹿児島オリーブをこだわりの作り手・インポーターとして知られるブランドに育てていきたいと考えています。

また、日置市と鹿児島銀行が連携して始まった「日置市オリーブ構想」からどんどん広がりを生み出していくことで、日置市は「チャレンジできる」場所として多くの方に知っていただきたいと思います。

一緒に悩んで、同じ方向を向いて相談に乗ってくれる存在

ーーお取り組みについて、大変よくわかりました。ここまで関わってきた協働プロの印象や、エピソードなどがあればぜひお聞かせください。

水流:

代表の村松さんをはじめ、藤村さんや鈴木さん、何さん、松本さんなど多くの協働プロの皆さんがプロジェクトに関わってくださいました。

始まるまでは、ここまでワンチームで伴走し、親身になって取り組んでくれるとは思っていませんでした。協働プロ間での情報共有や、議論の続きをちゃんと共有してくださっていたこともあり、ストレスなく目の前の議論に集中することができました。また、「これをやったほうがいい」と押し付けるコンサルティング的なスタイルとは違って、自らがやろうと思う自主性を大事にしてくれたことも、振り返ってみると自分たちの自信に繋がりました。

協働プロの皆さんはバックグラウンドとして色々な経験をお持ちだったこともあり、先ほどのBtoB戦略の可能性など、自分たちでも気が付かなかった価値を見つけてくれました。身内や関係者からではない、ある意味で第三者的視点から、お褒めの言葉をいただいたことで、ものすごく社内の士気も上がりましたし、協働プロの皆さんに8ヶ月伴走いただけて本当に良かったなと思いました。

ーーこうした複業人材との取り組みや、協働日本は今後、どうなっていくと思いますか?

水流:

今回すごく実感したのは、外部からの目はやはり大事だなという点です。自社のスタッフにないスキルやバックグラウンド、住んでいる環境も違う協働プロの皆さんのアドバイスはとても貴重で、鹿児島県内で周囲に相談するだけだと見つからなかった解決の糸口も、外部の目だとあっさり見つかったりします。

一緒にワンチームを組んで課題に取り組んだ結果、組織は色々な多様性を持った人間が関わるほうが広がりがあると思いましたし、地方の会社こそこういった取り組みは必要だと感じました。実際に、この取り組みの話を外部でしたところ、「どうやったら協働日本と仕事ができますか?」という問い合わせをもらったこともあります。

社長という立場は、何か答えを持っていることを期待される場面も多いんですが、実際は社長自身も悩みは多いし、失敗したことをだれかと一緒に振り返りたいと思う気持ちも持っています。一緒に悩んで、同じ方向を向いて相談に乗ってくれる存在って、どの経営者も必要としているんだと思います。

目の前の数字よりも、組織が社会に評価される、残っていくために必要なことをアドバイスしてくれる協働日本さんの取り組みはきっと多くの地方企業が求めているものだと思います。これからも期待しています。

ーー大変ありがたいエールです。本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

水流:

ありがとうございました!

水流 一水 / Hitomi Tsuru

鹿児島オリーブ株式会社 代表取締役

2004年4月  株式会社鹿児島銀行入行
      以降、県内店舗での営業・本部業務を経て
2015年   ㈱JTB九州出向
2016年   鹿児島銀行地域支援部
2019年~2021年 産休・育休取得
2021年   復職・鹿児島銀行地域支援部にて地域活性化業務を担当
2022年10月 現役行員として初めて鹿児島オリーブ㈱代表取締役就任
      「上質なオリーブを通してローカルを見直す」をコンセプトに鹿児島県日置市から情報発信中

【公式】鹿児島オリーブ | 日置からフレッシュなオリーブオイルを
https://kagoshima-olive.co.jp/

協働日本事業については こちら

関連記事

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 ―「事業づくり」と「人づくり」の両輪―
VOICE:協働日本 浅井南氏 -「地方だから」を魅力に変える!チームで実現する協働の形-




STORY:株式会社北陸人材ネット 山本 均氏 – 伴走支援が社内議論を大きく変えた。社員一人ひとりに芽生えた目的意識 –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社北陸人材ネット 代表取締役社長 山本 均氏 のほか、同社で働く社員の方々5名にもご同席いただき、グループインタビュー形式でお話を伺いました。

株式会社北陸人材ネット様は、石川県・富山県・福井県の3県に特化した転職エージェントで、山本さんのモットーでもある「ねばねばでなく、わくわくで生きよう」を合言葉に、北陸で「わくわく働く」人を増やすことを、会社のビジョンに掲げておられます。
北陸を愛する方々の間で様々な「わくわく」を創出し、その中から人と組織、人と企業などの相互の発展と成長につながる「出会い」を生み出すべく、北陸3県で働きたい人へ職種を限定せず、北陸3県の会社を紹介する地域密着型エージェントとして注目されています。

自社HPのリニューアルを行うにあたり、あらためて自社のブランディングとマーケティングを再設計する必要があり、協働日本の伴走支援を通じて外部の知見も取り入れたいと考えたそうです。今回、社員の方々と共にインタビューを通じ、協働プロジェクトに取り組みはじめたことで生まれた成果や変化について語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明)

代表取締役社長 山本 均氏

協働日本との、わくわくするような化学反応に期待

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは協働日本との取り組みがスタートしたきっかけを教えていただけますか?

山本 均氏(以下、山本氏):

よろしくお願いします。

北陸人材ネットは、2007年に創業した北陸地方に特化した人材紹介会社です。

わくわく働く人と、場所を増やして、そのご縁を多くつなぐことで「北陸をもっと元気に!!」をブランドスローガンに、有料職業紹介事業の他、人事人材育成コンサルや、コーチングなどの事業も手掛けております。

ーー山本さんがモットーとして、また会社の合言葉にもなっている「ねばねばでなく、わくわくで生きよう」というフレーズも印象的ですよね。

山本氏:

ありがとうございます。

安定した会社に就職・転職しなくては、という「ねばねば」の反対語として掲げています。自分の好きなように生きる、やりたい仕事に就くという「わくわく」で生きる・働くことを応援したいと考えています。

ーー協働日本と共に取り組むことを決めきっかけを教えて下さい。

山本氏:

かねてより繋がりのあった、山岸製作所の山岸社長のご紹介で、協働日本代表の村松さんとお引き合わせいただいたことがきっかけです。

私は、自分のわくわくに向き合って周囲のあきれ顔をものともせず夢中になれる人を、「ヘンタイ」と定義づけて、そう呼んだりしています。私にとって「ヘンタイ」は最高の誉め言葉なのですが、いろいろお話する中で、村松さんも私と同じヘンタイだな!と感じました(笑)

ヘンタイ同士の共通の価値感を感じ、ちょうど懸念事項だったHPのリニューアルプロジェクトをきっかけに、協働日本さんに弊社のお手伝いをお願いすることになりました。

ーーなるほど、お二人の間でとても共感するものがあったのですね!

山本氏:

私は、仕事には「やらねば」という義務感よりも、内発的な動機付けが重要だと考えています。働く社員にもよく言っていますが、義務感で生きるのはしんどいですし、自分の中のわくわくにこだわっていきたいと思っています。

協働日本代表の村松さんも、わくわくする気持ちを大切にしている経営者で、協働日本さんもわくわくが満ちたコミュニティから始まった企業というストーリーを語ってくださり、その点も非常に共感いたしました。お話に聞いていた通り、協働日本に所属する協働プロの方々も、複業という形で、それぞれのわくわくする気持ちを大切にして働いている方ばかりでした。

そういった方々と弊社のメンバーと協働させていただくことで、それこそわくわくするような化学反応が起きて、自分たちだけじゃ得られない価値を得られるのでは?という期待感を抱きました。

それに私自身も大学・大学院の仕事を掛け持ちしていたこともあり、外部の視点を取り入れていくことの重要性も感じていました。

協働日本に所属しているような、大手企業で活躍しているプロ人材との接点をぜひ活かしたいとお伝えし、さっそく取り組みがスタートしました。

株式会社北陸人材ネット オフィスの様子 
テレワークを中心とした働きやすい職場環境を推進

週次のミーティングで生まれた変化と得た学び

ーーその協働プロジェクトについても、どういったお取り組みをされているのか教えて頂けますか。

山本氏:

昨年10月から、今年9月末までの1年間、週次でミーティングを組ませてもらいながら伴走支援をしていただきました。

弊社のHPのリニューアルを行うにあたって、ブランディングとマーケティングを再設計する必要があったのですが、社内のメンバーだけでの議論ではなかなかまとまりにくい部分があり、そうした部分についてお手伝いしていただきました。

協働日本の協働プロの方々からは4名の方にチームに加わっていただき、大西さん、向縄さん、浅井さん、大島さん、それぞれのご経験や強みから様々なアドバイスをいただきました。

実際にHPのリニューアルを実現しただけでなく、そのプロセスの中で参加していた社員それぞれも、様々な学びを得ながら取り組むことができたと聞いています。

今日参加している、弊社の社員にもぜひそのあたりを聞いてみてください。

テレワークを中心とした職場環境 日本テレワーク協会でも表彰
ーーありがとうございます!では早速ですが、順にお話を伺っていきたいと思います。週次の協働ミーティングを通じて、どういったお取り組みをされていたか教えてください。

河村氏:

弊社で働く社員は、社長以外は全員女性のメンバーです。それも複業という形だったり、子育て中のお母さんがいたりと、様々な働き方をしている社員が集まっています。

そんな中、今後の弊社の方向性の検討や、HPのリニューアルと言った課題に対してまとまった議論がなかなか進んでいなかったところに伴走いただき、サポートしていただきました。

特に今後お客様にどのようにメッセージを届けていくか、自社の強みは何なのか、といった普段の業務からは少し離れた、自社のブランディングについて考え直す議論は難しさも感じており、協働プロの皆さんにサポートいただきました。

角崎氏:

協働プロの方々とワンチームで取り組む中で新しく得られたこととして、KPIについての考え方があります。

社内でのメンバー間での振り返りはこれまでも行っていましたが、「数値化した振り返り」はしっかりとできなかったと反省しました。

日々の業務を定量的に数値で振り返るということにはじめは苦手意識もあり、協働プロの大西さんに相談したところ、「数値を測るということは健康診断のようなもの。必ず達成しなくては、というプレッシャーを感じるためのものではなく、自身やチームの状態を測るものと考えてください。」というアドバイスをいただきました。

出口氏:

私も角崎さんと同じく、定性的な振り返りが多かったのですが、伴走を経て定量的な視点を入れた振り返りを意識することが出来るようになりました。

大西さんからは、教えて引っ張るというよりも、自身の中の想いを引き出すようなアドバイスをたくさんいただき、自身の考えや想いを言語化するお手伝いをしていただきました。

また、マーケティング業務経験が豊富な向縄さんからは、フレームワークを使った、ロジカルシンキングを学ばせていただくなど個人の成長にも繋がった1年でした。

協働後にも活かせる気づきや学びを残してくださり、感謝しています。

西田氏:

求職者に伴走して、最後まで徹底サポートしていくのが弊社の強みですが、「どういったサポートが必要なのか」という点については、働くメンバー一人ひとりで異なっており、共通言語化できていませんでした。

職業紹介・人材業界で働いていると、個人で完結する仕事も多く、それぞれのノウハウやスキルが個人で完結することも多く少し諦めていた部分もありました。

しかし今回、求職者を4つのタイプに分けてサポート内容を見直したり、それぞれをターゲットにした施策を考えたりと、求職者のパターンを共通言語化できたことでそれぞれが持っていたノウハウを共通知に変えることが出来たことも多く、以前よりも組織力が上がった実感があります。

川辺氏:

新しくHPをリニューアルという目標からスタートして、私たちの強みを言語化したり、求職者さまに向けた新たなサービスの検討を進めたり、よりスムーズな面談の仕組みづくり、書いていただきやすい求人票のフォーマット化など、多岐にわたるテーマを議論するきっかけをいただきました。

単に、目の前のこと(HPリニューアル)に対するアドバイスではなく、私たちの事業そのものを良くしようという視点からアドバイスを頂いていることがよく分かりました。

大西さんからいただいた、まずいち早く行動することの重要性や、PDCAについての考え方などのアドバイスはとても印象的でしたし、向縄さんから教えていただいた顧客志向についてのアドバイスや、カスタマージャーニーマップの作成なども、日々の求職者=顧客 の体験に向き合う上でとても良い学びになりました。

オフィスに集いコミュニケーションを深めることも

伴走支援を通じて、社員に芽生えた目的意識

ーー社員の皆さんそれぞれが、取り組みを通じて成果を実感している姿が見えてきました。あらためて山本さんにお伺いします。協働日本との取り組みの中で、どのような変化が事業(企業)に生まれましたか?

山本氏:

取り組みを通じて、社員同士で話し合って自律的に事業計画の目標数字を設定し、達成のための戦略構築やシナリオを構築し、実行するようになりましたね。これはとても大きな変化だったと思います。

基礎理論をお教えいたただきつつ議論を深めることができ、従来以上により深い議論ができるようになったこと、その過程に社員一人一人がそうした理論を習得することで再現性をもった形でブランディングやマーケティングに対するフレームワーク的な思考法を習得できたように思います。

ーーなるほど。他にも、社員の皆さんが実感している変化などはございますか?

河村氏:

先程、出口さんも言っていたのですが、コアとなる求職者のタイプを大きく4タイプに分類し、それぞれに対応するノウハウを共通言語化したことである種の、社内方言のようなものが生まれました(笑)

例えば、「新規にAタイプのお客様です。Aタイプの方でこういったケースだと以前はどう対応していましたか?」など。お客様に対してのアプローチを体系化して、メンバー間でのノウハウの共有がスムーズになった結果、一人ひとりのお客様の課題に向き合う精度が上がったことは大きな成果だと感じます。

出口氏:

加えて、社内の雰囲気も変わったなと思います。

もともとすごく仲が良く、気遣いあえる空気感のある職場でしたが、意見の衝突を避ける傾向もありました。時には意見がすれ違うこともありましたが、そのままにしてしまうことも・・。

今は、この会社のためにどうすればよいのかという目的に向かって、健全で建設的な議論ができるようになったと思います。私たちが仕事をしていることの目的意識をチームで議論したことで、一人一人の当事者意識が上がったのだと思います。

西田氏:

あとは、これまでのやり方を変えることに対する抵抗感がなくなったと思います。

せっかく自分たちらしい強みを発見できたんだから、今まで当たり前だったこともどんどん良い方向性に変えていこうという積極的な雰囲気になりました。

例えば求人票のフォーマットでも、これまで当たり前だった形をメンバーみんなで見直し、北陸人材ネットの強みが活かせるものに変えていっています。これにより、お客様との面談で聞くべきこと・ヒアリング項目を見直すきっかけにもなり、変化の好循環が生まれつつあります。

ーー よろしければ、関わっている協働プロ協働サポーターの印象をお聞かせください。

山本氏:

課題を受け止めつつ、論点を整理し、必要な知識や理論に基づいて解決の方向に議論を導いていただけたと思います。

はじめはメンバーも恐縮していた部分もありましたが、協働プロの大西さんや向縄さん、大島さんは、意見を言いやすい場づくりを心がけてくれて何を言っても大丈夫だという心理的安全性を確保してくださいました。

それでいて、言うべきことはしっかりと言ってくれる、安心感があったように思います。

また同じく協働プロの浅井さんは、HPのリニューアルの件では率先としてヒアリングをしてくださり、素朴な疑問も非常に話しやすい空気を作ってくださいました。デザイナーの観点で、思っていることを伝えてくれるだけでなく、参考になるサイトや、参考になる方を紹介してくださったりと色々とご準備いただきました。

ミーティング後には、参加メンバーひとりづつにフィードバックをくれるなど、きめ細かくサポートしてくださったと聞いています。

環境変化のスピードが速い時代だからこそ、外部からの刺激が重要に

ーーワンチームで素晴らしい取り組みが実現できていると感じます。ちなみに、こういった複業人材との取り組みは今後、広がっていくと思いますか?

山本氏:

これだけ環境変化のスピードが速い時代だと、これまでのやり方や自分の中の当たり前を捨てなくてはいけない。でも自社のメンバーだけでは、なかなかすぐに大きく変化するのは難しい。

だからこそ、外部からの刺激として複業人材と一緒に取り組んでいく重要性は今後高まるでしょうね。

こういった取り組みは、受け入れ側の企業にとっても、いわゆる越境学習的な取り組みとも言えると思います。

そうした外部からの刺激を取り入れることに柔軟であれば、中小企業のほうが変化に対する変化のスピードは上げられるのかもしれないとも思います。

ーーこれから協働日本はどうなっていくと思いますか?エールも兼ねてメッセージをいただけると嬉しいです。

川辺氏:

協働プロの方々は高いモチベーションで取り組みにコミットしてくださり、大変感謝しています。

だからこそ、私たちも変化のきっかけを得ることが出来たのかとも思います。

河村氏:

自分たちの力で歩いて行けることがゴールになる「協働」というワンチームで取り組むスタイルのおかげで成長を実感できました。

他力本願ではなくて、最後には自走するために外部と取り組もう、という意識で協働に取り組む企業が増えていけば、色々な地域でもっと輝く企業が増えてくると思います。

その道を切り開く難しさは感じつつも、この良さが広まっていくことを願っています。

ーーあらためて最後に山本さんからメッセージをいただけますか?

山本氏:

1年間で想定以上に様々な変化を生み出してくださり、あらためて感謝しています。

協働プロの皆さんのように、わくわくを持って働いている方とご一緒できて良かったです。

日本の大手企業でも続々と副業・複業が解禁される中で、わくわくとやりがいを感じられるような働き方を自ら選択できる時代になりました。

協働日本さんも、好きでこの仕事をしていると言えるような人を増やしていくための同志だと思います。

これからも一緒に、働く人の「ねばねば」でなく「わくわく」を増やしていきましょう!

ーーインタビューへのご協力ありがとうございました。

山本氏:

ありがとうございました。

山本 均 / Hitoshi Yamamoto

株式会社北陸人材ネット 代表取締役社長

地元石川県のメーカー、IT企業勤務後、東京の大手通信機器メーカーに転職。
それぞれの企業の人事を経験後、独立し現在。

北陸、首都圏大学でのキャリアガイダンスでの講演多数。
地方企業、ベンチャー企業、大手企業という3つの異なる分野の企業の人事採用を担当した人事マンとしてビジネス誌、新聞に数多く取材に応ずる。

大学生のキャリア教育から就職支援、インターンシップ、企業の若手社員育成、管理職の養成まで人材育成に関する幅広いジャンルでのコンサルと実務を経験。
企業から大学、官公庁、企業にいたるまでに幅広いネットワークを有する。

趣味はスキー
モットーは「ねばねばでなく、わくわくで生きよう」

株式会社北陸人材ネット
https://hokurikujinzainet.com/index.html

協働日本事業については こちら

関連記事

VOICE:協働日本 向縄一太氏 – 「浪漫」と「算盤」で地域を変える –

VOICE:協働日本 浅井南氏 -「地方だから」を魅力に変える!チームで実現する協働の形-




NEWS:KVM2023 九州・山口ベンチャーマーケット2023に、協働日本で伴走している株式会社栄電社が鹿児島県代表として選出されました

【2023年11月14日(火)】KVM2023 九州・山口ベンチャーマーケット2023に、協働日本で伴走している株式会社栄電社が第二創業部門の鹿児島県代表して選出・登壇決定

KVM2023|九州・山口ベンチャーマーケット
https://kyushu-yamaguchi-vm.jp/

協働日本で伴走している株式会社栄電社が、KVM2023 九州・山口ベンチャーマーケット2023に、第二創業部門での鹿児島県代表して選出されました。
九州・山口ベンチャーマーケットに登壇する企業は、九州・山口各県の予選を通過した企業に限られ、選出企業は2023年11月14日(火)に開催されるピッチコンテスト本番に登壇します。

芋焼酎の製造過程で排出される搾りかすをSPL液にしてサプリメント的飼料化を実現した事業で、今年の2月に鹿児島県庁にて開催した「新産業創出ネットワーク事業」の発表会でも、鹿児島発のサーキュラーエコノミーとして発表された協働事例です。

昨年から伴走し今年は2年目の取り組みとなる中、株式会社栄電社の皆さまとの協働もさらに深め、鹿児島県、鹿児島産業支援センターと連携して共に歩みを進めてまいります。

KVM2023 九州・山口ベンチャーマーケット2023の詳細は以下からご確認ください。

KVM2023|九州・山口ベンチャーマーケット
https://kyushu-yamaguchi-vm.jp/


#栄電社
#KVM2023
#協働日本

協働日本事業については こちら

株式会社栄電社との協働事例はこちら

STORY:栄電社 川路博文氏 -『焼酎粕』を新たな地域資源に。”四方良し”の発想でサステナブルな地域産業へ-

STORY:荒木陶窯 -「ワクワクする薩摩焼をつくる」鹿児島の文化を紡ぐ窯元が、その本質的価値を追究-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、現代の名工、荒木陶窯 第15代玉明山 荒木秀樹氏と、奥様であり同社取締役の荒木亜貴子氏、そして伴走支援を担当した協働プロの田中友惟氏にお越しいただきました。

荒木陶窯は、約425年の歴史ある薩摩焼の窯元です。伝統的な薩摩焼の器を買い求めるお客様が全国から訪れる他、個展の開催を各地で行うなど薩摩焼の制作販売を行っています。薩摩・鹿児島の伝統文化の担い手として、薩摩焼の流派の一つである「苗代川焼」の保存のため、苗代川焼伝統保存会の運営や、次世代に伝統を伝えていく活動も積極的に行っています。

そんな伝統ある窯元も、生活様式や購買行動の変化によって従来の販売形式や作品の見せ方を変える必要に迫られ、顧客へのアプローチに課題を抱えていました。荒木陶窯の魅力をどう表現すれば購買に繋がるのか──協働プロと共に今一度荒木陶窯のありたい姿を考えることに挑戦されました。

今回は協働日本との取り組みのきっかけや、支援を通じて生まれた変化についてお聞きしました。さらには今後の複業人材との取り組みの広がりの可能性についてメッセージもお寄せいただきました。

(取材・文=郡司弘明)

鹿児島県 令和4年度「新産業創出ネットワーク事業」発表会の様子(右:荒木秀樹氏、左:荒木亜貴子氏)

これまでの「当たり前」と向き合い、ありたい姿の徹底的な言語化

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは協働日本との取り組みがスタートしたきっかけを教えていただけますか?

荒木 亜貴子氏(以下、亜貴子):協働がスタートする前年にHPのリニューアルをして、ECサイトについても活用方法を考え直したいと思っていたんです。相談先を探して情報収集をしていたところ、鹿児島県とも事業を進めている協働日本のことを知りました。鹿児島県在住の協働プロである浅井南さんに実際にお会いした際に、「協働日本の伴走支援は荒木陶窯さんに合うんじゃないかな?」と仰っていただいたんです。ちょうどこれからの時代の変化への不安から、チャンスがあれば色んなことにチャレンジしたいと思っていたタイミングだったので、すぐにお願いすることに決めました。

そこから協働がスタートして7ヶ月間、本当にあっという間に過ぎていきました。

ーーなるほど、タイミングがとてもよかったんですね。具体的にどんなお取り組みをされていたのでしょうか。

亜貴子:はい。週に一度、オンラインミーティングをお願いしていました。目先の課題はECサイトの活用についての悩みだったのですが、蓋を開けてみると、さらに大きな2つの課題を抱えていることがわかりました。1つは、購買層の変化や購買チャネルの変化により、顧客への有効的なアプローチ方法がわからなくなっていたこと。そしてもう1つは、荒木陶窯の魅力をどう表現すれば購買に繋がるかわからないという点です。そこで、まずは基本に立ち返るため、オンラインミーティングで「荒木陶窯のありたい姿や価値を言語化」していくことになったんです。

最初は協働プロとして藤村さん、枦木さんを中心にミーティングに入っていただきました。オンラインが中心ではありましたが、時折実際に工房までお越しいただいて、実際に作品を見ていただいたり対面でディスカッションをしたりして、対話を深めていきました。

実際のところ、荒木陶窯のこと、作家の想い、普段の様々な仕事のこと…全てのことについて改めて言語化する作業はなかなか大変でした。毎週のミーティングでは、協働プロから「問い」をいただくんです。自分たちの想いは?製品の良さは?──今まで当たり前のこととしてじっくり考えることのなかったものばかりでした。普段の業務の中ではなかなか時間も取れず考えもまとまらないので、車での移動時間のような隙間時間にずっと考えていました。答えなんて出ないんじゃないか…と思うこともありましたが、不思議なことに考え続けて1週間が経つ頃には「これだ」というものが思い浮かんでくるんです。

浮かんできた答えを持ってミーティングに臨み、それに対してまた新たな「問い」をいただく。この繰り返しでどんどん荒木陶窯業のありたい姿、本質的な価値の解像度を高めていきました。言語化を続けていって最終的に辿り着いた、私たち荒木陶窯のありたい姿、本質的な価値は「作り手も使う人もワクワクする薩摩焼をつくる」ことでした。

左:田中友惟氏、右:荒木亜貴子氏

ーー協働プロである田中さんから見て、亜貴子さんの言語化の過程はどのように映りましたか

田中友惟氏(以下、田中):亜貴子さんのすごいところは、どんどんレベルアップするところなんです。問いに対して深掘りを続けていくと、問いに対する答えの質であったり、表現の仕方が、前の週では絶対に出てこなかっただろうなというものに進化している。本当に事業、そしてご自身と向き合って考え抜いた結果なのだと思います。

ーー協力し合いながら真剣に深掘りをされていったのが伝わってきます。「ワクワクする薩摩焼」というキーワードに到達するまでには、どんな道のりがあったのでしょうか。

亜貴子:ここに至るまでにはまず、作り手である主人が「どんな思いで作品を作っているのか」ということを引き出さなくてはいけなかったんですが、そこに難航しました(笑)そこで、協働プロとのミーティングの中で出てきた主人の言葉を思い出しながら、キーワードをとにかくたくさん書き出してみたんです。「あんなこと言ってたよね」と書き出しては「でもこれが本質的な価値なのかな?違うな」と自省しては全部消して、という作業を繰り返していって……最後にパッと浮かんできたキーワードが「ワクワク」でした。

ーー作り手である秀樹さんの「ワクワク」ということですか?

はい、初めはそういった作り手側の「ワクワク」の意味で思い浮かんだ言葉だったのですが、作り手側の想いを表すのと同時に、作品のプロモーションをしていく私自身の「ワクワク」であったり、手に取ってくださるお客様の「ワクワク」にも繋がっていくんです。
悩んでいた顧客層へのアプローチや作品作りの方向性など、全てを網羅する、軸になる言葉だ!と思いました。

田中:実はこの「ワクワク」というキーワードは、秀樹さんと私たちが個別にお話ししている時にも出てきていたものなんです。とても印象的だったので覚えています。「ワクワクする薩摩焼」が、ご夫婦の共通する秘めた想いだったのかもしれませんね。

荒木 秀樹氏(以下、秀樹):言語化の作業は全て妻に任せていて、その中で自分の想いはなかなか言葉にできなかったですし、自分が過去に「ワクワク」という言葉を使ったことも実はあまり覚えていません(笑)でも、やはり作品を前にすると熱く語れる部分があるので、作品について話をしている時に自然と想いが溢れていたのかもしれませんね。協働プロという外部の人が入ってくれたからこそ、夫婦二人では普段語ることのない部分を引き出してもらえたように思います。

協働プロとのオンラインミーティングの様子

協働を通じて、過去の自分たちにも、この先歩む未来にも、自信を持てるようになった

ーー言語化した後、実際の業務にも変化はありましたか?

亜貴子:はい。ある程度の言語化ができてきたところで、今度はそれをどう活かすか?という議題に変わっていきました。

言語化した荒木陶窯のコンセプトをブランドガイドラインに落とし込み、表現の指針として可視化。それを元に、顧客へのアプローチを変えていったんです。具体的には、ECサイトの写真や、展示会での作品の見せ方を変えています。協働がスタートする前は作品をシンプルに見せるようにしていましたが、荒木陶窯の魅力や商品の「ワクワク感」が顧客に届く設計に変えたんです。例えば食器だけを写した写真ではなく、食べ物を盛り付けした写真を使用することで、利用シーンを想像してお客様に「ワクワク」してもらえるようにしています。写真をリニューアルする際にも、協働プロとして活動されているフードコーディネーターの方にもご協力いただいて撮影しました。おかげさまで、食事風景がリアルに思い浮かぶような「ワクワクする」素敵な写真になりました。

展示会でも、こういった写真をポップとして活用したことでお客様との会話のきっかけにもなり、ただ食器を展示していた時に比べてコミュニケーションの質が向上していきました。

「顧客視点」、「言語化した魅力を伝える」ことを意識するように工夫することで、徐々に売りたい商品が売れるようになっていっている実感があります。

利用シーンを想起して「ワクワク」できる写真へ

ーーなるほど。元々迷っていらっしゃったECサイトの活用や顧客へのアプローチも「荒木陶窯らしい」ものに変化したんですね。作品作りにおいても何か変化はあるのでしょうか?

秀樹:そうですね。実は元々、作品作りの転換期でもあったんです。展覧会に出すような大作はずっと命懸けで作っていましたが、大型の壺などがほとんどで、日常生活にあまり馴染みがなく、気軽に手に取ってもらえるようなものが少なかったんです。もっと多くの人に薩摩焼の良さを知って欲しいと考えていたので、伝統も守りつつも、手に取ってもらえるような新しいものも作りたいという想いを持っていたんです。

亜貴子:主人がぽろっとその想いを口にしたことがあって。伝統ある薩摩焼を、もっと気軽に手に取ってもらえる、使ってもらえる、というアイディアはとてもいいなと思いました。そこで、数年をかけて「テーブルウェアを作ってみない?」と説得したんです。

結果として、できあがった食器はモダンでいいねと選んでもらえるようになったので、挑戦してよかったと思っています。

秀樹:そんな転換期において、ターゲットが定まっていなかったのもあって、なんとなく「綺麗なものや華やかなものが売れるのでは?」と考えて「売れそうなもの」を作ってみたのですが、作り手である私は全然ワクワクできなかったんです。やっぱり作り手自身がワクワクしていないと、良い作品にはならない。「作り手も使う人もワクワクする薩摩焼をつくる」というコンセプトは、作品作りにおいてもすごく腑に落ちる言葉でした。ワクワクしながらより良い作品を作っていこうと自信を持って思えるようになりました。

ーー振り返ってみると、これまでも「ありたい姿」でいたことを実感されたんですね。

亜貴子:そうですね。これまで考えていたことも間違いではなかったんだと思えたんです。また、ターゲティングや顧客へのアプローチについて悩んでいた頃は、あれもこれもと手を出さずに何か一つに絞らなくてはいけないのかな?とも考えていたのですが、ガイドラインを作ったことによって「ワクワクできる」なら、どんなものでも挑戦していいんだ、それが新しい「秀樹の荒木陶窯らしさ」なんだ、と胸を張れるようになりました。

「これまで」と同じように「これから」も、自信を持ってワクワクする作品を作り、ワクワクしながら手に取ってもらえるようにしていきたいと思っています。

伝統的な薩摩焼の一つ「白薩摩」は、白地に絵付けをしたものがメジャー。荒木陶窯では、絵付けではない「彫文」や「波文」という、形で魅せる新しい表現に挑戦している

未知の取り組みだった「複業人材との協働」は、永く繋いでいきたい「人と人」の縁になった

ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には、以前から興味はありましたか?

亜貴子:そういった働き方があるということを、実は知らなかったんです。でも実際に取り組みを経験してからは画期的な仕組みだと思っています。田舎にいて、主人としか話さない日々を過ごしていると、世の中から離れていきますし、顧客層の考えからも遠くなってしまいます。ビジネスシーンの第一線で働く人の考えを聞くことができたのは、私にとってとても刺激的でした。他の企業の方に、「どうだった?」と聞かれたら、迷いなくよかったと伝えられます。

秀樹:やっぱりお一人お一人が魅力的だったのが印象に残っています。皆さんとの対話の中でそれぞれのバックグラウンドが見えてくる。そこからも学べることが多かったと感じています。

陶芸という商品の性質上、コストが減った、売上が倍増した、などの具体的な結果をすぐに出すためのものというよりも、この経験がこれからの人生に活きる、自分に対する投資という感覚も大きいです。

ーー最後に、それぞれへのエールも込めてメッセージをお願いします。

亜貴子:これからもどんどん需要が増えていくのではないでしょうか。コロナがあったからこそ、遠方の複業人材ともオンラインで繋がって取り組みを進めるという形も皆抵抗なく受け入れることができると思います。私も受け入れた結果「こんなに便利な世の中になったんだ」と思えましたから。

協働日本の皆さんは、ますます活躍されると思います。 

秀樹:皆さんと知り合うことができて、とても刺激的で楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。半年強という時間は短かった。3年、5年と続けていきたいご縁です。

何年か経ったらまた改めて協働をお願いしたいと思っています。それぞれ更に進化されて、学びも楽しさも、更に大きなものになっているだろうと考えるととても楽しみです。

田中:7ヶ月間本当にありがとうございました。鹿児島県出身である私自身も知らなかった更なる薩摩焼の魅力や歴史を改めて学びながら、鹿児島の伝統工芸と向き合うことができて、とても貴重な機会になりました。知れば知るほど魅力が溢れる荒木陶窯さんの作品、私も一人のファンになりました!

これからも荒木陶窯さんから生み出される「ワクワク」を、私もワクワクしながら楽しみにしております!

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

秀樹・亜貴子:ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

荒木 秀樹 Hideki Araki

荒木陶窯 15代 代表

1959年11月1日生
1983年 日本大学芸術学部美術科彫刻専攻卒
1985年 同大学研究課程修了
2020年 苗代川焼・朴家15代襲名
2020年 「現代の名工」卓越技能者厚生労働大臣表彰
日本工芸会正会員
日本陶芸美術協会会員・日本伝統工芸士会会員
鹿児島県美術協会会員・苗代川焼伝統保存会会長

https://shop.arakitoyo.com/

荒木 亜貴子 Akiko Araki

荒木陶窯 取締役

荒木秀樹の妻。平成18年より取締役として経営に携わる。
ブランディング、マーケティング、作品の販売などの業務を担い、荒木陶窯の作品作りを支える。

「荒木陶窯」様の事例を含む、鹿児島県での地域企業の協働事例はこちら

協働日本事業については こちら

本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら
VOICE:協働日本 枦木優希氏 -本質的な「価値」を言語化し、歴史ある老舗企業の未来に貢献していく –

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 -「事業づくり」と「人づくり」の両輪-


STORY:栄電社 川路博文氏 -『焼酎粕』を新たな地域資源に。”四方良し”の発想でサステナブルな地域産業へ-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

協働日本は、鹿児島県および鹿児島産業支援センターの令和4年度の「新産業創出ネットワーク事業」を受託しており、2/17(金)に取り組み企業数社をお招きし、報告会を鹿児島県庁にて行いました。

発表会の様子はこちらの協働日本公式noteでもご紹介しています。
鹿児島で熱い「協働」が続々誕生中!県庁での発表会の様子をご紹介します

当日は取り組み企業の一社、株式会社栄電社の、バイオ環境事業部マネージャー川路博文氏に、発表会へお越しいただき、約半年間の協働の取り組みと成果を発表頂きました。

株式会社栄電社は、「技術で社会に貢献し、お客様からの信頼によって会社を発展させる」をミッションに、人々の暮らしや産業になくてはならない「電気」が、確実に、安全に、効率よく送電され運用されるシステムの運営を支えている総合電気エンジニアリング会社です。

昨今では、時代の要求でもある「新エネルギー開発」や、「バイオ環境事業」を通じて、SDGsにも積極的に取組んでいます。

そんな「バイオ環境事業」において、川路氏は焼酎粕を活用したサステナブルな地域産業の活性化に挑戦されています。地元鹿児島県の名産でもある焼酎を蒸留する過程でできる焼酎粕。強い粘性があり取扱いしにくく腐敗しやすいという特徴から、再利用が難しい産業廃棄物になりがちでした。

栄電社では、この焼酎粕の機能性成分に注目し、加工することで保存性・取扱性を向上させた焼酎粕乳酸発酵液(以下、SPL液)の製造を実現。協働日本との取り組みを通じて、この「SPL液」の活用による地元産業の活性化を図っています。

今回は事前インタビューでお伺いした内容を含め、川路さんにお話しいただいた協働日本との取り組みを通じて生まれた変化や、今後の事業展望への想いなどをご紹介します。

(取材・文=郡司弘明)

廃棄物ゼロを目指して。持続可能な資源の循環を生み出し、鹿児島県の産業全体へ貢献したい

ーー協働日本と勧めている「焼酎粕を新たな地域資源として活用する」プロジェクトについて

まず初めに、なぜ私たちがこの焼酎粕の活用に着目したかについてお話しします。健康にも良い食品として知られる「酒粕」は日本酒の製造過程で出るものであることはよく知られていると思います。

「焼酎粕」も焼酎を蒸留する過程で出てくるものです。そして酒粕と同様に、たんぱく質、ビタミン類、ミネラル類などさまざまな栄養成分が含まれているんです。

ただ、酒粕と違う点として、焼酎粕は粘性が強い液体で取扱いにくい上に腐りやすいという特徴があり、再利用がとても難しいんです。さらに、出来上がり量よりも発生量が少なくなる酒粕と違って、出来上がりの焼酎の約2倍もの量が発生します。年間20万t以上も廃棄されることがあり、当然コストも嵩んでしまう。

そこで、なんとかこの焼酎粕を活用できないかと考え、鹿児島の基幹焼酎メーカーさん、様々な大学機関と連携して2017年から研究開発を始めました。

今までの焼酎粕の処理法というのはメタン発酵により一部をガス燃料にしたり、農地に肥料として撒いたりすることが多く、あくまでも産業廃棄物の処分という考え方でした。私たちは、この焼酎粕を産業廃棄物ではない「地域資源」として活用できないかと考えたんです。

せっかくならば地元産業の廃棄物を新たな「地域資源」に生まれ変わらせて、同じく地域産業で活用してもらえるような形…鹿児島県の地域産業全体に貢献できるような形にしたいという想いを持って事業がスタートしました。

そして研究開発を進める中で、焼酎粕を乳酸菌発酵させて保存性や取扱性、有効成分が強化された、飼料・肥料として使える「SPL液」が完成しました。焼酎粕の全量を使うことで廃棄物ゼロも実現。特許も取り、実証実験も重ねて、幅広い用途で活用できる効果性も少しずつ判明してきました。いざ焼酎粕の活用の可能性が見えてきたものの、「実証の成果をどのように事業に結び付けていけばいいか、ターゲットをどう絞っていくか」という次の課題が浮かび上がったんです。

ーー協働型の伴走支援開始後の変化や手応えについて

ーー続いて、協働プロと具体的にどのような取り組みをしているかもお聞きしたいと思います。

協働日本の皆さんにはターゲット設定の部分でとても助けていただきました。実証実験の結果では、肉牛・乳牛や養殖魚への飼料利用、水稲への肥料利用など様々なケースにそれぞれ良い結果がでていたので、具体的にターゲットをどこに絞って活用を広げていくかという部分を定められていなかったのですが、協働プロの皆さんと検討を重ねることでターゲットを二つに絞ることができました。

一つは「乳牛」、もう一つは「魚の養殖」です。

鹿児島県の豚の飼育頭数は全国一位、肉用牛は全国二位なので、どうしても私たちは「鹿児島」らしさや、市場の大きさから、豚や肉用牛の飼料として「SPL液」を活用することに目がいっていたんです。

一方で、実証実験の成果としては乳牛の成果の方が大きかった。乳量が上がった・母牛の受胎率が上がったなどの成果が数年にわたる実験の数値データとして出ていたんです。

同時に、乳牛は夏の暑い時期に食い渋りが発生し、乳量が減るという酪農家側の課題も明確にありました。協働プロの方に「せっかく明確な課題と、良い結果が出ているのであれば、ターゲットはここに絞るべきではないか」と指摘していただけたことが新たな気づきになりました。

魚の養殖に関しては、時流の観点からアドバイスをいただきました。実は協働のスタート前には、養殖魚に関する商談はひとつもありませんでした。そんな中で、協働プロの皆様は養殖魚のブランド化に着目した意見をくださったんです。

昨今、水産物に関しては特に、味の差別化やブランド化が進んでいます。例えば、鹿児島県では「安全性・鮮度保持性・美味しさ・栄養性・機能性」などに拘った養殖ブリの「鰤王」、鹿児島県産のお茶を飼料に配合した養殖カンパチ「海の桜勘(おうかん)」などのブランド魚が有名です。

新たな地域資源である「SPL液」を飼料として魚に与えることが、「地域の特産品から発生した焼酎粕を使った魚」というブランディングに繋がるというアイディアが生まれたんです。

このアイディアは外食産業の商社の方から共感を得まして、こちらも現在「SPL液」の製造販売の事業化を進めているところです。今年の秋には、「SPL液を使ったブランド魚」を皆様にお届けすることができるかもしれません!

チームとして向き合う一体感と、多角的な視点から一貫性を持ったアドバイスが社内に新風をもたらす

ーー協働日本との取り組みの中で一番印象的だったことは

新しい気づきや視点で、今まで考えなかった方向に進むことができたことでしょうか。社内の人間だけで検討を重ねると、似た議論が続いたり、考えが凝り固まってしまっていて、どうしても全員同じような方向に向かってしまいます。

先ほどのターゲット設定の話の中でも「鹿児島の地域産業のために」という想いから、対象の多い事業者をターゲットに設定したいと視野が狭くなっていました。そこに協働プロの方が入ってくださったことにより、フィールド試験結果を元にして「より収益化に繋がりやすいもの」というヒントをいただきました。

私たちの収益化にも繋がりやすく、効果も出やすければ、事業も広がりやすいので、結果として「鹿児島の地域産業」に大きく貢献できるわけです。新しい視点によって道が拓けていった感覚が強いです。

コンサルではない、同じチームとして向き合っていただいていることも本当に大きいです。当事者目線でいろんな相談に乗っていただけるので、共に事業を作っていっている実感があります。実際、「SPL液」の販売という課題をテーマに協働がスタートしましたが、販売や収益の視点だけでなく「鹿児島県の地域産業全体に貢献したい」という私たちの本来の想いの実現方法を一緒に考えていただくことができました。

“四方良し”のビジネスモデルで、鹿児島県に更なる飛躍を

ーー今後の展望について

基本的には酒造メーカーさんご自身が製造設備を持って「SPL液」を作っていただき、「SPL液」を畜産・養殖業社の方に直接販売していただくという事業モデルを検討しています。

酒造メーカーさんとしては、自社で「SPL液」を製造することで処理費を軽減できます。実は焼酎の製造期間というのは、毎年9月から11月と非常に短いのです。でも、「SPL液」の製造・販売という業務ができることによって閑散期がなくなり、従業員の方たちを年間を通して活用しやすくなります。当然、「SPL液」の販売による増収を見込むこともできます。

先ほど述べたように、畜産農家さん、水産養殖業の方たちに対しても、「SPL液」を活用していただくことで大きなメリットがあります。「SPL液」の栄養吸収率の良さから、生産コストの削減に繋がります。乳牛であれば、一般的に乳量が減る夏場の牛乳の安定出荷、養殖魚であれば鮮度が長く保てることや、味の良さなど、それぞれの付加価値向上が見込めるんです。

もちろん私たちとしても、提携する事業者が増えることで製造設備の建設という仕事が発生するわけです。

鹿児島の名産品である焼酎から、廃棄物ゼロ、循環型の経済を実現し、それが地域の他産業にも活かされていく。全員がWin-Winになる形で地域の活性化が図れると考えています。

こうやって整理してみると、焼酎粕から作った「SPL液」をいかに販売していくかという課題を通じて、本当に私たちがやりたかった「環境問題への取り組みの発信」に辿り着いたことが、協働がスタートしてからの一番の変化のように思います。


編集後記

鹿児島を代表する産業のひとつ「焼酎」から排出される焼酎かすを活用した新事業への取り組みは、発表会に参加した鹿児島県の職員の皆さまのみならず、他の事業者様もペンを走らせながら、興味深く聞いておられました。

報告会終了後に開催した交流会でも、鹿児島県内の地域や業種を超えた繋がりが生まれており、次なる「協働」が誕生する予感が生まれていました。

協働日本の伴走支援中に大手事業者との事業化が決まるなど、既に大きな事業進展が生まれております。

今後も栄電社の技術によって実現した、サーキュラーエコノミーモデルの発展に向けて、今後も協働メンバー一同でお力添えできればと考えております。

株式会社栄電社

昭和53年創業。「技術で社会に貢献し、お客様からの信頼によって会社を発展させる」をミッションとして、人々の暮らしや産業になくてはならない「電気」の供給を支える総合電気エンジニアリング会社。

従来の技術だけでなく、時代の要求でもある新エネルギー開発に関わる新技術の習得や、産学協同研究による高度な技術開発・技術者養成にも積極的に取組んでいる。

「栄電社」様の事例を含む、鹿児島県での地域企業の協働事例はこちら

協働日本事業については こちら

本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 -「事業づくり」と「人づくり」の両輪-
VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –
VOICE:協働日本 浅井南氏 -「地方だから」を魅力に変える!チームで実現する協働の形-


STORY:うしの中山 荒木真貴氏 -『UshiDGs(牛DGs)』協働により生まれた、鹿児島発サーキュラーエコノミーモデル-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、有限会社「うしの中山」専務 荒木真貴氏にお越しいただきました。

有限会社うしの中山は、1950年創業の和牛肥育農家です。”牛の能力を最大限に引き出す”を使命として牛にとってストレスのない環境にこだわり、現在約5,000頭の牛を飼育しており、A5等級出現率75%を超える肉質が自慢です。2022年には和牛オリンピックの部門で日本一にも輝きました。

そんなブランド牛の飼育・販売が好調な一方で、牛の飼育とは切っても切れない「堆肥」の販路拡大への課題がありました。荒木氏は現在、協働日本との取り組みの中で、堆肥の販路拡大や、堆肥の活用によるGX(グリーントランスフォーメーション)を通じて「UshiDGs(牛DGs)」の活動を行なっておられます。

今回は協働日本との取り組みのきっかけや、支援を通じて生まれた変化についてお聞きしました。さらには今後の複業人材との取り組みの広がりの可能性についてメッセージもお寄せいただきました。

(取材・文=郡司弘明)

畜産農家の抱える「堆肥問題」を、サステナブルな取り組み「UshiDGs」へ

ーー本日はよろしくお願いします。協働日本との出会い、進行中のプロジェクトについてお話を伺っていきたいと思います!

荒木真貴氏(以下、荒木):改めて、よろしくお願いします。

ーー協働日本とは、現在「堆肥事業」についての協働を進めていらっしゃいますが、取り組みがスタートしたきっかけを教えていただけますか?

荒木:農場内の堆肥の問題についての検討を進めていた時、普段からお世話になっていた養豚農家の方や、鹿児島県庁の方に協働日本代表の村松さんをご紹介いただいたのがきっかけでした。農家ではない方々から、自社の課題についての意見を聞ける良い機会であると考えたんです。ちょうど協働日本さんが鹿児島県と事業を進めていたということも、協働の決め手の一つになりました。

実は、「協働日本」という名前を聞いて、初めはどんな組織なのか想像できていなかったのですが(笑)お会いしてみたら、村松さんをはじめ、協働プロの皆さんは本当にお人柄が良くて。あの時お会いできてよかったと思っています。

ーーそう言っていただけるととても嬉しいです。
早速「堆肥問題」の背景と、現在の状況についてもお伺いしてもよろしいでしょうか。

荒木:堆肥は、その特性上、牛の飼育とは切っても切り離せません。約5千頭の牛を飼育する私たちの農場から出る堆肥は、年間3万6千トンにもなります。想像できない量ですよね。牛の糞は毎日どんどん増えていきますから、堆肥化した後もそのまま農場内に置いておくことはできません。堆肥化した後に全て捌かせないと、溜まる一方になってしまうんです。ですから、いかに効率的に早く堆肥を売り切っていくかが、当初の「堆肥問題」という課題でした。

有り余る堆肥をどうするか、が協働のスタート。スタートしてからは、単に堆肥を売ることが目的ではなく、なぜうしの中山が堆肥事業に取り組むかを言語化した上で、新たな販路の開拓やお客様のニーズを考えた堆肥の改善、オーダーメイドによる新しい売り方などについて、協働プロと一緒に検討を進めていきました。

付加価値のある堆肥──つまり使うと作物がよく育ち、収穫の質も量も上がるような堆肥を目指して堆肥の研究をし、こだわりの菌など独自の配合で手間ひまをかけた完全発酵堆肥として販売、現在は売上金額も向上しています。あれだけ有り余っていた堆肥の山が、今は需要が大きすぎて足りない状況になっているのも嬉しい悲鳴です。

また、あまり知られていませんが、堆肥は地球の環境にもすごく良いんです。化学肥料を使いながら作物を繰り返し作ることで、土が硬く締まり、水はけが悪くなったり、植物の根が伸びづらくなったりします。そんな土に堆肥を混ぜ込むと、肥料としての栄養がいきわたるのは勿論、通気性や排水性、保水性を上げる効果があり、作物を作りながらも本来の大地の力を取り戻すことができるんです。

堆肥づくり以外にも畜産農家が普段から行なっている様々な環境保全、サステナブルな取り組みについて、総括して「UshiDGs(牛DGs)」として発信することも始めました。

うまみを追求した技術、ストレスのない環境そだてられたうしの中山の牛肉は、和牛オリンピックの部門で日本一に輝きました

自分よりも自分のことをわかってくれる。自らの足で歩くことを前提とした、自律を前提とした伴走支援

ーー続いて、協働プロと具体的にどのような取り組みをしているかもお聞きしたいと思います。

荒木:はい。弊社からは2名が主となり、協働日本さんには、横町さん、田村さん、近藤さん、西川さんの4名を中心に参加していただいて、1〜2週間に一度のミーティングを行なっています。

このミーティングで、タスクや検討事項を整理、目的や目標などを明確にしており、事業を進めて行くための大きなヒントになっています。思いつくアイディアは色々あっても、言語化や頭の中を整理するのがすごく苦手で…協働プロの皆さんはアイディアを言語化することに本当に長けていらっしゃるので助かっています。

何をどうすればいいのか、頭の中でイメージの輪郭ができていても、うまく整理できていないことは多々ありますし、今取り組んでいることを文章にして改めて見直してみると、なんだか思っていたのと違う方向に進んでいるなということもあるので、皆さんの言語化による整理で、進むべき方向性が定まっていく実感があります。

ーーなるほど。目的や課題の整理を中心に進めていただいているんですね。取り組みの中で感じた協働プロの印象はいかがでしたか?

荒木:皆さん、能力やスキルが高いことはさることながら、お人柄がとにかく良いです。対話の中で「荒木さんが思っているのはこういうことですよね」と、自分より自分の考えを理解してくれていて、その上で「それであれば、こういう風にした方がいいのでは?」という提案をしてくださるんです。進みたい方向性を邪魔せず、嫌な気持ちにもさせず修正してくださるのでいつも納得感を持って受け止められています。お若い方が多いのに、自然で心地よいコミュニケーションを取っていただけるので正直とても感動しました。

すべての会話が非常に建設的で、弊社そして私に今、何が足りていて、何が足りてないかをはっきり明示してくれる存在です。そして何より、あくまでも私たちが「自分の足で歩くこと」を前提として、愛を持って伴走してくださっていることに、いつも感謝しています。

協働の中で見えてきた、「自分が本当にやりたかったこと」

ーー協働日本との取り組みの中で、会社にはどのような変化が生まれましたか?

荒木:堆肥をいかに販売していくかという課題を通じて、本当にやりたかった「環境問題への取り組みの発信」に辿り着いたことが一番の変化かと思います。

いかに堆肥に付加価値をつけるかという検討を重ねていく中で、出来上がったノウハウは必ず他の農家の為になると改めて感じました。栄養価が高く環境に良い堆肥を作って販売すると、堆肥を使った野菜農家は高品質な作物をより多く収穫できるようになり、土壌改良にも役立ちます。その堆肥の作り方を他の畜産農家にも共有できれば、そこでも堆肥が売れるようになり、購入先の作物や土壌改良にもよい影響が広がっていくと思うんです。

堆肥を活用したGX化だけでなく、牛舎と牛舎の間のスペースへの植樹、牛舎の壁面や堆肥舎の壁に蔦の葉を這わせて作ったグリーンカーテン、本来廃棄物になるようなものを飼料に活用するなど、私たちは日頃からサステナブルな取り組みを行っています。昨今では牛のげっぷに含まれるメタンガスが環境問題の一因にあるという説の影響で「牛は環境に悪い」というイメージがついてしまっているのを覆したいという思いもあり、こういった取り組みを総括して「UshiDGs(牛DGs)」として発信するようになりました。

荒木:協働プロとのミーティングを通じて思考の言語化を重ねることで、だんだんと「こういった取り組みを広げたい、知って欲しい」という「Why」が自分の根底にあったことが明確になりました。協働プロの皆さんにも「堆肥の付加価値や販路のことを考えることはすごく大事。でも、荒木さんにとっては売上を上げること自体が大事なわけではないんじゃない?」と背中を押してもらえたことが、自分にとっては大きかったと思います。

ーーただ目の前の課題解決をするだけでなく、想いの根底まで掘り下げていくことができたんですね。

荒木:そうですね。「UshiDGs(牛DGs)」のコンセプトが生まれたことにより、単に堆肥を売ることを超えて、自治体をはじめ、多くのステークホルダーに共感してもらえるようになりました。お茶の生産者や食品会社など、地域の事業者との協業が増え、鹿児島発のサーキュラーエコノミーのモデルとして、自社にとっても意義の大きな事業になってきています。

私が思っていた以上に、「UshiDGs(牛DGs)」は皆さんに共感して頂ける取り組みだったのではないかと思っています。

このように、自社の堆肥問題の解消を通じて社会課題の解消にもインパクトを残せるようになったことは、協働があったからこそ見つけられた「私たちの深層にあった大きな目的」への第一歩になりました。


企業や地域の壁を超えた、複業人材とのノウハウのシェアが日本を変える

ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には以前から興味はありましたか?

荒木:私は元々異業種の方と積極的に関わりたいと考えるタイプで、考え方や事業内容が面白いなと感じた方にはSNSなどを通じて個人的に声をかけて話を聞くこともありました。多面的な視点を持つことで、新しいアイディアが生まれたり、物事への理解が深まると考えているからです。

日本社会では一般的に、アドバイスが欲しい時にその道のプロに頼ろうとする人が多いと思います。積み上げてきたものの中から良い知見を得ることはできる一方で、新しい可能性や視点を獲得することはできません。課題に直面した時に多面的な物の見方ができる力は、これからの社会でも必要だと思います。

ーー地域との協働の取り組みは今後どのようになると思いますか?

荒木:もっと広がっていくと思います。

今の若手を見ていると、何か成功を収めたとしても「全部自分の手柄」にしたい人は少ないように思います。関わった皆のお陰としてシェアすることを厭わない、「足るを知る」ような価値観の方が多いのかなと思います。

大きな理念を持つ一つの会社に人が大勢集まって、ずっと勤め続ける終身雇用の社会はもう過去の話です。これからは、こういった価値観を持つ若い世代が、会社という枠に囚われずにノウハウや労働力をシェアして、更には成果や売上もシェアしていこうという社会になっていく。そんな社会に、協働の取り組みはとても親和性が高いと思うんです。

地域と都市部の複業人材の取り組みについても同じ構造で、地域や業界・企業の枠に囚われずにノウハウをシェアしてもらうことで、効率的に成果を上げられるようになります。また、地域の外のプロフェッショナル人材からの客観的な視点と言葉で、自分たちのやっていることや考え方を再確認できるので、協働こそが新しい武器になり得るのではないでしょうか。企業や地域を超えた横の繋がりが、日本をより強くしていくと思います。

ーー嬉しいお言葉、ありがとうございます。
これからの協働日本へのエールを兼ねて、メッセージをお願いします。

荒木:協働日本の強みは、プロフェッショナルは勿論ながら、在籍する方の個々のお人柄の良さと、愛を持って悩みを聞いてくれるところだと思います。これからさらに多様な考えやスキルを持つ協働プロが増えていくことを期待しています。さらに広い範囲・多くの視点が揃うことで協働チームの戦力が突き抜けていき、救われる人が増えるんじゃないかな。

今回の協働で、協働プロの皆さんの頭の中と自分の頭の中が直結しているような、脳みそをお借りしているような感覚でミーティングを重ね、伴走支援を通じて背中を押していただきました。色んなアイディアがあっても、最後に実行するのは自分自身。本当にやりたかったことに向けて、進み出せてよかったと思っています。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

荒木:ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

荒木 真貴 Masataka Araki

有限会社 うしの中山
専務取締役

長崎県諫早市出身
長崎県立諫早高校卒業
社会人になってからは、個人でカイロプラクターを目指し活動~アパレル業界にて8年過ごし、その後、運送業、建築、建設業なども経験し、2019年に『うしの中山』へ入社 販売を担当し、自社の肥育する牛の価値を高め、何より、感動する美味しさを知ってもらい、皆さんに食べていただくため活動してます。

広く海外の方にも、最高の自社の肥育した牛を知ってもらうため、2023年はかなり輸出に力をいれていくところです。

『命に感謝』
という、自社の理念を胸に、日本の農家さんがやってこられた自然と向き合って構築されたシステムや、考え方を先進技術と掛け合わせて、発展していかれる国々にその『ノウハウを輸出』することもビジネスになり、大切な地球の環境維持にもなるはずという信念でUshiDGsも仲間を集いながら展開。

有限会社 うしの中山
https://nakayama-kimotsuki.com/

「うしの中山」様の事例を含む、鹿児島県での地域企業の協働事例はこちら

協働日本事業については こちら

本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 -「事業づくり」と「人づくり」の両輪-
VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 –
VOICE:協働日本 浅井南氏 -「地方だから」を魅力に変える!チームで実現する協働の形-


VOICE:協働日本 浅井南氏 -「地方だから」を魅力に変える!チームで実現する協働の形-

協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。

今回は、協働日本にてWebマーケティング、特にネットショップやECサイトの運営支援を通じた支援を専門にしている浅井南氏です。

ベンチャー企業にてWebデザイナー・ディレクター・ECサービス事業部長を務め、鹿児島県を拠点にして、EC・Webサイト制作・支援をこれまで10年以上手掛けてきた浅井氏。現在は、よろず支援拠点コーディネーターとしての活動のほか、鹿児島市ICT推進委員としても活躍しています。

協働日本を通じた取り組みと、取り組みの中から生まれた変化について、これまでのキャリアの軌跡や、協働日本の今後の可能性にも触れつつ語りました。

(取材・文=郡司弘明)

地域の魅力を発信していくことにやりがいを感じています

――本日はよろしくお願いします。浅井さんは現在、協働日本所属のWebマーケッターとして、パートナー企業様のECサイトやWebサイトの改善などを通じて複数のプロジェクトに参画されています。まずは、協働プロとしての活動以外のお仕事について教えてください。

浅井南氏(以下、浅井):よろしくお願いします。数年前に独立して、いまはフリーランスとして活動しており、ECサイトの制作やデザイン、企業の公式サイト運営、SNSの発信などをご支援しております。

企業や個人のお客様から「売り上げを伸ばしたい」や、「サイトをどうやって構築したらよいかわからない」などといったご相談をいただいているほか、最近ではSNSを活用した売り上げアップ施策などでお声がけいただく機会も増えてきました。

楽天市場に出店している方や、出店を検討されている方へのご支援も数多く携わらせていただいており、RPP(楽天プロモーションプラットフォーム)などの広告運用もご支援しています。

――いまお住いの鹿児島県では、「よろず支援拠点」の相談員としても活動されていらっしゃるとお聞きしました。

浅井:はい。「よろず支援拠点」は中小企業や小規模事業者様からの経営上の様々なご相談に対応するために国が全国に設置した無料の相談所で、私は鹿児島県のよろず支援拠点でWebやEC、SNSの専門家という立場から事業者様の相談にも乗っています。

最近では、自治体や商工会議所の方からセミナー登壇をご依頼いただくことも増えてきました。中小企業の経営者の方の中には「WebやECの活用を勉強したいと思っているけど、つまずいてしまった・・」「何から始めればよいのか分からない」といった方も多くいらっしゃいます。そういった方々のご支援を通じて、地域の魅力を発信していくことに日々やりがいを感じています。

鹿児島にUターンして気が付いた、本当にやりたかった仕事

――なるほど。これまでのキャリアはずっとWebマーケティング等に関連するお仕事を続けてこられたのでしょうか。

浅井:それに関してはちょっと違っていて。大学卒業後に地元の鹿児島を出て上京し、はじめて就職した先は、エアコンメーカーの修理を主に取り扱う部署。そこで修理サービスを支援するような事務職に就いていました。当時新卒だったこともあり、先輩方にはお仕事・プライベート問わず、大変お世話になりました。ここでの経験が、人生の基礎となった事は間違いありません。

その後数年たったタイミングで、無性に大好きな地元、鹿児島県にUターンしたくなってしまって。仕事も決まらないまま、とりあえず、と地元に帰ってきてしまいました(笑)

――なんと!少し意外でした。そうして鹿児島に戻ってこられてからはどんな活動をされていたのですか。

浅井:企業勤めで忙しく色々な仕事を経験させていただいた分、自由な時間が欲しくなって、自由を謳歌させていただいておりました。

そのうちに、これから自分は何を仕事にしていきたいか考えたとき、地元鹿児島でものづくりがしたいと思ったんです。趣味でこれまで、アプリやWebサイトを作っていたのですが、これに本気で取り組んで仕事にしてみようと思い立ちました。

そんな時、前職のエムコミューン(mcommune)の社長と出会い、一緒に仕事をすることになりました。知識や経験のない私でしたが、そこで1からデザインやコーディングを学ばせていただきました。一緒に働くスタッフも増え、チームでの制作ができるようになってからはディレクション側での経験も積ませていただきました。

エムコミューンに所属していた10年間。気付けば手がけたHPやご支援先は250社近くになっていました。多くの経験を積む中で、HPの運用や運営、Webショップを成長させるノウハウ、商品開発などをご支援出来るようになっていました。

――浅井さんは現在、フリーランスとして活動されていますよね。こういった経験が今の仕事の背景にあったのですね。

浅井:はい!前職での仕事を10年目を一区切りにして、独立しました。いまはフリーランスとして活動をしていますが、上京して働いていた経験も、前職で学んだ知識や得られた経験もすべて今の仕事の糧になっています。

一度地元を離れて仕事をしたことも、地域の魅力を再発見できるいい機会になりました。

私がしたかった支援のスタイルはこれだ!と思った

――浅井さんが協働日本で共に取り組むことになったきっかけを教えてください。

浅井:鹿児島でセミナーに登壇されていた、協働日本代表の村松さんと偶然お会いしたことがきっかけでした。

私は日々WEBマーケティングの仕事をする中で、様々な企業の取り組みにアンテナを張っていますが、石川県金沢市にある「四十萬谷本舗」さんが発信している商品開発のストーリーや、複業人材とのプロジェクトを地域企業の取り組み例の記事で目にして、とてもユニークな事例だと思って、個人的に関心を持って追いかけていたんです。

たまたま鹿児島に来られていた村松さんのセミナーの中で紹介されていた四十萬谷本舗さんの事例を聞いていてびっくりしました。追いかけていた取り組み事例が、実は協働日本のみなさんとのものだったのです。

私自身も、よろず支援拠点の活動もする中で支援力を更に高めていきたいという思いがあったこともあり、一緒に取り組ませていただきたいとお声がけしました。

――それは驚きの出会いでしたね。浅井さんのイメージする地域企業支援の取り組みと、協働日本が大切にしている「協働」型の取り組み、重なる部分が大きかったのでしょうか。

浅井:お話を伺って、私がしたかった支援のスタイルはこれだ!と思いました。

私自身は個人で企業を支援することも多いのですが、一方の協働日本はパートナー企業に対して、原則、複数名の協働プロで構成されるチームで支援にあたります。

チームで支援できるという体制は、パートナー企業にとっては様々な知見や経験をベースにした伴走型支援が得られるメリットがあります。企業を支援するフェーズによっては、各協働プロメンバーの強みを活かして最適なチームメンバーを編成しながらサポートすることもでき、これによって連続的に中長期的な伴走が可能になります。

プロジェクト単位でのスポット型の支援ではどうしても、短期的な取り組みになることも多く、双方にとっても本質的な経営課題に向き合うことが難しくなります。

――チーム単位でパートナー企業に向き合うことで、協働プロにとっても学びや気付きが多くありそうですね。

浅井:その通りです。チームでの支援は私自身も学びが多く、自分の専門性とは異なる専門性を持ったメンバーとの協働は刺激も多いです。

普段はWebマーケティングを中心にした専門分野での支援が中心なので、他の協働プロたちの、経営や営業の視点からの提案を聞けることで自分自身の視野も広がっています。

取り組み先の1社「丸七製茶」さまの商品「CRAFT BREW TEA」シリーズ

ECの世界では、個人や地域の個性が大きな魅力になる

――地域企業や地方との取り組みの中で、浅井さんが大切にしている想いなどをお聞かせください。

浅井:様々な企業さまをご支援させていただく中で、地域に根ざした「ローカル」な企業や商品を活用する文脈ほどECとの相性は良いと確信しました。

前職のエムコミューン時代に、鹿児島で焼酎を売っていた酒屋さんをご支援させていただく機会がありました。地域へのお酒の配達が収益の柱だった酒屋さんでしたが、店主がご高齢となり、以前のような頻度や量での配達が難しくなっていました。

そこでECサイトの活用に思い切って舵をきられた店主と、二人三脚で販路の拡大に取り組ませて頂きました。Amazonや楽天などのショッピングモールの活用方法を貪欲に学ばれて、ネットでの売上を伸ばすことに成功。数年後には配達中心だった頃よりも年商を大きく伸ばすことができました。

商品の選定や説明など、その店主や鹿児島という地域の個性をうまく取り込んだことで成功した事例です。地域でのセミナーでもよくお話させていただくのですが、ECの世界では年齢や地方であることがハンデになるどころか、魅力になるのだと実感しています。

始めるときには学ぶぞ!という強い気持ちが必要かもしれませんが、一度ノウハウをしっかり体内化できれば、地域に根ざしてビジネスをしている事自体が、ECの世界ではとても大きな魅力に変えられます。

――そういった経験があったことが、いまの浅井さんの活動に繋がっているんですね。

浅井:ECサイトの運用については本当に、正しい情報を持っているかどうかで結果が変わってしまうことも多いんです。地域の魅力をどんどん発信していくためにも、地方の企業がそういったノウハウを得られる機会をどんどん作っていきたいと思っています。

そういった思いを叶える上でも、協働日本との取り組みにとても意義を感じています。

さらに、地域企業がECサイトをはじめとする様々なITをもっと活用すると、クリエイティブの需要が地域に生まれると思っています。デザインやマーケティングなど、その地域や企業をよく知る人が身近にいれば、企業も安心して仕事を任せることができるので。

クリエイティブやWebマーケの仕事は働く場所を選びませんから、地方でその土地の企業と一緒に仕事をしたいと思うクリエイターが増えて、地方から人が減っていくことを食い止めることに繋がれば良いなと思っています。

経営者視点での意思決定にも関われることが大きなやりがいに

――浅井さんが大切にしている想いがよく分かりました。現在、協働日本で複数のプロジェクトに関わりながらどんなことを感じていますか。

浅井:協働日本がお取り組みを進めている企業は、歴史ある老舗企業や、新しく事業を転換していこうとチャレンジしている企業などが多く、それだけに課題の整理や方向性を定める議論の難易度は高いですが、どこの企業も本音をぶつけてくださっていることで建設的な議論が出来ています。

企業側のやる気スイッチにも刺激されて、より高い熱量で向き合いたい!とおもって臨んでいます。

経営視点での方針を話し合う日もあれば、キャンペーン施策のひとつひとつのクリエイティブをブラッシュアップしていくような日もあります。全体を俯瞰しながら、多くの関係者とプロジェクトを進めています。経営者視点での意思決定にも関わらせていただくことも多く、協働日本の取り組みはどれも本当に刺激的です。

同じ想いや熱量を持った人々とともに働けることが大きな価値

――最後の質問です。これから協働日本はどうなっていくと思いますか?

浅井:まさに今、メタバースといった世界が注目されていることに現れているように、今後はより一層、個々人が場所や時間を問わない働き方を選択する時代になってきていると思います。その変化の中で、同じ想いや熱量を持った人々とともに働ける、繋がれるということは今後より価値を増していくように思います。

チームで地域企業の課題解決に伴走する協働日本は、そんな働き方の先駆けになっていくと思っています。

実際に活動していく中で得られたものは沢山あります。異業種の方との協働は自分の知識や経験を広げてくれますし、共に取り組む協働プロの皆さんの提案や分析もいつも刺激になっています。

パートナー企業の皆さんの事業をご支援させていただく中で、私自身もやれることが増えましたし、成長へのモチベーションが高まりました。まだまだやれることはたくさんありますね!

――インタビューへのご協力ありがとうございました。

浅井:ありがとうございます!協働日本の伴走型支援にご関心ある地域企業様だけじゃなく、協働プロとしてどんどん現場に赴き、自分を成長させたい方もぜひお声がけください。一緒に協働の取り組みを大きくしていきましょう!

浅井 南 Minami Asai

フリーランスマーケター

mcommune,LLC.にて、Webデザイナー・ディレクター・ECサービス事業部長を務めた後、フリーランスとして独立(わるだくみ)。

鹿児島県を拠点に、EC・Webサイト制作・支援を10年以上手掛ける。
楽天・Yahoo!ショッピングなどのモールはもちろん、自社EC・WordPress・インスタグラム等、数多くの実績を糧に、幅広く制作・支援を手掛ける。

現在、よろず支援拠点コーディネーター、鹿児島市ICT推進委員としても活動中。

専門領域
Webマーケティング、ネットショップ/EC運営支援・販売支援、ECコンサルティング、Webデザイン、SNS/PR/広告運用支援

人生のWHY
あらゆる人に、Webのチカラ・挑戦を。

浅井南氏も参画する、協働日本事業については こちら