協働日本で生まれた協働事例をご紹介する記事コラム「STORY」。
プロジェクトに取り組むパートナー企業の方と、プロジェクトに参画する協働プロをそれぞれお招きし、協働日本がどのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビュー通して聞いていきます。
鹿児島県の奄美大島を中心に生産されており、世界三大織物にも数えられる伝統織物「大島紬」。この大島紬が現在、職人の高齢化や担い手の不足、若者の着物離れも相まって、生産量の減少が続いています。
協働日本では、奄美大島でこの「大島紬」を活かした事業展開をされている、はじめ商事の元允謙(はじめ・ただあき)さん、紬レザーかすりの川畑裕徳(かわばた・ひろのり)さんと共に、大島紬を後世に伝えていくための活性化プロジェクトに取り組んでいます。
今回は奄美のお二人に加えて、本プロジェクトに参画している協働プロの藤村昌平氏にインタビューさせていただきました。
お三方それぞれから、本協働プロジェクトに取り組んだ経緯や感想、今後の想いを語っていただいたほか、今後の複業人材との取り組みの広がりについても事業者視点から、お話しいただきました。
(取材・文=郡司弘明)
出会ってすぐにワクワクできる取り組みになる予感があった
—みなさん、本日はよろしくお願いします。奄美大島の特産物である、大島紬の魅力をより多くの方に伝え、広げていく本プロジェクト。お取り組みの概要をお聞きして、とても可能性を感じております。ぜひ本日は色々とお聞かせください。
—まずは元さんと川畑さんのお二人にご質問です。協働日本と取り組むきっかけについてお聞きしてもよろしいでしょうか?
元:今後、大島紬の魅力をどうやって広げていくか、後世に残していくかを考えていく中で、一緒にプロジェクトで取り組めるパートナー候補として、静岡にあるJOINXという企業の担当者からご紹介いただきました。
協働プロの藤村さん、若山さん、協働日本代表の村松さんの3人に実際に奄美大島へお越しいただき、色々なお話をさせていただきました。
川畑:私も元さんと同席させていただき、多種多様な人材が所属している協働日本の体制にとてもワクワクしました。
普段私は、個人事業主として一人で仕事に取り組む時間が多く、身軽で動きやすい一方で、事業についてしっかりと相談・壁打ちできるパートナーが欲しいと思っていました。
そのため、各領域で活躍するプロが集う協働日本さんと取り組むことで、自分の持っていない新しい視点でのフィードバックをたくさん頂けそうだと思いました。
元:私も同じ印象を持ちました。専門性を持った方とディスカッションできる、そして事業オーナーの視点で相談ができる機会というのは大変貴重です。
もちろん家族や社員といった、身近な相談相手はいます。しかし彼らとは違った視点で本気で向き合ってもらえるような、伴走してくれる協働プロの存在はありがたいと感じました。
–なるほど。元さん、川畑さんのお二人はこれまで、こういった外部人材や複業人材とのお取り組み事例はあったのでしょうか?
川畑:私は複業人材との取り組みは今回が初めてです。普段は地元の奄美大島を中心に活動をしていたので、島外の複業人材の方々からいろいろな話を聞けるのが楽しみでした。特に今後は、ネットを活用した情報発信に力を入れていきたいと考えているので、様々な経験を持った複業人材からの意見がとても欲しかったです。
元:私は過去、企業や学生と一緒に取り組んだ協業プロジェクトはありましたが、複業人材との取り組みは初めてでした。
–川畑さん、元さん、ありがとうございます。元さんが以前取り組んだ、協業プロジェクトはどんなものだったのでしょうか?
元:その時は、代官山の蔦屋書店さんと文京学院大学の学生さんと一緒に物販に取り組みました。蔦屋書店さんは場所を提供し、学生さんはゼミ活動の一環として大島紬を取り上げるイベントでした。その時の関わり方は、今の協働日本とのプロジェクトとは逆に、私がサポーター的な関わり方をしていました。
そういった意味で、支援する側の経験はあったのですが、事業に伴走してもらえる形での協業は今回が初めてですね。逆の立場、サポートする側の大変さはよく分かります。
–なるほど。プロジェクトを支援する側のご経験はあったのですね。それだけに今回、協働プロへの期待も大きかったと思いますが、実際に協働日本とのプロジェクトがスタートしてみていかがでしたか。
元:プロジェクトの立ち上げ、そして日頃のコミュニケーションなど丁寧にご対応いただきました。もともとECを強化していこうという方向性を持っていたのですが、いきなり実行策に着手するのではなく、そもそものターゲットの絞り込みから丁寧にサポートしてもらいました。
これまでの経験から漠然と捉えていたことをあらためて言語化し、アンケートやヒアリングなど丁寧に行っていく中で、新しい商品の提案シーンなども見つかってきました。裂き織りという技法を活かした「奄美布」の冠婚葬祭シーンへの提案など、BtoBセールスのアイディアは特に、打ち合わせの中でより磨かれていきました。
「奄美布」のもとになるのは、お客さまからお預かりした大島紬等の古い着物。それらの思い出深い品をやさしくほどいて細く裂き、生地をヨコ糸として織り機で織っていきます。思い出の詰まった生地を蘇らせるアイディアとも言えますね。この「奄美布」のアイディアから、お客様の冠婚葬祭シーンのお気持ちに寄り添った提案が生まれていますし、奄美の伝統の大島紬を支える織物としての提案も実現できています。
ひとつひとつ結果を積み上げていったことで、仕事に「自信」を持って取り組めるようになった
–川畑さんにもお話を伺います。今回のプロジェクトを通してどんな変化が生まれていますか?
川畑:私も元さん同様、現状分析をしっかりと行った上で、それに対するアドバイスからスタートしました。今後インターネットを主体に、販売先をどんどん奄美大島以外にも広げていきたいと考えており、島外への情報発信や販売方法を中心に、販売サイト(BASE)の立て直しやSNS(Instagram)での発信戦略など様々なテーマで日々打ち合わせしています。
その中で感じる変化として特に、自分自身の仕事のクオリティが上がったと感じています。協働プロから出た意見やそこで決まった方針をもとに、やらなくてはいけないこと、つまり宿題のようなものが積み上がります。
それを毎回達成しなくては、といういい意味でのプレッシャーが自分自身を引き上げてくれています。ひとつひとつ、やるべきことを達成していくことで打ち合わせも充実しますし、事業の手応えも変わってきます。自分自身、行動力が上がってきたと感じています。
また、自分の生み出している商品、プロダクトの価値を高める方法を見つけられたのもとても大きな変化です。これまでは島内中心にお土産品として販売することが大きかったのですが、その人に合ったオーダーメイドでオンリーワンな商品である特徴を活かした、新たな販売戦略を立てています。
取り組みの中で、これまでになかったカメラストラップやカバーなど、いわゆるホビー領域にもチャレンジし始めました。これにより、こだわりが強く購買力のある新たな顧客層を開拓出来て、商品に高い価値を感じていただき、同じ労力でもこれまで以上に高単価な商品を購入頂けるようになりました。このことは、商品に対する自分の「自信」にも繋がりました。
元:私も同じく、協働プロがやったほうがいいことをどんどん提案してくれることがいい意味でのプレッシャーになっており、事業を好転させていると感じます。ついつい、事業オーナーはやりたくないことを後回しにしています部分があるのですが、そこを協働プロの皆さんは上手に、本人がやりたくなるように、アドバイスをしてくださいます(笑)
しかも、そのとおりにやるとちゃんと結果が出る。だから、はじめは面倒だと思っていたことに取り組むことがだんだんと楽しくなってくるんです。細かく成果が上がるのが、やっていて楽しい。結果も出るから、協働プロへの信頼も深まる。今、とてもいい循環が作れていると思います。
「新しい価値」の届け方を一緒に探しに行く
–協業プロの藤村さんにも質問させてください。お二人と協働取り組みは、どんなスタートだったのでしょうか。
藤村:このお話を頂いた際に、大島紬の市場規模が以前は何百億とあったが今ではその百分の一にまで減少しているという話を聞いて衝撃を受けました。目の前の利益や売上の話だけでなく、大島紬という文化そのものの危機なのだという話から取り組みはスタートしています。
そして、従来の着物だけでなく、大島紬を活用した「新しい価値」を生み出そうとしている若い二人のリーダーとプロジェクトをご一緒できるのは光栄ですし、とてもやりがいも感じます。
二人とも別々の事業者という立場ですが、共通して「ハンドメイド」にこだわって事業を展開しています。私からすると、大島紬の歴史的な背景も含めてそこにとても価値を感じます。一方で当事者である側は、その価値を低く見積もりがちだと感じました。だからこそ、その「価値」の届け方、適切な表現などを一緒に探しにいく取り組みが重要だと考えています。
さらに今回のプロジェクトでは、それぞれの協働日本との打ち合わせに、お二人が相互にオブザーバーとして参加していただく形式で進めています。これにより相乗効果も生まれ、取り組みの質もより良くなっていると思います。
–なるほど。普段の取り組み、やり取りの中で感じていることはありますか?
藤村:まだ取り組みの途中ですが、誰にどうやって売っていくのかを見える化していくこと、適切な価値・適切な表現を一緒に見つけに行くことに向き合って、一つ一つ取り組んでいる中で様々な変化を感じます。取り組みを通じて、大島紬の価値が、誰にどこまで広がっていくのか一緒にワクワクしながら取り組んでいます。
お打ち合わせで相談したことも、お二人ともすぐに対応していただけるので、PDCAをスムーズに回せています。そうして色々と試行錯誤できていることもありがたいと思っています。
–この取り組みの中で感じている面白さや、印象に残っていることを教えてください。
藤村:取り扱っているプロダクトが、とても歴史のあるものだという点ですね。私が勤めているライオンという会社も130年の歴史がある会社ですが、大島紬はさらにはるかに長い歴史を持っています。気の遠くなるような長い歴史の中で、若い世代が次の世代にそのものの良さをどうやって伝承していくのかという節目に関われる面白さがあります。
大島紬ならではの良さを活かしながら、加工したり手に取りやすくしたりする試行錯誤の中で、積み上げてきた歴史と、令和の価値観がクロスする瞬間に立ち会えることには特に面白さを感じますね。
自分もまた「複業人材」として活躍していく未来へ
–それでは最後に、元さん、川畑さんお二人へ質問です。これから協働日本、そして協働日本のような地域との協働の取り組みはどうなっていくと思いますか?
川畑:地域の企業はこういった複業人材との協業にどんどんチャレンジするべきだと思います。一人で頭でっかちになって考えるよりも、いろいろな話をしながら、ワクワク感の中でプロジェクトを進めるほうが絶対楽しい。いい意味でのプレッシャーも自分にかけられるので、行動量も増えるので変化も感じやすい。迷っている企業の方がいたら、是非オススメしたいです。
元:川畑さんの言葉に重ねて。こういった取り組みを通じて自分自身のスキルを高めていくこと、仕事に自信を持つことが出来ると、次は「複業人材」として他の事業者との協業にも積極的になれると感じています。
自分自身、変化を実感しているので、その変化を周りにも広げていきたいと考えるようになりました。こうして、周りと変化を生み出したいと考える人が増えると、本当に日本が変わっていくような気がしますね。
–素敵なメッセージありがとうございます!今後も想いある地域の企業と、情熱を持ったビジネスパーソンとの出会いの場を、協働日本としても生み出していきたいです。インタビューへのご協力ありがとうございました。
川畑、元、藤村:ありがとうございました!
協働プロの藤村昌平氏も参画する、協働日本事業については こちら