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STORY:紬レザーかすり 川畑 裕徳氏 -大島紬の魅力を後世に残したい。価値創出の仕組みづくりを通じて粗利3倍、チャンスが広がった-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

鹿児島県の奄美大島を中心に生産されており、世界三大織物にも数えられる伝統織物「大島紬」。この大島紬が現在、職人の高齢化や担い手の不足、若者の着物離れも相まって、生産量の減少が続いています。

今回は、奄美大島でこの「大島紬」を活かした事業展開をされている、「紬レザーかすり」の川畑裕徳(かわばた・ひろのり)さんにお越しいただきました。

インタビューでは、協働プロジェクトに取り組み始めたことで生まれた変化や得られた学び、今後の展望についてお話を伺いました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


大島紬の魅力をどう広げ、残していくか。模索する中で出会った想いを共有できるパートナー

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、川畑さんが展開されている事業、「紬レザーかすり」について教えていただけますか?

川畑 裕徳 氏(以下、川畑):よろしくお願いします。
私が運営している「紬レザーかすり」は、本場奄美大島紬とレザーを融合させた小物製品を展開しているブランドです。
伝統工芸である大島紬をより身近に感じてもらいたいという思いから、「日常に溶け込む大島紬」をコンセプトに、バッグや財布、カードケースなどのレザーアイテムを製作しています。

最大の特徴は、革の裁断から縫製まで、すべての工程を私1人が手作業で仕上げていることです。そのため一つひとつ、ほぼ一点ものに近い特別なアイテムとして商品を仕上げています。

さらに、革の色や糸の色、大島紬の柄を自由に選ぶことができるため、お客様だけのオリジナル商品を作ることが可能です。普段から贈り物として選ばれることも多く、特に20代から60代の女性の方々にご好評いただいています。

ーーなるほど、よろしければ川畑さんがこの事業を立ち上げたきっかけなどお聞かせください。

川畑:ブランドを立ち上げるきっかけとなったのは、2005〜2006年にオーストラリアを訪れた際の体験です。アボリジニの伝統楽器「ディジュリドゥ」とドラムやベース、サックスといった現代楽器が融合する音楽に強く惹かれ、その衝動から「伝統とモダンの融合」をテーマにしたデザインを考えるようになりました。

その発想が形となり、大島紬とレザーを組み合わせた商品が生まれました。

「紬レザーかすり」を通じて、奄美大島の温かみや雄大さを感じていただきながら、日常の中で大島紬をより身近に楽しんでもらえたら嬉しいですね。

ーーどんなことに事業の難しさを感じていましたか?

川畑:事業を始めた当初は、さまざまな壁に直面し、その都度課題を痛感していました。特に大きな課題のひとつは、生産規模の限界でした。

当時は一人で運営していたため、作業の効率化や量産化が難しく、需要があっても供給が追いつかないという状況が続いていました。もっと多くの人に届けたいという思いがありながらも、体制面の問題で思うように展開できず、もどかしさを感じていました。

また、商品の魅力をどのように伝えるかという点でも大きな悩みがありました。自分では良い商品を作っているという自負はあったものの、それをどう言葉やビジュアルで表現し、消費者の心に響かせるかが分からず、販売促進の面で試行錯誤していたのです。

SNSの活用にも挑戦し、Instagramなどで発信を続けていましたが、フォロワーが増えても売上には直結せず、ただ発信するだけでは十分ではないことを痛感しました。実際に購買につなげるための導線をどのように設計すればよいのか、明確な答えが見えず、模索する日々でした。

さらに、コロナ禍という特殊な状況の中では事業の戦略を立てること自体が困難でした。
市場の変化が予測しづらいことからこれまでのやり方が通用しなくなる場面も多く、どのように適応し、事業を継続していくべきか、常に試行錯誤していました。

また、商品の付加価値をどのように高め単価を上げていくかという点も大きな課題でした。ただ良いものを作るだけではなく、価格に見合う価値をしっかり伝え納得して購入してもらうには、ブランディングやマーケティングの視点が不可欠でした。しかし当時はその知識や経験が不足しており、どのようなアプローチを取るべきか手探りの状態が続いていました。

こうした課題を一つひとつ乗り越えながら、試行錯誤を重ねることで事業は少しずつ成長していきました。今振り返ると、当時の困難があったからこそ現在の事業の基盤ができたのだと実感しています。

ーーそんな中で協働日本とのお取り組みがスタートしたのですね。そのきっかけについて教えてください。

川畑:そうなんです。きっかけは、すでに協働日本さんとの取り組みを始めていた静岡の企業さんからのご紹介でした。

私は個人事業主として一人で仕事に取り組む時間が多く、いわゆる会社員の方と違って身軽で動きやすい一方、事業についてじっくりと相談・壁打ちできる相手がいませんでした。

また当時、これから大島紬の魅力をどうやって広げていくかという課題を感じていた中で、同じ想いを共有し一緒にプロジェクトに取り組めるパートナーがいれば嬉しいなとぼんやり考えていたところでした。

タイミング良く繋がることができ、さっそくお話を伺ってみると、多種多様な人材が所属している協働日本の体制や、進行中のプロジェクトのお話にとてもワクワクしました。

ーーありがとうございます。協働日本に所属しているのは、熱意と専門性を持った複業人材が中心ですが、そういった人材とのお取り組みも初めてのものでしたか?

川畑:そうなんです。複業人材と言われる方々との取り組み自体も初めてでした。

普段は地元の奄美大島を中心に活動をしているので、島外の、しかも自分の知らない領域で活躍されている方々からいろいろな話を聞けると伺って、それも楽しみでした。

各領域で活躍するプロ達が集う協働日本さんとの取り組みから、自分の持っていない新しい視点でのフィードバックをたくさんいただけそうだという期待を感じたことを覚えています。

ーー協働日本との取り組みは、川畑さんご自身の変化のきっかけにもなったのでしょうか?

川畑:この取り組みを通じて、私自身の価値観や考え方に大きな変化がありました。特に、脳内がブラッシュアップされるような感覚があり、以前よりも思考の幅が広がったと感じています。

「やってみたら、やれたじゃん」と思える経験が増え、専門家のサポートを受けることで、自分の中になかった引き出しがどんどん開かれていきました。考えるだけでなく、行動に移すまでのスピードが格段に速くなり、マインドセットが大きく変わったと実感しています。

協働プロと週次のミーティングを通じて、あれこれできない理由を探すより、とにかく「やってみよう」という姿勢が身につきました。時には落ち込むこともありましたが、振り返ってみると、この経験が自分を大きく成長させてくれたと感じています。

商品価値の再発見で商品購入の平均単価が、倍以上に伸長。粗利も3倍以上を確保できた。

ーーどんなプロジェクトから協働のお取り組みがスタートしたのでしょうか?

川畑:「紬レザーかすり」の事業をさらに成長させるため、まず最初に取り組んだのは大島紬の小物にどう付加価値をつけ、販路を拡大していくかという課題の整理でした。

特に、インターネットを活用して奄美大島の外にも販売先を広げていきたいと考えていたため、島外への情報発信や効果的な販売方法について協働日本の協働プロの皆さんと議論を重ねていきました。

最初の具体的な取り組みとして、すでに始めていたEC販売サイトの見直しや、InstagramをはじめとするSNS発信戦略の改善を相談しました。しかし、対話を続ける中で、単なる販路拡大だけでなく、自分が生み出している商品そのものの価値を高めることこそが重要であるという結論に至りました。商品そのものの魅力を明確にし、ブランドとしての方向性を再定義できたことが、最初の大きな変化でした。

ーーなるほど。どのようなアプローチを通じて、プロダクトの価値を高めていったのでしょうか?

川畑:具体的には、「オーダーメイドでオンリーワンな商品」というコンセプトを明確に打ち出し、ブランドの強みをさらに伸ばしていくことにしました。従来は財布やカードケースなどの小物が中心でしたが、新たな試みとして、カメラストラップやカバーなど、ホビー領域の商品開発にもチャレンジしました。

これらの商品は、革の色・糸の色・大島紬の柄を自由に選べるため、完成するアイテムは世界にひとつだけのデザインになります。この「自分だけの特別なアイテムが手に入る」という価値を前面に押し出すことで、お客様にとってより魅力的な商品へと進化させました。

また、協働プロとの壁打ちを通じて、「ニッチな世界を見つけよう」という視点を取り入れることができたことも、振り返ってみると大きなポイントでした。単なるシンプルな商品ではなく、「少し高くても自分だけの特別なものが欲しい」という層に向けた戦略を取ろうと最初に注目したのがカメラストラップでした。カメラ愛好者の間では、機能性だけでなく個性やデザインにもこだわる人が多いため、オーダーメイドのカメラストラップは強く響くと考えたのです。

さらに、このコンセプトはバイク用品やゴルフバッグなどにも応用できると考えました。こうした「少し高くてもこだわりのあるものを持ちたい」という市場にアプローチすることで、私自身の既存の技術を活かしながら新たなヒット商品を生み出すことができました。その後も「こんなものは作れませんか?」というお客様からの問い合わせが増え、有名なギタリストからオリジナルアイテムが作れないかと相談が舞い込むなど、ニッチ戦略の手応えを感じるようになりました。

このようなオーダーメイドスタイルを前面に打ち出すことで、「自分への贅沢なご褒美」として、大島紬の魅力を日常に取り入れる機会が増えました。実際に、機能性だけでなく“特別感”や“こだわり”を求めるお客様にとって、カメラストラップやカバーなどは非常に魅力的な商品となっています。

また、従来は観光のお土産品としての用途が中心だった大島紬の小物を、新たな顧客層に向けた商品へと転換することにもつながりました。
その結果、商品の平均単価を約8,000円から約20,000円へと引き上げることができ、同じ労力でもより高単価な商品を販売できるようになりました。粗利も3倍以上となり、ビジネスとしての安定性が大きく向上しました。

オーダーメイドの付加価値を活かして新たな販売戦略を構築することで、これまでとは異なるこだわりの強い層にも大島紬の魅力を届けることができるようになりました。さらに、オーダーメイド型の通信販売という形で島外にも販路を拡大できたことで、“奄美大島の魅力”をより広く発信できるようになったのも大きな成果です。

ーー協働を通じてご自身の変化を感じられることはありましたか?

川畑:そうですね。毎回の対話を通じて、協働プロからいただいた意見や、一緒に決めた方針をもとに「やらなくてはいけないこと」—いわゆる“宿題”—が積み上がっていきました。

忙しい日々の中でも、まずはそれらを着実にこなし、翌週のミーティングで次の“宿題”を持ち帰る。このサイクルを繰り返すうちに、自分自身の仕事のクオリティが何段階も上がったと実感しています。

もちろん「宿題」といっても、新商品開発や新たなチャレンジなど、自分で決めた取り組みに対して伴走支援してもらっているので、いい意味でのプレッシャーを背負いながら走っている感覚です。ひとつずつ目標を達成していくことで打ち合わせもどんどん充実しましたし、「事業が進化している」という手応えを得られたのも大きかったですね。

さらに、こういった協働から得られたものは、単純な新商品の開発や販路の拡大だけではありません。自分自身が生み出している商品への「自信」がこれまで以上についたと思います。こうした自信は、結果的に行動力の向上や、プロダクトのクオリティアップ、お客様との接客スタイルにも良い影響を与えていると感じます。

最終的には、自分のなかで“考えて、決めて、行動する”というプロセスが自然に回るようになり、マインドがガラッと変わりました。常に新しいアイデアや可能性を見つけ出し、自らチャレンジしようとする姿勢が身についたのが、一番の大きな変化だと思います。


命題のために自然とアイディアが浮かんでくる。協働の中で身についた挑戦の姿勢

ーーありがとうございます。その後も新しい取り組みが進んでいると伺いました。

川畑:はい、そうなんです。2024年2月から、新規事業として「Living with Amami project」を立ち上げました。このプロジェクトは、寄付を通じて奄美の自然や文化を守ることを目的とした取り組みです。奄美に関わるさまざまな業種の事業者が、それぞれの販売益の一部を動物保全・自然保護・伝統文化の継承に寄付し、未来へつながるサステナブルな仕組みを作ることを目指しています。

現在、この取り組みに奄美の事業者2社、県外の事業者1社が賛同し、それぞれの形で寄付活動を行っています。私自身も、寄付付きのガチャガチャの販売に取り組んでいます。このガチャガチャは、大島紬×レザーで作ったアマミノクロウサギやウミガメのキーホルダーが当たるもので、1個売れるごとに100円を奄美のウミガメや野生生物の保護活動に寄付する仕組みです。ガチャガチャというカジュアルな形を取り入れることで、楽しみながら環境保全の一端を担っていただけるのが大きな特徴です。

さらに、このガチャガチャにはもう一つ大きな意味があります。「ウミガメの保護活動を知るきっかけ」になり、「日常に溶け込む形で大島紬を身近に感じてもらえる」と同時に、「奄美大島そのものを知るきっかけにもなる」仕掛けになっています。単なるチャリティではなく、奄美の自然や文化への興味を持ってもらうことで、持続的な支援につなげたいと考えています。

ーー素晴らしい取り組みですね。事業としての変化もあったのではないでしょうか?

川畑:はい、ビジネス面でも大きな変化がありました。これまでの手作り製品販売に比べて、接客の時間的なコストが大幅に削減されたのは大きなメリットでした。ガチャガチャという形にすることで、「売り子」を置く必要がなくなり、時間をより商品の製作や新しい企画の立案に充てることができるようになりました。

また、このプロジェクトを通じて「奄美大島で仕事をすること、生きていくことの意義」を改めて強く感じるようになりました。これまで「紬レザーかすり」は職人としてのものづくりが中心でしたが、この活動を通じて社会とつながる仕事へと広がりを持たせることができたと感じています。さらに、作り手を増やすことができ、一緒にモノづくりをする仲間を得られたことも大きな収穫でした。

プロジェクトを進めるにあたっては、奄美空港や地元の水族館、ショッピングモールなどに企画書を持ち込み、設置を交渉しました。これまで職人として手を動かすことが中心だった私が、企画書を作って提案に回るようになったのは大きな変化です。結果として、地元の居酒屋やコミュニティ施設への設置が決まっただけでなく、今後はミュージアムなどの施設への設置も検討されているなど、少しずつ取り組みの輪が広がっています。

今後は、さらに輪を広げて島内外の方々とともに「奄美の未来」を支えていく仕組みを構築していきたいと考えています。
単なる商品販売ではなく、奄美の文化や自然を次の世代につなぐ活動として、多くの人に関わってもらえるプロジェクトにしていきたいですね。ここまで大きな構想を考えている自分を、協働プロジェクト前は想像できませんでした。


ーー奄美の環境や自然に対する思いが、川畑さんの活動を大きく支えているように感じます。奄美ならではの魅力はどんなところにあるのでしょうか? また、その魅力をどのようにプロダクトづくりへ活かしていらっしゃるのか、詳しくお聞かせください。

川畑:奄美の大きな魅力の1つは、自然と固有種が数多く存在することです。山々の豊かな森や美しい海、そこで暮らす希少生物たちが、まさに奄美のアイデンティティを形作っています。

こうした恵まれた環境の中で育ってきたからこそ、「この自然や固有種を守り、次の世代へ継承していきたい」という思いは、私の活動の原動力になっています。実際、私自身はずっと「人も動物も、これからさらに住みやすい島になればいいな」と考えてきました。

大島紬のプロダクトを作りながら、その魅力を広めるだけでなく、奄美という地域そのものに興味を持ってもらうきっかけになれたらと思っています。こうした活動が、自分なりの社会貢献につながれば嬉しいですし、たとえ小さな取り組みであっても、一歩一歩積み重ねていくことが大切だと感じています。

ありがたいことに、地元のメディアでも「ユニークな取り組み」として取り上げていただく機会がありました。メディアを通じて、私たちの活動や想いを発信できたことで、奄美の魅力や課題に触れていただく入り口が増えたのは本当にありがたいです。

多くの方々に知っていただくことで、島の未来を一緒に考えてくれる仲間が増えていけばいいなと勝手に、期待しています。

振り返ってみても、協働日本さんとの出会いは大きな転機でした。新たな価値を発見し、それをお客様に届けるための仕組みづくりをご一緒する中で、私自身、気づかないうちに多くを学んでいたのかもしれません。

そもそも協働日本さんとの出会いは「大島紬の魅力をどう広め、後世にどう残していくか」というテーマを考える仲間を探していたことがきっかけでしたが、そこから具体的なビジネスアイデアや仕組みづくりのノウハウを得られ、新しい事業に挑戦する勇気も湧いてきました。

今こうして、新規事業としてやりたいことを少しずつ形にできているのは、大変うれしく思っています。今後も、地域の皆さんや外部からの応援をいただきながら、奄美の魅力を発信し続けていきたいと思っています。

ーーインタビューへのご協力ありがとうございました

川畑:ありがとうございました!

川畑 裕徳 / Hironori Kawabata

紬レザーかすり 店主

紬レザーかすり(@tsumugi_leather_kasuri) • Instagram
https://www.instagram.com/tsumugi_leather_kasuri/

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。

プロジェクトに取り組むパートナー企業の方と、プロジェクトに参画する協働プロをそれぞれお招きし、協働日本がどのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビュー通して聞いていきます。

鹿児島県の奄美大島を中心に生産されており、世界三大織物にも数えられる伝統織物「大島紬」。この大島紬が現在、職人の高齢化や担い手の不足、若者の着物離れも相まって、生産量の減少が続いています。

協働日本では、奄美大島でこの「大島紬」を活かした事業展開をされている、はじめ商事の元允謙(はじめ・ただあき)さん、紬レザーかすりの川畑裕徳(かわばた・ひろのり)さんと共に、大島紬を後世に伝えていくための活性化プロジェクトに取り組んでいます。

今回は奄美のお二人に加えて、本プロジェクトに参画している協働プロの藤村昌平氏にインタビューさせていただきました。

お三方それぞれから、本協働プロジェクトに取り組んだ経緯や感想、今後の想いを語っていただいたほか、今後の複業人材との取り組みの広がりについても事業者視点から、お話しいただきました。

(取材・文=郡司弘明)

Web会議サービス(Zoom)を用いて元氏、川畑氏、藤村氏へインタビューを行いました。

出会ってすぐにワクワクできる取り組みになる予感があった

みなさん、本日はよろしくお願いします。奄美大島の特産物である、大島紬の魅力をより多くの方に伝え、広げていく本プロジェクト。お取り組みの概要をお聞きして、とても可能性を感じております。ぜひ本日は色々とお聞かせください。

まずは元さんと川畑さんのお二人にご質問です。協働日本と取り組むきっかけについてお聞きしてもよろしいでしょうか?

:今後、大島紬の魅力をどうやって広げていくか、後世に残していくかを考えていく中で、一緒にプロジェクトで取り組めるパートナー候補として、静岡にあるJOINXという企業の担当者からご紹介いただきました。

協働プロの藤村さん、若山さん、協働日本代表の村松さんの3人に実際に奄美大島へお越しいただき、色々なお話をさせていただきました。

川畑:私も元さんと同席させていただき、多種多様な人材が所属している協働日本の体制にとてもワクワクしました。

普段私は、個人事業主として一人で仕事に取り組む時間が多く、身軽で動きやすい一方で、事業についてしっかりと相談・壁打ちできるパートナーが欲しいと思っていました。
そのため、各領域で活躍するプロが集う協働日本さんと取り組むことで、自分の持っていない新しい視点でのフィードバックをたくさん頂けそうだと思いました。

:私も同じ印象を持ちました。専門性を持った方とディスカッションできる、そして事業オーナーの視点で相談ができる機会というのは大変貴重です。
もちろん家族や社員といった、身近な相談相手はいます。しかし彼らとは違った視点で本気で向き合ってもらえるような、伴走してくれる協働プロの存在はありがたいと感じました。

–なるほど。元さん、川畑さんのお二人はこれまで、こういった外部人材や複業人材とのお取り組み事例はあったのでしょうか?

川畑:私は複業人材との取り組みは今回が初めてです。普段は地元の奄美大島を中心に活動をしていたので、島外の複業人材の方々からいろいろな話を聞けるのが楽しみでした。特に今後は、ネットを活用した情報発信に力を入れていきたいと考えているので、様々な経験を持った複業人材からの意見がとても欲しかったです。

:私は過去、企業や学生と一緒に取り組んだ協業プロジェクトはありましたが、複業人材との取り組みは初めてでした。

–川畑さん、元さん、ありがとうございます。元さんが以前取り組んだ、協業プロジェクトはどんなものだったのでしょうか?

:その時は、代官山の蔦屋書店さんと文京学院大学の学生さんと一緒に物販に取り組みました。蔦屋書店さんは場所を提供し、学生さんはゼミ活動の一環として大島紬を取り上げるイベントでした。その時の関わり方は、今の協働日本とのプロジェクトとは逆に、私がサポーター的な関わり方をしていました。

そういった意味で、支援する側の経験はあったのですが、事業に伴走してもらえる形での協業は今回が初めてですね。逆の立場、サポートする側の大変さはよく分かります。

–なるほど。プロジェクトを支援する側のご経験はあったのですね。それだけに今回、協働プロへの期待も大きかったと思いますが、実際に協働日本とのプロジェクトがスタートしてみていかがでしたか。

:プロジェクトの立ち上げ、そして日頃のコミュニケーションなど丁寧にご対応いただきました。もともとECを強化していこうという方向性を持っていたのですが、いきなり実行策に着手するのではなく、そもそものターゲットの絞り込みから丁寧にサポートしてもらいました。

これまでの経験から漠然と捉えていたことをあらためて言語化し、アンケートやヒアリングなど丁寧に行っていく中で、新しい商品の提案シーンなども見つかってきました。裂き織りという技法を活かした「奄美布」の冠婚葬祭シーンへの提案など、BtoBセールスのアイディアは特に、打ち合わせの中でより磨かれていきました。

「奄美布」のもとになるのは、お客さまからお預かりした大島紬等の古い着物。それらの思い出深い品をやさしくほどいて細く裂き、生地をヨコ糸として織り機で織っていきます。思い出の詰まった生地を蘇らせるアイディアとも言えますね。この「奄美布」のアイディアから、お客様の冠婚葬祭シーンのお気持ちに寄り添った提案が生まれていますし、奄美の伝統の大島紬を支える織物としての提案も実現できています。

ひとつひとつ結果を積み上げていったことで、仕事に「自信」を持って取り組めるようになった

–川畑さんにもお話を伺います。今回のプロジェクトを通してどんな変化が生まれていますか?

川畑:私も元さん同様、現状分析をしっかりと行った上で、それに対するアドバイスからスタートしました。今後インターネットを主体に、販売先をどんどん奄美大島以外にも広げていきたいと考えており、島外への情報発信や販売方法を中心に、販売サイト(BASE)の立て直しやSNS(Instagram)での発信戦略など様々なテーマで日々打ち合わせしています。

その中で感じる変化として特に、自分自身の仕事のクオリティが上がったと感じています。協働プロから出た意見やそこで決まった方針をもとに、やらなくてはいけないこと、つまり宿題のようなものが積み上がります。

それを毎回達成しなくては、といういい意味でのプレッシャーが自分自身を引き上げてくれています。ひとつひとつ、やるべきことを達成していくことで打ち合わせも充実しますし、事業の手応えも変わってきます。自分自身、行動力が上がってきたと感じています。

また、自分の生み出している商品、プロダクトの価値を高める方法を見つけられたのもとても大きな変化です。これまでは島内中心にお土産品として販売することが大きかったのですが、その人に合ったオーダーメイドでオンリーワンな商品である特徴を活かした、新たな販売戦略を立てています。

取り組みの中で、これまでになかったカメラストラップやカバーなど、いわゆるホビー領域にもチャレンジし始めました。これにより、こだわりが強く購買力のある新たな顧客層を開拓出来て、商品に高い価値を感じていただき、同じ労力でもこれまで以上に高単価な商品を購入頂けるようになりました。このことは、商品に対する自分の「自信」にも繋がりました。

:私も同じく、協働プロがやったほうがいいことをどんどん提案してくれることがいい意味でのプレッシャーになっており、事業を好転させていると感じます。ついつい、事業オーナーはやりたくないことを後回しにしています部分があるのですが、そこを協働プロの皆さんは上手に、本人がやりたくなるように、アドバイスをしてくださいます(笑)

しかも、そのとおりにやるとちゃんと結果が出る。だから、はじめは面倒だと思っていたことに取り組むことがだんだんと楽しくなってくるんです。細かく成果が上がるのが、やっていて楽しい。結果も出るから、協働プロへの信頼も深まる。今、とてもいい循環が作れていると思います。

「新しい価値」の届け方を一緒に探しに行く

–協業プロの藤村さんにも質問させてください。お二人と協働取り組みは、どんなスタートだったのでしょうか。

藤村:このお話を頂いた際に、大島紬の市場規模が以前は何百億とあったが今ではその百分の一にまで減少しているという話を聞いて衝撃を受けました。目の前の利益や売上の話だけでなく、大島紬という文化そのものの危機なのだという話から取り組みはスタートしています。

そして、従来の着物だけでなく、大島紬を活用した「新しい価値」を生み出そうとしている若い二人のリーダーとプロジェクトをご一緒できるのは光栄ですし、とてもやりがいも感じます。

二人とも別々の事業者という立場ですが、共通して「ハンドメイド」にこだわって事業を展開しています。私からすると、大島紬の歴史的な背景も含めてそこにとても価値を感じます。一方で当事者である側は、その価値を低く見積もりがちだと感じました。だからこそ、その「価値」の届け方、適切な表現などを一緒に探しにいく取り組みが重要だと考えています。

さらに今回のプロジェクトでは、それぞれの協働日本との打ち合わせに、お二人が相互にオブザーバーとして参加していただく形式で進めています。これにより相乗効果も生まれ、取り組みの質もより良くなっていると思います。

–なるほど。普段の取り組み、やり取りの中で感じていることはありますか?

藤村:まだ取り組みの途中ですが、誰にどうやって売っていくのかを見える化していくこと、適切な価値・適切な表現を一緒に見つけに行くことに向き合って、一つ一つ取り組んでいる中で様々な変化を感じます。取り組みを通じて、大島紬の価値が、誰にどこまで広がっていくのか一緒にワクワクしながら取り組んでいます。

お打ち合わせで相談したことも、お二人ともすぐに対応していただけるので、PDCAをスムーズに回せています。そうして色々と試行錯誤できていることもありがたいと思っています。

–この取り組みの中で感じている面白さや、印象に残っていることを教えてください。

藤村:取り扱っているプロダクトが、とても歴史のあるものだという点ですね。私が勤めているライオンという会社も130年の歴史がある会社ですが、大島紬はさらにはるかに長い歴史を持っています。気の遠くなるような長い歴史の中で、若い世代が次の世代にそのものの良さをどうやって伝承していくのかという節目に関われる面白さがあります。

大島紬ならではの良さを活かしながら、加工したり手に取りやすくしたりする試行錯誤の中で、積み上げてきた歴史と、令和の価値観がクロスする瞬間に立ち会えることには特に面白さを感じますね。

自分もまた「複業人材」として活躍していく未来へ

–それでは最後に、元さん、川畑さんお二人へ質問です。これから協働日本、そして協働日本のような地域との協働の取り組みはどうなっていくと思いますか?

川畑:地域の企業はこういった複業人材との協業にどんどんチャレンジするべきだと思います。一人で頭でっかちになって考えるよりも、いろいろな話をしながら、ワクワク感の中でプロジェクトを進めるほうが絶対楽しい。いい意味でのプレッシャーも自分にかけられるので、行動量も増えるので変化も感じやすい。迷っている企業の方がいたら、是非オススメしたいです。

:川畑さんの言葉に重ねて。こういった取り組みを通じて自分自身のスキルを高めていくこと、仕事に自信を持つことが出来ると、次は「複業人材」として他の事業者との協業にも積極的になれると感じています。

自分自身、変化を実感しているので、その変化を周りにも広げていきたいと考えるようになりました。こうして、周りと変化を生み出したいと考える人が増えると、本当に日本が変わっていくような気がしますね。

–素敵なメッセージありがとうございます!今後も想いある地域の企業と、情熱を持ったビジネスパーソンとの出会いの場を、協働日本としても生み出していきたいです。インタビューへのご協力ありがとうございました。

川畑、元、藤村:ありがとうございました!

元 允謙 Tadaaki Hajime

有限会社 はじめ商事 代表取締役

はじめ商事 | 奄美の伝統と技術で新しい物創り
https://hajimeshoji.com/

川畑 裕徳 Hironori Kawabata

紬レザーかすり 店主

紬レザーかすり(@tsumugi_leather_kasuri) • Instagram
https://www.instagram.com/tsumugi_leather_kasuri/

協働プロの藤村昌平氏も参画する、協働日本事業については こちら