STORY:株式会社エルム – 技術者が営業に挑戦!顧客の声を活かし、宇宙事業の問い合わせが10倍、売上2倍を達成 –
協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。
今回は、株式会社エルムの和田健吾氏・オバッグ ジョン セドリック氏・田畑章子氏に、協働プロジェクトを通じた営業・広報の変革とその成果、今後の展望について伺いました。
1980年、鹿児島県南さつま市で創業した電子機械器具開発メーカー・株式会社エルム。CD・DVD修復装置で世界シェア90%を誇り、近年は自動化・省力化機器、宇宙関連、特殊照明、環境エネルギーといった幅広い分野で技術開発を進めています。
しかし、主力商品の ディスク修復機市場が縮小 する中で、新たな柱として「宇宙関連事業」に注力。しかし、高い技術力を持つ一方で、「営業・マーケティングの知見不足」「市場における認知度の低さ」という大きな課題 を抱えていました。
この課題を克服するため、協働日本との連携による営業・広報戦略の抜本的な見直し を開始。その結果、たった7か月で 売上は前年比2倍、SNSフォロワーは40倍、見積もり総額は約2億円 という驚異的な成長を遂げました。
協働日本と宇宙関連事業の成長戦略を共に模索。協働プロジェクトを通じて得られた気づきや成果、今後の展望について語っていただきました。
(取材・文=郡司弘明、山根好子)

宇宙関連事業で大きな成功事例を生み出したい
ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは協働日本との出会いや、スタートしたきっかけについて教えてください。
和田健吾氏(以下、和田): よろしくお願いいたします。当社は長年、CD・DVD修復機の製造・販売を主軸にしてきましたが、近年のネット配信の普及により、ディスクメディアの需要が大きく減少しており、新たな事業の柱を模索する必要がありました。
このまま市場の変化に対応せずにいると事業全体の成長も停滞してしまうのではないかという危機感を持つようになる中で、複数ある事業のうち、次の柱となる事業の候補として、「宇宙関連事業」に取り組むことになりました。
ーー宇宙関連事業には以前から取り組まれていたのでしょうか?
田畑章子氏(以下、田畑):宇宙関連事業には 1983年から参入 し、特に地上局(人工衛星の追尾装置) の開発を手掛けてきました。特に、地上局と呼ばれる衛星追尾装置の設計・製造に長い歴史があります。
元々、鹿児島県にはロケットの射場が2つあり、県内の大学でも天文分野や宇宙関連の研究が多くなされています。実は、当社の創業者の一人である、現相談役(宮原 照昌氏)が、昔からとても天体が好きで、南さつま市にある天文台で天文観察会を開くほどでした。
そんな相談役の個人的な繋がりの中から開発依頼を受けて製品を作り始めたことがきっかけでした。しかし、開発が始まった経緯から、これまでの販売はほとんどが口コミやご紹介で、積極的な営業活動を行えていませんでした。
Obag John Cedric氏(以下、オバッグ): 私を始め、社員の7割以上は技術者。開発には自信があるものの、マーケティングやブランディングのノウハウが不足していました。その結果、市場のポテンシャルはあるのに売上が伸び悩む という課題に直面していたのです。
和田: そのような状況ですから、どうしても年度によって売上には大きな波がありました。どうにかしたくても、社内では如何ともしがたい……そんな折に鹿児島県内でも多くの事業者支援を行っている協働日本の存在を知りました。
マーケティングに強みを持つ協働プロの皆さんと取り組むことで「これを機に、事業戦略を根本から見直したい」と考え県の事業に応募しました。まずは宇宙関連事業でマーケティングの成功事例を作っていきたい、その思いでスタートした協働プロジェクトでした。

「売上の安定化」と「認知度向上」を目指し、営業・広報戦略を刷新
ーー実際に伴走支援がスタートしてからは、どのようなプロジェクトを進めているのでしょうか?
オバッグ:まず、協働日本から若山幹晴さん、国府田祐希さん、高山真宣さんの3名、そして当社から私たち3名がチームを組み、売上の安定化と認知度向上 をテーマにプロジェクトを開始しました。
最初に取り組んだのは、自社の付加価値と課題の明確化 です。これまで当社の販路は口コミが中心で、宇宙関連の企業やユーザーへの認知度が極めて低い ことが浮き彫りになりました。
実際、エルムの製品は大学や企業に数多く納品されているにもかかわらず、ユーザーの多くはエルムの存在すら知らなかった のです。さらに、社員の70%以上が技術者 であるため、営業・広報の専門知識が不足し、マーケティング戦略がほとんど確立されていませんでした。」
そこで、まず自社製品の強みと市場での差別化ポイント を整理しました。エルムの製品は、ベースモデルにオプションを追加し、ユーザーの仕様にカスタマイズできる柔軟性 が大きな特徴です。この強みをどう市場に伝え、効果的にアピールするかを議論しました。
ターゲット顧客が明確になったことで、『どうやって情報を届けるか?』という課題について、より具体的な戦略を立てることができました。
田畑:営業・広報戦略について協働プロと議論を重ねてきました。取り組みの中では、ユーザーとの接点を積極的に形成する手段として、展示会や学会への出展にも挑戦しました。
出展するだけではなく、そこでのコミュニケーションについても協働プロにアドバイスをいただいて工夫していきました。ユーザーが一体どんな製品を必要としているのか、どうやって購入してもらえばいいのか……整理した情報を元に製品説明の仕方を見直し、顧客のニーズに合わせたカスタマイズ提案を強化することで、より具体的な商談へとつなげるように工夫をしていったんです。
「技術力を伝える」のではなく「課題を解決する」営業へシフト
オバッグ: 例えば、若山さんのアドバイスを受け、顧客の課題を解決するストーリーを交えた提案に変更しました。『どんな課題に悩んでいるのか』をまず聞き、その上で『この機能で解決できます』と伝えるようにしただけで、商談の反応が大きく変わったのを実感しました。
営業手法を変えたことで、商談の反応が劇的に変化しました。従来は技術仕様を中心に説明していましたが、顧客の課題を引き出し、解決策を提案するスタイルへとシフトしました。
これまで受け身だった営業スタイルを見直し、顧客とのコミュニケーションを積極的に取ることで、課題解決型のアプローチへと移行しました。顧客が何に悩んでいるのかを深くヒアリングし、それに応じた解決策を提示することで、商談の成功率が向上しました。
また、社内の営業チームもこの考え方を取り入れ、より戦略的な営業活動を進めるようになりました。おかげさまで、引き合いが増え、商談で全国を飛び回っています。
ーーありがとうございます。ターゲットとなるユーザーに的確に製品の価値が伝わるようになったのですね。他にもSNS運用を始めたと伺いました。
田畑: SNSの活用による情報発信の強化も一つの挑戦でした。展示会に出展した際に、展示会のWebカタログに製品情報を掲載していただいたところ、そのカタログをきっかけに大企業の方々がブースを訪れてくださったんです。
「製品のことを知ってもらえれば、興味を持ってもらえる」という実感が湧いたのを覚えています。そこで早速「知っていただくきっかけ」としてWebページを作りたいと考えたのですが、一からページを作るのは時間がかかるのでまずはSNSから運用を開始することになりました。
これまで公式SNSはほとんど活用していませんでしたが、協働プロの皆さんからのアドバイスも受けて積極的に運用を開始したところ、それまで数十人だったXのフォロワー数がわずか数ヶ月で40倍以上に増加しました。Xでは、様々な媒体で製品を取り上げていただいたことをお知らせする他、日常の様子の話もするなど、とにかく 「いいね」をいただいてタイムラインに表示される回数を増やしていく取り組みを進めています。
おかげさまで新規顧客との接点を強化できました。4月にはいよいよWebサイトも完成するので、引き続き当社の技術力や製品のことをPRできるよう、発信を強化していきたいと考えています。

「待ちの営業」から「攻めの営業」へ
ーー営業と発信の強化を進めてこられた中で、生まれた成果をお伺いできますか?
オバッグ: ターゲット顧客との直接接点を増やすため、積極的に展示会や学会へ出展しました。北海道から福岡まで全国各地で商談を行い、新規取引先を開拓。従来はオンライン中心だった営業活動を大幅に強化し、顧客の生の声を聞くことで、製品への関心度が大きく向上しました。
これまでは『技術的にすごいですね』と関心を持たれるものの、具体的な案件につながることは少なかったんです。しかし、今回の展示では 『ぜひ導入したい』『こういう課題があるが対応できますか?』といった具体的な相談が相次ぎ、昨年度の宇宙関連事業の受注金額は7か月で約2千万円に到達しました。
売上には年によって波がありましたが、昨年度は前年比で2倍に成長。特に、展示会での商談や既存顧客との接点強化が、大きな要因となりました。
さらに引き合いのあった案件は10件以上、提出した見積総額は約2億円となっています。
エルムの技術力と製品の特長が明確になり、ターゲット市場への認知度が大幅に向上しつつあります。展示会やSNSを通じて『エルムといえば宇宙』というブランドイメージをより確立していきたいですね。
ーー素晴らしい成果ですね。これまで営業やマーケティングを経験したことがなかったというお話でしたが、そういった観点でもご自身で感じる変化はありましたか?
オバッグ:そうですね。最初は、協働日本の皆さんに教わる“先生と生徒”のような関係を想像していました。
しかし、実際にはアドバイスを受けながら、自分たちで考え、実践し、試行錯誤するワンチームのような形 で取り組んでいました。その中で、『答えをもらう』のではなく、『ヒントを得ながら自ら問題を解決していく』というスタイルを学べたことは、私にとって大きな成長でした。
和田:オバッグはとても真面目で、商談前には『何を話すべきか』をしっかり考えて臨むタイプです。でもある時、協働日本の国府田さんに 『商談の8割は、お客様が話す時間にしたほうがいい』 とアドバイスをもらったんです。その言葉を聞いて、オバッグの考え方が大きく変わったように思います。
オバッグ:はい、それを聞いた時は衝撃でしたね。これまでは、『製品の良さをどう伝えるか?』ばかり考えていました。でも、お客様が本当に求めているのは、“良い製品” ではなく “自分たちの課題を解決する手段” なんですよね。商談では、まずお客様の悩みや課題をじっくり聞くことが大切で、その上で適切な解決策を提案するべきなんだと気づかされました。
この気づきと並行して、私は鹿児島県が主催する『社内中核人材育成セミナー』にも参加していました。そこで、協働日本の代表・村松さんが話していた 『伝えると伝わるの違い』 の話が、とても印象に残っています。
どんなに優れた技術や製品でも、『伝える』だけでは意味がない。お客様にとって本当に必要な情報として 『伝わる』形にしないと、心に響かない んです。この考え方を知ってから、商談の場でも、お客様の視点に立って説明することを強く意識するようになりました。
もう一つ、協働日本の若山さんからの言葉も印象に残っています。「それは本当にお客様のニーズなのか? もっと深く分析・検討する必要がある」という言葉です。
この言葉を聞いた時、ハッとしました。技術者として製品を開発していると、どうしても『お客様はこんな機能が欲しいだろう』と 自分たちの視点で考えてしまうバイアス がかかる。でも、実際にお客様と話すと、予想とは全く異なるニーズを持っていることが多いんです。
やはり、開発の段階からお客様と密にコミュニケーションを取り、リアルなニーズを捉えながら製品を作ることが、本当に価値のあるものを提供するために必要なんだと実感しました。
こうした学びを重ねるうちに、営業やマーケティングに対する意識が大きく変わっていきました。最初は『営業とは製品を売ること』だと思っていましたが、今では「営業とは、お客様の悩みを知り、解決策を一緒に考えること」だと考えています。
協働日本の皆さんからいただいたアドバイスを実践することで、少しずつですが、コミュニケーションの取り方やその重要性が自分の中で腹落ち していきました。

企業の成長が、日本全体の活性化につながる
ーー複業人材との取り組みを通じて、率直にどのように感じられましたか?
和田:正直に言うと、最初は不安がありました。今回担当頂いた協働プロチームの皆さんは、主にBtoC分野で活躍されてきたプロフェッショナルが多い印象でした。
一方で、当社の宇宙関連事業はBtoBの中でも非常にニッチな領域。本当にターゲットにアプローチできるのだろうか?この業界で成果を出せるのだろうか? という懸念がありました。
しかし、実際にプロジェクトが進む中で、「分野が違っても、プロの視点は本質を捉える」 ということを痛感しました。協働日本の皆さんが、事業の本質を見極め、的確な戦略を提示してくださったおかげで、当初の不安は完全に払拭されました。むしろ、自社だけでは気づけなかった視点を得ることができ、ここまでの成果を出せたことにとても感謝しています。」
田畑:「まさに “引き出してもらえた” という感覚です。最初は、コンサルティングというと指示に従って進めるものというイメージを持っていました。
しかし、実際には、協働日本の皆さんが私たちの考えを引き出しながら、「どうしたいのか?」「何を実現したいのか?」 を共に考え、方向性を一緒に見つけるプロセスでした。
例えば、様々な成功事例や具体的な手法を提示していただきながら、それを自社にどう活かせるかを議論する ことで、私たち自身の考えを深めることができました。
中小企業はどうしても短期的な成果を求めがちですが、今回の伴走支援を通じて、「立ち止まって考え、長期的な視点で戦略を練ることの重要性」 に改めて気づかされました。」
和田: このプロジェクトを通じて実感したのは、協働日本の取り組みは、特定の業種に限定されるものではない ということです。大事なのは “自ら動く意志” ですね。
自ら考え、素直に取り組める企業であれば、どんな業種であっても成果を出せるのではないかと感じました。
実際に、当社でもオバッグがこのプロジェクトと並行して 社内中核人材育成セミナー を受講し、学びをクロスオーバーさせながら成長し、成果につなげてくれました。こうした実践の積み重ねが、企業の成長には不可欠なのだと改めて実感しました。

ーーそれでは最後に、協働日本へのエールも込めて一言メッセージをお願いします。
田畑: 日本の企業の 99%以上は中小企業 ですが、大企業と中小企業の間にはまだまだ大きな壁があります。
今回、協働日本の皆さんとご一緒することで、大企業が持つ貴重な知見を中小企業に還元することが、日本全体の活性化につながる ということを強く感じました。
中小企業側からのフィードバックを通じて、大企業の事業にも新たな視点を提供できるような、双方向の循環が生まれると理想的ですね。
このような好循環をもっと広げていくためにも、ぜひ今後も活躍を続けていただきたいです。
和田: プロジェクトを通じて、当初の期待以上の成果を感じていますし、何よりも 認知度向上という最低限の目標はしっかり達成できた という手応えがあります。
しかし、協働の取り組みはここで終わりではなく、むしろ これからが本番 です。伴走支援が終わった後も、私たち自身が成長を続け、その姿を示すことが、協働日本の皆さんへの最大の恩返し だと考えています。
これからも、この 「協働の輪」 を広げ、win-winの関係を築く企業が増えていくこと を願っています
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!
和田・田畑・オバッグ: ありがとうございました。
協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
株式会社エルム様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。

和田 健吾 / Kengo Wada
1978年生まれ、鹿児島県霧島市出身。機構設計エンジニア。
株式会社エルム 取締役 第2開発部部長
大学卒業後、エンジニアとして関東圏で経験を積み、2007年に故郷である鹿児島にUターンしてエルムに中途入社。
2024年に福岡に本社を構える株式会社マイクロラボのM&Aを実施し、同年1月から同社代表取締役も兼務。

ジョン セドリック V. オバッグ / John Cedric V. Obag
1983年生まれ、フィリピン・マニラ出身。機構設計エンジニア。
株式会社エルム 宇宙関連事業 プロジェクトリーダー
小さいころからモノづくりをするのが大好きで、絵を描いたり、レゴやガラクタで何かを作ったりするのが子供の時の過ごし方でした。
高校時代に「モノづくりの国」日本を知り、私の夢、今まで世にない「モノ」を生み出すことを実現させるために、大学卒業後すぐに来日しました。
10年前に愛妻の出身地である鹿児島に引っ越してきて、エルムで機構設計エンジニアとして働いています。

田畑 章子 / Shoko Tabata
1975年生まれ、鹿児島県枕崎市出身。営業支援担当。
株式会社エルム BI事業部 事業支援グループ係長
株式会社大塚家具で大阪・北九州・東京・法人営業部勤務後、三菱地所株式会社にて新丸ビルプロジェクトを経て、鹿児島にUターン。
エルムの存在を知って面白そうだと思い入社。営業、品質保証、栽培試験を経て現職。
協働日本事業については こちら
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