VOICE:協働日本 向縄一太氏 – 「浪漫」と「算盤」で地域を変える –

協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。今回インタビューするのは協働日本で、地域企業に対するマーケティング支援を行っている向縄 一太(さきなわ いちた)氏です。

花王(株)で18年以上一貫してマーケティング業務に従事し、国内衣料用洗剤(アタック、ニュービーズ)ブランドを担当してきた向縄氏。

タイでの海外駐在を経て、アジアホームケア事業(マジックリン)のシニアマーケターとして、アジア7ヵ国を担当し、事業戦略・マーケティング戦略等(商品開発含)の立案を推進してきました。

そんな向縄氏は現在、インドネシアに駐在し、経営戦略・事業戦略立案・実行、既存ブランドの推進を行っています。

協働日本が行っているマーケティング支援の中心メンバーとして活動し、複数のプロジェクトをマネジメントする向縄氏が、協働日本に参画したきっかけはなんだったのか。地域企業とのエピソードや、企業支援で大切にしている想い「浪漫と算盤」をインタビューで語りました。

(取材・文=郡司弘明)

大切にしているのは、起点となる「浪漫」

ーー本日はよろしくお願いします。いくつものプロジェクトでマーケティングの知見や経験を活かした支援を行っている向縄さんですが、あらためて普段のお仕事についてぜひ教えてください。

向縄 一太氏(以下、向縄):よろしくお願いします。普段の仕事もマーケティングに関わる仕事をしています。花王で18年以上一貫してマーケティング業務に従事してきました。

現在は、PT.Kao Indonesia(インドネシア駐在)へ出向し、経営戦略・新規事業の立案・実行、主要ブランドのマーケティング/商品開発のサポートを行っています。

ーーインドネシアから日本各地の企業をご支援しているのですね!

向縄:はい。インドネシアと日本では2時間の時差があるのですが、リモート中心での伴走支援ということもあり、特に支障なく協働日本の活動も行えています。

ーー協働日本で実際にどんな取り組みをされているか教えてください。

向縄:現在、5つのプロジェクトを通じて各地域の企業様をご支援しています。私が各企業様と行っている事は、抽象的に述べますと、「浪漫」と「算盤」の伴走になります。

ーー「浪漫」と「算盤」ですか。それはどういった意味なのでしょうか?

向縄:企業様が持たれている浪漫(WHY : Purpose , Vision)を、伴走型支援によって明確にしていき、それを算盤(HOW:事業戦略・マーケティング戦略・戦術)に落とし込み、それを活用して実現に向かってご一緒する活動をしています。

マーケティングの協働プロとしてプロジェクトに参画していますが、算盤に集中するのではなく、起点となる「浪漫/想い」の部分を大事にして活動しています。

ーーなるほど。地域企業を支援する中で向縄さんが大切にしている2つの視点がまさに「浪漫」と「算盤」というわけですね。実際のお取り組み事例についてもぜひお聞かせください。

向縄:お取り組み先の1社が、滋賀県草津市にある「株式会社くさつビル」さんです。地元草津市で不動産の賃貸や売買を行っている会社です。

そのくさつビルが手掛ける、地域のデジタル教育に関わる新規事業に立ち上げから伴走しています。

ビジネスモデルの設計から新会社の設立を経て、現在は「ミラポ」という小学生向けプログラミングスクールがスタートしたところです。

ーーくさつビルさんとの取り組みでもまず大切にしたのは、浪漫(WHY : Purpose , Vision)でしょうか?

向縄:その通りです。くさつビルのWHYの部分である想いについて、事業者自身がありたい未来像を描けるようしっかりと時間を割き、サポートしました。

打ち合わせを重ねていき、新たに不動産を活用した教育事業に取り組み、地域を活性化させていきたいという未来像が言語化されました。

向縄:くさつビルの事業の中心である不動産業から、教育事業への参入ですから一見すると、飛び地の事業のようですが、そこには「地域を活性化させたい」「草津を盛り上げていきたい」という浪漫が根底にあります。

そこまで明確にできれば、あとは自身のマーケッターとしての経験を活かして、算盤(HOW:事業戦略・マーケティング戦略・戦術)をともに作り上げていく番ですね。ビジネスモデルを構築しつつ、サービスのコアとなる顧客とそのニーズをより明確に特定していきました。

ーー緻密に顧客のニーズを確かめていったことで、算盤が磨かれていったのですね。

向縄:特に、顧客となる親と子供の気持ち・課題感を顧客インタビューを実施する事で掴んだことで、サービスがどんどん磨かれていきました。その他にも、具体的なアウトプットとして新会社のブランドの規定や、ロゴの開発、ホームページの開発、サービスのブラッシュアップ等の立案サポートを行っています。

ーー向縄さんの大切にしている「浪漫」の言語化から「算盤」構築へのプロセスがまさに形になっている事例ですね。その他のお取り組み事例についてもぜひお聞かせください。

向縄:静岡県の沼津三菱自動車販売株式会社ともお取り組みさせていただいております。沼津三菱は静岡県東部や伊豆エリアをカバーする三菱自動車正規ディーラーです。

沼津三菱様が新たに立ち上げた「Gran Works」というコーティングサービスのマーケティング戦略・戦術立案をご支援させていただいております。

ここでもサービスの更なる発展に向けてまず、沼津三菱様のWHYとなるパーパスとありたい将来像、内に秘める「浪漫」を明文化するためのサポートを行いました。

その後、お役立ちしたい顧客(WHO)の特定に向け消費者インタビュー・従業員の方へのヒアリング・顧客調査を実施したことで、ターゲットとする顧客像を特定することができました。

Gran Worksとしての提供価値をしっかりと定義したことで、そこからの具体的な戦略が明確になっていきました。

具体的な顧客サービスであるコーティング、洗車、そして未来に実行していくサービスの開発にまで踏み込ませていただきました。そのほか計画立案と並行して、プロモーション支援として、ホームページ作成(文言・構成)や顧客へのトーク内容の整理等のサポートなども行っています。

現在は、顧客のロイヤルユーザー化を図るための顧客情報管理等の仕組み化についても議論をしているところです。

地域を活性化させたいという想いに「共振」した

ーー向縄さんが協働日本に参画するきっかけはどんなものだったのでしょうか?

向縄:協働日本で共に取り組む事を決めた理由は、大学院の先輩である村松さんが協働日本を立ち上げて地域企業の伴走支援事業を行おうとしていることを知り、そこで「地域の活性化」への想いを聞き、「共振」したためです。

ーー面白い表現ですね。「共振」ですか。

向縄:はい。自分の想いや関心といった、心の波紋が外へ広がっていくタイミングに、村松さんの熱い気持ちの波紋が重なって、波紋が合うような感覚があったんです。共感よりも強く、「共振」しました。

当時から海外事業を担当していたので、何度も海外に赴いていた中で、海外には素晴らしいモノがたくさんある事に気づくと同時に、日本にはまだまだ世界に誇れるものがいくらでもあると思っていました。

それをもっと引き出して活性化させていくことができれば、日本全体が活性化していくのではと思っていました。

ーーそのためにはどんなことが必要だと考えますか?

日本の「優位性」ではなく、「独自性」をもっと引き出していくことですかね。

たとえば、衛生的で便利な機能が詰め込まれた「日本のトイレ」の技術は世界的に有名ですが、海外のトイレも急速に進化してきていています。日本の標準に世界が追いついてきているんです。つまり「日本のトイレ」が綺麗という「優位性」は失われつつあります。

一方で、日本の地方で大切に紡がれてきた伝統や文化、歴史は「独自性」と言えます。これには地域に根ざして、歴史を重ねてきた老舗企業も含まれます。

こういったものは、簡単に真似することは出来ません。だからこそ地域で頑張っている企業の内に秘めた浪漫を言語化し、算盤を磨いていくお手伝いをしたいと思いました。

インドネシアにいると、刻一刻と社会の進化や変化を実感します。優位性だけで戦おうとすると、すぐに追いつかれてしまうのではという危機感は以前に増して強くなりました。

胸に秘める「浪漫」を「夢」で終わらせない

ーー向縄さんが協働日本での活動を通じて実現したいことを教えてください。

向縄:私の人生の意義、人生の「Why」は「身近な人・地域に笑顔溢れる日常を創造する」ことです。

自分が関わる事で、自分の影響力は小さな波紋程度かもしれませんが、それが多く、そして合わされば、大きな波紋になると思っています。それなので、多くの企業様に伴走する事で、関わる人の日常に、そして、その方々が関わる地域・社会に笑顔が生まれる、そんな関わり方をしていきたいと思っています。

ただし、「浪漫」だけでは、それは「夢」で終わってしまいますので、企業様の過去の知見・技術、またチームメンバーの知見・技術、私が過去に経験してきた事・学んできた事を全て出し切り、チームで「算盤」を活用して、浪漫を現実に実現していきたいと思います。

実際、5つのプロジェクトに関わらせて頂いていますが、各企業様、その想いに向かって突き進まれているので、私のWHYの部分の実現にも繋がっていると思っています。

取り組みを通じて日々、知の移転が行われている

ーー取り組みを通じて、協働パートナー企業の変化を感じるときはどんなときですか?また、どんなときに協働プロとしてやりがいを感じますか?

向縄:協働先のパートナー企業の変化としては、大きくは2点感じています。

1つ目は、お取り組みさせていただいた企業のみなさんが、「浪漫:Purpose」を起点に事業を組み立てることができるようになり、それを言語化して、自ら社外に語れるようになったことです。

ホームページ・SNSの運用を通じて、社外へのアプローチしている時にご自身の言葉で明文化してきた想いを語る姿を見て、とてもやりがいを感じました。

2つ目は、以前に増して企業のみなさんが「顧客志向:WHO」を意識されて話されるようになっている事だと思います。常に、誰が顧客で、顧客の方が何を考えられているのか、そこを意識された上で、戦術部分を検討・実行されるようになりました。

一緒に伴走しながら、自身の思考プロセスやノウハウを伝えてきたので、パートナー企業が自立して行く姿を側で見れたことはとても嬉しい変化でした。協働日本の伴走型支援の目指しているところでもあるので。

ーー向縄さんご自身も、協働日本に参画したことで生まれた変化はありましたか?

向縄:自身の変化としては、実は色々な事業に関わらせてもらいながら、同時に自分と向き合う事ができ、事業家としての視点を1段も2段も引き上げて頂いているように思います。

熱い経営者の想いや経営課題をお聞きする事で、「自分はどうなのか?」という内省だったり、「この視点はなかったから、この視点を持って事業を考えてみよう」という気づきを毎回得られます。

また、一緒に協働している協働日本メンバーの知見や考えを聞く事で、事業家としての力が格段に上がってきているようにも思います。それなので、一方通行ではなく、双方向で、知の移転が行われているように思います。

少し、エモーショナルな話で言えば、関わらせて頂いている企業様の地域にとても興味が湧き、住んでもいないのに、勝手にその土地に愛着が産まれている事です笑 滋賀県、静岡県、鹿児島県、石川県・・・・今はインドネシアに住んでいますが、帰国後は絶対行きたい県です。

協働日本は今後、企業や組織を越えた存在に

ーー最後に、向縄さんは協働日本は今後どうなっていくと考えていらっしゃいますか?

向縄:「 関わる人が活性化するプラットホーム 」として、一つの企業・組織を越えた存在になると思っています。

地域や企業、複業人材、などの要素が交わり有機的に繋がりつづける「場」になることで、つながるのは地域の企業と協働日本だけではなくなっていくと思います。

町や市、県といった地域や、色々な業界、地域の名産品や観光地もこのプラットフォームに集いだしています。これからも一緒に日本を活性化していきたい人達が集まる場になっていく事を期待しています。

ーー今日は色々なお話をお伺いできました。ありがとうございました。

向縄:本日はありがとうございました。

向縄 一太
Ichita Sakinawa

花王(株) Senior Manager ※現在 PT.Kao Indonesia(インドネシア)に出向中 

大学卒業後、花王(株)で18年以上一貫してマーケティング業務に従事。国内衣料用洗剤(アタック、ニュービーズ)ブランド担当、タイでの海外駐在を経て、アジアホームケア事業(マジックリン)のシニアマーケターとして、アジア7ヵ国を担当し、事業戦略・マーケティング戦略等(商品開発含)の立案を推進。現在は、インドネシアに駐在し、経営戦略・事業戦略立案・実行、既存ブランドの推進を行う。

専門領域

経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略、商品開発、市場調査(消費者インサイト発掘)

資格:日本マーケティング協会認定 マーケティング・マスター

人生のWHY
自分が関わる人の 「笑顔溢れる日常」 を創造する

向縄 一太氏も参画する、協働日本事業については こちら