投稿

新規事業STORY:湯治の宿大黒屋 安波拓哉氏 昔ながらの湯治宿で顧客単価1.4倍を実現。鉄輪の日常を「事業」に変えた7か月

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

【記事サマリー】
大分県別府市・鉄輪温泉で1938年頃から続く「湯治の宿 大黒屋」。4代目の安波拓哉さんは、築60年を迎えた建物の建て替えを前に、「これからどんな宿にしていけばいいのか」を一人で悩んでいました。協働日本のプロ人材との7か月間の伴走では、建物の設計を急ぐのではなく、まず大黒屋の価値を棚卸し。地獄蒸し、鉄輪の文化、人が自然と交わる空間、そして安波さん自身が培ってきた食と酒の経験など、すでにそこにあった強みを見つめ直しました。そこから生まれた新サービス「鉄輪 蒸しどころ大黒屋」の実証では、宿泊者一人あたりの客単価が従来比約1.4倍に。「建て替える」ための事業計画づくりから始まったプロジェクトは、「鉄輪を体験する湯治宿」という大黒屋の新たな未来を描く取り組みへと広がっています。

今回は、大分県別府市・鉄輪温泉で「湯治の宿 大黒屋」を営む4代目、安波拓哉さんにお話を伺いました。

大黒屋は1938年頃から鉄輪に根ざしてきた、昔ながらの湯治宿です。築60年を迎えた建物の老朽化をきっかけに、協働日本のプロ人材とともに、建て替え後の事業や宿の価値そのものを見直すプロジェクトを進めてきました。

伴走したのは、事業設計を担当する四元亮平さん、ブランディングを担当する岡直哉さん、デジタル・データ分析を担当する加藤奏さんの3名。異なる専門性を持つ協働プロがチームとなり、7か月にわたって大黒屋のこれからを安波さんとともに考えてきました。

その過程で何が見え、何が変わったのか。率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明)

「建て替えないといけない。でも、どうしたらいいのか分からなかった」

ーーまず、大黒屋について教えてください。

安波拓哉氏(以下、安波):
大黒屋は、昔ながらの湯治宿です。地獄蒸しの釜があって、基本的には素泊まりで滞在していただくスタイルの宿ですね。私で4代目になります。

昔は鉄輪にも、こうした素泊まり中心の湯治宿がもっとたくさんありました。ただ、今はかなり数も減ってきています。その中で、大黒屋は昔から変わらず続けてきた宿のひとつです。

いわゆる高級旅館とは違って、気取らずに泊まっていただけるというか、昔ながらの湯治宿らしい距離感を大切にしてきた宿だと思っています。

ーー大黒屋ならではの魅力は、どこにあると感じていますか。

安波:
先代の女将の頃から続いている、アットホームな雰囲気は大きいと思います。接客も含めて、お客様との距離が近い宿です。

もうひとつは、やはり地獄蒸しですね。

地獄蒸しの釜がある湯治宿はほかにもありますが、大黒屋は外に開かれたスペースが多く、比較的気軽に楽しんでいただけます。地獄蒸しを目当てに来てくださるお客様も多いですし、宿泊している方同士や地域の方との会話が自然に生まれる場所にもなっています。

自分たちにとっては当たり前の景色でしたが、改めて考えると、そういうところも大黒屋らしさなのだと思います。

ーー地獄蒸しは、普通に蒸すのとはどのような違いがありますか。

安波:
普通のお湯の蒸気ではなく、温泉の蒸気を使う点が大きな違いです。

100度近い蒸気で一気に蒸すので、野菜は甘みが引き立ちますし、彩りも良くなります。余計な味付けをしなくても、素材そのものがおいしく感じられるんです。

地獄蒸しというと「珍しい調理法」という印象が先に立つかもしれませんが、実際には素材の味をしっかり引き出してくれる、とても理にかなった調理法だと思っています。

ーー協働日本との取り組みを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

安波:
一番大きかったのは、建物の老朽化と、それに伴うブランディングについて悩んでいたことです。

築年数もかなり経っていたので、「そろそろ本格的に建て替えを考えないといけない」と思っていました。ただ、建て替えなければならないことは分かっていても、その先にどんな宿をつくりたいのかまでは、自分の中で整理できていませんでした。

もうひとつのきっかけは、親しくしている米田食堂さんが私より先に協働日本の伴走支援を受けていたことです。今年度も別府市の事業として協働日本さんの伴走支援を受けられることを知り、米田さんからも「一度やってみたら」と勧めてもらって、それなら挑戦してみようかな、と思いました。

建て替えを考えていたタイミングと、周りからの後押しが重なったのがきっかけでした。

ーー当時は、どのようなことに悩んでいましたか。

安波:
最初は、本当に建て替えのことばかり考えていました。

建て替えるためには融資も必要ですから、そのための事業計画書をつくらないといけない。ただ、「では、どんな宿にして、どうやって売上をつくって、その投資を返していくのか」というところが見えていませんでした。

建物を新しくするだけでは、事業計画にはならないですよね。

でも当時は、そこまで頭が整理できていなくて。「建て替えないといけない。でも、どうしたらいいのか分からない」という状態だったと思います。

ーー7か月の伴走を経て、その考え方は変わりましたか。

安波:
かなり変わりましたね。マーケティングやブランディングの協働プロの皆さんと話す中で、新たな視点を得て、大黒屋を客観的に見ることができました。 最初は「どう建て替えるか」ということしか考えていなかったのですが、一緒に話をしていく中で、「こういう商売の仕方もあるのでは」「この場所をこう活かせるのでは」と、どんどん考える範囲が広がっていきました。

建物の話だけではなくて、「これから大黒屋として何を提供していくのか」「どういう宿でありたいのか」を考えるようになった。 振り返ると、いろいろなアイデアが湧いてきた7か月だったと思います。

建物を考える前に、「大黒屋ってどんな宿ですか?」から始まった

ーー実際のプロジェクトは、どのように進めていったのでしょうか。

安波:
大きく4つくらいのフェーズに分けられると思います。

最初は、大黒屋の価値の棚卸しです。

「大黒屋はどんな宿ですか」「4代目の安波拓哉はこれまで何をしてきましたか」といったことを、かなり丁寧に聞いてもらいました。

最初は、建て替えの事業計画をつくる中で、なぜ自分のこれまでの経験まで掘り下げるのだろうと思う部分もありました。でも話していくうちに、大黒屋の歴史だけではなく、自分自身がこれまで何をしてきたのかも、これからの宿を考える材料になるのだと分かってきました。

その後は、お客様の層や客単価などを実際の数字にして、分析してもらいました。

ーーその後、協働プロの皆さんが現地を訪れたのですね。

安波:
はい。実際に大黒屋に泊まってもらって、地獄蒸しも体験してもらいました。鉄輪の周辺も歩いて、「この地域には何があるのか」を一緒に見てもらいました。

オンラインで話しているだけでは伝わりにくい空気感がありますから、現地に来てもらったことは非常に大きかったです。

そこで皆さん自身が鉄輪を体験したことで、「これ自体が価値なのではないか」と気づいてもらえた。

「地獄蒸しの野菜ビュッフェをやってみたらどうか」というアイデアが出てきたのも、その頃でした。

ーー現地に来てもらったことで、プロジェクトが加速した感覚はありましたか。

安波:
かなりありました。

現地訪問の前までは、まだ言葉で考えている部分が多かったと思います。

でも実際に見てもらってからは、「ここならこう使える」「この地獄蒸しをもっと前に出せる」と、イメージが一気に具体的になりました。

そこからは、アイデアを出すだけではなく、「では実際にどうやるか」というところまで、かなりスピード感を持って進んでいきましたね。

「何を新しくするか」ではなく、「何を残すか」

ーー建て替えについては、どのような議論をしたのでしょうか。

安波:
「全部を新しくしましょう」という話にはなりませんでした。

ブランディングを担当してくれた岡直哉さんとは、「こういう雰囲気は残したい」「ここはもう少し使いやすくしたい」と話しながら、それに近い建物や空間の写真をいろいろ出してもらいました。

自分の中には何となくイメージがあっても、それを言葉だけで説明するのは難しいんです。

写真を見ながら、「これは違う」「こっちは近い」と話していくことで、自分自身の考えも整理されていきました。

ーーその中で、「残したいもの」も明確になっていったのでしょうか。

安波:
そうですね。

大黒屋のアットホームな雰囲気や、気軽に地獄蒸しを楽しめるところは、これからも残していきたいと思いました。

建物をきれいにすることで、逆に今の良さがなくなってしまったら意味がありません。

その上で、水回りなど必要な部分はきちんと更新して、地獄蒸しの釜を中心に人が集まったり、会話が生まれたりする空間にできたらいいよね、という話をしました。

昔からあるものを大切にしながら、今の時代に合う形にしていくという考え方ですね。

ーー「何を建てるか」より先に、「大黒屋らしさとは何か」を整理した。

安波:
そうだと思います。

最初は、「新しい建物をどうするか」を考えていました。

でも話していくうちに、「そもそも大黒屋の良さは何なのか」「お客様は何を求めて来てくれているのか」を先に考える必要があると分かってきました。

建て替えること自体が目的ではなく、大黒屋の良さをどう残して、そこにどんな価値を加えていくのか。

そこが整理できたことで、建物についても考えやすくなったと思います。

バーテンダー、ソムリエとしての経験も、大黒屋の強みだった

ーー価値の棚卸しでは、安波さんご自身のキャリアにも目を向けました。

安波:
はい。

私は大学進学を機に福岡へ行って、その後も含めて15年ほど福岡で過ごしました。

ハイアットリージェンシー福岡やラ・ロシェル福岡などで働きながら、バーテンダーやソムリエとして、食や酒、接客について経験を積んできました。

ーーそれまで、ご自身のキャリアを大黒屋の強みとして捉えていましたか。

安波:
そこまで明確には考えていなかったと思います。

自分にとっては、以前やっていた仕事という感覚が強かったので。

ただ、皆さんと話していく中で、「それは大黒屋の体験づくりに活かせる強みですよ」と言ってもらいました。

地獄蒸しがあって、そこに食や酒の知識が加わる。自分がやってきたことと、大黒屋に昔からあるものを組み合わせれば、新しい価値になる。

そういう見方は、今回改めて気づかせてもらった部分だと思います。

ーーその意味では、伴走以前から行っていた「風呂本商店」にもヒントがありました。

安波:
そうですね。

風呂本商店は、旧鉄輪蒸し湯の跡地を使って、月に一度だけやっている立ち飲みのイベントです。

地元の方も来ますし、観光で来た方も来ます。そこで一緒にお酒を飲んでいると、自然に会話が生まれるんです。

自分としては好きでやっていたことですが、改めて振り返ると、食や酒を通して地域の人と観光客が混ざり合うというのは、大黒屋がこれから目指す姿にも近いんですよね。

ーー新しい答えを探していたけれど、すでに実践していた部分もあった。

安波:
そうですね。

自分の食や酒の経験と、鉄輪や大黒屋の良さを掛け合わせる。

今考えると、その考え方自体はすでに始まっていたのだと思います。

ただ、自分一人では、それを「大黒屋の強み」や「これからの事業」として捉えられていなかった。

外から見てもらったことで、そこに気づけたのは大きかったです。

700円の「釜貸し」を、「選ぶ・蒸す・味わう」体験へ

ーー新サービス「蒸しどころ大黒屋」は、どのように生まれたのでしょうか。

安波:
もともと大黒屋では、地獄蒸しの釜を90分700円で貸していました。

利用してくださる方はいるのですが、月に10件ほどで、基本的には「場所を貸す」というサービスでした。

お客様自身が食材を持ってきて、釜を使っていただく。それはそれで鉄輪らしい楽しみ方ではあるのですが、事業として考えると、700円の釜貸しだけではどうしても限界があります。

ーーそこで、釜を貸すのではなく、「地獄蒸しの体験そのもの」を商品にしようと。

安波:
はい。

現地訪問の後に、「地獄蒸しの野菜ビュッフェをやってみたら面白いのではないか」という話が出ました。

そこからは、かなり細かいところまで考えました。

野菜をどう並べるか、器をどうするか、お客様にどう選んでもらうか、どこを通って釜まで行くか。料金やオペレーションも含めて、一つひとつ詰めていきました。

アイデアだけで終わらせず、最後は「実際に一度やってみましょう」というところまで進められたのが良かったと思います。

ーー「蒸しどころ大黒屋」では、どんな体験を提供したのでしょうか。

安波:
大分県産の野菜などを用意して、その中からお客様自身に好きなものを選んでいただきます。

それを自分で地獄蒸しの釜に入れて、蒸して、できたてを食べてもらう。

単に料理を提供するだけではなく、食材を選ぶところから、自分で蒸すところまで含めて楽しんでもらう形です。

地獄蒸しは、蒸気が一気に上がる様子も含めて体験として面白いですし、そこに飲み物や味の変化を組み合わせることで、もっと楽しんでもらえるのではないかと考えました。

私自身の食や酒の経験も、ここで活かせると思っています。

小さく試して、数字で確かめる。客単価は約1.4倍に

ーー2026年5月にトライアルを行いました。結果はいかがでしたか。

安波:
一番分かりやすかったのは、やはり客単価です。

素泊まりが6,000円で、そこに地獄蒸し体験の平均2,425円が加わって、宿泊者一人あたり8,425円になりました。

従来の素泊まりと比較すると、約1.4倍です。

ーー実際に数字が出たことは大きかったですか。

安波:
大きかったですね。

これまでは、「地獄蒸しを活かしたら何かできるのでは」という感覚でした。

でも実際に試したことで、「このサービスを提供すると、このくらい客単価を上げられる可能性がある」という数字が出た。

今後、融資の話や事業計画を考えるときにも、感覚だけではなく、実際に試した結果として話すことができます。

それは非常に大きな違いだと思っています。

ーー参加したお客様の反応はいかがでしたか。

安波:
野菜がおいしかったという声はもちろんありましたし、「自分で選んで、自分で蒸すのが楽しかった」という反応もありました。

地獄蒸しは、私たちにとっては日常にあるものですが、お客様にとってはそれ自体が特別な体験になる。

そこを改めて確認できたのは良かったです。

申込率も想定より高く、一定のニーズがあることも分かりました。

ーートライアルをしてみて、「蒸しどころ大黒屋」の可能性をどう感じましたか。

安波:
このサービス単体で終わらせる必要はないと思っています。

例えば、宿泊プランの中に最初から組み込むこともできますし、夜の時間に地獄蒸しとお酒を楽しんでもらうような形も考えられます。

今回1.4倍という数字が出たことはもちろん成果ですが、それ以上に、「ここをベースにいろいろ展開できそうだ」と思えたことが大きいですね。

ひとつ、事業の土台になるものができた感覚があります。

「蒸しどころ大黒屋」だけではない。事業の到達点が見えてきた

ーー7か月の伴走を振り返ると、ほかにはどんな変化がありましたか。

安波:
成果というと、どうしても「蒸しどころ大黒屋」が一番分かりやすいと思います。

ただ、実際にはもっと細かいところでも変化がありました。

例えば、これまでは電話で直接予約をいただいたお客様の情報を、きちんとデータとして残せていませんでした。

加藤奏さんから、「こうした情報をきちんと残しておくことが、今後のお客様との関係づくりにつながる」と教えてもらって、少しずつデータを取るようになりました。

これまで当たり前にやっていた業務についても、「こういう情報を持っておくことが、今後につながるんだ」と考えるようになりましたね。

ーー最初の課題だった、融資や事業計画についてはいかがですか。

安波:
融資自体はまだこれからですが、事業計画についてはかなり言語化できるようになってきました。

最初は「建て替えたい」というところしかありませんでしたが、今は「どんな宿にしたいのか」「どんなサービスをつくるのか」「どうやって売上につなげるのか」まで、少しずつ一本につながってきています。

進むスピードも上がりましたし、「ここを目指して進めばいい」という到達点が見えてきた感覚があります。

ーー当初の「どんな宿にしたらいいか分からない」という状態からは、大きく変わりましたね。

安波:
そうですね。

以前は、建て替えと事業を別々に考えていた部分もあったと思います。

でも今は、「こういう体験を提供する宿にしたいから、こういう空間が必要だ」というように、建物と事業を一緒に考えられるようになりました。

それが今回の取り組みの中で、一番大きく変わったところのひとつかもしれません。

答えを押しつけず、まず鉄輪と大黒屋を理解しようとしてくれた

ーー今回の伴走には、事業設計を担当した四元亮平さん、ブランディングを担当した岡直哉さん、デジタル・データ分析を担当した加藤奏さんの3名の協働プロが参加しました。最初は、外部のプロ人材との取り組みに不安もありましたか。

安波:
ありましたね。

こうした形で伴走支援やコンサルティングをお願いするのは初めてでしたし、そもそも最初はリモートでの打ち合わせにもあまり慣れていませんでした。

それに、地方にいる側からすると、「東京や大阪で活躍しているプロの方」と聞くだけで、少し構えてしまうところがあります。「難しいことを言われるのではないか」「こちらのやり方を否定されるのではないか」という不安も、正直ありました。

でも、実際に始まってみると、その印象はまったく違いました。

皆さんとてもフランクですし、「自分たちはプロだから、こうした方がいい」と答えを押しつけてくることもありませんでした。

まず大黒屋がこれまでやってきたことや、私自身が考えていることを聞いて、その上で「こういう方法もあるのではないですか」と提案してくれる。こちらのやり方に寄り添いながら進めてもらえたので、とてもやりやすかったです。

ーー事業設計を担当した四元さんには、どのような印象を持っていますか。

安波:
四元さんは、最初からすごく話しやすかったです。

特に印象に残っているのは、いきなり「事業としてこうするべき」と話すのではなくて、まず鉄輪や大黒屋のことを理解しようとしてくれたことですね。

「この地域には何があるのか」「大黒屋の良さはどこにあるのか」というところから一緒に考えてくれました。

現地にも来てもらって、表面的な観光地としての鉄輪だけではなく、かなり深いところまで見てもらったと思います。

こちらとしても、「外から来た人に何かを教えてもらう」というより、一緒に地域を見ながら可能性を探している感覚がありました。だからこそ、自分の考えていることも素直に話せたのだと思います。

ーー岡さんは、ブランディングや建て替え後のイメージづくりを担当しました。どのような方でしたか。

安波:
岡さんは、オンラインで話していたときと、実際に会ったときの印象が少し違っていて、それも面白かったですね(笑)。

ロゴや建て替え後のイメージなど、出してくださるものはすごくセンスが良かったので、最初はクールな方なのかなと思っていました。

でも実際に鉄輪に来てもらうと、とても柔らかい方で、人間味のある方でした。

建て替えについても、「こういう建物にしましょう」と決めるのではなくて、私と話しながら、いろいろな写真やイメージを出してくれました。

自分では頭の中にぼんやりとしかなかったものを、「これは近いですか」「これは少し違いますか」と一緒に確認していく。そのやり取りを通じて、「自分が残したい大黒屋らしさは、こういうことなのか」と、こちらの考えも整理されていきました。

ーー「蒸しどころ大黒屋」のロゴも、岡さんが関わっていたのですね。

安波:
はい。建物のイメージだけではなくて、「蒸しどころ大黒屋」のロゴもつくってもらいました。

アイデアを出して終わりではなく、実際にお客様に見せるところまで一緒につくってもらえたのは大きかったです。

サービスの中身だけでなく、「大黒屋らしくどう見せるか」まで考えてもらったことで、ひとつの事業として形になっていった感覚があります。

ーー加藤さんは、デジタル・データ分析の面から伴走しました。印象に残っていることはありますか。

安波:
加藤さんも、非常に話しやすかったです。

データ分析というと、最初は少し難しいものを想像していました。でも、いきなり専門的な数字の話をするのではなく、まず大黒屋の状況を聞いた上で、「こういう情報を取っておくといいですよ」と、日々の業務に落とし込んで教えてくれました。

先ほどお話しした電話予約のお客様の情報もそうです。

今まで何となくやっていたことを、「これはデータとして残した方がいい」「後々こう活かせる」と整理してもらったことで、日々の業務の見方も少し変わりました。

「蒸しどころ大黒屋」のトライアルについても、感覚だけではなく客単価や申込率を数字として見る。そういう考え方は、今回の取り組みを通じてかなり意識するようになりました。

ーー3人それぞれ専門領域は違いますが、共通していたことはありますか。

安波:
やはり、「まず地域や大黒屋を理解しようとしてくれたこと」だと思います。

事業、ブランド、データと、それぞれ専門性は違いますが、自分の専門領域だけを見ている感じがなかったんです。

鉄輪という場所があって、大黒屋という宿があって、そこに自分たちがこれまでやってきたことがある。それを理解した上で、それぞれの専門性を持ち寄ってくれました。

外から新しい答えを持ってきてもらったというより、もともとここにあったものを、一緒に見つけて、つないで、形にしてもらったという感覚の方が近いですね。

今回の7か月で「蒸しどころ大黒屋」が生まれたことももちろん大きな成果ですが、自分たちだけでは気づかなかった大黒屋や鉄輪の可能性に気づけたことも、それと同じくらい大きかったと思っています。

「うちみたいな小さなところが」と思っていたからこそ、勧めたい

ーー今後、地域企業とプロ人材のこうした協働は広がっていくと思いますか。

安波:
広がっていくと思います。

私の周りにも、同世代で宿や家業を継いでいる人が多いので、「こういう支援もあるよ」と話すことがあります。

ただ、なかなか最初の一歩を踏み出せない気持ちもよく分かります。

私自身も最初は、「うちのような小さなところが、こういう支援を受けてもいいのだろうか」と思っていましたから。

ーー実際に取り組んでみて、その印象は変わりましたか。

安波:
変わりましたね。

外部の知識やスキルを持った人と話すことで、自分たちだけでは見えていなかったものが見えてきます。

地方には、同じように「何か変えたいけれど、何から始めればいいか分からない」と悩んでいる会社やお店がたくさんあると思います。

そういうところに、こうしたプロ人材との協働は合うのではないかと思います。

ただ、地域に入る側が、まずその地域を理解しようとしてくれることは大事ですね。

そこがあれば、地域側も安心して話ができると思います。

大黒屋を、「泊まる場所」から「鉄輪を体験する場所」へ

ーー今後、大黒屋ではどのようなことに取り組んでいきたいですか。

安波:
まずは、「蒸しどころ大黒屋」をきちんと定着させていきたいです。

今回トライアルとして形にできたので、今度は宿泊プランの中に組み込んだり、夜の時間帯に展開したり、実際の営業の中でどう使っていくかを考えていきたいと思っています。

まだ改善できるところもたくさんありますから、運営しながら少しずつ磨いていきたいですね。

ーー顧客との関係づくりも今後のテーマですね。

安波:
そうですね。

今回、顧客データをきちんと残すことの大切さも学びました。

LINEや予約リストなども活用しながら、一度来てくださったお客様と、その後もつながっていける仕組みをつくりたいと思っています。

昔ながらの湯治宿は、何度も来てくださるお客様との関係がとても大切なので、そこはデジタルも上手に使っていきたいですね。

ーーそして、最初のテーマだった建て替えにもつなげていく。

安波:
はい。

今回、新しい体験や飲食のモデルについて、一定の手応えを得ることができました。

「こういうサービスを提供すれば、このくらいの収益につながる可能性がある」ということが見えてきたので、それを建て替えや融資の計画にも反映していきたいと思っています。

最初は建物の話から始まりましたが、今はようやく「どんな事業をするために、どんな建物が必要なのか」という順番で考えられるようになってきました。

ーー伴走をきっかけに、ほかの地域との新しいつながりも生まれているそうですね。

安波:
そうですね。

四元さんが関わっている鹿児島の「GLOW UP」の皆さんと、「蒸しどころ大黒屋」で一緒に取り組む話も進んでいます。

今回の7か月が終わったから、そこで関係も終わりということではなくて、別の地域や別の取り組みにもつながっている。

最初は大黒屋の建て替えについて相談していたところから、新しいサービスが生まれ、さらに地域を越えたつながりまで生まれてきました。

そういう広がりが出てきているのも、今回の伴走の面白いところだと感じています。

ーー最後に、協働日本との7か月を振り返って、メッセージをお願いします。

安波:
今回一緒に取り組んでもらったことで、本当に大黒屋の可能性を広げてもらったと感じています。

大黒屋という宿だけを見るのではなく、鉄輪という地域のかなり深いところまで見て、その上で一緒に考えてもらえた。

そのおかげで、自分自身にも少し自信がつきましたし、「これから大黒屋をこうしていきたい」というイメージも、以前よりかなり具体的になりました。

最初は建て替えのことで悩んでいましたが、今はその先にある事業や、大黒屋のこれからについて考えられるようになっています。

本当に感謝しています。

これから大黒屋も頑張っていきますので、協働日本の皆さんとも、引き続き一緒に新しいことに取り組んでいけたら嬉しいです。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。

安波:
ありがとうございました。


安波 拓哉/Takuya Yasunami

湯治の宿 大黒屋 4代目

1984年生まれ。18歳まで別府市で過ごし、福岡の大学へ進学。

大学卒業後、ホテル「ハイアットリージェンシー」に入社し、バー「ロトンダ」でバーテンダーとして勤務。勤務しながらJ.S.A.ソムリエ資格を取得する。

その後、「ラ・ロシェル福岡」に入社し、ソムリエとして勤務。福岡で計15年間を過ごしたのち、2018年に別府へUターン。

「湯治宿 大黒屋」に4代目として勤務し、現在は湯治宿を経営する傍ら、月1回開催の立ち飲みイベント「風呂本商店」などを開催。

これからの湯治文化の継承や、鉄輪温泉を盛り上げる活動に取り組んでいる。

協働日本事業については こちら

VOICE:四元 亮平 氏 -想いを持つ方を支える「名脇役」として。マーケティングを通じた地域企業の価値の再発掘と成長を目指す。
https://kyodonippon.work/post-4534/


新規事業STORY:地域資源の再編集モデル「GLOW UP」誕生秘話――話題の鹿児島「食×人×地域」コラボレーションイベントの裏側

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、その推進のリアルについて、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、協働日本の主催するイベント「かごしまチャレンジャーサミット」のスピンオフ企画として生まれたプロジェクト「GLOW UP」について、企画のプロデュースや伴走支援を担当した協働プロの四元亮平氏をお招きしてお話を伺いました。

「GLOW UP」は、若潮酒造株式会社、株式会社サカナカケル(出水田食堂)、株式会社下園薩男商店、有限会社 鹿児島ラーメン、株式会社オコソコなど、鹿児島を代表する食品事業者の経営者がフラットに集い、焼酎「GLOW」と地元の食材を掛け合わせた新しい食体験を提供する立ち呑みイベントとして発足しました。
食・人・地域が循環する、新しい地域活性のモデルケースとして県内外でも注目されています。

今回のインタビューでは、協働日本との取り組みで得た変化、参加メンバーの意識の変化、今後の展望について、率直に語っていただきました。

【本事例のまとめ】

地域の食の事業者が集まる機会はあっても、掛け合わせて新しいものを生み出すきっかけがなかった。鹿児島県の食品事業者5社が、鹿児島県が主催する「かごしまチャレンジャーサミット」をきっかけにつながり、焼酎「GLOW」と地元の食材を掛け合わせた立ち呑みイベント「GLOW UP」が誕生しました。

協働プロチームの伴走のもとで、異なる強みを持つ事業者が互いの魅力を引き出し合う共創の場を実現。地域資源を掛け合わせるという発想から、単独では生み出せなかった新しい地域活性のモデルが生まれました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


きっかけは地域の経営者ネットワーキングイベント――“必然的な偶然”で生まれたチーム

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、改めてインタビューをお引き受けいただいた四元さんの自己紹介をお願いできますか?

四元亮平氏(以下、四元):よろしくお願いします。私は現在、PLAY Inc.の代表として、小売業界を中心にブランディングやマーケティング戦略の支援を行っています。「心が豊かになる買い物体験の創出」をビジョンに、小売業界で店舗開発からセールス、DXまでのワンストップ支援に取り組んでいます。

あわせて、協働日本のプロフェッショナル人材「協働プロ」の一員として、各地の中小企業や地域事業者のみなさんと、複数の協働プロジェクトに参画してきました。

ーーーーありがとうございます!協働日本は、地域の事業者と多様な専門人材をつなぎ、新しい挑戦を伴走支援していくプラットフォームですが、その中でも四元さんは、現場に入り込んで事業づくりや場づくりを一緒に進めてくださっているお一人です。
鹿児島県で四元さんが伴走されたイベント「GLOW UP」の取り組みが、いま県内でも注目されていると伺いました。取り組みの内容について詳しく教えていただけますでしょうか?

四元:GLOW UPは、鹿児島の“お酒と食”をもっと自由に、もっと楽しく味わってほしいという想いから生まれた、立ち呑みスタンド企画です。
協働日本のネットワークで繋がった県内の5つの事業者──下園薩男商店さん、鹿児島ラーメン みよし家さん、若潮酒造さん、だしとお茶の店 潮やさん、そして出水田食堂さんの共創企画です。
若潮酒造さんの焼酎「GLOW」を起点とし、それぞれの“こだわり”がひとつの空間に集まり、お酒と料理、会話と笑顔が溶け合う、特別な時間が生まれました。

おかげさまで、県内外の事業者様にも注目いただいているコラボレーションイベントですが、その立ち上がりの経緯もとてもユニークでした。

ーー企画発足のきっかけについてぜひ教えてください。

四元:きっかけは「かごしまチャレンジャーサミット」でした。「かごしまチャレンジャーサミット」は、鹿児島県主催、協働日本が企画・運営に協力しているイベントで、協働プロによるオープニングゲストトークや、鹿児島県内のチャレンジャー企業によるピッチ、県内外の参加者が織り混ざりイノベーションを目指すグループワークを行うなど、インプットとコミュニケーションの場になっています。

「業種業界を超え、参加者同士がゆるやかに繋がり、応援しあう」ことを目的としていることもあり、懇親会では参加者同士、それぞれの事業の話や次の挑戦について語り合う時間になりました。

実は、「GLOW UP」の企画も、そのときの会話をきっかけに生まれたものなんです。

※かごしまチャレンジャーサミット
鹿児島県が主導する「新産業創出ネットワーク事業」の一環として、2024年度に発足した「かごしまチャレンジャーサミット(通称:かごチャレ)」。公益財団法人かごしま産業支援センターと株式会社協働日本が企画運営を担い、県内外の参加者が互いの挑戦を知り応援し合うことで、事業創出のうねりを生み出すことを目指す取り組みです。


四元:
私も協働プロとして登壇し、「売れる店舗の作り方」について講演をさせていただいたこともあり、懇親会の場で、若潮酒造の上村さん、株式会社サカナカケルの出水田さん、株式会社下園薩男商店の下田さんと、それぞれのお店の話など雑談を重ねていました。

皆さん魅力的な経営者の方ばかりだったので、せっかくこういった場があるなら活かしたい、という思いが募り、最初は「皆さんのお店の店舗診断しましょうか?」という話をしたのが始まりです。

ーー飲食を中心とされた事業者の方ばかりですし、四元さんの店舗開発の支援はぴったりですね。

四元:はい。私ができることとして「より良い店にするために、皆さんの店舗の現状を見て診断・アドバイスしましょうか」という気軽な会話でしたが、話を聞いた鹿児島ラーメンの西さんも、「みよし家もぜひ見てほしい!」と話に乗ってきてくださって。

この話を協働日本の村松さんに相談したら、「面白いからぜひ同行したい。かごチャレのスピンオフにしよう!」と盛り上がり、一気に実現に向けて動き出しました。


ーーまさに「かごチャレ」というプラットフォームが生んだ、”必然的な偶然”ですね。少しずつ仲間が増えていった形だったのですね。

四元:その通りです。「店舗診断」の参加者が増えたことで、1泊2日の行程になったので、株式会社オコソコさんの宿泊施設「ふたつや」に泊めていただきました。

皆で食事をしながら、それぞれの店舗やプロダクト、サービスについての話で盛り上がりました。私自身も鹿児島に来て皆さんのお店を回る中で、その食の魅力、価値の高さに改めて気づかされました。

実は、イベントタイトルにもなった若潮酒造さんの焼酎ブランド「GLOW」とは不思議なご縁がありました。以前、大阪で「GLOW」を薦められて飲んだことがありました。今まで好んで焼酎を飲むことはなかったのですが、「GLOW」の、焼酎の固定概念を変えるような美味しさに驚いたのを覚えています。そして、かごしまチャレンジャーサミットの際に、皆さんとご飯にいった先のお店で「GLOW」と再会したんです。

普段、ファッション業界の事業支援をおこなっている私の視点から見ても、この「GLOW」は名前やパッケージが非常にキャッチーでアイコニックな商材だと感じていました。

熱意ある経営者の皆さんと共に「ふたつや」で語り合っている時に、ふと、そんな「GLOW」を中心に皆さんが提供する地元の食材を合わせ、さらに出水田食堂さんの場所を使えば、「いい空間に、いい人が集まり交流が生まれ、ファンから発信されていく」というイメージが湧いたんです。

お話をしてみたところ、皆さんとても乗り気で「ぜひやろう!」とその場で開催日程が決まったのが「GLOW UP」企画の最初の一歩でした。


経営者が直接企画・運営するイベント

ーー四元さんがコンセプトを提案された後は、どのようにプロジェクトが推進されていったのでしょうか。

四元:最初のコンセプトは、まず「GLOW」を中心にして、それに合うオリジナルの料理を出しましょうと決めました。

メニュー面に関しては、食材のプロである皆さんが主体となり、どんどんアイディアを出し合って進めていきました。私は、その皆さんのアイディアを聞きながら、イベントのキャッチコピーである「五感が踊る立ち呑みスタンド」などの言語化をお手伝いしました。

1つ提案させてもらったものとしては「かごチャレ」の熱量を、別のかたちで表現したいと考え、「立ち呑み」という業態にしようというアイディアです。立ち呑みならフランクに人との交流が生まれやすく、好きなときに来て好きなときに帰れる。このスタイルが、参加者同士のコミュニケーションを促進する座組みになると考えました。

コンセプトを「食べて飲む楽しさだけでなく、人と会ったり、人の五感を刺激する場所」と定めることで、単なる飲食イベントではない、「GLOW UP」ならではの価値が明確になっていきました。

年齢差はあれど、集まった経営者の方々はお互いにリスペクトし合っていて、皆さんフラットなんです。ディスカッションはとてもスムーズで面白く、前向きにどんどん進んでいったのが印象的でしたね。

ーー経営者自らが企画・運営を行うというのは、非常に珍しい座組みですね。

四元:そうなんです。皆さん本当に魅力的な方ばかりで、面白いアイディアがたくさん生まれました。ただ、初回はメニュー開発などに意識が集中しすぎたことで、集客がやや遅れてしまうなど、プロダクトに議論が寄ってしまう一面もありました。

「GLOW UP」のイベントは予約制にしたのですが、時間帯によって埋まる部と埋まらない部が出てきて、思ったより甘くないな、と。

そこで、イベントの告知を1回で終わらせずに何度もアナウンスすることや、個人的に声掛けをするなど、マーケティングや集客についての動き方も考え、実行してもらいました。皆さまお忙しい中にもかかわらず、個別でのご案内や告知にご協力いただいたことで、取り組みの輪が大きく広がっていきました。
その結果、開催するたびに満席となり、これまでに延べ210名の方にご参加いただくことができました。


地域の事業者同士がお互いを深く知り、強みを掛け合い、顧客の体験価値を上げていく、新たな地域価値の高め方

ーー「GLOW UP」という取り組みを通じて、四元さんが感じたことや成果、参加企業の皆様の変化などについて教えてください。

四元:3回目の「GLOW UP」の打ち上げのとき、誰かがポロッとこぼした言葉が印象的でした。皆さん業界内での繋がりはあったものの、実はこれまでそこまで親しくしているわけではなかった、と。プロジェクトの進み方やコミュニケーションがとてもスムーズだったので、元々深い繋がりがあったものだとばかりに思っていたんです。

実際には「GLOW UP」を通して、事業者同士がお互いのことを深く知り、各社の持つ強みや技術といった、お互い社名やプロダクトを知っていても掴みきれていなかった「いいところ」を深く認識し合うことができたのです。これは、「ありそうでなかった」形の地域資源の再編集の場として、非常に大きな意味を持つと感じました。

また、成果という意味では、イベント参加者がお店を出た後の「体験」設計について助言させていただき、途中からイベント中に物販を導入したんです。

ーー「体験」の設計について具体的に教えていただけますか?

四元:はい。物販の目的は、単に売上の底上げだけではありません。ものがあることで、お客さんは家に帰ってからもイベントの体験を思い出し、再びその体験を再現できます。

さらに重要なのは、「受けた体験価値を誰かに渡せる」という点です。人に喜んでもらうという無条件の嬉しさを感じてもらうことで、体験価値をより高める設計になるということを提案させていただきました。

実際に物販では約20万円の売上にもつながりましたが 、それ以上に、お客さんが商品を持って帰ることで、ネットで事業者のことを調べたり、アクセスしやすくなったりと、「美味しかった」で終わらせない次の行動を促す設計を初めてできたことが、大きな成果だと感じています。


四元:この協働の取り組みを通じて、個人的に新しい発見や、頭の中にあった経験値が結びつき、より豊かな発想になったと感じています。

例えば、「お店に行くのに二次交通として車必須」などローカル特有の弱点があります。
ユーザーにとってのハードルとなりうるこの課題をどう克服するか考えた時、移動自体をエンターテイメントにする「来場まで」の体験価値の設計が必要だと気づきました。
目的地に着くまでのワクワク感を高めることで、移動の大変さ・ハードルを下げていく。こういった設計を鹿児島という地域全体で行っていくことで、単に商品や物販だけではない、地域全体のブランド価値を高めることに繋がるんじゃないかと感じ、協働先の皆さんと様々な企画に落とし込めるように挑戦中です。

協働日本の「かごチャレ」は、選りすぐった人数でやっていて、規模よりも質に目を向けているのが良い点だと改めて感じました。異業種の方が多く、彼らは「鹿児島」という地域全体、すなわち「面」としての価値を上げれば、自分たちの価値も上がるという広い視点を持っているように感じます。そういった地域の事業者の活動を、鹿児島県という行政が応援してくれる形になっているのもいいですね。

「GLOW UP」後に地域の事業者や行政の方に向けて取り組みをご紹介させていただく機会も生まれ、ありがたいことに新しいコラボレーションの形として注目していただいています。


ーー今回の取り組みが注目されている背景にはどのようなことがあると感じられていますか?

四元:どの地域も、地域資源の見せ方については試行錯誤していると思います。1つ1つの点が強くても、面として地域の魅力が伝わらないと悩んでいる地域も多いのではないでしょうか。

今回の企画「GLOW UP」は、まさに鹿児島の魅力「食×人×地域」の情報循環のモデルケースになり得ると思っています。焼酎だけ、アジフライだけ、ラーメンやお茶だけ…と、単体では人を集めるにあたっての独自性が強くなくても、それぞれの強みを掛け合わせることで、その地域独自の強みとなります。

これを「食×人×地域」の“再編集”と表現しているのですが、地域の魅力を足し合わせるのではなく、それぞれの掛け合わせによってさらに魅力を強く見せていけるのです。
そして、各社のファンが集まり交流することで、その強い魅力を体験し、発信してもらえる。情報の循環が生まれていきます。

「GLOW UP」で生まれたこの循環モデルが、協働日本のネットワークを使って全国の違うローカルプラットフォームでも展開していくきっかけになればと思っています。

地域には、素晴らしい人材や価値の高いものを持った事業者がたくさんいます。しかし、普段は競合や他業種で接点がありません。協働日本は、質の高い人材を集め、地域を越えたフラットな情報網と人と物の流通を作れるという、他社にはない圧倒的な強みを持っています。

この強みを活かして、地域の事業者さんが自分の価値を伝えたり、引き出してもらったり、あるいは繋げてもらったりするために、もっと積極的に協働日本のプロ人材を活用できるような仕組みができると、非常に面白いと思います。「必然的な偶然の出会い」を意図的に作り出すフレームワークが、協働日本のネットワークの中でもっと強化されていくといいなと考えています。

地域創生の課題を乗り越える、「GLOW UP」のような取り組みが、今後、同じような課題を抱える地域にとっての地域活性化のロールモデルになっていくことを期待しています。

ーー貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!


参加企業の声

株式会社サカナカケル
代表取締役 出水田一生 様

「GLOW UP」の企画を実施してみて
お客さんが喜ぶことと自分たちがやりたいこととのバランスを取ることや、

コンセプトやテーマ決め、見せ方・伝え方といった企画設計の一連の流れに加え、オペレーションや収支面などの運営まで、幅広い設計が求められる、とても挑戦的な取り組みでした。

結果として、それぞれの人脈を生かし、立ち呑みという場で人と人が出会い、交流や新しいものが生まれる、そして自分たちがチャレンジしたいと思っていることを試せる場となりました。

今後は、GLOW UPの知名度が上がることでさらに関わる人が増え、このパッケージをPOP-UPや県外での展開、商品開発など、さまざまな形で広げていきたいと考えています。


地域の事業者同士での協業を始めてみたいという方へのメッセージ
まずは新しいことをやりたいという人と出会い、想いを話すことかなと思います。
特に同業種じゃなければ面白い化学反応が生まれます。そして、それぞれの強みを生かして作り上げていくのがいいと思います。(商品開発、マーケティング、企画運営、プロマネなど)

若潮酒造株式会社
取締役 上村曜介 様

「GLOW UP」の企画を実施してみて
自分たちで主催するイベントなので、ゼロから企画し集客する難しさも知ることとなりましたが、5社のノウハウを合わせることで、できることの幅が広がったと感じました。

コラボによるペアリングやカクテルなど新しい飲み方の提案にも繋がり、各社のファンと5社がつながることも大きなメリットだと感じました。
2回目からは社員にも参加してもらうことで、ビジョンの共有やモチベーションの向上にもつながった実感があります。

今後は県外展開も行っていきたいです。


地域の事業者同士での協業を始めてみたいという方へのメッセージ
イベントのPRや売上などの効果も大きいですが、協業することで、お互いのできることが広がったり、それぞれの会社の状況や仕事の進め方などを知ったり、相談することもできる学びの場にもなっていて、本当にありがたい機会になります。

株式会社下園薩男商店
清涼飲料水事業部 下田佳奈 様

「GLOW UP」の企画を実施してみて
それぞれの企業の代表の方々が中心となっているので、打ち合わせ、事前準備などのスケジュールを合わせることはなかなか容易ではありませんでした。
清涼飲料水事業からの観点でいくと、若潮酒造さんとコラボしたことで、お酒との繋がりや組み合わせができたのはとても可能性が広がり感謝しています。

また、お酒では料理とのペアリングに焦点が当てられることが多いのですが、クラフトドリンクでは、そもそもペアリングという視点があまり持たれていません。そこで、お酒との組み合わせはもちろん、各代表の方々、そして四元さんからの意見などがとても参考になりました。

弊社の商品では、原料やレシピにストーリーを作ることができるので、その自由度や独創性の高さを強みに、今後もGLOW UPのようなコラボイベント限定のドリンクなどを作り繋がりを広げていきたいです。


地域の事業者同士での協業を始めてみたいという方へのメッセージ
私自身も、「ノンアルドリンク作れます!焼酎が大好きです!」と声をあげたり、「かごチャレに参加する」という行動をしなければ今回の企画には参加できていなかったと思います。
これからも同じように熱い気持ちを持った方々に繋がっていけると嬉しいです!

株式会社オコソコ
代表取締役 蔵元恵佑 様

「GLOW UP」の企画を実施してみて
新しい取り組みではありましたが、大変なことは特にありませんでした。むしろ毎回それぞれの会社の強みを活かして新しい挑戦ができることにワクワクしました!

今回の企画を通じて気づいたこととして、お茶と焼酎の可能性があります。焼酎のGLOWと知覧茶の相性がとても良く、炭酸割りにして飲むと最高でした。いつものお茶の飲み方とは違い、アルコールとの相性による新しい可能性をこれからもどんどん追求したいです。

同じように、若潮酒造の「跳ねる一日」と下園薩男商店の「メロンシロップ」とのコラボで実現した、メロンソーダもお茶の味だけでなく視認性でのコラボも新しい発見でした。

四元さんが、毎回企画段階から実際の運営のサポートをきめ細かにしていただく中で、常に顧客思考、顧客目線でいろんなアドバイスをしてくださることは、とても学びになるし、このイベントをやりたいと思える1つの要素だと思います。


地域の事業者同士での協業を始めてみたいという方へのメッセージ
協働や協業も、すべては各社の戦略次第だとは思いますが、いろんなチャレンジの先に、新しい顧客へのつながり方もあると思います!
他社さんの取り組みがそのまま自社の取り組みにも応用できることも多いので、是非ともチャレンジしてみてください!

有限会社鹿児島ラーメン
代表取締役 西洋平 様

「GLOW UP」の企画を実施してみて

その場にいたのが面白いメンバーばかりでしたし、自分たちでイベントを立ち上げてみたいと考えていたので、良い機会でした。自分でイベントを立ち上げるにしても集客・告知に不安があったのですが、信頼できるメンバーだったので心強くて手を挙げることができました。

鹿児島ラーメン みよし家の鹿児島市内での認知が低いと考えていたことと、みよし家はよくも悪くも昔ながらの飲食店なので、GLOW UPのようなチャレンジングで尖ったイベントではみよし家のファンに出会うことはないだろうと感じていたのですが、ありがたいことにほぼ各回でファンの方に出会い、フィードバックをいただける機会にもなり本当にありがたかったです。

県外でのイベントもそうですが、各メンバーの地元での開催(阿久根、鹿屋、志布志、頴娃、福山)を成功させて、鹿児島県内にGLOW UP旋風を巻き起こしたいです。


地域の事業者同士での協業を始めてみたいという方へのメッセージ
GLOW UPも協働日本の四元さんの「コラボとかしないんですか?」というふとした一言をその場にいるメンバーが面白がって始まったのがきっかけだと認識しています。日々の仕事は忙しいですが、特に現状を打破したいと思っている方は信頼できる他社との協業は自社の経営にとってもサービスにとってもプラスになると思いますので、きっかけがあればぜひ掴んで、協業してみると面白い未来が待っていると思います!


四元 亮平 / Ryohei Yotsumoto

マーケに強いToCセールス戦略コンサルタント。

UGG、BURTON、Leeなど現在まで数多くのブランド支援の実績を持ち、アパレル業界だけでなくBMW japanやTOYOPETなど他業界でも「マーケで強くするセールス戦略」を提供しながら、企業やブランドの売上を向上させる重要な「ヒト.モノ.ウツワ」の価値を最大化し、売上向上と同時に顧客の心が豊かになる買い物体験の提供を支援する。

また有力商業施設でのスタッフ研修や、ビッグサイトで開催されるアパレル最大級の展示会「FaW TOKYO」でのセミナー登壇、メディアでの執筆や文化服装学院の非常勤講師も務める。

2020/9にデジタルセールス入門書「スマホ1つで最高の売上をつくる接客術」をKADOKAWAから出版。webメディア「Eczine」アパレル業界誌「ファッション販売」など連載実績も多数。

協働日本事業については こちら

VOICE:四元 亮平 氏 -想いを持つ方を支える「名脇役」として。マーケティングを通じた地域企業の価値の再発掘と成長を目指す。-

STORY:有限会社鹿児島ラーメン 西 洋平 氏 -DX化と組織開発に取り組み、成功循環モデルで利益目標達成へ-

STORY:株式会社イズミダ 出水田一生氏 -若手社員が経営視点を獲得。未経験から会社の中核人材へ-

STORY:若潮酒造株式会社 上村曜介氏 – EC売上1,000万円増。お客様が魅力を語り出す!ファンコミュニティ創出の裏側 –

マーケティングSTORY:若潮酒造株式会社 上村曜介氏 – EC売上1,000万円増。お客様が魅力を語り出す!ファンコミュニティ創出の裏側 –

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、鹿児島県志布志市で焼酎を製造する若潮酒造株式会社 取締役の上村 曜介(かみむら ようすけ)氏にお越しいただきました。若潮酒造は、1968年に地元に5つあった小さな蔵が合併して設立されました。以来、地元志布志市の「日常酒」として愛される焼酎を造り続けています。

今回のインタビューでは、地域に根差した伝統的な酒蔵が、協働日本とのプロジェクトを通じてファンベースのマーケティングに舵を切り、組織として大きな変革を遂げたストーリーを、上村氏の言葉で率直に語っていただきました。

【本事例のまとめ】

鹿児島県志布志市の焼酎蔵・若潮酒造株式会社は、地元中心だった販路を全国・海外へと広げる挑戦に取り組みました。地元消費が縮小する中、全国・海外への展開を目指すも何から始めればいいか分からないという状況がありました。

そこで、協働プロチームの伴走を通じて、足を運んでくれるファンへのインタビューから顧客の本質的な価値を言語化。ファンコミュニティの形成へと舵を切り、来店数が1.5倍に増え、EC売上が1,000万円増加しました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

「地元酒」を全国、そして世界へ。ターゲット拡大を目指して

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

上村 曜介氏(以下、上村): 鹿児島には「日常酒」という文化があり、地元の焼酎は地元の蔵が造り、地元の人たちが飲むという伝統があります。若潮酒造でも設立以来、志布志市の日常酒を造り続けてきました。しかし、人口減少や高齢化に伴って地元の消費は年々減っていました。

そこで、地元だけではなく、全国や海外でも飲んでもらえるような新商品の開発や、酒蔵を観光コンテンツとして活用し、地域との関係人口を増やす取り組みを徐々に始めるようになっていきました。
具体的には、蔵見学や直売所の設置、最近では焼酎のブレンド体験ができるコンテンツを作るなど、新しい挑戦をしてきました。

酒蔵という場所は人を呼べるコンテンツでもあるので、地元の人に飲んでもらうだけではなく、県外・海外からも足を運んでもらえる取り組みを進めていました。より「産業観光」に注力して伸ばしていきたいと考えていたときに、ちょうど鹿児島県の事業で協働日本との取り組みを知り、専門家の支援を受けたいと思ったのがきっかけです。

志布志市の若潮酒造の蔵元では、オリジナル焼酎を作れるブレンド体験ができる。
ーー県の事業がきっかけだったんですね。こういった「プロの伴走支援」のスタイルには、最初から抵抗はなかったですか?

上村: 実は以前から、副業人材の方にマーケティングやブランディングを手伝ってもらっていたので、抵抗感はありませんでした。協働日本さんは議事録やスケジュール調整まで、サポーターの方のバックアップ体制がしっかりしていて、非常にありがたかったです。

すでに県内で協働日本とのプロジェクトを進めていらっしゃった株式会社イズミダさんや、株式会社オキスさんなどからの紹介もあり、安心して始めることができました。

「ファン」との対話から見えた新たな活路

ーー協働がスタートしてから、実際のプロジェクトはどのように進んでいきましたか?

上村: 最初は「産業観光をどうするか」というテーマでスタートしました。協働プロとしては、藤村昌平さん(協働日本CSO)、渡辺勝弥さん、協働サポーターとして細川謙一さんに入っていただきました。当初は「産業観光」のロードマップ策定や現状の改善ができたらと期待していたのですが、協働プロの方から「今、すでに志布志まで足を運んでくれるファンの方がいること自体がすごい」「わざわざ志布志まで来てくれる人はどんな人なのか、インタビューしてみたらどうか」というアドバイスをいただきました。

志布志は鹿児島県の中でもアクセスが良い場所ではないので、わざわざ足を運んでくれる人には何か特別な理由があるはずだと。そこで実際にアンケートやインタビューを実施したところ、若潮酒造のお酒に熱い思いを持つ「コアなファン」の存在が明らかになったんです。

ーーそこで方向転換されたのですね。

上村: そうです。「産業観光」よりも、若潮酒造の「ファン施策」に注力した方が良いのではないか、という話になりました。ちょうどその頃、若潮酒造のお酒を飲んでファンになったことがきっかけで入社してくれた地元出身の女性社員がいたので、早速プロジェクトに合流してもらい、一緒に取り組みを進めました。

ーーご自身が若潮酒造のファンという社員の方もファンマーケティングに携わってくださるなんて心強いですね。具体的な施策についても教えていただけますか?

上村: ひとつは、新しいSNSアカウントの立ち上げです。これまでは一方的な情報発信が中心でしたが、双方向のコミュニケーションができるプラットフォームを目指しました。商品開発の裏側の動画や、インスタライブで楽しみ方や飲み方の提案を発信するようにしたのですが、新アカウントのフォロワーは1,000人程度にも関わらず、コメントやDMでのリアクションは、既存の企業公式アカウント(フォロワー6,000人)よりも圧倒的に多く、コアなファンの存在が可視化されていきました。

今までは酒屋さんを通しての販売がほとんどで、飲み手との接点は少なかったのですが、こうやって直接飲み手の方と繋がることができ、「どんな人が自分たちの焼酎を好きになってくれているのか」が見えるようになったのは大きな変化です。

ーーDMで心温まるメッセージが届くこともあったとか。

上村: そうですね。毎年メッセージをつけて販売している焼酎があるのですが、「そのメッセージに救われました」といった声が届くこともあり、心が温まりました。そして、もう一つの施策として、そんな熱意のあるコアなファンの方々をアンバサダーとして迎える「アンバサダー制度」の立ち上げを行いました。この8月から運用をスタートしたばかりです。

ーーアンバサダー制度の立ち上げは、一体どのようなことがきっかけだったのでしょうか?

上村氏: 協働プロに協力していただいて実施したファンの方へのインタビューで、「若潮酒造のお酒の良さを周りに伝えたいけど、同じ熱量で語り合える人がいない」という声を聞きました。そこで、若潮酒造ファンの人たちが集まって語り合える場・コミュニティを作ってはどうか?というアイディアが出たんです。

ーーなるほど。新たな取り組みだったと思いますが、制度の立ち上げの中で壁になった部分はあったのでしょうか?

上村: やはり、『誰を対象に、なぜ今制度化するのか』といった基準・理由づけの整理に時間を要しました。

新しい商品を飲んで感動して蔵にお越しになったコアファンの方も多く、元々若潮の焼酎を飲んでいた、つながっていた人たちはアンバサダーではないのか?なぜ新たに増えたコアファンが中心になるのか?などのレギュレーションを決めていくのには、少し時間がかかりました。

この8月から制度がスタートしたという流れになります。

活動内容としては、コアな若潮酒造ファンを6名くらいアンバサダーに認定、年に1〜2回蔵に来ていただいたり、自社のお祭りである「新酒祭り」でブースを手伝ってもらったり、オンラインで飲みながら語り合う会を開催したりという活動を予定しています。また、すでに自発的に知り合いにお酒を薦めてくれたり、イベントを開催してくれたりする方もいて、とてもありがたいです。

ファンマーケティングがもたらした、数値と意識の大きな変化

ーープロジェクトを通じて生まれた具体的な成果や変化についても教えていただけますか?

上村: そうですね。先ほどお話しした、ファンとの交流用のSNSの開設・運用や、アンバサダー制度の開始自体が一つの成果だったと考えています。SNSでも誘客に関する発信や、焼酎のブレンド体験などの独自コンテンツの発信を進めていったこともあり、売上に関してはオンラインショップと直売所の売上が大きく伸びました。
直売所は、来てくださるお客様の人数が年間で、約2,000人から約3,000人と1.5倍に増えました。オンラインショップの売上は、前年の約1,500万円から約2,500万円(+約1,000万円)まで増加しています。

ーーそれはすごい成果ですね!数値的な成果以外に、組織として変化したことはありますか?

上村: これまで、パレートの法則のように「2割のコアなファンが売上の8割を占める」といったようなコアファンが売上の大半を支えるという話は知っていましたが、今回のプロジェクトを通じて、オンラインショップのデータ分析などを行い、改めてその重要性を会社として認識できました。

この成果を受けて、ファン施策をさらに推進・強化していくべきだという会社判断に至り、「広報部」という新しい部署も立ち上げて、本格的に取り組む体制ができたのも大きな変化です。

ーーメンバーの方に変化はありましたか?

上村: 県の支援で、地域再興に挑む全国にファンを持つ新鋭蔵を視察することになり、秋田の男鹿市の酒蔵に行く機会があったのですが、そこも全国に熱狂的なファンのいる新しい酒蔵でした。

男鹿市自体を再興しようとしていて、酒蔵の経営以外にも、地域活性化に関する様々な取り組みをされていました。地域を盛り上げようとしている蔵の姿に触れ、若潮酒造としても取り組むべきビジョンを社内で共有できたのは大きな収穫でした。

ーー伝統的な会社でありながら、フットワークの軽さを感じます。

上村: これまでは、新しい活路を見出すためにスピーディーに新商品を開発することに注力していました。そうした挑戦的な風土は元々ありましたが、今回のプロジェクトを通じて、会社全体として新しいことに取り組む姿勢がより加速したと感じています。

協働日本の「想い」で人が繋がり、新たな挑戦の輪が広がる

ーー以前、副業人材の方と取り組んでいたときとの違いはありましたか?

上村: 以前は、私がプロジェクトマネージャーとして副業人材と社内を繋ぐ役割を担っていましたが、協働日本さんの場合はPM自体の役割もバックアップしてくださり、サポート体制が充実している点が助かりました。これから外部のプロ人材との取り組みを始めたい方には、協働日本さんの伴走支援はとてもおすすめです。

ーープロジェクトの中で、特に印象に残っている言葉やエピソードはありますか?

上村: 協働プロの渡辺さんから「ファン施策の担当者は、数字を追わない方がいい」と言われたことですね。

担当者がフォロワー数や売上を意識しすぎると、ファンが離れてしまうからと。そこで、SNS担当はファン体験の最大化に専念、数字管理は上村氏が担うという役割分担を徹底しました。この視点は、ファンマーケティングを進める上で非常に重要だと感じました。

ーー最後に、今後協働日本がどうなっていくか、メッセージも兼ねてお聞かせください。

上村: 代表の村松さんの熱い想いが、その動きに出ていると感じます。副業に関するプラットフォームはたくさんありますが、協働日本さんは「想い」を核に差別化されているように感じます。

また、同じく協働日本さんが携わっている「かごしまチャレンジャーサミット」という事業を通じて、鹿児島だけでなく全国の人と繋がる機会を提供してもらえるのは本当にありがたかったです。

「かごしまチャレンジャーサミット」で生まれたイベント「GLOW UP」

今回、「かごしまチャレンジャーサミット」で知り合った企業5社とコラボしてイベントを開催するなど、協働日本さんとの繋がりから新しい取り組みが生まれています。同じ熱量を持った仲間と出会える機会は貴重なので、今後もこのような機会を提供してくださることを期待しています。

ーー本日はありがとうございました!引き続きよろしくお願いいたします!


上村 曜介 / Kamimura Yosuke

鹿児島県大崎町出身。筑波大学大学院で微生物学を専攻後、味の素株式会社にて発酵技術の研究職として約7年間勤務。2018年に若潮酒造株式会社に入社。香り系芋焼酎「GLOW」や木樽蒸留ジン「424GIN」、地元の規格外農産物を活用したスピリッツ「f spirits」などの商品開発を担当。2024年より同社取締役。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


マーケティングSTORY:株式会社第一塗料商会 永井 宏和 氏 -新規事業戦略をチームで策定。組織能力向上により売上件数142%へ-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。 実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社第一塗料商会の代表取締役、永井 宏和にお越しいただきました。 株式会社第一塗料商会は、1965年に創業し、塗料や建築資材の販売を手掛ける老舗企業です。これまで地域の職人や工務店を中心に事業を展開してきましたが、近年は市場の変化に適応するため、新たな販路開拓に挑戦しています。

協働日本の支援を受けながら、顧客戦略を策定し、SNSを活用した発信の強化や新たなターゲット層の開拓に取り組み、売上の拡大を実現しました。

【本事例のまとめ】

BtoC事業を始めたものの誰に何を売るかがなかなか定まらない。そんな難しさを抱えていた鹿児島県の塗料・建築資材販売会社である株式会社第一塗料商会は、BtoC向け塗装事業ブランド「塗屋本舗」の顧客戦略構築に挑みました。協働プロチームの伴走を通じて、ターゲット顧客とブランドの強みを言語化し、SNS発信を強化。

社長・常務・担当スタッフと協働プロ3名がひとつのチームとして戦略を考え抜いたことで、「戦略は外に任せる」から「自分たちで考えて動く」へと変わり、売上件数が142%に達しました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

ターゲットや強みが明確に。「塗屋本舗」が本当に伝えたいテーマを見つけられた。

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

永井 宏和(以下、永井): よろしくお願いいたします。 当社はこれまで、地域の工務店や職人の方々を主要な顧客として、自動車向けの塗料や建築塗料の卸販売を主軸に事業を展開してきました。

しかし近年では自動車保有台数の減少などによる市場縮小や、競合他社の存在もあり、新たな販路を模索する必要性を感じていました。そこで、当社が直接塗装工事を請け負う、BtoC向けの事業も開始することになりました。

事業成長に向けて色々と模索している中、地元の地銀が主催するセミナーで協働日本代表の村松さんの講演を聞く機会があり、それがきっかけで伴走支援に興味を持ったんです。

実はBtoC事業を始めるにあたり、ノウハウを知りたくて過去にコンサルタントを依頼したことがありましたが、「コンサル担当者が戦略を考え、当社の担当者が戦略を遂行する」というスタイルが、どうしても私たちの現場の温度感と合わず、成果を出しきれなかったという経験がありました。

だからこそ、協働日本の「一緒に考え、一緒に企画していく」という伴走のスタイルにすっと共感し、ぜひ協働できないかと考えるようになりました。

実際に講演後に村松さんと話をさせていただき、課題に合わせた協働プロをご紹介いただけるというスタイルや、当社がこれから取り組んでいきたいと考えていたマーケティングやSNS発信に強い協働プロの方々に伴走支援に入っていただけると聞き、鹿児島県の事業に応募することにしました。無事採択されて今回、ご縁をいただくことになったのです。

ーー実際に協働プロジェクトが始まってから、どのような取り組みを進めているのでしょうか?

永井:はい。協働プロとしては、四元亮平さんと和地大和さん、協働サポーターとして田中友惟さんの3名のチームで伴走していただいています。当社からは、私と常務、そして担当スタッフがチームとしてプロジェクトを進めています。

そもそもBtoC事業ではかねてより、新規顧客獲得に苦戦しており、何をすべきかもわからない状態でしたので、協働プロジェクトも本当にゼロからのスタートとなりました。

最初に取り組んだのは、ターゲット市場の見直しでした。従来はBtoBとして職人や工務店向けの営業が中心で、BtoCの販路としてはホームセンターに塗料を置くなどの展開を行っていたものの、売上の向上には至っていませんでした。

売れないということは、需要がないとも言えます。そこで協働チームとの対話の中で、ターゲット顧客となりうるのは誰か?どんなニーズがあるのか?を明らかにし、BtoC向けブランド「塗屋本舗」の価値・強みを明確にしていきました。

そこでいざ、これまでの顧客データを整理してみると、塗った品物やニーズもバラバラで、ターゲットが定められないという課題が浮き彫りになりました。

依頼が入るごとに新たにヒアリングをしてニーズを明確にしていくという取り組みを進めることで、ペルソナを整理し、ブランディングメッセージを設定。具体的なプロモーション戦略に取り掛かることができました。

ーー具体的なターゲットや強みについてもお伺いできますか?

永井:もちろんです。「塗装をしてほしい」というニーズには、「古くなったものを塗り替えて綺麗にしたい」というマイナスをプラスにしたいものと、「今あるものを塗り替えてさらに良いものにしたい」という、プラスを生む価値がそれぞれ見出されていることがわかってきました。

また、「選べる色の種類が多いと嬉しい」というニーズや、自分が望む色にできることへの満足感も見えてきました。

ニーズの掘り下げをしていく中で、「ペンライトを塗ってほしい」という、いわゆる“推し活”のお客様が一定数いらっしゃることにも気づくことができたのも収穫でした。これまでは漠然と30〜40代以降の年齢層がターゲットと考えていたため、20代にも“気軽に塗装を楽しむ”体験を提供できることがわかったのは、とても意外な結果でしたね。

塗屋本舗の塗料は見本だけでも2,000色。色を通じたライフスタイルを提案し、「色で生活を豊かに」というブランドメッセージを掲げる当社の価値は、まさに選べる色の多様さ、望む通りの色にできるというニーズと一致した強みであるとわかりました。

そこでこの「色で生活を豊かに」というメッセージを改めて重点テーマにして発信し、より色を楽しんでいただける方を増やしていくことになりました。

ーー「色で生活を豊かに」、とても素敵なメッセージですね。その先のプロモーションはどのように進めていったのでしょうか。

永井:策定した顧客戦略に基づいて様々な施策を講じてきたのですが、一例として、SNSを中心とした情報発信、プロモーション施策を行いました。もともと、「色を楽しむこと」をイメージとして伝えるにはSNSが適していると考えていました。

そこで、協働プロと相談しながらInstagramアカウントを新規開設し、明確になったターゲットとニーズに合わせた内容として、プロモーション動画やインフルエンサーを活用した発信を開始しました。特に「古くなったものを綺麗にして使い続けたい」というニーズは、「色を通じたライフスタイル提案」との相性も良いと考え、小学生の頃使っていた勉強机をリペイントして、大人になっても使い続けられるというイメージの動画を制作しました。

「長く使い続けるための塗装サービス」としてのコンセプトを打ち出すことができ、「色で生活を豊かに」というメッセージも自然に伝わる内容になったと感じています。

売上件数142%へ。組織の力が強くなり、問い合わせを受注に繋げられるように。

ーー協働を通じて得られた成果や変化についても教えてください。

永井: 一番大きな成果は、売上件数の増加です。プロジェクト開始前と比べて、注文件数は約40%増加しました。

これは複合的な要因が背景にはありますが、何より伴走支援を通じて、スタッフが成長してくれたことが大きいと考えています。

実はプロジェクト開始当初、ミーティングの中で当社メンバーから積極的な意見があまり出てこない場面も多くありました。しかし協働プロの皆さんは、気長に優しく、丁寧に発言を促しながらスタッフの言葉を引き出してくださいました。

スタッフからすれば、突然始まった外部のプロ人材とのプロジェクトで「なぜこんなことをするのか?」という状態だったと思います。

それでも、毎週のミーティングでお題を出され、1週間考えて次の週に発表するというサイクルを繰り返す中で発言が増えていきました。発言が増えることで、自主性や責任感も芽生えていったように感じています。



このように、メンバーに課題を与え、「どんなことができるだろうか?」と自ら考え、翌週に答えを出すというプロセスを見て、「伴走とはこういうことなのか」と実感しました。

社内でもこうしたコミュニケーションを広げていきたいと感じましたし、プロジェクトに関わった常務からも「組織論を学べた」との言葉があり、経営陣にとっても学びの多いプロジェクトでした。

スタッフはただ指示されたことをこなすのではなく、目的意識を持って業務に当たり、目的に対してどのような手法が効果的かを自ら考えるようになりました。こうしたスタッフのスキルアップが、顧客からの問い合わせを確実に受注につなげていく結果に直結したのではないかと考えています。

そこに、SNSを通じた露出による認知拡大が追い風になりました。

ーー協働を通じて組織が強くなったことが、成功要因だったのですね。

永井: 塗り屋本舗の顧客と向き合うという一連のプロセスを通じて、ターゲットや強みだけでなく、私たちが目指したい未来も明確になりました。

これから向かっていく方向を、協働の取り組みの中で言語化できたことは、本当にありがたい成果でした。

あらためて、目指す方向性や戦略を言語化できたことと、顧客に向き合ったことで社員ひとりひとりが主体的に取り組めるようになったこと。この2点が、今回の伴走支援による大きな成果だったと感じています。

業績面での成果については、まだこれからに期待したい部分もあります。今後は、SNSの発信から部屋の壁や外壁塗装の仕事につながるような導線づくりや、発信も続けていきたいと思っています。

実際に塗装を体験していただける機会をつくるなど、やりたいことはたくさんありますので、ここからさらに1年間、協働プロジェクトを継続させていただく予定です。

難しいテーマにも外部プロ人材と共に考え、共に立ち向かっていく「協働」スタイルの魅力。

ーー今回社外プロ人材との取り組みを通じて、率直にどのように感じられましたか?

永井:最初に村松さんの講演を聞いたときから、外部の人材を活用してチームをつくるという座組みがとても素晴らしいと感じていました。

やはり「餅は餅屋」であり、さまざまな分野のプロ人材が複業という形でプロジェクトごとに関わってくださること自体、非常に貴重な経験になったと思います。

週に一回というペースも、適度に「考える時間」をいただけるので、ベストな時間配分でした。協働プロは、その知識や経験だけでなく、皆さんとてもお人柄が良く、プロジェクトは終始和気あいあいと進んでいきました。

与えられた正解や戦略を強制するのではなく、常に「共にやっていきましょう」「一緒に考えていきましょう」「一緒に作っていきましょう」というスタンスで関わってくださったことが、当社には特に合っていたと感じています。

ーー今後、このような外部のプロ人材との取り組みはさらに進んでいくと思われますか?

永井:時代の流れとして、間違いなく広がっていくと思います。以前は「原則副業禁止」という会社も多く、このような取り組みは考えられませんでしたが、今では柔軟な働き方によってプロ人材の活躍の場が広がっており、とても良いことだと感じています。

協働日本との取り組みは、本音を言えば競合他社には教えたくないほどですが(笑)、親しい経営者仲間にはぜひこの伴走支援の良さを伝えていきたいですね。さまざまなプロ人材が、いろんなテーマ・角度で伴走されていると伺っており、幅広い悩みを網羅できることも協働日本の強みではないでしょうか。

ーーそれでは最後に、協働日本へのエールも込めて一言メッセージをお願いします。

永井:まずは、何より感謝をお伝えいたします。伴走というスタイルは他にはなく、「共に考え、共に作る」という「協働」のスタイルの素晴らしさを痛感しました。

協働プロの皆さんのプロジェクトの進め方は、社内でのチームの動かし方にも通用する要素が非常に多くありました。目的意識の共有、ゴールに向けた方向性、ストーリーの共創などを通じて、メンバーが前向きに成長してくれたことは、本当に感動的でした。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

永井:ありがとうございました!



協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
株式会社第一塗料商会様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。


永井 宏和
 / Hirokazu Nagai

株式会社第一塗料商会 代表取締役社長

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


VOICE:四元 亮平 氏 -想いを持つ方を支える「名脇役」として。マーケティングを通じた地域企業の価値の再発掘と成長を目指す。-

協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。

今回は、協働日本でブランディング・マーケティング支援のプロとして地域企業の伴走支援を行う四元亮平氏のインタビューをお届けします。

四元氏は、リアル店舗を活用したマーケティング支援の専門家として、これまで様々な企業の成長を支えてきました。協働日本への参画を通じて、地域企業の課題解決に取り組みながら、新たな価値創造に挑戦しています。

協働を通じて生まれた支援先の変化やご自身の成長、そして今後の展望について語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

自然と”商売”に触れていた幼少期の環境。経験を活かして地域企業のポテンシャルを引き出す支援をしたい

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、四元さんの普段のお仕事やこれまでのキャリアについて教えてください。

四元 亮平氏(以下、四元):はい、よろしくお願いいたします。現在、私はPLAY Inc.の代表として、小売業界を中心にブランディングやマーケティング戦略の支援を行っています。PLAYは「心が豊かになる買い物体験の創出」をビジョンに、小売業界で店舗開発からセールスにDXまでのワンストップ支援に取り組んでいます。

ーー小売を中心としたご支援ということですが、これまでのキャリアでも小売業に携わられる機会が多かったのでしょうか?

四元:そうですね、10歳で中古のゲームソフトを販売することを通じて商売の面白さに気付き、21歳からポールスミスで販売職を8年、30歳で独立し企画製造業と店舗代行業を8年展開して今に至っています。

ーー幼少期のそういった体験が四元さんの今のキャリアの原点になっているのですね。

四元:地元神戸の三宮で、親戚が露天商を営んでいました。週末や長期休みになるとゲームソフトの中古カセットを仕入れてワゴンに積み、スペースを借りて大人を相手に販売するという経験をさせてもらっていました。

そういった環境があったので、自然と商売の世界に触れるようになり、今に至るまで小売業に関わっています。

ーーありがとうございます。続いて、四元さんが協働プロとして協働日本に参画されたきっかけについて教えていただけますか?

四元:もともとアパレル業界や自動車業界のクライアントを多く支援していたのですが、2〜3年前からローカル企業の可能性に魅力を感じるようになりました。特に、地方の企業が持つ独自の価値や文化に興味を持ち、それらを引き出すことで市場を広げられるのではないかと考えたんです。そこで、そういった活動をやってみたいという発信や、情報収集をするようになっていました。

そんな折、知人を通じて協働日本を紹介してもらったのがきっかけです。面白い取り組みをしている会社があるということで興味が湧き、私自身も地域企業の支援をしていきたいと思っていたところだったので、代表の村松さんと実際にお会いしてお話しを伺い、ビジョンに共感し、プロジェクトに参画することを決めました。

価値を再認識したことで気付いた新たなニーズと、事業を成長させる道筋

ーー四元さんが参画されたプロジェクトの内容について、詳しくお聞きしたいと思います。

四元:現在は、鹿児島県内の2事業者様の伴走支援を行っています。その中の1社である株式会社第一塗料商会さんにはプロジェクトマネジメントの役割で参画しています。

第一塗料商会さんは、これまで自動車塗料、建築用塗料、工業用塗料をはじめとするBtoBを中心に事業を展開する塗料の会社です。新たにBtoC市場に進出し、より多くの一般消費者にサービスを提供したいという課題を持たれていました。今回の協働プロジェクトでも、この課題をテーマにして、戦略策定を支援しています。

ーー具体的にはどのようなプロジェクトの進め方をされたのでしょうか?

四元:最初に取り掛かったのは、事業のビジョンやターゲット層の定義を行い、toC向けに展開しているブランド「塗屋本舗」の価値を明確にすることでした。これまでの「塗屋本舗」の顧客データを整理していくと、誰がどんなものを求めているのか?塗ってほしい商品やニーズもバラバラで、ターゲットが定まっていないことが明らかになってきたので、依頼が入るごとにヒアリングをしてニーズを明確にしていくという取り組みを進めました。

そこからわかってきたのは、「塗装をしてほしい」というニーズには大きく2種類、「古くなったものを綺麗にして使い続けたい」というマイナスを戻す価値と、「今あるものを塗り替えてさらに良いものにしたい」という、プラスを生む価値がそれぞれ見出されていることでした。

ニーズの掘り下げをしていく中で特に意外だったのは、「推し活」のお客様が一定数いらっしゃったことです。ペンライトを塗りたいという依頼や、推しの色とぴったりの色がない!という方が多くいらっしゃったんです。

これまでは漠然と30〜40代以降の年齢層をターゲットにしていた塗屋本舗でしたが、20代にも“気軽に塗装を楽しむ”体験を提供できるとわかったことも大きかったと思います。

ーーなるほど。徐々に塗屋本舗の価値やターゲットが言語化できていったのがわかります。

四元:そうですね。見えてきた顧客像やニーズに合わせて、この2軸のコンテンツをアップグレードしながら継続的に発信していくため、SNSによるプロモーション戦略も開始しました。特に「古くなったものを綺麗にして使い続けたい」というニーズは、第一塗料商会さんの強みである「色を通じたライフスタイル提案」との相性もよく、単なる塗装から「長く使い続けるための塗装サービス」というコンセプトを再構築しました。

小学生の頃使っていた勉強机をリペイントして、大人になっても使い続けられるというイメージビデオを作成、ライフスタイルに合わせて塗り直すことで、物がアップグレードされても、思い出や記憶は残り続けるというサステナブルな価値も伝わるようになっています。

このように、顧客戦略を明確化した上で、顧客ターゲットに合わせたフォロワー獲得施策を展開し、ブランド認知を強化。CRM導入の検討と、継続的な顧客接点の構築をサポートしていきました。

ーーありがとうございます。伴走支援を通じて特に感じられたプロジェクトの成果や変化についても教えていただけますか?

四元:先日の鹿児島新産業創出ネットワーク事業 最終報告会2025でもお伝えしたところではありますが、7か月の短期間でも、新規顧客の獲得や大きな請負工事に繋がるなど、大きな成果が生まれてきています。

その中でもやはりプロジェクトを通じて誰がこの価値を欲しがっているのか?ということが明確になり、第一塗料商会の皆さんにとっても自分達の価値の再認識ができた部分が最も大きな成果ではないかと感じます。

SNSなどオンラインで間口を広げて新規顧客を獲得していきましたが、次は来てくれたお客様にどのように継続してアプローチしていくか?という課題も議論できるようになりました。当初は新しいお客様をどんどん取っていこうという意識が強かったのですが、やはり小物の塗装だけで事業規模を拡大していくのは難しいです。

そこで、「一度塗ってもらった後」のお客様が、家の外壁塗装など本当に困った時の第一想起、信頼を獲得していくことを次の目標に置くようになりました。

ーー確かに、家の外壁塗装はどのタイミングで誰に相談すれば良いのかあまりイメージできない分野ですよね。

四元:そうなんです。実は、外壁塗装では訪問販売が多く、「そろそろ外壁を塗り直した方がいいですよ」という営業を受けて、即決で決めてくださる方もいらっしゃるんだそうです。第一塗料商会さんとしても、自社で受ければ同じ価格でもっと良いものができると感じていたそうで、推し活などをきっかけにできた若いお客様とのリレーションを継続して築くことで、口コミや紹介でアップセル・クロスセルを狙っていければと思っています。

今回のこの成果がでたことについても、私は枠組みを作っただけだと思っているんです。一緒にチームを組んでいた協働プロの和地大地さんや、協働サポーターの田中友惟さんが、その枠組みをしっかり掘り下げながら動き方を丁寧にサポートしてくれて、何より第一塗料商会さんが、新しい取り組みや考え方にアレルギー反応を出さず進めてくれたことによる変化と成果です。

わからないなりにも、自分達でやろう、と取り組んでくださったことが嬉しく、それを協働プロが引っ張っていってくれた、そんな良いプロジェクトだったと思います。7ヶ月間の伴走支援を経て次に取り組みたいことも見えてきたので、ここからさらに1年間プロジェクトを継続していくことになっています。

地域企業が持つ本来の強みを引き出し、成長させる、そんな名脇役でありたい

ーー協働の中で四元さんご自身の変化を感じることはありますか?

四元:今回のプロジェクトを通じて、より現場目線でのブランディングやマーケティングの重要性を再認識しました。今までの私自身のスタイルは、新しいことに取り組む前に今まで企業がやってきたことを見直すということに重点を当てていたんです。
今の状態がある=ここまで成長してきたことには価値がある、ということなので、この価値の再構築をするスタイルでした。今回も同じようなやり方ではありましたが、「鹿児島」という地域で協働を始めたことで、地域に根付いた文化や、そこで生活する人々の価値観をより強く意識するようになりました。

ーーなるほど。地域文化の重要性について、ぜひ具体的なエピソードを教えてください。

四元:鹿児島での伴走支援の中で、地域の方達とのコミュニケーション機会がたくさんありました。例えば、第一塗料商会さんのSNSプロモーションでは、地域で食レポをされているインフルエンサーの方を起用したのですが、やはり地域密着のインフルエンサーの方が地域のお客さまの理解度が高いんです。実際に塗装を依頼しに来られる方も地元の方が多いので、顧客の理解度も高く、解像度の高い戦略を立てやすい。一言でインフルエンサーの起用と言っても、影響力がある人を探すだけでなく、地元の人に愛され、応援され、文化への理解度が高い、地域愛のある人と組むと成功しやすいだろうという気づきがありました。

また、「地域で愛されるブランド」という視点も新たに学んだものの1つです。例えば、鹿児島の焼酎文化では、「全国での知名度や販売数」よりも、「地域でどれだけ親しまれ、日常酒として根付くか」が重要視されるという話を聞き、地元市場への深い理解も、ブランドの成長に不可欠だと実感したことがありました。

また、こうやって伴走支援を通じて、いろんな企業の事業、いろんな人の人生に関わり、これまでの自分の人生だけでは知らなかったことを知れる機会ができるということもとても面白く感じています。横についてるからこそ見える、知れることがある、追体験ができる。この経験自体も本当に楽しいですね。

ーーありがとうございます。四元さんはこれから協働日本でどんなことを実現して行きたいですか?

四元:地域企業が持つ本来の強みを引き出し、マーケティングを通じて成長させることを目指したいです。
第一塗料商会さんの事例では、「塗装を通じた新たな価値創造」というコンセプトを打ち出し、マーケティング施策によって認知度を向上させました。また、企業が「ブランディングとは何か」を理解し、継続的に実践できる体制づくりも進めています。

「良いもの」は世の中にたくさんあるんです。埋もれてしまっている「良いもの」を多くの人に知ってほしいですし、自分自身がそういったものを発掘していく面白さを感じています。この“良いもの”を生み出す人や、「これを広めたい」と強い想いを持つ方々を支える“名脇役”でありたいです。主役ではないけれども、いなければ物足りない存在───そんな関わり方で地域企業が持つ本来の強みを引き出し、成長させることが私のミッションです。

ーーありがとうございます。最後に、協働日本が今後どうなっていくと思われるか、協働日本へのエールも込めてメッセージをお願いします。

四元:協働日本の「専門家がチームで伴走支援する」というスタイルは、地域企業にとって非常に有益な仕組みだと思います。
また、協働プロにとっても大きな成長の場になると考えています。例えば私自身は過去に大企業で働いた経験はありませんでしたが、協働プロジェクトでチームを組んでいる協働プロの中には、大手企業で活躍される方もたくさんいらっしゃいます。同じテーマについて、同じマーケティングという角度で物を考えても、大手でしかできない事業構想や物の見方があってとても面白いですし、勉強になっています。
日本中にこのモデルを広げ、多くの地域企業が協働を経験することで、地方発の新たなビジネスモデルが次々と生まれることを期待しています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

四元:ありがとうございました!

四元 亮平 / Ryohei Yotsumoto

マーケに強いToCセールス戦略コンサルタント。

UGG、BURTON、Leeなど現在まで数多くのブランド支援の実績を持ち、アパレル業界だけでなくBMW japanやTOYOPETなど他業界でも「マーケで強くするセールス戦略」を提供しながら、企業やブランドの売上を向上させる重要な「ヒト.モノ.ウツワ」の価値を最大化し、売上向上と同時に顧客の心が豊かになる買い物体験の提供を支援する。

また有力商業施設でのスタッフ研修や、ビッグサイトで開催されるアパレル最大級の展示会「FaW TOKYO」でのセミナー登壇、メディアでの執筆や文化服装学院の非常勤講師も務める。

2020/9にデジタルセールス入門書「スマホ1つで最高の売上をつくる接客術」をKADOKAWAから出版。webメディア「Eczine」アパレル業界誌「ファッション販売」など連載実績も多数。

協働日本事業については こちら

関連記事

STORY:株式会社キラガ 太田 喜貴氏 -3年間で売上12倍の躍進。業態変化から組織改革まで、協働の真価を発揮-