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STORY:株式会社四十萬谷本舗 四十万谷 正和氏 -課題に合わせた戦略的人材活用。老舗企業の考える「生き残り戦略」とは-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社四十萬谷本舗 専務取締役の四十万谷 正和氏にお越しいただきました。

株式会社四十萬谷本舗は、明治8年創業、老舗の発酵食品の製造販売を手がける会社。創業以来、醤油、味噌、糀などを始めとし、味噌漬やかぶら寿し、大根寿しなど、地元の文化に根ざした発酵食品を作っています。

150年近い歴史の中で、時代やニーズに合わせて緩やかに変化を続けてきたといいます。コロナ禍を迎え、また変わり始めた時代潮流に合わせ、協働日本とのプロジェクトをスタート。更なる進化を遂げる四十萬谷本舗に、協働プロジェクトに取り組んだことで生まれた変化や得られた学び、実感した会社と社員の成長について、そして中小企業の生き残り戦略への想いを語って頂きました。

協働プロジェクトに取り組んだことで生まれた変化や得られた学び、実感した会社と社員の成長について、また、今後の想いも語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

「塩漬けしたかぶ」に「熟成させた天然鰤」を挟み、糀で漬け込んで発酵させた伝統のかぶら寿し。 

一側面切り出し型のプロジェクトではなく、経営課題全般を見ることができるのが魅力

ーー本日はよろしくお願いいたします。四十萬谷本舗さんは協働日本との取り組み第一号の企業です。協働を決めたきっかけを教えていただけますか?

四十万谷 正和氏(以下、四十万谷):よろしくお願いします。

僕と妻が実家の家業を継ぐべく、勤めていた会社を辞めて、四十萬谷本舗に入った時、課題の宝庫と言えるほど、様々な種類の課題に直面することになったんです。

マーケティングの問題、営業の問題、DX化…解決すべきことが山積していました。

実際に現場に入ってから、日々発生する現場の課題に1つずつ向き合って解決していたのですが、会社全体が良くなっていく感じも全然しなくて、どうしていけばいいのかなと、当時は途方に暮れていました。

そんな時に、協働日本代表の村松さんから一緒に課題の解決に取り組まないかと声をかけていただいたんです。

ーー「伴走支援」という形の複業人材との協働。はじめての取り組みだったと思いますが、協働スタートの決め手はなんだったのでしょうか。

四十万谷:元々、村松さんとは同じ会社(ハウス食品)で働いていたというご縁もあり、普段から相談する機会もあって、弊社のこともよくご存じでした。

同様に、協働プロとして入ってくださるメンバーの何人かが元々の知人であったことで、元々の信頼関係があったこともきっかけとして大きかったと思います。

ただ一番大きかったのは、信頼できるプロフェッショナルに、それぞれの専門分野について力を発揮してもらえるというところでした。

例えば、何人かの協働プロに入っていただく中で、マーケティングのことは若山さん(若山幹晴氏 – ポケトーク(株)取締役兼CMO)、テクノロジーやITのことについては横町さん(横町暢洋氏 – NECソリューションイノベータ(株)シニアマネージャー)に聞けるなど、一側面切り出し型のプロジェクトではなく、経営課題全般を見ることができるというのが、大きな魅力の1つでしたね。

僕も妻もこれまでのキャリアのバックグラウンドは「人事」で、人事領域については一通り経験を積んでいたものの、その他の領域についてはやはり未経験ということもあり、1からキャッチアップして勉強していくのは容易ではないと感じていたので、とても心強かったです。

ーー実際どんな課題についてプロジェクトを進めて来られたのかお聞きできますか?

四十万谷:まずはその課題を整理する、というプロジェクトからのスタートでした。そもそも課題には2つのパターンがあり、1つは「不良品が発生してしまった」「お客様からクレームのお声をいただいた」など日々の業務の中で発生するトラブルに近いもの。

そしてもう1つは経営全般に関わる、企業としての本質的な経営課題です。僕たちは日々のトラブルへの対応に追われて、なかなか経営課題に着手できていないのが実情でした。

そこで、プロジェクトでははじめに徹底的に従業員やお客様へヒアリングすることで、四十萬谷本舗にとっての本質的な経営課題は何か?ということを洗い出していきました。

それによって「メインの顧客層が高齢化していること」「お歳暮などの贈答の習慣がなくなっていくこと」「冬に売り上げが集中していること」の3つが浮き彫りになったので、次はそれぞれの課題に対してどう会社として向き合っていくかというプロジェクトに移っていきました。

ーー現場では日々色んなトラブルや課題が生まれてしまうものだと思うので、本質的な経営課題に着手するというのはやはり容易ではないことですよね。

四十万谷:そうですね。日々発生する課題自体を解決するのもとても重要なことです。例えば、業務不良品が発生してしまったことについて、製造過程を見直して不良品が発生しないようにと根本から解決することは当然必要ですよね。

ただそういった日々の課題を解決できていても、「顧客自体が高齢化して、今後減っていく」という本質的な課題に向き合えていなければ、長い目で見た時に四十萬谷本舗を未来に残し続けていくことは難しい。

僕はこの日々発生する現場の課題のことを「重力」と呼んでいます(笑)。

もちろん重要なことだからこそ、どうしてもその対応で手いっぱいになってしまいがちになる。

だからこそ、現場の「今解決すべき課題」とは別に、週に1時間意識的にしっかり時間を切り分けて「長い目で見た本質的な課題」に着手できるということも、経営者にとっての協働日本さんとの取り組み価値だと感じています。

重力のように吸い寄せられる日々の課題。本質的な経営課題に向き合う時間の確保の難しさ

ーー本質的な経営課題に対してスタートした次のプロジェクトについてもお聞きできますか?

四十万谷:はい。次に取り組んだのは「メインの顧客層の高齢化」の課題についてです。新しい顧客層獲得のためのペルソナ整理と、打ち手は何かを考え始めたのが2020年3月頃で、せっかくスタートした直後に、コロナ禍に突入してしまいました。

コロナ禍においては当然実店舗の客足や売上には大きな影響を受けたこともあり、コロナ禍でもできる取り組みとしてオンラインでの取り組みやWebでの売上を伸ばすための施策をスタートしました。


具体的には、オンラインでの漬物体験の実施や、それと連動した体験キットを作ってWebで販売するなどの取り組みをすることで、Webの売上は年間3,000万円から4,000万円弱まで30%増という結果を産むことができました。

自宅で簡単に糀のお漬物づくりができる「生きている糀床」

ーー他の課題にも並行して取り組まれているのでしょうか?

四十万谷:そうですね。例えば「売上の冬季一極集中」という課題は、昔からずっと続いている課題です。

当社の圧倒的な主力商品であるかぶら寿しの需要が冬期に集中しているため、簡単には解決に至らないことが多いです。

今は、以前より限られた人員で現場を回せるようにオペレーションを工夫するなど、皆で力を合わせて少しずつ取り組んでいる状況です。もちろん人員をおさえることによって生まれた新たな次の課題も抱えながらではありますが、コロナ禍で売上が減っても収益性には大きな影響を受けずに来られています。

協働という本質的な課題を考える時間を作るようになったことで、こういった課題にもじっくりと向き合えているのかなと思います。

ーーなるほど。協働がスタートしたことによる成果としても、そういった「課題に向き合う時間を作れる」という面は大きいのでしょうか。

四十万谷:はい。成果という面でいうと、大きく3つ、「Webの売上が上がったこと」「そもそも本質的な課題へのアクションができるようになったこと」そして「経営課題に向き合う時間を意図的に作れるようになったこと」だと思っています。

やはり最初は目先の課題に追われて、長い目で見た時に必要な課題に取り掛かることができていなかったので、大きな一歩でした。

また、協働プロのノウハウが社内に蓄積されていくというメリットもあります。例えば、若山さんとのコミュニケーションの中でいつも出てくる「お客様は何を求めているのか」という顧客思考や、何か施策を打った時に「そこからの導線を考えることが重要」というような考え方が協働を通じてインストールされて、自然と僕の言葉の中に出てくるようになっています。結果としてそれが現場に伝わっている部分もあるんじゃないかなと思います。

中途半端な人材はいらない。協働プロは、想いを持って共にコミットメントできる仲間。

ーー四十万谷さんは、以前から都市人材や、複業人材との取り組みにご興味をお持ちだったんですか?

四十万谷:複業人材との協働で成果が出ている弊社ですが、特に「複業人材活用」自体に関心があった訳ではありません。

協働の取り組みをしているのも、「協働日本だから」というのが大きな理由です。というのも、「複業」人材に関しては、まだ世間では「副業」という意識が強い方も多いと思うんです。

「副業」という意識を持っていると、どうしても本業が忙しくて…などの逃げが生じてしまいがちですし、本当にプロフェッショナルとしてのスキルや想いを持っているのか、取り組み前では分からないケースがほとんどです。

ーーご自身も都市部の大企業で働かれていたからこそ気になる点でもあるのでしょうか。

四十万谷:そうですね。企業に勤めていたころ、副業だったり、プロボノ的に企業へのアドバイスをしている人を多く目にしてきました。

その時の印象としては、コミットメントに甘えがあったり、プロフェッショナルとしてのスキルに疑問が残る人もいらっしゃいました。
今経営をしている立場としては、そういう中途半端なスキルの人材の、中途半端なコミットメントではかえって現場が混乱するだけです。

その点、協働日本の協働プロの皆さんは、経歴・経験やスキルはもちろん、強い想いを持ってコミットメントしてくれています。複業という形でありながら、甘えのないプロとしての姿勢を信頼して伴走支援をお願いしています。

ーーなるほど。複業人材だから、ではなく協働日本のプロたちによる強いコミットメントが成功の要因だったのですね。ちなみに四十万谷さんご自身は、複業人材との協働の中で気をつけていらっしゃることはあるのでしょうか。

四十万谷:気をつけていることは、こちらが「答えを教えてもらおう」「課題を解決してもらおう」などと受け身にならない姿勢です。

というのも、協働がスタートした当初の失敗がまさしくそれなんです(笑)。すごいプロフェッショナルに来てもらったのだから、「早く答えを教えてくださいよ!」と思ってしまっていました。

また、協働プロからのせっかくの提案に対して「現場のことをわかってない!」と感じてしまったこともありました。当然現場のことは僕たちの方が熟知しているという情報の非対称性が、「そうは言っても現実的には難しい」など、「できない理由」を作ってしまうことに繋がっていたと思います。

そんな時にも協働プロからは、「一歩踏み出してみるのが難しいのはわかるので、まずは半歩だけでもやってみませんか?」と提案してもらうことで少しずつ進めたんです。

それだけ切羽詰まっていて、答えを知りたい状況だったということもありますが、本来協働とは「一緒に考え、共に解決していく」ものだと今は実感しています。

教えてもらおうという姿勢ではなくて、一緒に悩みながら進んでいこうというワンチームの姿勢で臨むことが、一見遠回りのようでも、結果的に成功につながる実感があります。

協働プロと売場を視察

ーー協働はワンチームで進める、というのは本当におっしゃる通りだなと思います。

四十万谷:やっぱり、いい成果を出す、いい物を作る、など結果を出すためには、変に格好つけたり壁を作ったりせずに、オープンな関係でいることも重要だと思いますね。

直雇用の正社員だからコミットメントが高くて、外部の人間だからコミットメントが低いということはないと再確認しました。

協働プロのように、外部の人間でもしっかりプロジェクトや事業に想いを持って当たってくれる人材がいる。もはや、社内外の枠で区別してしまうことはあまり意味がないのでは?と最近では感じています。

外部の人材に対して適切に情報を開示し、受け身の姿勢を捨てて素直に向き合うことで、より成果につながる協働ができるようになるのではないでしょうか。

自社の課題を自分たちだけで解決しようとしない───「地方の中小企業の生き残り戦略」

ーー四十万谷さんは、地域企業の方達とコミュニケーションを積極的に取られていると思うのですが、その背景にはどのような想いがあるのでしょうか。

四十万谷:地域企業の経営がアップデートされて企業がもっと面白くなることが、その地域にとって一番プラスになるのではないかという考えが根底にあります。例えば、どうしても「地元に面白い仕事や企業がないから都会に出る」という選択を取るケースがありますが、面白い取り組みをする企業が地域に増えていけば、地元での就職という選択肢が広がります。

また、地域企業はいろんな団体に所属していることも多く、仲は良いことも多いのですが、それぞれの課題をオープンにして意見をシェアし合う場はそう多くありません。

困っていることを周りに相談できる機会は少ないけれど、みんな不安や困り事を抱えている。それなら、シェアできる情報はシェアして、使えるものは使っていくことで、皆の経営がアップデートされる方がいいと考えているんです。

だから、協働日本についても「こんな仕組みがあるよ」と、経営者の仲間達の選択肢の1つに加わったら良いなという思いで紹介しています。

ーーなるほど。地域の企業がもっと面白くなれば…というお話でしたが、四十万谷さんは、今後地方の中小企業が生き残っていく為の戦略について、どのようにお考えですか?

四十万谷:そうですね。VUCA(ブーカ)とも言われるような、不透明で先行きが見えず、答えのない時代はまだまだこれからも続くと考えていて…その中で自社を取り巻く課題を、自社の人材だけで解決していくというのはかなり難しいと思っています。

だからこそ、自社では育成できないような外部人材と協働し、足りない部分を補いながら、スピード感を持って課題解決をしていくことこそが重要なんじゃないかと。すごくシンプルなんですが、これに尽きると考えています。

ーーたしかに、人材の育成は時間がかかりますものね。

四十万谷:そもそも、自社で協働プロのようなスキルを持った人材を育成しようとしても、育成経験もなければプロが育つような環境も用意できないなど、時間だけの問題ではない側面もあります。

じゃあ、十分にスキルと経験の備わったプロ人材を雇用しようとなっても、十分な給与を支払えるのか?という課題もあるし、そもそもプロを雇ったとしてもフルタイムでコミットしてもらうのか?その必要があるのか?など、中小企業にとってはとても難しいテーマです。

だからこそ、常に人材を抱えておかなくても、熱意を持った外部人材を登用し、「社外CMO」のような立ち位置で迎え、課題によって人選を切り替えながら戦略的に人材を活用していくというのが、これからの中小企業にとっての一つの戦い方になるんじゃないでしょうか。

ーー四十万谷さんにとって協働日本とはどういう存在でしょうか?

四十万谷:あらためて、企業経営にはこれさえやればよくなるという特効薬はないんですよね。悩みの尽きない経営者にとって協働日本は、一緒に悩んで、一緒に歩んでくれる心強い仲間です。

もちろん、協働の中で初めて気づくことも多く、やってみたいこともたくさんある中で、リソースが足りず思った通りにいかないことは多々あるんです。

それでもテーマを変えながらも一緒に伴走を続けて行けているのは、そういった想いを共有できてるからというのがあるのかもしれませんね。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

四十万谷:こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


四十万谷 正和 / Masakazu Shijimaya

2002年、金沢大学附属高等学校卒業後、慶應義塾大学経済学部に進学。少林寺拳法にも打ち込む。

2006年、『ハウス食品株式会社』入社。採用・労務・人事制度など、一貫して人事関連に携わる。2017年、『株式会社四十萬谷本舗』入社。2019年、専務取締役に就任。

協働日本事業については こちら

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NEWS:ツギノジダイにて、協働日本で伴走しているチャンピオンカレーの南社長の記事が掲載されました

朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」にて、協働日本で伴走しているチャンピオンカレーの南社長の記事が掲載されました

朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」にて、協働日本で伴走しているチャンピオンカレーの南社長の記事が掲載されました。

家と経営を切り離したチャンピオンカレー 祖父の味を守る3代目の改革 | ツギノジダイ

記事の中では、 「金沢カレー」を代表する店として知られるチャンピオンカレー(石川県野々市市)3代目社長の南恵太さんが家業に入り、財務やコスト管理をどのように改善したのか、伝統の味を守りつつ、新たな生産体制をどのように整えていったのかを語っています。

堅実な経営を続けつつ、創業家以外から初めて社員を取締役に登用するなど、あらたな取り組みにも積極的に取り組む南社長の想いも語られています。

さらに記事の中では、協働日本との協働に触れていただいています。新規事業の開拓経験などがある協働プロが、主要幹部メンバー伴走している旨をご紹介いただきました。

詳細につきましてはぜひ、「ツギノジダイ」のご紹介記事を御覧ください。

記事で紹介された伴走支援(協働日本事業)については こちら

協働日本による チャンピオンカレー 南恵太氏への過去インタビューはこちら

STORY:チャンピオンカレー 南恵太社長 -自社経営幹部の伴走相手として経験豊かな複業人材を活用。実感した大きな「変化」とは- | KYODO NIPPON

STORY:石川樹脂工業株式会社 石川 勤氏 -協働を通じて上がった社員の視座と責任感。「皆で考える」新しいカルチャーへ-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、石川樹脂工業株式会社 専務取締役の石川 勤氏にお越しいただきました。

石川樹脂工業株式会社は、漆器木型の販売をルーツとする、樹脂製の食器雑貨の製造・販売を行う会社です。時代の変化とニーズを常に捉え、樹脂製漆器、欠けない箸、平らなお盆など、新しい技術への挑戦を通じて時代の先端を走り続けてきました。中でも、「1000回落としても割れない・欠けないお皿」のブランド「ARAS」は、Instagramのフォロワー数は10万人超。その勢いを増しています。

素材の面白さを社会に発信する企業であり続けるための挑戦を続けておられる石川樹脂工業株式会社。協働日本との伴走では、今一度経営者のあり方や人材育成について考え、社員個人と会社が共に成長するため、AIチャットツールを活用した新たな取り組みを始めています。

協働プロジェクトに取り組んだことで生まれた変化や得られた学び、実感した会社と社員の成長について、また、今後の想いも語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

ガラスと樹脂を掛け合わせた新素材でできた食器ブランド「ARAS」。先進と伝統の技術が融合して生まれる、新しい食器です。

経営者のメンタリングに始まり、Chat-GPTを活用したDX化にも挑戦。様々な協働プロジェクトの中で一貫して狙うテーマは「経営層を作る」こと

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは協働日本との取り組みがスタートしたきっかけを教えていただけますか?

石川 勤氏(以下、石川):よろしくお願いします。協働日本との出会いは、石川県の「副業人材活用セミナー」です。知人である、金沢市の発酵食品の老舗、四十萬谷本舗の四十万谷専務からのお誘いがきっかけで参加しました。

ちょうど、割れない・欠けないお皿の新規ブランド「ARAS」の立ち上げという経営の転換期を迎えた後で、より会社として前進するために次は何に取り組もうか、経営者としても悩みを抱えていたタイミングだったので、セミナーから何かヒントを得られるのではないかと考えたんです。そこで協働日本代表の村松さんのお話を聞き、是非一緒に取り組んでいきたいと思い協働を決めました。

ーーどんな点が協働の決め手でしたか?

石川:はじめは「協働」という取り組みの形についてイメージが出来ず、どんなことができるのか少し懐疑的だったんです。

しかしセミナーの中で、村松さんの地域企業への熱い想いと、協働プロと地域企業が双方に相談しながら事業を進めている全国の取り組み事例を聞いているうちに、協働日本のみなさんとなら、一緒に前に進んでいけるかもしれないと思ったことが協働を決めた理由です。

当社では以前にも複業人材、外部人材との取り組み実績があったので、決定してからの導入はスムーズでした。ただし、一番の課題は、先ほど話した通り「次に何に取り組むべきか迷っている」という状態だったので、協働日本さんと取り組むテーマが思いつきませんでした。そこで、協働日本さんには「まずはテーマから相談したい」とお伝えして、取り組みをスタートしました。

ーーなるほど。過去にも複業人材とのお取り組み実績があったんですね。テーマ未定の状態でスタートした取り組みとのことですが、伴走支援がスタートしてからは、具体的にどんなお取り組みをなさっているのでしょうか?

石川:協働がスタートしてからこれまでいくつか変遷があるのですが、最初は「経営層をちゃんと作ろう」というテーマで、協働プロの方々に僕と妻のメンタリングをしていただくことからスタートしました。

中小企業のあるあるなのかもしれませんが、当社も「経営層が薄い」という課題を持っていました。これまでの変革も、基本的に僕自身が考え、手がけてきたものでした。しかし一人で抱えてしまうとどうしてもキャパシティが足りなくなってしまうので、次に繋がっていきません。

その課題感からまずは「経営層を作ろう」というテーマに取り組むことになりました。

メンタリングの中では、僕自身が何を手放していくのか、そして妻も経営者としてどう振る舞っていくのか、経営者思考を何度も壁打ちをさせていただきました。

その後、様々な部署から社員を8名──若手もベテランも半々くらいの割合で選抜して、ワークショップを実施しました。これまでの石川樹脂の歩みや、これからしていくことを社員と一緒になって整理していったんです。

参加者には、自分が会社を経営するとしたら?という視点で考えてもらいました。その場を活用して経営者としての考え方のインプットや共通認識を生み出せたことで、ワークショップ終了後から社員ひとりひとりが会社のことを自分ごとと捉えてくれるようになった実感があるので、これは本当にやってよかったと思います。

ーー社員の皆さんの意識が変化したんですね。こういった経営者のメンタリングや育成のパートはどのくらいの期間なさっていたんですか?

石川:大体4ヶ月ほどお願いしていました。その後はまたテーマをガラッと変えて、当社の弱みであったソフトウェア面について、業務を整理して、新しいシステムの導入や開発など、IT周りの課題の整理整頓を行うことにしました。

協働プロとしては、大西剣之介さん(バリュエンスホールディングス株式会社 執行役員 コーポレート本部長 人事部)、横町暢洋さん(NECソリューションイノベータ(株)シニアマネージャー)を中心にプロジェクトに入っていただきました。

ーー本当にまったく違うテーマですね!まずは経営層を厚くし、次は社員の方の意識変革。次はいよいよ自社のITに関する課題に皆さんで向き合ったのですね。

石川:そうですね。ブランディングやチームビルディングについてはもうある程度しっかりと出来上がっていた組織なので、これまで着手してこられなかった明らかな弱みを強化していくことにしました。先ほどお話ししたワークショップに参加していたメンバーから2名と、僕の3名でDX化による業務改善についてのプロジェクトをスタートしました。

1月にプロジェクトがスタートして程なくAIチャットツールの、Chat-GPTが流行し始めました。3月には新たに新バージョンGPT4もリリースされてChat-GPTを使ってコーディングがさらに容易にできるようになりました。

そこで、実は1月から整理してきたことの優先順位も変わっているのではないか?という意見が出ました。

そこで思い切って4月からは、メンバーを追加して6〜10名で、AIと一緒にアプリ開発をして、週に1つ業務改善アプリを作るプロジェクトに形態を変えたんです。

ーー皆さんご自身でアプリ開発を行うなんてすごいですね。元々プログラムができるなど、ITスキルのとても高い方ばかりだったんでしょうか。

石川:いえ、もちろん多少経験のあるメンバーもいましたが、ほとんどがはじめてという初心者ばかりです。

AIを使うと、できなかったことができるようになるという実感を社員に持ってもらい、実践し、業務改善をしていってほしいという狙いもありました。実際プロジェクトを通じて、Googleフォームで入力した日報を、Googleスプレッドシートとの連携でSlack(ビジネス用メッセージアプリ)に飛ばすアプリや、notion(高性能メモ・ノートアプリ)の議事録を要約してSlackに飛ばすようなアプリなどを社員が自分たちの手で作り上げてくれました。

非接触で在庫管理をする仕組みなど大掛かりな仕組みのDX化にも着手しているところです。

ロボットの導入による業務の自動化など、ハードウェア面はすでに整備されていた。ソフト面から更なる業務効率化に挑む。

経営者には余裕が生まれ、社員には責任感が生まれる。「皆で考える」カルチャーへの変化

ーー様々なプロジェクトを進行してきていらっしゃいますが、実際に協働がスタートしてから感じられた変化はありますか?

石川:はい、色々な変化があります。まず、僕自身がすべての経営課題を一人で抱え込まず、多くのことを社員にもオープンに伝えられるようになったことです。

例えば、給与・評価や働き方改革などの話になると、経営者は自分だけで抱え込んで悩みがちだと思いますが、僕は「皆で考えよう」という形で、社員と一緒に考えるようになりました。

特に働き方改革なんかは、社員それぞれ背景が違うので、全てを叶えようと一人で抱え込むと大変なんですが、「もうそれも皆で考えて、皆がいいと思うんだったらそれでいいんじゃないか」という風に考えるようになったんです。

経営者である僕はこう思うし、社員の皆はこう思う。じゃあ、どこで折り合いつけようかという話をオープンにして、皆で考えていくカルチャーが形成されてきたと思います。

例えば、協働日本さんに月にいくらお支払いしているかなども、プロジェクトに入っている社員にオープンに伝えているんですよ。その費用についてどう思うのか、どう還元して会社として取り戻していくのかなど、自ずと責任感を持って考えるようになっています。

僕自身も一人で抱え込む負担がなくなり、心に余裕が生まれるからこそ他にも考えられることが増えました。僕にも余裕が生まれ、社員の皆にも責任感が生まれ、とても良いバランスになっていると思います。

そういった経営者と社員としてバランスが取れた議論ができるようになってから、会社の経営として何がベストな選択なのか?という視点を社員も理解し始めている感じがしますね。

ーー最初のテーマであった「経営層をちゃんと作る」にも近づいてきている感じがしますね。

石川:まさしく、そうですね。社員の仕事への取り組み意識、マインドセットの変化が起こっていることは本当によかったです。例えばDX化だけやって、皆アプリを作れるようになったとしても、こういった本質的な会社の成長のことを考える視点が備わっていないと、付け焼き刃にしかならないと思うんです。

だから、順を追って少しずつ社員のマインドセットを変えていった上で、DX化など新しいチャレンジを始めたことでうまく繋がったのかなと思っています。

一方で、新たな課題も感じています。簡単な業務改善のDX化が終わってきて、難しいテーマになると「スキルが足りない」という声が上がるようになりました。自分たちで解決していくためには、どうしても学ぶ時間が必要になるけれど、これは業務時間か?ということについても皆で議論しています。

業務外での学びがないと個人としても成長がなく、会社としての成長もないということは皆わかっていながら、「ここからは業務」など明確な線引きが難しいことも同時に理解しています。これ以上は内製ではなく外注すべき点などの見極めも必要だと感じています。

会社からの押し付けにならない形で、かと言ってやる気ややりがいの搾取にならないようなフレキシブルさも残しつつ、個人も会社も成長できる方法を、皆でオープンな議論を通じて検討していっているところです。

AIにはできない、協働日本ならではの「人間らしい」伴走支援がこれからの社会で強みになる

ーー協働の中で印象的なことはありましたか?

石川:協働プロの皆さんから学ばせていただくことが本当に多かったです。大西さんは人事のプロですし、人の良さを引き出す采配や、バランスの良いファシリテーションをしていただきました。例えば、業務改善に対してすごく想いが強いのに、スキルが足りなくてできないと落ち込んでいるようなメンバーがいると、「(コーディング以外にも)あなたにできることがこのプロジェクトではとても重要なので、一緒に頑張りましょう」と声をかけてくださっているのをみて、共感しましたし、勉強にもなりました。

僕が社員に対して、あれこれ話をすると、どうしても上下関係があって業務命令のようになってしまうんですが、外部の人が入ってくださったからこそ、いいバランスが保てていたと思います。

横町さんもITスキルだけでなく、プロジェクト推進の経験がとても豊富で、本当に的確なアドバイスをたくさんくださいました。自分たちだけで調べながら進めようとすると、どこか独りよがりになりがちなアイディアも、きちんと業務改善のプロジェクトとして軌道修正をしてくださるので、皆納得感を持って進めることができました。

ーーありがとうございます。以前から都市人材や、複業人材との取り組みをされていたとのことですが、具体的にいつから複業人材の活用をされていたんですか?

石川:前職を経て石川樹脂に戻ってきてすぐ、6〜7年前から外部人材の登用をスタートしました。大企業ならいろんな専門性を持つ人材確保が可能ですが、中小企業ではなかなか同じようにはいきません。

自社内で賄うことができない分、外部人材や複業人材にその専門性をピンポイントで活かしてもらおうと考えていました。これまでもマーケティングや新卒採用などを複業人材と一緒に進めてきています。

もちろん、こういった取り組みは基本的にオンラインミーティングを中心とするので、手に手を取り合って現場で一緒に取り組むことができないなど、地方の中小企業の方にとっては壁のように感じられる面もあると思います。

とはいえ、特に社員を育成したいときや、会社を大きく変革させたい時というのは、新しい知見や専門性などを取り入れることができる大きなメリットがあるので、絶対に複業人材を活用した方がいいと僕は思っています。

協働日本さんとの取り組みは特に、テーマを決めるところから相談することができ、一緒に取り組んでいけるので、専門性と人材育成どちらも叶えて行くことが出来ると思います。

ーー本日はありがとうございました!最後に、協働日本が今後どうなっていくと思われるか、協働日本へのエールも込めてメッセージをお願いします。

石川:これからは、中途半端な専門性はAIにとって替わってしまう世の中がくるんじゃないかなと考えています。なので、AIにはできない複業人材のスキルや、協働日本ならではの強みが発揮されるようになるのではないかと思います。

AIにはできない人間らしいファシリテーションで人の内面を見抜いてレベル感をあわせたり、会社自体の課題をより真摯に受け止められることが重要だと感じています。

協働日本さんは、伴走期間が半年以上と比較的長期であることもとてもいいなと思っています。長期で一緒にいるからこそ本質的な課題や、AIに見抜けない人の感情などの重要なポイントが見えてくると思います。

僕が村松さんや協働日本のビジョンに共感できる点は、このように「我々との課題に向き合ってくれている」という実感を得られるということです。

AIにはできない伴走支援をこれからもきっと、続けて行ってくれるのではないかと思います。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

石川:こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

石川 勤 / Tsutomu Ishikawaagawa

石川県出身。東京大学工学部卒業後、世界最大の消費財メーカーProcter& Gamble日本支社に入社し、約10年間勤務。主に、経営戦略、経営管理、財務会計などに従事。日本での数年間の経験後、シンガポールに転勤。アジア全体の消臭剤・台所用洗剤の経営戦略に携わる。その後、帰国し日本CFOの右腕として、従事。

“自分の手で、ものづくりをしたい”と一念発起し、現職に就く。現在は経営全般特に新事業・ロボット・AIなどのDXに従事。

協働日本事業については こちら

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NEWS:【7/19(木)13:00~】セミナー開催のお知らせ 複業人材との協働 その成功の秘訣とは?

オンラインセミナー開催のお知らせ 複業人材との協働 その成功の秘訣とは?

この度、「複業人材との協働 その成功の秘訣とは?」と題したセミナーを石川県地場産業振興センター第13会議室にて開催いたします。

お申し込みはこちらから
『石川県 複業人材セミナー』お申し込みフォーム

本セミナーは、石川県内企業様の経営課題解決、新規事業創出等を目的に、複業人材を活用した伴走支援を実施する石川県の事業(都市部等からの副業人材等の確保支援事業(Ⅱ型))の一貫として開催いたします。本セミナーでは、複業人材との協働事例の紹介と、石川県事業の参加企業様募集を目的に開催致します。

セミナー参加条件

複業・副業人材との協働に関心のある石川県内の企業様
※参加費は無料です

お申し込み方法

申し込みフォームに情報を記入してください。

『石川県 複業人材セミナー』お申し込みフォーム

後日スタッフから案内メールをお送りします。記載内容をご確認の上、当日ご参加をお願いします。

皆様のご参加を心よりお待ちしております。


セミナー概要

2023年7月19日 (水) 13:00 – 15:00
会場:石川県地場産業振興センター 第13研修室
主催:(株)協働日本・いしかわ就職・定住総合サポートセンター(ILAC)

登壇者:
村松 知幸 株式会社協働日本 代表取締役社長
山岸 晋作 株式会社山岸製作所 代表取締役
四十万谷 正和 株式会社四十万谷本舗 専務取締役
大杉 謙太 株式会社ダイモール 代表取締役

石川県内の多岐にわたる事業者様と協働実績がある協働日本の伴走支援について、本セミナー参加企業様は面談の上、特別価格でのご支援が可能となります。

本セミナーは、石川県事業者の経営課題解決、新規事業創出等を目的に、複業人材を活用した伴走支援を行う石川県事業の一環として実施します。

石川県およびアイラック様より委託を受け、(株)協働日本が県内事業者様の伴走支援を行います。事業者様は当事業の補助により特別価格にて協働プロ人材チームとの協働プロジェクトに取り組めます。


イベント詳細(告知リーフレット)

お申し込みはこちらから
『石川県 複業人材セミナー』お申し込みフォーム

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NEWS:【11/22(水)15:00~】代表の村松がモデレーターで登壇「融合が日本を変える。働き方先進県いしかわを目指して」(山岸製作所60周年記念イベント)

代表の村松がモデレーターで登壇「融合が日本を変える。働き方先進県いしかわを目指して」(山岸製作所60周年記念イベント)

株式会社山岸製作所さまが設立60周年を迎え、アニバーサリーイヤーを機に「融合」をテーマに記念イベントを開催されます。

イベント内、「リマーノ」オープン記念トークセッション『融合が日本を変える。働き方先進県いしかわを目指して』に弊社代表の村松がモデレーターで登壇します。

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ヤマギシ イノベーション60 山岸製作所60周年記念イベント

経済産業省で日本の働き方改革をリードしてきた西垣淳子副知事、元総務省審議官で「働き方スペシャリスト」箕浦龍一氏を、山岸製作所の山岸晋作社長とアイ・ツー松崎秀規社長がお招きし、石川県のこれからの働き方についてディスカッションし、中小企業の働き方改革実現への鍵を探ります。
本イベントのモデレーターを、弊社代表の村松知幸が務めます。

下記にて本イベントの概要をご紹介します。皆様のご参加を心よりお待ちしております。


セミナー概要

11/22(火) 15:00~16:30 (17:00~ オープンオフィス・カクテルパーティ開催)

テーマ
『融合が日本を変える。働き方先進県いしかわを目指して』

会場
リマーノ(金沢市広岡) 【定員10名】
オンライン【zoom ウェビナー 定員200名】

GUEST
石川県副知事 西垣淳子氏
公務部門ワークスタイル改革研究会研究主任 箕浦龍一氏
株式会社アイ・ツー代表取締役 松崎秀規氏
株式会社山岸製作所代表取締役 山岸晋作氏

MODERATOR
株式会社協働日本代表取締役社長 村松知幸


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