STORY:石川メッキ工業株式会社 鴻野健太郎氏 – 現場が経営を考える会社へ。全体最適でつくる「みんなが幸せな会社」とは –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。

今回は、石川メッキ工業株式会社 専務取締役の鴻野健太郎氏にお話を伺いました。
石川メッキ工業株式会社は、石川県を拠点に、長年培ってきた確かな技術力で地域のものづくりを支えてきた製造企業です。

同社では、鴻野氏が掲げた「経営者仲間をつくる」という目標のもと、幹部候補人材の育成プロジェクトに協働日本が伴走支援を行いました。

プロジェクトを経て、参加したメンバーは会社の存在意義や課題解決に対する意識を主体的に持つようになり、現在ではフラットな関係性で相談や議論ができる組織へと変化しています。

協働日本との取り組みを通じて得られた変化、組織としての意識の変容、そして今後の展望について、率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

2年の交流を経てスタートした「伴走支援」

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

鴻野健太郎氏(以下、鴻野): こちらこそ、よろしくお願いします。

きっかけは、同じ金沢で老舗の発酵食品会社を経営されている四十萬谷本舗の四十万谷正和さんから「面白い人たちがいるよ」とご紹介いただいたことでした。その流れで、石川県が主催する協働日本のセミナーに参加しました。

そこで代表の村松さんと出会い、2〜3か月に一度のペースで定期的に「壁打ち」をしていただくようになりました。対話を重ねるなかで、いつか本格的な伴走支援をお願いしたいという思いはあったのですが、協働日本にはマーケティングやDXなど、さまざまな分野のプロが在籍されているため、逆に「今の自社の課題に対して、何からお願いすべきか」と悩んでいた時期もありました。

そんな交流が2年ほど続いた頃、石川県の事業として3か月間の伴走支援に挑戦できる機会があると知り、「これは絶好のチャンスだ」と応募しました。

今年の春から、ようやく本格的な協働プロジェクトがスタートしました。

ーーなるほど。では、迷われていた中で、最終的にどのようなテーマを選定されたのでしょうか。

鴻野:「経営者仲間をつくる」という目標を掲げ、幹部候補の人材育成をテーマに伴走していただくことにしました。

というのも、私自身がこれまで管理職研修などで体系的に経営視点を学んだ経験がなく、当時の管理職は私より10歳以上年上のベテランばかりでした。

正直なところ、「自分が教えられることは何もない」と感じていたんです。

幹部候補を育成すると同時に、自分自身が抱えていたその課題感もクリアしたい。そう考えたとき、「誰から学ぶか」を考えると、協働日本の協働プロの皆さんにぜひお願いしたいと思い、このテーマを選びました。

自分の目標と会社の目標が重なり、生まれた主体性と新たな視点

ーー実際の協働プロジェクトでは、どのような取り組みから始まったのでしょうか。

鴻野: 弊社からは4名がプロジェクトに参加し、協働プロとしては藤村昌平さん(協働日本CSO)と有田一真さんに入っていただきました。

最初は全員参加のワークショップ形式でスタートし、途中から個別セッションを組み合わせる形で進めていきました。

ワークショップでは、「会社とは何か」「その存在意義とは何か」といった根源的な問いから取り組みました。
私は社長である父の背中を見て育ったこともあり、仕事とは「誰かのために働くこと」、どれだけ汗をかき、働くかが重要だという価値観を持っていました。

一方で、メンバーにとって仕事は、「家族を幸せにするためのもの」、いわゆる“ライスワーク”として捉えられており、これまで会社の存在意義について深く考える機会はほとんどなかったと思います。

「石川メッキ工業は、どんな人たちの集まりなのか」「どうすれば組織として存続していけるのか」といった多角的な問いを通じて、それぞれが改めて会社や仕事の意義に向き合ってくれたと感じています。

ーー参加された皆さんにとって、これまでにない思考の機会だったのですね。

鴻野:そうですね。普段は製造現場のプロフェッショナルとして働いているメンバーばかりなので、Web会議自体に慣れていませんでしたし、大企業の第一線で活躍してきた外部人材と協働することも初めてでした。最初は戸惑いや緊張感も大きかったと思います。

それでも、事前のワークショップや勉強会、個別セッションを通じて、会社と自分自身の目標を重ね合わせ、「会社としてどう動くべきか」「それが自分たちの賃金や家族の幸福にどうつながるのか」を主体的に考えるようになっていきました。

特に、全体プログラムから藤村さん・有田さんとの1対2の個別セッションに移行してからは、メンバー一人ひとりの意識変化がより顕著になったと感じています。

例えば、あるメンバーは「現場の肉体的負担をどう減らすか」というテーマで議論を重ねました。
設備投資をすべきか、そのためにはどう社内で説明・承認を得るのか。もし投資が難しければ、取引先と納期調整や交渉を行うことで負担を軽減できないか。

課題解決に向けた思考プロセスそのものや、現場視点と経営視点の違いを、一つひとつ実感しながら学んでいったように思います。

個々の課題や想いに丁寧に向き合ってもらえたことで、自分自身の目標と会社の目標が重なり、主体性が生まれていったのだと思います。 

カーボンニュートラル福井コンソーシアム「共に進める脱炭素経営~サプライチェーン全体で進める重要性と必要性」での鴻野氏登壇の様子
引用元:https://cnoffukui.com/news/added-value/


フラットな関係性で相談し合える「経営仲間」へ


ーー伴走支援を通じた具体的な変化や成果について教えてください。

鴻野: 一番大きな変化は、やはりメンバーの考え方です。

 以前は不満や不安を口にするだけで終わってしまうこともありましたが、今では「なぜそれが起きているのか」を本質的に掘り下げ、「どうすれば解決できるか」を多角的に考えるようになりました。

セッションを通じて、問いを立て、考え、言語化し、アウトプットするという思考の癖が身についたことが大きいと思います。

また、藤村さんや有田さんは事業開発・人材開発のプロである一方、製造業は専門外です。そのため、製造業特有の常識や課題を、こちらから噛み砕いて説明する必要がありました。

共通言語を持たない外部人材に理解してもらうために、論理的に説明し続けた結果、メンバーの「伝える力」も大きく向上しました。

その過程で、現場視点と経営視点の両面から物事を捉えられるようになり、不満や不安に直面しても前向きに受け止められるようになったと感じています。

ーー主体的かつ前向きに課題に向き合える組織になったのですね。

鴻野: はい。メンバーが私の目線を先読みして行動してくれるようになり、社内コミュニケーションの質は大きく向上しました。

 相談内容も、単なる許可申請ではなく、「会社の将来を踏まえた選択肢」や「どう思うか」と意見を求めるものが増えています。

個別案件の振り返りから人間関係の悩みまで内容はさまざまですが、どの相談にも会社としてのゴールや目的が据えられており、メリット・デメリットを踏まえた建設的な会話ができるようになりました。

結果として、社内課題への対応を安心してメンバーに任せられるようになり、私は営業活動や経営者同士の交流など、社外活動により多くの時間を割けるようになりました。


「みんなで幸せになる」ための全体最適という考え方

ーーその変化は、鴻野さんご自身の動き方にも影響しましたか。

鴻野:はい。私は以前から「みんなで幸せになろう」という目標を掲げてきました。

 中小企業が生き残るためには、従業員の幸福が不可欠だと考えています。安心して働き、安全に業務にあたり、気持ちよく家に帰る――そうした“全体最適としての幸福”が、事業の存続を支えると思っています。

正直、綺麗事に聞こえる部分もあったと思いますし、「そんなことは実現できない」と感じていたメンバーもいたかもしれません。それでも、会社の存在意義を同じ目線で考えるようになった今では、「綺麗事も目的の一つとして持っていていい」と感じてもらえたのではないでしょうか。

一人で突き進むより、皆で取り組んだ方が世界は広がる。

 フラットな関係性で議論し、間違いは間違いとして指摘し合える。そんな雰囲気をつくってきたことが浸透し、真の「経営仲間」として共感してくれるようになったことが、何よりの成果だと感じています。


忖度のない対話が、思考を磨き続ける。協働が生み出す「知識と経験のサイクル」

ーー伴走したプロ人材との取り組みを通じて、感じたことを教えてください。

鴻野: お二人は、物理的な距離があってもオンラインツールを巧みに使い、的確な宿題を通じて私たちの価値観をアップデートしてくれる、真のプロフェッショナルでした。

 助言はスピーディーかつ具体的でありながら、こちらに考えさせる余白も残されていて、月2回という頻度でも非常に密度の濃い時間だったと思います。

藤村さん、有田さんが大企業での経験や実体験を通じて共有してくださった具体例も印象的でした。大企業であっても、本質的な課題は中小企業と通じる部分が多いという気づきは、大きな刺激となりました。

外部人材が入ることで、新たな視点を得られ、自然と丁寧な言語化が求められる。これは、組織が成長するうえで非常に大きな価値だと感じています。

ーー最後に、協働日本へのメッセージをお願いします。

鴻野氏: 今後は、企業や業種の枠を超えた合同プロジェクトや、協働日本を利用している経営者同士が交流できる場を、ぜひ増やしてほしいですね。

 同じ石川県内でも、山岸製作所さんのように協働日本とともに成長している企業があります。そうした企業同士が学び合い、協業できる場が生まれたら、とても面白いと思います。

協働日本の支援を受けた企業が、次は別の企業の課題解決に関わっていく――そんな知識と経験の「良いサイクル」が生まれることにも期待しています。

 悩みを抱える後継者や、未来を真剣に考える経営者たちを、これからもぜひ支えてほしいです。私たちも、その一助となれるよう共に歩んでいきたいと思います。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

鴻野氏: ありがとうございました!

鴻野 健太郎 / Kentaro Kono

石川メッキ工業株式会社 専務取締役

工学系修士課程を修了後、2016年祖父が創業した石川メッキ工業株式会社に入社。
製造実務・生産管理・品質管理・技術営業・人材採用のほか、デジタル化による会社変革に取り組んでいる。メッキ業界を含めたモノづくり業界の発展のため、社外においても精力的に活動している。

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