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STORY:丸七製茶株式会社 鈴木成彦氏 – 変化する経営課題に最適な人材を組み合わせ、成果を重ねてきた協働プロジェクト。「お茶の未来」を創造するブランド戦略とは –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。
今回は、丸七製茶の鈴木成彦氏にお越しいただきました。

丸七製茶は、創業1907年の静岡の老舗製茶メーカー。日本茶を主軸に、スイーツ開発まで手がける「製造から小売までの一貫体制」を強みに掲げています。

協働日本とは2021年から4シーズンにわたり、①高級ボトリングティーのコンセプト設計、②EC/動画発信、③社内SNS活性化、④東京拠点リニューアル(カフェ併設)まで、多岐にわたる取り組みをともに進めてきました。

本インタビューでは、協働日本との取り組みで得た変化、組織としての意識変容、今後の展望について、2021年から伴走している協働プロの郡司弘明氏も交え、率直に語っていただきました。

(取材・文=山根好子)

“相談相手不在”の連続意思決定。そのとき見えた「伴走」の価値

ーー本日は丸七製茶株式会社 代表取締役社長の鈴木成彦様と、協働プロの郡司弘明さんにお越しいただきました。まずは、協働日本との出会いについてお聞かせください。

鈴木成彦氏(以下、鈴木):ご縁があり、協働日本代表の村松さんと知り合いました。「中小企業の社長に伴走する」という考えに強く共感し、当社でも支援をお願いしたいと思ったのが始まりです。

ーー協働日本の「伴走支援」は、御社のプロジェクトにどのようにフィットしたのでしょうか。

鈴木:中小企業の社長は、結局のところ一人で何でもこなさざるを得ない場面が多い。かつては学生時代の友人に相談したり、一緒に構想を練れましたが、年々それも難しくなっていました。そうした中で第三者の伴走という進め方を知り、有効な選択肢だと感じました。相談や壁打ちができる存在がいることに、大きな魅力を感じたのです。

ーーこれまでのプロジェクトを順にご紹介いただけますか。

郡司弘明氏(以下、郡司):2021年から、4シーズンご一緒しています。

鈴木:もうそんなに長いお付き合いなのですね。
各プロジェクトで異なる協働プロをアサインしていただきましたが、郡司さんには一貫してプロジェクトマネージャーとしてご支援いただいています。

郡司:まずシーズン1では、新発売のボトリングティーのコンセプトデザインやコンセプトメイクを一緒に壁打ちさせていただきました。

ここでは協働日本CSOの藤村昌平さんに加わってもらい、風呂敷を大きく広げるところからコンセプトを深掘りしていきました 。

また、写真家のたかはしじゅんいちさんとのプロジェクトも協働日本がきっかけで立ち上がりました。NFTアートと抹茶を使ったチョコレートの同時発売という、当時としては非常に先進的な取り組みでしたね。


郡司:続くシーズン2では、「CBT(Craft Brew Tea)」というボトリングティーのECサイトの立ち上げを行いました。

ブランドサイトの制作と、YouTubeやSNSを活用した動画でのコミュニケーションを並行して実施しました。

ーー「CBT」のサイトには「食事と共にワイングラスで楽しむ日本のお茶」「茶葉の個性を味わう、食事彩る日本茶」など、まさに高級ボトリングティーとしてのコンセプトや提供イメージへのこだわりが詰まっていますね。

鈴木:そうですね。海外のレストランで、無料のお水と有料のお水のメニューがあるように、お茶に関しても、良いものにお金を払って楽しんでいただきたいという想いがありました。食事の際のノンアルコールドリンクの新たな選択肢としてのブランディングのこだわりを、協働プロの皆さんと一緒に表現していくプロジェクトでした。

高級ボトリングティー「CBT」- ECサイト


鈴木:シーズン3では、社内のSNSコミュニケーションがテーマでしたね。社員のSNSへの感度やアンテナの高さに課題があると感じていたため、全社的に社員を巻き込み、SNSのリテラシーと発信力を高めていくためのマルチ勉強会を半年ほど行いました。この取り組みから、丸七製茶の自社noteが立ち上がり、社員一人ひとりが個人のSNSアカウントで発信することで、営業時のコミュニケーションの質が向上したり、店舗業務への他社員の理解が深まるなど、ポジティブな影響がありました。プロ人材としては、地方メーカーのSNSプロモーションの支援実績が豊富な浅井南さんに加わってもらい、個別のSNS投稿の添削なども行っていただきました。



郡司:そして直近のシーズン4が、東京事務所の移転プロジェクト並びに、店舗のカフェメニュー開発プロジェクトです。単なる事務所ではなく、1階にカフェと物販を併設し、情報発信基地や人的交流の生まれるスペースとして活用していくというコンセプトの構築を行いました。また、カフェの立ち上げにあたって目玉となるカフェメニューの開発もご一緒させていただくことになりました。

そこで、このプロジェクトでは老舗食品企業との協働実績が豊富な相川知輝さんと、大手外食チェーン等で商品開発実績のある松尾琴美さんという2名のプロにジョインしてもらいました。

ーー4シーズン全てテーマが違いますね。

鈴木:そうなんです。プロジェクトのテーマがシーズンごとに変わる中で、都度、そのテーマに最も適したプロ人材でチームを組成していけることが、協働日本の強みであり、長くお付き合いさせていただいている理由の一つになっています。例えば、シーズン4の途中でカフェでの新商品開発という文脈になった際、すぐに商品開発実績のある松尾さんに加わってもらうといった、柔軟なチーム組成をしていただきました。

郡司:丸七製茶さんの向き合う課題の優先度が、企業フェーズに合わせて変わっていく中で、私たちもメンバーの強みを組み替えられたのは良かった点ですね。

鈴木:そうですね、協働日本にはいろんな人がいますから、課題に合わせて「こんな人いない?」と相談できるのがすごくいいですね。

売上の変化だけではなく、ブランド価値そのものに向き合っていく

ーーこれまでの取り組みの中で、特に大きな成果や変化についてお聞かせいただけますでしょうか。

鈴木:定量的な成果としては、ボトリングティー「CRAFT BREW TEA(CBT)」の売上が、協働をスタートした2020年当初と比べて、約200%に伸びています。

郡司:200%とはすごいですね。

鈴木:ただ、単なる数量や金額よりも、ブランド価値としての成果が大きいと感じています。今では、日本にあるミシュラン店の1割以上、そして国内外のラグジュアリーホテルの大半と取引できるようになっています。
かつてはお茶は「無料」が当たり前で、日本茶でお金を取るというのは考えにくい時代でした。しかし今、当社のブランド商品が、日本の高級料理店やホテルに流通しているという存在感こそが、歴史的になかった価値だと感じています。

ーープロジェクトを通じてお茶に対する社会的評価を高める一助を担われているのですね。

鈴木:はい。他のボトリングティーはEC販売で高級品として手作りで売られているものが多いのですが、当社の場合は、飲食店で扱ってもらうための価格帯(1本5,000円以下)を維持しつつ、安定した高い品質で供給できる体制を整えています。これがホテルなどで扱われる上での大きな強みになっています。

郡司:まさにおっしゃる通り、お酒などのように、“お金を払って”お茶を飲むという文化をつくる挑戦の中で、CBTは“新しいお茶の市場そのもの”を切り拓いていますよね。

鈴木:また、SNSの取り組みは、社員のデジタルスキルやビジネスパーソンとしてのレベルアップのきっかけとしても重要だと捉えています。地方企業は車社会で、社会的な交流が少ないという背景があります。特に高校卒業後すぐに就職した若い層にとって、企業人としての外部との交流機会が不足していることが課題だと考えています。

郡司:地方で課題を抱える経営者の方は、鈴木社長と同じ悩みを抱えている方が多いですね。外部の風を吹かせたい、社員の話し相手になってほしい、というニーズが非常に高いです。協働日本のプロ人材が外部の「よそ者」として入ることで、社員の方々が外部と繋がったり、社内だけでは生まれないアイデアやマインドの変化が起こることに期待されている。ある種の「接着剤」のような役割も担っているのかもしれません。

鈴木:そういった、社員が外に目を向けるためのコスト投下は、ROI(投資対効果)が見えづらいため、なかなか決断しにくいと思うんです。しかし、若い頃にどんどん外に連れ出したり、外部のプロと壁打ちさせて成長させることが、中長期的に見て必ず良い仕事に繋がると私は確信しているので、協働日本さんとの取り組みを継続しているという面もあります。

郡司:ご支援させていただく中で、社長の期待に応えようと社員の方がしゃかりきになって成果を出されるケースも協働日本には多いですね。結果として「自分だけでなく、社員にも伴走してもらえたことで大きな変化が生み出せた」とおっしゃっていただくことも多いです。

鈴木:また、直近の成果としては、東京事務所移転プロジェクトで誕生した“抹茶研究所”があります。“抹茶研究所”は売り込みに行く営業ではなく、潜在需要のあるお客様に来ていただくための情報発信基地です。物販の売上は、以前の事務所が安売りだったのに対し、現在は定価販売で売上は150%になっており、利益ベースではさらに大きな成果となっています。浅草橋という立地と、“抹茶研究所”というブランディングが功を奏しているのではないかと感じています。


鈴木:店頭のイートインスペースでのカフェメニュー開発では「抹茶マンタロー」も誕生しました。夏のパリのカフェで定番のミント水「マンタロー」に着想を得て、伝統的なミントの爽快さと抹茶の奥深さを結びつけて生まれたメニューです。伝統を大切にしながらも、時代と共に進化し続ける抹茶の新しい可能性を提案できる、当社らしいメニューになったのではないかと思います。

イートインスペースで提供する新商品開発のプロジェクトで生まれた「抹茶マンタロー」


プロジェクト継続が外部との「接点機会」を形成。社内に新しい風が吹き込む

ーープロ人材の活用を通じて、率直に感じたことを教えてください。

鈴木:やはり、いろんな意味で人が交流するところで何かが生まれていると感じています。皆さんといろいろ議論しながら方向性を探る中で、ふと、思いもよらないようなキーワードが出てくることがあり、「それ面白いね」「これ誰か一緒にやってくれる?」と相談できる機会が、とても大事だと思っています。

ーー先ほどお話いただいた「人が交流する」ことの醍醐味かもしれませんね。

鈴木:そうですね。同じ方向性を向いて集まったメンバーで行う雑談では、得られる情報も意外と多いと感じています。情報化社会の中ではとにかく情報が多すぎて、自分にとって必要な情報を得ることが意外と難しいのですが、プロ人材には情報感度の高い方が多いため、最近こんな新しいサービスが始まった、というお話や、こんな事例がありますといった情報との「接点」を提供してくれます。こういった「接点」を作る役割を担って頂けることも、非常に重要だと思います。

そもそも新しい事業、プロジェクトを組んでも、成功するのはごく一部というのは当たり前だと思っていて、むしろ実行し続けていく中で次の打ち手が生まれることに価値があると考えています。協働日本では、大手企業の第一線で成果を出している現役の方をプロ人材としてアサインしていただけるため、「こんなことをやりたいのだけど、一緒にやってもらえる人はいないですか?」と相談したときに、適切な人材を紹介していただき、継続的に様々なことにチャレンジできることが魅力的です。事業や環境が変化していく中で、熱意溢れる優秀なプロ人材にいつでもアクセスできる機能は、非常に価値があると感じています。
スポットコンサルではなく、プロジェクトを「自分事」として捉え、一緒に伴走してくれるプロの存在が、社内に前向きな変化を生み出しているのだと思います。

熱意ある優秀なプロ人材と企業を繋ぐ。人と人との接着剤となる協働日本

ーー最後に、協働日本へのメッセージや、今後の期待をお聞かせください。

鈴木:今後もやりたいことは次から次へと生まれてくるのですが、なかなか社内に人的リソースがないというのが現実です。だからこそ、「こんな人いない?」と相談し、紹介していただける機能は、ありとあらゆる中小企業で必要とされていると思います。

協働日本さんには、今後ますます中小企業が頑張っていくためのレベルアップに貢献してほしいです。

「この人によりプラスになってほしい」というお互いの思いが、人と人の関係性から新しいものを生み出すような気がします。協働日本さんがそういった「接着剤」のような役割を果たし、私たちもそれを活用して、今後も進化していければいいなと思っています。

郡司:ありがとうございます、今後ともよろしくお願いいたします!

鈴木:こちらこそ、よろしくお願いいたします。


鈴木 成彦 / Shigehiko Suzuki

1964年生まれ。商社勤務を経て1989年丸七製茶㈱入社し、現在代表取締役社長。

90年半ばより日本茶が栽培されているすべての茶産地を把握すべく全国各地の茶産地視察を始める。
同時にテイスティング用語を豊かにするためにワインを学び始め、利き酒師、ビールテイスター、スペシャリティコーヒー協会に加盟しコーヒーマイスターなどの資格を取得するなど日本茶だけでなく幅広い飲料、食品の知見から日本茶の商品開発などを行う。

日本茶インストラクターだけでなく、ワインサロンにて日本茶講師を務めるなど日本茶の消費拡大などにも精力的に活動。

2025年度、静岡県茶商協同組合の副理事長、日本茶審査技術競技大会において高段位を授与された39名で構成される日本茶鑑定士協会会長に就任。

協働日本事業については こちら

VOICE:松尾 琴美 氏 -食を通じて、皆の幸せを実現する。ワクワクして前に進めるきっかけ作り-

VOICE:たかはし じゅんいち 氏 -パートナーの想いを形にする、「一歩先の写真」を追求-

VOICE:協働日本 相川 知輝氏 – 日本のユニークな「食」の魅力を後世に伝えていきたい –


STORY:荒木陶窯 -「ワクワクする薩摩焼をつくる」鹿児島の文化を紡ぐ窯元が、その本質的価値を追究-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、現代の名工、荒木陶窯 第15代玉明山 荒木秀樹氏と、奥様であり同社取締役の荒木亜貴子氏、そして伴走支援を担当した協働プロの田中友惟氏にお越しいただきました。

荒木陶窯は、約425年の歴史ある薩摩焼の窯元です。伝統的な薩摩焼の器を買い求めるお客様が全国から訪れる他、個展の開催を各地で行うなど薩摩焼の制作販売を行っています。薩摩・鹿児島の伝統文化の担い手として、薩摩焼の流派の一つである「苗代川焼」の保存のため、苗代川焼伝統保存会の運営や、次世代に伝統を伝えていく活動も積極的に行っています。

そんな伝統ある窯元も、生活様式や購買行動の変化によって従来の販売形式や作品の見せ方を変える必要に迫られ、顧客へのアプローチに課題を抱えていました。荒木陶窯の魅力をどう表現すれば購買に繋がるのか──協働プロと共に今一度荒木陶窯のありたい姿を考えることに挑戦されました。

今回は協働日本との取り組みのきっかけや、支援を通じて生まれた変化についてお聞きしました。さらには今後の複業人材との取り組みの広がりの可能性についてメッセージもお寄せいただきました。

(取材・文=郡司弘明)

鹿児島県 令和4年度「新産業創出ネットワーク事業」発表会の様子(右:荒木秀樹氏、左:荒木亜貴子氏)

これまでの「当たり前」と向き合い、ありたい姿の徹底的な言語化

ーー本日はよろしくお願いいたします!まずは協働日本との取り組みがスタートしたきっかけを教えていただけますか?

荒木 亜貴子氏(以下、亜貴子):協働がスタートする前年にHPのリニューアルをして、ECサイトについても活用方法を考え直したいと思っていたんです。相談先を探して情報収集をしていたところ、鹿児島県とも事業を進めている協働日本のことを知りました。鹿児島県在住の協働プロである浅井南さんに実際にお会いした際に、「協働日本の伴走支援は荒木陶窯さんに合うんじゃないかな?」と仰っていただいたんです。ちょうどこれからの時代の変化への不安から、チャンスがあれば色んなことにチャレンジしたいと思っていたタイミングだったので、すぐにお願いすることに決めました。

そこから協働がスタートして7ヶ月間、本当にあっという間に過ぎていきました。

ーーなるほど、タイミングがとてもよかったんですね。具体的にどんなお取り組みをされていたのでしょうか。

亜貴子:はい。週に一度、オンラインミーティングをお願いしていました。目先の課題はECサイトの活用についての悩みだったのですが、蓋を開けてみると、さらに大きな2つの課題を抱えていることがわかりました。1つは、購買層の変化や購買チャネルの変化により、顧客への有効的なアプローチ方法がわからなくなっていたこと。そしてもう1つは、荒木陶窯の魅力をどう表現すれば購買に繋がるかわからないという点です。そこで、まずは基本に立ち返るため、オンラインミーティングで「荒木陶窯のありたい姿や価値を言語化」していくことになったんです。

最初は協働プロとして藤村さん、枦木さんを中心にミーティングに入っていただきました。オンラインが中心ではありましたが、時折実際に工房までお越しいただいて、実際に作品を見ていただいたり対面でディスカッションをしたりして、対話を深めていきました。

実際のところ、荒木陶窯のこと、作家の想い、普段の様々な仕事のこと…全てのことについて改めて言語化する作業はなかなか大変でした。毎週のミーティングでは、協働プロから「問い」をいただくんです。自分たちの想いは?製品の良さは?──今まで当たり前のこととしてじっくり考えることのなかったものばかりでした。普段の業務の中ではなかなか時間も取れず考えもまとまらないので、車での移動時間のような隙間時間にずっと考えていました。答えなんて出ないんじゃないか…と思うこともありましたが、不思議なことに考え続けて1週間が経つ頃には「これだ」というものが思い浮かんでくるんです。

浮かんできた答えを持ってミーティングに臨み、それに対してまた新たな「問い」をいただく。この繰り返しでどんどん荒木陶窯業のありたい姿、本質的な価値の解像度を高めていきました。言語化を続けていって最終的に辿り着いた、私たち荒木陶窯のありたい姿、本質的な価値は「作り手も使う人もワクワクする薩摩焼をつくる」ことでした。

左:田中友惟氏、右:荒木亜貴子氏

ーー協働プロである田中さんから見て、亜貴子さんの言語化の過程はどのように映りましたか

田中友惟氏(以下、田中):亜貴子さんのすごいところは、どんどんレベルアップするところなんです。問いに対して深掘りを続けていくと、問いに対する答えの質であったり、表現の仕方が、前の週では絶対に出てこなかっただろうなというものに進化している。本当に事業、そしてご自身と向き合って考え抜いた結果なのだと思います。

ーー協力し合いながら真剣に深掘りをされていったのが伝わってきます。「ワクワクする薩摩焼」というキーワードに到達するまでには、どんな道のりがあったのでしょうか。

亜貴子:ここに至るまでにはまず、作り手である主人が「どんな思いで作品を作っているのか」ということを引き出さなくてはいけなかったんですが、そこに難航しました(笑)そこで、協働プロとのミーティングの中で出てきた主人の言葉を思い出しながら、キーワードをとにかくたくさん書き出してみたんです。「あんなこと言ってたよね」と書き出しては「でもこれが本質的な価値なのかな?違うな」と自省しては全部消して、という作業を繰り返していって……最後にパッと浮かんできたキーワードが「ワクワク」でした。

ーー作り手である秀樹さんの「ワクワク」ということですか?

はい、初めはそういった作り手側の「ワクワク」の意味で思い浮かんだ言葉だったのですが、作り手側の想いを表すのと同時に、作品のプロモーションをしていく私自身の「ワクワク」であったり、手に取ってくださるお客様の「ワクワク」にも繋がっていくんです。
悩んでいた顧客層へのアプローチや作品作りの方向性など、全てを網羅する、軸になる言葉だ!と思いました。

田中:実はこの「ワクワク」というキーワードは、秀樹さんと私たちが個別にお話ししている時にも出てきていたものなんです。とても印象的だったので覚えています。「ワクワクする薩摩焼」が、ご夫婦の共通する秘めた想いだったのかもしれませんね。

荒木 秀樹氏(以下、秀樹):言語化の作業は全て妻に任せていて、その中で自分の想いはなかなか言葉にできなかったですし、自分が過去に「ワクワク」という言葉を使ったことも実はあまり覚えていません(笑)でも、やはり作品を前にすると熱く語れる部分があるので、作品について話をしている時に自然と想いが溢れていたのかもしれませんね。協働プロという外部の人が入ってくれたからこそ、夫婦二人では普段語ることのない部分を引き出してもらえたように思います。

協働プロとのオンラインミーティングの様子

協働を通じて、過去の自分たちにも、この先歩む未来にも、自信を持てるようになった

ーー言語化した後、実際の業務にも変化はありましたか?

亜貴子:はい。ある程度の言語化ができてきたところで、今度はそれをどう活かすか?という議題に変わっていきました。

言語化した荒木陶窯のコンセプトをブランドガイドラインに落とし込み、表現の指針として可視化。それを元に、顧客へのアプローチを変えていったんです。具体的には、ECサイトの写真や、展示会での作品の見せ方を変えています。協働がスタートする前は作品をシンプルに見せるようにしていましたが、荒木陶窯の魅力や商品の「ワクワク感」が顧客に届く設計に変えたんです。例えば食器だけを写した写真ではなく、食べ物を盛り付けした写真を使用することで、利用シーンを想像してお客様に「ワクワク」してもらえるようにしています。写真をリニューアルする際にも、協働プロとして活動されているフードコーディネーターの方にもご協力いただいて撮影しました。おかげさまで、食事風景がリアルに思い浮かぶような「ワクワクする」素敵な写真になりました。

展示会でも、こういった写真をポップとして活用したことでお客様との会話のきっかけにもなり、ただ食器を展示していた時に比べてコミュニケーションの質が向上していきました。

「顧客視点」、「言語化した魅力を伝える」ことを意識するように工夫することで、徐々に売りたい商品が売れるようになっていっている実感があります。

利用シーンを想起して「ワクワク」できる写真へ

ーーなるほど。元々迷っていらっしゃったECサイトの活用や顧客へのアプローチも「荒木陶窯らしい」ものに変化したんですね。作品作りにおいても何か変化はあるのでしょうか?

秀樹:そうですね。実は元々、作品作りの転換期でもあったんです。展覧会に出すような大作はずっと命懸けで作っていましたが、大型の壺などがほとんどで、日常生活にあまり馴染みがなく、気軽に手に取ってもらえるようなものが少なかったんです。もっと多くの人に薩摩焼の良さを知って欲しいと考えていたので、伝統も守りつつも、手に取ってもらえるような新しいものも作りたいという想いを持っていたんです。

亜貴子:主人がぽろっとその想いを口にしたことがあって。伝統ある薩摩焼を、もっと気軽に手に取ってもらえる、使ってもらえる、というアイディアはとてもいいなと思いました。そこで、数年をかけて「テーブルウェアを作ってみない?」と説得したんです。

結果として、できあがった食器はモダンでいいねと選んでもらえるようになったので、挑戦してよかったと思っています。

秀樹:そんな転換期において、ターゲットが定まっていなかったのもあって、なんとなく「綺麗なものや華やかなものが売れるのでは?」と考えて「売れそうなもの」を作ってみたのですが、作り手である私は全然ワクワクできなかったんです。やっぱり作り手自身がワクワクしていないと、良い作品にはならない。「作り手も使う人もワクワクする薩摩焼をつくる」というコンセプトは、作品作りにおいてもすごく腑に落ちる言葉でした。ワクワクしながらより良い作品を作っていこうと自信を持って思えるようになりました。

ーー振り返ってみると、これまでも「ありたい姿」でいたことを実感されたんですね。

亜貴子:そうですね。これまで考えていたことも間違いではなかったんだと思えたんです。また、ターゲティングや顧客へのアプローチについて悩んでいた頃は、あれもこれもと手を出さずに何か一つに絞らなくてはいけないのかな?とも考えていたのですが、ガイドラインを作ったことによって「ワクワクできる」なら、どんなものでも挑戦していいんだ、それが新しい「秀樹の荒木陶窯らしさ」なんだ、と胸を張れるようになりました。

「これまで」と同じように「これから」も、自信を持ってワクワクする作品を作り、ワクワクしながら手に取ってもらえるようにしていきたいと思っています。

伝統的な薩摩焼の一つ「白薩摩」は、白地に絵付けをしたものがメジャー。荒木陶窯では、絵付けではない「彫文」や「波文」という、形で魅せる新しい表現に挑戦している

未知の取り組みだった「複業人材との協働」は、永く繋いでいきたい「人と人」の縁になった

ーー都市人材や、複業人材との取り組み自体には、以前から興味はありましたか?

亜貴子:そういった働き方があるということを、実は知らなかったんです。でも実際に取り組みを経験してからは画期的な仕組みだと思っています。田舎にいて、主人としか話さない日々を過ごしていると、世の中から離れていきますし、顧客層の考えからも遠くなってしまいます。ビジネスシーンの第一線で働く人の考えを聞くことができたのは、私にとってとても刺激的でした。他の企業の方に、「どうだった?」と聞かれたら、迷いなくよかったと伝えられます。

秀樹:やっぱりお一人お一人が魅力的だったのが印象に残っています。皆さんとの対話の中でそれぞれのバックグラウンドが見えてくる。そこからも学べることが多かったと感じています。

陶芸という商品の性質上、コストが減った、売上が倍増した、などの具体的な結果をすぐに出すためのものというよりも、この経験がこれからの人生に活きる、自分に対する投資という感覚も大きいです。

ーー最後に、それぞれへのエールも込めてメッセージをお願いします。

亜貴子:これからもどんどん需要が増えていくのではないでしょうか。コロナがあったからこそ、遠方の複業人材ともオンラインで繋がって取り組みを進めるという形も皆抵抗なく受け入れることができると思います。私も受け入れた結果「こんなに便利な世の中になったんだ」と思えましたから。

協働日本の皆さんは、ますます活躍されると思います。 

秀樹:皆さんと知り合うことができて、とても刺激的で楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。半年強という時間は短かった。3年、5年と続けていきたいご縁です。

何年か経ったらまた改めて協働をお願いしたいと思っています。それぞれ更に進化されて、学びも楽しさも、更に大きなものになっているだろうと考えるととても楽しみです。

田中:7ヶ月間本当にありがとうございました。鹿児島県出身である私自身も知らなかった更なる薩摩焼の魅力や歴史を改めて学びながら、鹿児島の伝統工芸と向き合うことができて、とても貴重な機会になりました。知れば知るほど魅力が溢れる荒木陶窯さんの作品、私も一人のファンになりました!

これからも荒木陶窯さんから生み出される「ワクワク」を、私もワクワクしながら楽しみにしております!

ーー本日はインタビューへのご協力、ありがとうございました。

秀樹・亜貴子:ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

荒木 秀樹 Hideki Araki

荒木陶窯 15代 代表

1959年11月1日生
1983年 日本大学芸術学部美術科彫刻専攻卒
1985年 同大学研究課程修了
2020年 苗代川焼・朴家15代襲名
2020年 「現代の名工」卓越技能者厚生労働大臣表彰
日本工芸会正会員
日本陶芸美術協会会員・日本伝統工芸士会会員
鹿児島県美術協会会員・苗代川焼伝統保存会会長

https://shop.arakitoyo.com/

荒木 亜貴子 Akiko Araki

荒木陶窯 取締役

荒木秀樹の妻。平成18年より取締役として経営に携わる。
ブランディング、マーケティング、作品の販売などの業務を担い、荒木陶窯の作品作りを支える。

「荒木陶窯」様の事例を含む、鹿児島県での地域企業の協働事例はこちら

協働日本事業については こちら

本プロジェクトに参画する協働プロの過去インタビューはこちら
VOICE:協働日本 枦木優希氏 -本質的な「価値」を言語化し、歴史ある老舗企業の未来に貢献していく –

VOICE:協働日本CSO 藤村昌平氏 -「事業づくり」と「人づくり」の両輪-