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NEWS:鹿児島で令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会を開催しました

2025年2月17日、協働日本は鹿児島県の天文館にあるコワーキングスペース「HITTOBE」にて、令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」の最終報告会を開催しました。約7ヶ月にわたり地域企業と取り組んできた成果を発表し、現地の熱気と気づきに満ちた一日となりました。

【報告会の様子はこちら(動画で見る)】

協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会より

【登壇企業・参加企業の取り組みと成果】

株式会社エルム(宇宙関連市場への挑戦)

・衛星地上局の認知拡大を目指し、展示会やSNS戦略を展開

・SNSフォロワー数が7ヶ月で40倍に

・約2,000万円の受注、2億円超の見積成果を創出

株式会社1129(経産牛のブランド化)

・厚切りステーキキット開発でBtoC市場へ新規参入

・ハロウィン販促で前年比5倍の販売実績

・新事業としてビーフジャーキー事業を展開

株式会社第一塗料商会(BtoC塗装サービス拡大)

・個人向け塗装ブランド「塗屋本舗」を展開

・ターゲット層の明確化とSNS活用により反響拡大

・有償案件を短期間で10件受注、4ヶ月で3,300万円の売上

有限会社鹿児島ラーメン(DXによる経営改革)

・日次報告のデジタル化、業務可視化で組織力向上

・顧客アンケート起点の商品開発で人気メニュー創出

・スタッフ主導での改善が進み、持続成長の基盤を構築

報告会では、参加企業同士や行政関係者との情報交換も活発に行われ、協働を通じた学びとつながりが新たなチャレンジへの一歩となりました。

協働日本公式noteでも、当日の様子をご紹介しております

『鹿児島発 協働の最前線!鹿児島県新産業創出ネットワーク事業 最終報告会2025』

https://note.com/kyodonippon/n/n82a9d…

本事業にご協力いただいた事業者の皆さま、鹿児島県庁ならびに鹿児島産業支援センターの皆さまに、心より感謝申し上げます。

今後も協働日本は、地域に熱を届ける「協働」の取り組みに力を注いでまいります。

協働日本は、地域企業の挑戦に伴走するパートナーとして、最適なプロ人材チームで事業推進を支援しています。

事例紹介や支援のご相談は [お問い合わせページ] よりお気軽にご連絡ください。

Email:ippo@kyodonippon.work

STORY:有限会社鹿児島ラーメン 西 洋平 氏 -DX化と組織開発に取り組み、成功循環モデルで利益目標達成へ-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、有限会社鹿児島ラーメンの代表取締役西 洋平氏にお越しいただきました。

鹿児島ラーメンは1960年に創業し、鹿児島県内で4店舗を運営する老舗のラーメン店です。みよし家の屋号で親しまれ、代々受け継がれた伝統の味を守りながらも、EC事業や卸売など店舗外での展開にも挑戦しています。

3代目として事業を承継した西氏。組織運営の面で新たな課題に直面し、協働日本とともに組織改革に取り組むことを決意したそうです。

インタビューでは、協働プロジェクトを通じて得られた気づきや成果、今後の展望についてお話を伺いました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


強みを磨き、飲食業の常識を覆すような新価値を生み出したかった

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

西 洋平氏(以下、西): よろしくお願いいたします。

鹿児島県内の飲食業界のネットワークがきっかけです。出水田食堂の出水田さんから「面白い人たちが事業者さんの支援をしているよ」と紹介していただきました。

出水田食堂さんが、県の事業で協働日本とユニークな取り組みをしていることはSNSなどを通じて知っていたので、最初は軽い気持ちでお話を聞いていたんですが、協働日本代表の村松さんと何度かお話しするうちに、今まさに向き合っている課題に、協働日本さんの伴走支援がピッタリはまるんじゃないかと思うようになりました。

ーー最初は、協働日本の取り組みに対してどのような印象をお持ちだったのでしょうか?

西: 協働日本が鹿児島県と取り組んでいる事業は「新産業創出」というテーマだと聞いていたので、いわゆる0→1の新規事業に取り組むというイメージを持っていたので、正直なところ、最初は『うちには関係ない話かな』と感じていたんです。
しかし、会話の中で「新産業」というのは単にゼロから新しい事業を立ち上げることではなく、今あるビジネスを時代に合わせて進化させることも含まれると分かったんです。

それならば、鹿児島ラーメンでも、脱アナログ・DXや、強みをフォーカスするためにアウトソーシングなどに取り組むことで、今までの飲食業の常識を覆す新たな価値を生み出せるのではないかと思うようになりました。

さらに、協働プロジェクトのテーマは協働チームの中で話し合いながら設定していけると聞き、躊躇しているよりもまずは、挑戦してみたいと思いました。今年度も募集されていた県の支援事業の仕組みを通じて取り組みがスタートしました。

見えてきた「組織の土台」を強化する必要性

ーー実際にプロジェクトが始まってからは、どのような取り組みを進めているのでしょうか?

西: 協働日本の協働プロとして藤村昌平さん、横町暢洋さん、花澤雄一さん、協働サポーターとして先山毅さんに伴走していただいています。

取り組みを始めた当初は、業務のスリム化やオペレーションの見直しをテーマにしていました。しかし実際にプロジェクトが進むにつれて、根本的な課題である「組織としての基盤が整いきっていない」ことが浮き彫りとなり、気がつくと、取り組みの方向性も自然と変わっていったんですよね。

ーー「組織としての基盤」とは、例えばどのような課題感があったのでしょうか?

西: 例えば、私が現場に指示を出しても現場に指示が伝わりきらず、「聞いていなかった」と言ってスタッフが行動に移せていなかったことがありました。せっかく新たな掲示物を作っても見られずに終わってしまっていたりと、情報伝達の仕組みがうまく機能していませんでした。そういった課題をふまえて、業務のスリム化やオペレーションの見直しに取り組み、組織としての情報共有レベルを上げていきたいと考えていたのです。

取り組みがスタートし、協働日本の協働プロの藤村さんへさっそく現状を踏まえて相談したところ、「レベルアップ以前に、まずは組織の土台づくりに改めて向き合い直すべきではないか」というご指摘をいただいたんです。情報伝達の具体的なハウツーを学んで導入しようと思って質問していただけに、その返答には、正直驚かされました。


ただ思い返してみると確かに、組織としての土台が整っていない状態でルールや指示を通そうとすると、どうしても昔ながらのトップダウン経営になってしまいますよね。
今一度、組織としてのチェックポイントや管理体制など、改善のための受け皿となる基礎を作り、その上で再構築やスリム化の議論を進めていく必要があることに気づく機会になりました。最終的には、組織力強化とオペレーションの見直し、この2つに絞って取り組むことになりました。

ーーなるほど。具体的なお取り組みについてもお伺いできますか?

西: まずは、管理業務の見直しに着手しました。課題管理にはNotionを、数値管理にはスプレッドシートをそれぞれ導入しています。

これまでは店舗ごとにLINEなどのメッセンジャーアプリで数値報告を行っていましたが、日次の売上やFLコスト(食材費+人件費)をスプレッドシートで可視化できるようにと、協働日本の中でも特にデジタル活用に強い協働プロの横町さんにサポートいただきました。その結果、店舗ごとの状況をリアルタイムで把握できるようになり、業績改善に向けた具体的なアクションを取りやすくなっています。

また同時に、現場の声を拾う仕組みづくりにも取り組みました。店舗ミーティングを導入し、トップダウンではなく現場の意見を反映できる環境を整備。これにより、店舗ごとの課題がより明確になり、スタッフ自身が改善に向けて自ら考える機会も増え、組織力の強化が進んでいます。

現場の声を丁寧に拾っていく中で、スタッフ主導でお客様アンケートも実施されました。そこから誕生した新メニューは、1,300円という高単価にもかかわらず、いきなり人気商品となり、売上にも大きく貢献しました。こうした現場発のアイディアが成果に結びつき、組織力が確かに高まってきていると感じています。

組織力だけでなく、働くスタッフ自身も活性化。成果を生み出せる組織の基盤が強化された

ーー色々な角度でのお取り組みが進んでいるのですね。

西: はい。管理業務の見直し・DX化と、組織開発というこれまで別々のものとして捉えていた二つのテーマに、協働日本さんのサポートを得ながら同時並行で取り組んだことがよかったのだと思います。

例えばこれまで予算比で毎月10%以上の乖離が出ていた店舗ごとの利益目標も、ここ最近では大きく改善しています。取り組みが始まってからの3ヶ月で大幅に改善されてきていて、あと1〜2%で当初目標にしていた利益目標に届くペースです。これは正直、自分でもびっくりするぐらいの成果でしたね。

店舗の状況を可視化できるよう数値管理の仕方を一から見直し、店舗のKPIを明確にしたことにより、リーダー陣の目標が明確になり意識も高まったことが大きかったと思います。

組織力を見直す取り組みと同時に、一歩先を見据えた、スタッフ同士のコミュニケーションの質の改善にも取り組んできました。

会社が大切にしている「ありがとうを伝える文化」を作るため、LINE上で「ありがとうグループ」を作りました。「これだけで?」と思われるかもしれませんが、日々の業務の中で「助かった!」と思うことを可視化することでお互いに助け合うシーンが増え、職場の雰囲気が以前よりも明るくなってきたんです。

普段から感謝し合える関係ができたからこそ、みんなで率直に意見を言い合えるようになったんだと思います。それが、業務改善や店舗運営の効率化にもつながったんですよね。

ーースタッフ同士が指摘をし合える関係構築ができたというのは素晴らしいですね。

西: はい、ただ本音を少し話すと実は、私自らがスタッフに対して距離を置いてしまっていた部分もあったのかもしれません。変化を求めて具体的、本質的な指摘をしてしまうと、スタッフの退職に繋がってしまうのではないかということを恐れていました。

私自身は鹿児島ラーメンを継ぐ前に、東京でIT企業に勤めていました。IT業界は人材の流動性がとても高いこともあり、入退社、転職なども当たり前の世界。組織が変化する時には一定の社員はどうしても「辞めていってしまうもの」と思い込んでいた部分もありました。

実際、鹿児島に戻って家業を継いだ時も、ベテラン社員7名が引退し、一時は人手不足に悩まされました。鹿児島ラーメンが好きで長年頑張ってきてくれていたベテランの方も多く、彼らのおかげでこれまで鹿児島ラーメンは地元で愛され続けてきました。そんな方達が、ネガティブな理由で辞めるような環境にはしたくないという思いから、どこかで大胆な改革を躊躇していた自分がいたのも事実です。

ーー西社長ご自身の中にも葛藤があり、なかなか改革の一歩を踏み出せなかったのですね。

西: はい。それでも年月が経ち、徐々に引退される方も増えてきた中で改革の一歩を踏み出しました。

長年のやり方や考え方をいきなり変えるのは大変です。指摘を素直に受け止めるのもすぐには難しいかもしれません。それでも、日頃お互いに「ありがとう」を言い合えていると受け止める方も感じ方が変わると思うんです。
「普段から仕事を見てくれて、そして感謝してもらえている。自分自身も感謝しているしな」と思ってもらえたら、会社を良くしたいと思って伝えた指摘や、これまでのやり方を変えていくということも受け止めやすいですよね。

実際、LINEの「ありがとうグループ」で「これをしてもらえたら助かった」といった感謝の言葉が可視化されたことで、キッチンとホールのスタッフの相互理解が進みました。
ホールが忙しい時にはキッチンのスタッフがサポートに入り、出来上がったラーメンをお客様に配膳するように動くなど、感謝の仕組みが現場組織の形を少しずつ変えてきています。

関係の質が高まれば、結果も自然と良くなる——それが組織の成功循環モデルだと考えています。この良いサイクルを、これからも続けていきたいですね。

ーー先ほど、利益目標の達成も目前に迫ってきているというお話がありました。ここから目指すところについてもお伺いできますか?

西: はい。利益目標の達成のためには、売上向上とコストカットの2軸の施策が必要です。

人件費の最適化も進めていこうと考えており、月に約200万円下げることを1つの目標にしています。現状では、150万円まで下げることができるようになっているので、ここからの1〜2ヶ月で達成に向けてスタッフと相談して取り組んでいきたい部分です。

ーー人件費だけで150万円のコストカットというのはインパクトが大きいように見えますね。

西:人件費の削減というと、単に人を減らすという方向で見られがちですがそうではありません。

常々弊社のリーダー陣には、人件費のカットは、個々の給料を下げることではなく、店舗運営の作業をひとつひとつ見直し、減らしていくことを意味するのだと伝えてきました。

今回の伴走期間にカットできた費用に関しても、取り組みの中で実施したメニューの変更や業務のスリム化が影響している面が大きいです。人件費を減らすと言っても、貢献した人の給料にはきちんと反映させるというこれまでの方針を変えることはありません。

スタッフのみんなと私の信頼関係、スタッフ同士の信頼関係。成功循環モデルのサイクルを回していくことで、店舗で提供するサービスのクオリティ向上と利益目標の達成を目指しています。

対等な関係だからこそもらえる率直な意見と壁打ちで、視野が拓けていく

ーー協働日本のような社外プロ人材との取り組みについて、これまでご興味はおありでしたか?実際に取り組んでみて、どのようなことを感じたかお伺いできますか?

西: そうですね、社外のプロ人材との取り組みには元々興味がありました。

以前、霧島市の実施していたワーケーションの取り組みの中で東京の大企業の方に壁打ちをしていただいたことがあったのですが、対話を通じてどんどん自分の思考が整理された感覚がありました。その時の印象もあり、ぜひ自社でも積極的に活用したいと考えていたので、今回鹿児島県の取り組みを通じて支援を得られたことはありがたかったです。

はじめ短時間の関わりでどれだけの成果が出せるのか、不安がなかったかというと嘘になります。
しかし、結果として協働日本さんと一緒に取り組めて本当に良かったと思います。一つ一つ施策を実行できたこともそうですが、経営者にとって信頼できる「壁打ち」役がいることがこんなにありがたいとは思いませんでした。

私が取り留めなく話したことについても、あらゆる角度から、まとまったフィードバックを返していただいたおかげで、思考を整理できました。

ーー特に印象的だったことはありますか?

西:先ほどもお話しましたが、組織力を向上したいと藤村さんに相談した時に「そもそもまだ、組織になっていないですね」とズバッと指摘いただいた時ですね(笑)

ずっと、スタッフに対して「言ってもやらない」と思っていたのですが、実際には「受け皿がないから伝わっていない」だけだという、自分では想定できなかった“一歩前の部分”に気づくことができました。

私にとってはまさにコロンブスの卵で、組織というものの捉え方や、向き合い方が変わりました。率直にいただいたご意見で、根本的な部分に気づけたことそのものも、プロジェクトの大きな成果だったと思います。

ーー今後、社外のプロ人材との取り組みは進んでいくと思われますか?

西:そうですね、広がっていくと考えています。

特に地方には、ビジョンは大きいものの、社内に仲間が少なく会社の軸を定めきれないベンチャー企業や、しがらみが大きく社内改革を断行しにくい後継者も多くいると感じています。

彼らにとって大きな助けになると感じています。実際、すでに協働日本をご紹介した経営者仲間もいます。

事業承継や起業で、いきなり経営を始める方のそばで寄り添いながら、「こんな道もありますよ」とそっと示してくれる協働日本や協働プロの皆さんの存在は、本当に心強いものだと感じています。

ーー最後に、協働日本へのメッセージと、今後の展望についてお聞かせください。

西: 協働日本には多様な専門性を持った方々が既にたくさんいらっしゃり、これからさらに多くのプロフェッショナルが参画されると思います。特に地方においてこれらのプロフェッショナルと協業できることは非常に大きな価値だと思います。

先日、鹿児島県新産業創出ネットワーク事業の報告会で、別の企業の伴走に入られていた協働プロの方達ともお会いし、お話することができ、新しい事業アイディアも生まれました。

今後も協働プロの皆さんと直接意見交換できる場や、リアルな学びの場が広がっていくことを期待しています。またいつかご一緒できるよう、引き続き自社も成長させていきます。本当にありがとうございました。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

西: ありがとうございました。



協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
有限会社鹿児島ラーメン様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。


西 洋平 / Yohei Nishi

有限会社鹿児島ラーメン 代表取締役
1982年生まれ、鹿児島県霧島市福山町出身。修学館高校を卒業後、上智大学大学院で修士号を取得。ABeam Consultingに入社し、経営戦略・DX推進に従事した後、家業である鹿児島ラーメンを継承。伝統の味を守りながら、DX化や組織改革を推進し、飲食業界の革新に挑戦している。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社エルム – 技術者が営業に挑戦!顧客の声を活かし、宇宙事業の問い合わせが10倍、売上2倍を達成 –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社エルムの和田健吾氏・オバッグ ジョン セドリック氏・田畑章子氏に、協働プロジェクトを通じた営業・広報の変革とその成果、今後の展望について伺いました。

1980年、鹿児島県南さつま市で創業した電子機械器具開発メーカー・株式会社エルム。CD・DVD修復装置で世界シェア90%を誇り、近年は自動化・省力化機器、宇宙関連、特殊照明、環境エネルギーといった幅広い分野で技術開発を進めています。

しかし、主力商品の ディスク修復機市場が縮小 する中で、新たな柱として「宇宙関連事業」に注力。しかし、高い技術力を持つ一方で、「営業・マーケティングの知見不足」「市場における認知度の低さ」という大きな課題 を抱えていました。
この課題を克服するため、協働日本との連携による営業・広報戦略の抜本的な見直し を開始。その結果、たった7か月で 売上は前年比2倍、SNSフォロワーは40倍、見積もり総額は約2億円 という驚異的な成長を遂げました。

協働日本と宇宙関連事業の成長戦略を共に模索。協働プロジェクトを通じて得られた気づきや成果、今後の展望について語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


宇宙関連事業で大きな成功事例を生み出したい

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは協働日本との出会いや、スタートしたきっかけについて教えてください。

和田健吾氏(以下、和田): よろしくお願いいたします。当社は長年、CD・DVD修復機の製造・販売を主軸にしてきましたが、近年のネット配信の普及により、ディスクメディアの需要が大きく減少しており、新たな事業の柱を模索する必要がありました。

このまま市場の変化に対応せずにいると事業全体の成長も停滞してしまうのではないかという危機感を持つようになる中で、複数ある事業のうち、次の柱となる事業の候補として、「宇宙関連事業」に取り組むことになりました。

ーー宇宙関連事業には以前から取り組まれていたのでしょうか?

田畑章子氏(以下、田畑):宇宙関連事業には 1983年から参入 し、特に地上局(人工衛星の追尾装置) の開発を手掛けてきました。特に、地上局と呼ばれる衛星追尾装置の設計・製造に長い歴史があります。

元々、鹿児島県にはロケットの射場が2つあり、県内の大学でも天文分野や宇宙関連の研究が多くなされています。実は、当社の創業者の一人である、現相談役(宮原 照昌氏)が、昔からとても天体が好きで、南さつま市にある天文台で天文観察会を開くほどでした。

そんな相談役の個人的な繋がりの中から開発依頼を受けて製品を作り始めたことがきっかけでした。しかし、開発が始まった経緯から、これまでの販売はほとんどが口コミやご紹介で、積極的な営業活動を行えていませんでした。

Obag John Cedric氏(以下、オバッグ): 私を始め、社員の7割以上は技術者。開発には自信があるものの、マーケティングやブランディングのノウハウが不足していました。その結果、市場のポテンシャルはあるのに売上が伸び悩む という課題に直面していたのです。

和田: そのような状況ですから、どうしても年度によって売上には大きな波がありました。どうにかしたくても、社内では如何ともしがたい……そんな折に鹿児島県内でも多くの事業者支援を行っている協働日本の存在を知りました。

マーケティングに強みを持つ協働プロの皆さんと取り組むことで「これを機に、事業戦略を根本から見直したい」と考え県の事業に応募しました。まずは宇宙関連事業でマーケティングの成功事例を作っていきたい、その思いでスタートした協働プロジェクトでした。

人工衛星自動追尾装置(株式会社エルムHPより)

「売上の安定化」と「認知度向上」を目指し、営業・広報戦略を刷新

ーー実際に伴走支援がスタートしてからは、どのようなプロジェクトを進めているのでしょうか?

オバッグ:まず、協働日本から若山幹晴さん、国府田祐希さん、高山真宣さんの3名、そして当社から私たち3名がチームを組み、売上の安定化と認知度向上 をテーマにプロジェクトを開始しました。

最初に取り組んだのは、自社の付加価値と課題の明確化 です。これまで当社の販路は口コミが中心で、宇宙関連の企業やユーザーへの認知度が極めて低い ことが浮き彫りになりました。

実際、エルムの製品は大学や企業に数多く納品されているにもかかわらず、ユーザーの多くはエルムの存在すら知らなかった のです。さらに、社員の70%以上が技術者 であるため、営業・広報の専門知識が不足し、マーケティング戦略がほとんど確立されていませんでした。」

そこで、まず自社製品の強みと市場での差別化ポイント を整理しました。エルムの製品は、ベースモデルにオプションを追加し、ユーザーの仕様にカスタマイズできる柔軟性 が大きな特徴です。この強みをどう市場に伝え、効果的にアピールするかを議論しました。

ターゲット顧客が明確になったことで、『どうやって情報を届けるか?』という課題について、より具体的な戦略を立てることができました。

田畑:営業・広報戦略について協働プロと議論を重ねてきました。取り組みの中では、ユーザーとの接点を積極的に形成する手段として、展示会や学会への出展にも挑戦しました。

出展するだけではなく、そこでのコミュニケーションについても協働プロにアドバイスをいただいて工夫していきました。ユーザーが一体どんな製品を必要としているのか、どうやって購入してもらえばいいのか……整理した情報を元に製品説明の仕方を見直し、顧客のニーズに合わせたカスタマイズ提案を強化することで、より具体的な商談へとつなげるように工夫をしていったんです。

「技術力を伝える」のではなく「課題を解決する」営業へシフト

オバッグ: 例えば、若山さんのアドバイスを受け、顧客の課題を解決するストーリーを交えた提案に変更しました。『どんな課題に悩んでいるのか』をまず聞き、その上で『この機能で解決できます』と伝えるようにしただけで、商談の反応が大きく変わったのを実感しました。

営業手法を変えたことで、商談の反応が劇的に変化しました。従来は技術仕様を中心に説明していましたが、顧客の課題を引き出し、解決策を提案するスタイルへとシフトしました。

これまで受け身だった営業スタイルを見直し、顧客とのコミュニケーションを積極的に取ることで、課題解決型のアプローチへと移行しました。顧客が何に悩んでいるのかを深くヒアリングし、それに応じた解決策を提示することで、商談の成功率が向上しました。

また、社内の営業チームもこの考え方を取り入れ、より戦略的な営業活動を進めるようになりました。おかげさまで、引き合いが増え、商談で全国を飛び回っています。

ーーありがとうございます。ターゲットとなるユーザーに的確に製品の価値が伝わるようになったのですね。他にもSNS運用を始めたと伺いました。

田畑: SNSの活用による情報発信の強化も一つの挑戦でした。展示会に出展した際に、展示会のWebカタログに製品情報を掲載していただいたところ、そのカタログをきっかけに大企業の方々がブースを訪れてくださったんです。

「製品のことを知ってもらえれば、興味を持ってもらえる」という実感が湧いたのを覚えています。そこで早速「知っていただくきっかけ」としてWebページを作りたいと考えたのですが、一からページを作るのは時間がかかるのでまずはSNSから運用を開始することになりました。

これまで公式SNSはほとんど活用していませんでしたが、協働プロの皆さんからのアドバイスも受けて積極的に運用を開始したところ、それまで数十人だったXのフォロワー数がわずか数ヶ月で40倍以上に増加しました。Xでは、様々な媒体で製品を取り上げていただいたことをお知らせする他、日常の様子の話もするなど、とにかく 「いいね」をいただいてタイムラインに表示される回数を増やしていく取り組みを進めています。

おかげさまで新規顧客との接点を強化できました。4月にはいよいよWebサイトも完成するので、引き続き当社の技術力や製品のことをPRできるよう、発信を強化していきたいと考えています。

「待ちの営業」から「攻めの営業」へ

ーー営業と発信の強化を進めてこられた中で、生まれた成果をお伺いできますか?

オバッグ: ターゲット顧客との直接接点を増やすため、積極的に展示会や学会へ出展しました。北海道から福岡まで全国各地で商談を行い、新規取引先を開拓。従来はオンライン中心だった営業活動を大幅に強化し、顧客の生の声を聞くことで、製品への関心度が大きく向上しました。

これまでは『技術的にすごいですね』と関心を持たれるものの、具体的な案件につながることは少なかったんです。しかし、今回の展示では 『ぜひ導入したい』『こういう課題があるが対応できますか?』といった具体的な相談が相次ぎ、昨年度の宇宙関連事業の受注金額は7か月で約2千万円に到達しました

売上には年によって波がありましたが、昨年度は前年比で2倍に成長。特に、展示会での商談や既存顧客との接点強化が、大きな要因となりました。

さらに引き合いのあった案件は10件以上、提出した見積総額は約2億円となっています。

エルムの技術力と製品の特長が明確になり、ターゲット市場への認知度が大幅に向上しつつあります。展示会やSNSを通じて『エルムといえば宇宙』というブランドイメージをより確立していきたいですね。

令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」の最終報告会ではオバッグ氏が登壇

ーー素晴らしい成果ですね。これまで営業やマーケティングを経験したことがなかったというお話でしたが、そういった観点でもご自身で感じる変化はありましたか?

オバッグ:そうですね。最初は、協働日本の皆さんに教わる“先生と生徒”のような関係を想像していました。

しかし、実際にはアドバイスを受けながら、自分たちで考え、実践し、試行錯誤するワンチームのような形 で取り組んでいました。その中で、『答えをもらう』のではなく、『ヒントを得ながら自ら問題を解決していく』というスタイルを学べたことは、私にとって大きな成長でした。

和田:オバッグはとても真面目で、商談前には『何を話すべきか』をしっかり考えて臨むタイプです。でもある時、協働日本の国府田さんに 『商談の8割は、お客様が話す時間にしたほうがいい』 とアドバイスをもらったんです。その言葉を聞いて、オバッグの考え方が大きく変わったように思います。

オバッグ:はい、それを聞いた時は衝撃でしたね。これまでは、『製品の良さをどう伝えるか?』ばかり考えていました。でも、お客様が本当に求めているのは、“良い製品” ではなく “自分たちの課題を解決する手段” なんですよね。商談では、まずお客様の悩みや課題をじっくり聞くことが大切で、その上で適切な解決策を提案するべきなんだと気づかされました。

この気づきと並行して、私は鹿児島県が主催する『社内中核人材育成セミナー』にも参加していました。そこで、協働日本の代表・村松さんが話していた 『伝えると伝わるの違い』 の話が、とても印象に残っています。

どんなに優れた技術や製品でも、『伝える』だけでは意味がない。お客様にとって本当に必要な情報として 『伝わる』形にしないと、心に響かない んです。この考え方を知ってから、商談の場でも、お客様の視点に立って説明することを強く意識するようになりました。

もう一つ、協働日本の若山さんからの言葉も印象に残っています。「それは本当にお客様のニーズなのか? もっと深く分析・検討する必要がある」という言葉です。

この言葉を聞いた時、ハッとしました。技術者として製品を開発していると、どうしても『お客様はこんな機能が欲しいだろう』と 自分たちの視点で考えてしまうバイアス がかかる。でも、実際にお客様と話すと、予想とは全く異なるニーズを持っていることが多いんです。

やはり、開発の段階からお客様と密にコミュニケーションを取り、リアルなニーズを捉えながら製品を作ることが、本当に価値のあるものを提供するために必要なんだと実感しました。

こうした学びを重ねるうちに、営業やマーケティングに対する意識が大きく変わっていきました。最初は『営業とは製品を売ること』だと思っていましたが、今では「営業とは、お客様の悩みを知り、解決策を一緒に考えること」だと考えています。

協働日本の皆さんからいただいたアドバイスを実践することで、少しずつですが、コミュニケーションの取り方やその重要性が自分の中で腹落ち していきました。

企業の成長が、日本全体の活性化につながる

ーー複業人材との取り組みを通じて、率直にどのように感じられましたか?

和田:正直に言うと、最初は不安がありました。今回担当頂いた協働プロチームの皆さんは、主にBtoC分野で活躍されてきたプロフェッショナルが多い印象でした。

一方で、当社の宇宙関連事業はBtoBの中でも非常にニッチな領域。本当にターゲットにアプローチできるのだろうか?この業界で成果を出せるのだろうか? という懸念がありました。

しかし、実際にプロジェクトが進む中で、「分野が違っても、プロの視点は本質を捉える」 ということを痛感しました。協働日本の皆さんが、事業の本質を見極め、的確な戦略を提示してくださったおかげで、当初の不安は完全に払拭されました。むしろ、自社だけでは気づけなかった視点を得ることができ、ここまでの成果を出せたことにとても感謝しています。」

田畑:「まさに “引き出してもらえた” という感覚です。最初は、コンサルティングというと指示に従って進めるものというイメージを持っていました。
しかし、実際には、協働日本の皆さんが私たちの考えを引き出しながら、「どうしたいのか?」「何を実現したいのか?」 を共に考え、方向性を一緒に見つけるプロセスでした。

例えば、様々な成功事例や具体的な手法を提示していただきながら、それを自社にどう活かせるかを議論する ことで、私たち自身の考えを深めることができました。
中小企業はどうしても短期的な成果を求めがちですが、今回の伴走支援を通じて、「立ち止まって考え、長期的な視点で戦略を練ることの重要性」 に改めて気づかされました。」

和田: このプロジェクトを通じて実感したのは、協働日本の取り組みは、特定の業種に限定されるものではない ということです。大事なのは “自ら動く意志” ですね。

自ら考え、素直に取り組める企業であれば、どんな業種であっても成果を出せるのではないかと感じました。

実際に、当社でもオバッグがこのプロジェクトと並行して 社内中核人材育成セミナー を受講し、学びをクロスオーバーさせながら成長し、成果につなげてくれました。こうした実践の積み重ねが、企業の成長には不可欠なのだと改めて実感しました。

ーーそれでは最後に、協働日本へのエールも込めて一言メッセージをお願いします。

田畑: 日本の企業の 99%以上は中小企業 ですが、大企業と中小企業の間にはまだまだ大きな壁があります。

今回、協働日本の皆さんとご一緒することで、大企業が持つ貴重な知見を中小企業に還元することが、日本全体の活性化につながる ということを強く感じました。
中小企業側からのフィードバックを通じて、大企業の事業にも新たな視点を提供できるような、双方向の循環が生まれると理想的ですね。
このような好循環をもっと広げていくためにも、ぜひ今後も活躍を続けていただきたいです。

和田: プロジェクトを通じて、当初の期待以上の成果を感じていますし、何よりも 認知度向上という最低限の目標はしっかり達成できた という手応えがあります。

しかし、協働の取り組みはここで終わりではなく、むしろ これからが本番 です。伴走支援が終わった後も、私たち自身が成長を続け、その姿を示すことが、協働日本の皆さんへの最大の恩返し だと考えています。
これからも、この 「協働の輪」 を広げ、win-winの関係を築く企業が増えていくこと を願っています

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

和田・田畑・オバッグ: ありがとうございました。

協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
株式会社エルム様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。

和田 健吾 / Kengo Wada

1978年生まれ、鹿児島県霧島市出身。機構設計エンジニア。

株式会社エルム 取締役 第2開発部部長

大学卒業後、エンジニアとして関東圏で経験を積み、2007年に故郷である鹿児島にUターンしてエルムに中途入社。

2024年に福岡に本社を構える株式会社マイクロラボのM&Aを実施し、同年1月から同社代表取締役も兼務。

ジョン セドリック V. オバッグ / John Cedric V. Obag

1983年生まれ、フィリピン・マニラ出身。機構設計エンジニア。

株式会社エルム 宇宙関連事業 プロジェクトリーダー

小さいころからモノづくりをするのが大好きで、絵を描いたり、レゴやガラクタで何かを作ったりするのが子供の時の過ごし方でした。

高校時代に「モノづくりの国」日本を知り、私の夢、今まで世にない「モノ」を生み出すことを実現させるために、大学卒業後すぐに来日しました。

10年前に愛妻の出身地である鹿児島に引っ越してきて、エルムで機構設計エンジニアとして働いています。

田畑 章子 / Shoko Tabata

1975年生まれ、鹿児島県枕崎市出身。営業支援担当。

株式会社エルム BI事業部 事業支援グループ係長

株式会社大塚家具で大阪・北九州・東京・法人営業部勤務後、三菱地所株式会社にて新丸ビルプロジェクトを経て、鹿児島にUターン。

エルムの存在を知って面白そうだと思い入社。営業、品質保証、栽培試験を経て現職。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:栄電社 川路博文氏 -『焼酎粕』を新たな地域資源に。”四方良し”の発想でサステナブルな地域産業へ-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

協働日本は、鹿児島県および鹿児島産業支援センターの令和4年度の「新産業創出ネットワーク事業」を受託しており、2/17(金)に取り組み企業数社をお招きし、報告会を鹿児島県庁にて行いました。

当日は取り組み企業の一社、株式会社栄電社の、バイオ環境事業部マネージャー川路博文氏に、発表会へお越しいただき、約半年間の協働の取り組みと成果を発表頂きました。

株式会社栄電社は、「技術で社会に貢献し、お客様からの信頼によって会社を発展させる」をミッションに、人々の暮らしや産業になくてはならない「電気」が、確実に、安全に、効率よく送電され運用されるシステムの運営を支えている総合電気エンジニアリング会社です。

昨今では、時代の要求でもある「新エネルギー開発」や、「バイオ環境事業」を通じて、SDGsにも積極的に取組んでいます。

そんな「バイオ環境事業」において、川路氏は焼酎粕を活用したサステナブルな地域産業の活性化に挑戦されています。地元鹿児島県の名産でもある焼酎を蒸留する過程でできる焼酎粕。強い粘性があり取扱いしにくく腐敗しやすいという特徴から、再利用が難しい産業廃棄物になりがちでした。

栄電社では、この焼酎粕の機能性成分に注目し、加工することで保存性・取扱性を向上させた焼酎粕乳酸発酵液(以下、SPL液)の製造を実現。協働日本との取り組みを通じて、この「SPL液」の活用による地元産業の活性化を図っています。なお、このSPL液はその後「CASパワー」と名付けられ、現在はこの名称で事業化が進められています。

今回は事前インタビューでお伺いした内容を含め、川路さんにお話しいただいた協働日本との取り組みを通じて生まれた変化や、今後の事業展望への想いなどをご紹介します。

(取材・文=郡司弘明)

廃棄物ゼロを目指して。持続可能な資源の循環を生み出し、鹿児島県の産業全体へ貢献したい

ーー協働日本と勧めている「焼酎粕を新たな地域資源として活用する」プロジェクトについて

まず初めに、なぜ私たちがこの焼酎粕の活用に着目したかについてお話しします。健康にも良い食品として知られる「酒粕」は日本酒の製造過程で出るものであることはよく知られていると思います。

「焼酎粕」も焼酎を蒸留する過程で出てくるものです。そして酒粕と同様に、たんぱく質、ビタミン類、ミネラル類などさまざまな栄養成分が含まれているんです。

ただ、酒粕と違う点として、焼酎粕は粘性が強い液体で取扱いにくい上に腐りやすいという特徴があり、再利用がとても難しいんです。さらに、出来上がり量よりも発生量が少なくなる酒粕と違って、出来上がりの焼酎の約2倍もの量が発生します。年間20万t以上も廃棄されることがあり、当然コストも嵩んでしまう。

そこで、なんとかこの焼酎粕を活用できないかと考え、鹿児島の基幹焼酎メーカーさん、様々な大学機関と連携して2017年から研究開発を始めました。

今までの焼酎粕の処理法というのはメタン発酵により一部をガス燃料にしたり、農地に肥料として撒いたりすることが多く、あくまでも産業廃棄物の処分という考え方でした。私たちは、この焼酎粕を産業廃棄物ではない「地域資源」として活用できないかと考えたんです。

せっかくならば地元産業の廃棄物を新たな「地域資源」に生まれ変わらせて、同じく地域産業で活用してもらえるような形…鹿児島県の地域産業全体に貢献できるような形にしたいという想いを持って事業がスタートしました。

そして研究開発を進める中で、焼酎粕を乳酸菌発酵させて保存性や取扱性、有効成分が強化された、飼料・肥料として使える「SPL液」が完成しました。焼酎粕の全量を使うことで廃棄物ゼロも実現。特許も取り、実証実験も重ねて、幅広い用途で活用できる効果性も少しずつ判明してきました。いざ焼酎粕の活用の可能性が見えてきたものの、「実証の成果をどのように事業に結び付けていけばいいか、ターゲットをどう絞っていくか」という次の課題が浮かび上がったんです。

ーー協働型の伴走支援開始後の変化や手応えについて

ーー続いて、協働プロと具体的にどのような取り組みをしているかもお聞きしたいと思います。

協働日本の皆さんにはターゲット設定の部分でとても助けていただきました。実証実験の結果では、肉牛・乳牛や養殖魚への飼料利用、水稲への肥料利用など様々なケースにそれぞれ良い結果がでていたので、具体的にターゲットをどこに絞って活用を広げていくかという部分を定められていなかったのですが、協働プロの皆さんと検討を重ねることでターゲットを二つに絞ることができました。

一つは「乳牛」、もう一つは「魚の養殖」です。

鹿児島県の豚の飼育頭数は全国一位、肉用牛は全国二位なので、どうしても私たちは「鹿児島」らしさや、市場の大きさから、豚や肉用牛の飼料として「SPL液」を活用することに目がいっていたんです。

一方で、実証実験の成果としては乳牛の成果の方が大きかった。乳量が上がった・母牛の受胎率が上がったなどの成果が数年にわたる実験の数値データとして出ていたんです。

同時に、乳牛は夏の暑い時期に食い渋りが発生し、乳量が減るという酪農家側の課題も明確にありました。協働プロの方に「せっかく明確な課題と、良い結果が出ているのであれば、ターゲットはここに絞るべきではないか」と指摘していただけたことが新たな気づきになりました。

魚の養殖に関しては、時流の観点からアドバイスをいただきました。実は協働のスタート前には、養殖魚に関する商談はひとつもありませんでした。そんな中で、協働プロの皆様は養殖魚のブランド化に着目した意見をくださったんです。

昨今、水産物に関しては特に、味の差別化やブランド化が進んでいます。例えば、鹿児島県では「安全性・鮮度保持性・美味しさ・栄養性・機能性」などに拘った養殖ブリの「鰤王」、鹿児島県産のお茶を飼料に配合した養殖カンパチ「海の桜勘(おうかん)」などのブランド魚が有名です。

新たな地域資源である「SPL液」を飼料として魚に与えることが、「地域の特産品から発生した焼酎粕を使った魚」というブランディングに繋がるというアイディアが生まれたんです。

このアイディアは外食産業の商社の方から共感を得まして、こちらも現在「SPL液」の製造販売の事業化を進めているところです。今年の秋には、「SPL液を使ったブランド魚」を皆様にお届けすることができるかもしれません!

チームとして向き合う一体感と、多角的な視点から一貫性を持ったアドバイスが社内に新風をもたらす

ーー協働日本との取り組みの中で一番印象的だったことは

新しい気づきや視点で、今まで考えなかった方向に進むことができたことでしょうか。社内の人間だけで検討を重ねると、似た議論が続いたり、考えが凝り固まってしまっていて、どうしても全員同じような方向に向かってしまいます。

先ほどのターゲット設定の話の中でも「鹿児島の地域産業のために」という想いから、対象の多い事業者をターゲットに設定したいと視野が狭くなっていました。そこに協働プロの方が入ってくださったことにより、フィールド試験結果を元にして「より収益化に繋がりやすいもの」というヒントをいただきました。

私たちの収益化にも繋がりやすく、効果も出やすければ、事業も広がりやすいので、結果として「鹿児島の地域産業」に大きく貢献できるわけです。新しい視点によって道が拓けていった感覚が強いです。

コンサルではない、同じチームとして向き合っていただいていることも本当に大きいです。当事者目線でいろんな相談に乗っていただけるので、共に事業を作っていっている実感があります。実際、「SPL液」の販売という課題をテーマに協働がスタートしましたが、販売や収益の視点だけでなく「鹿児島県の地域産業全体に貢献したい」という私たちの本来の想いの実現方法を一緒に考えていただくことができました。

“四方良し”のビジネスモデルで、鹿児島県に更なる飛躍を

ーー今後の展望について

基本的には酒造メーカーさんご自身が製造設備を持って「SPL液」を作っていただき、「SPL液」を畜産・養殖業社の方に直接販売していただくという事業モデルを検討しています。

酒造メーカーさんとしては、自社で「SPL液」を製造することで処理費を軽減できます。実は焼酎の製造期間というのは、毎年9月から11月と非常に短いのです。でも、「SPL液」の製造・販売という業務ができることによって閑散期がなくなり、従業員の方たちを年間を通して活用しやすくなります。当然、「SPL液」の販売による増収を見込むこともできます。

先ほど述べたように、畜産農家さん、水産養殖業の方たちに対しても、「SPL液」を活用していただくことで大きなメリットがあります。「SPL液」の栄養吸収率の良さから、生産コストの削減に繋がります。乳牛であれば、一般的に乳量が減る夏場の牛乳の安定出荷、養殖魚であれば鮮度が長く保てることや、味の良さなど、それぞれの付加価値向上が見込めるんです。

もちろん私たちとしても、提携する事業者が増えることで製造設備の建設という仕事が発生するわけです。

鹿児島の名産品である焼酎から、廃棄物ゼロ、循環型経済を実現し、それが地域の他産業にも活かされていく。全員がWin-Winになる形で地域の活性化が図れると考えています。

こうやって整理してみると、焼酎粕から作った「SPL液」をいかに販売していくかという課題を通じて、本当に私たちがやりたかった「環境問題への取り組みの発信」に辿り着いたことが、協働がスタートしてからの一番の変化のように思います。


編集後記

鹿児島を代表する産業のひとつ「焼酎」から排出される焼酎かすを活用した新事業への取り組みは、発表会に参加した鹿児島県の職員の皆さまのみならず、他の事業者様もペンを走らせながら、興味深く聞いておられました。

報告会終了後に開催した交流会でも、鹿児島県内の地域や業種を超えた繋がりが生まれており、次なる「協働」が誕生する予感が生まれていました。

協働日本の伴走支援中に大手事業者との事業化が決まるなど、既に大きな事業進展が生まれております。

今後も栄電社の技術によって実現した、サーキュラーエコノミーモデルの発展に向けて、今後も協働メンバー一同でお力添えできればと考えております。

株式会社栄電社

昭和53年創業。「技術で社会に貢献し、お客様からの信頼によって会社を発展させる」をミッションとして、人々の暮らしや産業になくてはならない「電気」の供給を支える総合電気エンジニアリング会社。

従来の技術だけでなく、時代の要求でもある新エネルギー開発に関わる新技術の習得や、産学協同研究による高度な技術開発・技術者養成にも積極的に取組んでいる。

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本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら

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