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STORY:株式会社山岸製作所 山岸晋作氏 – 協働日本は中小企業にとっての「最強の人事部」。変化に勝ち抜く地域企業の組織戦略とは –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社山岸製作所 代表取締役社長の山岸 晋作氏にお越しいただきました。

株式会社山岸製作所は1936年創業の金沢の家具販売会社で、輸入家具やインテリアの販売、内装工事設計・施工のほか、オフィスのトータルプロデュースも手がけ、家具・インテリアの販売だけではなく新しい「暮らし方」「働き方」を売る会社としても注目を集めています。

また、社員の自主性を育む企業でありたいと柔軟な働き方や、協働日本との協働を通じて次世代経営者の育成にも力を入れている山岸製作所。

今年10月には、テレワークを活用した柔軟な働き方を体現し、優秀な取り組みを実施している企業に送られる賞「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」を受賞されるなど、注目を集めています。

インタビューを通じて、協働プロジェクトを続けてきたことによる成果、変化や得られた学び、これからの期待と想いについて語って頂きました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

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企業の課題や、事業のフェーズに合わせて「人材育成」に伴走。

ーー本日はよろしくお願いいたします。協働日本とのお取り組みも3年目になりました。協働をスタートしたきっかけから、ここまでの歩みについて、改めてお聞きできますでしょうか?

山岸 晋作氏(以下、山岸):はい、よろしくお願いいたします。

協働日本との出会いは、金沢で事業を展開している発酵食品の老舗、四十萬谷本舗の四十万谷専務からのご紹介でした。

当時、事業について悩んでいた際に四十万谷さんとの会話の中で「相談相手として、良い人がいるよ」と紹介していただいたのが協働日本代表の村松さんでした。

かねてより四十万谷さんが都市圏の複業人材と協働型のプロジェクトに取り組んでおり、成果を挙げられいると聞いていたので興味を持ち、何度かお話を重ねるうちに弊社でも協働をスタートさせるに至りました。

ーー最初に取り組まれたのは、売上向上のための社員教育だったのですね。

山岸:はい。暮らし方を提案する、弊社のインテリアショールーム「リンテルノ」 での売上を向上させるため、社員教育の支援をお願いしたのがはじめのプロジェクトでした。

背景には当時、取り扱う様々なブランドを代理販売するこれまでのビジネスモデルの見直し、いつしか単に物売りになってしまっていることへの危機感を感じていたことがありました。

今、山岸製作所は、これから売っていくべきものを「暮らし方」そのものと定義しています。
そのためには山岸製作所の存在意義や、なぜこのブランドを取り扱うのか、自社の中で明確な言語化を進めておかなければ、いずれ行き詰ってしまうだろうと考えました。

さっそく社員教育として、協働日本に所属する協働プロの方々と、弊社のショップリーダー3名とでチームを組んで取り組みがスタートしました。

私たち一人ひとりが売っているものはすなわち何なのか、提案する「より良い暮らし」とは何か。
これからの山岸製作所にとって重要な価値観を、メンバーそれぞれで悩み時に意見をぶつけながら考えていきました。そうしていくうちに、それぞれが納得感を持って日々の販売や新たな戦略に携わっていけるようになりました。

とはいえ、この頃はまだ事業の回復に向けて必死だった時期。
社員教育そのものの捉え方も、未来への投資という考え方よりも、目先の売上向上のための販売力強化という意識が強かったかもしれません。

山岸製作所のショールームで協働プロと議論を重ねた

ーーなるほど。更なる取り組みとして、翌年の2023年には協働日本の提供する『経営リーダー育成プログラム』へ企業幹部が参加し、経営人材としての視座向上に取り組まれていましたね。

山岸:これをきっかけに、組織を蘇らせようという危機対応フェーズから、中長期的な成長を意識した組織の成長フェーズに舵を切りました。私の意識も、未来のためここで変わっていこう、変えていこうという方向に向いていました。

そこで必要になるのが組織の中核になる存在です。組織の成長に向き合った時、社長である私自身と幹部たちの間に見えない距離があることを課題に感じはじめていました。

その正体は何かというと、経営をしていく上での根っこの部分、価値観のすり合わせができていないことです。
どうやって、両者の価値観のすり合わせればいいのか。どのように幹部候補の成長をサポートすればいいのか。社長ひとりの頭の中では解決策が浮かばず、悩んでいました。そんな時、協働日本代表の村松さんから「協働日本では企業の幹部育成にも取り組んでいる」という話を伺いました。

リンテルノの販売力を、人を育てることで向上させてきた協働日本さんに、今度はより長い目で見た時に必要となる人材育成をお願いしたいと思うようになりました。
それが『経営リーダー育成プログラム』をお願いしようと決めた経緯です。

この時は、幹部候補の2名──初年度から伴走支援を受けているリンテルノのリーダー西島と、営業・オフィス戦略マネージャーの奥永の両名に挑戦してもらうことにしました。

『経営リーダー育成プログラム』は、協働プロによる幹部への伴走とメンタリングによって、企業幹部を経営者リーダーとして育成するものです。
ワークショップのセッション、事業開発のメンタリングと、コーチングからなるプログラムで、改めて自分と会社の存在意義を考え、組織を動かす幹部としての視線の醸成・意識の変革を目指すという内容でした。

結論から申し上げて、このプログラムは非常に効果が大きかったと感じています。
その理由は、当初の狙い通り、私の価値観───例えば未来に向かってのビジョンや、会社をどうしていきたいかということに対して幹部候補たちと相互理解できただけでなく、彼ら自身の中に燻っていた熱い想いを、彼らの言葉で言語化できたことにあります。


山岸:プログラムに参加した幹部のひとり、奥永の振り返りでは、「協働日本の提供するプログラムを受け、自分自身や会社のことにあらためて向き合い、それらの存在意義について徹底的に、そして絶え間なく考え続ける時間を持てたことによって、頭の中のピースがつながるようになった。確固たる判断軸ができた」と話してくれました。

仕事のこと、経営のこと、会社の理念なども、実際に経営者のお客様と話しているときなどに話がすっと入ってくる・何を言っているかわかるようになったと。

私から見ても、私と彼との間でも交わす言葉がのチョイスも重なってきたと感じました。

そんな時、彼自身の変化に気づいた時、「どうしてそうなった?」と質問すると「自分の中の存在意義と会社の存在意義が重なった部分に気づいてから、前に進み出した気がする」という答えが帰ってきたんです。とても印象的でしたね。

また、主語が「会社」から「自分」になる場面が増えたとも言っていて。それまで「会社のためにこうすべき」で思考が止まっていたことが、徐々に「会社がこうなったらいいなと思っているから、自分がこうやって進めたい」という主体的な言葉に変わっていったんです。この頃には実務の中でも「自分がやります」という言動が増えてきていました。

外からの刺激や圧力よりも、内なる声を聞くことのほうが、より人を強く動かす。行動する背中を押す力になるんだと、私にとっても学びになりました。

社長という立場ゆえに感じることですが、内部の人間だけで価値観をすり合わせ、会社の未来を自分事化させて内なる声を引き出すことはとても難しいことです。

いつも一緒に仕事をしている社員同士や、取引先とのやり取りというのは、いわば安全地帯、「コンフォートゾーン」です。同一的な環境にずっと身を置いていると、自分にとってそれがコンフォートゾーンであるということにすら気づくことができません。

外からの刺激があって初めてそれに気づき、コンフォートゾーンを意識することができます。そうしてはじめて、そこに身を置くべきか、そこから飛び出してチャレンジした方が良いのかという選択ができるようになります。

プログラムに参加すれば誰でも同じように結果が出るかといえばそうでもありません。変革のための「意識の種」が必要で、今自分がやっていることに何かしら違和感や「このままでいいのか?」という想いを抱いていたメンバーだったからこそ、コンフォートゾーンを飛び出すことができたのだと思います。

協働日本には、事業開発のメンターと、自分自身と向き合うためのコーチングの両軸が揃っています。内なる自分の声を引き出す、『経営リーダー育成プログラム』はそういった変化を生み出してくれました。


ーーありがとうございます。2024年の現在は、どのようなテーマに取り組まれているのでしょうか?

山岸:お話しした、昨年の成功体験があったので、引き続き『経営リーダー育成プログラム』に取り組むことを決めました。今年は、幹部候補の次の役職レイヤーから3名が参加しています。

ーー継続的なプログラムになったんですね!山岸さんの想いを受けて、3名の方も西島さんと奥永さんに続いて大きく変化してくれそうですね。

山岸:実は、今年の取り組みをスタートさせる時に背中を押してくれたのは昨年の参加者の西島と奥永だったんですよ。

協働日本の伴走支援を受けた2人がその価値を理解して、後輩達にも受けてみてほしいと。越境学習の効果を語り、社内への説得を後押ししてくれました。今では、プログラムを受けながら日々成長している3人の姿を、皆で見守っています。

ーー1年間のプログラムを受け終えた時の姿が今からとても楽しみですね。

山岸:そうですね。前半のワークショップと毎週のセッションを終え、今は2週に1回の実装フェーズに入っています。

でも、実を言うと今年のプログラムで一番学ばせてもらっているのは私かもしれないと思っているくらい、彼らのセッションの中には気づきが多いです。

セッションの録画を毎回見ているのですが、協働プロと3人のやり取りの中で見えてくる課題こそが、驚くことに山岸製作所の課題そのものなんですね。

それは、彼らがより現場レイヤーに近いからこその視点ということもありますが、今、山岸製作所にとって必要なことは何か?がリアルに見えてくるので、実際に経営会議で議題としてあげたものもあります。

毎週の朝礼で私の考えを話しているんですが、伝えたいことが伝わっていない、こんな伝わり方をしているんだという発見もありました。
例えば、山岸製作所では個々の自主性を引き出していくことを大切にしていますが、それを「個人商店」のように捉えら大きなプレッシャーを感じている社員もいるということも、彼らの視点から見えてきたことの1つです。

それぞれに違う切り口ではありましたが、3人とも共通して「どうやってメンバー同士助け合えるか、孤立しない組織にできるか?」を本質的にやりたいことと考えて、取り組んでいたんです。

山岸製作所では、自主性を引き出すために働く時間も場所も自由で、裁量権多く仕事をしていける環境を整えています。
しかし、現場レイヤーの視点で考えると、自由な環境ゆえに、メンバー同士が団結して助け合っていく意識がないとかえって個々の仕事や責任を全うすることが難しいと感じていた。3人のセッションから出てくるそういった投げかけは経営課題の本質に迫るものでした。

自由な環境だからこそ、社員を孤立させてはいけない、メンバー同士が繋がってプレッシャーを補いあって、個の集団でありつつも、より強固なワンチームになっていく。これをどう具現化していくか、経営レイヤーでも取り組んでいきたいと思っています。

「彼らの見ている山岸製作所」から一番学びを得ているのは紛れもない私自身で、経営者として方向を修正することが出来ているのは、繰り返しになりますが、やはり貴重な機会ですよね。

社員の学びを支援する、柔軟な働き方が評価され、総務大臣賞を受賞。

ーー今年のお取り組みといえば、10月には、テレワークを活用した柔軟な働き方を体現し、優秀な取り組みを実施している企業に送られる賞「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」も受賞されています。受賞に至る背景についてもお話お伺いできますか?

山岸:はい。きっかけは2023年の秋に北陸総合通信局(総務省の地方支分部局)主催のイベントに登壇したことです。

そこで山岸製作所の働く環境、テレワークの取り組みについて紹介したことが北陸総合通信局の中で話題になったようで、今年のテレワークトップランナーへの応募を勧められ、山岸製作所では長くテレワークの取り組みを進めていあこともあり、折角の機会だからと応募したところ、全国で3社しか選ばれない総務大臣賞をいただくことに。

山岸製作所にとってのテレワークは、売上向上や業務の効率化を目的としているというよりは、社員の自主性を育む組織であるための手段だと考えています。

管理や制約などの枠組みを取り払って、自分がやりたいことに向かっていく方が、絶対成果が出てくると思っていますし、それを実践している会社であり続けようと取り組んできました。

テレワークというと自社の社員がどこで仕事をするか?ということや再現性、効果についてフォーカスされがちです。

私はそれだけでなく、山岸製作所が社外の方と一緒に仕事をする、コミュニケーションをとることのハードルを下げることができることにこそ、「テレワーク」を推進していくメリットがあると考えています。

テレワーク環境・理解が整えていくことで、時間的・距離的なボーダーをなくすことができるので、山岸製作所に関わってくれる全ての人にとってもコミュニケーションがとりやすくなる。私たちをサポートしてくれる人たちの力を最大限活用できる仕組みづくりに繋がると思うんです。

実際、早くからそういった取り組みを進めていたからこそ、物理的な距離があっても、協働日本の協働プロの皆さんとの取り組みもすぐに始められましたし、リモートで行なっている協働プロジェクトから多くの成果が生まれました。

総務大臣賞を受賞。受賞3社の中で唯一の地方企業となった。
引用元 「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」等の公表


ーー山岸社長が大切にされてきた、自主性や個の成長を育むための環境整備が受賞に繋がったのですね。この賞は山岸さんが大切にしている、「山岸製作所らしさ」が体現されていますね。

山岸:「社員、スタッフ皆を信頼して自主性を引き出した方が成果は出る」ということを信じられないとテレワークを推進することは難しいと思うんです。

遠距離恋愛と同じで、一度疑い始めたらきりがないし、うまくいかなくなってしまう。やっぱり山岸製作所では社員全員を尊重し、時に協働日本のような社外の力も借り、信頼しあってそれぞれが成長をしていける、そんな組織でありたいと思います。その形が生んだ成果と取り組みを評価いただけたことは、とても嬉しいことです。

こうやって改めて協働日本との取り組みを振り返ってみると、初年度はまだまだ利益偏重主義、目先のことで必死でしたね。一緒に取り組みを進めていく中で徐々に売上も体制もようやく整い出し、ようやく未来を考えられるようになってきている今、あらためて変化を実感します。

私自身も月に1度、代表の村松さんにメンタリングをお願いしています。
村松さんからいただいた課題や問いに対して、自分はどうありたいか、どうあるべきか、どう取り組むか徹底的に考え、言語化していく。その時間を通して、自分で自分の視座を上げていく貴重な時間です。

私のそういった取り組みを見て、社員のみんなも頑張らなくちゃと思ってくれる。
「これをやりなさい」と上から与えるのではなく「一緒に頑張ろう」という姿を見せることで、共に成長していける手応えを感じます。

社員を信じて働き方を柔軟にし、学びや成長の機会をどんどん作ることで、それを企業の成長につなげていく。この文化を守っていきたいと思います。

協働日本は中小企業にとっての「最強の人事部」ではないか

ーー最後に、これから取り組まれたいことや、協働日本に期待されていることがあれば教えてください。

山岸:協働日本は、私たち中小企業にとっての、「最強の人事部」だと思っています。

これからの時代に対応するためには、柔軟に生きていく必要がありますが、一方で私たち中小企業には、その都度、人を採用して内製化するだけの時間も余力もなかなか持ち合わせていません。

そこで、協働日本にいる多くの協働プロたちに、その時のテーマに合わせて協力いただけることこそ意義があると思っているんです。

売上向上のため、人材育成のため、採用のため……その時々の自社の課題や事業テーマに対応してもらえるプロがすぐそばにいてくれる。そんな私たちの「最強の人事部」を活用しない手はありませんよね。

例えば具体的にこれからの取り組みについてもお話しすると、実は来年、福井県への事業進出を決めています。

事業拡大のためのマーケティング支援はもちろん、新しい店舗で働くメンバーたちの教育や心のケアなど、協働日本に引き続きお手伝いいただきたいことがたくさんあります。

福井県の第一号店には、まさに今プログラムを受けているメンバーの1人がリーダーとして赴任することが決まっています。協働日本の伴走支援や育成プログラムは、本人にとっても組織にとっても、既に「実践」の場になってきています。

私はこうして折角、山岸製作所に関わっていただけるのであれば、協働日本や協働プロの皆さんに金銭的なメリット以外の価値も感じていただきたいと思っています。
大手企業に勤めている協働プロの皆さんも多い。地方の中小企業経営のダイナミズムやスピード感は、大企業にはないものがたくさんあります。そこにはきっと、逆に彼らの学びに繋がるものもたくさんあると思っています。

山岸製作所と、伴走してくださる協働日本の皆さんで、win-winの関係で成長しあえる……そんなお付き合いを続けていければと思っています。

これからもよろしくお願いします。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

山岸:ありがとうございました!

山岸 晋作 / Shinsaku Yamagishi

株式会社山岸製作所 代表取締役社長

1972年、石川県金沢市生まれ。東京理科大学経営工学科で経営効率分析法を学び、卒業後アメリカ・オハイオ州立大学に入学。その後、『プライスウォーターハウスクーパース』に入社。ワシントンD.C.オフィスに勤務。2002年、東京オフィスに転勤。2004年、金沢に戻り、『株式会社山岸製作所』(創業は1963年。オフィスや家庭の家具販売、店舗・オフィスなどの空間設計を手がける)に入社。2010年、代表取締役に就任。

協働日本事業については こちら

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協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社山岸製作所 代表取締役社長 山岸晋作氏にお越しいただきました。

山岸製作所は1936年創業の金沢の家具販売会社で、輸入家具やインテリアの販売、内装工事設計・施工のほか、オフィスのトータルプロデュースも手がけています。

暮らし方を提案するインテリアショールーム「リンテルノ」や、働き方の提案を行うオフィスショールーム「リシェーナ」を通じて、新しい「暮らし方」「働き方」を売る会社としても注目を集めています。

孤独な戦いも多い経営者にとって、協働日本は心強い伴走相手だと語る山岸社長。
今回は協働日本との取り組みのきっかけや、支援を通じて生まれた変化についてお聞きしました。

さらには今後の複業人材との取り組みの広がりの可能性についても、経営者の視点からメッセージをお寄せいただきました。

(取材・文=郡司弘明)

必要としていたのは、同じ当事者意識を持って悩んでくれる仲間だった

ーー本日はよろしくお願いします。今日は、進行中のプロジェクトについてだけでなく、お取り組みのきっかけになったエピソードなどもお聞きできればと考えております。

山岸晋作氏(以下、山岸):はい、あらためて本日はよろしくお願いします。

ーー協働日本では、週次の定例ミーティングをはじめ、先日も山岸製作所60周年記念イベントで協働日本代表の村松がモデレーターとして登壇するなど、様々な機会をご一緒させていただいております。
両社の取り組みがスタートしたきっかけとは、どんなものだったのでしょうか?

山岸:きっかけは同じく金沢で事業を展開している、発酵食品の老舗、四十萬谷本舗の四十万谷専務からのご紹介でした。

以前、事業について悩んでいた際、四十万谷さんとの会話の中で「相談相手として、良い人がいるよ」とご紹介してくださったのが協働日本代表の村松さんでした。

四十万谷さんがかねてより、都市圏複業人材と協働をスタートしており、成果を挙げられていたことは聞いていたので、興味を持ちました。

ーー四十萬谷本舗の四十万谷さんからのご紹介でしたか。四十萬谷本舗さまとのお取り組みは協働日本の第一号プロジェクトです。そこからご縁があったのですね。

山岸:ご紹介いただいて、実際に会ってみて驚きました。

こちらの悩みを聞いて一緒に議論をしてくれるなど、楽しくお話をさせていただいた後、てっきり最後は営業されるのかと身構えていたのですが、その後の契約などの話はせずに帰っていったのです。

ーー信頼できる方からのご紹介とはいえ、身構えていた山岸さんからすると、それは驚きでしたね。

山岸:かえって印象的で、気になってしまいました(笑)その後も、村松さんはじめ協働日本の方々は金沢に仕事で来る際に必ず、弊社に立ち寄ってくれるのです。

協働プロのみなさんがこぞって、弊社にお越しになられたこともありました。お会いするたびに、世の中のトレンドをご紹介いただいたり、事業についての壁打ちや、これからの働き方や暮らし方の議論をして帰っていかれました。

村松さんはじめ、協働日本の方々はとても情熱的で、そうして何度もお会いしている内にだんだんと、定期的にこの人たちと話がしたい、悩みを聞いてもらいたいという気持ちが強くなっていきました。

ーーコミュニケーションを重ねていく内に、山岸さんのお気持ちに変化があったんですね。

山岸:最後は私の方から一緒に取り組みをスタートしたいと伝えさせていただきました。

協働日本のみなさんからは、「こういう方向で解決して~」のようなアドバイスは一切なく、いつも「どうすれば眼の前の課題や、世の中の変化に一緒に立ち向かえるか」という視点で議論してくれます。それが本当にありがたかったですね。

当時から正直な話、外部からのコンサル的なアドバイスはあまり求めていませんでした。それは事業に関する課題はとても膨大で、それらは一つ一つが独立したものではなく相関しあっており、一朝一夕に解決の糸口が見つかるようなものではないと感じていたからです。

アドバイスを実践するだけで解決するなら、とっくにやっていますと(笑)

むしろ必要としていたのは、同じように当事者意識を持って、事業の課題に向き合って悩んでくれる仲間でした。そのため、そういった心意気で向き合ってくれようとしていた、協働日本のみなさんと取り組めることは、経営者としてとても心強かったです。

議論を繰り返し、根本の価値観を徹底的に言語化

ーーありがとうございます。続いて、現在どのようなプロジェクト進めているのか具体的に教えていただけますか。

山岸:暮らし方を提案するインテリアショールーム「リンテルノ」 での売上を向上させるための社員教育をお願いしています。

あらためて今、社員教育に向き合っているのは、ブランド代理の物売りになってしまっていることへの危機感そして限界を感じていることが背景にあります

弊社で取り扱っているブランドはどれも魅力的なブランドではありますが、そのブランドの力に頼り切りになってしまっては、これから先ビジネスを続けていけないのではないかという不安感がありました

山岸製作所がこれから売っていかなくてはいけないのは、「暮らし方」そのものと定義しています。

だからこそ、山岸製作所の存在意義や、なぜこのブランドを取り扱うのかということへの言語化を進めておかなければ、その先行き詰ってしまうだろうと思ったのです。

社員だけじゃなく私自身も、その場に参加して議論を進めています。

ーー社員教育として、外部人材である協働プロとの議論の場を設定しているのですね。とてもユニークな取組だと思います。
その議論はどういった形で進めていらっしゃるのですか?

山岸:ショップのリーダーを含めた社員3名と、協働プロの皆さんで、オンライン上で毎週打ち合わせをしています。

議論のイメージを一言で言うならば、魚をもらうのではなく魚の釣り方を教えてもらっている、といった感じでしょうか。考え方のヒントや、議論のサポートは手厚くしてくださいますが、結論はあくまで私達自身が言葉にしなくてはなりません。

 毎回、「お客様はなぜ山岸製作所に家具を買いに来るのだろうか」といった議題や課題を設定してもらい、そこに対する参加者の考えを深めています。

協働プロに壁打ち相手になってもらい、互いに議論を繰り返していくことで、目先のWHAT(何に取り組むか)ではなく、根本にあるWHY(なぜそれが必要か、なぜそれをやるのか)を徹底的に言語化しています。

そうして言語化されたWHYからもう一度、事業を捉え直し、新たなマネタイズモデルや今後の事業の戦略を描いています。

私たち一人ひとりが売っているものは何か、より良い暮らしとは何か。これからの山岸製作所にとって重要な価値観を、自分たちで悩み、意見を交わしながら考えていくことに大きな意義を感じています。

一緒に暗闇を歩いてもらえる勇気こそが一番の価値

ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には以前から興味はありましたか?

山岸:それまでは弊社にも実績はなく、実のところ興味もさほどありませんでした。

もちろん、そういった働き方や取り組み自体は、新聞やテレビのニュースでは見聞きしていました。副業人材のジョブマッチングは、ほとんどが課題解決型の人材提供のモデル。それらはきっと、企業の課題や取り組むべき次のアクションがはっきりしている場合は有効だろうなと思っていました。

弊社の場合は、先ほどお伝えしたように課題が複雑で、試行錯誤中の新しい取り組みだったということもあり、そういったジョブマッチング型の副業人材との取り組みでは成果が挙げられないと思っていました。

ーーだからこそ、協働日本の「伴走支援」の形が山岸さんの課題感にフィットしたんですね。

山岸:そうですね。一緒にひとつのチームになって課題に向き合ってくれる協働日本のスタイルであれば、もしかすると上手くいくかもしれないという期待感がありました。

しかしそれでも、正直初めのうちは不安もありました。これまで形のないものにお金を支払っていくという文化も弊社にはなかったですし。

まして、一般的なコンサルティングでも、請負でもない、新しい「協働」という形の支援をどのように社内に展開、定着させていくのか。本当に効果があるのか。社員からの反応もふくめて、はじめは不安だらけでした。

ーーなるほど。取り組んでいくうちにその不安は解消されましたか?

山岸:はい、解消されたと思います。その証拠に、一緒に取り組んでいくうちに社員の自主性が急激に磨かれているのを実感しました。

協働プロの皆さんには、弊社の社員も交えて、一緒にディスカッションをする時間を作ってもらっています。協働プロから一方的に教わるのではなく、フレームワークに落とすような進め方でもないので、議論の中から社員のアイディアや気づきも出てきます。

人から教えられてその通りにやるのではなく、自分たち自身で考えて、自分たちが体験したことを伝えるのが山岸製作所の価値なんだと、参加する社員が強く実感し大きく変化してくれました。

今では社員が週次の議論を楽しみにしてくれています。「次はこのテーマをディスカッションしたいです!」なんて声も(笑)

協働プロの皆さんに頼り切りになったり、判断を委ねないように私達自身も当事者意識を持つことはとても大切です。それを心がけながらも、親身に伴走してくれるのは心強いですね。

ーー企業や社員の挑戦に伴走する、協働日本らしい支援の形ですね。

山岸:支援をする側にとっては、ある程度の答えを持っておき、すでにあるフレームワークに当てはめて議論を進めていく方が絶対楽なはずなのに。あえて協働日本の皆さんは一緒に暗闇を歩いて模索し、時には遠回りもしてくれる。

だからこそ議論に参加している社員の納得感があるんです。こういった変化は、一般的なコンサルティングや請負では生み出すことができないと思います。

一方で、このような進め方は正直、お互いに勇気のいることだと思います。言い換えれば私は一緒に暗闇を歩いてもらえるその勇気を買っていると言い換えてもいいかもしれません。

多くの経営者は暗闇を歩いているようなものでいつも心の中に不安を抱えています。だからこそ私にとっては、私と同じ熱量で、同じように不安感を持って、恐る恐るでも一緒に歩いてくれることが大きな価値なのです。

「協働」という取り組みを選んだことが間違いではなかったと実感しています。

複業人材の拡がりは、地方の企業にとって追い風に

ーー関わっている協働プロ協働サポーターの印象をお聞かせください。

山岸:協働プロの皆さんがそれぞれ山岸製作所の課題に対して、本当に真剣に向き合ってくれており、正直驚いています。

それぞれ皆さん表情や感受性が豊かなので、真面目な議論も固くならずに和やかな雰囲気で進められています。

素直でオープンに意見をぶつけてくれるので、お互いにいい意味で遠慮なく濃い議論ができていると思います。穿った見方や、押さえつけるような言い回しをしないので、弊社の社員との議論も安心しておまかせできます。能力はもちろん、人柄が良い人ばかりですね。協働日本は。

ーーお褒めの言葉ばかりで大変恐縮です。
山岸さんはこういった複業人材との取り組みは今後どうなっていくと思いますか?

山岸:今後、ますます広がっていくと思います。

ただ一方で、複業人材の取扱い方を間違って失敗する事業者も増えそうな気もします。

たとえば弊社の場合は、複業人材をコンサルのように使ったり請負業者のように扱わなかったことが、大きな成功要因だったと思います。弊社の課題が複雑で抽象度も高かったのもありますが、課題解決型の人材マッチングの成功イメージが沸きませんでした。

はじめから、様々な経験や知見を持った複業人材を、一緒に課題に向き合っていく仲間として捉えて、共通の課題に取り組んだことが結果として良かったと思います。部分部分で仕事を振って、パートナーに頼りきりになるのではなく、常に自分たちが主語になるような形で取り組みを進めたことで、主体性を持って結果を取り扱うことができるようになりました。

自社に必要なのは、どんな形で関わってくれるパートナーなのか、しっかりと整理した上で取り組みを進めるべきでしょう。

ーー地域企業にとって、複業人材の広がりはどのように映りますか?

山岸:協働日本の協働プロの力を活用して思ったことですが、これまで地方は吸い取られるばかりだと思っていたけれども、こうした取り組みがもっと広がるということは、場所や時間の制限なく、東京や大阪の人材や情報を活用することができるということです。

日本中どこにいても一緒に仕事をするパートナーを見つけることができるというのは、地方の企業にとってはとても追い風になる時代だと思っています。言い換えれば、我々地域の企業の経営者は現状に甘えていられませんね。

協働日本さんもどんどん、全国でこういった協働事例を作っていってください。応援しています。

ーー弊社へのエールもいただきありがとうございます。今日は色々なお話をお伺いできました。

山岸:本日はありがとうございました。

今後、協働日本により多彩な人材が集い、多くのチームが編成され、多様性を広げていく先に、あっと驚くような事例が日本中で生まれていくと信じています。

山岸 晋作 Shinsaku Yamagishi

株式会社山岸製作所 代表取締役社長

1972年、石川県金沢市生まれ。東京理科大学経営工学科で経営効率分析法を学び、卒業後アメリカ・オハイオ州立大学に入学。その後、『プライスウォーターハウスクーパース』に入社。ワシントンD.C.オフィスに勤務。2002年、東京オフィスに転勤。2004年、金沢に戻り、『株式会社山岸製作所』(創業は1963年。オフィスや家庭の家具販売、店舗・オフィスなどの空間設計を手がける)に入社。2010年、代表取締役に就任。

協働日本事業については こちら

本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 -「事業づくり」と「人づくり」の両輪-

VOICE:協働日本 枦木優希氏 -本質的な「価値」を言語化し、歴史ある老舗企業の未来に貢献していく-

VOICE:協働日本 横町暢洋氏 – 二足の草鞋を本気で履いて生み出した変化と自信 – | KYODO NIPPON