STORY:丸七製茶株式会社 鈴木成彦氏 – 変化する経営課題に最適な人材を組み合わせ、成果を重ねてきた協働プロジェクト。「お茶の未来」を創造するブランド戦略とは –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
本連載では、協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのように意思決定し、プロジェクトを推進しているのかをインタビューを通じて伺っていきます。
今回は、丸七製茶の鈴木成彦氏にお越しいただきました。

丸七製茶は、創業1907年の静岡の老舗製茶メーカー。日本茶を主軸に、スイーツ開発まで手がける「製造から小売までの一貫体制」を強みに掲げています。

協働日本とは2021年から4シーズンにわたり、①高級ボトリングティーのコンセプト設計、②EC/動画発信、③社内SNS活性化、④東京拠点リニューアル(カフェ併設)まで、多岐にわたる取り組みをともに進めてきました。

本インタビューでは、協働日本との取り組みで得た変化、組織としての意識変容、今後の展望について、2021年から伴走している協働プロの郡司弘明氏も交え、率直に語っていただきました。

(取材・文=山根好子)

“相談相手不在”の連続意思決定。そのとき見えた「伴走」の価値

ーー本日は丸七製茶株式会社 代表取締役社長の鈴木成彦様と、協働プロの郡司弘明さんにお越しいただきました。まずは、協働日本との出会いについてお聞かせください。

鈴木成彦氏(以下、鈴木):ご縁があり、協働日本代表の村松さんと知り合いました。「中小企業の社長に伴走する」という考えに強く共感し、当社でも支援をお願いしたいと思ったのが始まりです。

ーー協働日本の「伴走支援」は、御社のプロジェクトにどのようにフィットしたのでしょうか。

鈴木:中小企業の社長は、結局のところ一人で何でもこなさざるを得ない場面が多い。かつては学生時代の友人に相談したり、一緒に構想を練れましたが、年々それも難しくなっていました。そうした中で第三者の伴走という進め方を知り、有効な選択肢だと感じました。相談や壁打ちができる存在がいることに、大きな魅力を感じたのです。

ーーこれまでのプロジェクトを順にご紹介いただけますか。

郡司弘明氏(以下、郡司):2021年から、4シーズンご一緒しています。

鈴木:もうそんなに長いお付き合いなのですね。
各プロジェクトで異なる協働プロをアサインしていただきましたが、郡司さんには一貫してプロジェクトマネージャーとしてご支援いただいています。

郡司:まずシーズン1では、新発売のボトリングティーのコンセプトデザインやコンセプトメイクを一緒に壁打ちさせていただきました。

ここでは協働日本CSOの藤村昌平さんに加わってもらい、風呂敷を大きく広げるところからコンセプトを深掘りしていきました 。

また、写真家のたかはしじゅんいちさんとのプロジェクトも協働日本がきっかけで立ち上がりました。NFTアートと抹茶を使ったチョコレートの同時発売という、当時としては非常に先進的な取り組みでしたね。


郡司:続くシーズン2では、「CBT(Craft Brew Tea)」というボトリングティーのECサイトの立ち上げを行いました。

ブランドサイトの制作と、YouTubeやSNSを活用した動画でのコミュニケーションを並行して実施しました。

ーー「CBT」のサイトには「食事と共にワイングラスで楽しむ日本のお茶」「茶葉の個性を味わう、食事彩る日本茶」など、まさに高級ボトリングティーとしてのコンセプトや提供イメージへのこだわりが詰まっていますね。

鈴木:そうですね。海外のレストランで、無料のお水と有料のお水のメニューがあるように、お茶に関しても、良いものにお金を払って楽しんでいただきたいという想いがありました。食事の際のノンアルコールドリンクの新たな選択肢としてのブランディングのこだわりを、協働プロの皆さんと一緒に表現していくプロジェクトでした。

高級ボトリングティー「CBT」- ECサイト


鈴木:シーズン3では、社内のSNSコミュニケーションがテーマでしたね。社員のSNSへの感度やアンテナの高さに課題があると感じていたため、全社的に社員を巻き込み、SNSのリテラシーと発信力を高めていくためのマルチ勉強会を半年ほど行いました。この取り組みから、丸七製茶の自社noteが立ち上がり、社員一人ひとりが個人のSNSアカウントで発信することで、営業時のコミュニケーションの質が向上したり、店舗業務への他社員の理解が深まるなど、ポジティブな影響がありました。プロ人材としては、地方メーカーのSNSプロモーションの支援実績が豊富な浅井南さんに加わってもらい、個別のSNS投稿の添削なども行っていただきました。



郡司:そして直近のシーズン4が、東京事務所の移転プロジェクト並びに、店舗のカフェメニュー開発プロジェクトです。単なる事務所ではなく、1階にカフェと物販を併設し、情報発信基地や人的交流の生まれるスペースとして活用していくというコンセプトの構築を行いました。また、カフェの立ち上げにあたって目玉となるカフェメニューの開発もご一緒させていただくことになりました。

そこで、このプロジェクトでは老舗食品企業との協働実績が豊富な相川知輝さんと、大手外食チェーン等で商品開発実績のある松尾琴美さんという2名のプロにジョインしてもらいました。

ーー4シーズン全てテーマが違いますね。

鈴木:そうなんです。プロジェクトのテーマがシーズンごとに変わる中で、都度、そのテーマに最も適したプロ人材でチームを組成していけることが、協働日本の強みであり、長くお付き合いさせていただいている理由の一つになっています。例えば、シーズン4の途中でカフェでの新商品開発という文脈になった際、すぐに商品開発実績のある松尾さんに加わってもらうといった、柔軟なチーム組成をしていただきました。

郡司:丸七製茶さんの向き合う課題の優先度が、企業フェーズに合わせて変わっていく中で、私たちもメンバーの強みを組み替えられたのは良かった点ですね。

鈴木:そうですね、協働日本にはいろんな人がいますから、課題に合わせて「こんな人いない?」と相談できるのがすごくいいですね。

売上の変化だけではなく、ブランド価値そのものに向き合っていく

ーーこれまでの取り組みの中で、特に大きな成果や変化についてお聞かせいただけますでしょうか。

鈴木:定量的な成果としては、ボトリングティー「CRAFT BREW TEA(CBT)」の売上が、協働をスタートした2020年当初と比べて、約200%に伸びています。

郡司:200%とはすごいですね。

鈴木:ただ、単なる数量や金額よりも、ブランド価値としての成果が大きいと感じています。今では、日本にあるミシュラン店の1割以上、そして国内外のラグジュアリーホテルの大半と取引できるようになっています。
かつてはお茶は「無料」が当たり前で、日本茶でお金を取るというのは考えにくい時代でした。しかし今、当社のブランド商品が、日本の高級料理店やホテルに流通しているという存在感こそが、歴史的になかった価値だと感じています。

ーープロジェクトを通じてお茶に対する社会的評価を高める一助を担われているのですね。

鈴木:はい。他のボトリングティーはEC販売で高級品として手作りで売られているものが多いのですが、当社の場合は、飲食店で扱ってもらうための価格帯(1本5,000円以下)を維持しつつ、安定した高い品質で供給できる体制を整えています。これがホテルなどで扱われる上での大きな強みになっています。

郡司:まさにおっしゃる通り、お酒などのように、“お金を払って”お茶を飲むという文化をつくる挑戦の中で、CBTは“新しいお茶の市場そのもの”を切り拓いていますよね。

鈴木:また、SNSの取り組みは、社員のデジタルスキルやビジネスパーソンとしてのレベルアップのきっかけとしても重要だと捉えています。地方企業は車社会で、社会的な交流が少ないという背景があります。特に高校卒業後すぐに就職した若い層にとって、企業人としての外部との交流機会が不足していることが課題だと考えています。

郡司:地方で課題を抱える経営者の方は、鈴木社長と同じ悩みを抱えている方が多いですね。外部の風を吹かせたい、社員の話し相手になってほしい、というニーズが非常に高いです。協働日本のプロ人材が外部の「よそ者」として入ることで、社員の方々が外部と繋がったり、社内だけでは生まれないアイデアやマインドの変化が起こることに期待されている。ある種の「接着剤」のような役割も担っているのかもしれません。

鈴木:そういった、社員が外に目を向けるためのコスト投下は、ROI(投資対効果)が見えづらいため、なかなか決断しにくいと思うんです。しかし、若い頃にどんどん外に連れ出したり、外部のプロと壁打ちさせて成長させることが、中長期的に見て必ず良い仕事に繋がると私は確信しているので、協働日本さんとの取り組みを継続しているという面もあります。

郡司:ご支援させていただく中で、社長の期待に応えようと社員の方がしゃかりきになって成果を出されるケースも協働日本には多いですね。結果として「自分だけでなく、社員にも伴走してもらえたことで大きな変化が生み出せた」とおっしゃっていただくことも多いです。

鈴木:また、直近の成果としては、東京事務所移転プロジェクトで誕生した“抹茶研究所”があります。“抹茶研究所”は売り込みに行く営業ではなく、潜在需要のあるお客様に来ていただくための情報発信基地です。物販の売上は、以前の事務所が安売りだったのに対し、現在は定価販売で売上は150%になっており、利益ベースではさらに大きな成果となっています。浅草橋という立地と、“抹茶研究所”というブランディングが功を奏しているのではないかと感じています。


鈴木:店頭のイートインスペースでのカフェメニュー開発では「抹茶マンタロー」も誕生しました。夏のパリのカフェで定番のミント水「マンタロー」に着想を得て、伝統的なミントの爽快さと抹茶の奥深さを結びつけて生まれたメニューです。伝統を大切にしながらも、時代と共に進化し続ける抹茶の新しい可能性を提案できる、当社らしいメニューになったのではないかと思います。

イートインスペースで提供する新商品開発のプロジェクトで生まれた「抹茶マンタロー」


プロジェクト継続が外部との「接点機会」を形成。社内に新しい風が吹き込む

ーープロ人材の活用を通じて、率直に感じたことを教えてください。

鈴木:やはり、いろんな意味で人が交流するところで何かが生まれていると感じています。皆さんといろいろ議論しながら方向性を探る中で、ふと、思いもよらないようなキーワードが出てくることがあり、「それ面白いね」「これ誰か一緒にやってくれる?」と相談できる機会が、とても大事だと思っています。

ーー先ほどお話いただいた「人が交流する」ことの醍醐味かもしれませんね。

鈴木:そうですね。同じ方向性を向いて集まったメンバーで行う雑談では、得られる情報も意外と多いと感じています。情報化社会の中ではとにかく情報が多すぎて、自分にとって必要な情報を得ることが意外と難しいのですが、プロ人材には情報感度の高い方が多いため、最近こんな新しいサービスが始まった、というお話や、こんな事例がありますといった情報との「接点」を提供してくれます。こういった「接点」を作る役割を担って頂けることも、非常に重要だと思います。

そもそも新しい事業、プロジェクトを組んでも、成功するのはごく一部というのは当たり前だと思っていて、むしろ実行し続けていく中で次の打ち手が生まれることに価値があると考えています。協働日本では、大手企業の第一線で成果を出している現役の方をプロ人材としてアサインしていただけるため、「こんなことをやりたいのだけど、一緒にやってもらえる人はいないですか?」と相談したときに、適切な人材を紹介していただき、継続的に様々なことにチャレンジできることが魅力的です。事業や環境が変化していく中で、熱意溢れる優秀なプロ人材にいつでもアクセスできる機能は、非常に価値があると感じています。
スポットコンサルではなく、プロジェクトを「自分事」として捉え、一緒に伴走してくれるプロの存在が、社内に前向きな変化を生み出しているのだと思います。

熱意ある優秀なプロ人材と企業を繋ぐ。人と人との接着剤となる協働日本

ーー最後に、協働日本へのメッセージや、今後の期待をお聞かせください。

鈴木:今後もやりたいことは次から次へと生まれてくるのですが、なかなか社内に人的リソースがないというのが現実です。だからこそ、「こんな人いない?」と相談し、紹介していただける機能は、ありとあらゆる中小企業で必要とされていると思います。

協働日本さんには、今後ますます中小企業が頑張っていくためのレベルアップに貢献してほしいです。

「この人によりプラスになってほしい」というお互いの思いが、人と人の関係性から新しいものを生み出すような気がします。協働日本さんがそういった「接着剤」のような役割を果たし、私たちもそれを活用して、今後も進化していければいいなと思っています。

郡司:ありがとうございます、今後ともよろしくお願いいたします!

鈴木:こちらこそ、よろしくお願いいたします。


鈴木 成彦 / Shigehiko Suzuki

1964年生まれ。商社勤務を経て1989年丸七製茶㈱入社し、現在代表取締役社長。

90年半ばより日本茶が栽培されているすべての茶産地を把握すべく全国各地の茶産地視察を始める。
同時にテイスティング用語を豊かにするためにワインを学び始め、利き酒師、ビールテイスター、スペシャリティコーヒー協会に加盟しコーヒーマイスターなどの資格を取得するなど日本茶だけでなく幅広い飲料、食品の知見から日本茶の商品開発などを行う。

日本茶インストラクターだけでなく、ワインサロンにて日本茶講師を務めるなど日本茶の消費拡大などにも精力的に活動。

2025年度、静岡県茶商協同組合の副理事長、日本茶審査技術競技大会において高段位を授与された39名で構成される日本茶鑑定士協会会長に就任。

協働日本事業については こちら

VOICE:松尾 琴美 氏 -食を通じて、皆の幸せを実現する。ワクワクして前に進めるきっかけ作り-

VOICE:たかはし じゅんいち 氏 -パートナーの想いを形にする、「一歩先の写真」を追求-

VOICE:協働日本 相川 知輝氏 – 日本のユニークな「食」の魅力を後世に伝えていきたい –


STORY:若潮酒造株式会社 上村曜介氏 – EC売上1,000万円増。お客様が魅力を語り出す!ファンコミュニティ創出の裏側 –

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、鹿児島県志布志市で焼酎を製造する若潮酒造株式会社 取締役の上村 曜介(かみむら ようすけ)氏にお越しいただきました。若潮酒造は、1968年に地元に5つあった小さな蔵が合併して設立されました。以来、地元志布志市の「日常酒」として愛される焼酎を造り続けています。

今回のインタビューでは、地域に根差した伝統的な酒蔵が、協働日本とのプロジェクトを通じてファンベースのマーケティングに舵を切り、組織として大きな変革を遂げたストーリーを、上村氏の言葉で率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

「地元酒」を全国、そして世界へ。ターゲット拡大を目指して

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

上村 曜介氏(以下、上村): 鹿児島には「日常酒」という文化があり、地元の焼酎は地元の蔵が造り、地元の人たちが飲むという伝統があります。若潮酒造でも設立以来、志布志市の日常酒を造り続けてきました。しかし、人口減少や高齢化に伴って地元の消費は年々減っていました。

そこで、地元だけではなく、全国や海外でも飲んでもらえるような新商品の開発や、酒蔵を観光コンテンツとして活用し、地域との関係人口を増やす取り組みを徐々に始めるようになっていきました。
具体的には、蔵見学や直売所の設置、最近では焼酎のブレンド体験ができるコンテンツを作るなど、新しい挑戦をしてきました。

酒蔵という場所は人を呼べるコンテンツでもあるので、地元の人に飲んでもらうだけではなく、県外・海外からも足を運んでもらえる取り組みを進めていました。より「産業観光」に注力して伸ばしていきたいと考えていたときに、ちょうど鹿児島県の事業で協働日本との取り組みを知り、専門家の支援を受けたいと思ったのがきっかけです。

志布志市の若潮酒造の蔵元では、オリジナル焼酎を作れるブレンド体験ができる。
ーー県の事業がきっかけだったんですね。こういった「プロの伴走支援」のスタイルには、最初から抵抗はなかったですか?

上村: 実は以前から、副業人材の方にマーケティングやブランディングを手伝ってもらっていたので、抵抗感はありませんでした。協働日本さんは議事録やスケジュール調整まで、サポーターの方のバックアップ体制がしっかりしていて、非常にありがたかったです。

すでに県内で協働日本とのプロジェクトを進めていらっしゃった株式会社イズミダさんや、株式会社オキスさんなどからの紹介もあり、安心して始めることができました。

「ファン」との対話から見えた新たな活路

ーー協働がスタートしてから、実際のプロジェクトはどのように進んでいきましたか?

上村: 最初は「産業観光をどうするか」というテーマでスタートしました。協働プロとしては、藤村昌平さん(協働日本CSO)、渡辺勝弥さん、協働サポーターとして細川謙一さんに入っていただきました。当初は「産業観光」のロードマップ策定や現状の改善ができたらと期待していたのですが、協働プロの方から「今、すでに志布志まで足を運んでくれるファンの方がいること自体がすごい」「わざわざ志布志まで来てくれる人はどんな人なのか、インタビューしてみたらどうか」というアドバイスをいただきました。

志布志は鹿児島県の中でもアクセスが良い場所ではないので、わざわざ足を運んでくれる人には何か特別な理由があるはずだと。そこで実際にアンケートやインタビューを実施したところ、若潮酒造のお酒に熱い思いを持つ「コアなファン」の存在が明らかになったんです。

ーーそこで方向転換されたのですね。

上村: そうです。「産業観光」よりも、若潮酒造の「ファン施策」に注力した方が良いのではないか、という話になりました。ちょうどその頃、若潮酒造のお酒を飲んでファンになったことがきっかけで入社してくれた地元出身の女性社員がいたので、早速プロジェクトに合流してもらい、一緒に取り組みを進めました。

ーーご自身が若潮酒造のファンという社員の方もファンマーケティングに携わってくださるなんて心強いですね。具体的な施策についても教えていただけますか?

上村: ひとつは、新しいSNSアカウントの立ち上げです。これまでは一方的な情報発信が中心でしたが、双方向のコミュニケーションができるプラットフォームを目指しました。商品開発の裏側の動画や、インスタライブで楽しみ方や飲み方の提案を発信するようにしたのですが、新アカウントのフォロワーは1,000人程度にも関わらず、コメントやDMでのリアクションは、既存の企業公式アカウント(フォロワー6,000人)よりも圧倒的に多く、コアなファンの存在が可視化されていきました。

今までは酒屋さんを通しての販売がほとんどで、飲み手との接点は少なかったのですが、こうやって直接飲み手の方と繋がることができ、「どんな人が自分たちの焼酎を好きになってくれているのか」が見えるようになったのは大きな変化です。

ーーDMで心温まるメッセージが届くこともあったとか。

上村: そうですね。毎年メッセージをつけて販売している焼酎があるのですが、「そのメッセージに救われました」といった声が届くこともあり、心が温まりました。そして、もう一つの施策として、そんな熱意のあるコアなファンの方々をアンバサダーとして迎える「アンバサダー制度」の立ち上げを行いました。この8月から運用をスタートしたばかりです。

ーーアンバサダー制度の立ち上げは、一体どのようなことがきっかけだったのでしょうか?

上村氏: 協働プロに協力していただいて実施したファンの方へのインタビューで、「若潮酒造のお酒の良さを周りに伝えたいけど、同じ熱量で語り合える人がいない」という声を聞きました。そこで、若潮酒造ファンの人たちが集まって語り合える場・コミュニティを作ってはどうか?というアイディアが出たんです。

ーーなるほど。新たな取り組みだったと思いますが、制度の立ち上げの中で壁になった部分はあったのでしょうか?

上村: やはり、『誰を対象に、なぜ今制度化するのか』といった基準・理由づけの整理に時間を要しました。

新しい商品を飲んで感動して蔵にお越しになったコアファンの方も多く、元々若潮の焼酎を飲んでいた、つながっていた人たちはアンバサダーではないのか?なぜ新たに増えたコアファンが中心になるのか?などのレギュレーションを決めていくのには、少し時間がかかりました。

この8月から制度がスタートしたという流れになります。

活動内容としては、コアな若潮酒造ファンを6名くらいアンバサダーに認定、年に1〜2回蔵に来ていただいたり、自社のお祭りである「新酒祭り」でブースを手伝ってもらったり、オンラインで飲みながら語り合う会を開催したりという活動を予定しています。また、すでに自発的に知り合いにお酒を薦めてくれたり、イベントを開催してくれたりする方もいて、とてもありがたいです。

ファンマーケティングがもたらした、数値と意識の大きな変化

ーープロジェクトを通じて生まれた具体的な成果や変化についても教えていただけますか?

上村: そうですね。先ほどお話しした、ファンとの交流用のSNSの開設・運用や、アンバサダー制度の開始自体が一つの成果だったと考えています。SNSでも誘客に関する発信や、焼酎のブレンド体験などの独自コンテンツの発信を進めていったこともあり、売上に関してはオンラインショップと直売所の売上が大きく伸びました。
直売所は、来てくださるお客様の人数が年間で、約2,000人から約3,000人と1.5倍に増えました。オンラインショップの売上は、前年の約1,500万円から約2,500万円(+約1,000万円)まで増加しています。

ーーそれはすごい成果ですね!数値的な成果以外に、組織として変化したことはありますか?

上村: これまで、パレートの法則のように「2割のコアなファンが売上の8割を占める」といったようなコアファンが売上の大半を支えるという話は知っていましたが、今回のプロジェクトを通じて、オンラインショップのデータ分析などを行い、改めてその重要性を会社として認識できました。

この成果を受けて、ファン施策をさらに推進・強化していくべきだという会社判断に至り、「広報部」という新しい部署も立ち上げて、本格的に取り組む体制ができたのも大きな変化です。

ーーメンバーの方に変化はありましたか?

上村: 県の支援で、地域再興に挑む全国にファンを持つ新鋭蔵を視察することになり、秋田の男鹿市の酒蔵に行く機会があったのですが、そこも全国に熱狂的なファンのいる新しい酒蔵でした。

男鹿市自体を再興しようとしていて、酒蔵の経営以外にも、地域活性化に関する様々な取り組みをされていました。地域を盛り上げようとしている蔵の姿に触れ、若潮酒造としても取り組むべきビジョンを社内で共有できたのは大きな収穫でした。

ーー伝統的な会社でありながら、フットワークの軽さを感じます。

上村: これまでは、新しい活路を見出すためにスピーディーに新商品を開発することに注力していました。そうした挑戦的な風土は元々ありましたが、今回のプロジェクトを通じて、会社全体として新しいことに取り組む姿勢がより加速したと感じています。

協働日本の「想い」で人が繋がり、新たな挑戦の輪が広がる

ーー以前、副業人材の方と取り組んでいたときとの違いはありましたか?

上村: 以前は、私がプロジェクトマネージャーとして副業人材と社内を繋ぐ役割を担っていましたが、協働日本さんの場合はPM自体の役割もバックアップしてくださり、サポート体制が充実している点が助かりました。これから外部のプロ人材との取り組みを始めたい方には、協働日本さんの伴走支援はとてもおすすめです。

ーープロジェクトの中で、特に印象に残っている言葉やエピソードはありますか?

上村: 協働プロの渡辺さんから「ファン施策の担当者は、数字を追わない方がいい」と言われたことですね。

担当者がフォロワー数や売上を意識しすぎると、ファンが離れてしまうからと。そこで、SNS担当はファン体験の最大化に専念、数字管理は上村氏が担うという役割分担を徹底しました。この視点は、ファンマーケティングを進める上で非常に重要だと感じました。

ーー最後に、今後協働日本がどうなっていくか、メッセージも兼ねてお聞かせください。

上村: 代表の村松さんの熱い想いが、その動きに出ていると感じます。副業に関するプラットフォームはたくさんありますが、協働日本さんは「想い」を核に差別化されているように感じます。

また、同じく協働日本さんが携わっている「かごしまチャレンジャーサミット」という事業を通じて、鹿児島だけでなく全国の人と繋がる機会を提供してもらえるのは本当にありがたかったです。

「かごしまチャレンジャーサミット」で生まれたイベント「GLOW UP」

今回、「かごしまチャレンジャーサミット」で知り合った企業5社とコラボしてイベントを開催するなど、協働日本さんとの繋がりから新しい取り組みが生まれています。同じ熱量を持った仲間と出会える機会は貴重なので、今後もこのような機会を提供してくださることを期待しています。

ーー本日はありがとうございました!引き続きよろしくお願いいたします!


上村 曜介 / Kamimura Yosuke

鹿児島県大崎町出身。筑波大学大学院で微生物学を専攻後、味の素株式会社にて発酵技術の研究職として約7年間勤務。2018年に若潮酒造株式会社に入社。香り系芋焼酎「GLOW」や木樽蒸留ジン「424GIN」、地元の規格外農産物を活用したスピリッツ「f spirits」などの商品開発を担当。2024年より同社取締役。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社栄電社 川路氏・坂口氏 ― 発売から1年で顧客は7倍、サステナブルな地域資源「CASパワー」商品化の軌跡 ―

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社栄電社の川路氏・坂口氏にお越しいただきました。
株式会社栄電社は鹿児島県に本社を構え、計測・制御・情報通信機器などの分野で幅広く事業を展開しています。
その中で、地元の焼酎産業と密接に関わる中、焼酎製造過程で大量に発生する「焼酎粕」の活用に新たな可能性を見出しました。

インタビューでは、協働日本との取り組みを通じて見えてきた地域資源の価値と、「焼酎粕」を乳酸発酵させた商品「CAS(カス)パワー」の事業展開に向けた思いを語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

焼酎を造る過程で生まれる「焼酎粕」

地域資源としての「焼酎粕」プロジェクトの商品化へ

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

川路 博文氏(以下、川路): よろしくお願いいたします。協働日本との出会いは、2022年9月に県の支援事業に応募したことがきっかけです。事業が無事採択され、協働日本さんによる伴走支援がスタートしました。それから2025年1月までの約2年半にわたり、継続的に支援を受けてきました。

坂口 研三氏(以下、坂口): 弊社は計測機器や制御システムを手掛ける会社ですが、焼酎メーカーさんともお付き合いがあります。その中で、焼酎を造る際に大量に出る「焼酎粕」という副産物の存在を以前から知っていました。

焼酎粕は、蒸留後の液体や固形物が混ざったもので独特の香りや栄養分を多く含みます。従来は家畜の飼料や肥料として利用されてきましたが、需要減少や処理コストの増大により、焼酎メーカーにとっては負担となっているのが現状です。

「毎年大量に出る未利用の焼酎粕を何とか活用できないか」ということで、2017年からこの焼酎粕を活用するプロジェクトを開始しました。2019年には経産省の事業認定を受け本格的に事業化に取り組んでいたのですが、私たちには商品化や販路拡大といったテーマにおける経験がなかったので、ちょうど県の支援事業でアドバイスがもらえるのならと応募しました。

川路: 最初は、「伴走支援」という仕組みについてもあまりピンときていなかったのですが、何度か協働プロとの打ち合わせを重ねていくうちに、弊社の事業にはぴったりの支援の形だと感じるようになりました。

焼酎粕から生まれた「CASパワー」は、生物や植物の成長促進に寄与する機能性飼料

年単位のテストマーケティングと調査を通じて出た成果から、商品化、有償販売のスタートへ

ーー実際にプロジェクトがスタートしてからは、どのように取り組みが進んだのかお聞かせいただけますか?

川路: はい、一番最初は商品化するための課題の洗い出しからスタートしました。商品化の方向性の検討やターゲットの絞り込み、販売方法のアドバイスなど、段階を追って協働プロにアドバイスをいただきながらプロジェクトを進めていきました。
協働チームには、協働日本CSOの藤村昌平さん、横町暢洋さんを始め、2年半の間で様々なプロ人材の皆さんに入っていただきました。

坂口: 商品化の方向性の中では価格設定を決めることや、ターゲットへのアプローチ方法を考えることは特に難しかったですね。これまで私たちは営業やマーケティングといったことを経験したことがなかったので、漠然としていた考えを、協働プロの皆さんとの会話を通じて整理していただきました。

ーープロジェクトを進める中で、テストマーケティングや調査も進めていったのでしょうか?

川路: はい。「CASパワー」は前述の通り、焼酎粕を使った飼料・肥料です。そこで、実際にフィールド調査として、実際に農家の方や魚の養殖業者の方などに「CASパワー」を使っていただき、ターゲットを絞り込んでいきました。初期に試したのは、酪農(乳牛)、魚の養殖における飼料としての活用でした。調査には約1年かかるので、並行して野菜などの肥料として、肉牛の飼料として、など複数のテストを実施しています。

業態や価格感のマッチ度などを鑑みて、現在は魚の養殖、肉牛の育成における飼料としての利用、そして農家さんの作物の植物活性剤としての利用をターゲットに定めています。

ーー1年間とは…検証にはどうしても長い期間がかかるのですね。

川路: はい。どうしても作物の収穫や、実際に各種飼料として利用して出荷できるようになって、サンプルデータをいただき品質にどのように影響が出たかを計測するまでには時間がかかります。例えば、農業利用ではスナップエンドウやカボチャなどの栽培期間中に250倍希釈液を灌水として3回程度使用することで収穫量が増えたり、酪農利用では、乳牛1頭に毎日280mlのCASパワーを給与することで、年間平均で乳量が5.6%増加するという結果が得られています。

こういった成果と、実際の各種作物や乳・牛肉などの販売価格のバランスも鑑みて、「CASパワー」の価格についても決めていきました。

いくつものテストマーケティングを経て、2024年4月からは有償販売をスタート、販売を拡大するフェーズに入っていきました。

実際に飼料としてCASパワーを与え、収量や品質をチェックする

調査結果や受賞を裏付ける、口コミの輪が広がり1年間で顧客は7倍超へ

ーープロジェクトを通じて、具体的にどのような成果や変化がありましたか?

川路: 実際に商品として販売をスタートすることができたことはもちろん、2024年4月の段階では利用者が6事業者だったところから、2025年4月現在では45事業者にご利用いただけるようになりました。

ーー1年間で顧客が7倍以上になったのはすごいインパクトですね。

川路: ありがたいことに、地域の事業者の方同士の口コミで広げていただいていて、運もよかったと感じています。

その他にも、協働日本を通じて多様なネットワークが広がり、様々なところで講演させていただきました。その講演を通じて「CASパワーを試してみたい」というご縁に恵まれることもありましたし、2023年には鹿児島県環境保全活動優秀団体表彰、2024年にはかごしま産業技術賞奨励賞をそれぞれ受賞しました。賞をいただいた時はとても驚きましたが、協働日本の皆さんの後押しもあり、様々な場所で宣伝させていただいたことも影響しているのではないかと思っています。

実際、受賞により県からのお墨付きをいただいた形になり、営業の際にもアピールしやすくなっています。

川路: 実際に伴走支援を受けてみて、自分にとって大きかったことはセッションでさまざまな話を聞いてもらい、それに対してさらに質問をしてもらうことで頭の整理ができたことだと感じています。今の状態を聞いてもらうことで、頭の中できちんと整理をし、ネクストステップについて的確にアドバイスをしていただくことの繰り返しです。

聞き役になっていただけたことも本当にありがたく、「今週はどうでしたか?この前話していた件はどうなりましたか?」など、進捗を報告しなくてはという意識が働くので、セッションに合わせてスケジュールを組んでいくようになったのもメリットでした。
また、協働プロとのやりとりを通じて坂口と目線や意識のすり合わせができて、社内のコミュニケーションにも良い影響があったように感じますね。

坂口: 我々は営業については素人です。協働プロとのセッションを通じて、プロ人材の目の付け所を学び、アドバイスをいただいて、営業の一連の流れを具体的に知ることができました。まだまだ完全に実現していくところまでは届いていないかもしれませんが、それでもこれから何をすれば良いのか、目標や計画は立ったように思います。

ーー協働プロとのやりとりの中で印象的だったことはありますか?

坂口: 約3年間、いつも「ものが良い、筋がいい」、「CASパワー自体の取り組みの方向性がいい」と言っていただいていました。「褒めて育てる」を体現していただいていたと思います。時にもどかしく感じることもあったかもしれませんが、励まされながら育てていただいたという印象です。

川路: 支援してくれた協働プロの皆さん自身が「CASパワー」のファンになってくださって、いつも褒めていただいていたこと自体が私たちの自信に繋がっていましたね。

坂口: 一昨年30t製造した「CASパワー」ですが、昨年は50t、そして今年は100tの製造販売を目指しています。協働日本の皆さんの期待に応え、少しでも売れる商品にしていきたいです。

協働日本でつながる活気。エネルギーを集結させたような場作りが魅力

ーー社外のプロ人材と実際にプロジェクトに取り組んでみて、どのようなことを感じたかお伺いできますか?

川路: 副業的な働き方があることは知っていましたし、コンサルティングを受けたこともありましたが、協働日本の伴走支援という形は初めて知りました。

先ほどもお話ししましたが、協働日本の伴走支援では、プロ人材が「聞き役」にもなってくれて、一緒に取り組めることが大きな特徴だと感じました。外に出てお客さんに聞いた話を協働プロの皆さんに伝え、整理しながら「この方向でいこう」など方針を一緒に決めていきました。時間はすごくかかりましたが、その時間にもじっくり付き合っていただけたことが良かった。私たちの「CASパワー」の事業には特に伴走支援が向いていたのだと思います。

坂口: 弊社と同じように、商品開発をしていて、販促計画をこれから作っていく、切り開いていく必要がある企業の方には、伴走支援の形が合っているのではないかと思います。

ーーありがとうございます。最後に協働日本に一言メッセージをお願いします!

坂口: 協働日本の皆さんには、伴走支援だけでなく、同じようにプロジェクトに取り組む方達と交流できるイベントなどの機会を作っていただくなど、感謝していることがたくさんあります。

事業を始められる方、進めておられる方はやはり元気な方が多い印象があります。その中でも特に協働日本のイベントに集まる方達の活気はすごく、皆のエネルギーを集結させているような場になっていました。

我々も、そういった機会に度々パワーをもらってきました。これから頑張ろうとする人も、そういう強いエネルギーに助けられることがあるのではないかと思っています。
これからもイベントには参加していきたいですし、若い人の力を見てもっと勉強していきたいと思っています。

川路: 協働日本の皆さんには、今後もよき相談相手として、また色々と相談に乗ってもらいたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします!

ーー本日はありがとうございました!


川路 博文 / Hirofumi Kawaji

㈲栄電エンジニアリング 取締役本部長

鹿児島市出身。コンピュータソフト開発、ビジネス専門学校教員を経て、㈱栄電社 バイオ環境事業部に入社。
排水処理における窒素除去装置の開発をはじめ、環境技術分野の研究・開発に携わっている。

坂口 研三 / Kenzo Sakaguchi

株式会社栄電社 バイオ環境グループ顧問

1954年生まれ、鹿児島市水道局で主に上下水道の水質管理に従事。
その後、(株)栄電社バイオ環境グループで水処理装置や焼酎粕の有効利用技術の開発を担当。
スポーツ大好き。若い頃は野球やマラソンに親しみ、50歳を過ぎてからはヨガで心身を鍛えています。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社ぶどうの森 折坂啓介氏・加藤高聖氏 – “安全とおいしさ”を世界へ。品質保証のプロ×AIによる国際規格認証取得の最短ルート-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、石川県金沢市でレストランや洋菓子ブランドを手がける株式会社ぶどうの森の折坂啓介氏・加藤高聖氏にお越しいただきました。
「農業からレストランまで」を理念に、40年以上にわたり地域と共に歩んできたぶどうの森。今回の協働プロジェクトでは、海外進出のために必要な国際規格FSSC22000の取得という挑戦的なテーマに取り組んでいます。

プロジェクトを通じて得られた変化や成果、そしてこれからの展望について、お二人に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明・山根好子)

折坂 啓介氏

海外に、ぶどうの森の味と安全を届けたい

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、今回の協働プロジェクトに取り組むに至った背景を教えてください。

折坂 啓介 氏(以下、折坂): よろしくお願いいたします。
ぶどうの森は、もともと地域の農産物を活かしたレストラン経営やスイーツ製造を軸に事業を展開してきました。

昨年ドバイの展示会に出展した際に、現地で一緒にビジネスをやろうと言ってくれる人と出会い、海外展開を決意しました。
とはいえ、営業拠点だけでなく現地に加工工場も設ける必要があるなど、乗り越えるべきハードルはいくつもありました。当時の私たちは、食品安全に関する国際基準についての知見や体制が整っておらず、できる限り早い段階で「FSSC22000」の取得を目指すことにしたのです。

ただし、品質管理だけでなくマネジメントや文書化の仕組みも問われるこの認証を、限られた人手とリソースで取得していくのは容易ではありません。他社の話を聞いても、コンサルティング費用だけで非常に高額で、短くても1年半かかるというのが一般的でした。

ーーなるほど。かなり挑戦的なテーマだったのですね。

加藤 高聖氏(以下、加藤): はい。どうやって取り組もうかと考えていたのですが、石川県主催の複業人材活用セミナーを通じて協働日本代表の村松さんのお話を伺ったことを思い出し、相談してみることにしました。すると、ちょうど協働プロの中にハウス食品で国際規格FSSC22000の認証取得を担当した方がいらっしゃるということで紹介いただき、伴走支援がスタートしました。

実は最初は、「伴走支援」という座組みの中で、どのようにプロジェクトが進んでいくのか少し不安に思ったこともあったんです。

折坂:宿題を出されて、フィードバックという名のダメ出しだけ受けるような進み方だと、メンバーにとっては辛さだけが残り、ノウハウも身につかないのではないか……そんな懸念もありましたね。

でも、実際に始めてみるとそれは杞憂でした。協働日本の協働プロは、知識や経験をもとに問いを立てたり、アドバイスや資料作成のヒントをくれたりしながら、私たちに寄り添って伴走してくれたのです。

ぶどうの森のメンバーも、実際に手を動かしてともに取り組みます。
「お金を払っても何も残らないのでは?」という社内の懸念もありましたが、ノウハウが確実に残る、協働日本独自の伴走支援の形は、私たちにとって非常に合っていたと感じています。

出展したドバイの展示会の様子

経験者の知見とリアルな視点 × AI活用で、認証取得準備を最短で実行

ーー実際にプロジェクトがスタートしてからは、どのような取り組みが進んだのかお聞かせいただけますか?

加藤: FSSC取得に向け、2024年5月にプロジェクトをキックオフしました。
ハウス食品の山本竜太さん、横町暢洋さん、そして協働サポーターの河野瑠美さんに入っていただきました。

弊社までお越しいただいたキックオフミーティングでは山本さんから、「なぜ認証取得が必要なのか」「それに挑む意義とは」についてストレートなお話がありました。そのメッセージはメンバーにもしっかり届き、目線を合わせてスタートを切ることができました。社長にも山本さんから直接意義を伝えていただいたので、社内全体で認識が揃ったのも大きかったです。

折坂:お菓子の工場なので、食品安全の仕組みはある程度整っていましたが、国際基準とのギャップを可視化することから始まりました。

このギャップを埋めるために必要なことを山本さんのご経験からご指摘いただくのですが、「優しく叱咤していただいた」という表現の方が正しいかもしれません。

山本さんはとても穏やかな方ですが、私たちにも分かりやすい言葉を使って、厳しくも本質的な指摘をしてくださいました。これは、現役の外部プロ人材だからこそできることだと感じます。
これから皆さんも世界で戦うんですよね?と言うスタンスで現実的な話をしていただけるので、納得感も大きいんです。

加藤: 工場現場も実際に見ていただきましたし、実際に現場でやっていることや、使っている帳票類も見てもらっているので、今どのステージにいるかも山本さんは経験上わかってくださっています。だからこそ、階段を一歩ずつ上がっていくためにすべきことをわかりやすく表現してくださいました。

また、できていないことの指摘だけでなく、「できていること」の指摘をしてくださったのもありがたかったですね。どうしても、認証取得のための基準文書の書きぶりだけでは、実際の実務上どこまで必要なのか分からないので、リアルな経験と知見を共有いただいたことで、時間を無駄に使わずにプロジェクトが進んでいったと実感しています。

現場も実際に見ていただき、使用している帳票類なども確認してもらいました。今どの段階にあるのかを把握したうえで、次に進むべきステップを丁寧に説明してくださるんです。
「ここまでできていれば大丈夫」と、現場感覚を持った助言があったからこそ、無駄なく進めることができました。

ーーなるべく早く認証取得を進めることが命題だったのですよね。先ほどのお話では、認証取得まで短くて1年半ほどかかりそうだということでしたが、実際にはどのくらいの時間をかけて取り組まれたのでしょうか。

加藤: 結論から申し上げると、おかげさまで、実際にはキックオフから1年かからず申請まで完了しています。山本さんの知見に加え、AI活用のプロである横町さんの力を借りて、ChatGPTを使った文書作成を効率化できたのも大きな要因です。

これまで、認証取得のために必要な文書を一から作成するには膨大な時間と労力がかかっていましたが、AIを導入することで大幅に効率化されました。
申請のための管理文書は、既に規格イメージがあるため、出来上がりイメージを読み込ませて、弊社で活用できるようにカスタマイズしていきました。横町さんと連携してAI活用によってドキュメントを作成し、アウトプットの内容を山本さんに見ていただきフィードバックをいただきブラッシュアップしていく、というサイクルを繰り返していきました。

AIを本格的に使ったのは初めてでしたが、結果的にとても良い経験でした。スピードも飛躍的に上がり、協働プロの皆さんからもたくさん褒めていただきました(笑)。

本来は3ヶ月かかる見込みだった約30種類の文書を、1ヶ月で完成させることができました。

日々、認証取得に向けたコミュニケーションを密に行っている

想定以上の短期間で認証取得へ。ノウハウが残るだけでなく、メンバーの成長も大きな成果に

ーープロジェクトを通じて、具体的にどのような成果や変化がありましたか?

加藤: 一番の成果はやはり、FSSC22000の認証取得準備を、予定していたよりも半年以上前倒しで実現できたことです。

5月にキックオフしたプロジェクトで、認証機関へのドキュメント提出は2月末に完了。4月に一次審査を受け、指摘に対する是正案を同月中に提出。6月に最終審査、8月には正式な認証取得というスケジュールで進んでいます。

折坂: 当初から「社内にノウハウが残ること」を期待していましたが、それ以上にメンバーに確実な知見が蓄積されたと感じています。
プロジェクトには私たち以外にも数名が参加していたのですが、そのうちの1人がどんどんこのプロジェクトにのめり込んでいって、今では私たち以上にこのテーマをリードしてくれています。

最初は私たちの指示で動いていましたが、途中からは「こういうことですよね?」と自ら確認し、「こうしてください」と提案までしてくれるようになりました。目に見える成長がとても嬉しかったですね。

加藤:品質保証、品質管理に対して、自らが「やらなくてはいけない」と自分事化されたように思います。ものすごく強い命題として感じているようですね。

最初は“手伝ってもらえれば”という気持ちでアサインしたのですが、今では自主的にプロジェクトを進めてくれるようになり、本当に頼もしい存在になりました。

そして、この認証取得のプロジェクトと並行して、ドバイ進出も正式に決定しました。現在は現地での工場建設に向けて準備を進めているところです。協働日本との取り組みもさらに加速していきます!

現場目線を持ったプロの伴走で、実感と納得感が得られる。何でも相談できる関係性が魅力

ーー社外のプロ人材と実際にプロジェクトに取り組んでみて、どのようなことを感じたかお伺いできますか?

折坂:やはり一番の魅力は、現役の方が伴走してくださるという点です。

「今、どんな課題を抱え、どう乗り越えているのか」というリアルな話を聞けることで、「こんな大きな企業でもこうした課題があるんだ」と知ることができ、自分たちの仕事にも自信が持てました。

一般的なコンサルティング会社だと、知識は豊富でも現場感のない方もいます。その点、事業会社で第一線で活躍するプロ人材による“リアルタイムの知見”は、非常に大きな価値だと感じています。

加藤:それに、協働プロの皆さんは本当に人柄が素晴らしいんです。自慢話や武勇伝を語るようなことも一切なく、壁をつくらずに接してくれます。

たとえば「俺のときはこうだった」といった上から目線の話ばかりだったら、私たちのような中小企業は気後れしてしまうかもしれませんが、協働プロの皆さんはあくまで同じ目線で向き合ってくれる。だからこそ自然体で、正直に何でも相談することができました。

あと、費用感は圧倒的にリーズナブルだと感じました。リーズナブルだからお願いした訳ではありませんが、大企業の事業部長クラスの方がチームで伴走支援に入ってくださり、これだけの支援を受けられることを考えると、非常に価値の大きな投資だと感じています。

このスキームは本当に素晴らしいと思いますし、あまり人に教えたくないなと思うほどです。(笑)

ーーありがとうございます。最後に協働日本に一言メッセージをお願いします!

加藤: おかげさまで、認証取得のプロジェクトは一段落しました。今期も海外展開の協働プロジェクトをお願いしながら、もう一つ、自社にとって非常に重要なテーマでも協働をお願しています。

マーケティングやコンセプト設計、営業の仕組みづくりなど、新たな挑戦が待っています。協働プロにはさまざまな人材がいらっしゃるので、話をしながら新しいつながりが広がっていくことが楽しみです。

折坂: 協働プロのマッチングは本当に絶妙です。村松さんに相談すると、すぐに「そのテーマにとても合う人がいます!」と人選が始まるんですよ。

新しいプロジェクトが始まるときにも、弊社の情報はある程度共有されているので、最初からギアがかかった状態で伴走を始めてもらえるのもありがたいです。

もちろん、合う・合わないはあるかもしれませんが、一度一緒に取り組めば、どんな会社なのかを理解していただけるので、次の案件も相談しやすい。そんな関係性が本当にありがたいですね。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

ーーありがとうございました!


折坂 啓介 / Keisuke Orisaka

株式会社ぶどうの森 食品事業部 事業部長

加藤 高聖 / Takamasa Kato

株式会社ぶどうの森 品質保証部 部長

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社白山 金原氏 坪本氏 -AI活用のPULL型営業ツールの構築で成約獲得。世界シェアNo.1への挑戦-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社白山の金原 竜生氏、坪本恵理奈氏にお越しいただきました。

株式会社白山は、1947年に創業した通信部品メーカーです。黒電話を雷から守る「保安器」の製造からスタートし、現在では光通信に欠かせない光コネクタ部品を手掛ける企業へと成長。光コネクタ部品では世界シェア2位を誇る企業です。

AIを活用し、記事作成・トラッキング・ペルソナの可視化までを可能にする標準プロンプトを構築。SNS発信を、従来の情報提供から“営業を引き寄せるコンテンツ”へと進化させる取り組みに挑戦しています。

今回のインタビューでは、協働日本との取り組みで得た変化、組織としての意識の変化、今後の展望について、率直に語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

属人化していた業務を、仕組み化へ。未経験メンバーとの挑戦

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いや、プロジェクトが始まったきっかけについて教えてください。

金原竜生氏(以下、金原): よろしくお願いいたします。

坪本恵理奈氏(以下、坪本): よろしくお願いいたします。

金原: 当社は1947年に創業し、当初は”黒電話”の雷対策用「保安器」の製造を行っていました。そこから時代が進む中で、現在では光データセンター向けの光コネクタ部品「MTフェルール」などの製造が主力事業になっています。

そんな当社が協働日本と出会ったきっかけは、プライベートの知人であった山岸製作所の山岸社長からのご紹介でした。複業人材の活用により「面白いことをやっている」という話を聞いて興味を持ち、ちょうど協働日本代表の村松さんのセミナーがあるので来てみないか?とお誘いいただいたため、すぐに参加を決めました。
実際にセミナーでお話を伺うと、非常に興味深い仕組みだと感じ、ぜひ自社でも何らかの活用ができないかと考えていました。

それから1年ほど経ち、2024年の11月頃に私の所属するグローバルマーケティング室に坪本がジョインしました。これまでマーケティングは私が一人で担当しており、仕事量も多く属人化していたため、業務の仕組み化・体系化が急務だと感じていました。

これを機に外部人材に入ってもらうことでチームとして一緒に学びながら業務を進めていけそうだと感じて、改めて村松さんにご連絡させていただき、協働が始まりました。

ーーずっと活用を検討いただいていたのですね。

金原: ちょうど、石川県の「令和6年度プロフェッショナル人材確保支援事業」で、デジコーチの伴走支援の募集が始まったのもいい機会でした。

以前から「Linkedin」などのSNSを使って企業の情報発信をしていたのですが、前述の通り私が一人で取り組んでいましたし、海外出張も多かったこともあり継続的な発信を続けることが難しく、「仕組み化して継続的にやっていきたい」という思いがありました。その頃、会社HPの方のコンテンツ記事の下書きをAIで作るということも試してみていて、時短になったという肌感があり、SNSでの情報発信とデジコーチのコンセプトも親和性が高いだろうと感じていました。

そういった背景から、メンバーが増えるタイミングに合わせ、デジコーチでAIを活用したLinkedinでの情報発信を進めていくことになりました。


半日かかっていた記事作成が、1〜2時間に短縮。顧客に響く記事作成を実現。

ーー実際に協働プロジェクトが始まってからのお取り組みについても教えてください。

金原: はい。協働プロとしては、横町暢洋さん、松本亜也さんに入っていただいています。

元々私が発信を担当していた頃も、0ベースで記事の内容を考えていたので記事作成に時間がかかり、個人の動きとしても限界を迎えていたのが正直なところです。ましてや坪本は他業界からの転職ということもあり、全く知識がないところからのスタートだったので、もっと苦労をしそうだということは想定できていました。

ーー確かに、未経験の方が製品の紹介記事を書くのは難易度が高そうですね。

坪本: 私はアパレル業界からの転職で、金原の言う通り全くの未経験からのスタートだったので、当初とても不安に思う部分もありました。
そこで、デジコーチのお二人には、 Linkedinでの投稿作成のためのプロンプトなどを一緒に構築していただくことで、私のように業界や製品知識のないメンバーでも、記事を作ることができるような仕組み化を目指しました。

現在では、Linkedinでの投稿作成の際にHPに投稿しているコンテンツ記事をCopilotで要約し、記事の形にしていっています。Linkedinの記事は英語で投稿しているので翻訳にもAIを使っています。AIを活用することで、記事作成から翻訳、内容の確認という一連の流れを1〜2時間の作業で行うことができています。

もしも自力で1から記事作成するとしたら3〜4時間はかかると思いますし、当初であれば半日〜丸1日かかっていたかもしれません。
AIを通してできた記事は目視で確認するのですが、「製品名を間違えていないか」など軽微なチェックがほとんどでポイントも明確なので安心して取り組めていて、とても感謝しています。

金原:投稿サイクルも、最初は2~4時間かかっていた作業が、今では1~2時間に短縮。不定期だった投稿も週2回ペースで継続できるようになり、「発信したいから学ぶ」意識へと大きく変化しました。アウトプットを前提としたインプット姿勢も育まれ、社内にもよい影響を与えてくれています。

ーーなるほど。今の形になるまで、試行錯誤はされたのでしょうか。

坪本: そうですね。最初はプロトタイプとしてお手本のプロンプトを組んでいただき、精度を上げるために一緒に色々試していきました。元々のコンテンツから、発信する記事の形に変えるにあたって、必要な情報や追加したいワードなどを入れてブラッシュアップしていったことで、格段に作りやすくなってきています。

私は前職ではAIを活用する機会もなかったので、この取り組みで初めてAIを活用しました。未経験から製品紹介のLinkedin投稿をするというミッションの中でマーケティングやAIの知識がある方と一緒にやることで、スムーズに取り組むことができたという実感があります。

ただ記事作成の時間短縮ができているだけでなく、未経験者の私が自分で1から勉強するよりも、今のクオリティの成果物を出せるようになるまでの時間自体が短縮できたのではないかと思っています。

金原: また、記事の発信後、トラッキング、データ収集や分析から、ペルソナを可視化するところまでも協働プロに協力いただき、Copilotを活用して効率的な発信が可能になっていきました。


仕組み化による成果が続々。問い合わせ・成約にも直結

ーープロジェクトを通じて出た成果や変化についても教えてください。

金原:デジコーチで伴走していただき3ヶ月という期間の中で、やはり大きかったのは「仕組み」として発信を続けられるようになったことです。これまで200文字+写真というボリュームだった投稿が、600文字+写真という形にかわり、製品の情報も密になってコンスタントに発信することができるようになりました。

インプレッションや反応率は数値として見えるため、改善の効果も目に見えやすいです。実際、Linkedinのフォロワーは3ヶ月間で20%増、投稿を始めた初月からインプレッションが約5倍、リアクションは9倍に増え、アメリカでの展示会にも投稿がきっかけでブースを訪れてくださった方もいらっしゃいました。

さらに2025年春からは新たな年間契約体制へ移行し、取り組みは一層加速しています。グローバル展開に向けたマーケティング支援も本格化し、協働日本さんとも長期的な伴走支援を開始しています。


金原:実際に記事を起点とした問い合わせから、成約につながるケースも生まれており、手応えを感じています。AIツールや外部プロとの連携により、これまで属人的だった情報発信が「高品質な営業資産」へと変わりつつあり、今後もこの体制を継続・拡張していく予定です。

成果も出ており、2024年12月~2025年2月のわずか3ヶ月間で、欧州で550万円の成約1件、試作依頼5件(欧州・北米・南米)、問い合わせ8件を獲得。その多くがLinkedin投稿を起点とする成果であり、グローバルへの広がりを力強く後押ししています。

最近では、GAFAMクラスの世界トップクラスのグローバル企業からも問い合わせをいただくことが出てきており、単なるSNS運用支援にとどまらず、グローバル市場に通用するLinkedinマーケティング戦略を協働日本と共に構築しつつあります。

現在では欧州・北米・南米を中心に、大手グローバル企業からの反応も急増しており、光コネクタ部品での世界シェア1位獲得に向けて引き続き取り組みを進めていきたいと思っています。

これからの挑戦。WEB活用、組織力強化へ

ーー今後の展望についても教えてください。

金原: はい。これからは、WEBを使った新規取引の獲得をさらに自動化していきたいと考えています。

AIが得意な部分はAIに任せつつ、営業・マーケティングのメンバーが、新規や既存のお客様との商談など“人にしかできない価値”に時間をかけられる体制をつくっていきたいです。

そのために、Salesforceを導入して、ナレッジや案件情報をきちんと共有できる仕組みを作ろうとしています。
あわせて、WEBアクセスの分析も進めて、そこから市場の反応を素早く営業にフィードバックできるようにする予定です。

また、LinkedInを起点にしたターゲティング広告や、海外展示会への出展も本格的に進めるつもりです。 オンラインとオフラインの両方から、グローバル市場へのアプローチを強化していきます。

さらに、営業やマーケティングのチームメンバーの知識面も底上げしていきたいです。
単なる情報発信だけでなく、より戦略的な市場開拓活動ができる組織に成長させていきたいですね。

ーーありがとうございます!

「伴走者」として支えてくれる存在

ーー今回社外プロ人材との取り組みを通じて、率直にどのように感じられましたか?

金原:白山として、社外のプロ人材を活用するのは初めてでしたが、 私自身もプロボノで他社の支援をしているので、はじめから協働日本の仕組みはイメージがつきやすかったです。

複業人材全般というよりも「協働日本の協働プロ」についての印象ですが、本当にアグレッシブで熱意がある。そのおかげで我々が程よく緊張感を持ち、心地よいプレッシャーを与えられて頑張れているという実感があります。

坪本: 私も、先ほどお話しした通り未経験からこの業務、プロジェクトに携わることになったので不安もありましたが。1から全部教えていただけたことを本当にありがたいと思っています。

金原が言う通り、協働プロの熱量がすごく高いので、「自分もやらなければ」と言う思いを持たせてもらえる存在です。「こうなったらいいな」というものも「それやれそうですよ!」と言ってくださるので、自分ではイメージ出来ない部分があっても「できるのかも」と思えるようになっているという自分の変化も感じます。

ーー協働プロとの対話の中で、前向きに取り組めそうだと感じていただけるようになっているんですね。最後に協働日本へ一言メッセージをお願いいたします。

金原:協働プロの皆さんは、「指導する人」ではなく「伴走者」として関わってくださいました。結構特殊な関係性だと感じていて、お願いしている立場ではあるけれど、先生でもなく、ゴールに向かって一緒に走っている仲間という感覚です。
このスタンスがとてもありがたかったですね。

プロジェクトに全然関係ないことも含め、会社で何か成果が出たら嬉しくてすぐ共有してしまうくらい、よくコミュニケーションを取らせていただいていますし、「こんなことができたら面白いんじゃないか?」という思いつきも気軽にお話できるんです。

本当に心理的安全性が高く、些細なことでも相談でき、「やってみよう!」と実現に向けて導いていただけることも、プロジェクトを継続していく上でとても重要だと思っています。
県の事業での伴走支援は一旦区切りを迎えていますが、これからも継続して伴走支援をお願いすることにしています。

これからも、このつながりを大切にしながら、次の挑戦にも前向きに取り組んでいきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

白山はこれからも、世界トップを目指す覚悟を持って挑戦を続けていきます。そして、協働プロたちもまた、単なる支援者ではなく、白山と同じ志で「世界No.1」を本気で目指す仲間として伴走してもらいたいと思っています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

金原: ありがとうございました。


金原 竜生 / Tatsuki Kimbara


株式会社白山(2021年2月入社)
グローバルマーケティング室 室長
1988年愛知県生まれ。家族4名(子ども2人)

#営業 #マーケティング #英語 #ドイツ語 #中国語
#スペイン語 #知的財産管理技能士 #海外渡航(32ヶ国)

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社1129 大隣 佳太氏 – “赤身肉の旨さ”を広める挑戦。経産牛のブランド化で市場を切り拓き、前年比5倍以上の成果を生んだ。-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。


協働日本は、鹿児島県および鹿児島産業支援センターの令和6年度の「新産業創出ネットワーク事業」を受託しており、取り組み企業数社をお招きし、報告会を行いました。
当日は取り組み企業の一社、株式会社1129の代表取締役・大隣 佳太氏にお越しいただき、協働の取り組みと成果を発表いただきました。
株式会社1129は、鹿児島県鹿児島市を拠点に、業務用食肉の卸売からスタートし、現在は自社ブランドによる精肉販売・商品開発、外食・ECなど、多岐にわたる事業を展開する企業です。
中でも注力しているのが、これまで市場価値が低く見られてきた「経産牛」の再評価。
その豊かな味わいを活かしながら、ブランド化と販路拡大に挑戦しています。


今回は事前インタビューでお伺いした内容を含め、大隣氏にお話しいただいた協働日本との取り組みを通じて生まれた変化や、今後の事業展望への想いなどをご紹介します。協働プロジェクトを通じて、大隣氏がどのような変化と成果を得たのか、未来への展望とともに伺いました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

経産牛の価値を広めたい──その想いから始まったチャレンジ

ーー協働日本と取り組むことになった背景とプロジェクトについて

大隣佳太氏(以下、大隣): よろしくお願いします。まずは弊社のご紹介をさせていただきたいと思います。私の実家は祖父の代から続く畜産農家で、幼い頃から牛と共にある生活が当たり前でした。しかし、父の代で廃業してしまったことが、今でも自分の中に“悔しさ”として残っています。そういった原体験があるからこそ「牛に関わる仕事がしたい」という思いをずっと持ち続けており、ずっと畜産の繁殖生理学を専門に勉強し、2019年の12月24日に会社として設立しました。黒毛和牛をもっと価値あるものにしていくという理念を掲げ、2020年の2月9日から通信販売のみという事業形態で黒毛和牛の販売をスタートしました。

楽天、Amazon、Yahoo!などの大手ECサイトでの食肉の販売やふるさと納税を取り扱っていく中で課題として強く感じていたのが一頭買いした肉をいかに効率よく使えるかということでした。サーロインやヒレなど、いわゆる「いい肉」というイメージのある人気部位は通販でも人気で、在庫はほぼはけてしまいます。一方、他の部位は冷凍庫がパンパンになる程余ってしまうこともありました。そこで、余った部位にうまく付加価値をつけて販売し、売り切っていくことで牛一頭あたりの単価を上げられるのではないかと模索していました。

これまでは和牛の価値は「サシ=霜降り」の多さで評価されてきました。しかし、近年では赤身肉も注目されるようになってきています。
繁殖を終えた経産牛は、等級こそ高くないものの脂に頼らずしっかりとした旨みがあります。赤身肉の本当の良さを知ることのないまま「霜降り肉」ばかりが「いい肉」として評価されてしまう、その評価軸をひっくり返してみたいという思いが強くなりました。

そのためにどれだけアイディアがあっても、それを具現化するためのBtoCのマーケティングや商品設計の知識、スケジューリングなどは経験も浅く実行に移すのが容易でない……そんな時に出会ったのが協働日本でした。「一緒に考え、一緒に悩んでくれる伴走者」というスタンスにも魅力を感じ、アイディアの実現に向けてお力をお借りすることになりました。

“厚切りステーキ”と“販促計画”から始まった、伴走支援の中身

ーー実際に協働プロジェクトがスタートしてから進んだ取り組みについて

大隣:プロジェクトのテーマとしては「経産牛の赤身の美味しさを証明する」ことを掲げ、「経産牛をどうやって販売するか」の具体化に着手しました。協働プロとして相川知輝さん、田村元彦さん、芹沢亜衣子さんに入っていただいています。
毎週1回のミーティングで、新商品のアイディアを出し、販促スケジュールに落とし込んでいく取り組みを共に進めました。

これまでは新商品のアイデアが出ても、いつ・どこで・どう売るか?といった計画がふんわりしていて、結果的に販促が後手になりがちだったんです。季節ごとのニーズを見ながら逆算で新商品の設計ができるようになったことで、季節のキャンペーンなども積極的に行えるようになっていきました。

例えば、クリスマス用に販売した「3.2cmの厚切りステーキキット」では、赤身の旨みを最大限引き出す“厚切り肉”を、家庭で誰でも美味しく焼けるように専用レシピと焼き方ガイド、参考動画もセットにした商品にして販売しました。


同じように季節物商品としては、ハロウィンと連動させたキャンペーン企画も展開。「ミニハンバーガーキット」を販売しました。前年も同様の商品を用意したのですが、協働日本の皆様と共にブラッシュアップした結果、前年の売上数128セットから680セットへと約5倍の伸長を記録したんです。広告費などを抑えることもでき、一人当たりの獲得単価のコストパフォーマンスもグッと向上しました。

これまで感覚的に進めていたことに協働日本さんから「戦略と設計」を加わえていただいたことで、結果がここまで変わるのかと驚きました。

他にも、大きな成果としては「ビーフジャーキー事業」の確立です。最初に、人気の部位以外は余ってしまうこともあるという話をしましたが、そのうち、スネ肉はハンバーガー、切り落としはうどん屋などそれぞれ飲食店事業の方で捌けるようになっていました。一部位だけ残っていたのが「外モモ」です。これをどうにか商品として価値を高めていけないか?ということを検討する中で、パッケージにわかりやすく「黒毛和牛」と文言を入れるなど、インバウンドなど海外市場も視野に入れてビーフジャーキーを作ることにしました。

結果として、鹿児島空港や福岡の大丸デパート、関東の一部キオスクや、大型酒販店の全国店舗で取り扱っていただけるようになるなど、大きな集客が見込めるチャネルへの販路開拓に成功しました。
明太子メーカーとのコラボレーションが決定するなど、これからもさらに多くの方に認知され、食べてもらえるような取り組みを進めていきたいと思っています。

協働プロとの共創が、未来を形にする力になった

ーー協働日本との取り組みを通じて得られた学びや、今後の展望について

大隣: 一番大きかったのは、「考えが整理される感覚」ですね。
自分の中ではバラバラだった想いや構想を、協働プロの皆さんと話すことで、言語化され、形になっていく。 そのプロセスがとてもありがたかったです。

今回の伴走支援を経て気づいたこととして、ブランディングと、商品開発による顧客価値への転換、そして販路開拓力という3つが全て揃うことで、黒毛和牛の価値が最大化されることを実感しました。

自分たちの持つ「赤身も美味しい」経産牛の黒毛和牛という強みと、質の高い外部専門家チームとの掛け算があってこそ、成果が生まれていると思っています。県の事業の中で伴走してきていただきましたが、またさらに1年、伴走をお願いしたいとも考えています。協働日本は、私たちにとってはただ伴走支援をしていただくだけではない「一緒に未来を描くパートナー」になった実感があります。

今後の展望としては、海外への輸出展開も視野に入れています。赤身を食べる文化が根付いている欧米などでは脂肪分の少ない和牛はむしろ歓迎される存在なので、1129ブランドが挑戦できる可能性を感じています。やはり、人気部位だけでなく全ての部位に付加価値をつけて販売することができるようになれば、これまで一頭100万円で売れていた牛も150万円で売れるようになるなど、鹿児島の黒毛和牛全体の価値を高めていきたいという使命感を持って動いています。これからも美味しさの追求、付加価値の向上を目指して取り組みを続けていきたいと思います。

協働プロとして参画する相川 知輝氏のコメント

株式会社1129さんとの協働取り組みも今年で3年目になります。この3年間、順調に進んだこともあれば、もちろん失敗や試行錯誤もありました。ただ、大きな方向性としては確かな手応えを感じていて、少しずつ成果が見え始めていると実感しています。

協働支援において私が常々思っているのは、ビジネスには唯一の“正解”はないということです。ただ一方で、「失敗するパターン」には共通項があるとも感じています。特に中小企業がECに取り組む場合、ありがちなのが“早い・安い”という軸で勝負しようとすること。これは大手企業の土俵なんです。早くて安いというのは資本やリソースを潤沢に持つ企業だからこそできる戦い方であって、そこに中小企業が挑んでも勝つのは難しい。

株式会社1129さんも、支援を始めた当初は、いわゆる精肉をスライスして販売するようなスタイルが中心でした。ECサイトでは「今日は20%オフです」といったシンプルなキャンペーンメールが流れているなど、一見売上が伸びているように見えるものの、差別化できておらず利益が残らない……という状況でした。そこで、どうやって差別化を図るか?というのが最初のテーマでした。

商品開発においては、アイデアの多くは1129さん自身が持っているものでした。ハロウィン向けのミニバーガーやビーフジャーキー、厚切りステーキといった商品はどれも他社にはない独自のラインナップです。こうした商品は、きちんと戦略を立てて展開すれば粗利がしっかりと取れる構造になります。つまり、“売上は立つけど利益は薄い”から、“利益がきちんと取れる売り方”へのシフトを目指すことができたということです。

特に印象的だったのは、1129さんの“アイデアの泉”のような部分。代表の大隣さんをはじめ、スタッフの皆さんがとにかくアイデアをたくさん持っている。そしてそれだけでなく、インターネット広告やキャンペーンのノウハウも非常に豊富です。さらに、商品や素材への愛情がとにかく強い。「この牛の良さをもっと届けたい!」という想いが溢れている。それだけに、当初はその熱量に対して、戦略や方針が追いついていなかったという印象がありました。

我々がサポートさせていただいたのは、そうしたアイデアをどう優先順位付けして、どのタイミングでリリースするのか?という計画の部分でした。たとえば、節分にあわせて“鬼バーガー”を出したいという企画があったんですが、スケジュールが間に合わず見送りになりました。こうした「惜しい」ミスを減らしていくためにも、スケジュール管理と販促計画の連動は不可欠なんだなと、現場でも改めて感じました。

また販路開拓も重要なポイントでした。例えば、JR系列の駅ナカ店舗や百貨店などへの展開もありましたが、それと同時に、Instagramを活用したEC販売のチャネル強化も進めました。ハロウィンバーガーのように「見た目が映える商品」は、どこで売るかが極めて重要で、それを求める人たちがいる場所――つまりInstagramなどのSNSが最適な販売チャネルになる、という考え方です。

今回の取り組みで特に良かったのは、「粗利が取れること」と「ユーザーのニーズ」が交差する商品を見極められるようになってきたことです。1129さんは自社で販売する商品について、すべてを画一的に決めるのではなく、お客様の要望を取り入れながらカスタマイズしていくスタイルも持っています。その柔軟性が、これからの市場においてさらに強みになっていくと思っています。

我々がご一緒したプロジェクトにおいては、チームを作ってアイデアを回していく体制ができ始めています。今後も、必要な部分にしっかり寄り添いながら、1129さんの熱量と柔軟性が、さらに大きな成果へとつながっていくようサポートしていけたらと思っています。



協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
株式会社1129様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。


 大隣佳太 / Keita Ootonari

株式会社1129代表。株式会社バリュー代表。肉師。

農業高校を卒業後、農業大学へ進学。種畜場で修行後に家業の南九州市で畜産経営に従事。牛の人工授精や受精卵移植などの知見を得る。その後、鹿児島県南九州市で家業の畜産経営に従事した後、2012年に畜産業を廃業。

ECやWebマーケティングを独学で学び、その後、福岡のIT企業に就職。会社員時代を経て、2018年に福岡で株式会社バリューを設立。ECコンサルやWebマーケティング、アプリ開発などに従事。

その後、和牛への熱い想いを胸に2020年、通販専門精肉店・株式会社1129を設立。和牛のおいしさ・提供方法を追求するための研究開発ラボ「1129LTD. nikulabo」を開設。
鹿児島県産黒毛和牛の魅力を発信する飲食店「にくと、パン。」「にくと、うどん。」を展開するほか、鹿児島県産の黒毛和牛のステーキや、手作りハンバーガーキット、ビーフジャーキーを、同社のECサイト『1129nikulabo』や、各種ECサイトで販売している。

株式会社1129
https://1129iiniku.co.jp/home_mori/

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社第一塗料商会 永井 宏和 氏 -新規事業戦略をチームで策定。組織能力向上により売上件数142%へ-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。 実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社第一塗料商会の代表取締役、永井 宏和にお越しいただきました。 株式会社第一塗料商会は、1965年に創業し、塗料や建築資材の販売を手掛ける老舗企業です。これまで地域の職人や工務店を中心に事業を展開してきましたが、近年は市場の変化に適応するため、新たな販路開拓に挑戦しています。

協働日本の支援を受けながら、顧客戦略を策定し、SNSを活用した発信の強化や新たなターゲット層の開拓に取り組み、売上の拡大を実現しました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)

ターゲットや強みが明確に。「塗屋本舗」が本当に伝えたいテーマを見つけられた。

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

永井 宏和(以下、永井): よろしくお願いいたします。 当社はこれまで、地域の工務店や職人の方々を主要な顧客として、自動車向けの塗料や建築塗料の卸販売を主軸に事業を展開してきました。

しかし近年では自動車保有台数の減少などによる市場縮小や、競合他社の存在もあり、新たな販路を模索する必要性を感じていました。そこで、当社が直接塗装工事を請け負う、BtoC向けの事業も開始することになりました。

事業成長に向けて色々と模索している中、地元の地銀が主催するセミナーで協働日本代表の村松さんの講演を聞く機会があり、それがきっかけで伴走支援に興味を持ったんです。

実はBtoC事業を始めるにあたり、ノウハウを知りたくて過去にコンサルタントを依頼したことがありましたが、「コンサル担当者が戦略を考え、当社の担当者が戦略を遂行する」というスタイルが、どうしても私たちの現場の温度感と合わず、成果を出しきれなかったという経験がありました。

だからこそ、協働日本の「一緒に考え、一緒に企画していく」という伴走のスタイルにすっと共感し、ぜひ協働できないかと考えるようになりました。

実際に講演後に村松さんと話をさせていただき、課題に合わせた協働プロをご紹介いただけるというスタイルや、当社がこれから取り組んでいきたいと考えていたマーケティングやSNS発信に強い協働プロの方々に伴走支援に入っていただけると聞き、鹿児島県の事業に応募することにしました。無事採択されて今回、ご縁をいただくことになったのです。

ーー実際に協働プロジェクトが始まってから、どのような取り組みを進めているのでしょうか?

永井:はい。協働プロとしては、四元亮平さんと和地大和さん、協働サポーターとして田中友惟さんの3名のチームで伴走していただいています。当社からは、私と常務、そして担当スタッフがチームとしてプロジェクトを進めています。

そもそもBtoC事業ではかねてより、新規顧客獲得に苦戦しており、何をすべきかもわからない状態でしたので、協働プロジェクトも本当にゼロからのスタートとなりました。

最初に取り組んだのは、ターゲット市場の見直しでした。従来はBtoBとして職人や工務店向けの営業が中心で、BtoCの販路としてはホームセンターに塗料を置くなどの展開を行っていたものの、売上の向上には至っていませんでした。

売れないということは、需要がないとも言えます。そこで協働チームとの対話の中で、ターゲット顧客となりうるのは誰か?どんなニーズがあるのか?を明らかにし、BtoC向けブランド「塗屋本舗」の価値・強みを明確にしていきました。

そこでいざ、これまでの顧客データを整理してみると、塗った品物やニーズもバラバラで、ターゲットが定められないという課題が浮き彫りになりました。

依頼が入るごとに新たにヒアリングをしてニーズを明確にしていくという取り組みを進めることで、ペルソナを整理し、ブランディングメッセージを設定。具体的なプロモーション戦略に取り掛かることができました。

ーー具体的なターゲットや強みについてもお伺いできますか?

永井:もちろんです。「塗装をしてほしい」というニーズには、「古くなったものを塗り替えて綺麗にしたい」というマイナスをプラスにしたいものと、「今あるものを塗り替えてさらに良いものにしたい」という、プラスを生む価値がそれぞれ見出されていることがわかってきました。

また、「選べる色の種類が多いと嬉しい」というニーズや、自分が望む色にできることへの満足感も見えてきました。

ニーズの掘り下げをしていく中で、「ペンライトを塗ってほしい」という、いわゆる“推し活”のお客様が一定数いらっしゃることにも気づくことができたのも収穫でした。これまでは漠然と30〜40代以降の年齢層がターゲットと考えていたため、20代にも“気軽に塗装を楽しむ”体験を提供できることがわかったのは、とても意外な結果でしたね。

塗屋本舗の塗料は見本だけでも2,000色。色を通じたライフスタイルを提案し、「色で生活を豊かに」というブランドメッセージを掲げる当社の価値は、まさに選べる色の多様さ、望む通りの色にできるというニーズと一致した強みであるとわかりました。

そこでこの「色で生活を豊かに」というメッセージを改めて重点テーマにして発信し、より色を楽しんでいただける方を増やしていくことになりました。

ーー「色で生活を豊かに」、とても素敵なメッセージですね。その先のプロモーションはどのように進めていったのでしょうか。

永井:策定した顧客戦略に基づいて様々な施策を講じてきたのですが、一例として、SNSを中心とした情報発信、プロモーション施策を行いました。もともと、「色を楽しむこと」をイメージとして伝えるにはSNSが適していると考えていました。

そこで、協働プロと相談しながらInstagramアカウントを新規開設し、明確になったターゲットとニーズに合わせた内容として、プロモーション動画やインフルエンサーを活用した発信を開始しました。特に「古くなったものを綺麗にして使い続けたい」というニーズは、「色を通じたライフスタイル提案」との相性も良いと考え、小学生の頃使っていた勉強机をリペイントして、大人になっても使い続けられるというイメージの動画を制作しました。

「長く使い続けるための塗装サービス」としてのコンセプトを打ち出すことができ、「色で生活を豊かに」というメッセージも自然に伝わる内容になったと感じています。

売上件数142%へ。組織の力が強くなり、問い合わせを受注に繋げられるように。

ーー協働を通じて得られた成果や変化についても教えてください。

永井: 一番大きな成果は、売上件数の増加です。プロジェクト開始前と比べて、注文件数は約40%増加しました。

これは複合的な要因が背景にはありますが、何より伴走支援を通じて、スタッフが成長してくれたことが大きいと考えています。

実はプロジェクト開始当初、ミーティングの中で当社メンバーから積極的な意見があまり出てこない場面も多くありました。しかし協働プロの皆さんは、気長に優しく、丁寧に発言を促しながらスタッフの言葉を引き出してくださいました。

スタッフからすれば、突然始まった外部のプロ人材とのプロジェクトで「なぜこんなことをするのか?」という状態だったと思います。

それでも、毎週のミーティングでお題を出され、1週間考えて次の週に発表するというサイクルを繰り返す中で発言が増えていきました。発言が増えることで、自主性や責任感も芽生えていったように感じています。



このように、メンバーに課題を与え、「どんなことができるだろうか?」と自ら考え、翌週に答えを出すというプロセスを見て、「伴走とはこういうことなのか」と実感しました。

社内でもこうしたコミュニケーションを広げていきたいと感じましたし、プロジェクトに関わった常務からも「組織論を学べた」との言葉があり、経営陣にとっても学びの多いプロジェクトでした。

スタッフはただ指示されたことをこなすのではなく、目的意識を持って業務に当たり、目的に対してどのような手法が効果的かを自ら考えるようになりました。こうしたスタッフのスキルアップが、顧客からの問い合わせを確実に受注につなげていく結果に直結したのではないかと考えています。

そこに、SNSを通じた露出による認知拡大が追い風になりました。

ーー協働を通じて組織が強くなったことが、成功要因だったのですね。

永井: 塗り屋本舗の顧客と向き合うという一連のプロセスを通じて、ターゲットや強みだけでなく、私たちが目指したい未来も明確になりました。

これから向かっていく方向を、協働の取り組みの中で言語化できたことは、本当にありがたい成果でした。

あらためて、目指す方向性や戦略を言語化できたことと、顧客に向き合ったことで社員ひとりひとりが主体的に取り組めるようになったこと。この2点が、今回の伴走支援による大きな成果だったと感じています。

業績面での成果については、まだこれからに期待したい部分もあります。今後は、SNSの発信から部屋の壁や外壁塗装の仕事につながるような導線づくりや、発信も続けていきたいと思っています。

実際に塗装を体験していただける機会をつくるなど、やりたいことはたくさんありますので、ここからさらに1年間、協働プロジェクトを継続させていただく予定です。

難しいテーマにも外部プロ人材と共に考え、共に立ち向かっていく「協働」スタイルの魅力。

ーー今回社外プロ人材との取り組みを通じて、率直にどのように感じられましたか?

永井:最初に村松さんの講演を聞いたときから、外部の人材を活用してチームをつくるという座組みがとても素晴らしいと感じていました。

やはり「餅は餅屋」であり、さまざまな分野のプロ人材が複業という形でプロジェクトごとに関わってくださること自体、非常に貴重な経験になったと思います。

週に一回というペースも、適度に「考える時間」をいただけるので、ベストな時間配分でした。協働プロは、その知識や経験だけでなく、皆さんとてもお人柄が良く、プロジェクトは終始和気あいあいと進んでいきました。

与えられた正解や戦略を強制するのではなく、常に「共にやっていきましょう」「一緒に考えていきましょう」「一緒に作っていきましょう」というスタンスで関わってくださったことが、当社には特に合っていたと感じています。

ーー今後、このような外部のプロ人材との取り組みはさらに進んでいくと思われますか?

永井:時代の流れとして、間違いなく広がっていくと思います。以前は「原則副業禁止」という会社も多く、このような取り組みは考えられませんでしたが、今では柔軟な働き方によってプロ人材の活躍の場が広がっており、とても良いことだと感じています。

協働日本との取り組みは、本音を言えば競合他社には教えたくないほどですが(笑)、親しい経営者仲間にはぜひこの伴走支援の良さを伝えていきたいですね。さまざまなプロ人材が、いろんなテーマ・角度で伴走されていると伺っており、幅広い悩みを網羅できることも協働日本の強みではないでしょうか。

ーーそれでは最後に、協働日本へのエールも込めて一言メッセージをお願いします。

永井:まずは、何より感謝をお伝えいたします。伴走というスタイルは他にはなく、「共に考え、共に作る」という「協働」のスタイルの素晴らしさを痛感しました。

協働プロの皆さんのプロジェクトの進め方は、社内でのチームの動かし方にも通用する要素が非常に多くありました。目的意識の共有、ゴールに向けた方向性、ストーリーの共創などを通じて、メンバーが前向きに成長してくれたことは、本当に感動的でした。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

永井:ありがとうございました!



協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
株式会社第一塗料商会様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。


永井 宏和
 / Hirokazu Nagai

株式会社第一塗料商会 代表取締役社長

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:有限会社鹿児島ラーメン 西 洋平 氏 -DX化と組織開発に取り組み、成功循環モデルで利益目標達成へ-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、有限会社鹿児島ラーメンの代表取締役西 洋平氏にお越しいただきました。

鹿児島ラーメンは1960年に創業し、鹿児島県内で4店舗を運営する老舗のラーメン店です。みよし家の屋号で親しまれ、代々受け継がれた伝統の味を守りながらも、EC事業や卸売など店舗外での展開にも挑戦しています。

3代目として事業を承継した西氏。組織運営の面で新たな課題に直面し、協働日本とともに組織改革に取り組むことを決意したそうです。

インタビューでは、協働プロジェクトを通じて得られた気づきや成果、今後の展望についてお話を伺いました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


強みを磨き、飲食業の常識を覆すような新価値を生み出したかった

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、協働日本との出会いについて教えてください。

西 洋平氏(以下、西): よろしくお願いいたします。

鹿児島県内の飲食業界のネットワークがきっかけです。出水田食堂の出水田さんから「面白い人たちが事業者さんの支援をしているよ」と紹介していただきました。

出水田食堂さんが、県の事業で協働日本とユニークな取り組みをしていることはSNSなどを通じて知っていたので、最初は軽い気持ちでお話を聞いていたんですが、協働日本代表の村松さんと何度かお話しするうちに、今まさに向き合っている課題に、協働日本さんの伴走支援がピッタリはまるんじゃないかと思うようになりました。

ーー最初は、協働日本の取り組みに対してどのような印象をお持ちだったのでしょうか?

西: 協働日本が鹿児島県と取り組んでいる事業は「新産業創出」というテーマだと聞いていたので、いわゆる0→1の新規事業に取り組むというイメージを持っていたので、正直なところ、最初は『うちには関係ない話かな』と感じていたんです。
しかし、会話の中で「新産業」というのは単にゼロから新しい事業を立ち上げることではなく、今あるビジネスを時代に合わせて進化させることも含まれると分かったんです。

それならば、鹿児島ラーメンでも、脱アナログ・DXや、強みをフォーカスするためにアウトソーシングなどに取り組むことで、今までの飲食業の常識を覆す新たな価値を生み出せるのではないかと思うようになりました。

さらに、協働プロジェクトのテーマは協働チームの中で話し合いながら設定していけると聞き、躊躇しているよりもまずは、挑戦してみたいと思いました。今年度も募集されていた県の支援事業の仕組みを通じて取り組みがスタートしました。

見えてきた「組織の土台」を強化する必要性

ーー実際にプロジェクトが始まってからは、どのような取り組みを進めているのでしょうか?

西: 協働日本の協働プロとして藤村昌平さん、横町暢洋さん、花澤雄一さん、協働サポーターとして先山毅さんに伴走していただいています。

取り組みを始めた当初は、業務のスリム化やオペレーションの見直しをテーマにしていました。しかし実際にプロジェクトが進むにつれて、根本的な課題である「組織としての基盤が整いきっていない」ことが浮き彫りとなり、気がつくと、取り組みの方向性も自然と変わっていったんですよね。

ーー「組織としての基盤」とは、例えばどのような課題感があったのでしょうか?

西: 例えば、私が現場に指示を出しても現場に指示が伝わりきらず、「聞いていなかった」と言ってスタッフが行動に移せていなかったことがありました。せっかく新たな掲示物を作っても見られずに終わってしまっていたりと、情報伝達の仕組みがうまく機能していませんでした。そういった課題をふまえて、業務のスリム化やオペレーションの見直しに取り組み、組織としての情報共有レベルを上げていきたいと考えていたのです。

取り組みがスタートし、協働日本の協働プロの藤村さんへさっそく現状を踏まえて相談したところ、「レベルアップ以前に、まずは組織の土台づくりに改めて向き合い直すべきではないか」というご指摘をいただいたんです。情報伝達の具体的なハウツーを学んで導入しようと思って質問していただけに、その返答には、正直驚かされました。


ただ思い返してみると確かに、組織としての土台が整っていない状態でルールや指示を通そうとすると、どうしても昔ながらのトップダウン経営になってしまいますよね。
今一度、組織としてのチェックポイントや管理体制など、改善のための受け皿となる基礎を作り、その上で再構築やスリム化の議論を進めていく必要があることに気づく機会になりました。最終的には、組織力強化とオペレーションの見直し、この2つに絞って取り組むことになりました。

ーーなるほど。具体的なお取り組みについてもお伺いできますか?

西: まずは、管理業務の見直しに着手しました。課題管理にはNotionを、数値管理にはスプレッドシートをそれぞれ導入しています。

これまでは店舗ごとにLINEなどのメッセンジャーアプリで数値報告を行っていましたが、日次の売上やFLコスト(食材費+人件費)をスプレッドシートで可視化できるようにと、協働日本の中でも特にデジタル活用に強い協働プロの横町さんにサポートいただきました。その結果、店舗ごとの状況をリアルタイムで把握できるようになり、業績改善に向けた具体的なアクションを取りやすくなっています。

また同時に、現場の声を拾う仕組みづくりにも取り組みました。店舗ミーティングを導入し、トップダウンではなく現場の意見を反映できる環境を整備。これにより、店舗ごとの課題がより明確になり、スタッフ自身が改善に向けて自ら考える機会も増え、組織力の強化が進んでいます。

現場の声を丁寧に拾っていく中で、スタッフ主導でお客様アンケートも実施されました。そこから誕生した新メニューは、1,300円という高単価にもかかわらず、いきなり人気商品となり、売上にも大きく貢献しました。こうした現場発のアイディアが成果に結びつき、組織力が確かに高まってきていると感じています。

組織力だけでなく、働くスタッフ自身も活性化。成果を生み出せる組織の基盤が強化された

ーー色々な角度でのお取り組みが進んでいるのですね。

西: はい。管理業務の見直し・DX化と、組織開発というこれまで別々のものとして捉えていた二つのテーマに、協働日本さんのサポートを得ながら同時並行で取り組んだことがよかったのだと思います。

例えばこれまで予算比で毎月10%以上の乖離が出ていた店舗ごとの利益目標も、ここ最近では大きく改善しています。取り組みが始まってからの3ヶ月で大幅に改善されてきていて、あと1〜2%で当初目標にしていた利益目標に届くペースです。これは正直、自分でもびっくりするぐらいの成果でしたね。

店舗の状況を可視化できるよう数値管理の仕方を一から見直し、店舗のKPIを明確にしたことにより、リーダー陣の目標が明確になり意識も高まったことが大きかったと思います。

組織力を見直す取り組みと同時に、一歩先を見据えた、スタッフ同士のコミュニケーションの質の改善にも取り組んできました。

会社が大切にしている「ありがとうを伝える文化」を作るため、LINE上で「ありがとうグループ」を作りました。「これだけで?」と思われるかもしれませんが、日々の業務の中で「助かった!」と思うことを可視化することでお互いに助け合うシーンが増え、職場の雰囲気が以前よりも明るくなってきたんです。

普段から感謝し合える関係ができたからこそ、みんなで率直に意見を言い合えるようになったんだと思います。それが、業務改善や店舗運営の効率化にもつながったんですよね。

ーースタッフ同士が指摘をし合える関係構築ができたというのは素晴らしいですね。

西: はい、ただ本音を少し話すと実は、私自らがスタッフに対して距離を置いてしまっていた部分もあったのかもしれません。変化を求めて具体的、本質的な指摘をしてしまうと、スタッフの退職に繋がってしまうのではないかということを恐れていました。

私自身は鹿児島ラーメンを継ぐ前に、東京でIT企業に勤めていました。IT業界は人材の流動性がとても高いこともあり、入退社、転職なども当たり前の世界。組織が変化する時には一定の社員はどうしても「辞めていってしまうもの」と思い込んでいた部分もありました。

実際、鹿児島に戻って家業を継いだ時も、ベテラン社員7名が引退し、一時は人手不足に悩まされました。鹿児島ラーメンが好きで長年頑張ってきてくれていたベテランの方も多く、彼らのおかげでこれまで鹿児島ラーメンは地元で愛され続けてきました。そんな方達が、ネガティブな理由で辞めるような環境にはしたくないという思いから、どこかで大胆な改革を躊躇していた自分がいたのも事実です。

ーー西社長ご自身の中にも葛藤があり、なかなか改革の一歩を踏み出せなかったのですね。

西: はい。それでも年月が経ち、徐々に引退される方も増えてきた中で改革の一歩を踏み出しました。

長年のやり方や考え方をいきなり変えるのは大変です。指摘を素直に受け止めるのもすぐには難しいかもしれません。それでも、日頃お互いに「ありがとう」を言い合えていると受け止める方も感じ方が変わると思うんです。
「普段から仕事を見てくれて、そして感謝してもらえている。自分自身も感謝しているしな」と思ってもらえたら、会社を良くしたいと思って伝えた指摘や、これまでのやり方を変えていくということも受け止めやすいですよね。

実際、LINEの「ありがとうグループ」で「これをしてもらえたら助かった」といった感謝の言葉が可視化されたことで、キッチンとホールのスタッフの相互理解が進みました。
ホールが忙しい時にはキッチンのスタッフがサポートに入り、出来上がったラーメンをお客様に配膳するように動くなど、感謝の仕組みが現場組織の形を少しずつ変えてきています。

関係の質が高まれば、結果も自然と良くなる——それが組織の成功循環モデルだと考えています。この良いサイクルを、これからも続けていきたいですね。

ーー先ほど、利益目標の達成も目前に迫ってきているというお話がありました。ここから目指すところについてもお伺いできますか?

西: はい。利益目標の達成のためには、売上向上とコストカットの2軸の施策が必要です。

人件費の最適化も進めていこうと考えており、月に約200万円下げることを1つの目標にしています。現状では、150万円まで下げることができるようになっているので、ここからの1〜2ヶ月で達成に向けてスタッフと相談して取り組んでいきたい部分です。

ーー人件費だけで150万円のコストカットというのはインパクトが大きいように見えますね。

西:人件費の削減というと、単に人を減らすという方向で見られがちですがそうではありません。

常々弊社のリーダー陣には、人件費のカットは、個々の給料を下げることではなく、店舗運営の作業をひとつひとつ見直し、減らしていくことを意味するのだと伝えてきました。

今回の伴走期間にカットできた費用に関しても、取り組みの中で実施したメニューの変更や業務のスリム化が影響している面が大きいです。人件費を減らすと言っても、貢献した人の給料にはきちんと反映させるというこれまでの方針を変えることはありません。

スタッフのみんなと私の信頼関係、スタッフ同士の信頼関係。成功循環モデルのサイクルを回していくことで、店舗で提供するサービスのクオリティ向上と利益目標の達成を目指しています。

対等な関係だからこそもらえる率直な意見と壁打ちで、視野が拓けていく

ーー協働日本のような社外プロ人材との取り組みについて、これまでご興味はおありでしたか?実際に取り組んでみて、どのようなことを感じたかお伺いできますか?

西: そうですね、社外のプロ人材との取り組みには元々興味がありました。

以前、霧島市の実施していたワーケーションの取り組みの中で東京の大企業の方に壁打ちをしていただいたことがあったのですが、対話を通じてどんどん自分の思考が整理された感覚がありました。その時の印象もあり、ぜひ自社でも積極的に活用したいと考えていたので、今回鹿児島県の取り組みを通じて支援を得られたことはありがたかったです。

はじめ短時間の関わりでどれだけの成果が出せるのか、不安がなかったかというと嘘になります。
しかし、結果として協働日本さんと一緒に取り組めて本当に良かったと思います。一つ一つ施策を実行できたこともそうですが、経営者にとって信頼できる「壁打ち」役がいることがこんなにありがたいとは思いませんでした。

私が取り留めなく話したことについても、あらゆる角度から、まとまったフィードバックを返していただいたおかげで、思考を整理できました。

ーー特に印象的だったことはありますか?

西:先ほどもお話しましたが、組織力を向上したいと藤村さんに相談した時に「そもそもまだ、組織になっていないですね」とズバッと指摘いただいた時ですね(笑)

ずっと、スタッフに対して「言ってもやらない」と思っていたのですが、実際には「受け皿がないから伝わっていない」だけだという、自分では想定できなかった“一歩前の部分”に気づくことができました。

私にとってはまさにコロンブスの卵で、組織というものの捉え方や、向き合い方が変わりました。率直にいただいたご意見で、根本的な部分に気づけたことそのものも、プロジェクトの大きな成果だったと思います。

ーー今後、社外のプロ人材との取り組みは進んでいくと思われますか?

西:そうですね、広がっていくと考えています。

特に地方には、ビジョンは大きいものの、社内に仲間が少なく会社の軸を定めきれないベンチャー企業や、しがらみが大きく社内改革を断行しにくい後継者も多くいると感じています。

彼らにとって大きな助けになると感じています。実際、すでに協働日本をご紹介した経営者仲間もいます。

事業承継や起業で、いきなり経営を始める方のそばで寄り添いながら、「こんな道もありますよ」とそっと示してくれる協働日本や協働プロの皆さんの存在は、本当に心強いものだと感じています。

ーー最後に、協働日本へのメッセージと、今後の展望についてお聞かせください。

西: 協働日本には多様な専門性を持った方々が既にたくさんいらっしゃり、これからさらに多くのプロフェッショナルが参画されると思います。特に地方においてこれらのプロフェッショナルと協業できることは非常に大きな価値だと思います。

先日、鹿児島県新産業創出ネットワーク事業の報告会で、別の企業の伴走に入られていた協働プロの方達ともお会いし、お話することができ、新しい事業アイディアも生まれました。

今後も協働プロの皆さんと直接意見交換できる場や、リアルな学びの場が広がっていくことを期待しています。またいつかご一緒できるよう、引き続き自社も成長させていきます。本当にありがとうございました。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

西: ありがとうございました。



協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もnoteでもご紹介しています。
有限会社鹿児島ラーメン様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。


西 洋平 / Yohei Nishi

有限会社鹿児島ラーメン 代表取締役
1982年生まれ、鹿児島県霧島市福山町出身。修学館高校を卒業後、上智大学大学院で修士号を取得。ABeam Consultingに入社し、経営戦略・DX推進に従事した後、家業である鹿児島ラーメンを継承。伝統の味を守りながら、DX化や組織改革を推進し、飲食業界の革新に挑戦している。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:株式会社エルム – 技術者が営業に挑戦!顧客の声を活かし、宇宙事業の問い合わせが10倍、売上2倍を達成 –

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。
実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

今回は、株式会社エルムの和田健吾氏・オバッグ ジョン セドリック氏・田畑章子氏に、協働プロジェクトを通じた営業・広報の変革とその成果、今後の展望について伺いました。

1980年、鹿児島県南さつま市で創業した電子機械器具開発メーカー・株式会社エルム。CD・DVD修復装置で世界シェア90%を誇り、近年は自動化・省力化機器、宇宙関連、特殊照明、環境エネルギーといった幅広い分野で技術開発を進めています。

しかし、主力商品の ディスク修復機市場が縮小 する中で、新たな柱として「宇宙関連事業」に注力。しかし、高い技術力を持つ一方で、「営業・マーケティングの知見不足」「市場における認知度の低さ」という大きな課題 を抱えていました。
この課題を克服するため、協働日本との連携による営業・広報戦略の抜本的な見直し を開始。その結果、たった7か月で 売上は前年比2倍、SNSフォロワーは40倍、見積もり総額は約2億円 という驚異的な成長を遂げました。

協働日本と宇宙関連事業の成長戦略を共に模索。協働プロジェクトを通じて得られた気づきや成果、今後の展望について語っていただきました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


宇宙関連事業で大きな成功事例を生み出したい

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは協働日本との出会いや、スタートしたきっかけについて教えてください。

和田健吾氏(以下、和田): よろしくお願いいたします。当社は長年、CD・DVD修復機の製造・販売を主軸にしてきましたが、近年のネット配信の普及により、ディスクメディアの需要が大きく減少しており、新たな事業の柱を模索する必要がありました。

このまま市場の変化に対応せずにいると事業全体の成長も停滞してしまうのではないかという危機感を持つようになる中で、複数ある事業のうち、次の柱となる事業の候補として、「宇宙関連事業」に取り組むことになりました。

ーー宇宙関連事業には以前から取り組まれていたのでしょうか?

田畑章子氏(以下、田畑):宇宙関連事業には 1983年から参入 し、特に地上局(人工衛星の追尾装置) の開発を手掛けてきました。特に、地上局と呼ばれる衛星追尾装置の設計・製造に長い歴史があります。

元々、鹿児島県にはロケットの射場が2つあり、県内の大学でも天文分野や宇宙関連の研究が多くなされています。実は、当社の創業者の一人である、現相談役(宮原 照昌氏)が、昔からとても天体が好きで、南さつま市にある天文台で天文観察会を開くほどでした。

そんな相談役の個人的な繋がりの中から開発依頼を受けて製品を作り始めたことがきっかけでした。しかし、開発が始まった経緯から、これまでの販売はほとんどが口コミやご紹介で、積極的な営業活動を行えていませんでした。

Obag John Cedric氏(以下、オバッグ): 私を始め、社員の7割以上は技術者。開発には自信があるものの、マーケティングやブランディングのノウハウが不足していました。その結果、市場のポテンシャルはあるのに売上が伸び悩む という課題に直面していたのです。

和田: そのような状況ですから、どうしても年度によって売上には大きな波がありました。どうにかしたくても、社内では如何ともしがたい……そんな折に鹿児島県内でも多くの事業者支援を行っている協働日本の存在を知りました。

マーケティングに強みを持つ協働プロの皆さんと取り組むことで「これを機に、事業戦略を根本から見直したい」と考え県の事業に応募しました。まずは宇宙関連事業でマーケティングの成功事例を作っていきたい、その思いでスタートした協働プロジェクトでした。

人工衛星自動追尾装置(株式会社エルムHPより)

「売上の安定化」と「認知度向上」を目指し、営業・広報戦略を刷新

ーー実際に伴走支援がスタートしてからは、どのようなプロジェクトを進めているのでしょうか?

オバッグ:まず、協働日本から若山幹晴さん、国府田祐希さん、高山真宣さんの3名、そして当社から私たち3名がチームを組み、売上の安定化と認知度向上 をテーマにプロジェクトを開始しました。

最初に取り組んだのは、自社の付加価値と課題の明確化 です。これまで当社の販路は口コミが中心で、宇宙関連の企業やユーザーへの認知度が極めて低い ことが浮き彫りになりました。

実際、エルムの製品は大学や企業に数多く納品されているにもかかわらず、ユーザーの多くはエルムの存在すら知らなかった のです。さらに、社員の70%以上が技術者 であるため、営業・広報の専門知識が不足し、マーケティング戦略がほとんど確立されていませんでした。」

そこで、まず自社製品の強みと市場での差別化ポイント を整理しました。エルムの製品は、ベースモデルにオプションを追加し、ユーザーの仕様にカスタマイズできる柔軟性 が大きな特徴です。この強みをどう市場に伝え、効果的にアピールするかを議論しました。

ターゲット顧客が明確になったことで、『どうやって情報を届けるか?』という課題について、より具体的な戦略を立てることができました。

田畑:営業・広報戦略について協働プロと議論を重ねてきました。取り組みの中では、ユーザーとの接点を積極的に形成する手段として、展示会や学会への出展にも挑戦しました。

出展するだけではなく、そこでのコミュニケーションについても協働プロにアドバイスをいただいて工夫していきました。ユーザーが一体どんな製品を必要としているのか、どうやって購入してもらえばいいのか……整理した情報を元に製品説明の仕方を見直し、顧客のニーズに合わせたカスタマイズ提案を強化することで、より具体的な商談へとつなげるように工夫をしていったんです。

「技術力を伝える」のではなく「課題を解決する」営業へシフト

オバッグ: 例えば、若山さんのアドバイスを受け、顧客の課題を解決するストーリーを交えた提案に変更しました。『どんな課題に悩んでいるのか』をまず聞き、その上で『この機能で解決できます』と伝えるようにしただけで、商談の反応が大きく変わったのを実感しました。

営業手法を変えたことで、商談の反応が劇的に変化しました。従来は技術仕様を中心に説明していましたが、顧客の課題を引き出し、解決策を提案するスタイルへとシフトしました。

これまで受け身だった営業スタイルを見直し、顧客とのコミュニケーションを積極的に取ることで、課題解決型のアプローチへと移行しました。顧客が何に悩んでいるのかを深くヒアリングし、それに応じた解決策を提示することで、商談の成功率が向上しました。

また、社内の営業チームもこの考え方を取り入れ、より戦略的な営業活動を進めるようになりました。おかげさまで、引き合いが増え、商談で全国を飛び回っています。

ーーありがとうございます。ターゲットとなるユーザーに的確に製品の価値が伝わるようになったのですね。他にもSNS運用を始めたと伺いました。

田畑: SNSの活用による情報発信の強化も一つの挑戦でした。展示会に出展した際に、展示会のWebカタログに製品情報を掲載していただいたところ、そのカタログをきっかけに大企業の方々がブースを訪れてくださったんです。

「製品のことを知ってもらえれば、興味を持ってもらえる」という実感が湧いたのを覚えています。そこで早速「知っていただくきっかけ」としてWebページを作りたいと考えたのですが、一からページを作るのは時間がかかるのでまずはSNSから運用を開始することになりました。

これまで公式SNSはほとんど活用していませんでしたが、協働プロの皆さんからのアドバイスも受けて積極的に運用を開始したところ、それまで数十人だったXのフォロワー数がわずか数ヶ月で40倍以上に増加しました。Xでは、様々な媒体で製品を取り上げていただいたことをお知らせする他、日常の様子の話もするなど、とにかく 「いいね」をいただいてタイムラインに表示される回数を増やしていく取り組みを進めています。

おかげさまで新規顧客との接点を強化できました。4月にはいよいよWebサイトも完成するので、引き続き当社の技術力や製品のことをPRできるよう、発信を強化していきたいと考えています。

「待ちの営業」から「攻めの営業」へ

ーー営業と発信の強化を進めてこられた中で、生まれた成果をお伺いできますか?

オバッグ: ターゲット顧客との直接接点を増やすため、積極的に展示会や学会へ出展しました。北海道から福岡まで全国各地で商談を行い、新規取引先を開拓。従来はオンライン中心だった営業活動を大幅に強化し、顧客の生の声を聞くことで、製品への関心度が大きく向上しました。

これまでは『技術的にすごいですね』と関心を持たれるものの、具体的な案件につながることは少なかったんです。しかし、今回の展示では 『ぜひ導入したい』『こういう課題があるが対応できますか?』といった具体的な相談が相次ぎ、昨年度の宇宙関連事業の受注金額は7か月で約2千万円に到達しました

売上には年によって波がありましたが、昨年度は前年比で2倍に成長。特に、展示会での商談や既存顧客との接点強化が、大きな要因となりました。

さらに引き合いのあった案件は10件以上、提出した見積総額は約2億円となっています。

エルムの技術力と製品の特長が明確になり、ターゲット市場への認知度が大幅に向上しつつあります。展示会やSNSを通じて『エルムといえば宇宙』というブランドイメージをより確立していきたいですね。

令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」の最終報告会ではオバッグ氏が登壇

ーー素晴らしい成果ですね。これまで営業やマーケティングを経験したことがなかったというお話でしたが、そういった観点でもご自身で感じる変化はありましたか?

オバッグ:そうですね。最初は、協働日本の皆さんに教わる“先生と生徒”のような関係を想像していました。

しかし、実際にはアドバイスを受けながら、自分たちで考え、実践し、試行錯誤するワンチームのような形 で取り組んでいました。その中で、『答えをもらう』のではなく、『ヒントを得ながら自ら問題を解決していく』というスタイルを学べたことは、私にとって大きな成長でした。

和田:オバッグはとても真面目で、商談前には『何を話すべきか』をしっかり考えて臨むタイプです。でもある時、協働日本の国府田さんに 『商談の8割は、お客様が話す時間にしたほうがいい』 とアドバイスをもらったんです。その言葉を聞いて、オバッグの考え方が大きく変わったように思います。

オバッグ:はい、それを聞いた時は衝撃でしたね。これまでは、『製品の良さをどう伝えるか?』ばかり考えていました。でも、お客様が本当に求めているのは、“良い製品” ではなく “自分たちの課題を解決する手段” なんですよね。商談では、まずお客様の悩みや課題をじっくり聞くことが大切で、その上で適切な解決策を提案するべきなんだと気づかされました。

この気づきと並行して、私は鹿児島県が主催する『社内中核人材育成セミナー』にも参加していました。そこで、協働日本の代表・村松さんが話していた 『伝えると伝わるの違い』 の話が、とても印象に残っています。

どんなに優れた技術や製品でも、『伝える』だけでは意味がない。お客様にとって本当に必要な情報として 『伝わる』形にしないと、心に響かない んです。この考え方を知ってから、商談の場でも、お客様の視点に立って説明することを強く意識するようになりました。

もう一つ、協働日本の若山さんからの言葉も印象に残っています。「それは本当にお客様のニーズなのか? もっと深く分析・検討する必要がある」という言葉です。

この言葉を聞いた時、ハッとしました。技術者として製品を開発していると、どうしても『お客様はこんな機能が欲しいだろう』と 自分たちの視点で考えてしまうバイアス がかかる。でも、実際にお客様と話すと、予想とは全く異なるニーズを持っていることが多いんです。

やはり、開発の段階からお客様と密にコミュニケーションを取り、リアルなニーズを捉えながら製品を作ることが、本当に価値のあるものを提供するために必要なんだと実感しました。

こうした学びを重ねるうちに、営業やマーケティングに対する意識が大きく変わっていきました。最初は『営業とは製品を売ること』だと思っていましたが、今では「営業とは、お客様の悩みを知り、解決策を一緒に考えること」だと考えています。

協働日本の皆さんからいただいたアドバイスを実践することで、少しずつですが、コミュニケーションの取り方やその重要性が自分の中で腹落ち していきました。

企業の成長が、日本全体の活性化につながる

ーー複業人材との取り組みを通じて、率直にどのように感じられましたか?

和田:正直に言うと、最初は不安がありました。今回担当頂いた協働プロチームの皆さんは、主にBtoC分野で活躍されてきたプロフェッショナルが多い印象でした。

一方で、当社の宇宙関連事業はBtoBの中でも非常にニッチな領域。本当にターゲットにアプローチできるのだろうか?この業界で成果を出せるのだろうか? という懸念がありました。

しかし、実際にプロジェクトが進む中で、「分野が違っても、プロの視点は本質を捉える」 ということを痛感しました。協働日本の皆さんが、事業の本質を見極め、的確な戦略を提示してくださったおかげで、当初の不安は完全に払拭されました。むしろ、自社だけでは気づけなかった視点を得ることができ、ここまでの成果を出せたことにとても感謝しています。」

田畑:「まさに “引き出してもらえた” という感覚です。最初は、コンサルティングというと指示に従って進めるものというイメージを持っていました。
しかし、実際には、協働日本の皆さんが私たちの考えを引き出しながら、「どうしたいのか?」「何を実現したいのか?」 を共に考え、方向性を一緒に見つけるプロセスでした。

例えば、様々な成功事例や具体的な手法を提示していただきながら、それを自社にどう活かせるかを議論する ことで、私たち自身の考えを深めることができました。
中小企業はどうしても短期的な成果を求めがちですが、今回の伴走支援を通じて、「立ち止まって考え、長期的な視点で戦略を練ることの重要性」 に改めて気づかされました。」

和田: このプロジェクトを通じて実感したのは、協働日本の取り組みは、特定の業種に限定されるものではない ということです。大事なのは “自ら動く意志” ですね。

自ら考え、素直に取り組める企業であれば、どんな業種であっても成果を出せるのではないかと感じました。

実際に、当社でもオバッグがこのプロジェクトと並行して 社内中核人材育成セミナー を受講し、学びをクロスオーバーさせながら成長し、成果につなげてくれました。こうした実践の積み重ねが、企業の成長には不可欠なのだと改めて実感しました。

ーーそれでは最後に、協働日本へのエールも込めて一言メッセージをお願いします。

田畑: 日本の企業の 99%以上は中小企業 ですが、大企業と中小企業の間にはまだまだ大きな壁があります。

今回、協働日本の皆さんとご一緒することで、大企業が持つ貴重な知見を中小企業に還元することが、日本全体の活性化につながる ということを強く感じました。
中小企業側からのフィードバックを通じて、大企業の事業にも新たな視点を提供できるような、双方向の循環が生まれると理想的ですね。
このような好循環をもっと広げていくためにも、ぜひ今後も活躍を続けていただきたいです。

和田: プロジェクトを通じて、当初の期待以上の成果を感じていますし、何よりも 認知度向上という最低限の目標はしっかり達成できた という手応えがあります。

しかし、協働の取り組みはここで終わりではなく、むしろ これからが本番 です。伴走支援が終わった後も、私たち自身が成長を続け、その姿を示すことが、協働日本の皆さんへの最大の恩返し だと考えています。
これからも、この 「協働の輪」 を広げ、win-winの関係を築く企業が増えていくこと を願っています

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

和田・田畑・オバッグ: ありがとうございました。

協働日本 令和6年度「新産業創出ネットワーク事業」プロジェクト最終報告会の様子もご紹介しています。
株式会社エルム様にもこちらで本プロジェクトをご報告いただきました。

和田 健吾 / Kengo Wada

1978年生まれ、鹿児島県霧島市出身。機構設計エンジニア。

株式会社エルム 取締役 第2開発部部長

大学卒業後、エンジニアとして関東圏で経験を積み、2007年に故郷である鹿児島にUターンしてエルムに中途入社。

2024年に福岡に本社を構える株式会社マイクロラボのM&Aを実施し、同年1月から同社代表取締役も兼務。

ジョン セドリック V. オバッグ / John Cedric V. Obag

1983年生まれ、フィリピン・マニラ出身。機構設計エンジニア。

株式会社エルム 宇宙関連事業 プロジェクトリーダー

小さいころからモノづくりをするのが大好きで、絵を描いたり、レゴやガラクタで何かを作ったりするのが子供の時の過ごし方でした。

高校時代に「モノづくりの国」日本を知り、私の夢、今まで世にない「モノ」を生み出すことを実現させるために、大学卒業後すぐに来日しました。

10年前に愛妻の出身地である鹿児島に引っ越してきて、エルムで機構設計エンジニアとして働いています。

田畑 章子 / Shoko Tabata

1975年生まれ、鹿児島県枕崎市出身。営業支援担当。

株式会社エルム BI事業部 事業支援グループ係長

株式会社大塚家具で大阪・北九州・東京・法人営業部勤務後、三菱地所株式会社にて新丸ビルプロジェクトを経て、鹿児島にUターン。

エルムの存在を知って面白そうだと思い入社。営業、品質保証、栽培試験を経て現職。

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –


STORY:紬レザーかすり 川畑 裕徳氏 -大島紬の魅力を後世に残したい。価値創出の仕組みづくりを通じて粗利3倍、チャンスが広がった-

協働日本で生まれた協働事例を紹介する記事コラム「STORY」。

実際に協働日本とプロジェクトに取り組むパートナー企業の方をお招きし、どのようにプロジェクトを推進しているのか、インタビューを通じてお話を伺っていきます。

鹿児島県の奄美大島を中心に生産されており、世界三大織物にも数えられる伝統織物「大島紬」。この大島紬が現在、職人の高齢化や担い手の不足、若者の着物離れも相まって、生産量の減少が続いています。

今回は、奄美大島でこの「大島紬」を活かした事業展開をされている、「紬レザーかすり」の川畑裕徳(かわばた・ひろのり)さんにお越しいただきました。

インタビューでは、協働プロジェクトに取り組み始めたことで生まれた変化や得られた学び、今後の展望についてお話を伺いました。

(取材・文=郡司弘明、山根好子)


大島紬の魅力をどう広げ、残していくか。模索する中で出会った想いを共有できるパートナー

ーー本日はよろしくお願いいたします。まずは、川畑さんが展開されている事業、「紬レザーかすり」について教えていただけますか?

川畑 裕徳 氏(以下、川畑):よろしくお願いします。
私が運営している「紬レザーかすり」は、本場奄美大島紬とレザーを融合させた小物製品を展開しているブランドです。
伝統工芸である大島紬をより身近に感じてもらいたいという思いから、「日常に溶け込む大島紬」をコンセプトに、バッグや財布、カードケースなどのレザーアイテムを製作しています。

最大の特徴は、革の裁断から縫製まで、すべての工程を私1人が手作業で仕上げていることです。そのため一つひとつ、ほぼ一点ものに近い特別なアイテムとして商品を仕上げています。

さらに、革の色や糸の色、大島紬の柄を自由に選ぶことができるため、お客様だけのオリジナル商品を作ることが可能です。普段から贈り物として選ばれることも多く、特に20代から60代の女性の方々にご好評いただいています。

ーーなるほど、よろしければ川畑さんがこの事業を立ち上げたきっかけなどお聞かせください。

川畑:ブランドを立ち上げるきっかけとなったのは、2005〜2006年にオーストラリアを訪れた際の体験です。アボリジニの伝統楽器「ディジュリドゥ」とドラムやベース、サックスといった現代楽器が融合する音楽に強く惹かれ、その衝動から「伝統とモダンの融合」をテーマにしたデザインを考えるようになりました。

その発想が形となり、大島紬とレザーを組み合わせた商品が生まれました。

「紬レザーかすり」を通じて、奄美大島の温かみや雄大さを感じていただきながら、日常の中で大島紬をより身近に楽しんでもらえたら嬉しいですね。

ーーどんなことに事業の難しさを感じていましたか?

川畑:事業を始めた当初は、さまざまな壁に直面し、その都度課題を痛感していました。特に大きな課題のひとつは、生産規模の限界でした。

当時は一人で運営していたため、作業の効率化や量産化が難しく、需要があっても供給が追いつかないという状況が続いていました。もっと多くの人に届けたいという思いがありながらも、体制面の問題で思うように展開できず、もどかしさを感じていました。

また、商品の魅力をどのように伝えるかという点でも大きな悩みがありました。自分では良い商品を作っているという自負はあったものの、それをどう言葉やビジュアルで表現し、消費者の心に響かせるかが分からず、販売促進の面で試行錯誤していたのです。

SNSの活用にも挑戦し、Instagramなどで発信を続けていましたが、フォロワーが増えても売上には直結せず、ただ発信するだけでは十分ではないことを痛感しました。実際に購買につなげるための導線をどのように設計すればよいのか、明確な答えが見えず、模索する日々でした。

さらに、コロナ禍という特殊な状況の中では事業の戦略を立てること自体が困難でした。
市場の変化が予測しづらいことからこれまでのやり方が通用しなくなる場面も多く、どのように適応し、事業を継続していくべきか、常に試行錯誤していました。

また、商品の付加価値をどのように高め単価を上げていくかという点も大きな課題でした。ただ良いものを作るだけではなく、価格に見合う価値をしっかり伝え納得して購入してもらうには、ブランディングやマーケティングの視点が不可欠でした。しかし当時はその知識や経験が不足しており、どのようなアプローチを取るべきか手探りの状態が続いていました。

こうした課題を一つひとつ乗り越えながら、試行錯誤を重ねることで事業は少しずつ成長していきました。今振り返ると、当時の困難があったからこそ現在の事業の基盤ができたのだと実感しています。

ーーそんな中で協働日本とのお取り組みがスタートしたのですね。そのきっかけについて教えてください。

川畑:そうなんです。きっかけは、すでに協働日本さんとの取り組みを始めていた静岡の企業さんからのご紹介でした。

私は個人事業主として一人で仕事に取り組む時間が多く、いわゆる会社員の方と違って身軽で動きやすい一方、事業についてじっくりと相談・壁打ちできる相手がいませんでした。

また当時、これから大島紬の魅力をどうやって広げていくかという課題を感じていた中で、同じ想いを共有し一緒にプロジェクトに取り組めるパートナーがいれば嬉しいなとぼんやり考えていたところでした。

タイミング良く繋がることができ、さっそくお話を伺ってみると、多種多様な人材が所属している協働日本の体制や、進行中のプロジェクトのお話にとてもワクワクしました。

ーーありがとうございます。協働日本に所属しているのは、熱意と専門性を持った複業人材が中心ですが、そういった人材とのお取り組みも初めてのものでしたか?

川畑:そうなんです。複業人材と言われる方々との取り組み自体も初めてでした。

普段は地元の奄美大島を中心に活動をしているので、島外の、しかも自分の知らない領域で活躍されている方々からいろいろな話を聞けると伺って、それも楽しみでした。

各領域で活躍するプロ達が集う協働日本さんとの取り組みから、自分の持っていない新しい視点でのフィードバックをたくさんいただけそうだという期待を感じたことを覚えています。

ーー協働日本との取り組みは、川畑さんご自身の変化のきっかけにもなったのでしょうか?

川畑:この取り組みを通じて、私自身の価値観や考え方に大きな変化がありました。特に、脳内がブラッシュアップされるような感覚があり、以前よりも思考の幅が広がったと感じています。

「やってみたら、やれたじゃん」と思える経験が増え、専門家のサポートを受けることで、自分の中になかった引き出しがどんどん開かれていきました。考えるだけでなく、行動に移すまでのスピードが格段に速くなり、マインドセットが大きく変わったと実感しています。

協働プロと週次のミーティングを通じて、あれこれできない理由を探すより、とにかく「やってみよう」という姿勢が身につきました。時には落ち込むこともありましたが、振り返ってみると、この経験が自分を大きく成長させてくれたと感じています。

商品価値の再発見で商品購入の平均単価が、倍以上に伸長。粗利も3倍以上を確保できた。

ーーどんなプロジェクトから協働のお取り組みがスタートしたのでしょうか?

川畑:「紬レザーかすり」の事業をさらに成長させるため、まず最初に取り組んだのは大島紬の小物にどう付加価値をつけ、販路を拡大していくかという課題の整理でした。

特に、インターネットを活用して奄美大島の外にも販売先を広げていきたいと考えていたため、島外への情報発信や効果的な販売方法について協働日本の協働プロの皆さんと議論を重ねていきました。

最初の具体的な取り組みとして、すでに始めていたEC販売サイトの見直しや、InstagramをはじめとするSNS発信戦略の改善を相談しました。しかし、対話を続ける中で、単なる販路拡大だけでなく、自分が生み出している商品そのものの価値を高めることこそが重要であるという結論に至りました。商品そのものの魅力を明確にし、ブランドとしての方向性を再定義できたことが、最初の大きな変化でした。

ーーなるほど。どのようなアプローチを通じて、プロダクトの価値を高めていったのでしょうか?

川畑:具体的には、「オーダーメイドでオンリーワンな商品」というコンセプトを明確に打ち出し、ブランドの強みをさらに伸ばしていくことにしました。従来は財布やカードケースなどの小物が中心でしたが、新たな試みとして、カメラストラップやカバーなど、ホビー領域の商品開発にもチャレンジしました。

これらの商品は、革の色・糸の色・大島紬の柄を自由に選べるため、完成するアイテムは世界にひとつだけのデザインになります。この「自分だけの特別なアイテムが手に入る」という価値を前面に押し出すことで、お客様にとってより魅力的な商品へと進化させました。

また、協働プロとの壁打ちを通じて、「ニッチな世界を見つけよう」という視点を取り入れることができたことも、振り返ってみると大きなポイントでした。単なるシンプルな商品ではなく、「少し高くても自分だけの特別なものが欲しい」という層に向けた戦略を取ろうと最初に注目したのがカメラストラップでした。カメラ愛好者の間では、機能性だけでなく個性やデザインにもこだわる人が多いため、オーダーメイドのカメラストラップは強く響くと考えたのです。

さらに、このコンセプトはバイク用品やゴルフバッグなどにも応用できると考えました。こうした「少し高くてもこだわりのあるものを持ちたい」という市場にアプローチすることで、私自身の既存の技術を活かしながら新たなヒット商品を生み出すことができました。その後も「こんなものは作れませんか?」というお客様からの問い合わせが増え、有名なギタリストからオリジナルアイテムが作れないかと相談が舞い込むなど、ニッチ戦略の手応えを感じるようになりました。

このようなオーダーメイドスタイルを前面に打ち出すことで、「自分への贅沢なご褒美」として、大島紬の魅力を日常に取り入れる機会が増えました。実際に、機能性だけでなく“特別感”や“こだわり”を求めるお客様にとって、カメラストラップやカバーなどは非常に魅力的な商品となっています。

また、従来は観光のお土産品としての用途が中心だった大島紬の小物を、新たな顧客層に向けた商品へと転換することにもつながりました。
その結果、商品の平均単価を約8,000円から約20,000円へと引き上げることができ、同じ労力でもより高単価な商品を販売できるようになりました。粗利も3倍以上となり、ビジネスとしての安定性が大きく向上しました。

オーダーメイドの付加価値を活かして新たな販売戦略を構築することで、これまでとは異なるこだわりの強い層にも大島紬の魅力を届けることができるようになりました。さらに、オーダーメイド型の通信販売という形で島外にも販路を拡大できたことで、“奄美大島の魅力”をより広く発信できるようになったのも大きな成果です。

ーー協働を通じてご自身の変化を感じられることはありましたか?

川畑:そうですね。毎回の対話を通じて、協働プロからいただいた意見や、一緒に決めた方針をもとに「やらなくてはいけないこと」—いわゆる“宿題”—が積み上がっていきました。

忙しい日々の中でも、まずはそれらを着実にこなし、翌週のミーティングで次の“宿題”を持ち帰る。このサイクルを繰り返すうちに、自分自身の仕事のクオリティが何段階も上がったと実感しています。

もちろん「宿題」といっても、新商品開発や新たなチャレンジなど、自分で決めた取り組みに対して伴走支援してもらっているので、いい意味でのプレッシャーを背負いながら走っている感覚です。ひとつずつ目標を達成していくことで打ち合わせもどんどん充実しましたし、「事業が進化している」という手応えを得られたのも大きかったですね。

さらに、こういった協働から得られたものは、単純な新商品の開発や販路の拡大だけではありません。自分自身が生み出している商品への「自信」がこれまで以上についたと思います。こうした自信は、結果的に行動力の向上や、プロダクトのクオリティアップ、お客様との接客スタイルにも良い影響を与えていると感じます。

最終的には、自分のなかで“考えて、決めて、行動する”というプロセスが自然に回るようになり、マインドがガラッと変わりました。常に新しいアイデアや可能性を見つけ出し、自らチャレンジしようとする姿勢が身についたのが、一番の大きな変化だと思います。


命題のために自然とアイディアが浮かんでくる。協働の中で身についた挑戦の姿勢

ーーありがとうございます。その後も新しい取り組みが進んでいると伺いました。

川畑:はい、そうなんです。2024年2月から、新規事業として「Living with Amami project」を立ち上げました。このプロジェクトは、寄付を通じて奄美の自然や文化を守ることを目的とした取り組みです。奄美に関わるさまざまな業種の事業者が、それぞれの販売益の一部を動物保全・自然保護・伝統文化の継承に寄付し、未来へつながるサステナブルな仕組みを作ることを目指しています。

現在、この取り組みに奄美の事業者2社、県外の事業者1社が賛同し、それぞれの形で寄付活動を行っています。私自身も、寄付付きのガチャガチャの販売に取り組んでいます。このガチャガチャは、大島紬×レザーで作ったアマミノクロウサギやウミガメのキーホルダーが当たるもので、1個売れるごとに100円を奄美のウミガメや野生生物の保護活動に寄付する仕組みです。ガチャガチャというカジュアルな形を取り入れることで、楽しみながら環境保全の一端を担っていただけるのが大きな特徴です。

さらに、このガチャガチャにはもう一つ大きな意味があります。「ウミガメの保護活動を知るきっかけ」になり、「日常に溶け込む形で大島紬を身近に感じてもらえる」と同時に、「奄美大島そのものを知るきっかけにもなる」仕掛けになっています。単なるチャリティではなく、奄美の自然や文化への興味を持ってもらうことで、持続的な支援につなげたいと考えています。

ーー素晴らしい取り組みですね。事業としての変化もあったのではないでしょうか?

川畑:はい、ビジネス面でも大きな変化がありました。これまでの手作り製品販売に比べて、接客の時間的なコストが大幅に削減されたのは大きなメリットでした。ガチャガチャという形にすることで、「売り子」を置く必要がなくなり、時間をより商品の製作や新しい企画の立案に充てることができるようになりました。

また、このプロジェクトを通じて「奄美大島で仕事をすること、生きていくことの意義」を改めて強く感じるようになりました。これまで「紬レザーかすり」は職人としてのものづくりが中心でしたが、この活動を通じて社会とつながる仕事へと広がりを持たせることができたと感じています。さらに、作り手を増やすことができ、一緒にモノづくりをする仲間を得られたことも大きな収穫でした。

プロジェクトを進めるにあたっては、奄美空港や地元の水族館、ショッピングモールなどに企画書を持ち込み、設置を交渉しました。これまで職人として手を動かすことが中心だった私が、企画書を作って提案に回るようになったのは大きな変化です。結果として、地元の居酒屋やコミュニティ施設への設置が決まっただけでなく、今後はミュージアムなどの施設への設置も検討されているなど、少しずつ取り組みの輪が広がっています。

今後は、さらに輪を広げて島内外の方々とともに「奄美の未来」を支えていく仕組みを構築していきたいと考えています。
単なる商品販売ではなく、奄美の文化や自然を次の世代につなぐ活動として、多くの人に関わってもらえるプロジェクトにしていきたいですね。ここまで大きな構想を考えている自分を、協働プロジェクト前は想像できませんでした。


ーー奄美の環境や自然に対する思いが、川畑さんの活動を大きく支えているように感じます。奄美ならではの魅力はどんなところにあるのでしょうか? また、その魅力をどのようにプロダクトづくりへ活かしていらっしゃるのか、詳しくお聞かせください。

川畑:奄美の大きな魅力の1つは、自然と固有種が数多く存在することです。山々の豊かな森や美しい海、そこで暮らす希少生物たちが、まさに奄美のアイデンティティを形作っています。

こうした恵まれた環境の中で育ってきたからこそ、「この自然や固有種を守り、次の世代へ継承していきたい」という思いは、私の活動の原動力になっています。実際、私自身はずっと「人も動物も、これからさらに住みやすい島になればいいな」と考えてきました。

大島紬のプロダクトを作りながら、その魅力を広めるだけでなく、奄美という地域そのものに興味を持ってもらうきっかけになれたらと思っています。こうした活動が、自分なりの社会貢献につながれば嬉しいですし、たとえ小さな取り組みであっても、一歩一歩積み重ねていくことが大切だと感じています。

ありがたいことに、地元のメディアでも「ユニークな取り組み」として取り上げていただく機会がありました。メディアを通じて、私たちの活動や想いを発信できたことで、奄美の魅力や課題に触れていただく入り口が増えたのは本当にありがたいです。

多くの方々に知っていただくことで、島の未来を一緒に考えてくれる仲間が増えていけばいいなと勝手に、期待しています。

振り返ってみても、協働日本さんとの出会いは大きな転機でした。新たな価値を発見し、それをお客様に届けるための仕組みづくりをご一緒する中で、私自身、気づかないうちに多くを学んでいたのかもしれません。

そもそも協働日本さんとの出会いは「大島紬の魅力をどう広め、後世にどう残していくか」というテーマを考える仲間を探していたことがきっかけでしたが、そこから具体的なビジネスアイデアや仕組みづくりのノウハウを得られ、新しい事業に挑戦する勇気も湧いてきました。

今こうして、新規事業としてやりたいことを少しずつ形にできているのは、大変うれしく思っています。今後も、地域の皆さんや外部からの応援をいただきながら、奄美の魅力を発信し続けていきたいと思っています。

ーーインタビューへのご協力ありがとうございました

川畑:ありがとうございました!

川畑 裕徳 / Hironori Kawabata

紬レザーかすり 店主

紬レザーかすり(@tsumugi_leather_kasuri) • Instagram
https://www.instagram.com/tsumugi_leather_kasuri/

協働日本事業については こちら

STORY:奄美大島での伝統産業(大島紬)活性化プロジェクト-取り組みを通じて感じる確かな成長-

VOICE:藤村昌平×若山幹晴 – 特別対談(前編)『「境界」が溶けた世界で、勝ち抜いていくために必要なこと』 –