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Challenge Report:かごチャレ2025年度【第2回】開催レポート|参加者の想いが響き合う現場から

鹿児島県が主催し、公益財団法人かごしま産業支援センターと株式会社協働日本が企画運営を担う「かごしまチャレンジャーサミット(通称:かごチャレ)」。本レポートでは、参加者の挑戦がつながりが広がっていく様子や現場の熱量をお届けします。

(レポート作成=黄瀬真理)

産官学の多様な参加者が互いに語り、”新たな挑戦と共創”が生まれる場

昨今、地域で新事業を創出する取り組みが増えています。そんななか鹿児島県では、あらゆる“挑戦者”が繋がり共創する場「かごしまチャレンジャーサミット」を開催しています。 11月11日の第2回かごチャレにも、県内外から業種・立場が異なる50名以上が集いました。オープニングトークではデザインのプロが登壇。さらに、県内企業に加えて鹿児島大学教授も登場し、研究紹介とともに、老舗でありながら新領域へ挑む鹿児島企業との協創事例が共有されました。異分野が交わることで新たな価値が生まれる、その“掛け合わせ”の手応えも伝わる時間となりました。

第一回目の様子はこちら

   

県内外から多様な参加者が集い、かごチャレが幕を開ける

挑戦者の熱意に触れ、思わず前のめりになる時間

続いてオープニングトークと県内企業3社のピッチが行われました。

【オープニングトーク】ブランドを強くするデザインの本質

オープニングを飾ったのは、株式会社ピクニック 代表取締役  ケイモト シュンスケ氏。デザインの力を独自の視点で語るオープニングトークに、会場の空気が一気に温まりました。

数々の広告賞を受賞されている、プロデザイナー/コピーライター
株式会社ピクニック 代表取締役 ケイモト シュンスケ氏 

   

エンターテイメントやプロスポーツなど分野を越えて、ロゴ・Web・パンフレットなど幅広い領域でデザインを手がけてきたケイモトさん。オープニングで語ったのは、多くの鹿児島県内企業様が関心を持つ“デザインの本質”。

「デザインひとつで、見え方はガラリと変わります。大事なのは、その人や企業が本当に大切にしている“中身”と見た目がきちんと合っていること。ここがズレると、相手に届かない。良い中身を、そのまま伝わる形にする。それがデザインなんですよね」

自社について、こだわりぬいて伝える重要性がひしひしと伝わってきました。

   

【ピッチ】県内企業の挑戦と、研究の知との掛け合わせが示す可能性

続くピッチには、県内から3名の挑戦者が登壇。幼児から高齢者までを一気通貫で支援する障がい福祉事業の宮之原氏、指宿の廃校を再生しクラフトビール醸造所を立ち上げた今奈良氏、そして養殖魚の“心”や行動変化の科学的解明に取り組む塩崎教授です。それぞれの話に参加者が前のめりになって聞き入り、「よし、自分も前に進もう」と背中をそっと押されるような空気が広がっていきました。

障がいの有無によらず、自分らしく幸せに生きられる社会を目指す
株式会社サクラバイオ 代表取締役 / 一般社団法人グッジョブかごしま 代表理事 宮之原 綾子氏

   

1歳半〜高齢者までを一気通貫で支援する障がい福祉事業を展開。「障がい者は1160万人いるのに、働いているのは16%だけ。“働きたい”と“働いてほしい”がつながっていない。」
その現実を前に、同社は教育・アセスメント・コミュニケーション・企業支援まで踏み込み事業展開しています。「“あなたがいてくれて嬉しい”と言われる人を増やしたい」。

   

クラフトビール醸造所 と 廃校キッチン麦と庭 を立ち上げ、地域の未来を育てる
株式会社今宮 代表取締役 今奈良 孝氏

   

指宿の廃校「旧徳光小学校」(144年の歴史ある校舎)をリノベーションし、地域の魅力を生かしたクラフトビール醸造所と地元食材のレストランを立ち上げ。「開聞岳が目の前にあって、観光地もすぐ近くで、ここは“地域の起爆剤”になると思ったんですよ。一方で、異業種からのチャレンジのためとにかく全部が初めてで、毎日が失敗と挑戦の連続です。」

「温泉熟成ビールとか、麦芽粕を使ったスイーツとか、まだまだやりたいことがあるんです。指宿をもっと盛り上げたいんですよね。」

   

魚類の精神的負担を軽減する飼料素材・飼育方法などを研究開発する
鹿児島大学 農水産獣医学域 水産学系 塩崎 一弘教授

   

養殖魚の“心の状態”の科学的な解明に向けて、うつ・不安・社会性の喪失といった行動変化などを研究。
「魚もうつになります。不安にもなるんです。だからゲノム編集で“うつの魚”をつくって行動を調べています。実は焼酎粕を使うと魚の不安が半減し、群れへの適応が早まるなど、養殖の生産性を高める可能性が見えてきていて(※)、一次産業の未来を拓く研究として大きな手ごたえを感じています。」

※鹿児島県企業・株式会社栄電社と共同で、焼酎粕を乳酸発酵させた製品を用いた研究を実施。

パネルディスカッション:挑戦の原点と“想い”が交差した時間

登壇者による「なぜ挑むのか」「どんな壁を越えてきたのか」という話からは、異なる背景から生まれた熱意と覚悟が伝わってきました。デザイナーケイモトさんの視点からは「挑戦には確かな想いがあり、その想いも含めた魅力をどう見せるかという意味で、デザインは力を発揮できる」という気づきが語られました。壁にぶつかりながらも、想いを原動力に前進する皆さんの姿に、会場全体が共感と熱意に包まれる時間となりました。

パネルディスカッションでは、“挑戦の原点”と“乗り越えてきた壁”が語られました。宮之原さんは、障がい者の人が自分の人生を歩める“場所”をつくるために12事業を立ち上げてきた経緯を語り、その覚悟とパワーに会場からどよめきが起きました。今奈良さんは、指宿を盛り上げたい一心で廃校をクラフトビール醸造所へと生まれ変わらせた挑戦と、異分野での苦労を語り、その熱心さにうなずく人が多く見られました。塩崎教授は、“魚の心”という誰も踏み込んでいない領域に挑む理由と研究の面白さを軽やかに語り、笑いと驚きがわく時間に。会場全体が、挑戦を応援するあたたかい空気に包まれていく瞬間でした。


ワークショップで得る、新しい視点

ワークショップではテーブルに分かれ、参加者が「今挑戦していること」を語り合いました。誰かが話し始めると、その想いに自然と皆が引き込まれていきます。

   

   

「もともとこういう想いがあって…」「こういうきっかけで挑戦を始めました」。挑戦の原点に触れる言葉が重なるたび、互いの想いに引き込まれていきます。テーブルのあちこちで、「応援したい」「一緒にやれそうですね」という声が自然に生まれていました。自分の挑戦を語れば、誰かがその想いを受け取り、また別の誰かが「それ、応援したい」と返してくれる。そんなあたたかい循環が会場全体に広がり、挑戦の想いと熱が重なり合う、かけがえのない時間になりました。


400年以上の歴史と新しい挑戦が混ざり、次の価値が芽生える

最後に、昨年度のかごチャレで生まれた“出会い”からはじまった取組みが紹介されました。400年以上の歴史を持つ薩摩焼・荒木陶窯さんと、鹿児島発・移動式スペシャルティコーヒーの販売に取り組むA Way to Coffee の児玉さんによる事業コラボレーションです。コーヒー粕を釉薬に混ぜ、薩摩焼の色づけに活かすという前例のない試み。試作段階の作品が映し出されると、会場ではざわめきが広がりました。この場の出会いから想いがつながり、確かな形として芽を出す——そのプロセスに共感するとともに、未来への期待がふくらみます。


拡がり続ける参加者の輪

イベント終了後のロビーでは、名刺交換や情報交換を続ける参加者の姿が多く見られました。「また連絡します」「次回も参加します」といった言葉が交わされ、参加者同士のネットワークが確実に広がっている様子が感じられました。第2回のプログラムは、そうした交流が自然と生まれる空気の中で終了しました。

参加者アンケートでは、「ここでの出会いが次の挑戦を後押ししている」という声が多数寄せられました。実際に、新しい事業やプロダクト開発に着手した参加者や、会場での出会いをきっかけにプロジェクトが動き始めたケースも確認されています。また、得た知識や視点を組織へ持ち帰り、チームの議論や育成に活かす動きも出ています。

さらに、「視野が広がった」「まずやってみようと思えた」といったコメントも多く、次のステップに向けて行動を始めた参加者も見受けられました。

昨年度から少しずつ育まれてきた“挑戦のつながり”は、今回さらに広がりを見せました。今年度最後となる第3回は、1月29日に開催予定です。オープニングゲストトークには、石川県から老舗の食品企業をお招きし、「変化を乗り越える老舗企業の事業・組織変革」をテーマに、挑戦の裏側や時代に向き合うリアルな知見が共有されます。業種や業界、立場、そして地域を越えたつながりが生まれる「かごチャレ」。そこには、ただ情報を交換するだけではなく、互いの挑戦に刺激を受け、次の一歩へと踏み出す空気があります。

この土壌の上で、鹿児島の持続的な発展に向けた新たな動きが、確かに芽吹き始めています。

   

※株式会社協働日本は地域企業と第一線で活躍するプロ人材が一つのチームとなり、事業変革に伴走します。成果を出すとともに、その先の「自ら変わり続ける力」を育みます。詳細はこちらからご確認いただけます。


主催:鹿児島県 / 企画運営:かごしま産業支援センター、株式会社協働日本

この取り組みに関するお問い合わせはこちら

Mail:ippo@kyodonippon.work

   

Challenge Report:かごチャレ2025年度【第1回】開催レポート|参加者の想いが響き合う現場から

鹿児島県が主催し、公益財団法人かごしま産業支援センターと株式会社協働日本が企画運営を担う「かごしまチャレンジャーサミット(通称:かごチャレ)」。
参加者の挑戦がつながり広がっていく様子を記録し、その意味や魅力をお伝えする記事です。

(レポート作成=黄瀬真理)

立場を超えて挑戦がつながる。多様な人が集うフラットな場

鹿児島県が主導する「新産業創出ネットワーク事業」の一環として、2024年度に発足した「かごしまチャレンジャーサミット(通称:かごチャレ)」は、県内外の参加者が互いの挑戦を知り応援し合うことで、事業創出のうねりを生み出すことを目指す取り組みです。初年度である2024年度には約140名が参加しました。6割が県内、4割が県外や学術機関という多様な顔ぶれが、業種や地域を超えてつながりました。

県内外から多様な参加者が集い、かごチャレが幕を開ける

かごチャレ発の新たな挑戦の循環

県ではこれまでも、補助金支援や伴走型支援、中核人材勉強会などを通じて企業の成長を後押ししてきました。成果を共有し合うことで協業や販路拡大が生まれ、それが更なる新たな挑戦を促します。昨年度のかごチャレでは、そこで出会った4社が合同で、自社商品を活用したポップアップイベント「Glow UP」を開催するなどの動きが生まれました。Glow UPでは、それぞれの強みを掛け合わせて新しい食の体験が創出されました。立ち呑みスタイルで、若い世代や県外の来場者にも焼酎や鹿児島食材の魅力を広げています。
かごチャレは、こうした挑戦が次の挑戦へとつながる“エネルギー連鎖”の場。今年度も全3回の開催を通じてその熱を広げ、鹿児島に新たな動きが芽吹く土壌を育んでいきます。

県内外から集まった多様な参加者

挑戦のストーリーが交差した一日

幕開けとなる初日

2025年度の第一回は、9月26日に開催されました。今回のオープニングゲストトークのテーマは、「グローバル中小企業戦略」。株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役で神田外語大学 客員教授の豊田 圭一氏によるゲストトークを皮切りに、県内企業のピッチ、パネルディスカッションや、参加者交流の場が繰り広げられました。

豊田氏の熱いオープニングトーク
オープニングと県内企業3社の発表

世界各地で挑戦を重ねてきた豊田氏は、「失敗して当たり前。大切なのは続けることです」と語ります。講演では、日本とイタリアに焦点が当てられました。内需が大きい日本に対し、イタリアは内需が小さいからこそ、中小企業が海外市場に挑み続けてきました。その姿勢から学べるのは、「ブランドを磨く」「ニッチで勝つ」「アライアンスで広げる」という三つの戦略です。数多くの挑戦と失敗を経てきた豊田氏の「誰でも一歩は踏み出せる」という言葉には、経験に裏打ちされた重みがあり、会場は熱気と共感に包まれました。

続いて、県内企業3社による新事業のプレゼンテーションが行われました。いずれの発表にも「現場から課題を見つけ、自らの手で形にしていく」熱いエネルギーがあふれていました。

有限会社工房Ryo 
代表取締役 冨田 良一 氏

「持ち上げない移乗機器」を開発。結婚指輪を手掛ける事業からの、まったく異なる分野への挑戦でした。軽量で低コストな仕組みを追求し、日本・米国・中国で特許を取得。お父様の介護という原体験から生まれた“誰かの助けになりたい”という思いが、高齢化という課題に真正面から挑む原動力となっています。

株式会社藤田ワークス 
セールスフロンティアマネージャー 磯脇 武志 氏

板金加工の技術を活かし、「水の揺らぎを金属で表現する」新素材を開発。何百回もの試行錯誤を経て完成した素材は、今では建築空間を彩る新たな表現手法として注目されています。東京での展示会にも継続出展し、製造業から建築業界への挑戦という新たな道を切り拓いています。

株式会社ネバーランド 
代表取締役 加世堂 洋平 氏

鹿児島県長島町で、日本一の生産量を誇る養殖ぶり「茶ぶり」をはじめ、レモンや牡蠣など多彩な地元食材を自社で生産。これらを活かして東京を含む各地に飲食店舗を展開し、地域の魅力を全国へ届けています。顧客の声を起点に、商品開発から生産・流通・販売までを一体で担う仕組みを構築。「あるものを売る」から「売り方を創る」へ。長島町という地域そのものの価値を高めています。


パネルディスカッションで語られた挑戦の原点─自らを駆り立てるものを見つめ直す

パネルディスカッションで登壇者4名が語ったのは、挑戦の背景にある“原動力”。
それは、やらずにはいられない衝動や、できると信じる気持ち、悔しさを糧にする粘り、仲間を想う心─。
立場や分野は違っても、挑戦の源泉はどれも「自分の中にある熱量」でした。

挑戦の原点を語るパネルディスカッション

登壇者のストーリーにふれたあとは、参加者同士がグループで語り合う時間。そこでは、立場や所属を超えて“熱量”や“想い”が交わされ、新たな気づきやエネルギーが生まれていました。

互いの声に真剣に耳を傾ける、グループディスカッションの様子

参加者が語る、かごチャレの価値

実際にかごチャレに参加した方々へのインタビューからも、この場の価値が伝わってきます。

熱量が循環する場」
株式会社下園薩男商店
代表取締役 下園正博氏

グループディスカッションに入る頃には場があたたまり、参加者全員の熱量が最高に高まっていました。

以前「成功した人の話よりも、成功に向けてもがいている人の話を聞け」というアドバイスを受けたことがありますが、この場はまさにそのような場だと思っています。挑戦の過程を共有し合うからこそ、お互いを高め合えるのだと思います。ここからまた新しい一歩を踏み出すきっかけを得られる場だと、いつも期待しています。

普段触れられない“想い”に出会える場」
ハウス食品グループ本社株式会社
品質保証統括部 部長 山本竜太氏

人の想いやパッションそのものに直接ふれる機会は、日常ではなかなかありません。だからこそ、そうしたエネルギーを受け取れるこの場がとても貴重です。グループディスカッションでは、自分の発言に対してフィードバックをもらえたことはもちろんのこと、同じグループの方々の話を聞く中でも「なるほど」と思う気づきが数多くありました。多様な視点にふれることで、自身の思考が深まった感覚があります。

「ごちゃまぜだからこその心地よさ
南大隅町
地域おこし協力隊 原田志穂子

立場や背景を超えたごちゃまぜの場のなかで双方向に語り合える雰囲気が、本当に心地よいです。この場は熱量とあたたかさに包まれていて、そんな場だからこそ本音で話し合えるのだと思います。日常ではなかなか得られない「フラットに、双方向なフィードバック」を与え・受取りあう場が、ここにはあります。


挑戦の循環は次回へとつながる

最後は、Glow UPの次なる挑戦に向けた発表で締めくくられました。回を重ねるごとに食と人、地域がつながり合い、新たな構想も動き始めています。かごチャレから芽吹いた共創の輪が、鹿児島の食の未来をさらに輝かせようとしています。

昨年度かごチャレで生まれたGlowUPの取組み、次回に向けた発表に会場全体がワクワクに包まれる
GlowUPの今後の取り組みに参加者が注目
GlowUP開催時の様子
一人ひとりの想いが響き合い、会場に熱が立ち込める

今年度初回となる今回のかごチャレでは、豊田氏の講演を通じて中小企業がグローバル展開を志す際の視点が共有されるとともに、県内企業の取り組みを知り、一歩踏み出し続けることの大切さを改めて感じる機会となりました。この場をきっかけに参加者同士の対話が広がり、新たな連携や次の挑戦につながる芽が見え始めています。

次回は11月11日に開催されます。オープニングゲストトークのテーマは、「デザイン・ブランディング」。事業やサービスの価値をどう伝え、広げていくか。地域企業にとっても重要な視点が共有される場となる予定です。かごチャレ開催レポートは、挑戦する人がつながり合うことで新たな可能性を育てていくプロセスを、今後も継続的に記録していきます。

※かごチャレの主催は鹿児島県が、企画運営は公益財団法人かごしま産業支援センターと株式会社協働日本が担っています。

※株式会社協働日本は地域企業と第一線で活躍するプロ人材が一つのチームとなり、事業変革に伴走します。成果を出すとともに、その先の「自ら変わり続ける力」を育みます。詳細はこちらからご確認いただけます。

STORY:若潮酒造株式会社 上村曜介氏 – EC売上1,000万円増。お客様が魅力を語り出す!ファンコミュニティ創出の裏側 –

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、鹿児島県志布志市で焼酎を製造する若潮酒造株式会社 取締役の上村 曜介(かみむら ようすけ)氏にお越しいただきました。若潮酒造は、1968年に地元に5つあった小さな蔵が合併して設立されました。以来、地元志布志市の「日常酒」として愛される焼酎を造り続けています。

今回のインタビューでは、地域に根差した伝統的な酒蔵が、協働日本とのプロジェクトを通じてファンベースのマーケティングに舵を切り、組織として大きな変革を遂げたストーリーを、上村氏の言葉で率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

「地元酒」を全国、そして世界へ。ターゲット拡大を目指して

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

上村 曜介氏(以下、上村): 鹿児島には「日常酒」という文化があり、地元の焼酎は地元の蔵が造り、地元の人たちが飲むという伝統があります。若潮酒造でも設立以来、志布志市の日常酒を造り続けてきました。しかし、人口減少や高齢化に伴って地元の消費は年々減っていました。

そこで、地元だけではなく、全国や海外でも飲んでもらえるような新商品の開発や、酒蔵を観光コンテンツとして活用し、地域との関係人口を増やす取り組みを徐々に始めるようになっていきました。
具体的には、蔵見学や直売所の設置、最近では焼酎のブレンド体験ができるコンテンツを作るなど、新しい挑戦をしてきました。

酒蔵という場所は人を呼べるコンテンツでもあるので、地元の人に飲んでもらうだけではなく、県外・海外からも足を運んでもらえる取り組みを進めていました。より「産業観光」に注力して伸ばしていきたいと考えていたときに、ちょうど鹿児島県の事業で協働日本との取り組みを知り、専門家の支援を受けたいと思ったのがきっかけです。

志布志市の若潮酒造の蔵元では、オリジナル焼酎を作れるブレンド体験ができる。
ーー県の事業がきっかけだったんですね。こういった「プロの伴走支援」のスタイルには、最初から抵抗はなかったですか?

上村: 実は以前から、副業人材の方にマーケティングやブランディングを手伝ってもらっていたので、抵抗感はありませんでした。協働日本さんは議事録やスケジュール調整まで、サポーターの方のバックアップ体制がしっかりしていて、非常にありがたかったです。

すでに県内で協働日本とのプロジェクトを進めていらっしゃった株式会社イズミダさんや、株式会社オキスさんなどからの紹介もあり、安心して始めることができました。

「ファン」との対話から見えた新たな活路

ーー協働がスタートしてから、実際のプロジェクトはどのように進んでいきましたか?

上村: 最初は「産業観光をどうするか」というテーマでスタートしました。協働プロとしては、藤村昌平さん(協働日本CSO)、渡辺勝弥さん、協働サポーターとして細川謙一さんに入っていただきました。当初は「産業観光」のロードマップ策定や現状の改善ができたらと期待していたのですが、協働プロの方から「今、すでに志布志まで足を運んでくれるファンの方がいること自体がすごい」「わざわざ志布志まで来てくれる人はどんな人なのか、インタビューしてみたらどうか」というアドバイスをいただきました。

志布志は鹿児島県の中でもアクセスが良い場所ではないので、わざわざ足を運んでくれる人には何か特別な理由があるはずだと。そこで実際にアンケートやインタビューを実施したところ、若潮酒造のお酒に熱い思いを持つ「コアなファン」の存在が明らかになったんです。

ーーそこで方向転換されたのですね。

上村: そうです。「産業観光」よりも、若潮酒造の「ファン施策」に注力した方が良いのではないか、という話になりました。ちょうどその頃、若潮酒造のお酒を飲んでファンになったことがきっかけで入社してくれた地元出身の女性社員がいたので、早速プロジェクトに合流してもらい、一緒に取り組みを進めました。

ーーご自身が若潮酒造のファンという社員の方もファンマーケティングに携わってくださるなんて心強いですね。具体的な施策についても教えていただけますか?

上村: ひとつは、新しいSNSアカウントの立ち上げです。これまでは一方的な情報発信が中心でしたが、双方向のコミュニケーションができるプラットフォームを目指しました。商品開発の裏側の動画や、インスタライブで楽しみ方や飲み方の提案を発信するようにしたのですが、新アカウントのフォロワーは1,000人程度にも関わらず、コメントやDMでのリアクションは、既存の企業公式アカウント(フォロワー6,000人)よりも圧倒的に多く、コアなファンの存在が可視化されていきました。

今までは酒屋さんを通しての販売がほとんどで、飲み手との接点は少なかったのですが、こうやって直接飲み手の方と繋がることができ、「どんな人が自分たちの焼酎を好きになってくれているのか」が見えるようになったのは大きな変化です。

ーーDMで心温まるメッセージが届くこともあったとか。

上村: そうですね。毎年メッセージをつけて販売している焼酎があるのですが、「そのメッセージに救われました」といった声が届くこともあり、心が温まりました。そして、もう一つの施策として、そんな熱意のあるコアなファンの方々をアンバサダーとして迎える「アンバサダー制度」の立ち上げを行いました。この8月から運用をスタートしたばかりです。

ーーアンバサダー制度の立ち上げは、一体どのようなことがきっかけだったのでしょうか?

上村氏: 協働プロに協力していただいて実施したファンの方へのインタビューで、「若潮酒造のお酒の良さを周りに伝えたいけど、同じ熱量で語り合える人がいない」という声を聞きました。そこで、若潮酒造ファンの人たちが集まって語り合える場・コミュニティを作ってはどうか?というアイディアが出たんです。

ーーなるほど。新たな取り組みだったと思いますが、制度の立ち上げの中で壁になった部分はあったのでしょうか?

上村: やはり、『誰を対象に、なぜ今制度化するのか』といった基準・理由づけの整理に時間を要しました。

新しい商品を飲んで感動して蔵にお越しになったコアファンの方も多く、元々若潮の焼酎を飲んでいた、つながっていた人たちはアンバサダーではないのか?なぜ新たに増えたコアファンが中心になるのか?などのレギュレーションを決めていくのには、少し時間がかかりました。

この8月から制度がスタートしたという流れになります。

活動内容としては、コアな若潮酒造ファンを6名くらいアンバサダーに認定、年に1〜2回蔵に来ていただいたり、自社のお祭りである「新酒祭り」でブースを手伝ってもらったり、オンラインで飲みながら語り合う会を開催したりという活動を予定しています。また、すでに自発的に知り合いにお酒を薦めてくれたり、イベントを開催してくれたりする方もいて、とてもありがたいです。

ファンマーケティングがもたらした、数値と意識の大きな変化

ーープロジェクトを通じて生まれた具体的な成果や変化についても教えていただけますか?

上村: そうですね。先ほどお話しした、ファンとの交流用のSNSの開設・運用や、アンバサダー制度の開始自体が一つの成果だったと考えています。SNSでも誘客に関する発信や、焼酎のブレンド体験などの独自コンテンツの発信を進めていったこともあり、売上に関してはオンラインショップと直売所の売上が大きく伸びました。
直売所は、来てくださるお客様の人数が年間で、約2,000人から約3,000人と1.5倍に増えました。オンラインショップの売上は、前年の約1,500万円から約2,500万円(+約1,000万円)まで増加しています。

ーーそれはすごい成果ですね!数値的な成果以外に、組織として変化したことはありますか?

上村: これまで、パレートの法則のように「2割のコアなファンが売上の8割を占める」といったようなコアファンが売上の大半を支えるという話は知っていましたが、今回のプロジェクトを通じて、オンラインショップのデータ分析などを行い、改めてその重要性を会社として認識できました。

この成果を受けて、ファン施策をさらに推進・強化していくべきだという会社判断に至り、「広報部」という新しい部署も立ち上げて、本格的に取り組む体制ができたのも大きな変化です。

ーーメンバーの方に変化はありましたか?

上村: 県の支援で、地域再興に挑む全国にファンを持つ新鋭蔵を視察することになり、秋田の男鹿市の酒蔵に行く機会があったのですが、そこも全国に熱狂的なファンのいる新しい酒蔵でした。

男鹿市自体を再興しようとしていて、酒蔵の経営以外にも、地域活性化に関する様々な取り組みをされていました。地域を盛り上げようとしている蔵の姿に触れ、若潮酒造としても取り組むべきビジョンを社内で共有できたのは大きな収穫でした。

ーー伝統的な会社でありながら、フットワークの軽さを感じます。

上村: これまでは、新しい活路を見出すためにスピーディーに新商品を開発することに注力していました。そうした挑戦的な風土は元々ありましたが、今回のプロジェクトを通じて、会社全体として新しいことに取り組む姿勢がより加速したと感じています。

協働日本の「想い」で人が繋がり、新たな挑戦の輪が広がる

ーー以前、副業人材の方と取り組んでいたときとの違いはありましたか?

上村: 以前は、私がプロジェクトマネージャーとして副業人材と社内を繋ぐ役割を担っていましたが、協働日本さんの場合はPM自体の役割もバックアップしてくださり、サポート体制が充実している点が助かりました。これから外部のプロ人材との取り組みを始めたい方には、協働日本さんの伴走支援はとてもおすすめです。

ーープロジェクトの中で、特に印象に残っている言葉やエピソードはありますか?

上村: 協働プロの渡辺さんから「ファン施策の担当者は、数字を追わない方がいい」と言われたことですね。

担当者がフォロワー数や売上を意識しすぎると、ファンが離れてしまうからと。そこで、SNS担当はファン体験の最大化に専念、数字管理は上村氏が担うという役割分担を徹底しました。この視点は、ファンマーケティングを進める上で非常に重要だと感じました。

ーー最後に、今後協働日本がどうなっていくか、メッセージも兼ねてお聞かせください。

上村: 代表の村松さんの熱い想いが、その動きに出ていると感じます。副業に関するプラットフォームはたくさんありますが、協働日本さんは「想い」を核に差別化されているように感じます。

また、同じく協働日本さんが携わっている「かごしまチャレンジャーサミット」という事業を通じて、鹿児島だけでなく全国の人と繋がる機会を提供してもらえるのは本当にありがたかったです。

「かごしまチャレンジャーサミット」で生まれたイベント「GLOW UP」

今回、「かごしまチャレンジャーサミット」で知り合った企業5社とコラボしてイベントを開催するなど、協働日本さんとの繋がりから新しい取り組みが生まれています。同じ熱量を持った仲間と出会える機会は貴重なので、今後もこのような機会を提供してくださることを期待しています。

ーー本日はありがとうございました!引き続きよろしくお願いいたします!


上村 曜介 / Kamimura Yosuke

鹿児島県大崎町出身。筑波大学大学院で微生物学を専攻後、味の素株式会社にて発酵技術の研究職として約7年間勤務。2018年に若潮酒造株式会社に入社。香り系芋焼酎「GLOW」や木樽蒸留ジン「424GIN」、地元の規格外農産物を活用したスピリッツ「f spirits」などの商品開発を担当。2024年より同社取締役。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –