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STORY:株式会社ぶどうの森 折坂啓介氏・加藤高聖氏 – “安全とおいしさ”を世界へ。品質保証のプロ×AIによる国際規格認証取得の最短ルート-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、石川県金沢市でレストランや洋菓子ブランドを手がける株式会社ぶどうの森の折坂啓介氏・加藤高聖氏にお越しいただきました。
「農業からレストランまで」を理念に、40年以上にわたり地域と共に歩んできたぶどうの森。今回の協働プロジェクトでは、海外進出のために必要な国際規格FSSC22000の取得という挑戦的なテーマに取り組んでいます。

プロジェクトを通じて得られた変化や成果、そしてこれからの展望について、お二人に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

折坂 啓介氏

海外に、ぶどうの森の味と安全を届けたい

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、今回の協働プロジェクトに取り組むに至った背景を教えてください。

折坂 啓介 氏(以下、折坂): よろしくお願いいたします。
ぶどうの森は、もともと地域の農産物を活かしたレストラン経営やスイーツ製造を軸に事業を展開してきました。

昨年ドバイの展示会に出展した際に、現地で一緒にビジネスをやろうと言ってくれる人と出会い、海外展開を決意しました。
とはいえ、営業拠点だけでなく現地に加工工場も設ける必要があるなど、乗り越えるべきハードルはいくつもありました。当時の私たちは、食品安全に関する国際基準についての知見や体制が整っておらず、できる限り早い段階で「FSSC22000」の取得を目指すことにしたのです。

ただし、品質管理だけでなくマネジメントや文書化の仕組みも問われるこの認証を、限られた人手とリソースで取得していくのは容易ではありません。他社の話を聞いても、コンサルティング費用だけで非常に高額で、短くても1年半かかるというのが一般的でした。

ーーなるほど。かなり挑戦的なテーマだったのですね。

加藤 高聖氏(以下、加藤): はい。どうやって取り組もうかと考えていたのですが、石川県主催の複業人材活用セミナーを通じて協働日本代表の村松さんのお話を伺ったことを思い出し、相談してみることにしました。すると、ちょうど協働プロの中にハウス食品で国際規格FSSC22000の認証取得を担当した方がいらっしゃるということで紹介いただき、伴走支援がスタートしました。

実は最初は、「伴走支援」という座組みの中で、どのようにプロジェクトが進んでいくのか少し不安に思ったこともあったんです。

折坂:宿題を出されて、フィードバックという名のダメ出しだけ受けるような進み方だと、メンバーにとっては辛さだけが残り、ノウハウも身につかないのではないか……そんな懸念もありましたね。

でも、実際に始めてみるとそれは杞憂でした。協働日本の協働プロは、知識や経験をもとに問いを立てたり、アドバイスや資料作成のヒントをくれたりしながら、私たちに寄り添って伴走してくれたのです。

ぶどうの森のメンバーも、実際に手を動かしてともに取り組みます。
「お金を払っても何も残らないのでは?」という社内の懸念もありましたが、ノウハウが確実に残る、協働日本独自の伴走支援の形は、私たちにとって非常に合っていたと感じています。

出展したドバイの展示会の様子

経験者の知見とリアルな視点 × AI活用で、認証取得準備を最短で実行

ーー実際にプロジェクトがスタートしてからは、どのような取り組みが進んだのかお聞かせいただけますか?

加藤: FSSC取得に向け、2024年5月にプロジェクトをキックオフしました。
ハウス食品の山本竜太さん、横町暢洋さん、そして協働サポーターの河野瑠美さんに入っていただきました。

弊社までお越しいただいたキックオフミーティングでは山本さんから、「なぜ認証取得が必要なのか」「それに挑む意義とは」についてストレートなお話がありました。そのメッセージはメンバーにもしっかり届き、目線を合わせてスタートを切ることができました。社長にも山本さんから直接意義を伝えていただいたので、社内全体で認識が揃ったのも大きかったです。

折坂:お菓子の工場なので、食品安全の仕組みはある程度整っていましたが、国際基準とのギャップを可視化することから始まりました。

このギャップを埋めるために必要なことを山本さんのご経験からご指摘いただくのですが、「優しく叱咤していただいた」という表現の方が正しいかもしれません。

山本さんはとても穏やかな方ですが、私たちにも分かりやすい言葉を使って、厳しくも本質的な指摘をしてくださいました。これは、現役の外部プロ人材だからこそできることだと感じます。
これから皆さんも世界で戦うんですよね?と言うスタンスで現実的な話をしていただけるので、納得感も大きいんです。

加藤: 工場現場も実際に見ていただきましたし、実際に現場でやっていることや、使っている帳票類も見てもらっているので、今どのステージにいるかも山本さんは経験上わかってくださっています。だからこそ、階段を一歩ずつ上がっていくためにすべきことをわかりやすく表現してくださいました。

また、できていないことの指摘だけでなく、「できていること」の指摘をしてくださったのもありがたかったですね。どうしても、認証取得のための基準文書の書きぶりだけでは、実際の実務上どこまで必要なのか分からないので、リアルな経験と知見を共有いただいたことで、時間を無駄に使わずにプロジェクトが進んでいったと実感しています。

現場も実際に見ていただき、使用している帳票類なども確認してもらいました。今どの段階にあるのかを把握したうえで、次に進むべきステップを丁寧に説明してくださるんです。
「ここまでできていれば大丈夫」と、現場感覚を持った助言があったからこそ、無駄なく進めることができました。

ーーなるべく早く認証取得を進めることが命題だったのですよね。先ほどのお話では、認証取得まで短くて1年半ほどかかりそうだということでしたが、実際にはどのくらいの時間をかけて取り組まれたのでしょうか。

加藤: 結論から申し上げると、おかげさまで、実際にはキックオフから1年かからず申請まで完了しています。山本さんの知見に加え、AI活用のプロである横町さんの力を借りて、ChatGPTを使った文書作成を効率化できたのも大きな要因です。

これまで、認証取得のために必要な文書を一から作成するには膨大な時間と労力がかかっていましたが、AIを導入することで大幅に効率化されました。
申請のための管理文書は、既に規格イメージがあるため、出来上がりイメージを読み込ませて、弊社で活用できるようにカスタマイズしていきました。横町さんと連携してAI活用によってドキュメントを作成し、アウトプットの内容を山本さんに見ていただきフィードバックをいただきブラッシュアップしていく、というサイクルを繰り返していきました。

AIを本格的に使ったのは初めてでしたが、結果的にとても良い経験でした。スピードも飛躍的に上がり、協働プロの皆さんからもたくさん褒めていただきました(笑)。

本来は3ヶ月かかる見込みだった約30種類の文書を、1ヶ月で完成させることができました。

日々、認証取得に向けたコミュニケーションを密に行っている

想定以上の短期間で認証取得へ。ノウハウが残るだけでなく、メンバーの成長も大きな成果に

ーープロジェクトを通じて、具体的にどのような成果や変化がありましたか?

加藤: 一番の成果はやはり、FSSC22000の認証取得準備を、予定していたよりも半年以上前倒しで実現できたことです。

5月にキックオフしたプロジェクトで、認証機関へのドキュメント提出は2月末に完了。4月に一次審査を受け、指摘に対する是正案を同月中に提出。6月に最終審査、8月には正式な認証取得というスケジュールで進んでいます。

折坂: 当初から「社内にノウハウが残ること」を期待していましたが、それ以上にメンバーに確実な知見が蓄積されたと感じています。
プロジェクトには私たち以外にも数名が参加していたのですが、そのうちの1人がどんどんこのプロジェクトにのめり込んでいって、今では私たち以上にこのテーマをリードしてくれています。

最初は私たちの指示で動いていましたが、途中からは「こういうことですよね?」と自ら確認し、「こうしてください」と提案までしてくれるようになりました。目に見える成長がとても嬉しかったですね。

加藤:品質保証、品質管理に対して、自らが「やらなくてはいけない」と自分事化されたように思います。ものすごく強い命題として感じているようですね。

最初は“手伝ってもらえれば”という気持ちでアサインしたのですが、今では自主的にプロジェクトを進めてくれるようになり、本当に頼もしい存在になりました。

そして、この認証取得のプロジェクトと並行して、ドバイ進出も正式に決定しました。現在は現地での工場建設に向けて準備を進めているところです。協働日本との取り組みもさらに加速していきます!

現場目線を持ったプロの伴走で、実感と納得感が得られる。何でも相談できる関係性が魅力

ーー社外のプロ人材と実際にプロジェクトに取り組んでみて、どのようなことを感じたかお伺いできますか?

折坂:やはり一番の魅力は、現役の方が伴走してくださるという点です。

「今、どんな課題を抱え、どう乗り越えているのか」というリアルな話を聞けることで、「こんな大きな企業でもこうした課題があるんだ」と知ることができ、自分たちの仕事にも自信が持てました。

一般的なコンサルティング会社だと、知識は豊富でも現場感のない方もいます。その点、事業会社で第一線で活躍するプロ人材による“リアルタイムの知見”は、非常に大きな価値だと感じています。

加藤:それに、協働プロの皆さんは本当に人柄が素晴らしいんです。自慢話や武勇伝を語るようなことも一切なく、壁をつくらずに接してくれます。

たとえば「俺のときはこうだった」といった上から目線の話ばかりだったら、私たちのような中小企業は気後れしてしまうかもしれませんが、協働プロの皆さんはあくまで同じ目線で向き合ってくれる。だからこそ自然体で、正直に何でも相談することができました。

あと、費用感は圧倒的にリーズナブルだと感じました。リーズナブルだからお願いした訳ではありませんが、大企業の事業部長クラスの方がチームで伴走支援に入ってくださり、これだけの支援を受けられることを考えると、非常に価値の大きな投資だと感じています。

このスキームは本当に素晴らしいと思いますし、あまり人に教えたくないなと思うほどです。(笑)

ーーありがとうございます。最後に協働日本に一言メッセージをお願いします!

加藤: おかげさまで、認証取得のプロジェクトは一段落しました。今期も海外展開の協働プロジェクトをお願いしながら、もう一つ、自社にとって非常に重要なテーマでも協働をお願しています。

マーケティングやコンセプト設計、営業の仕組みづくりなど、新たな挑戦が待っています。協働プロにはさまざまな人材がいらっしゃるので、話をしながら新しいつながりが広がっていくことが楽しみです。

折坂: 協働プロのマッチングは本当に絶妙です。村松さんに相談すると、すぐに「そのテーマにとても合う人がいます!」と人選が始まるんですよ。

新しいプロジェクトが始まるときにも、弊社の情報はある程度共有されているので、最初からギアがかかった状態で伴走を始めてもらえるのもありがたいです。

もちろん、合う・合わないはあるかもしれませんが、一度一緒に取り組めば、どんな会社なのかを理解していただけるので、次の案件も相談しやすい。そんな関係性が本当にありがたいですね。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

ーーありがとうございました!


折坂 啓介 / Keisuke Orisaka

株式会社ぶどうの森 食品事業部 事業部長

加藤 高聖 / Takamasa Kato

株式会社ぶどうの森 品質保証部 部長

協働日本事業については こちら

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VOICE:山本 竜太氏 -専門能力を発揮して、誰かの役に立ちたい。本業にも還元できる「複業」の経験-

協働日本で活躍するプロフェッショナル達に事業に対する想いを聞くインタビュー企画、名付けて「VOICE」。
今回は、協働日本で地域企業に対して、技術や品質管理のプロとして、また海外赴任の経験を生かした知見で支援を行っている山本竜太(やまもと りゅうた)氏をご紹介いたします。

ハウス食品(株)の開発研究所で、技術戦略策定やリソースマネジメント、開発業務の支援全般を担っている山本氏。その中でも、組織活性化や人材活用、人材育成に興味があり、重点を置いて取り組んでいるそうです。

海外赴任から帰国した年から、協働日本での活動に参画された山本氏に、実際の地域企業とのプロジェクトを通じて感じた変化、得られた気づきや学びを語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

2023年に秩父市で開催された協働日本と地域企業の交流イベントに参加

クリエイティブで活気あふれる組織づくりを。新しい部署での挑戦を楽しむ。

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは山本さんの普段のお仕事について教えてください。

山本 竜太氏(以下、山本):よろしくお願いします。現在は、ハウス食品の開発研究所で、技術戦略策定やリソースマネジメント、開発業務の支援全般、システム管理など行う部署を担当しています。研究所が必要とするサポート全般を担っているので、何でも屋のようなポジションですね。

ーー幅広い業務内容ですね。ずっとそういった研究所の支援をされていたんでしょうか?

山本:いえ、今の部署には1年前に異動になったばかりなんです。元々はずっと技術畑、品質保証の仕事をメインにしていました。2018年から2022年5月まではアメリカに赴任、現地にあるグループ会社で業務にあたり、工場での食品安全システムの改善、品質保証体制の構築などを行っていました。

なので、現在の部署の仕事は一転して新しい挑戦でもあります。製品開発がメインの研究所なので、クリエイティブで活気あふれる組織であって欲しい思いもあり、組織活性化や人材活用、人材育成には特に重点を置いて取り組んでいるところです。

私は皆をエンカレッジして一緒に仕事をすることがすごく好きで、それが私自身の喜びでもあるんです。自分自身が楽しく仕事をするのも得意です。なので、メンバーには常日頃から「私と一緒に仕事をすると決して楽ではないかもしれない。でも、しんどいけど楽しい!を目指しましょう」と伝えています。これまで長年の経験や知識をそのまま活かせる仕事ではない、新しい業務ではありますが、活気あふれる組織作りへの挑戦をとても楽しんでいます。

自分の専門領域の強みを活かし、地域企業の想いに応えたい。事業視点を鍛え、新たな視点を持つ───自分のためにもなる活動。

ーーここからは、協働日本での活動についてお聞きしたいと思います。山本さんが協働プロとして参画されたきっかけを教えていただけますか?

山本:

もともと、協働日本代表の村松さんとは同じ会社で働く同僚でした。想いを持って次々と新しい事を仕掛けていく村松さんとは当時から非常に波長が合ったので、在職中にも時々情報交換をしていたんです。思い出してみると、当時からよく熱い議論を交わしていましたね。Facebookで繋がっていましたので、彼が退職後しばらくして協働日本を立ち上げたことも知っていました。

私がアメリカから帰国したタイミングで会話する機会があり、その際に村松さんの協働日本の話を聞かせてもらいました。そこで地域企業にプロフェッショナル人材が伴走するという協働日本独自のスキームや理念を伺い、強く共感しました。村松さんにも「協働日本での活動に興味はないか?」と声を掛けて頂いたんです。

ただ、ずっと技術畑にいた自分が、役に立てるジャンルがあるのだろうか?と思って、初めは自分が協働プロとして活動する一歩を踏み出せずにいました。

ーーなるほど。「副業」や「複業」という働き方自体には以前から興味はありましたか?

山本:正直、副業という働き方については全く考えていませんでした。一方で、長らく専門であった品質保証・技術面の仕事から、全く違う業務の部署に異動になっていたこともあって、自分の専門能力をもっと発揮して何かに貢献したいという想い自体はあったんです。

もちろん今の仕事も面白い分野で、やりがいを持って取り組んでいますが、ずっとやってきた専門領域ならもっと能力を発揮できるのでは?と思うこともありました。そんな中で村松さんの話を聞いて、地方にはやる気と熱い想いを持った経営者がたくさんいるけれど、リソースが足りなくてなかなか想いを実現できずにいる。一方で首都圏の大企業には私のように、これまでの経験を何かに役立てたいと考えるプロ人材もいる…そしてその取り組みが広がっていると言うことは、日本のあらゆる地域で求められているのではないかと感じました。それなら、協働プロとして参画することで地域企業の役に立てるなら面白いんじゃないか、これはチャンスではないかと思うようになり、あらためて協働プロとしての参画を決めました。

ーーまさに協働日本のモデルや理念とご自身の状況がマッチした形なんですね。

山本:そうですね。あとは、協働日本での活動が自分自身のためにもなると考えた面も大きいです。大きい会社にいると、どうしても事業全体をみることができないので、事業視点を持ちにくいと感じています。アメリカのグループ会社にいた頃は、日本のハウス食品に比べ規模が小さいので事業全体を見ることができたという経験もあり、自分にとってとても良い経験になったんです。事業視点を鍛え、新たな視点を持つためにも協働日本の活動はちょうどいいのではないかと考えました。自分自身の視野が広がることで、幅広い業務を担う本業に活かせることも多くなると思っています。

また、協働日本CSOを勤めていらっしゃる藤村さんのことをご紹介いただいたことも大きかったかもしれません。直接お会いして、色々とお話を聞かせていただきました。藤村さんはライオンで部長を務めていらっしゃいます。そのような方も協働プロとして複業の働き方を実践されているんだ、ということが刺激になりました。ちょうど会社でも副業制度が始まったタイミングも追い風となりました。協働プロとしての活動は基本的にはオンラインで完結するので、本業との両立の面でも柔軟に取り組めるのではと感じたことも、参画を決めた背景にあります。

地域の企業には必ず強みがある。外からの視点で見える強みを活かしていく。

ーー山本さんは、地域のパートナー企業とはどのようなプロジェクトで協働されているのでしょうか。

山本:金沢にある織物メーカーさんの企業支援に取り組んでいます。私にとってはまだ一件目の案件で、まさに自分自身も手探り。迷いながら進めている最中です。

同じく協働プロとして活動する、バリュエンスホールディングスで執行役員を務める大西さんと伴走支援のチームを組んでいます。企業側の参加者は課長クラスなど次世代を担うリーダー候補達が中心で、週に1度のオンラインミーティングを通じて現在半年間壁打ちを続けています。将来のリーダー候補をアサインしたという社長の判断も面白く、素晴らしいなと。若手を鍛えたいという意思を強く感じています。

こちらの企業は、インテリア・衣料を事業領域としたテキスタイルメーカーで、最初のヒアリングの段階では技術面の課題も挙げられていたので私がアサインされたのですが、蓋を開けてみると課題はそれだけではありませんでした。

メイン工場はベトナムで、自社工場はありません。メインの市場は日本、大手メーカーに卸しているのですが、取引先企業は自社工場も持っているため、このままのビジネスモデルを続けていていいのか?という危機感を持たれていたんです。

そこで、協働の中では次の事業の柱を作り、5〜10年後にどこでどう売り上げを伸ばすか?という事業戦略のような広い視点の議論に発展し、今もミーティングを重ねています。

ーー工場で生産する製品の展開では、山本さんのこれまでの経験を活かした関わり方も色々ありそうですね。

山本:現状では自分ならではの視点で強みを見つけられたなと思う部分はあります。例えば、パートナー企業では、すばらしい品質の製品を安定的に供給できています。私も海外でものづくりをしていた経験がありますので、海外で物を作ることの大変さはよくわかります。自社工場以外の現地の工場の生産は、コントロールも容易ではなく、トラブルも起こるし思うようにいかないのが常です。そんな中で、現地に入り込んで品質管理をしていく力がある、その技術力や品質管理力は彼らの強みです。普段当たり前のように取り組んでいるので、強みだと認識できていなかった面を掘り起こすことができたように思います。

自分の専門は、品質管理や品質保証という技術寄りではあるのですが、海外品質保証を担当していたこともあり、アセアンを中心とする海外の工場の事情なども分かるので、本業である食品とは異業種でありつつも共通する専門性を活かしてこれからお役に立てればと考えています。

皆で一緒に悩みながら半年。ようやく、こんな方向性、こんな市場がいいんじゃないか?というものが見えてきています。成果を出すのは、ここからですね。

Zoomで行う週に1度のミーティング。支援しているパートナー企業の皆様と。

地域企業と協働プロ。両者の当事者意識の芽生えが相乗効果で成長を生む。

ーー協働を通じて、協働パートナー企業にも変化を感じることはありましたか?

山本:おこがましい言い方かもしれませんが、チームメンバーの著しい成長かなと思います。今回の協働では、次世代の若いリーダー候補がアサインされたこともあり、最初は恐る恐るな感じもあり、積極的に意見が出るという感じではなかったんです。ところが何度かミーティングを重ねると、慣れてきたのか、雰囲気が掴めて来たのか、だんだんと本気モードになってきた。振り返ってみると、SWOT分析などやったことがないというところがスタートで、フレームワークを使った思考整理や、自分自身で課題について考えるというプロセスを経験してもらったことで、変化があったのではないかと思います。

また、ミーティングには社長が参加されることもあり、経営者の考えを直接聞いていくことによる刺激があったのかなとも想像しています。

初めは課題や問いに対して、どうしても経営者視点でないところからピントの合わない意見が出ることがありましたが、自社の強みを理解し、その活かし方を考え、どんどん自分事化していった感覚があり、今では会社の将来像を「自分たちが描くもの」として言語化していけるようになっているように思います。

まさに自立できる人づくりをするという協働日本のコンセプトが実現しつつあるのを実感しています。

ーー協働を通じて若手が事業を自分事化できているのはすばらしいですね。協働の中で、山本さんご自身にも何か変化はありましたか?

山本:協働が進み、だんだんと入り込んでいくことでパートナー企業の経営陣の一員であるような感覚になってきて、まさに二つの会社に所属している形になったことかなと。

先ほども触れた通り、大企業にいると事業全体を見渡すことは非常に難しくなります。その中で、経営者の持っている課題や視点に直接触れられる機会は非常に貴重ですし、そういった視点を持ちながら事業全体をどうやったら良くしていけるのか?と、私自身も自分事として捉えていく───その結果として、自分自身の視座や視野も広がっているのを感じますね。そう言う点ではパートナー企業のメンバーの成長と似た部分もあるかもしれません。

あとは自分自身が肩書に頼って仕事をしていないか?ということも考えるようになりました。パートナー企業を支援する上で、今の会社の肩書は全く関係ありません。協働プロとしての活動は実力勝負です。自分自身の強みや専門性で何が支援できるのか?常にそれを考えるようになりました。

当初は全く違う業界のパートナー企業さんを担当することに不安もあったのですが、事業経営という点では、普遍的であり一緒なんだなということも分かってきて、逆に私だからこその視点で貢献したいと思っています。

「個人の実力」で地域企業の課題解決に取り組む協働日本の仲間達とも情報交換をして、ご自身や本業に還元をしていくという山本氏。

地域企業が一歩を踏み出すことが、地域そして日本を元気にしていく。

ーー山本さんのような大企業のマネージャー職の方々に、地域企業との関わり、異業種のプロジェクトに関わる越境体験の価値についてお伝えするとしたら、どのようなお話をされますか?

山本:まず、大変だけれど、得られるものも大きいよと伝えたいですね。普段接することのない人たちと一緒に仕事をすることで、いろんな考え方ややり方があること、業界や事業規模が違っても普遍的な部分や共通点などを見つけることができます。こういった気づきや新しい視点は本業にも還元できるものが多いです。

また、経営者と話す機会自体がとても貴重ですし、刺激を受けることによる自身の仕事に対してのモチベーションUPにつながると思います。

本業もありながら複業という関わり方をするのはもちろん大変な面もあります。現地を訪問してフィールドワークをすることもありますが、基本的にはオンラインを中心にプロジェクトを進めていくことできるので、本業とも両立させやすいと思います。支援を通じて自分も越境体験ができて、自身の成長と本業に活かせる大きなメリットがある。これは協働日本ならではの三方よしなモデルの素晴らしさですね。

興味のある方には、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。

ーーそれでは最後に、協働日本が今後どうなっていくと思われるかお聞きできますか?協働日本へのエールも込めてメッセージをお願いします。

山本:協働日本の取り組みが広がることで、日本が元気になってほしいと思います。海外赴任を通じて、日本って素晴らしい国だなあとつくづく思ったんです。一方で、潜在能力はあるのに、デフレ社会は続いたことですっかり自信を失っているというか……成長実感を持てなくなっている人も多いように感じています。

変にお行儀が良く、「正解を言わなくちゃ」「完成度の高いものを出さなくちゃ」という感じで、なかなか一歩を踏み出せない。飛び抜けていこうとする人が少ないというか。海外では、他人からの評価など気にせずに、自分の考えをどんどん発信していく人が多いです。また、とりあえずやりながら、ダメならどんどん修正していくという実行力やスピード感がありました。結果として、ゴールに早く辿り着く。どれだけ能力があっても踏み出さないと何も進まないので、このままでは世界の中でも遅れをとってしまうのではないか?という危機感があります。

そんな中でも、地域には熱い想いを持った経営者がいて、でもそれを実現するリソースが足りていないからこそ、一歩を踏み出せていない。そして専門能力をもっと発揮したいと考える都市人材もいる。この両者をマッチングさせることで、着実に一歩ずつ進んでいくんじゃないかと思います。この協働日本のコンセプトは本当に素晴らしいなと参画してますます感じているところです。

地方の企業が着実に一歩を踏み出せるようになって、周囲に伝播して地方全体が元気になって……結果として日本全体を元気にする、さらにそこから世界に飛び出していく企業もあるかもしれません。そしてその中で人としても成長を実感できる社会が広がっていくといいなと思います。

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。同じように一歩を踏み出したいと思っている大企業のプロ人材の方にとっても勇気のもらえるお話をありがとうございます。

山本:ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

山本 竜太 Ryuta Yamamoto

ハウス食品(株) 開発研究所 企画運営部長

大学院卒業後、ハウス食品(株)に入社。製品の自主回収をきっかけに、ハウス食品で初めての品質保証部署の立ち上げに従事した。 その後、海外事業の拡大に伴い、ハウス食品グループ本社(株)にて、海外事業専任の品質保証部署を立ち上げた。ハウス食品の生産統括部門を経て、米国子会社(ハウスフーズアメリカ)に4年間赴任し、米国事業の品質保証部署の立ち上げなどを行った。

現在は、開発研究所をよりクリエイティブで活気あふれた組織にするために、技術戦略策定や情報システム管理、リソースマネジメントなどに従事。

山本竜太氏も参画する協働日本事業については こちら

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